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PRSS1関連遺伝性膵炎
(PRSS1-Related Hereditary Pancreatitis)

[Synonyms: Kennedy's Disease, SBMA, X-Linked Spinal and Bulbar Muscular Atrophy]

Gene Reviews著者: Sheila Solomon, MS, CGC, David C Whitcomb, MD, PhD, and Jessica LaRusch, PhD.
日本語訳者: 和田宏来(県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)                        

Gene Reviews 最終更新日:2012.3.1.日本語訳最終更新日: 2017.5.10

原文 PRSS1-Related Hereditary Pancreatitis


要約

疾患の特徴 

PRSS1関連遺伝性膵炎は、急性(突然に発症し期間は6か月未満)から急性再発性(1回を超える急性膵炎のエピソード)、そして慢性(6ヶ月を超えて持続する)に進行する膵臓の炎症を特徴とする。症状や疾患の経過は個々によりかなり異なる。平均的には、急性膵炎は10歳までに発症し、慢性膵炎は20歳までに起こる。急性膵炎の症状は、所在のはっきりしない腹痛が1~3日間続くものから重度の腹痛が数日〜数週つづき入院を必要とするものまで幅広い。慢性膵炎は、典型的には反復性もしくは持続性の軽度〜重度の腹痛、膵外分泌不全による消化不良、膵内分泌不全(1型糖尿病に進展する耐糖能異常)を呈する。膵癌リスクは50歳以降に上昇する。

診断・検査 

急性膵炎では以下の3つの所見のうち2つが認められる。

  • 典型的な心窩部痛の突然発症
  • 正常の3倍を上回る血清アミラーゼ/リパーゼ
  • 腹部画像における特徴的な所見 慢性膵炎では、膵の病理組織、腹部画像検査、膵機能検査における非可逆性変化が

報告されている。PRSS1病原性変異の存在によりPRSS1関連遺伝性膵炎の診断が確定する。

臨床的マネジメント 

症候の治療:
急性膵炎:予防のために喫煙、飲酒、運動、脂質の多い食事を控え、抗酸化剤を使用する。標準的な治療は輸液、鎮痛剤、合併症のマネジメントである。

慢性膵炎:急性発作の防止策を続ける。膵機能不全で経口摂取による疼痛、脂肪便、下痢を認める患者には、消化機能の改善のため膵酵素補充療法を行う。1型糖尿病は通常の方法で行い、耐糖能異常を改善させる、および膵癌の発生率をおそらく低下させるメトホルミンの投与も行う。

一次症状の予防:
低脂肪食、少量頻回食、運動時の水分補給、抗酸化剤。

定期検査:
バイオマーカーやその他の新技術を含んだサーベイランスプログラムを紹介する。

避けるべき薬物/環境:
アルコール、喫煙、脱水、身体的および精神的なストレスを避ける。

リスクのある親族の検査:
家族特異的な生殖細胞系列PRSS1病原性変異を分子遺伝学的検査で同定することにより、早期の診断や予防、および治療が可能となる。

遺伝カウンセリング 

PRSS1関連遺伝性膵炎は常染色体優性遺伝性疾患である。PRSS1関連遺伝性膵炎のうちde novo変異が占める割合は不明である。PRSS1関連遺伝性膵炎患者の子どもが変異を受け継ぐ可能性はそれぞれ50%である。家族内で病原性変異が判明している場合、リスク妊娠に対する出生前診断を行うことは可能である。PRSS1関連遺伝性膵炎のような、知能に影響せず、治療方法がいくつか存在する疾患に対する出生前検査の要望は多くない。


診断

臨床診断

遺伝性膵炎は、家族内で2世代以上にわたる2人以上で膵炎がみられる場合、もしくは既知の生殖細胞系列病原性変異に関連する膵炎がみられる場合のいずれかと定義される。PRSS1関連遺伝性膵炎の診断にはPRSS1病原性変異の同定が必要である。

遺伝性膵炎には通常急性期と慢性期がある。

急性膵炎は以下の3つの所見のうち2つ以上がある場合と定義される。

  • 典型的な心窩部痛の突然発症
  • 正常上限の3倍を上回る血清アミラーゼ/リパーゼ
  • 腹部画像検査における急性膵炎の特徴的な所見

慢性膵炎は6ヶ月を超えて膵臓の炎症が持続し、以下のうちどれか1つの非可逆的な膵臓の変化を伴うものである。

  • 組織像(萎縮、線維化および硬化)
  • 腹部画像検査(炎症性腫瘤、膵実質および膵管の石灰化、仮性嚢胞)
  • 膵機能検査(膵外分泌不全による消化不良、膵内分泌不全による糖尿病)

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子

カチオニックトリプシノーゲンをコードするPRSS1はその病原性変異がPRSS1関連遺伝性膵炎を起こすことが知られている唯一の遺伝子である。

臨床検査

  • シークエンス解析/変異スキャニング シークエンス解析により、遺伝性膵炎の家系の60-100%にPRSS-1病原性変異が同定される。
  • 欠失/重複解析 PRSS1関連遺伝性膵炎の原因にコピー数変異(copy number variants, CNVs)が関与している可能性がある。
  • フランスからの報告によると、特発性慢性膵炎患者の〜6%にコピー数変異が認められ、シークエンス解析でPRSS1病原性変異は認められなかった。
  • 遺伝性膵炎の家系で、PRSS1およびPRSS2を含む605kbセグメントの重複によるコピー数変異を有する患者が認められている。同じ重複はフランスの特発性慢性膵炎患者でも認められている。
  • さらなる家系が認められているが、詳細はまだ発表されていない。
  • 病原性変異のターゲット解析 2つのよくみられるPRSS1変異、すなわちエクソン3のp.Arg122His、エクソン2のp.Asn29IleはPRSS1関連遺伝性膵炎で認められる病原性変異の約90%を占める。これら2つの変異を検査する特定集団は限られている。PRSS1関連遺伝性膵炎患者の多くは北欧系である。しかし、これらの変異は日本、韓国、中国、オーストラリア先住民、インドでも認められている。

表1 PRSS1関連遺伝性膵炎で用いられる分子遺伝学的検査の要約

遺伝子1 検査方法 同定された変異2 検査方法によって同定された変異の頻度3
PRSS1 シークエンス解析4, 5/変異スキャニング6 シークエンス変異 60%-100%
欠失/重複解析7 エクソンもしくは全遺伝子欠失 ≦6%
病原性変異のターゲット解析 変異パネルは検査機関により異なる 脚注8を参照
  1. 染色体座位と蛋白については、表A「遺伝子・データベース」を参照。
  2. アレル変異に関する情報については、「分子遺伝学」の項を参照。
  3. 示されている遺伝子に存在する変異の同定に用いられる検査方法の検出能。
  4. シークエンス解析で同定される病原性変異には、小さな遺伝子内欠失・挿入、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス部位変異が含まれるが、典型的にはエクソンや遺伝子全体の欠失・重複は検出できない。シークエンス解析の結果の解釈について考慮すべき問題はこちらをクリック。
  5. 一部の検査機関は選んだエクソン(エクソン2やエクソン3など)のシークエンス解析を受注しているが、エクソン2のp.AsnIle、エクソン3のp.Arg122Hisといった変異が高率にみられるからである。
  6. シークエンス解析および遺伝子全体の変異スキャニングの変異同定頻度は同等である。しかし、変異スキャニングによる同定率は用いる方法によって変わるため、検査機関でかなり異なる可能性がある。
  7. ゲノムDNAのコーディング領域や隣接するイントロン領域に対するシークエンス解析では容易に同定することのできない欠失/重複を識別する検査である。用いられる可能性のあるさまざまな方法には、定量PCR、ロングレンジPCR、MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法、標的染色体マイクロアレイ解析(遺伝子/セグメント特異的)などがある。ゲノム全域の欠失/重複を同定する完全染色体マイクロアレイ解析もこの遺伝子/セグメントを含むかもしれない。
  8. PRSS1変異の90%はp.Asn29Ileおよびp.Arg122Hisである。

検査戦略

発端者において診断を確定するために、以下の場合にPRSS1の分子遺伝学的検査が適応となる。

  • 小児期の説明のつかない急性膵炎発作
  • 原因不明の急性膵炎発作の反復
  • 原因不明の慢性膵炎、とくに発症が25歳以前
  • 反復性急性膵炎、原因不明の慢性膵炎、常染色体優性遺伝形式をとる原因不明の小児膵炎といった家族歴

分子遺伝学的検査は以下のように施行する。

  1. (現在まで変異の90%に認められるエクソン2およびエクソン3の)ターゲット解析もしくはPRSS1の全コーディング領域のシークエンス解析を行う。
  2. 病原性変異が同定されない場合、欠失/重複解析を考慮する。

検査戦略に関するガイドラインは以下を参照のこと。
・Ellisら[2001](全文
・Finkら[2007](全文:登録もしくは医療機関からのアクセスが必要である)

リスクのある無症状の成人家族に対する予測的検査は、家族内の病原性変異を先に同定することが必要である。

出生前診断やリスク妊娠の着床前診断を行う際には、家族内の病原性変異を先に同定することが必要である。


臨床的特徴

臨床像

膵炎は膵臓の炎症であり、急性(突然発症で持続期間が6ヶ月未満)、反復性急性(1回を超える急性膵炎発作)、慢性(持続期間が6ヶ月を超える)に分けることができる。
症状や経過は個々の患者で差がある。平均的には(急性膵炎の)発症は10歳までに、慢性膵炎は20歳までに、膵癌は50歳から劇的に増加する。

急性膵炎 1〜3日間続く所在のはっきりしない腹痛から、数日〜数週つづき入院を必要とする重度の腹痛まで幅広い。

反復性急性膵炎 遺伝性膵炎による反復性急性膵炎の徴候や症状は、通常生後早期に起こることとはっきりとした誘因がないこと以外は他の原因による膵炎と同一である。PRSS1変異を有する者は、特に発症時期が遅い場合、胆石、飲酒、喫煙のような膵炎の他のリスク因子も認めることがある。注目すべきことに、遺伝性膵炎患者は少量の飲酒でさえときに疼痛や急性膵炎発作の誘因になると申告する。

遺伝性膵炎では、反復性急性膵炎は慢性膵炎に進展することがあり、ゆえに慢性膵炎への移行期とみなされる。

慢性膵炎 長期にわたる炎症により、以下のような合併症に至る。

  • 一過性もしくは持続性の軽度〜重度の腹痛。通常鋭い痛みで、初回発作では突き刺すような痛みであり、進行するに従い深く焼けるような痛みとなる。精神的に苦痛となる痛みのほとんどは程度にかかわらず慢性疼痛である。
  • 膵外分泌不全による消化不良で、ガスや腹部膨満、下痢、脂肪便、水に沈まない浮遊便(floating stool)を呈する。消化不良の他の徴候には、体重減少や血液検査で見つかる蛋白・ビタミン欠乏がある。
  • 膵内分泌不全では初期に血糖の上昇(耐糖能異常)を認める。遺伝性膵炎患者の最大48%は1型糖尿病を発症する。
  • 膵癌リスクは一部の家系では高いが、その他の家系は高くない。

病態生理

遺伝性膵炎の病態生理は、反復性急性膵炎や慢性膵炎の他の原因(特発性慢性膵炎など)と差がない。
以下が主要な要因である。

  • ストレスが膵の防護作用を凌駕すると膵傷害が起きる。PRSS1の機能獲得型変異では、変異カチオニックトリプシノーゲンはトリプシンに容易に活性化されるか、自己融解(トリプシンのアルギニン122における加水分解)による不活性化に抵抗性を示す。膵臓内における過剰なトリプシン活性は、その他のタンパクの直接的な加水分解、その他の膵消化酵素の活性化、免疫系の交差活性化(cross-activation)によって傷害をおこす。
  • 炎症反応において、消化産物や膵腺房細胞の細胞死による細胞成分が放出され、炎症反応が増強され、臨床的には急性膵炎を呈する。炎症細胞はさらなる傷害をおこすが、急性相蛋白(SPINK1にコードされる膵分泌性トリプシンインヒビターやそのほかのプロテアーゼインヒビターを含む)は通常1-3日以内に炎症を制御する。
  • 軽症の急性膵炎の後は治癒/再生おき、傷害を残さない。
  • 合併症 重度な傷害または反復性急性膵炎は瘢痕(線維化および硬化)を合併する傾向にある。全員ではないが一部の者では、炎症により感覚神経の肥大や重度の疼痛をきたす。慢性炎症は膵癌のリスクも上昇させる。

遺伝子型と臨床型の関連

p.Arg122His病原性変異の保有者では早期発症および重症である。

浸透率

遺伝性膵炎で報告されている浸透率には幅がある。

  • スペインでは40%
  • 米国では80%
  • フランスでは90%
  • イングランドでは80-96%

この差は、浸透率は遺伝的、エピジェネティック、および環境的な因子によって決定されることを示唆するが、機序は不明である。
反復性急性膵炎/慢性膵炎に進行するほとんどの患者では、20歳までに症状が出現する。

命名

いくつか例を挙げると、PRSS1関連遺伝性膵炎は、慢性石灰性膵炎、家族性膵炎、反復性(もしくは再発性)急性(もしくは慢性)膵炎と記述されている。しかし、これらは臨床診断であり、分子学的な検討はされていない。

"家族例膵炎"は、原因にかかわらず、家族内で1人を超える者で膵炎を認めた場合のことを指す。

"遺伝性膵炎"は家族性膵炎の亜型で、常染色体遺伝の形式をとり、PRSS1関連遺伝性膵炎のように単一遺伝子疾患であることが示唆される。

発生率

遺伝性膵炎の既知の家族数にもとづいた、米国における当初の推定患者数は約1000人である。
膵炎患者コホートのジェノタイピングにより、発生率は以前の推定よりも高いことが示唆されている。

  • 遺伝性膵炎に合併する生殖細胞系列PRSS1変異は、慢性膵炎患者の2%-4%に認められる。
  • フランスからの報告によると、PRSS1関連遺伝性膵炎の人口あたりの発生率は100,000人に1人と推定されている。
  • デンマークでは、膵炎患者の12.4%は最初遺伝性急性/慢性膵炎に分類され、うち9%はPRSS1病原性変異を有していた(全膵炎患者の1%)。

鑑別診断

多くの遺伝性あるいは後天性の神経筋疾患が緩徐進行性の筋力低下をきたしうる.

SBMAは筋萎縮性側索硬化症(ALS)と高頻度に混同される.ALSと診断された患者の約25人に1人が実際はALSではなくSBMAであった(Parboosingh et al. 1997).両者の鑑別は病歴と身体所見に基づいてなされる.ALSは上位および下位運動ニュ−ロンが障害される;通常ALS患者は反射亢進や痙縮などの上位ニューロン徴候を呈する.ALS患者は典型的にはより広範な筋群が障害され進行も早い.SBMAの重要な所見はアンドロゲン感受性の低下であり,しばしば女性化乳房をきたす;したがって,運動ニューロン疾患の男性患者を診察する際には,女性化乳房が存在しないかをみるために乳房の大きさも診察に含めるべきである(Nagashima et al 1988).

常染色体劣性もしくは常染色体優性,さらにX連鎖性の遺伝形式をとるSBMA以外の脊髄性筋萎縮症(SMA)が報告されている (Zerres 1989).これらのうち,常染色体劣性遺伝性SMAが最も多く,発症年齢により4型に分類される.I-III型はそれぞれWerdnig-Hoffman病(急性型) , Werdnig-Hoffman病(慢性型) , Kugelberg-Welander病として知られている;すべて乳幼児期あるいは学童期に発症し,SBMAとの鑑別は明確である.IV型はSBMAと同様に成人発症であるが,I-III型よりはずっとまれである(Trentin et al 2005).

脊髄の運動ニューロン脱落による筋萎縮や筋力低下は他の遺伝性神経変性疾患,脊髄小脳失調症3型(SCA3, Machado-Joseph病),フリ−ドライヒ運動失調症,Tay-Sachs病,X連鎖性副腎白質ジストロフィーの亜型である副腎脊髄ニューロパチー(AMN)などで認められるが,これらの疾患はSBMAとはかなり異なっている.筋力低下に加えて感覚障害が目立つ場合には末梢神経障害(Charcot-Marie-Tooth遺伝性ニューロパチー総論を参照)を考える.

非遺伝的要因の運動ニューロン疾患としては,構造の異常(脊髄動静脈奇形など),感染症(特に急性灰白髄炎),中毒(慢性鉛中毒),代謝異常(甲状腺中毒症)など,傍腫瘍症候群が挙げられる.SBMAには慢性炎症性ニューロパチー,代謝性ミオパチー,多発筋炎,重症筋無力症と誤診された症例もある.


臨床的マネジメント

初期診断後の評価

SBMAと診断された患者の疾患およびかかわりの程度を確立するために,以下に示す評価が推奨される:
 ・神経学的所見:遠位筋力と深部腱反射
 ・発語
 ・嚥下
 ・アンドロゲン反応性:男性的な発毛,睾丸の大きさ,妊孕性
 ・女性化乳房
 ・遺伝医学的診察

対症療法

病状の進行に応じて,装具や歩行器を用いた理学療法やリハビリテ−ションを行うことは日常生活能力の維持に有効である.

女性化乳房に対して乳房縮小術が行われてきた(Sperfeld et al 2002).

一次性障害の予防

発症前診断によりCAGリピートを保有することが判明した無症候性の個人において疾患の進行を防止する有効な治療法は現時点では存在しない.

二次合併症の予防

SBMAにおいて最も憂慮される合併症は球麻痺に伴うものであり,窒息や誤嚥性肺炎は生命を脅かす.球麻痺患者に対しては食事を小刻みに切って噛みにくいものはさけて嚥下することの重要性を相談しなければならない.

サーベイランス

適切な評価としては,

  • 筋力テスト(年1回)
  • 肺機能検査(進行例では年1回)

避けるべき薬剤や環境

転倒しやすい患者ではスリッパや足元の悪いところでの歩行を避けるべきである.

リスクのある血縁者に対する検査

リスクのある血縁者の検査に関連する問題については「遺伝カウンセリング」を参照.

研究段階の治療法

高用量テストステロン少なくとも1つの高容量経口テストステロンの臨床試験が行われているが,アンドロゲン投与群に有意な改善は見られなかった(Goldenberg & Bradley 1996).SBMAのショウジョウバエおよびマウスモデルの研究から,多くの研究者はアンドロゲン治療を有害と考えている.

抗アンドロゲン治療この治療が神経合併症に対して有効な治療かどうかに関してはコンセンサスや明確な証拠はない.

  • 抗アンドロゲン治療はショウジョウバエやマウスモデルを用いた研究やSBMAの分子基盤の知見から期待されている.日本のグループ(Banno et al 2009)はSBMA患者に対するリュープロレリンの臨床治験を行い,48週間追跡した:輪状咽頭切開までの期間に有意な改善が観察されたが,他の評価項目には改善は認めなかった.特に,ランダム化期間における一次評価項目(ALS機能評価スケール:ALSFRS)において有効性を認めなかった.治験はオープンラベルとして継続して好意的な結果が報告されているが,結論としてはこの臨床治験からSBMAにおける抗アンドロゲン治療に対する有効性は確立されなかった(Fischbeck & Bryan 2009).
  • 一次評価項目として嚥下評価を用いたより大規模な後続研究でも全体的な有効性は示されなかったが,事後分析において罹病期間が10年以内の患者群では有効であった(Katsuno et al 2010).
  • 他の抗アンドロゲン治療アプローチが最近試みられた(Fernández-Rhodes et al 2011):SBMA患者をプラセボ群とdutasteride群(テストステロンからジヒドロテストステロン(DHT)への変換をブロックする薬剤)をランダム化した.DHTは多くの毒性効果を媒介するというのが理論的根拠であり,この薬剤は罹患者のテストステロン同化作用を保持し,それにより抗アンドロゲン治療の副作用を消失させることが期待された.しかしながら,この研究では,SBMAにおける筋力低下の進行に対するdutasterideの有意な効果は示されなかった.

したがって,SBMAの治療としての抗アンドロゲン治療の有用性はいまだ明らかにされていない.さらに,抗アンドロゲン治療は,例え有効でも,発症に先行してあるいは神経変性過程の早期に投与する必要があるかもしれない.さらに重要なことは,抗アンドロゲン治療の副作用はおそらくほとんどの患者にとって治療の利点をはるかに上回ると思われ,車いすレベルのあるいは著明な球麻痺を示すSBMA患者に対しては保留されるべきであろう.

クレアチン補充筋萎縮性側索硬化症に対する最近の研究からクレアチン補充がこの運動ニューロン病において一時的な筋力増強と運動能力の向上をもたらすことが示唆され(Mazzini et al 2001),SBMA患者にも類似の有効性が期待されているが,まだ試験はされていない.

動物モデルにおける実験的治療

  • SBMAのマウスモデルで有効性が示されている他の介入としては,HSP-90阻害薬の17-AAGと17-DMAG,合成クルクミン誘導体のASC-J9,インスリン様成長因子-1がある(Fischbeck 2012の総説).
  • ごく最近,ヒトAR導入遺伝子の細胞型特異的な切断をさせるためにloxP配列が挿入された最初のエクソンをもつBACトランスジェニックマウスを開発してSBMA病態における変異ARの筋発現の役割を直接調べた研究グループがある(Cortes et al 2014).彼らはヒトAR導入遺伝子を設計し,CAGリピート数121(BAC fxAR121)を導入し,このマウスが性別限定性で,体重減少,運動能力の低下,筋萎縮,ミオパチー,寿命の短縮といった進行性の神経筋疾患の表現型を示すことを観察した.BAC fxAR121オスマウスの骨格筋における変異ARの発現を終結させることにより,SBMAの疾患病態における変異ARの筋発現に対する重要な役割が明らかとなった.すなわち,この成果は筋に対する直接的な治療がSBMAの運動ニューロン変性に対する決定的な治療として大きな期待をもつことができることを予期させる.
  • 別の最近の研究はSBMAのマウスモデルにおいて,アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASOs)を用いてpolyQ-ARを抑制することにより毒性を改良しようとしたものである(Lieberman et al 2014).この研究では末梢において発現する変異ARを特異的に標的にする分子を開発し,2つのマウスモデルを用いて,変異ARの末梢での遺伝子発現抑制により筋重量,線維のサイズ,握力における低下が回復し,筋の遺伝子発現が回復し,変異マウスの寿命が延長することを示した.興味深いことに,中枢神経系への抗AR ASOのデリバリーによりSBMAマウスモデルの疾患読み取りの改善も誘導された.したがって,この報告は,SBMAの遺伝的救済実験(Cortes et al 2014)と合わせて,筋を標的にした末梢からの治療アプローチをヒトのSBMAでも探索することを強く提唱するものである.

大規模な疾患に対する臨床研究に対する情報についてはClinicalTrials.govを参照のこと.

その他

男性ホルモン(テストステロンとそのアナログ)の投与はアンドロゲン不応性を克服する効果はない.


遺伝学的関連(アレル)疾患

PRSS1変異と関連する他の臨床型は知られていない。


鑑別診断

遺伝性膵炎の形態学的な特徴および検査所見は、アルコール関連慢性膵炎、熱帯性膵炎、特発性慢性膵炎などの他の原因と同様である。注目すべきことに、アルコール性膵炎はアルコール消費量の増加による膵炎のことを指す。アルコールがリスク因子となるには、通常は1日少なくとも5杯(60オンスを超えるエタノール量)が必要である。アルコールの効果は喫煙によって増強される。

喫煙は、慢性膵炎への進行における、用量依存性で独立したリスク因子である。

PRSS1関連遺伝性膵炎の鑑別診断には、家族性膵炎、特発性慢性膵炎、CFTR関連遺伝性膵炎、CTRC関連遺伝性膵炎、SPINK1関連遺伝性膵炎などがある。


臨床的マネジメント

初期診断後の評価

PRSS1関連遺伝性膵炎と診断された患者の疾患の広がりとニーズを把握するため、以下が推奨される。

  • 膵外分泌機能の評価(「病変に対する治療」「消化不良」を参照)
  • 膵内分泌機能の評価(すなわち耐糖能の評価)
  • 慢性膵炎患者で膵癌サーベイランスを考慮

病変に対する治療

PRSS1関連遺伝性膵炎の治療やマネジメントは非遺伝学的膵炎のそれと同様である。
急性膵炎の治療は、通常は疼痛管理と、進行を遅らせ膵癌などの合併症の可能性を減らすため禁煙や禁酒を行う。

膵臓の疼痛は、膵管閉塞、膵実質の圧亢進(parenchyma hypertension)、膵臓の虚血、炎症、神経障害、中枢性疼痛によって起こりうる。遺伝学的要因は、その多くが未解明で説得力のある説明はできないが、痛みの認知、耐容性、治療への反応に役割をもつと考えられている。

  • 膵酵素補充療法で疼痛を十分制御できないときに鎮痛剤を使用する。
  • 少数の遺伝性膵炎患者やアルコール性慢性膵炎患者で、抗酸化剤が疼痛を改善することが報告されている。

内視鏡的・外科的治療は仮性嚢胞、胆管/十二指腸閉塞、感染性膵壊死、悪性腫瘍のような合併症で施行する。
膵管の閉塞/石灰化は内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)のような処置で軽快する可能性があるが、ERCPでは内視鏡で総胆管や膵管にカニュレーションし、その後放射性色素を注入する。減圧や閉塞の解除により、多くの遺伝性膵炎患者で、入院回数や発作の再発回数を減らすとともに疼痛を減らせる。注:ERCP後の急性膵炎リスクのため、(狭窄部の評価のため)ブラシ擦過検体を得る場合と診断ではなく治療的介入を行う場合のみに推奨されている。

さまざまな外科的アプローチが疼痛や多発性狭窄による閉塞を起こす非癌性膵疾患に用いられているが、遺伝性膵炎患者に対する膵臓の外科手術は基盤となる炎症のプロセスを止めることはないようである。さらに、膵臓の外科手術は、しばしば膵内分泌機能に重要な膵島細胞の数を減少させる。膵切除術および自家膵島移植は遺伝性膵炎患者の将来的な選択肢となる可能性があるため、膵臓の外科手術に進む前に可能な限り多くの膵島細胞を保つことは考慮すべき重要なことである。

議論の余地はあるが、膵切除は、疼痛のコントロールがつかない患者、とくに若年成人や小児患者のQOLを改善する最後の砦として施行されてきた。膵切除が考慮される患者は専門施設への紹介が推奨される。十分な膵内分泌機能を有する患者では、膵切除時の膵島細胞の分離と自家移植が考慮されるかもしれない。注:自家膵島移植は移植した細胞が悪性である可能性があるため、長期にわたる慢性膵炎や糖尿病を患う高齢者では施行すべきでない。

疼痛は反復性および慢性炎症の合併症で、最小限から重篤で生活に支障をきたすものまで幅広い。疼痛は、炎症、虚血、膵管の閉塞、仮性嚢胞、消化不良で起こりうる。

  • イタリアの小規模な研究により、遺伝性膵炎にてビタミンや抗酸化剤により痛みが軽減したことが示唆されている。より大規模な2つの研究では、抗酸化剤は特発性膵炎で疼痛軽減に有用であることが見出された。
  • 消化不良による痛みは膵消化酵素により改善する。
  • 主膵管が閉塞している場合、診断・治療目的、そして長期の治療が必要か予後を知るために内視鏡的治療がしばしば試される。
  • 多くの患者で外科手術が有用であることが報告されている。しかし自家膵島移植が考慮される場合、外科的アプローチは延期すべきである。
  • 一部の専門家たち(ミネソタ大学、ピッツバーグ大学)は重度疼痛を制御し糖尿病発症を遅らせるため、自家膵島移植を行っている。不可逆的であるため、治療者と患者は専門家施設と緊密な連携をとることが推奨される。
    慢性膵炎の治療は、疼痛、消化不良、糖尿病を治療してQOLを改善させることに重きをおいている。

膵外分泌機能不全では食物を消化するのに十分な消化酵素が膵臓から産生されず、消化不良がおこる。
膵外分泌機能不全の臨床症状には、脂肪便(便中の脂質)、消化不良の症状(腹部膨満、ガス、腹痛、下痢)や栄養素の欠乏(脂溶性ビタミン、アルブミン・プレアルブミン・レチナール結合蛋白の低値など蛋白不足)などがある。

膵酵素欠乏は侵襲的もしくは非侵襲的な検査によって見出すことができる。

  • 便中エラスターゼ解析(ScheBo Biotech®、ドイツ・ギーセン) これはシンプルで相対的に安価な検査で、便中に存在するヒトエラスターゼ-1蛋白の量を評価する。下痢では偽陽性となりうるが、膵酵素補充療法を受けている場合でも用いることができる。軽度の膵外分泌機能不全に対する感度は低い。
  • セクレチン刺激による膵重炭酸塩分泌検査(ChiRhoStim®, ChiRhoClin Inc) この検査は十二指腸へのチューブ挿入が必要であり、(方法によるが)1時間以上かけて膵臓の重炭酸塩分泌を注意深く測定する。とても感度が高いが、評価するのは膵管機能のみである。
  • コレシストキニン(Cholecystkinin, CCK)やその類似体(CCK-8など)、もしくは受容体アゴニスト(セルレインなど)も膵腺房細胞機能の評価に用いられる。
  • 13C混合中性脂肪呼気試験 米国での利用は限られているが、検査食の摂取後に膵リパーゼの特異基質に対する消化能を測定する検査である。
  • 72時間便中脂肪 これは、重度の膵外分泌機能不全患者における脂質の消化において、膵消化酵素補充療法が効果的かどうかを調べる検査である。通常は臨床研究ユニットにより行われ、患者が特殊な高脂肪食(1日に100gを超える脂質)を4日から5日かけて摂取し、全ての便検体を集めて分析する。検査の複雑性および不便性から、診断には用いられない。
  • ズダン染色 これは便中脂肪を検出するが、膵機能不全に対する感度や特異度は高くない。なぜなら、未消化の脂質は以下の状況により認めうるからである。
    • その性質(ミネラルオイル、オレストラなど)
    • 膵リパーゼの阻害(オルリスタットなど)
    • 腸粘膜疾患
  • 拡散強調MRI セクレチン刺激MRIなど腹部画像検査技術を用いたさまざまな"機能"検査が提唱されてきた。拡散強調MRIは、慢性膵炎の構造的変化を検出するのにおそらく標準MRIより良いが、機能を測定するわけではなく、水分量(fluid volume)は重炭酸塩排泄量を測定できない。

膵酵素補充療法により、食事による疼痛、脂肪便、下痢を伴う膵機能不全患者の消化が改善する。膵酵素は、脂肪便を伴う患者、および脂肪便を伴わない患者の一部において症状を軽減するのにもっとも効果的である。

必要な膵酵素補充量は食事や膵機能の残存活性(経過とともに消失する)によって決まる。正常なリパーゼ分泌量は食事ごとに約750,000-1,000,000単位(USP)である(初期の論文ではIUが用いられている、1IU=3USP単位である)。正常な膵酵素分泌の少なくとも10%が食事の消化に必要なため、膵機能が完全に欠落した平均的な体格(70kg)の成人患者においては約70,000-80,000USP単位のリパーゼが必要である。より体格が小さい患者や膵外分泌機能が残存する患者では、症状や栄養指標をモニタリングしながら量を減らすことができる。

糖尿病はよくみられる疾患で、遺伝性膵炎では1型、2型ともに合併しうる。3c型糖尿病は、外科手術、慢性膵炎、その他まれな膵疾患による膵組織の減少によって起こる。インスリンを産生するβ細胞やグルカゴンを産生するα細胞の両方が失われ、拮抗ホルモンの減少や低血糖リスクにつながるため、3c型糖尿病は重要である。

慢性膵炎は緩徐な膵機能障害を合併する。以下は有益であるかもしれない。

  • 耐糖能のモニタリングを行う。
  • 膵酵素補充療法により、アミノ酸や脂肪酸が前腸からの内因性インクレチン放出を促進し、膵インスリン分泌は最適化する。必要があれば糖尿病治療薬を追加する。
  • 循環血液中への栄養吸収と食事を介した外因性インスリン療法を同調させる。また、膵酵素補充療法により、栄養の消化・吸収を早期に予想通り行うことを推進する。
  • 経口糖尿病薬としてメトホルミンを使用する。

一次症状の予防

遺伝性膵炎の一次症状予防は限られる。遺伝性膵炎患者(もしくはそのリスクのある者)では以下が推奨される。小児期早期に開始することで急性膵炎発作の予防に役に立つ。

  • 低脂肪食 食事中の脂肪量に関する正式なガイドラインは存在しない。しかし、一部の医師は膵分泌刺激を最小化するために低脂肪食を推奨している。
  • 少量頻回食 エビデンスに基づいたガイドラインは存在しない。しかし、膵外分泌刺激を最小化するために少量食が推奨される。
  • 十分な水分補給 (たとえば運動中など)水分補給が不足すると膵炎発作を起こしうる。
  • 抗酸化剤 1つの小規模な研究報告によると、遺伝性膵炎のリスクがある者において抗酸化剤は急性膵炎の可能性低減に有用である可能性がある。

避けるべき薬物/環境

アルコールやタバコは原因に関わらず全ての膵炎を悪化させる。飲酒・喫煙を両方とも行った場合、膵炎を発症するリスクは8倍になる。喫煙により、遺伝性膵炎を含むすべての膵炎のリスクは2倍になる。喫煙は膵癌の早期発症にもつながる。

脱水症は急性膵炎発作を悪化させる。とくに嘔気や嘔吐、食欲不振は発作中の経口摂取を制限するため、良好な水分補給を維持することは、発作を最小化するのに有用であるかもしれない。

身体的および精神的ストレスは膵炎を悪化させる。遺伝性膵炎の家系でこれらのストレス源を避けることで症状の悪化や進行を防ぎ遅らせる可能性がある。ヨガやその他のリラックス法により膵炎患者のQOLを改善させる可能性がある。一部の患者は、ランニングのような定期的な運動が膵炎発作の減少に寄与したと申告している。

リスクのある親族の検査

PRSS1関連遺伝性膵炎のリスクのある親族に対し、早期の診断や予防、および治療が可能とするために、家族特異的な生殖細胞系列PRSS1病原性変異の分子遺伝学的検査を申し出ることを推奨する。早期発症の家系においては小児期の検査がのぞましい。遺伝カウンセリングの一環として発症前の検査が最もよく行われる。

遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある親族への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。

研究中の治療法

現在、カルシウムチャネル拮抗薬のような化学的予防薬が遺伝性膵炎に対する治療として研究されている。
パイロット研究ではカルシウムチャネル拮抗薬のアムロジピンを評価している。しかし、この治療法はまだ推奨できない。
さまざまな疾患に関する臨床試験に関する情報はClinicalTrials.govを参照のこと。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

PRSS1関連遺伝性膵炎は常染色体優性遺伝性疾患である。

患者家族のリスク

発端者の両親

  • PRSS1関連遺伝性膵炎と診断された多くの患者の親は罹患者である。
  • PRSS1関連遺伝性膵炎の発端者はde novo変異の可能性がある。単一症例(すなわち家系内に1人だけの発症)では変異がde novoかどうか十分に評価されてこなかったため、de novo変異によるPRSS1関連遺伝性膵炎の比率は不明である。
  • 発端者に認められた病原性変異が両親の白血球DNAに認められない場合、2つの可能性があり、1つはいずれかの親の性腺モザイク、もう1つは発端者のde novo変異である。性腺モザイクの例は報告されていないが可能性はある。
  • 明らかなde novo変異を有する発端者の両親に対し、発端者で同定されているPRSS1変異の分子遺伝学的検査を含む評価を行うことを推奨する。両親の評価により、片親は軽症のため未診断の罹患者であったと分かることがある。それゆえ、適切な評価が行われるまで明らかに家族歴がないということはできない。
    注:(1)PRSS1関連遺伝性膵炎と診断されたほとんどの患者の片親は罹患者であるが、見逃し例や片親の症状発現前の死亡、遅発例のため、家族歴はないと思われることがある。(2)その親に初めての病原性変異が認められた場合、変異の性腺モザイクを有し、症状が軽度/ごく軽度である可能性がある。

発端者の同胞 

同胞に対するリスクは両親の遺伝学的状況による。

  • 片親が罹患者かPRSS1変異を有する場合、同胞が変異を受け継ぐ確率は50%である。
  • 親は浸透率が低い可能性があるため、両親が臨床的には罹患者でなくとも同胞はまだPRSS1関連遺伝性膵炎のリスクがある。
  • 発端者で認められた病原性変異を両親の白血球DNAで同定できない場合、同胞に対するリスクは低いが、性腺モザイクの可能性があるため一般集団よりは高い。

発端者の子

  • PRSS1関連遺伝性膵炎患者の子どもがそれぞれ病原性変異を受け継いでいる確率は50%である。

発端者の他の家族

  • 他の家族に対するリスクは発端者の両親の遺伝学的状況による。
  • 片親が罹患者の場合、その家族はリスクがあるかもしれない。

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断・治療を目的としたリスクのある親族の検査についての情報は、「臨床的マネジメント」「リスクのある親族の検査」を参照のこと。

見かけ上de novo変異を有する家系での配慮

常染色体優性遺伝性疾患で発端者の両親ともに病原性変異や臨床症候を有さない場合、発端者はおそらくde novo変異を有するだろう。しかし、父親や母親が異なる場合(生殖補助医療など)や非公表の養子縁組のような非医学的理由も考えられる。

家族計画

  • 遺伝学的リスク評価、および出生前診断の利用について話し合いを行う最適な時期は妊娠前である。
  • 罹患者、もしくはリスクがある若年成人に対して遺伝カウンセリング(潜在的な子どもへのリスクや出産方法の選択肢に関する話し合いなど)を申し出ることがのぞましい。

DNAバンクは(主に白血球から調整した)DNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子、変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、患者のDNA保存を考慮すべきである。

出生前診断および着床前診断

家族内でPRSS1病原性変異が判明している場合、PRSS1関連遺伝性膵炎のリスク妊娠に対する出生前診断や着床前診断を行うことは可能である。

PRSS1関連遺伝性膵炎のような)知能に影響せず、浸透率が100%未満で、治療方法がいくつか存在する疾患に対する出生前検査の要望は多くない。医療従事者や家族の間で出生前検査に関して視点の違いが存在する可能性がある。ほとんどの施設において、出生前診断に関する決定は両親の選択によるが、これらの問題に関して話し合うことがのぞましい。


更新履歴

  1. Gene Reviews著者: Sheila Solomon, MS, CGC, David C Whitcomb, MD, PhD, and Jessica LaRusch, PhD.
    日本語訳者: 和田宏来(県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科) 
     Gene Reviews 最終更新日:2012.3.1.日本語訳最終更新日: 2017.5.10      (in present)         

原文 PRSS1-Related Hereditary Pancreatitis

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