Gene Review著者: Pinar Bayrak-Toydemir, MD, PhD, FACMG, David Stevenson, MD
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
Gene Review 最終更新日: 2011.2.22. 日本語訳最終更新日: 2011.4.24.
原文 Capillary Malformation-Arteriovenous Malformation Syndrome
(2020年11月25日現在、本翻訳疾患の記述は上記 CM-AVM RASA1 遺伝子変異に統一された)
疾患の特徴
RASA1関連疾患の特徴は,大部分が顔面および四肢に局在する小さな(直径1~2cm)の多発性毛細血管奇形である.また患者の約30%には,通常皮膚,筋,骨,脊椎,脳に発症する血流速度が亢進した血管奇形である動静脈奇形(AVM)や動静脈瘻(AVF)も認められる.このような病変の生命を脅かす合併症には,出血,うっ血性心不全,神経学的合併症がある.頭蓋内動静脈奇形や動静脈瘻に由来する症状は若年発症性であるように思われる.RASA1遺伝子変異を有する患者の一部は,パークス・ウェーバー症候群(毛細血管母斑と、四肢の1つに軟部組織過形成と骨増殖を伴う小さな多発性動静脈瘻)と臨床診断される.
診断・検査
診断は臨床所見およびRASA1遺伝子の分子遺伝学的検査に基づいて行われる.RASA1遺伝子はRASA1関連疾患との関連性が認められている唯一の遺伝子である.このような検査は臨床的に実施されている.
臨床的マネジメント
症状の治療:美容的に問題となる毛細血管奇形は皮膚科専門医へ紹介すること.動静脈奇形や動静脈瘻に関しては,多数の専門医から成る医療チーム(放射線治療(IVR)専門医,神経専門医,外科医,心臓専門医,皮膚科専門医)の協力を得て、外科的介入のリスクと効果(塞栓術か外科的手術か)を検討すること.心臓の過剰な負荷については心臓専門医へ紹介すること.片側肥大や下肢長差は整形外科医へ紹介すること.
経過観察:動静脈奇形や動静脈瘻の臨床徴候や臨床症状が明らかになった場合には,繰り返し画像検査を行うこと.
回避すべき薬剤および環境:他の病状に対する治療薬として処方された場合を除き,抗凝固薬の日常的服用は避けることが望ましい.
発症リスクのある血縁者の検査:家系特異的変異がわかっている場合,発症リスクのある血縁者に対する分子遺伝学的検査で早期診断が可能となり,これにより動静脈奇形や動静脈瘻に対する迅速な治療を行って続発性の悪影響を軽減もしくは回避することが可能となる.頭蓋内動静脈奇形や動静脈瘻による神経学的合併症が早期に認められるならば,とりわけ発症リスクのある乳児は迅速な診断が必要とされる対象である.遺伝カウンセリング
RASA1関連疾患は常染色体優性遺伝性疾患である.RASA1関連疾患と診断される大多数の患者では,両親の一方が罹患者である.30%の症例が新生突然変異による発症である.RASA1関連疾患患者の子が変異を受け継ぐ確率は50%である.発症リスクの高い妊娠に対する出生前診断は,家系内罹患者の疾患原因遺伝子変異がわかっていれば実施できる.
臨床診断
RASA1関連疾患の診断は以下のいずれかが認められる場合に疑われる:
RASA1遺伝子に変異が同定されパークス・ウェーバー症候群との診断を受けた多発性毛細血管奇形患者に、下肢の片側肥大が認められた[Revencu et al 2008].
一次病変
分子遺伝学的検査
遺伝子. RASA1遺伝子変異により,毛細血管奇形-動静脈奇形症候群(CM-AVM)が,幾つかの症例ではパークス・ウェーバー症候群が発症する.
臨床検査
シークエンス解析 ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス変異や,小規模の挿入と欠失を検出するシークエンス解析がRASA1遺伝子変異の同定に好んで用いられている.RASA1遺伝子のシークエンス解析の臨床感度には,熱変性高速液体クロマトグラフィー(DHPLC)検査による変異スキャニングを用いて実施された大規模試験で得られたデータを外挿する[Revencu et al 2008].
注:(1)遺伝子全体のシークエンス解析や変異スキャニングの変異検出頻度は同程度であるが,変異スキャニングの変異検出率は,その施設の実施手順により大きく異なる.(2)患者の選択基準は,臨床現場ではそれほど厳格とは考えられないため,しっかりと定義づけられた研究における試験群と比較した場合,臨床症例における変異検出頻度が異なることがある.例えば,著者らの分子遺伝学臨床施設における変異検出頻度は,血管奇形の有無を問わず,多発性毛細血管奇形を呈するとされる患者では50%である[著者ら,未発表データ].
欠失・重複解析. RASA1関連疾患の原因となるRASA1遺伝子にかかわる欠失や重複は報告されていないため,エクソン単位の欠失・重複や遺伝子全体の欠失・重複の頻度はいまだ不明である.
表1.RASA1関連疾患の分子遺伝学的検査
遺伝子記号 | 検査方法 | 検出変異 | 検査方法ごとの変異検出率 1 | 検査の実施 |
---|---|---|---|---|
RASA1 | シークエンス解析 | シークエンス・バリアント 2 | 不明 | 臨床 |
欠失・重複解析 3 | 1つ以上のエクソンもしくは遺伝子全体の欠失・重複 | 不明4 |
「検査の実施」はGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている検査実施状況である.検査の実施に関してはGeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能としている.GeneTestsは研究機関から提出された情報の検証や,研究機関の承認状態もしくは実施結果の保証は行わない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.
検査結果の解釈
シークエンス解析結果の解釈について考慮すべき点についてはここを参照のこと.
検査手順
発端者の確定診断. RASA1遺伝子に対するシークエンス解析が考慮されるのは以下の場合である:
出生前診断や着床前診断(PGD) 発症リスクのある妊娠に対する出生前診断や着床前診断(PGD)に際しては,事前に家系内の疾患原因遺伝子変異の同定が必要である.
注:GeneTests Laboratory Directoryの掲載施設で実施可能な臨床検査を載せることがGeneReviewsの方針である.ここで掲載されている検査は必ずしも著者や編集者や審査者の推奨を反映するものではない.
遺伝的に関連のある疾患
基底細胞がんでRASA1遺伝子の体細胞変異が報告されている[Friedman et al 1993].その他には,毛細血管奇形が複数部位に認められる毛細血管奇形-動静脈奇形(CM-AVM)症候群およびパークス・ウェーバー症候群を除いて,RASA1遺伝子変異との関連性が認められている症候群はない.
自然経過
RASA1関連疾患の自然経過は,もっとも規模の大きいコホートを対象にして行われた画期的な報告[Eerola et al 2003, Revencu et al 2008]に基づくところが大きい.表2にこれまで報告された症例一覧を掲げる.同定される患者数が増えれば,本疾患の自然経過の理解も進むであろう.
表2. RASA1遺伝子変異を有する患者において報告された所見
研究 | Eerola et al [2003] | Hershkovitz et al [2008a] | Hershkovitz et al [2008b] 1 | Revencu et al [2008] | Thiex et al [2010] | |
---|---|---|---|---|---|---|
報告患者総数(家系総数) | 39 (6) | 14 (3) | 2 (1) | 101 (44) | 5 (5) | |
所見2 | 特徴的な所見を有する患者数 | |||||
毛細血管奇形 | 35 | 14 | 2 | 99 | 5 | |
AVM/AVF | 頭蓋内 | 2 | 8 | |||
脊椎 | 5 | |||||
その他 | 7 | 1 | 9 | |||
PKW症候群の診断 | 1 | 1 | 16 | |||
心過負荷・心不全 | 1 | 8 | ||||
腫瘍3 | 7 | |||||
先天性心欠損 | 4 | |||||
てんかん発作 | 1 | 3 | ||||
水頭症 | 2 | |||||
神経因性膀胱 | 2 |
AVM=動静脈奇形;AVF=動静脈瘻;PKW症候群=パークス・ウェーバー症候群
頭蓋内の動静脈奇形や動静脈瘻による症状は若年発症性であるように思われる[Revencu et al 2008].ガレン大静脈瘤やその他の頭蓋内動静脈奇形により,てんかん発作,水頭症,片頭痛,心不全に至る[Eerola et al 2003, Revencu et al 2008].Revencuら[2008]によれば,頭蓋内病変のほとんどが乳児期に症状をもたらす大きな動静脈瘻であった.しかし,関連症状に引き続いて動静脈奇形や動静脈瘻が発見されていることから,症状を呈していない者には病変の検出に必要な画像検査が行われていないことも考えられるため,この知見には偏りがある可能性がある.しばらくしてから年長患者が症状を呈するようになるかを判断する前向き研究は実施されていない.また,RASA1遺伝子変異を有する者全員に対して包括的な画像検査が行われているわけではないと考えられるため,RASA1関連疾患における動静脈奇形や動静脈瘻の発症頻度は確定困難である.
また,頭蓋外の動静脈奇形や動静脈瘻も多く認められており皮膚,筋,脊椎での報告が多いが,腹腔内での動静脈奇形や動静脈瘻の報告は少ない[Revencu et al 2008].症状を呈する脊椎内動静脈奇形が報告されており,MRI画像診断により血管内の外科的処置を要する治療可能な脊椎内病変が同定された[Thiex et al 2010].脊椎内動静脈奇形により外科的処置を要する神経学的損傷が生じた[Thiex et al 2010].
心過負荷や心不全は血流速度の亢進が著しい病変を有する患者に起こりうる合併症である.とりわけ,RASA1遺伝子変異を有するパークス・ウェーバー症候群患者の3分の1は心臓に対するフォローアップが必要であると報告された [Revencu et al 2008].Eerolaら[2003]により初めて報告された乳児症例に含まれる1人には左頚動脈と頸静脈の間に動静脈瘻が認められた.この動静脈瘻により治療を要する心過負荷が生じていた.
RASA1遺伝子変異を有する患者は腫瘍形成リスクが高い.Revencuら[2008]は,RASA1遺伝子変異を有する44家系で幾つかの異なった腫瘍(視神経膠腫,脂肪腫,表在型基底細胞がん,血管脂肪腫,非小細胞肺がん,前庭神経鞘腫など)を報告した.腫瘍の頻度が一般集団と比較して高まるかどうかは不明である.遺伝子型と臨床型の関連
これまでの研究は遺伝子型と臨床型の関連を確定するには十分でない.
浸透率
同一集団から得られた2件の研究によれば,浸透率は89~96%である:
病名
Eerolaら[2003]によりRASA1遺伝子変異が原因の臨床型が「毛細血管奇形-動静脈奇形」(CM-AVM)と名付けられた.
頻度
RASA1関連疾患の頻度は,北欧で10万人中1人と推定されている[Revencu et al 2008].
本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.
パークス・ウェーバー症候群 (PKWS)(OMIM 608355) パークス・ウェーバー症候群の特徴は,皮下に複数認められる小さな動静脈瘻や,四肢の1つを侵す軟部組織および骨格の過形成を伴う,皮膚の毛細血管奇形である[Mulliken & Young 1988].大多数の罹患者が孤発例(家系内で唯一の症例)であるが,多発性毛細血管奇形を呈しているパークス・ウェーバー症候群患者のなかにはRASA1遺伝子変異が認められる者もいる[Eerola et al 2003, Revencu et al 2008].反対に,多発性毛細血管奇形を認めないパークス・ウェーバー症候群患者にはRASA1遺伝子変異が認められない場合が多い.したがって,パークス・ウェーバー症候群は複数の病因に係る疾患であると考えられよう.
遺伝性良性血管拡張症 (HBT)(OMIM 187260) 遺伝性良性血管拡張症は広範な毛細血管拡張を伴う.罹患部位はおもに顔面,上肢,上躯幹である.毛細血管拡張は小静脈性であり,真皮上部の萎縮を伴う.Wells & Dowling[1971]は,遺伝性良性血管拡張症(HBT)が常染色体優性で認められる3家系を報告した.罹患家系の血縁者で認められた毛細血管拡張は,大きさ(1×1cm~6×4cm)にも病変数(1個から10個超)にもばらつきが認められた.いずれの場合も病変は年齢が進むにつれて色あせてゆく.組織学的検査により,正常な表皮と真皮上部の微小血管の拡張が認められる.
Brancatiら[2003]はイタリア北部の遺伝性良性血管拡張症の大家系で,第5染色体q14上の7Mb領域への連鎖を発見した.著者らはこの家系で連鎖が認められる領域がRASA1遺伝子座と同じであることを突き止めた.これは遺伝性良性血管拡張症(HBT)と毛細血管奇形が同一疾患の異なる臨床症状である可能性を示唆している.しかし,現在に至るまでRASA1遺伝子変異が遺伝性良性血管拡張症を発症させるという証拠は得られていない.
遺伝性出血性末梢血管拡張症 (HHT) (OMIM 187300) 遺伝性出血性末梢血管拡張症の特徴は多発性動静脈奇形(AVM)である.動静脈奇形は動脈と静脈を介在する毛細血管を欠くため,動脈と静脈が直接つながっている.遺伝性出血性末梢血管拡張症(HHT)は発達にかかわる障害であり,乳児で重篤となることもあるが,大多数の患者では臨床徴候は年齢依存的であり,本疾患の診断は思春期以降まで疑われない.皮膚表面や粘膜表面に隣接する小さな動静脈奇形(もしくは毛細血管拡張)は破裂することが多く,わずかな外傷でも出血する.もっとも多い臨床所見は自発性再発性鼻出血であり,これは平均して12歳頃から始まる.遺伝性出血性末梢血管拡張症(HHT)患者の約25%に消化管出血が認められるが,これは50歳以降に始まる場合がほとんどである.大規模の動静脈奇形が脳,肝,肺に起こると,症状を呈することが多い.出血やシャントによる合併症は突発性であり致死的な場合もある.
遺伝性出血性末梢血管拡張症はTGF-β/BMPシグナル伝達経路にかかわる多数の遺伝子の変異によって発症する:
スタージ・ウェーバー症候群(SWS)(OMIM 185300) スタージ・ウェーバー症候群の特徴は,後頭葉および後頭頂葉が侵される場合がもっとも多い,頭蓋内血管の形成異常である軟髄膜血管腫症である.もっとも多くみられる症状や徴候には,顔面皮膚の血管奇形(ポートワイン母斑),てんかん発作,緑内障である.スタージ・ウェーバー症候群の孤発症例患者(家系内で唯一の発症例)9人には,RASA1遺伝子変異が同定されなかった[Zhou et al 2010].
クリッペル・トレノーネイ・ウェーバー症候群 (KTS)(OMIM 149000) クリッペル・トレノーネイ・ウェーバー症候群(別名クリッペル・トレノーネイ症候群)の特徴は,通常,関連する骨や軟部組織の過形成を伴う,血流速度の低下した血管奇形を呈する毛細血管奇形である.クリッペル・トレノーネイ・ウェーバー症候群の診断基準が提案されている[Oduber et al 2008].これまでに典型的なクリッペル・トレノーネイ症候群患者でRASA1遺伝子変異は同定されていない.クリッペル・トレノーネイ症候群には動静脈瘻病変は認められないため,臨床的予後は一般にパークス・ウェーバー症候群よりも良好である.
PTEN過誤腫症候群 (PHTS)にはコーデン症候群,バナヤン・ライリー・ルバルカバ症候群,プロテウス症候群,プロテウス類似症候群(Proteus-like syndrome)が含まれる:
PTEN過誤腫症候群の診断はPTEN遺伝子の疾患原因変異の同定に基づく.
PTEN過誤腫症候群の血管形成異常は,通常,血流速度の亢進を伴う筋肉内の血管形成異常であり異所性脂肪を伴い,組織構造は重度に破壊されている[Caux et al 2007, Tan et al 2007].
多発性皮膚粘膜静脈奇形 (VMCM) 多発性皮膚粘膜静脈奇形は,皮膚や粘膜の小さな帯青色の静脈奇形が複数部位に認められることを特徴とする病態である.このような静脈奇形は通常,出生時に認められる.時間の経過とともに新規病変が現れる.通常,病変が小さければ症状が現れないが,大きい病変は皮下の筋肉を侵し,痛みを生じさせる.悪性化は報告されていない.多発性の皮膚粘膜静脈奇形の診断は皮膚病変の臨床評価に基づいて行われる.ドップラー超音波検査やMRI検査を用いて病変の静脈部分と程度を確定する.TEK遺伝子(別名TIE2遺伝子)の変異が皮膚粘膜静脈奇形との関連性が知られている唯一の遺伝子変異である.
遺伝性静脈グロムス奇形(glomuvenous malformations) (OMIM 138000) 遺伝性静脈グロムス奇形(glomuvenous malformations)の特徴は,動静脈シャントから派生した多発性の良性皮膚病変である.臨床的に静脈グロムス奇形は静脈奇形のようにみえるが,触診時の痛みはずっと強く,部分的にしか圧縮できず,通常粘膜には認められない.静脈グロムス奇形は丸石様であり,静脈奇形よりも硬い.組織学的に静脈グロムス奇形は,膨張した静脈様経路周辺に疾患特有の丸みを帯びた細胞(グロムス細胞)が存在することにより見分けることができる[Brouillard et al 2002].加えて,静脈奇形のなかでも家系的集積が認められることが多く,幾つかの家系が常染色体優性遺伝を示すことが報告されている[Boon et al 2004].静脈グロムス奇形を有する家系では,疾患原因変異がグロムリンをコードする遺伝子であるGLMN遺伝子に同定されている.ほとんどの奇形が切断変異である[O’Hagan et al 2006].
最初の診断時における評価
RASA1関連疾患と診断された患者の疾患の程度を確立するためには,以下の手順が推奨される:
症状に対する治療
毛細血管奇形. 美容的に問題となる毛細血管奇形を評価し,介入的措置によるリスクと利益を話し合うため,皮膚専門医への紹介が考慮される.
動静脈奇形・動静脈瘻. 動静脈奇形や動静脈瘻への介入的処置のもたらすリスクおよび利益が考慮されなければならない.動静脈奇形や動静脈瘻の部位や症状により,多数の専門医から成る医療チーム(放射線治療(IVR)専門医,神経専門医,外科医,心臓専門医,皮膚科専門医)による適切なアプローチの決定(塞栓症か外科的手術か)が必要となるだろう.
心過負荷. 心過負荷が疑われる場合には,心臓専門医へ紹介すること.
片側肥大や下肢長差. 片側肥大や下肢長差を有する場合には,整形外科医へ紹介すること.
経過観察
初回スクリーニング後の動静脈奇形や動静脈瘻の長期的な発達についてのデータは,今のところ不十分である.動静脈奇形や動静脈瘻の臨床徴候や症状が明らかな場合,臨床医は画像検査を繰り返し行うべきとする程度を低く設定しておくべきである.
回避すべき薬物や環境
RASA1関連疾患の合併症を引き起こす薬剤や環境は報告されていないが,理論的帰結として,別の病態の治療に投与された場合を除き,抗凝固剤の常用は避けるべきである.
発症リスクのある血縁者への検査
発症リスクのある血縁者に対する分子遺伝学的検査により早期診断が可能となり,これにより続発性の悪影響を軽減もしくは回避するための動静脈奇形や動静脈瘻に対する迅速な治療が可能となる.頭蓋内の動静脈奇形や動静脈瘻の神経学的合併症が早期に認められるならば,とりわけ発症リスクのある乳児は迅速な診断が必要とされる対象である[Revencu et al 2008].
遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある親族への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと.
研究中の治療法
種々の疾患に対する臨床試験についてはClinicalTrials.govを参照のこと. 注:本疾患を対象とする臨床試験はない.
その他
遺伝クリニック 遺伝クリニックは,患者や家族に自然経過,治療,遺伝形式,患者家族の遺伝的発症リスクに関する情報を提供とするとともに,患者サイドに立った情報も提供する.Gene Test Clinic Directoryを参照のこと.
患者情報 本疾患の支援グループや複数疾患にまたがった支援グループについては「患者情報」を参照のこと.これらの機関は患者やその家族に情報,支援,他の患者との交流の場を提供するために設立された.
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
RASA1関連疾患は常染色体優性疾患である.
患者家族のリスク
発端者の両親
注:RASA1関連疾患と診断された患者のほとんどに罹患者である親が1人いるが,家系内血縁者における疾患の見落とし,症状発症前の罹患するはずであった親の早期死亡,罹患している親の症状の発症が遅い場合などの理由で,家族歴が陰性となる可能性がある.従って,見かけ上家族歴が陰性の場合でも,適切な評価が実施されるまでは確定的なことは言えない.
発端者の同胞
発端者の子
RASA1関連疾患患者の子が変異を受け継ぐ可能性は50%である.
他の家族
その他の血縁者の発症リスクは発端者の両親の遺伝状況に基づく.両親の1人が罹患者であれば,その血縁者には発症リスクがある.
遺伝カウンセリングに関連した問題
その他の血縁者の発症リスクは発端者の両親の遺伝状況に基づく.両親の1人が罹患者であれば,その血縁者には発症リスクがある.遺伝カウンセリングに関連した問題 早期診断や早期治療目的の発症リスクを有する血縁者への検査に関する情報は,「臨床的マネジメント」,「発症リスクのある血縁者への検査」の項を参照のこと.
見かけ上新生突然変異を持つ家系への配慮. 常染色体優性疾患の発端者の両親のどちらも疾患原因の生殖細胞系変異が認められず,疾患の臨床症状がない場合,発端者が新生突然変異を有している可能性がある.しかし,父親や母親が異なる場合(生殖補助医療など)や,公開されていない養子縁組といった医学的でない原因も検討する必要がある.
家族計画
DNAバンク DNAバンクは,将来の使用のために,通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.ことに現在行っている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患に関してはDNAの保存は考慮すべきかもしれない.このサービスを行っている機関についてはを参照のこと.
出生前診断
発症リスクの高い妊娠に対する出生前診断は,通常胎生週数15~18週頃に実施される羊水検査や胎生週数10~12週頃に実施される絨毛生検(CVS)により採取された胎児細胞のDNA分析により可能である.出生前診断の実施以前に,家系内患者の疾患原因アレルが同定されていることが条件である.
注:胎生週期とは最終月経の第1日から換算するか,超音波による計測によって算出される.
何らかの治療法があり,知能障害をもたらすことも寿命を短縮させることもないRASA1関連疾患のような疾患に対する出生前診断の希望は多くない.出生前診断を行うことに対しては,専門医のあいだでも家族によっても考え方が異なるだろう.特に,検査が妊娠中絶を考慮したうえで行われる場合にはなおのことである.たいていの医療機関では出生前診断を受けるかどうかの決定は両親の選択に委ねると考えるであろうが,これらの点に関して話し合うことが適切である.
着床前診断(PGD)は事前に疾患原因遺伝子変異が同定されている家系では実施可能である.着床前診断を行っている施設に関しては参照のこと.
注:GeneTests Laboratory Directoryの掲載施設で実施可能な臨床検査を載せることがGeneReviewsの方針である.ここで掲載されている検査は必ずしも著者や編集者や審査者の推奨を反映するものではない.
Gene Review著者: Pinar Bayrak-Toydemir, MD, PhD, FACMG, David Stevenson, MD
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
Gene Review 最終更新日: 2011.2.22. 日本語訳最終更新日: 2011.4.24.
原文 Capillary Malformation-Arteriovenous Malformation Syndrome