GeneReviews著者: Cathy A Stevens、 MD.
日本語訳者:小崎 里華 (国立成育医療研究センター 遺伝診療科)
GeneReviews最終更新日: 2019.8.22. 日本語訳最終更新日: 2021.5.18.
疾患の特徴
ルビンスタイン・テイビ症候群 (以下RSTS)は特徴ある顔貌、幅広く、しばしば偏位した母指趾、低身長、中等度~重度の精神遅滞を特徴とする症候群である。顔貌の特徴として、眼瞼裂斜下、鼻翼より下方に伸びた鼻柱(鼻中隔下端)、高口蓋、しかめっつらの笑顔、切歯結節がある。胎児期の成長は正常であるが、生後数ヶ月で、身長、体重および頭囲のパーセンタイルは急速に低下する。成人期には、通常低身長である。小児期または青年期に肥満になる可能性がある。 IQスコアは平均35~50であるが、発達の転帰は相当に様々である。EP300変異のRSTSの一部の方は知能正常である。その他の症状として、眼科疾患、難聴、呼吸困難、先天性心疾患、腎奇形、停留精巣、摂食障害、繰り返す感染症や重度の便秘がある。
診断・検査
RSTSの診断は発端者の特徴的な臨床所見によって診断する。臨床的所見が決定的でなければ、CREBBPまたはEP300 のヘテロ接合の病的ヴァリアントの同定による。
臨床的マネジメント
症状の治療:
早期教育プログラム、特殊教育、発達障害児に対応した職能訓練および行動異常の専門家、心理士、サポートグループ他の機関を家族に紹介; 眼科的異常、難聴、無呼吸、心疾患、腎奇形、停留精巣、歯の異常に対する標準治療;胃食道逆流症および便秘に対する積極的治療、著しく偏位した親指や重複母趾に対する外科的治療
サーベイランス:
特に生後1年間は成長および食事の経過観察、年1度の視力・聴力の検査、定期的な心臓、腎臓、歯の観察
遺伝カウンセリング
RSTSは常染色体優性遺伝形式である。RSTS は典型的に、家族内の新生病的ヴァリアントとして発症する。ほとんどの患者が孤発例である (家族内で唯一、罹患している)。ほとんどの症例で、RSTS患者の両親は罹患していない。両親が臨床的に非罹患でも、親の体細胞または生殖細胞系列のモザイクによりヘテロ接合体をもつ片親は、症状は軽度であり、同胞がRSTSである可能性はある。同胞の経験的再発リスクは1%以下である。RSTS患者が、子どもを産むことは稀であるが、理論的罹患率は50%である。家系内の患者で病的ヴァリアントが同定された場合、リスクの高い妊娠に対する出生前診断は可能である。
臨床診断
図1 RSTSの顔貌上の特徴。アーチ状の眉、眼瞼裂斜下、鼻翼より下方に伸びた鼻柱、しかめっつら笑顔 |
図2A 幅広の指節骨 |
図3 幅広く、部分的に重なる親指 |
成長
知的障害
平均IQスコアは35~50の範囲である。しかし、発達の転帰は、相当に様々である。一部のEP300変異のRSTSは知能正常である。
分子遺伝学的検査
RSTSの診断は上記の臨床診断による。臨床的所見が決定的でない場合、CREBBPまたはEP300 のヘテロ接合の病的ヴァリアントの同定により確定診断できる。
分子遺伝学的解析は症状によって、ターゲット遺伝子(単一遺伝子、多遺伝子パネル、マイクロアレイ染色体検査)検査や包括的ゲノム検査(エクソームシーケンシング、エクソームアレイ、ゲノムシーケンシング)を実施する。ターゲット遺伝子検査は、臨床家がどの遺伝子を含むかを決定するが、包括的ゲノム検査は、その必要はない。RSTSの症状は幅広く、臨床的症状が特有であれば、ターゲット遺伝子検査(オプション1参照)を用いて診断し、低身長かつ/または知的障害などの多くの遺伝性疾患と鑑別が困難な表現型であればゲノム検査(オプション1参照)によって診断する
オプション1
表現型および検査所見がRSTSの診断を示唆する場合、分子遺伝学的検査アプローチには、単一遺伝子検査または複数遺伝子パネルの使用が含まれる。染色体マイクロアレイ解析は、いくつかの状況で有用な場合がある。
オプション2
表現型が低身長および/または知的障害を特徴とする他の多くの遺伝性疾患と区別がつかない場合、包括的なゲノム検査(臨床医がどの遺伝子が関与しているかを判断する必要がない)は、もう一つの選択肢になる。エクソームシーケンスが最も一般的に使用される。ゲノム配列解析も可能。
エクソンシーケンシングで診断に至らない場合、特に常染色体優性遺伝が示唆されれば、配列解析では検出できない(複数)エクソン欠失または重複の検出可能なエクソンアレイ(臨床的に利用可能な場合)を考慮してもよい。
表1 ルビンスタイン・テイビ症候群で実施される分子遺伝学的検査
遺伝子1、2 | 病的ヴァリアントがRSTSに関与する割合 | 病的ヴァリアント3を同定できる割合 | |
---|---|---|---|
シーケンス解析4 | 遺伝子ターゲット 欠失/重複解析5 |
||
CREBBP | 50~60%6 | ~80% | ~20%7 |
EP300 | 8~10%8 | >99% | <1% |
不明10 | ~30% | NA |
検査の実施に関してはGeneTests Laboratory Directoryを参照のこと。GeneReviewsは、分子遺伝学的検査について、その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り、臨床的に実施可能としている。 GeneTestsは研究機関から提出された情報の検証や、研究機関の承認状態もしくは実施結果の保証は行わない。情報を検証するためには、医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとる必要がある。
自然経過
ルビンスタイン・テイビ症候群(RSTS)は、特徴的な顔貌と手足の所見により生後間もなく気づかれることが多い。乳児期早期には呼吸困難、摂食障害(哺乳困難)、体重増加不良、反復性感染、便秘などが問題となる。通常、中等度の知的障害を認める。
成長:出生前の成長は通常正常であるが、生後1年内に成長障害を生じる。通常、思春期には成長スパートは認めない。BMIは21歳の男性では正常だが、女性では増加している。多くの成人が肥満である [ Stevenset al 2011 ]。成人男性の平均身長は162.6cm、成人女性の平均身長は151.0cm[ Beets et al2014 ]。Beets et al [2014]は、RSTSの成長曲線を公開している。
眼:斜視、屈折異常、眼瞼下垂、鼻涙管閉塞、白内障、コロボーマ、眼振、緑内障、角膜異常が見られる。
難聴:再発または難治性の中耳疾患は、伝音難聴を引き起こす可能性がある。感音性難聴もある。
呼吸器:閉塞性無呼吸はしばしば考慮すべき問題となる。これは狭い口蓋、小顎、筋緊張低下、肥満、喉頭壁の易虚脱性等が原因で生じる。挿管と麻酔の合併症の発生が報告されている。誤嚥、喘息、および再発性上気道感染症も生じる可能性がある。
心臓:約1/3にさまざまな先天性心疾患を合併する(例 心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存症、大動脈縮窄症
肺狭窄症、二尖大動脈弁、偽性動脈症、大動脈弁狭窄症、血管輪、伝導障害)。
泌尿生殖器:水腎症や重複尿管などの腎臓の異常は非常に一般的である。その他の泌尿生殖器の合併症には、尿道下裂、
胱尿管逆流、腎結石症および尿路感染症が含まれる。ほとんどすべての男児は停留精巣を有する。
消化器:摂食障害、胃食道逆流症、便秘が一般的。胆汁性嘔吐、再発性腹痛、便の通過障害または血便がある場合は、回転異常を疑うべきである[Stevens 2015]。
整形外科:著しく偏位した母指と重複した母趾に加えて、整形外科的には、膝蓋骨脱臼、関節弛緩、脊椎わん曲、レッグペルテス病、大腿骨頭すべり症、頸椎の異常などがある。
神経:キアリ奇形、脊髄空洞症、歯突起骨および頸髄圧迫を含む頭蓋脊髄および後頭蓋窩異常が時折。報告されている [ Marzuillo et al2013 ]。脊髄係留または脂肪腫もある。けいれんまたは異常EEG所見が認めることがある。
歯:歯の叢生、不正咬合、複数の齲歯、乏歯、過剰歯、魔歯、永久歯の上顎切歯
皮膚:ほんのわずかな外傷でもケロイドを生じることがある。石灰化上皮腫が報告されている。
繰り返す感染症:中耳炎、肺炎、およびその他の呼吸器感染症などが報告されている。体液性または細胞性免疫不全の報告あり。
腫瘍:神経芽細胞腫、胎児型横紋筋肉腫、髄芽腫、悪性血液疾患など様々な腫瘍の合併報告がある。最近のオランダ人のRSTSを対象とした研究では、悪性腫瘍のリスクの増加は確認されていない。但し、髄膜腫と毛母腫の有意な発生率の上昇を認めた[ Boot et al2018 ]。現在、腫瘍について標準的なスクリーニング手順はない。
思春期:思春期および性的発達は正常である。
発達と知能:RSTSの小児は通常、発達の遅れを認める。ある研究では、独歩獲得は平均30カ月、始語獲得は平均25カ月、トイレトレーニングは平均62カ月であった。言語発達の遅れは90%の児で見られ、一部ほとんど言葉を話さない者も一部いる。Waite et al [2016]は、言語的および視覚空間的作業記憶の欠如を指摘している。ある研究では、平均IQは51、他の研究では36であった。IQスコアは25~79の範囲である。動作性IQは言語性IQより高くなることが多い。EP300-RSTSの一部の人は知能正常であった[ Fergelotet al2016 ]。RSTSの成人を対象とした研究では、家族は、社会的相互作用の減少、限られた会話、持久力やスタミナと移動の低化など、時間の経過とともに能力の32%低下を報告した[ Stevens et al2011 ]。
行動:衝動性、注意散漫性、気分の不安定性、および常同行動が頻繁に観察される[ Verhoeven et al2010 ]。その他の行動異常には、注意欠陥、多動性、自傷行為、攻撃的な行動などがある。RSTSの成人の約62%が自閉症様の行動、3分の1の人が理由のない恐れや不安を有してした[ Stevens et al2011 ]。同じものや質問の繰り返しにこだわりがあるかもしれない[ Waiteet al2015 ]。Crawford et al [2017]は、パニック発作、広場恐怖症、強迫性障害のレベルが高いことを指摘した。
遺伝子による表現型っとの関連
EP300の病的ヴァリアントは、 CREBBP -RSTSに似た表現型を生じる。ただし、垂れ下がったコルメラを除いて、 EP300 -RSTSの顔の特徴はあまり目立たない。親指と母趾は幅広いが、偏位した母指は非常にまれである。知的障害はさまざまで、通常はそれほど重度ではなく、時には正常である [ Fergelot et al2016 ]。
遺伝子型と臨床型の関連
Stef et al [2007]は、 CREBBP欠失の大きさによる表現型の違いを認めなかった。Rusconi et al [2015]は、単一のエクソン欠失から遺伝子全体および隣接領域に至るまでのCREBBP欠失の14人について報告した。CREBBP含む欠失の場合、CREBBPミスセンス変異よりも必ずしも常に重度の表現型を呈するとは限らないと記していた。Spena et al [2015]は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼドメイン外の病的ヴァリアントは軽度な表現型と関連する可能性を示唆した。体細胞モザイクは、より軽度の表現型を呈する可能性がある [ Gervasini et al 2007、Chiang et al2009 ]。
CREBBPを含む遺伝子欠失ついては、遺伝的に関連疾患を参照。
Gervasini et al [2007] and Schorry et al [2008]によってモザイク微小欠失が報告されている。モザイク微小欠失を有する患者は非モザイク欠失の患者より低い重症度の表現型を呈する傾向であった。
有病率
Hennekam et al [1990b]は、オランダのRSTSの出生率が1:100,000から1:125,000であると報告している。RSTSは汎民族的でみられる。
CREBBPの微細重複
この疾患は、ルビンシュタイン・テイビ症候群(RSTS)と表現型のわずかな重なりを認め、軽度から中等度の知的障害、正常な成長、顔貌の奇形(RSTSの顔貌奇形とは異なる)、軽度の四肢異常、およびその他のさまざまな症状を呈する [ Marangi et al 2008、Thienpont et al 2010、Mattina et al 2012、Demeer et al2013 ]。
遺伝子内CREBBPおよびEP300病的ヴァリアント
生殖細胞系のCREBBPおよびEP300の病的ヴァリアントは、Menke-Hennekam症候群(OMIM 618332および618333)に関連している。これは、CREBBPのエクソン30の最後の部分またはエクソン31の最初の部分またはEP300の相同領域のミスセンス変異によって生じる。Menke-Hennekam症候群では、RSTSに特徴的な顔貌や広い/偏位した母指や母趾を共有していない。顔の特徴には、眼瞼下垂、眼角隔離、短く上斜めの眼瞼裂、平坦な鼻隆起、短い鼻、上向き鼻孔、短い鼻中隔、および長い人中を呈する。その他の特徴には、低身長、知的障害、小頭、摂食困難、けいれん、自閉症行動、およびその他のさまざまな所見がある[ Menke et al 2016、Menke et al 2018、Banka et al2019 ]。
特徴的顔貌および手足の異常からRSTSの診断は容易である。
幅広く、偏位した母指趾はFGFR関連の頭蓋骨癒合症(Pfeiffer症候群およびApert症候群)、Saethre-Chotzen症候群、Greig頭蓋多合指症候群においてもみられる。頭蓋骨癒合の有無や顔貌の特徴からこれらの疾患と鑑別する(表2参照)
表2 ルビンシュタイン・テイビ症候群(RSTS)の鑑別診断における他の関連遺伝子
遺伝子 | 鑑別診断する疾患 | 遺伝様式 | 鑑別診断する疾患の臨床的特徴 | |
---|---|---|---|---|
オーバーラップとRSTS | RSTSとの区別 | |||
FGFR1 FGFR2 |
ファイファー症候群およびアペール症候群(FGFR関連の頭蓋骨癒合症症候群を参照) | AD | 広い/偏位した母指と母趾 |
|
TWIST1 | 古典的なSaethre-Chotzen症候群 | AD | 広い/偏位した母指と母趾 |
|
GLI3 | 典型的なGreigcephalopolysyndactyly症候群(GCPS) | AD | 広い/偏位した母指と母趾 |
|
HOXD13 | 短指症タイプD (OMIM 113200) |
AD | 片側または両側親指の末節骨の短縮 | 他の症状は認めない(孤発の所見として幅広の親指) |
SRCAP 1 | Floating-Harbor 症候群 | AD |
|
|
AD =常染色体優性遺伝; DD =発達遅延; DiffDx =鑑別診断; ID =知的障害; OFC =後頭前頭周囲
Keipert症候群は、幅広い親指と母趾を特徴とするが、難聴と特徴的な顔の特徴によって鑑別される。Keipert症候群の遺伝的原因は不明(OMIM255980)。
ルビンスタイン・テイビ症候群(RSTS)と診断された患者の疾患の程度と必要性おいて、表3にまとめられた評価項目(診断の評価の一部として実行されていない場合)を推奨する。[Wiley et al 2003]:
表3
ルビンシュタイン・テイビ症候群の個人における初期診断後の評価の推奨
臓器関連 | 評価 | コメント |
---|---|---|
神経 | 脊髄係留のスクリーニングのため新生児期の脊柱管の超音波検査 | 症状がある年長の子供の場合は脊柱管MRI実施すべきである。 |
体格 | 成長の測定 | RSTS成長チャートに数値をプロットする。 |
神経発達 | 集学的な発達および/または神経心理学的評価 | 評価:粗大・微細運動、音声/言語、認知、および職業能力; 行動。 |
眼科 | 眼科検査 | 斜視、屈折異常、眼瞼下垂、鼻涙管閉塞、白内障、コロボーマ、眼振、緑内障、および角膜異常について評価する。 |
聴力 | ヒアリング評価 | 推奨:聴覚脳幹誘発反応検査(評価の詳細は、遺伝性難聴と難聴の概要を参照) |
肺 | 睡眠ポリグラフによる閉塞性睡眠時無呼吸の評価 | いびき、特定の睡眠姿勢、夜間覚醒、および日中の過度の眠気がある場合 |
心臓 | 心エコー | 心臓専門医による心臓構造異常の評価 |
泌尿生殖器 |
|
停留精巣については泌尿器科医に6〜12カ月までに相談 |
胃腸 |
|
回転異常の症状がある場合は上部消化管検査 |
整形外科 | 親指と母趾、関節、脊椎の評価 | |
歯科/歯科矯正 | 歯科および歯列矯正の評価 | |
その他 | 臨床遺伝医および/または遺伝カウンセラーへのコンサルト |
VCUG =排尿膀胱尿道造影
表4
ルビンシュタイン・テイビ症候群における症状の治療
症状関連 | 治療 | 考慮事項/ その他 |
---|---|---|
発達と行動関連 |
|
家族に支援グループやその他の資源を紹介 |
眼の症状 | 眼科医による標準治療 | |
難聴 | 聴覚訓練士による標準治療 | |
閉塞性睡眠時無呼吸 | 呼吸器科医による治療 | |
心臓の異常 | 心臓病専門医による標準治療 | |
腎臓の異常 | 腎臓内科医および/または泌尿器科医による標準治療 | |
停留精巣 | 泌尿器科医による標準治療 | |
胃食道逆流症および/または便秘 |
|
|
著しく偏位した母指または重複母趾 | 整形外科医による外科的修復 | |
歯の異常 | 歯科医および/または歯科矯正医による標準治療 |
二次病変の予防
RSTS患者は、喉頭壁が易虚脱性のため、挿管が難しい。複雑な小児の気道問題の管理に慣れた麻酔科医が、必要に応じて全身麻酔を管理すべきである。これらの問題のため、RSTS患者は同様の施術下で他の患者より、早期の挿管および後の抜管になることがある。
サーベイランス
表5
ルビンシュタイン・テイビ症候群に推奨されるサーベイランス
臓器関連 | 評価 | 頻度 |
---|---|---|
成長 | RSTS成長曲線を用いて体重と成長を観察記録。 | 1歳までは頻回、その後は定期的にチェック |
眼の症状 | 眼科的評価 | 毎年または必要に応じて |
難聴 | 聴力評価 |
|
歯の異常 | 歯科および歯列矯正の評価 | 1歳から。6か月ごとに、または歯科医/歯科矯正医により継続 |
リスクのある親族の検査
リスクのある親族への検査に関する事柄等は「遺伝カウンセリング」の項を参照。
妊娠管理
EP300 -RSTSの胎児を有した母52人中12人とCREBBP -RSTS胎児を有した母 59人中2人に子癇前症を認めた [ Fergelotら、2016 ]。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
ルビンスタイン・テイビ症候群(RSTS)は常染色体優性遺伝形式である。
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の同胞に対するリスクは、発端者の両親の遺伝的状態による
発端者の子
RSTSの子供は、RSTS関連の病的ヴァリアントを引継ぐ可能性が50%ある [ Cotsirilos et al 1987、Hennekam et al 1989、Marion et al 1993、Petrij et al 2000、Bartsch et al2010 ]。
他の家族構成員
発端者の他の家族へのリスクは、発端者の両親の遺伝的状態による:親が病的ヴァリアントを有する場合、彼または彼女の家系員は罹患リスクの可能性がある。
遺伝カウンセリングに関連した問題
家族計画
DNAバンキング
DNAバンクは主に白血球から抽出したDNAを将来の使用のために保存しておくものである。検査法や遺伝子、遺伝子変異や疾患に対する知識が進展する可能性があり、罹患者のDNAの保存は検討する必要がある。
出生前診断と着床前診断
罹患した家系員でRSTSの原因となる病的ヴァリアントが同定されると、リスクが高い妊娠の出生前検査と、RSTSの着床前遺伝子検査が可能になる。
先験的な低リスク妊娠。RSTSは通常、出生前超音波では診断されない。ただし、定期的な出生前超音波検査では、成長障害、羊水過多症、幅広の親指、脳の異常など、遺伝的リスクが高くない胎児において、RSTSの可能性がある所見を検出する可能性はある [ Van-Gils et al2019 ]。
医療専門家間および家族内で、出生前検査について、見解の相違が生じる可能性がある。多くの医療機関では出生前検査を個人的意思決定とみなすが、これらの問題について議論することは有用であろう。
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分子遺伝学
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表 A ルビンシュタイン・テイビ症候群:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体座位 | タンパク質 | 遺伝子座固有のデータベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
CREBBP | 16p13.3 | CREB結合タンパク質 | CREB Binding Protein (CREBBP) @ LOVD | CREBBP | CREBBP |
EP300 | 22q13.2 | ヒストンアセチルトランスフェラーゼp300 | E1A binding protein p300 (EP300) @ LOVD | EP300 | EP300 |
データは、次の標準参照から編集されている:HGNCからの 遺伝子; OMIMからの 染色体座位遺伝子座; UniProtからのタンパク質。
表B ルビンシュタイン・テイビ症候群のOMIMエントリー
180849 | RUBINSTEIN-TAYBI SYNDROME 1; RSTS1 |
600140 | CREB-BINDING PROTEIN; CREBBP |
602700 | E1A-BINDING PROTEIN, 300-KD; EP300 |
613684 | RUBINSTEIN-TAYBI SYNDROME 2; RSTS2 |
CREBB結合タンパク質(CREBBP)は一様に発現しており、多くの異なる転写因子の転写共活性化に関与している。内在性のヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)活性を有し、クロマチンリモデリングを介して転写複合体とのタンパク質相互作用を安定化する足場として機能する。CREBBPは、細胞増殖制御、細胞分化、アポトーシス、腫瘍抑制などの細胞経路に影響を与える多くの遺伝子の発現を調節している[ Negri et al2016 ]。CREBBPの生殖細胞系病的ヴァリアントは、短縮型またはアミノ酸置換のCREB結合タンパク質になる。HATドメインの病的ヴァリアントは転写活性化の重要な段階であるヒストンのアセチル化を抑制する。CREBBPは、多くのヒトの癌で制御する働きをする腫瘍抑制系であるp53もアセチル化する。
EP300は、アミノ酸レベルでCREBBPと63%の相同性を共有するp300転写コアクチベータータンパク質をコードする。HATとして、クロマチンリモデリングを介して転写を調節し、細胞の増殖と分化に重要な役割を果たす。病的ヴァリアントは、短縮したp300タンパク質または対立遺伝子発現の消失をもたらし、HAT活性を不活化する可能性がある。
疾患の発症機構。疾患の発症機構はほとんど解明されていない。ハプロ不全とドミナントネガティブ阻害の2つのモデルが提唱されている[ Park et al2014 ]。
GeneReviews著者: Cathy A Stevens、 MD.
日本語訳者:小崎 里華 (国立成育医療研究センター 遺伝診療科)
GeneReviews最終更新日: 2019.8.22. 日本語訳最終更新日: 2021.5.18.[in present]