シトステロール血症
(Sitosterolemia)

[Synonyms:βシトステロール血症、フィットステロール血症、植物ステロール血症 (Beta-Sitosterolemia, Phytosterolæmia, Phytosterolemia, Sitosterolæmia)]

Gene Review著者: Semone B Myrie, PhD, Robert D Steiner, MD, and David Mymin, MBBCh, FRCP.
日本語訳者: 清水 日智(社会福祉法人恩賜財団済生会支部済生会長崎病院 小児科,長崎大学病院小児科)   
Gene Review 最終更新日: 2020.7.16. 日本語訳最終更新日: 2020.9.18.

原文 Sitosterolemia


要約

疾患の特徴 

シトステロール血症は以下の特徴を有する。

場合によっては、血液検査の異常が初期症状であったり、本疾患の唯一の臨床症状であったりすることもある。関節炎、関節痛、および脾腫がみられることがあり、「特発性」肝疾患が未診断のシトステロール血症であったのだろうと結論づけている報告も1件存在する。シトステロール血症の臨床スペクトラムは、未診断例が存在すること、乳児における表現型が食事内容に大きく左右されるであろうことから、おそらく完全には理解されていない。

診断・検査 

シトステロール症の患者では、植物ステロール (特にシトステロール、カンペステロール、スティグマステロール) の血漿濃度上昇を認める。これは植物ステロールを含む植物由来の食品を摂取し、体内に植物ステロールが蓄積された状態を反映している。血漿中の植物ステロール濃度が著明に増加しており、さらに/または、ABCG5もしくはABCG8、またはこれら両遺伝子に病原性変異を両アレル性に認めた場合に、シトステロール血症の診断は確立される。

臨床的マネジメント 

症状に応じた治療:
治療は診断時から開始すべきであるが、2歳未満の小児の治療経験はほとんどない。治療により、血漿中のコレステロール値およびシトステロール値を10%~50%低下させることができる。多くの場合、黄色腫は治療により退縮する。治療として、ステロール吸収阻害薬であるエゼチミブ (ezetimibe) に加え、貝類のステロールや植物ステロール (植物油、マーガリン、ナッツ、種子、アボカド、チョコレート) の少ない食事を摂取することが求められる。エゼチミブに対する治療反応性が十分ではない場合、コレスチラミンなどの胆汁酸吸着療法が考慮される。最大限の治療を行っても治療反応性が悪い場合には最後の手段として、部分的な回腸バイパス手術を検討してもよい。関節炎、関節痛、貧血、血小板減少症、脾腫について治療を必要とする場合、初めに行うべき事は高シトステロール血症の管理であり、続いて一般的な対症療法を行うことが推奨される。

サーベイランス:
診断時および年に1回実施すべき検査は以下の通りである: 血漿植物ステロール (主にβ-シトステロールおよびカンペステロール) 値の測定; 血漿コレステロール値の測定、黄色腫のサイズ、数および分布の確認; 血小板数を含む全血球計算; 肝トランスアミナーゼ値の測定 (上昇している場合)。長期にわたり未治療のシトステロール血症患者では、冠動脈および頸動脈プラーク、および動脈硬化性の弁膜症の合併を除外するために非侵襲的画像検査が必要となる。
避けるべき薬物・状況: 高コレステロール血症患者向けのマーガリンや、その他のスタノール (カンペスタノール、シトスタノールなど) を含む製品は、植物スタノールの体内蓄積を悪化させる可能性があるため禁忌である。

リスクのある血縁者の評価:
リスクのある血縁者を早期に診断するには、血漿植物ステロール値を測定するか、分子遺伝学的検査 (家族固有の病原性変異が判明している場合) を行うことで、早期に治療とサーベイランスを実施し、不幸な転機を防ぐことができる。

妊娠管理:
妊娠中の女性に対するエゼチミブの十分な対照研究は存在しない。すなわち、妊婦に対するエゼチミブの使用は、潜在的な利益が胎児へのリスクを正当化する場合にのみ行われる。エゼチミブの胎児に対する影響を調査した研究は報告がなく、妊婦に対しては注意して使用する必要がある。

遺伝カウンセリング 

シトステロール血症は常染色体劣性遺伝形式をとる。受胎時には、罹患者の同胞はそれぞれ、罹患する確率が25%、無症候性保因者である確率が50%、そして罹患しておらず保因者でもない確率が25%である。ヘテロ接合性に変異を持つ場合 (保因者) は無症状ではあるが、時折、血漿シトステロール値の軽度上昇を認める。シトステロール血症の原因となる病原性変異が家系内で罹患者において同定された場合、リスクのある血縁者に対し保因者検査、リスクの高い妊娠に対する出生前診断、着床前遺伝子検査が可能となる。


診断

シトステロール血症の正式な診断基準は確立されていない。

疑うべき所見

以下の所見を有する患者ではシトステロール血症を疑うべきである。

注:血液学的異常は、初期症状である場合もあれば [Rees et al 2005, Su et al 2006]、シトステロール血症の唯一の臨床的特徴である場合もある [Wang et al 2011]。
注:シトステロール血症の完全な臨床スペクトラムは、未診断例が多く存在するため、おそらく完全に理解されていない。さらに、乳児の表現型は食事内容に大きく依存していると思われる。

診断の確立

発端者において血漿中の植物ステロール値が著しく上昇した場合で、さらに/または表1に記載されている遺伝子のうちの1つまたは両方に病原性変異が両アレル性に同定された場合にシトステロール血症と診断される。
血漿中の植物ステロール値の測定 シトステロール症を有する患者は、血漿中の植物ステロール値 (特にシトステロール、カンペステロール、およびスティグマステロール) が大幅に上昇している。貝類由来のステロールも上昇することがある。

注: (1) シトステロール血症患者では、先天的に植物ステロール輸送体であるステロリン-1 (sterolin-1、ABCG5遺伝子がコードする) 及びステロリン-2 (sterolin-2、ABCG8遺伝子がコードする) に異常があるが、シトステロールをはじめとする植物ステロールの血漿濃度の上昇は、植物由来食品 (植物ステロールを含む) の摂取を開始し、植物ステロールが体内に蓄積されるまでは生じない。したがって、GC、GC/MS、HPLC、またはLC-MS/MSを用いて血漿シトステロール値を測定しても、小児においては植物油を含む食品を摂取するまでは、シトステロール血症の診断を除外することはできない。粉ミルク栄養の乳児の血漿コレステロール値および植物ステロール値は高値をとる場合がある。 (2) 脂質の経静脈投与を含む中心静脈栄養は植物ステロールを含んでいることが多いため、このような状況下においてシトステロール血症と診断することには注意が必要である。 (3) 母乳栄養を受けているシトステロール血症の乳児は、離乳食が開始されるまで植物ステロール値の上昇を認めない傾向がある [Rios et al 2010] 。注目すべきことに、生後3ヶ月のシトステロール血症を有する母乳栄養中の乳児1名において、血漿シトステロール値の上昇が認められたとの報告がある [Niu et al 2010] 。
偽陽性となる場合は以下の通りである:

偽陰性となるのは以下の通りである:

注: (1) 一般に、血漿コレステロール値はシトステロール血症の診断根拠とならない。なぜならば、シトステロール血症患者において血漿コレステロール値は正常値となりえるし、多くの一般的な疾患において血漿コレステロール値の上昇が認められるためである。 (2) シトステロール血症患者において、小児期の血漿コレステロール値は、ホモ接合性家族性高コレステロール血症で見られるほどの高値を取ることがある [Togo et al 2009, Niu et al 2010, Rios et al 2010, Renner et al 2016] 。

分子遺伝学的検査のアプローチは、患者の表現型に応じて、遺伝子標的検査 (マルチ遺伝子パネル)と包括的ゲノム検査 (エクソームシーケンス法、エクソームアレイ法、ゲノムシーケンス法) を組み合わせて行われる。
遺伝子標的検査では、臨床医がどの遺伝子が関与している可能性が高いかを判断する必要があるが、ゲノム検査ではその必要はない。疑うべき所見に記載されている特徴的な所見を有している患者は、遺伝子標的検査 (オプション1参照) において診断される可能性が高く、一方で、シトステロール血症の診断が疑われていない患者は、ゲノム検査 (オプション2参照) で診断される可能性が高い。

オプション1

表現型および検査所見がシトステロール血症を示唆する場合、分子遺伝学的検査のアプローチとしてマルチ遺伝子パネルが用いられる。ABCG5またはABCG8とその他の関連のある遺伝子を含むパネル (鑑別診断を参照) は、最も合理的なコストで病態の遺伝的原因を同定できる可能性が高く、更に、意義不明の変異が同定されてしまったり、患者の表現型を説明できない遺伝子において病原性変異が同定されてしまったりすることを防ぐことができる。注: (1) パネルに含まれる遺伝子および各遺伝子に用いられる検査の診断感度は検査施設によって異なり、時代とともに変化する可能性がある。 (2) 多遺伝子パネルの中には、当サイト (GeneReview) で議論されている病態と関連しない遺伝子を含むものもある。 (3) 検査室によっては、パネルのオプションとして、臨床医が指定した遺伝子を含む、検査室で設計したカスタムパネルおよび/または表現型に焦点を当てたカスタムエクソーム解析が含まれている場合がある。 (4) パネルで使用される方法にはシーケンス解析、欠失/重複解析、および/または他のシーケンス解析に基づかない手法による検査が含まれる。シトステロール血症においては、欠失/重複解析を含むマルチ遺伝子パネルの使用が推奨される (1参照) 。
マルチ遺伝子パネルの紹介についてはここをクリックのこと。臨床医が遺伝子検査を注文するためのより詳細な情報は、ここをクリックのこと。

オプション2

患者の表現型や検査所見が非典型的であった場合はシトステロール血症が鑑別疾患として挙げられないが、この場合は包括的ゲノム検査が用いられ、この検査においてはどの遺伝子が関与している可能性が高いかを臨床医が判断する必要がない。エクソーム解析が最も一般的に用いられるものの、全ゲノム解析も可能である。
もしもエクソーム解析によって診断に至らなかった場合には、シーケンス解析では検出できない (複数の) エクソンの欠失や重複を検出するために、 (臨床的に利用可能な場合には) エクソームアレイを検討することがある。
包括的ゲノム検査の紹介についてはここをクリックのこと。ゲノム検査をオーダーする臨床医のためのより詳細な情報はここをクリックのこと。

表1. シトステロール血症で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1,2 遺伝子の病原性変異に起因するシトステロール血症の割合 各手法における病原性変異の検出可能割合3
シーケンス解析4 遺伝子を標的とした欠失重複解析5/td>
ABCG5 42% 95%&6 不明7,8
ABCG8 58% 95%6 不明7,8
  1. 遺伝子はアルファベット順に記載されている。
  2. 染色体座とタンパク質については、A. 遺伝子とデータベースを参照のこと。
  3. これらの遺伝子から検出された対立遺伝子変異については、分子遺伝学的検査を参照のこと。
  4. シーケンス解析は、良性、良性の可能性が高い、意義不明、病原性の可能性が高い、または病原性のある変異を検出する。病原性変異には、小さな遺伝子内欠失/挿入、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライスサイト変異が含まれることがあり、通常、エクソンまたは全遺伝子の欠失/重複は検出されない。シーケンス解析結果を解釈する際に考慮すべき事項については、こちらを参照のこと。
  5. 遺伝子を標的とした欠失/重複解析は、遺伝子内欠失または重複を検出する。定量PCR、ロングリードPCR、MLPA法 (multiplex ligation-dependent probe amplification) 、単一エクソン欠失や重複を検出するために設計された遺伝子標的マイクロアレイなどの方法がある。
  6. 40本の論文をもとに計算された [Berge et al 2000、Hubacek et al 2001、Lu et al 2001、Heimerl et al 2002、Sehayek et al 2004、Wang et al 2004、Wilund et al 2004、Rees et al 2005、Solcà et al 2005、Su et al 2006、Kratz et al 2007、Mannucci et al 2007、Togo et al 2009、Niu et al 2010、Rios et al 2010、Tsubakio-Yamamoto et al 2010、Keller et al 2011、Wang et al 2011、Chong et al 2012、Horenstein et al 2013、Colima Fausto et al 2016、Rodriguez et al 2016、Tada et al 2016、Bardawil et al 2017、Bastida et al 2017、Buonuomo et al 2017、Jamwal et al 2017、Ono et al 2017、Yagasaki et al 2017、Brinton et al 2018、Fang et al 2018、Kawamura et al 2018、Martin et al 2018、Tada et al 2018、Huang et al 2019、Su et al 2019、Tada et al 2019、Veit et al 2019、Wang et al 2019、Sun et al 2020]。
  7. 遺伝子を標的とした欠失・重複解析の検出率のデータは存在しない。
  8. ABCG5またはABCG8の欠失または重複は、シトステロール血症の原因となるか否かについては報告されていないが、罹患した患者においてABCG5またはABCG8に1つの病原性変異が同定されている場合、理論的には他方の対立遺伝子の欠失によって説明されるであろう [Lu et al 2001]。

臨床的特徴

疾患の説明

これまでに、ABCG5および/またはABCG8に両アレル性病原性変異を有する約110人の患者が報告されている [Berge et al 2000、Hubacek et al 2001、Lu et al 2001、Heimerl et al 2002、Sehayek et al 2004、Wang et al 2004、Wilund et al 2004、Rees et al 2005、Solcà et al 2005、Su et al 2006、Kratz et al 2007、Mannucci et al 2007、Togo et al 2009、Niu et al 2010、Rios et al 2010、Tsubakio-Yamamoto et al 2010、Keller et al 2011、Wang et al 2011、Chong et al 2012、Horenstein et al 2013、Colima Fausto et al 2016、Rodriguez et al 2016、Tada et al 2016、Bardawil et al 2017、Bastida et al 2017、Buonuomo et al 2017、Jamwal et al 2017、Ono et al 2017、Yagasaki et al 2017、Brinton et al 2018、Fang et al 2018、Kawamura et al 2018、Martin et al 2018、Tada et al 2018、Huang et al 2019、Su et al 2019、Tada et al 2019、Veit et al 2019、Wang et al 2019、Sun et al 2020]。本疾患に関連する表現型の特徴に関する以下の記述は、これらの報告に基づいている。

臨床所見 シトステロール血症患者の臨床所見は、黄色腫およびアテローム性動脈硬化症とその合併症を伴うケースから、特異的な症状や徴候がほとんどあるいは全くないごく軽症のケースまで様々である [Kidambi & Patel 2008]。

高コレステロール血症 シトステロール血症の患者は、低脂肪または植物由来食品が少ない食事への変更 (食事療法) 、または胆汁酸吸着療法に反応し、血漿コレステロール値の予想外なほどの有意な低下を示すが、スタチン療法へは治療反応性を示さない。
シトステロール血症患者におけるステロールの恒常性について、年齢的な変化が証明されている。すなわち、シトステロール血症の小児では血漿コレステロール値は高コレステロール血症の範囲に存在し、成人期までにコレステロール値は正常範囲内にまで低下する傾向がある [Mymin et al 2018]。

腱黄色腫または結節性黄色腫 腱黄色腫は成人に多く見られるとはいえ、どの年齢であっても、小児であっても出現することがある。小児では、臀部、踵部、肘部、膝部などの異常な部位に黄色腫が生じることがある。黄色腫は、1~2歳 [Shulman et al 1976、Hubacek et al 2001、Niu et al 2010]、4歳 [Togo et al 2009]、6歳 [Salen et al 2006、Mannucci et al 2007] といった幼い小児にも報告されている。腱黄色腫を呈する10歳の小児例も報告されている[Solcà et al 2005]。

若年性アテローム性動脈硬化症 突然死を伴うか否かにかかわらず、若年発症 (5~33歳) のアテローム性動脈硬化症を有するシトステロール血症患者10例が報告されている [Miettinen 1980、Kwiterovich et al 1981、Salen et al 1985、Watts & Mitchell 1992、Kolovou et al 1996、Heimerl et al 2002、Katayama et al 2003、Mymin et al 2003、Salen et al 2006、Tsubakio-Yamamoto et al 2010]。

血液学的異常 溶血性貧血および/または血小板減少症は、シトステロール血症の初期症状であり得るし [Rees et al 2005、Su et al 2006]、または本疾患の唯一の臨床的特徴ともなりえる [Wang et al 2011、Zheng et al 2019]。溶血性貧血は7.6~10.9g/dL程度のヘモグロビン低値を伴うことがあり、血小板減少症は1.2~8.2万/µL程度の血小板低値を伴うことが報告されている [Wang et al 2014、Zheng et al 2019]。

その他の所見

家系内表現型解析 近親婚である2家系について、家系内における表現型の差異が報告されている:

遺伝子型と表現型の関連性

ABCG5ABCG8の遺伝子型と表現型の関連性は確認されていない。

他の名称

この疾患は、最初に記載した研究者によってβ-シトステロール血症 (β-sitosterolemia) と名付けられた [Bhattacharyya & Connor 1974]。

有病率

現在までに世界中で、分子学的に確定診断がなされたシトステロール血症を有する約110名の人々が報告されている [Tada et al 2018]。
一般的な臨床検査における血漿コレステロール値の測定では植物ステロール値を測定しないため、シトステロール血症は過小診断されている可能性が高い。集団を対象とした研究では、既知の症例数から計算される低い有病率よりもはるかに高い有病率が示唆されている [Wilund et al 2004]。すなわち、血漿植物ステロール値を測定した2542名のうち1名にシトステロール血症患者が同定され、有病率は1/384~1/48,076 (95%信頼区間) であることを裏付けるデータが研究者らによって示された。
シトステロール血症は、他の集団と同様に、フッター派 (キリスト教系の集団) 、アーミッシュ (アメリカ合衆国およびカナダに居住するドイツ系移民) 、日本人、および中国人の祖先を持つ人々にも報告されている [Lu et al 2001]。高い有病率を示す集団には、以下のようなものがある。

創始者効果は特定の集団において明らかである [Lu et al 2001]。


遺伝的に関連のある (アレル性の) 疾患

当サイト (GeneReview) に記載されているものを除いて、ABCG5もしくはABCG8の両アレル性病原性変異に関連した病態は知られていない。


鑑別疾患

シトステロール血症の鑑別となる遺伝性疾患

表2. シトステロール血症の鑑別疾患に関連する遺伝子

遺伝子 疾患 遺伝形式 鑑別疾患における特徴
シトステロール血症と類似する特徴 シトステロール血症と鑑別可能な特徴
ABCA1 タンジール病
 (無αリポタンパク血症)
常染色体劣性遺伝形式 有口赤血球症
  • HDL-C値の異常低値 (<1-2 mg/dL)
  • 極度の高コレステロール血症
APOB
LDLR
PCSK9
家族性高コレステロール血症 (FH)
(ヘテロ接合性FHとも呼ばれる)
常染色体優性遺伝形式 小児における黄色腫
  • 極度の高コレステロール血症
無治療の成人においてLDL-C >190 mg/dL
無治療の小児/思春期の患者においてLDL-C >130 mg/dL
  • 巨大血小板性血小板減少症を伴わない
ホモ接合性FH 2 常染色体劣性遺伝形式 小児における黄色腫
  • 罹患者の両親が高コレステロール血症を有している
  • 無治療時のLDL-C値は通常>500 mg/dLとなる (小児においてはより低くなる)
  • 巨大血小板性血小板減少症を伴わない
CYP27A1 脳腱黄色腫症 常染色体劣性遺伝形式 小児における黄色腫
  • 血漿コレステロール値の上昇、小児期発症の長引く下痢および白内障
  • 罹患した成人では通常、神経症状を伴う
LCAT LCAT (lecithin cholesterol acyltransferase) 欠損症
(OMIM 245900)
常染色体劣性遺伝形式 有口赤血球症
  • 極度の循環血漿中HDL-C値低下 (<10 mg/dL)
  • VLDL-C↑、中性脂肪↑

FH = 家族性高コレステロール血症;HDL-C = 高密度リポタンパク質コレステロール;LDL-C = 低密度リポタンパク質コレステロール;VLDL-C = 超低密度リポタンパク質コレステロール

シトステロール血症の鑑別となる他の疾患

溶血および血小板減少を伴う以下のような病態が知られている (巨大血小板は伴わない):

有口赤血球症はRh欠損症候群 (Rh抗原の欠失) に関連している可能性がある。


管理

初期診断後の評価

表3. シトステロール症患者における初期診断後に推奨される評価項目

臨床症状/検査対象 評価 コメント
植物ステロール値 血漿植物ステロール値 (主にβシトステロール、キャンペステロール) およびコレステロール値を測定する
黄色腫 黄色腫 (腱および結節性) の大きさ、数、および分布を確認する
心臓 動脈硬化と弁の状態を評価するため、循環器内科へコンサルトする 必要に応じて冠動脈カルシウムスコア (心臓CT) や冠動脈造影検査を検討する。
血液学的異常
  • 全血球計算 (CBC) および血液像 を確認し血小板の異常や血小板減少症を検出する
  • 溶血の可能性や溶血性貧血について評価する
肝臓 基本的な肝機能を評価する (アルブミン、ALT、AST、ALP、ビリルビン)
脾臓 脾腫の評価を行う 可能であれば血液専門医、消化器専門医へコンサルトする
関節 関節痛および関節炎を評価する
遺伝カウンセリング 遺伝の専門家による1 医療方針の決定および個人の意思決定を円滑にするため、患者および家族にシトステロール血症の性質、遺伝形式、症状について知らせること。
  1. 臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー

臨床症状に対する治療

表4. シトステロール血症患者の臨床症状に対する治療

臨床症状 治療 考慮すべきこと>/その他
植物ステロール値の上昇
  • 貝類由来ステロール及び植物ステロール含有量が低い食事 (すなわち、植物油、マーガリン、ナッツ、種子、アボカド、チョコレート、貝類) を避けること。
  • ステロール吸収阻害薬エゼチミブ (成人では10mg/日) 併用
  • コレスチラミン (8-15 g/日) のような胆汁酸吸着剤は、エゼチミブに対する反応が不完全なものでは考慮されるだろう。
部分回腸バイパス術 (すなわち回腸を短縮させる) が胆汁酸の吸収量を減らす目的で実施されることがある 部分ないし完全回腸バイパス術は、シトステロール血症患者の血漿および細胞内のステロール値・スタノール値を50%以上低下させることが出来るが、エゼチミブが利用可能となった現在においては、最後の手段としてのみ使用されるべきである。

治療は診断時より開始すべきであるが、2歳未満の小児に対する治療経験はほとんどない。治療により、血漿コレステロール値および血症シトステロール値を10%~50%低下させることができる。治療により黄色腫はしばしば退行を認める。
関節炎、関節痛、貧血、血小板減少症、および/または脾腫は治療を必要とするが、最初のステップは高シトステロール血症の管理であり、その後、必要に応じて (適切にコンサルトを行ったうえで) 症状に応じた一般的な管理が行われる。

注:シトステロール血症は一般的なスタチン治療には反応しない。

サーベイランス

表5. シトステロール症患者に対する推奨される1年に1回のサーベイランス

評価対象 評価項目
植物ステロール値
  • 血漿植物ステロール値 (βシトステロール値、カンペステロール値)、コレステロール値
  • 黄色腫のサイズ、数、分布の評価
血液学的異常 全血球計算 および 血小板数
肝機能 肝トランスアミナーゼ
動脈硬化症および冠動脈疾患 (特に長期間に渡って無治療であるシトステロール血症患者に対して) 冠動脈および頸動脈のプラーク、動脈硬化に伴う弁膜症の除外を行うために非侵襲的画像検査を行う

避けるべき薬剤/状況

高コレステロール血症の人に使用が推奨されているマーガリンおよび植物由来スタノールを含む他の製品 (カンペスタノールおよびシトスタノールなど) は、植物性スタノールの蓄積を悪化させる可能性があるため、シトステロール血症の患者には禁忌である [Connor et al 2005]。
注:貝類、植物油、マーガリン、ナッツ類、アボカド、チョコレートなどの植物ステロール含有量の高い食品は、シトステロール血症の患者では植物ステロールの腸管からの吸収が増加するため、適度に摂取すべきである [Bhattacharyya & Connor 1974]。

リスクのある血縁者の評価

早期に治療やサーベイランスを実施することで利益を得ることができる者を可能な限り早期に特定するために、明らかに無症状でリスクが高い血縁者である高齢者や若年者に対し、遺伝的状態を明らかにすることが望まれる。評価には以下が含まれる:

遺伝子カウンセリングを目的としたリスクのある血縁者の検査の問題点については、遺伝カウンセリングを参照のこと。

妊娠管理

妊娠中のシトステロール血症を有する女性の管理に関するガイドラインは確立されていない。
妊娠中の女性におけるエゼチミブの適切かつ十分に対照された研究は存在しない。すなわち、エゼチミブは潜在的な利益が胎児に対するリスクを正当化する場合にのみ、妊娠中に使用することができる (エゼチミブの医薬品各条 [モノグラフ])。
妊娠中の薬の使用についての詳しい情報は、MotherToBabyを参照のこと。

今後の導入が検討されている治療法

米国のClinicalTrials.govと欧州のClinical Trials Registerを検索することで、幅広い疾患や症状の臨床試験に関する情報にアクセス可能である。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

シトステロール血症は常染色体劣性遺伝形式をとる。

患者家族のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 (兄弟姉妹)

発端者の子

その他の血縁者

発端者の両親の同胞はそれぞれ、ABCG5またはABCG8の病原性変異をヘテロ接合性に持つ (キャリアとなる) リスクが50%ある。

キャリアの検出

リスクのある家系に対するキャリアの検出を目的とした分子遺伝学的検査では、家系内のABCG5またはABCG8の病原性変異を事前に同定する必要がある。

注:キャリアの診断を確実にできる化学検査は存在しない。

関連する遺伝カウンセリングの問題

早期診断と治療を目的としたリスクのある血縁者の評価については、リスクのある血縁者の評価を参照のこと。
家族計画

集団スクリーニング 創始者効果が関係する病原性変異について、北アメリカのフッター派の祖先を持つ人々はABCG8 p.Ser107Terの、アーミッシュの祖先を持つ人々はABCG8 p.Gly574Argのキャリア検査を受けることを選択することがそれぞれ可能である。

DNAバンク DNAバンクとは、将来使用する可能性を考慮し、DNA (通常は白血球から抽出されたもの) を保管することである。検査の手法や、遺伝子に対する理解、アレル変異に対する理解、疾患についての理解は将来的に向上すると思われるため、患者由来DNAをバンク化することを検討するべきである。

出生前検査および着床前遺伝子検査

家系内でシトステロール血症の原因となる病原性変異が同定されている場合、リスクの高い妊娠のための出生前検査や着床前遺伝子検査が可能となる。
医療の専門家の間や家族内においても、特に検査が早期診断ではなく妊娠中絶を目的とした場合には、出生前検査に対する考え方の相違が存在しうる。多くの専門機関は出生前診断については夫婦の自己決定の問題だと考えているが、この問題については議論することが適切である。 。


支援団体

GeneReviews のスタッフは、本疾患を持つ患者とその家族のために、疾患特異的または包括的な支援を行う組織やレジストリーを、以下の通り抽出した。他の組織が提供する情報について、GeneReviewsが責任を負うものではない。選定基準についてはこちらを参照のこと。

Email: sitosterolemiafoundation@gmail.com
www.sitosterolemiafoundation.org

7272 Greenville Avenue
Dallas TX 75231
Phone: 800-242-8721 (toll-free)
Email: review.personal.info@heart.org
www.americanheart.org

Atherosclerosis

STAIR Research Studies


分子遺伝学的情報

Molecular GeneticsおよびOMIMの表の情報は、GeneReviewの表の情報とは異なる場合がある。すなわち、GeneReviewの表にはより新しい情報が含まれている場合がある。-編集者。

表A. シトステロール血症の原因遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体座 タンパク 遺伝子座特異的データベース HGMD ClinVar
ABCG5 2p21 ATP-binding cassette sub-family G member 5 ABCG5 database ABCG5 ABCG5
ABCG8 2p21 ATP-binding cassette sub-family G member 8 ABCG8 database ABCG8 ABCG8

データは以下の標準的な参照サイトより収載した:遺伝子はHGNCから、染色体遺伝子座はOMIMから、タンパク質はUniProtから。リンク先のデータベース(Locus Specific, HGMD, ClinVar)の説明はこちらを参照のこと。

表B. シトステロール血症に関するOMIM項目 (OMIMですべてを見る)

210250 シトステロール血症1; STSL1
605459 ATP-BINDING CASSETTE, SUBFAMILY G, MEMBER 5; ABCG5
605460 ATP-BINDING CASSETTE, SUBFAMILY G, MEMBER 8; ABCG8

分子病態

ステロリン-1 (ABCG5がコードする) とステロリン-2 (ABCG8がコードする) は、ATP-Binding Cassette (ABC) トランスポーターGファミリーに属している。これらはヘテロ二量体として機能する。ステロリン-1とステロリン-2の発現が最も高いのは腸管と肝臓であるが、植物ステロールの選択的除去を担っており、一度吸収された植物ステロールを腸管腔へ排泄したり、肝臓から胆汁中へ再排泄したりする機能を有している [von Bergmann et al 2005]。
ステロリンのヘテロ二量体トランスポーター機能の欠損は、シトステロールとコレステロールの胆汁中への排泄を減少させ、コレステロールとシトステロールの吸収を増加させる。

病態 機能喪失

表6. 注目すべきABCG8病原性変異

参考配列 DNA塩基変異 予想されるタンパクの変化 コメント [参考文献]
NM_022437​.2
NP_071882
​.1
c.320C>G p.Ser107Ter フッター派の創始者変異 [Chong et al 2012、Triggs-Raine et al 2016]
c.1720G>A p.Gly574Arg アーミッシュの創始者変異 [Solcà et al 2005、Horenstein et al 2013]

表に記載されている変異は、著者によって提供されたものである。GeneReviewsのスタッフは、変異の分類を独自には検証していない。
GeneReviewsは、Human Genome Variation Society (varnomen.hgvs.org) の標準的な命名規則に従っている。命名法についての説明はQuick Referenceを参照のこと。


更新履歴

  1. Gene Review著者: Semone B Myrie, PhD, Robert D Steiner, MD, and David Mymin, MBBCh, FRCP.
    日本語訳者: 清水 日智(社会福祉法人恩賜財団済生会支部済生会長崎病院 小児科,長崎大学病院小児科)   
    Gene Review 最終更新日: 2020.7.16. 日本語訳最終更新日: 2020.9.19.
    [ in present]

原文 Sitosterolemia

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