Strømme症候群
(Strømme Syndrome)
[Synonyms:Apple Peel Syndrome with Microcephaly and Ocular Anomalies, Jejunal Atresia with Microcephaly and Ocular Anomalies]
Gene Reviews著者: Stephanie KL Ho, MD, Lai Ting Leung, MD, Ho-ming Luk, MD, and Ivan FM Lo, MD.
日本語訳者:吉村祐実(翻訳ボランティア)、重冨浩子(札幌医科大学医学部小児科学)
GeneReviews最終更新日: 2022.11.10. 日本語訳最終更新日: 2024.11.1.
原文: Strømme Syndrome
要約
疾患の特徴
Strømme症候群は主に小腸閉鎖症(Apple-peel(リンゴの皮)型腸閉鎖症を含む),小頭症, 発達障害および/または知的障害,脳の構造的異常,ならびに眼球,泌尿生殖器および心臓の奇形を特徴とする臨床的に不均質な疾患である.患者は妊娠中期の致死から絨毛関連疾患を特徴とする多臓器における症状,発達障害を伴う非症候性の小頭症まで非常に様々な臨床的症状がみとめられる.Apple-peel型腸閉鎖症はトライツ靭帯に近い近位空腸における稀な小腸閉鎖症で,一部の患者に発症する.Strømme症候群患者の腸閉鎖症は,十二指腸,空腸,あるいは複数の部位に発症する.
診断・検査
Strømme症候群は分子遺伝学的検査によって固有の特徴をもつ両アレル性のCENPF病的バリアントを特定された発端者で確定診断される.
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
集学的チームによる個別化治療; 消化管閉鎖症の外科治療;発達および教育の支援; 眼奇形,視覚障害,腎奇形,および心奇形に対する標準治療; 必要に応じてソーシャルワーカーとの関与やケアの調整.
サーベイランス:
各来院時に成長,摂食,発達の評価.眼科医・ロービジョンクリニックの推奨に従って眼科学的症状・視覚障害のフォローアップ
遺伝カウンセリング
Strømme症候群は常染色体潜性形式で遺伝する.両親が
CENPF病的バリアントのヘテロ接合体であることがわかっている場合,罹患者の同胞は受胎時に25%の確率で罹患し,50%の確率で無症状の保因者となり,25%の確率で罹患者にも保因者にもならない.罹患した家族で
CENPF 病的バリアントが特定されると,リスクのある血縁者の保因者検査や出生前/着床前遺伝学的検査が可能になる.
診断
Strømme症候群に関して,コンセンサスの得られた臨床診断基準は公表されていない.
本疾患を示唆する所見
以下の臨床的所見,画像所見,および家族歴を有する場合,Strømme症候群を疑うべきである.
臨床的所見
- 小腸閉鎖症, 特にApple-peel型腸閉鎖症
- 小頭症
- 軽度~中等度の発達障害および/または知的障害
- 前眼部異常・小眼症など様々な眼奇形
- 低形成腎,馬蹄腎,水腎水尿管症,および/または停留睾丸など泌尿生殖器の異常
画像所見
- 脳MRIによって脳梁欠損症,水頭症,脳回肥厚症,脳回欠損,全前脳症,大脳・ 小脳の低形成の有無が明らかにされる.
- 腹部の画像所見には,低形成腎,馬蹄腎,水腎水尿管症,および/または副脾がある.
家族歴は
常染色体潜性 遺伝形式に一致する(罹患同胞および/または親の血縁関係).家族歴が不明であるために診断が妨げられることはない.
確定診断
Strømme症候群の診断は,発端者の分子遺伝学的検査によって
CENPF遺伝子に本疾患を示唆する所見および両アレル性の病的バリアント(または病的バリアントである可能性が高いこと)が同定されることによって確定される(表1参照).
注: (1) ACMG/AMP バリアントの解釈ガイドラインでは,「病的バリアント」と「病的バリアントである可能性が高いバリアント」は臨床現場では同意語であり,いずれの語も診断指標となり,臨床的決定に使用可能であると考えられる[
Richards et al 2015].本項の「病的バリアント」については,何らかの「病原性があるバリアント」と理解されている.
(2)意義不明の両アレル性の
CENPF遺伝子変異(または片側のアレルに既知の病的変異があり,対側のアレルに意義不明の
CENPF遺伝子病的変異)の特定によって確定診断には至らないが,診断を除外するものでもない.
分子遺伝学的検査には表現型によっては標的遺伝子検査(単一遺伝子検査,マルチジーンパネル)および包括的遺伝子検査(エクソーム解析,ゲノム解析)を含めることができる.
遺伝子標的検査では,どの遺伝子が関連している可能性があるのかを医師が決定しなければならないが,遺伝子検査では医師の決定を必要としない.「本疾患を示唆する所見」に記載されている明確な所見を有する個人は遺伝子標的検査によって診断される可能性が高い(Option 1を参照)が,小頭症および/または知的障害といった他の多くの遺伝疾患と区別できない表現型を有する場合,遺伝子検査によって診断される可能性が高い(Option 2参照).
Option 1
単一遺伝子検査. 最初に小さな遺伝子内欠失/挿入,ミスセンスバリアント,ナンセンスバリアント,スプライスサイトバリアントを特定するために
CENPF遺伝子の配列解析が実施される.
注:実施するシーケンシング方法によって,単一エクソン,マルチエクソン,または全遺伝子の欠失/重複が特定されない可能性がある.
使用したシーケンシング方法でバリアントが 1 つしか検出されないか,全く検出されない場合,次のステップは,遺伝子を標的とする欠失/重複分析を実行して,エクソンおよび全遺伝子の欠失または重複を検出することである.
CENPF およびその他の関連遺伝子(鑑別診断を参照)を含む繊毛疾患のマルチジーンパネルは,病態の遺伝的原因を特定する可能性が最も高いが,意義不明なバリアントおよび,基礎にある表現型とは無関係の遺伝子の病的バリアントの特定が制限される.
注意:(1)パネルに含まれる遺伝子と,各遺伝子に使用される検査の診断感度は検査室によって異なり,時間の経過とともに変化する可能性がある. (2) 一部のマルチジーンパネルには,この
GeneReview で説明されている状態と無関係の遺伝子が含まれている場合がある. (3) 一部の検査室では,パネルオプションに,臨床医が指定した遺伝子を含むカスタムの検査室設計パネルおよび/またはカスタムの表現型に焦点を当てたエクソーム解析が含まれる場合がある. (4) パネルで使用される方法には,配列解析,欠失/重複分析,および/またはその他の非配列ベースの検査が含まれる場合がある.
マルチジーンパネルの紹介については,
ここをクリック.臨床医が遺伝子検査を注文するためのより詳細な情報は,
ここで見つけることができます.
Option 2
包括的な遺伝子検査は,どの遺伝子が関連しているかを医師が決定する必要がない.エクソームシーケンシングが最もよく使用されているが,ゲノム解析も利用可能である.
包括的な遺伝子検査の紹介は こちらをクリック.医師のオーダーする遺伝子検査の詳細こちらで閲覧可能.
表 1.Strømme症候群で実施される分子遺伝学的検査
| 遺伝子1 |
方法 |
この方法で特定される病的バリアント2の割合 |
| CENPF |
配列解析3 |
100%4 |
| 遺伝子を標的とした欠失/重複解析5 |
報告なし6 |
- 遺伝子座とタンパク質については表A 遺伝子とデータベースを参照
- この遺伝子において特定されたバリアントに関する情報は分子遺伝学を参照
- 配列解析は良性,良性の可能性が高い,意義不明 (uncertain significance),病的である可能性が高い,または病的のバリアントを検出する.バリアントには,小規模な遺伝子内欠失/挿入,ミスセンスバリアント,ナンセンスバリアント,スプライスサイトバリアントが含まれることがあり,通常,エクソンまたは全遺伝子の欠失/重複は検出されない.配列解析の結果の解釈において考慮すべき問題は,ここをクリック.
- Waters et al [2015], Filges et al [2016], Ozkinay et al [2017], Al-Dewik et al [2019], Kahrizi et al [2019], Maddirevula et al [2019], Monies et al [2019], Alghamdi et al [2020], Caridi et al [2020], Al-Hamed et al [2022], Cappuccio et al [2022], Ho et al [2022]
- 遺伝子標的欠失/重複解析は,遺伝子内の欠失または重複を検出する.使用される方法は,定量PCR (quantitative PCR),ロングリードPCR (long-range PCR),MLPA法 (multiplex ligation-dependent probe amplification) ,単一エクソン欠失や重複を検出するために設計された遺伝子標的マイクロアレイなどの方法が用いられる.
- これまでに大きなエクソンまたはマルチエクソンの欠失および重複は報告されていない.
臨床的特徴
臨床像
当初,小腸閉鎖症はStrømme症候群の特徴であると考えられていた.しかし,現在,小腸閉鎖症は特徴的ではあるが必須の特徴ではないと考えられている.罹患者は妊娠中期の致死から絨毛関連疾患,発達障害を伴う非症候性の小頭症といった多系統の症状まで,非常に様々な臨床的症状が認められる.
これまで,26名以上に
CENPF遺伝子の病的変異が特定された [
Waters et al 2015,
Filges et al 2016,
Ozkinay et al 2017,
Al-Dewik et al 2019,
Kahrizi et al 2019,
Maddirevula et al 2019,
Monies et al 2019,
Palombo et al 2020,
Alghamdi et al 2020,
Caridi et al 2020,
Al-Hamed et al 2022,
Blue et al 2022,
Cappuccio et al 2022,
Ho et al 2022] .下記のStrømme症候群の表現型の特徴についての記載は,上記の報告の25名に関するものである.
表 2.
Strømme症候群: 特徴的な症状のみられる頻度(抜粋)
| 特徴 |
特徴を伴う患者の割合 |
コメント |
| 腸閉鎖症 |
小腸閉鎖症 |
14/25 |
異常回転が高頻度にみられる |
| 十二指腸閉鎖症 |
8/161 |
| 空腸閉鎖症 |
4/161 |
| 複数の部位の閉鎖症 |
3/161 |
| 神経発達障害 |
小頭症 |
21/23 |
|
| 発達障害/知的障害 |
13/14 |
|
| 脳の構造的奇形 |
9/15 |
脳梁欠損症,水頭症,脳回肥厚症,脳回欠損,全前脳症,大脳・ 小脳の低形成 |
| 眼科学 |
前眼部奇形 |
9/14 |
ピータース奇形,角膜混濁(水晶体の癒着を伴う場合と伴わない場合がある),強角膜/角膜硬化,虹彩毛様体(iris villi)の萎縮,角膜周辺の前癒着症,白内障,虹彩コロボーマ,小角膜,不整瞳孔および瞳孔散大 |
| 小眼 |
8/14 |
片側性または両側性 |
| 泌尿生殖器の異常 |
低形成腎 |
6/16 |
|
| 停留精巣 |
4/9 |
|
| その他 |
先天性心疾患 |
5/182 |
中隔欠損,動脈管開存,大動脈縮窄,およびエブスタイン様三尖弁 |
| 多指症 |
2/25 |
軸前性 |
| 副脾 |
2/11 |
|
- 文献で報告されている腸閉鎖症患者3名は,特定の部位が罹患していなかったため分母から外した.
- 未熟性に伴う生理的な動脈管開存症は含まれていない.
消化管の特徴
小腸閉鎖症. Strømme症候群関連の小腸閉鎖症では,十二指腸が最も罹患するが,空腸・回腸の閉鎖症も報告されている[
Waters et al 2015,
Filges et al 2016,
Ozkinay et al 2017,
Alghamdi et al 2020,
Caridi et al 2020,
Cappuccio et al 2022].Strømme症候群関連の小腸閉鎖症は多くの場合,出生前の超音波検査での異常や,生後間もなく嘔吐を発現した乳児で特定される.非症候性腸閉鎖症と同様に,Strømme症候群関連の小腸閉鎖症は異常回転および早産を伴うことが多い.
Apple-peel型腸閉鎖症は稀な型の小腸閉鎖症であり,Strømme症候群に非常に特異的にみられるが必ず伴う特徴ではないと考えられている.これはTreitz靭帯付近の近位空腸の閉鎖症として古典的に定義され,閉塞盲端とより遠位の機能しない腸管組織は右結腸動脈または回結腸動脈の枝に栄養され,腸間膜の欠損を伴う.遠位小腸は栄養血管に螺旋状に巻きついており,その形状はリンゴの皮に似ている.
Apple-peel型腸閉鎖症は,閉鎖部位の切除および吻合によって治療される.根底にある不安定な脈管構造と腸管保存の必要性は外科治療の難しさや予後の悪さ、短腸症候群のリスク上昇につながる.小腸閉鎖症患者は長期にわたる完全経静脈栄養が必要となる可能性があり,胆汁うっ滞,敗血症,多臓器不全を合併する可能性がある.Strømme症候群関連の小腸閉鎖症患者において,外科的介入後の持続的な吸収不良と体重増加不良が報告されている[
Filges et al 2016].
眼科学的特徴
前眼部の奇形として,罹患者にピータース奇形,角膜混濁(水晶体癒着を伴う場合と伴わない場合がある),強角膜症,虹彩毛様体(iris villi)の萎縮,角膜周辺の前部癒着症,白内障,虹彩コロボーマ,小角膜,不整瞳孔および瞳孔散大が報告されている[
Filges et al 2016,
Ozkinay et al 2017,
Caridi et al 2020,
Cappuccio et al 2022].
他の眼科学的特徴 としてStrømme症候群患者では片側性または両側性の小眼症,内斜視なども報告されている[
Filges et al 2016,
Ozkinay et al 2017,
Caridi et al 2020,
Ho et al 2022].患者1名において,視神経乳頭の陥凹に関連する視覚誘発電位の異常が示されている[
Cappuccio et al 2022].片側性の弱視および盲が患者3名で報告されている[
Filges et al 2016,
Ho et al 2022].
神経発達的特徴
発達障害および/または知的障害. Strømme症候群患者では軽度~中等度の発達障害/知的障害がよく報告されているが,正常な発達で学習障害がない成人患者1名が報告されている[
Ho et al 2022]. また,IQテストを受けた患者のスコアは40~83の範囲であった [
Filges et al 2016,
Kahrizi et al 2019,
Alghamdi et al 2020,
Cappuccio et al 2022].
神経画像検査で水頭症,脳梁欠損症,脳回肥厚症,脳回欠損症,全前脳胞症,大脳萎縮症および小脳萎縮症など様々な構造的奇形が明らかになる.
小頭症 (頭囲が性別・年齢平均値に比し,-2SD以下) は出生前または出生時に発見されることが多い.
泌尿生殖器の特徴
Strømme症候群でみられる腎症状は,極めて変化に富む.構造的な腎奇形として単腎症,低形成腎,馬蹄腎,水腎水尿管症が含まれる.透析や腎臓移植が必要となる末期腎不全が患者1名で報告されている[
Caridi et al 2020].
患者において,停留精巣および移動精巣が報告されている[
Maddirevula et al 2019,
Alghamdi et al 2020,
Cappuccio et al 2022].
他の特徴
成長. 罹患者の多くは早産児として生まれており,それは腸閉鎖症と羊水過多に起因すると考えられている.Strømme症候群に関連した小腸閉鎖症は,吸収障害および体重増加不良を引き起こす.しかし,腸閉鎖症を伴わない患者においても体重増加不良が報告されている[
Filges et al 2016,
Ozkinay et al 2017,
Cappuccio et al 2022].
先天性心疾患.心房中隔欠損症,心室中隔欠損症,動脈管開存,二尖大動脈弁,エプスタイン様三尖弁異形成,大動脈縮窄を含む先天性心疾患が報告されている [
Filges et al 2016,
Ozkinay et al 2017,
Alghamdi et al 2020,
Cappuccio et al 2022].
筋骨格系の奇形. 軸前性多趾症,扁平椎,二分剣状突起(xiphoid cleft)が本疾患の患者で報告されている,[
Filges et al 2016,
Ho et al 2022].
Strømme症候群でみられる頭蓋顔面の形態異常は,非常に様々である. 繰り返し報告されている特徴として,後退した額,広く突出した鼻梁, 上向きの鼻孔,眼瞼裂短縮,落ちくぼんだ眼,幅広い口,小顎症,顔面が左右非対称,低位で大きい耳介[
Waters et al 2015,
Filges et al 2016,
Ozkinay et al 2017,
Maddirevula et al 2019,
Alghamdi et al 2020,
Caridi et al 2020,
Cappuccio et al 2022,
Ho et al 2022].
副脾 が患者2名に報告されている[
Waters et al 2015,
Filges et al 2016].
予後.Strømme症候群の予後は非常に様々であり,妊娠中期の致死から非症候性の発達遅滞や小頭症まで幅がある.
遺伝型と表現型の関連
遺伝型と表現型の関連は特定されていない.
病名
Strømme症候群は原発性綿毛機能不全31 (CILD31)ともよばれる.
有病率
Strømme症候群は稀な疾患で,正確な有病率は不明である.これまでに分子的に確定されたStrømme症候群患者が少なくとも26名報告されている.
遺伝学的に関連のある疾患(同一アレル疾患)
GeneReviewに記載されている表現型以外で,CENPF病的バリアントと関連している表現型は知られていない.
鑑別診断
Strømme症候群 は非常に様々な臨床症状を呈するため,表現型の特徴だけでは疾患の診断に不十分であることが多々ある.絨毛関連疾患のスペクトラムに分類される疾患は全て鑑別診断において検討する必要がある.
腸閉鎖症の鑑別診断に関連する症候群を
表 3に要約する.
表 3.
腸閉鎖症の鑑別診断に関連する症候群
| 遺伝子 |
疾患 |
MOI |
固有の特徴 |
| MYCN |
Feingold症候群 1 (FS1) |
AD |
Strømme症候群とは異なり,FS1は
- 足指の合指症,母指形成不全,および中節骨短縮など指の異常
- 気管喉頭閉鎖症
|
| PI4KA |
PI4KA関連多発性腸閉鎖症±免疫不全症(PI4KA-Related Disorderを参照) |
AR |
Strømme症候群とは異なり, PI4KA-関連疾患は免疫不全症に関連している可能性がある. |
| RFX6 |
Mitchell-Riley 症候群 (OMIM 615710) |
AR |
Strømme症候群とは異なり,Mitchell-Riley症候群に関連性があるのは
- 胆汁うっ滞,胆嚢無形成/低形成,および膵低形成/輪状膵などの消化管症状
- 新生児または小児期発症の糖尿病
|
| TTC7A |
胃腸障害・免疫不全症候群 1 (GIDID1) (OMIM 243150) |
AR |
Strømme症候群とは異なり,関連性があるのは
- 肝炎・臍帯ヘルニアなどの消化器合併症
- 胸腺形成不全を伴う免疫不全
|
AD =
常染色体顕性; AR =
常染色体潜性; GI = 消化器; MOI =
遺伝形式
臨床的マネジメント
Strømme症候群の臨床的診断ガイドラインは公表されていない.
最初の診断に続いて行う評価
Strømme症候群と診断された患者の疾患の拡がりとニーズを把握するため,(診断につながる評価の一部として実施されていない場合),表 4に要約した評価を行うことが推奨される.
表 4.
Strømme症候群患者で初回診断後に推奨される評価
| 統/問題 |
評価内容 |
コメント |
| 消化器/摂食 |
消化器内科/消化器外科医/ 栄養士/摂食チームの評価 |
腸閉鎖症および摂食困難な患者の評価を含める |
| 神経学 |
神経学的評価 |
神経学的異常または発達障害のエビデンスがある場合,構造的脳障害の可能性を排除するために脳MRIを検討する. |
| 発達 |
発達の評価 |
- 運動,適応,認知,発話/言語についての評価を含む必要がある
- 早期の介入/特別教育のための評価
|
| 眼科学 |
眼科学的検査 |
眼の構造的異常および視覚障害の評価を含める |
| 泌尿生殖器の奇形 |
- 構造的奇形および腎実質性疾患の評価のための腎臓超音波検査
- 男性の停留精巣に対する診察
- CBC, BUN, クレアチニン,電解質など腎機能に対する検査
|
|
| 先天性心疾患 |
心エコー検査 |
心臓弁・解剖学的異常の評価 |
| 遺伝カウンセリング |
遺伝学の専門家によるカウンセリング1 |
罹患者とその家族にStrømme症候群の病態,遺伝形式および合併症について情報を提供し,医学的および個人的な意思決定を促進する. |
家族の支援・情報源
|
|
|
BUN = 血中尿素窒素; CBC = 全血球数; GI = 消化管; MOI =
遺伝形式
- 遺伝医学者, 認定遺伝カウンセラー,認定高度遺伝看護師(certified advanced genetic nurse)など
症状の治療
QOLを改善し,機能を最大限に,そして合併症を減らすための支持療法が推奨される.支持療法には,神経学,言語病理学,作業療法,物理療法,摂食,眼科,外科,腎臓学,発達小児科,および臨床遺伝学の専門医による集学的医療が含まれる( 表5を参照).
表5.
Strømme 症候群患者の症状の治療
| 症項 |
治療 |
考察/その他 |
| 腸閉鎖症 |
消化管閉鎖症に対する手術治療 |
消化器内科/消化器外科医 |
| 発達遅延/知的障害 |
発達遅延/知的障害の管理に関する問題を参照 |
|
| 眼科学 |
眼科医による治療 |
|
| 腎奇形 |
腎臓専門医による治療 |
|
| 心奇形 |
心臓専門医による治療 |
|
| 家族/地域社会 |
- 家族を地域のリソース,レスパイト,サポートに結びつけるために適切なソーシャルワークの関与を確保
- 複数の科や専門分野の予約,使用機器,投薬,および備品を管理するためのケアの調整
|
- 緩和ケアおよび/または訪問看護の関与について継続的な評価を行う
- 適応型スポーツや特別オリンピックへの参加を検討する
|
発達遅滞/知的障害の管理に関する問題
以下の情報は,米国における発達遅滞/知的障害をもつ人に対する典型的な管理上の推奨事項を示したものであり,標準的な推奨事項は国によって異なる場合がある.
年齢0~3歳 作業療法,理学療法,言語療法,摂食療法に加えて,乳幼児の精神保健サービス,特別支援教育,および感覚障害の専門家受診を利用するために,早期介入プログラムへの紹介を受けることが推奨される.米国では,早期介入プログラムはすべての州で利用可能な連邦政府出資のプログラムであり,個々の治療ニーズに応えた在宅サービスを提供している.
年齢3~5歳 米国では,地元の公立学区を通じた発達段階のプレスクールが推奨されている.入園前に行われる評価によって,必要なサービスや治療法が決定され,運動,言語,社会性,認知発達の遅れが認められる場合には,個別教育計画 (IEP) が作成される.早期介入プログラムでは通常,IEPへの移行を支援する.発達プレスクールは施設で行われるが,医学的に不安定な状態ために通うことができない子供たちに対しては,在宅でのサービスが提供される.
全年齢 適切な地域社会,州,教育機関(米国) の関与を確保し,生活の質を最大限に高めるために,発達小児科医との連携を取ることが推奨されている.考慮すべき問題点は以下の通りである:
- 個別教育計画(IEP)サービス:
- IEPは,資格のある子供たちに対して,特別に設計された指導および関連するサービスを提供する.
- IEPサービスは,毎年見直しが行われ,変更の必要性を判断する.
- 特別教育法で定められているように,子供たちは学校で可能な限り制限の少ない環境に置かれ,可能な限りかつ適切な場合には,一般教育への参加が義務付けられている.
- 視覚コンサルタント(vision consultant)は,学習教材へのアクセスをサポートするために,子供のIEPチームの一員となる必要がある.
- IEPでは,理学療法,作業療法,言語療法は,必要に応じて子供の学習教材へのアクセスに影響する範囲内で実施される.範囲を超える場合は,患者のニーズに基づいた個人的な支持療法が検討される場合がある.療法の種類に関する具体的な推奨事項は,発達小児科医によって作成される.
- 子供が10代に入ると,成人期への移行計画について話し合い,IEPに盛り込む必要がある.IEPサービスを受けている子供に対して,公立学校区は21歳までサービスを提供することが義務付けられている.
- 教育現場の配慮や変更を必要とする生徒に対して,教室前方の座席,補助技術装置の使用,スクライビング(Scribing; [訳注] 文字を書くことが困難な子供のために,教師や補助教師が生徒の回答を生徒が口述するように代筆すること)の利用,授業間の時間延長,課題の変更,教科書の文字を拡大するなど504計画(セクション504:障害に基づく差別を禁止する米国連邦法)を検討することができる.
- 発達障害管理局(DDA: Developmental Disabilities Administration)への登録が推奨される.DDAは米国の公的機関であり,有資格者にサービスとサポートを提供している.資格は州によって異なるが,一般的には診断および/または関連する認知/適応障害の程度により決定される.
- 収入や資産が限られている家族は,障害のある子供に対する補足保障収入(SSI: supplemental security income)の受給資格が得られる可能がある.
運動機能障害
粗大運動機能障害
- 可動性を最大限に高め,遅発性の整形外科的合併症(拘縮,脊柱側彎症,股関節脱臼など)のリスクを最小限にするために理学療法が推奨される.
- 耐久性のある医療機器や姿勢矯正器具(車椅子,歩行器,入浴用椅子,矯正器具,適応型ベビーカー等)を必要に応じて使用する.
- 筋緊張亢進やジストニアを含む筋緊張の異常については,適切な専門家の関与を検討し,バクロフェン,ボトックス,抗パーキンソン薬の投薬や整形外科的処置の管理を支援する.
微細運動機能障害. 食事,身繕い,着替え,および書字といった適応機能に影響する微細運動が困難な場合,作業療法が推奨される.
口腔運動障害 は受診の度に評価すべきである.摂食中の窒息/吐き気,体重増加不良,頻繁な呼吸器疾患,または他に説明のつかない摂食拒否については,臨床的な摂食評価および/または嚥下のレントゲン検査を実施する必要がある.子供が口から食べても安全であると仮定すると,協調性または感覚関連の摂食問題を改善するために,摂食療法(通常は作業療法士または言語療法士による)が,推奨される.食事は,安全のために濃度を高めたり冷やしたりしても良い.摂食機能障害が重度の場合,経鼻チューブまたは胃瘻チューブが必要になる場合がある.
コミュニケーションの問題. 表出性言語に困難がある人に対しては,代替コミュニケーション手段(例:補助代替コミュニケーション,AAC)の評価を検討すること.この分野の専門知識を持つ言語聴覚士がAAC 評価を実施可能である.評価では,認知能力と感覚障害を考慮し,最も適切なコミュニケーション形式を決定する. AAC デバイスは,絵カード交換コミュニケーションシステムなどの比較的易しい技術から,音声生成デバイスなどの高度な技術まで様々である.一般に信じられていることとは異なり,AAC デバイスは発話の言語発達を妨げるものではなく,むしろ最適な発話と言語発達をサポートする.
サーベイランス
表6.
Strømme症候群患者に対して推奨されるサーベイランス
| 系列/問題 |
評価項目 |
頻度 |
| 成長/食事 |
|
各来院時 |
| 発達 |
発達の進捗・教育のニーズのモニタリング |
| 眼科学 |
眼の構造異常の評価 |
担当眼科医による治療 |
| 視力の変化の評価 |
ロービジョンクリニック |
家族/コミュニティ
|
ソーシャルワーカーによる支援のニーズを評価(緩和療法/呼吸器ケア,訪問介護,他の地域のリソースなど),ケアの調整,または家族計画など新たに疑問が生じたらフォローアップの遺伝カウンセリング |
各来院時 |
リスクのある血縁者の評価
遺伝カウンセリングを目的としたリスクのある血縁者の検査に関連する問題については, 遺伝カウンセリングの項を参照のこと.
研究中の治療法
広範な疾患や症状の臨床研究に関する情報は,米国については ClinicalTrials.gov を,欧州ではEU Clinical Trials Registerを参照されたい.
注:本疾患に関する臨床試験は実施されていない可能性がある.
遺伝カウンセリング
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
Strømme症候群は常染色体潜性形式で遺伝する.
家族構成員のリスク
発端者の両親
- 罹患した子供の両親はCENPF 病的バリアントのヘテロ接合体であると推定される.
- 両親が CENPF 病的バリアントに対するヘテロ接合体であることを確認し,信頼性の高い再発リスク評価を家族に提供するために,発端者の両親に対する分子遺伝学的検査が推奨される.
- 片方の親のみで病的バリアントが検出され,親子鑑定によって生物学的に父親と母親であることが確認された場合,発端者において検出された病的バリアントの1つがde novoとして発生したか,両親のいずれかがモザイクを有することで発生した後天的デノボ変異(postzygotic de novo)である可能性がある.発端者がホモ接合性の病的バリアントを有する(すなわち,2つの同じ病的バリアントを有する)場合,さらに考えられる可能性は以下の通り:
- 発端者にシークエンスでは検出できない単一または複数のエクソン欠失があり、技術的にホモ接合体として検出された.
- 病的バリアントのある親の染色体で片親性イソダイソミーが生じ,発端者の病的バリアントがホモ接合体となった.
- ヘテロ接合体(保因者)は無症候性で本疾患の発症リスクがない.
発端者の同胞
- 両親がCENPF病的バリアントについてヘテロ接合であることが判明している場合,患者の同胞は受胎時に25%の確率で罹患し,50%の確率で無症候性の保因者であり,25%の確率で無症状かつ保因者にもならない.
- ヘテロ接合体(保因者)は無症状で疾患発症リスクを有しない.
発端者の子
Strømme症候群の患者の子はCENPF 病的バリアントの絶対的ヘテロ接合体(保因者)である.
他の家族構成員
発端者の親の同胞がCENPF 病的バリアントの保因者である確率は50%である.
保因者診断
発症リスクを有する血縁者の保因者診断は,家系内のCENPF 病的バリアントが同定されていれば可能である.
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
家族計画
- 遺伝リスクの決定や出生前/着床前診断の利用について話し合う最適な時期は妊娠前である.
- 罹患している若年成人やリスクのある若年成人に対して遺伝カウンセリング(子への潜在的リスクや生殖手段)の提供は適している.
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
罹患者の家系内でCENPF 病的バリアントが同定されれば,本疾患に対する出生前診断や着床前遺伝学的診断が可能になる.
医療の専門家間や家族内においても,出生前診断に対する考え方の相違が存在しうる.多くの専門機関は出生前診断については自己決定の問題だと考えているが,この問題については議論することが適切である.
更新履歴:
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Gene Reviews著者: Stephanie KL Ho, MD, Lai Ting Leung, MD, Ho-ming Luk, MD, and Ivan FM Lo, MD.
日本語訳者:吉村祐実(翻訳ボランティア)、重冨浩子(札幌医科大学医学部小児科学)[in present]
原文: Strømme Syndrome
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