致死性骨異形成症
(Thanatophoric dysplasia)
[Includes: Thanatophoric Dysplasia Type I, Thanatophoric Dysplasia Type II]
Gene Review著者:Barbara Karczeski, MS, Garry R Cutting, MD
日本語訳者:澤井英明(兵庫医科大学 産科婦人科学)
Gene Review: 最終更新日: 2008.9.30. 日本語訳最終更新日: 2010.09.05
原文 Thanatophoric dysplasia
要約
疾患の特徴
致死性骨異形成症(TD)は四肢短縮型小人症で、通常周産期においては致死的である。TDはI型とII型に分類され、I型は弯曲した大腿骨を伴う小肢症が特徴的で、まれに重症度の異なるクローバー葉頭蓋(Kleeblattschaedel)が見られる。また、II型の特徴は、まっすぐな大腿骨を伴う小肢症、中程度から重度までのクローバー葉頭蓋が必ず見られることである。これ以外にI型とII型に共通する特徴は、短肋骨、胸郭の狭小化、巨大頭蓋、独特な顔の特徴、短指症、低血圧症、さらに四肢に沿った余剰な皮膚のひだ等である。最も重度の乳児は、生後間もなく呼吸不全で死に至る。長期生存者の報告はまれである。
診断・検査
TDの診断は、臨床検査および/または出生前超音波検査に加えて、放射線学的所見を元に行う。特徴的な病理組織学的特徴も見られる。FGFR3は、TDに関連する唯一の遺伝子である。原因となる変異は、I型TDでは最大99%、II型TDでは99%を超える変異を、臨床的に利用可能なFGFR3の分子遺伝学的検査によって同定することができる。
臨床的マネジメント
症状の治療:出生前にTDと診断された場合、治療の目標は、早産、羊水過多症、胎位異常、巨大頭蓋および/または首の屈曲や硬直による出産合併症などの潜在的な妊娠合併症を避けることである。臨床的管理は、新生児のための緩和ケアの実施に対する両親の希望に焦点を置く。新生児は生存のため呼吸サポート(気管切開術と人工換気装置による)が必要である。
その他の治療方法には、発作を抑制するための抗てんかん薬、水頭症へのシャント設置、頭頸接合部の狭窄緩和のための後頭下減圧術、そして補聴器などがある。
定期検査:長期生存者には神経学的、整形外科的、聴覚的評価に、頭顎部の狭窄を観察するためのCT、発作活動を観察するEEGが必要である。
遺伝カウンセリング
TDは常染色体優性遺伝であり、発端者の大多数はFGFR3にde novo変異が見られる。かつて罹患した子を1人持った両親が、再び同じ疾患の子を持つリスクが、一般人口集団に比べて有意に高まることはない。健康な両親における生殖細胞モザイク現象はこれまで報告されていないものの、理論的可能性としては依然として残っている。出生前診断は、超音波検査および分子遺伝学的検査によって可能である。
診断
臨床診断
致死性異形性(TD)は四肢短縮型小人症の1つであり、この疾患が疑われるのは、出生前あるいは新生児期に長管骨の著しい短縮と胸郭の狭小化が観察され、特に周産期死亡が発生した場合である。
出生前超音波検査(Sawai et al 1999, De Biasio et al 2000, Chen et al 2001, Ferreira et al 2004, De Biasio et al 2005, Li et al 2006)による妊娠時期ごとの所見は以下の通りである:
- 第一期
- 長管骨の短縮が、早ければ妊娠12~14週に見られる
- 胸郭の狭小化が血流を圧迫することが原因だと思われる、項部透過性(NT)の亢進(症例報告2例)および静脈管の逆流(症例報告1例)
- 第二/三期
- 妊娠20週で四肢長が5パーセンタイル値未満の発育不全
- 脊椎骨と頭蓋骨の骨化は良好
- 扁平椎
- 脳室拡大
- 短肋骨を伴う狭い胸腔
- 羊水過多症
- 大腿の弯曲(I型TD)
- 脳ヘルニア(2例)
- クローバー葉頭蓋(Kleeblattschaedel)(II型TDに見られることが多く、I型TDにも認められることがある)
注:第二期における致死性骨異形成症の確認は多くの場合容易であるが、確定診断の確立が困難なこともある(Sawai et al 1999, Parilla et al 2003)。出生前に確定診断を行う場合、超音波検査または産科医/遺伝学者による超音波画像の精査が最も効果的と思われる。三次元超音波検査も、顔の特徴やその他のTDの軟部組織所見を視覚化するのに役立つと思われる(Chen et al 2001)。
出産後の理学的検査(Lemyre et al 1999, Passos-Bueno et al 1999, Sawai et al 1999, De Biasio et al 2000):
- 巨大頭蓋
- 大きな大泉門
- 前頭部の突出、平坦な顔で低い鼻梁、突出した眼
- 四肢の著しい短縮(小肢症)
- 三尖手trident handで短指症
- 余剰な皮膚のひだ
- 短肋骨を伴う狭いベル型胸郭、腹部膨隆
- 比較的正常な胴体の長さ
- 全身性低血圧
- 大腿の弯曲(I型TD)
- クローバー葉頭蓋(II型TDでは常に見られ、I型TDにも時々認められる)
レントゲン写真/その他の画像解析(Wilcox et al 1998, Lemyre et al 1999):
- 長管骨の近位肢節短縮型
- 長管骨の骨幹端不整
- 扁平椎
- 脳幹圧迫を伴う小さい大後頭孔
- 側頭葉奇形、水頭症、脳幹形成不全、ニューロン移動異常を含む中枢神経異常
- 大腿の弯曲(I型TD)
- クローバー葉頭蓋(多くはII型TDにおいて。まれにI型TDにも)
その他の報告所見は、心臓異常(動脈管開存症および心房中隔欠損症)および腎臓の異常など。
検査
病理組織学(Wilcox et al 1998, Lemyre et al 1999):
- 軟骨細胞柱の破壊
- 細胞増殖の低下
- 骨幹端骨の側面肥大
- 内側に拡大し、骨端軟骨の骨周辺で線維帯を形成する間葉細胞
- 静止軟骨の血管分布の増大
分子遺伝学的検査
遺伝子
FGFR3はI型TDおよびII型TDの原因として知られる唯一の遺伝子である。FGFR3変異p.Lys650Gluは、II型TD患者全員において同定されている(Bellus et al 2000)。
臨床検査
- 報告されているFGFR3変異のほぼすべて、またはすべてを含む変異パネルを用いた標的変異解析。
- 過去に変異を含むと報告されているFGFR3の選択領域の配列解析。I型TDでは、FGFR3のエキソン7、10、15、19、II型TDではFGFR3のエキソン15を対象とする。
- FGFR3コード領域全体の配列解析は臨床的に可能であるが、臨床的にはTDに対して適応とされていない。この理由は、検査感度が上昇することがないこと、そして臨床的有意性が不明確な新規バリアントの所見がある場合は検査特異度が低下する可能性があるためである。
表1 致死性骨異形成症に実施した分子遺伝学的検査の要約
遺伝子記号 |
Test Method |
検出された変異 |
検査方法および臨床型ごとの変異検出頻度 |
検査の可否 |
I型TD |
II型TD |
FGFR3 |
標的変異解析:選択領域の配列解析 |
報告された変異1, 2 |
最大99% |
NA |
臨床「検査」 |
p.Lys650Glu |
NA |
> 99% |
コード領域全体の配列解析3 |
FGFR3配列バリアント |
> 99% |
> 99% |
検査の可否とは、GeneTests研究機関名簿(Laboratory Directory)に掲載されている機関において、検査を実施している機関があるか否かを意味する。GeneReviewsは、分子遺伝学的検査が、米国のCLIAに認可された研究機関または米国以外の臨床検査室によってGeneTests研究機関名簿に掲載されている場合に限り、その検査は臨床的に実施可能とする。GeneTestsは、検査機関が提出する情報を検証することはなく、検査機関の資格や実績に関しても保証するものではない。情報を検証するためには、臨床医は直接検査機関に連絡すること。
NA=該当なし
- p.Lys650Metは、発育遅延と黒色表皮症を伴う重度の軟骨無形成症(SADDAN)およびI型の致死性骨異形成症の両方を発症させる変異であるが、この検査を行わない検査機関もある(Bellus et al 2000)。
- 変異パネルと検出率は検査機関によって異なることがある。
- 臨床適応とはされていない。臨床的検査の、FGFR3コード領域全体の配列解析を参照のこと。
検査結果の解釈:配列解析結果の解釈において考慮すべき問題については、ここをクリック。
検査手順
出生前または出生後検査の所見からTDが疑われた場合に診断を確立するには:
・まっすぐな大腿とクローバー葉頭蓋によってII型TDが疑われた場合は、p.Lys650Glu変異の標的検査が、診断検査における適切な第一ステップと考えられる。
・これ以外の場合は、選択的エキソンの配列解析、または、報告されている疾患に関連した変異を含む変異パネルのハイブリダイゼーションに基づく検査が推奨される。
リスクのある妊娠の出生前診断の場合、家族内の疾患の原因となる変異を事前に同定しておく必要がある。
注:過去にTDと確定された子を持つ家族は、分子遺伝学的検査を選択する可能性がある(しかし再び同じ疾患の子を持つリスクの有意な上昇はなく、超音波検査によって妊娠の初期段階でTDを検出することが可能である)。
遺伝的に関連のある疾患
FGFR3変異は様々な疾患において同定されており、その臨床型には大きなばらつきが見られる:
- 軟骨無形成症 achondroplasia:原因となるFGFR3変異のp.Gly380Argおよびp.Gly375Cysは、患者のほぼ100%で同定されている(Camera et al 2001)。Camera et al(2001)は、一般的なTDのI型変異p.Arg248Cysおよび軟骨無形成症の臨床的表現型を持つ患者の1例を報告している。モザイク現象が軽度の臨床型の要因である可能性は残るが、口腔内粘膜細胞と血液のいずれにもモザイク現象は確認されていない。
- 軟骨低形成症 hypochondroplasia:FGFR3変異は軟骨低形成症患者の80%において同定されているが、いくつかの家族はFGFR3との関連を持たない。そのため、遺伝的異質性が考えられる(Camera et al 2001)。
- SADDAN(発育遅延と黒色表皮症を伴う重度の軟骨無形成症 severe achondroplasia with developmental delay and acanthosis nigricans):FGFR3変異p.Lys650Metが原因で発症する(Bellus et al 1999, Tavormina et al 1999)。
- 黒色表皮症を伴うCrouzon症候群:(「FGFR関連頭蓋骨縫合早期癒合症症候群」を参照)はFGFR3変異p.Ala391Gluが原因で発症する。
- 家族性黒色表皮症 familial acanthosis nigricans:A p.Lys650Thr変異は、常染色体優性遺伝である黒色表皮症および小人症に罹患した家族の複数名に同定されている。
- 非症候性冠状縫合癒合症(Muenke syndrome)(「FGFR関連頭蓋骨縫合早期癒合症症候群」も参照のこと)は、FGFR3のp.Pro250Arg変異を特徴とする(Passos-Bueno et al 1999, McIntosh et al 2000)。
- 致死性扁平椎異形成症platyspondylic lethal skeletal dysplasia, San Diego型(PLSD-SD):PLSD-SDは、これまで明確な臨床的概念と言われてきたが、TDとの間に共通する臨床型が多く見られる。両疾患とも、短く、弯曲した長管骨、扁平椎、短肋骨といった特徴を持つ。PLSD-SDでは、骨幹端の広がりと軟骨細胞異常はそれほど重度ではない(Brodie et al 1999)。重要な組織学的な違いは、小胞体内で拡張した係蹄/封入体が、PLSD-SDの軟骨細胞内に一貫して存在していることで、これはTDの典型的な症状ではない。Brodie et al(1999)が調査したPLSD-SD患者全員に、過去にI型TDに関連して報告されたFDFR3変異が見られた。
- LADD症候群(涙骨-耳介-歯-指症候群 lacrimo-auriculo-dento-digital syndrome、レビー・ホリスター症候群 Levy Hollister syndrome):この疾患に罹患した一家族においてFGFR3変異p.Asp513Asnが報告されている(Rohmann et al 2006)。
臨床像
自然経過
型およびII型の致死性骨異形成症(TD)は、出生前または出生直後に診断される。両亜型とも致死的な骨異形成症と考えられており、最も重度の乳児は、出生後数時間あるいは数日間で呼吸不全が原因で死に至る。呼吸不全は、小さい胸腔および肺形成不全、および大後頭孔が小さいことに起因する脳幹の圧迫の続発症として、または両者の組み合わせで発生すると思われる。罹患した小児のなかには、積極的な人工呼吸により小児期まで生存した患者もいる。
長期生存者
2人の子供(最後の追跡検査の時点で男児4.75歳、女児3.7歳)の臨床所見を、MacDonald et al(1989)が要約している。両者とも誕生時の身長と体重が3パーセンタイル値を下回っていた。頭囲は97パーセンタイル値だった。両者とも生後10ヶ月以降は成長が停止した:
- 男児は出生時から人工呼吸が、生後3ヶ月で気管切開術が必要だった。その他の臨床所見は以下の通りである:生後2ヶ月で小肢症、余剰な皮膚のひだ、水頭症と診断され、生後3ヶ月で発作活動、生後15ヶ月で脳幹の圧迫を伴う小さい大後頭孔、生後20ヶ月以降は、発達の進行は僅かだった。扁平椎、弯曲した管状骨、広がった肋骨がX線写真上で示された。頭部CTは脳の白質と灰白質の区分が異常であることを示した。
- 女児は、生後2ヶ月から人工呼吸を開始する必要があった。生後2ヶ月で脳幹の圧迫を伴う小さい大後頭孔が診断され、生後4ヶ月で水頭症と診断された。生後3.7歳で、両側性難聴と進行性の尾側脊椎の骨化欠如が見られた。この患者は2つの単語といくつかの手話を理解した。
9歳男児で一般的TDのI型変異p.Arg248Cysが報告されている。誕生時の体重は50パーセンタイル値(標準成長曲線)だった。誕生時身長は平均の4SD未満であった(軟骨無形成症成長曲線)。この患者には気管切開術と人工呼吸が必要であった。3歳で脳室拡大は安定、頭蓋骨縫合早期癒合症、わずかな四肢伸長を示した。8歳までには発作、両側性難聴、脊柱後弯症、さらに関節の過可動性と関節性拘縮の両方が認められた。9歳では四肢が少し成長し、造影所見は、TDの場合に予測されるものに類似していた。また、広範囲におよぶ黒色表皮症が見られた。発達は著しく遅延し、発語はなかった。最終的な身長は80~90cm(32~35インチ)と推定された。当該罹患患者は17歳の現在も生存しており、状態に変化はない(Pauli, 私信)。
モザイク現象:47歳で一般的なTD のI型変異p.Arg248Cysのモザイクの女性には、非対称な四肢の長さ、両側性先天性股関節脱臼、病巣エリアの骨の弯曲、「S」字状の上腕骨、広範囲の黒色表皮症、四肢の長さ全般に見られる余剰な皮膚のひだ、膝と肘の屈曲変形が認められた(Hyland et al 2003)。この患者には子供時代に発達段階に遅延が見られた。学力は健康な同胞よりも低かったが、読み書きができ、工場の労働者として雇用されている。この患者の唯一の妊娠は、四肢短縮型骨異形成症および肺形成不全の男児を30週目に死産という結果に終わった。
遺伝子型と臨床型の関連
I型およびII型TDに、共通するFGFR3変異は認められない(Wilcox et al 1998, Brodie et al 1999, Camera et al 2001)。
TDの要因となるFGFR3変異に、遺伝子型と臨床型の強い関連は認められなかった。TD臨床型のばらつきが報告されており、提示された長骨の軟骨内疾患の重症度に変異依存性の差があることを除けば(Bellus et al 2000)、変異特異性は見られない。
その他の臨床疾患に、過去にTD患者において同定したFGFR3変異が関与することはまれである(「対立遺伝子疾患」参照)。
浸透度
FGFR3における変異の浸透率は100%であった。
促進現象
促進現象は観察されなかった。
病名
TDは当初、thanatophoric dwarfismと呼ばれていたが、この用語は現在では使われていない。
特定の亜型(San Diego、LutonあるいはTorrance)と共に使われるPLSDという用語は、致死性脊椎異形成症の一種だと考えられているが、TDのIおよびII型とは異なる臨床的概念と考えられる。その臨床的類似性から、PLSDは時に「TDバリアント」と呼ばれる。
頻度
TDはおよそ出生児の2万人に1人~5万人に1人の割合で発生する(Wilcox et al 1998, Sawai et al 1999, Baitner et al 2000, Chen et al 2001)。
鑑別診断
本セクションに含まれる疾患の遺伝子検査の可否に関する現在の情報は、GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと。―ED。
致死性骨異形成症(TD)の鑑別診断において考慮すべき疾患(Passos-Bueno et al 1999, De Biasio et al 2000, Lee et al 2002, Neumann et al 2003):
- ホモ接合性軟骨無形成症 homozygous achondroplasiaは、臨床像が類似しており、両親ともが軟骨無形成症の場合は、鑑別診断に含めるべきである。
- 軟骨無発生症 achondrogenesisは、IA型、IB型およびII型の軟骨無発生症、蝸牛様骨盤異形成症Schneckenbecken dysplasiaを含む。IB型軟骨無発生症(ACG1B)の臨床的特徴は、四肢が極端に短く指趾も短い、胸郭の形成不全、腹部の隆起、そして短い骨格に対して軟組織が多いことに起因する胎児水腫の外観などである。顔は平坦で、首が短く、首の軟組織が厚くなっていることがある。椎体の骨化はまったくないか、ほとんどない。肋骨は短い。腸骨は上部のみ骨化し、X線上では三日月形の「パラグライダー様」の外見が見られる。坐骨は通常骨化しない。管状骨は、主軸が確認できないほど短くなっており、骨幹の突起は「サンザシ」のような外観を擁する。指骨の骨化は不十分で、そのためX線写真ではほとんど確認できない。出生前または出生後間もなく死亡する。最終診断はSLC26A2(DTDST)の分子遺伝学的検査に基づいて行うべきである。肋骨骨折が認められ、脊椎椎弓根部の骨化が確認されない場合は、ACG1Aの可能性が示唆される。ACG2では、くぼんだ内側縁と下縁を伴う腸骨の非常に典型的な構造、さらに坐骨と恥骨の非骨化が認められるほか、ACG1Bよりも椎体の非骨化がさらに重度である。ACG1Aでは遺伝子欠損は発見されておらず、ACG2はCOL2A1変異に起因する。
- SADDAN(発育遅延と黒色表皮症を伴う重度の軟骨無形成症)(「軟骨無形成症」参照)はまれな疾患で、極端な低身長、膝骨の弯曲、重度の成長遅延、そして黒色表皮症が特徴である。TD患者と異なり、SADDAN異形成症患者は、乳児期を過ぎても生存する。この臨床型を持つ血縁関係のない患者3名の観察をこれまで続けてきたところ、閉塞性無呼吸が見られたが、長期の人工換気機器の使用は不要であった。FGFR3のp.Lys650Met変異は、3名の患者全員で同定された。
- II型骨形成不全症 osteogenesis imperfecta type II(II型OI):骨形成不全症(OI)は、最小限の外傷または外傷を伴わない骨折を特徴とする。臨床的に、OIは4つの型に分類される。TDを最も連想させるのはII型OI(周産期致死型)である。本疾患の特徴は、極端な低身長、暗青色の強膜、重度の四肢奇形、肋骨の多発性骨折、最小限の頭蓋冠のミネラル化、扁平椎、長骨の顕著な圧迫である。生化学的検査(in vitroで培養表皮繊維芽細胞によって合成したI型コラーゲンの構造と量の分析)では、II型OI患者の98%に異常が検出される。II型OI患者のほとんどに、I型コラーゲンをコードする2つの遺伝子COL1A1またはCOL1A2のいずれかの変異が見られた。II型骨形成不全症は常染色体優性遺伝である。
- 短肋骨多指症候群 short rib-polydactyly syndromesは、胸郭の狭小化を伴う四肢短縮型小人症である。これらは現在4つの亜型に分類されるが、明確な臨床的概念としては立証されていないものもある。これらの疾患をTDと区別する所見は、手足の多指(趾)症または合指(趾)症、あるいはこの両方である。I型(Saldino-Noonan型)は、心臓欠陥を特徴とする。II型(Majewski型)では、口唇裂、口蓋裂、外性器異常、腎臓の異常が見られることがある。遺伝形質は常染色体劣性である。
- 屈曲肢異形成症 campomelic dysplasia(CD)は出生前に発病し、通常は胸郭の狭小化を伴う致死性骨異形成症である。CD患者は、弯曲脛骨、皮膚のくぼみ、肩甲骨低形成を示す。CD患者の多くは肋骨が11対である。管状骨は発育が悪く、骨化が未熟である。Mansour et al(1995)は最大75%のCD患者が核型46、XYで、女性の外性器か外性器異常のいずれかを有することを明らかにした。屈曲肢異形成症は、SOX9内のde novo、常染色体優性変異あるいは第17染色体上のSOX9の上流または下流の染色体再構成に起因する。
- 近位型点状軟骨異形成症 rhizomelic chondrodysplasia punctata(RCDP)は、ペルオキシソーム形成異常症である。典型的な型である1型(RCDP1)には、近節短縮(上腕の短縮、これに比べて重症度の低い大腿の短縮)、骨端および骨幹端異常を伴う軟骨の点状石灰化(点状軟骨異形成症)、椎体の冠状溝、さらに、通常出生時に罹患しているか生後数ヶ月で現れる白内障という特徴が見られる。その後、重度の精神遅滞と出生後の成長遅延が顕著に現れる。罹患した患者のほとんどは、出生から10年生きられない。RCDP1の診断は、赤血球のプラズマロゲン欠損、血漿中のフィタン酸濃度上昇、そしてプラズマロゲン生合成の不足と培養皮膚線維芽細胞におけるフィタン酸の酸化を明らかにすることにより確定する。本疾患はPEX7受容体欠損が原因で発症する。多くの場合、ありふれた一般的な遺伝子変異(common mutation)が原因である。遺伝形質は常染色体劣性である。
- 窒息性胸郭異形成症 asphyxiating thoracic dystrophy(Jeune胸郭異形成症)は、胸郭の狭小化を特徴とするもう一つの軟骨異形成である。低身長と短い四肢が乳児期に見られるが、生存者には軽度から中程度の低身長しか現れないこともある。生存者は共通して腎不全を発症し、肝疾患を発症することもある。罹患した患者の一部は、染色体3q25.33上のIFT80に変異が認められる(Beales et al 2007)。もう一つの遺伝子座が15q13にマップされている。遺伝形質は常染色体劣性である。
- 致死性扁平椎異形成症 platyspondylic lethal skeletal dysplasia(PLSD)―San Diego型、Torrance型、Luton型:これらの四肢短縮型小人症は臨床的にTDと酷似しており、しばしば「TDバリアント」と呼ばれる。Luton型はTorrance型の軽症型だと考えられている(Nishimura et al 2004)。Torrance型PLSDは不規則な骨幹端を伴う長骨の短縮、橈骨の弯曲、ウエハース様の椎骨を特徴とする。すべての亜型に、一貫して存在する軟骨細胞における小胞体の拡張した係蹄が認められるため、組織学的にTDとは区別される。FCFR3変異はSan Diego型PLSDに同定されているが、Torrance型とLuton型では認められていない(Brodie et al 1999, Neumann et al 2003)。Nishimura et al(2004)とZankl et al(2005)は、Torrance 型PLSDまたはTorrance-Luton型PLSDに罹患したいくつかの家族においてCOL2A1変異を同定した。
- 分節異常骨異形成症dyssegemental dysplasia, Silverman-Handmaker型(DDSH)は、致死性疾患で、胸郭の狭小化、短い首、低身長、弯曲した四肢、そして椎骨の不規則な骨化が特徴である。脳ヘルニアと口蓋裂が共通して発生する。DDSHは、へパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)遺伝子の変異が原因で発症する(Arikawa-Hirasawa et al 2001)。遺伝形質は常染色体劣性である。
臨床的マネジメント
最初の診断時における評価
致死性骨異形成症(TD)と診断された新生児の疾患の範囲を確定するためには、以下の評価が推奨される:
- 呼吸数および皮膚の色による呼吸状態の評価。出生直後の時期を超えて生存した乳児の場合、動脈血液ガスが有用と考えられる。
- CTまたはMRIによる水頭症またはその他の中枢神経系異常の有無の評価
症状に対する治療
臨床的マネジメントにおける懸念事項は、新生児のために両親が極度に生命維持措置、および鎮痛ケアの実施を希望することに限られる。
新生児は生存するために呼吸サポート(気管切開術および人工換気装置)が必要である。
他の手段:
- 一般人口集団において実施するのと同様に、発作を抑えるための薬物療法
- 水頭症が確認された場合のシャント設置
- 頭頸接合部の狭窄を緩和するための後頭下減圧術
- 難聴が確認されたときの補聴器
二次病変の予防
出生前にTDと診断された場合、潜在的妊娠合併症には、早産、羊水過多症、胎位異常、そして水頭症または首の屈曲と硬直による巨大頭蓋に起因する児頭骨盤不均衡などがある。母体の合併症を回避するために、頭蓋穿刺と帝王切開術も検討するべきである。
経過観察
以下を行うことが適切である:
- 理学的検査に基づく神経学的状態の定期検査
- 関節性拘縮または関節の過可動性の発症に基づく整形外科評価(Wilcox et al 1998)
- 聴覚機能評価
- 長期生存者の呼吸不全が頭頸接合部の脳幹圧迫に起因する可能性がある場合に、CTで頭頸部の狭窄を評価する
- 発作活動を示すEEG
リスクのある親族の検査
リスクのある親族の検査に関連する問題を対象とした遺伝カウンセリングは、「遺伝カウンセリング」を参照のこと。
研究中の治療法
広範囲の疾患や病状の臨床研究に関する情報にアクセスするには、ClinicalTrials.govを検索すること。注:本疾患の臨床試験が実施されていない可能性がある。
その他
遺伝クリニックは、遺伝学の専門家を配置し、患者や家族に自然経過、治療、遺伝形式、さらに他の家族への遺伝的リスクや利用可能な消費者志向の資源に関する情報も提供している。ジーンテスト・クリニック名簿(GeneTests Clinic Directory)を参照のこと。
本疾患の疾患特異的および/または包括的な支援機関については「消費者資源」を参照のこと。これらの機関は、患者および家族に情報、サポート、本疾患に罹患した他の患者とコンタクトする機会を提供するために設立された。
遺伝カウンセリング
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
致死性骨異形成症(TD)は常染色体優性遺伝であり、発端者の大多数はde novo変異を有する。
患者家族のリスク
発端者の両親
- TDはほぼ100%、FGFR3のde novo変異が原因で起こる。
- 発端者の両親は罹患しない。
- FGFR3の生殖細胞変異(p.Arg248Cys)を含む体細胞モザイク現象が、罹患した患者1名に報告されている(Hyland et al 2003)。当該患者の唯一の子は、致死性骨異形成症に罹患していた。現在の診断技術では、TDの原因となるFGFR3変異のモザイク現象は検出されない。
- 父親の高齢による影響が報告されている(Lemyre et al 1999)。
発端者の同胞
- 発端者の同胞へのリスクは、発端者の両親の遺伝学的状況による。
- TDは通常de novo変異の結果として発症するので、発端者の同胞へのリスクは小さい。
- 骨異形成症の兆候のない人における生殖細胞モザイク現象の事例は文献では報告されていないが、理論的に可能性は残っている。
発端者の子
- TDに罹患した患者が子を持つことはない。
- FGFR3における変異(p.Arg248Cys)の体細胞および生殖細胞モザイク現象が、罹患した患者1名において報告されている(Hyland et al 2003)。本患者の唯一の子は致死性骨異形成症だった。
発端者の他の家族
発端者の拡大した家系のリスクが高まることはない。
遺伝カウンセリングに関連した問題.
家族計画 遺伝学的リスク評価や出生前検査の可否などについての議論は妊娠前に行うことが望ましい。
DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子、変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、DNA保存が考慮される。DNAバンクは特に分子遺伝学的検査の感度が100%でないような状況においてはことに重要である。DNAバンキングを提供する研究機関のリストは「検査」を参照すること。
出生前診断
リスクのある妊娠:親のモザイク現象の結果、TDへのリスクが増加した妊娠のための出生前診断は、通常妊娠15-18週に採取した羊水中細胞や、約10-12週の絨毛穿刺(CVS)によって胎児細胞から抽出されたDNAの解析によって可能である。家族内の疾患を引き起こす対立遺伝子は、出生前診断の前に同定しておくべきである。
注:胎生週数は最終正常月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される。
訳者注:TDではほとんどの例で突然変異であり、「リスクのある妊娠」は現実的にはほぼない。
リスクの少ない妊娠:定期的な出生前超音波検査で確認された骨格所見(例:クローバー葉頭蓋、著明な四肢短縮、胸郭低形成)によって、リスクがあると認識されていなかった胎児がTDと診断される可能性が生じることがある。一旦出生前に致死的と思われる骨異形成症が認められた場合、正確な確定診断は困難なことがある。これらの状況下では、FGFR3変異の分子遺伝学的検査を検討するのが妥当である。
訳者注:出生前診断のほとんどはこの「リスクの少ない妊娠」に該当する。上記の超音波検査と遺伝子検査に加えて、近年は胎児CTも実施されている。
着床前遺伝子診断(PGD)は、
疾患の原因となる変異が確認された家族を対象に実施可能である。PGDを実施している研究機関は「検査」を参照のこと。
更新履歴:
- Gene Review著者:Barbara Karczeski, MS, Garry R Cutting, MD
日本語訳者:澤井英明(兵庫医科大学 産科婦人科学)
Gene Review: 最終更新日: 2008.9.30. 日本語訳最終更新日: 2010.09.05[in present]
平成22年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「致死性骨異形成症の診断と予後に関する研究」(研究代表者 澤井英明)より補助を得て翻訳した.
原文 Thanatophoric dysplasia
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