致死性骨異形成症
(Thanatophoric dysplasia)

[Includes: Thanatophoric Dysplasia Type I, Thanatophoric Dysplasia Type II]

Gene Review著者:Barbara Karczeski, MS, Garry R Cutting, MD
日本語訳者:澤井英明(兵庫医科大学 産科婦人科学)
Gene Review: 最終更新日: 2008.9.30.         日本語訳最終更新日: 2010.09.05

原文 Thanatophoric dysplasia


要約

疾患の特徴 

致死性骨異形成症(TD)は四肢短縮型小人症で、通常周産期においては致死的である。TDはI型とII型に分類され、I型は弯曲した大腿骨を伴う小肢症が特徴的で、まれに重症度の異なるクローバー葉頭蓋(Kleeblattschaedel)が見られる。また、II型の特徴は、まっすぐな大腿骨を伴う小肢症、中程度から重度までのクローバー葉頭蓋が必ず見られることである。これ以外にI型とII型に共通する特徴は、短肋骨、胸郭の狭小化、巨大頭蓋、独特な顔の特徴、短指症、低血圧症、さらに四肢に沿った余剰な皮膚のひだ等である。最も重度の乳児は、生後間もなく呼吸不全で死に至る。長期生存者の報告はまれである。

診断・検査 

TDの診断は、臨床検査および/または出生前超音波検査に加えて、放射線学的所見を元に行う。特徴的な病理組織学的特徴も見られる。FGFR3は、TDに関連する唯一の遺伝子である。原因となる変異は、I型TDでは最大99%、II型TDでは99%を超える変異を、臨床的に利用可能なFGFR3の分子遺伝学的検査によって同定することができる。

臨床的マネジメント 

症状の治療:出生前にTDと診断された場合、治療の目標は、早産、羊水過多症、胎位異常、巨大頭蓋および/または首の屈曲や硬直による出産合併症などの潜在的な妊娠合併症を避けることである。臨床的管理は、新生児のための緩和ケアの実施に対する両親の希望に焦点を置く。新生児は生存のため呼吸サポート(気管切開術と人工換気装置による)が必要である。

その他の治療方法には、発作を抑制するための抗てんかん薬、水頭症へのシャント設置、頭頸接合部の狭窄緩和のための後頭下減圧術、そして補聴器などがある。

定期検査:長期生存者には神経学的、整形外科的、聴覚的評価に、頭顎部の狭窄を観察するためのCT、発作活動を観察するEEGが必要である。

遺伝カウンセリング 

TDは常染色体優性遺伝であり、発端者の大多数はFGFR3にde novo変異が見られる。かつて罹患した子を1人持った両親が、再び同じ疾患の子を持つリスクが、一般人口集団に比べて有意に高まることはない。健康な両親における生殖細胞モザイク現象はこれまで報告されていないものの、理論的可能性としては依然として残っている。出生前診断は、超音波検査および分子遺伝学的検査によって可能である。


診断

臨床診断

致死性異形性(TD)は四肢短縮型小人症の1つであり、この疾患が疑われるのは、出生前あるいは新生児期に長管骨の著しい短縮と胸郭の狭小化が観察され、特に周産期死亡が発生した場合である。

出生前超音波検査Sawai et al 1999, De Biasio et al 2000, Chen et al 2001, Ferreira et al 2004, De Biasio et al 2005, Li et al 2006)による妊娠時期ごとの所見は以下の通りである:

出産後の理学的検査(Lemyre et al 1999, Passos-Bueno et al 1999, Sawai et al 1999, De Biasio et al 2000):

レントゲン写真/その他の画像解析(Wilcox et al 1998, Lemyre et al 1999):

その他の報告所見は、心臓異常(動脈管開存症および心房中隔欠損症)および腎臓の異常など。

検査

病理組織学(Wilcox et al 1998, Lemyre et al 1999):

分子遺伝学的検査

遺伝子

FGFR3はI型TDおよびII型TDの原因として知られる唯一の遺伝子である。FGFR3変異p.Lys650Gluは、II型TD患者全員において同定されている(Bellus et al 2000)。

臨床検査

表1 致死性骨異形成症に実施した分子遺伝学的検査の要約

遺伝子記号 Test Method 検出された変異 検査方法および臨床型ごとの変異検出頻度 検査の可否
I型TD II型TD
FGFR3 標的変異解析:選択領域の配列解析 報告された変異1, 2 最大99% NA 臨床「検査」
p.Lys650Glu NA > 99%
コード領域全体の配列解析3 FGFR3配列バリアント > 99% > 99%

検査の可否とは、GeneTests研究機関名簿(Laboratory Directory)に掲載されている機関において、検査を実施している機関があるか否かを意味する。GeneReviewsは、分子遺伝学的検査が、米国のCLIAに認可された研究機関または米国以外の臨床検査室によってGeneTests研究機関名簿に掲載されている場合に限り、その検査は臨床的に実施可能とする。GeneTestsは、検査機関が提出する情報を検証することはなく、検査機関の資格や実績に関しても保証するものではない。情報を検証するためには、臨床医は直接検査機関に連絡すること。
NA=該当なし

  1. p.Lys650Metは、発育遅延と黒色表皮症を伴う重度の軟骨無形成症(SADDAN)およびI型の致死性骨異形成症の両方を発症させる変異であるが、この検査を行わない検査機関もある(Bellus et al 2000)。
  2. 変異パネルと検出率は検査機関によって異なることがある。
  3. 臨床適応とはされていない。臨床的検査の、FGFR3コード領域全体の配列解析を参照のこと。

検査結果の解釈:配列解析結果の解釈において考慮すべき問題については、ここをクリック。

検査手順

出生前または出生後検査の所見からTDが疑われた場合に診断を確立するには:

・まっすぐな大腿とクローバー葉頭蓋によってII型TDが疑われた場合は、p.Lys650Glu変異の標的検査が、診断検査における適切な第一ステップと考えられる。

・これ以外の場合は、選択的エキソンの配列解析、または、報告されている疾患に関連した変異を含む変異パネルのハイブリダイゼーションに基づく検査が推奨される。

リスクのある妊娠の出生前診断の場合、家族内の疾患の原因となる変異を事前に同定しておく必要がある。

注:過去にTDと確定された子を持つ家族は、分子遺伝学的検査を選択する可能性がある(しかし再び同じ疾患の子を持つリスクの有意な上昇はなく、超音波検査によって妊娠の初期段階でTDを検出することが可能である)。

遺伝的に関連のある疾患

FGFR3変異は様々な疾患において同定されており、その臨床型には大きなばらつきが見られる:


臨床像

自然経過

型およびII型の致死性骨異形成症(TD)は、出生前または出生直後に診断される。両亜型とも致死的な骨異形成症と考えられており、最も重度の乳児は、出生後数時間あるいは数日間で呼吸不全が原因で死に至る。呼吸不全は、小さい胸腔および肺形成不全、および大後頭孔が小さいことに起因する脳幹の圧迫の続発症として、または両者の組み合わせで発生すると思われる。罹患した小児のなかには、積極的な人工呼吸により小児期まで生存した患者もいる。

長期生存者

2人の子供(最後の追跡検査の時点で男児4.75歳、女児3.7歳)の臨床所見を、MacDonald et al(1989)が要約している。両者とも誕生時の身長と体重が3パーセンタイル値を下回っていた。頭囲は97パーセンタイル値だった。両者とも生後10ヶ月以降は成長が停止した:

9歳男児で一般的TDのI型変異p.Arg248Cysが報告されている。誕生時の体重は50パーセンタイル値(標準成長曲線)だった。誕生時身長は平均の4SD未満であった(軟骨無形成症成長曲線)。この患者には気管切開術と人工呼吸が必要であった。3歳で脳室拡大は安定、頭蓋骨縫合早期癒合症、わずかな四肢伸長を示した。8歳までには発作、両側性難聴、脊柱後弯症、さらに関節の過可動性と関節性拘縮の両方が認められた。9歳では四肢が少し成長し、造影所見は、TDの場合に予測されるものに類似していた。また、広範囲におよぶ黒色表皮症が見られた。発達は著しく遅延し、発語はなかった。最終的な身長は80~90cm(32~35インチ)と推定された。当該罹患患者は17歳の現在も生存しており、状態に変化はない(Pauli, 私信)。

モザイク現象:47歳で一般的なTD のI型変異p.Arg248Cysのモザイクの女性には、非対称な四肢の長さ、両側性先天性股関節脱臼、病巣エリアの骨の弯曲、「S」字状の上腕骨、広範囲の黒色表皮症、四肢の長さ全般に見られる余剰な皮膚のひだ、膝と肘の屈曲変形が認められた(Hyland et al 2003)。この患者には子供時代に発達段階に遅延が見られた。学力は健康な同胞よりも低かったが、読み書きができ、工場の労働者として雇用されている。この患者の唯一の妊娠は、四肢短縮型骨異形成症および肺形成不全の男児を30週目に死産という結果に終わった。

遺伝子型と臨床型の関連

I型およびII型TDに、共通するFGFR3変異は認められない(Wilcox et al 1998, Brodie et al 1999, Camera et al 2001)。

TDの要因となるFGFR3変異に、遺伝子型と臨床型の強い関連は認められなかった。TD臨床型のばらつきが報告されており、提示された長骨の軟骨内疾患の重症度に変異依存性の差があることを除けば(Bellus et al 2000)、変異特異性は見られない。

その他の臨床疾患に、過去にTD患者において同定したFGFR3変異が関与することはまれである(「対立遺伝子疾患」参照)。

浸透度

FGFR3における変異浸透率は100%であった。

促進現象

促進現象は観察されなかった。

病名

TDは当初、thanatophoric dwarfismと呼ばれていたが、この用語は現在では使われていない。

特定の亜型(San Diego、LutonあるいはTorrance)と共に使われるPLSDという用語は、致死性脊椎異形成症の一種だと考えられているが、TDのIおよびII型とは異なる臨床的概念と考えられる。その臨床的類似性から、PLSDは時に「TDバリアント」と呼ばれる。

頻度

TDはおよそ出生児の2万人に1人~5万人に1人の割合で発生する(Wilcox et al 1998, Sawai et al 1999, Baitner et al 2000, Chen et al 2001)。


鑑別診断

本セクションに含まれる疾患の遺伝子検査の可否に関する現在の情報は、GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと。―ED。

致死性骨異形成症(TD)の鑑別診断において考慮すべき疾患(Passos-Bueno et al 1999, De Biasio et al 2000, Lee et al 2002, Neumann et al 2003):


臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

致死性骨異形成症(TD)と診断された新生児の疾患の範囲を確定するためには、以下の評価が推奨される:

症状に対する治療

臨床的マネジメントにおける懸念事項は、新生児のために両親が極度に生命維持措置、および鎮痛ケアの実施を希望することに限られる。

新生児は生存するために呼吸サポート(気管切開術および人工換気装置)が必要である。

他の手段:

二次病変の予防

出生前にTDと診断された場合、潜在的妊娠合併症には、早産、羊水過多症、胎位異常、そして水頭症または首の屈曲と硬直による巨大頭蓋に起因する児頭骨盤不均衡などがある。母体の合併症を回避するために、頭蓋穿刺と帝王切開術も検討するべきである。

経過観察

以下を行うことが適切である:

リスクのある親族の検査

リスクのある親族の検査に関連する問題を対象とした遺伝カウンセリングは、「遺伝カウンセリング」を参照のこと。

研究中の治療法

広範囲の疾患や病状の臨床研究に関する情報にアクセスするには、ClinicalTrials.govを検索すること。注:本疾患の臨床試験が実施されていない可能性がある。

その他

遺伝クリニックは、遺伝学の専門家を配置し、患者や家族に自然経過、治療、遺伝形式、さらに他の家族への遺伝的リスクや利用可能な消費者志向の資源に関する情報も提供している。ジーンテスト・クリニック名簿(GeneTests Clinic Directory)を参照のこと。

本疾患の疾患特異的および/または包括的な支援機関については「消費者資源」を参照のこと。これらの機関は、患者および家族に情報、サポート、本疾患に罹患した他の患者とコンタクトする機会を提供するために設立された。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

致死性骨異形成症(TD)は常染色体優性遺伝であり、発端者の大多数はde novo変異を有する。

患者家族のリスク

発端者の両親

発端者の同胞

発端者の子

発端者の他の家族 

発端者の拡大した家系のリスクが高まることはない。

遺伝カウンセリングに関連した問題.

家族計画 遺伝学的リスク評価や出生前検査の可否などについての議論は妊娠前に行うことが望ましい。

DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、DNA保存が考慮される。DNAバンクは特に分子遺伝学的検査感度が100%でないような状況においてはことに重要である。DNAバンキングを提供する研究機関のリストは「検査」を参照すること。

出生前診断

リスクのある妊娠:親のモザイク現象の結果、TDへのリスクが増加した妊娠のための出生前診断は、通常妊娠15-18週に採取した羊水中細胞や、約10-12週の絨毛穿刺(CVS)によって胎児細胞から抽出されたDNAの解析によって可能である。家族内の疾患を引き起こす対立遺伝子は、出生前診断の前に同定しておくべきである。

注:胎生週数は最終正常月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される。
訳者注:TDではほとんどの例で突然変異であり、「リスクのある妊娠」は現実的にはほぼない。

リスクの少ない妊娠:定期的な出生前超音波検査で確認された骨格所見(例:クローバー葉頭蓋、著明な四肢短縮、胸郭低形成)によって、リスクがあると認識されていなかった胎児がTDと診断される可能性が生じることがある。一旦出生前に致死的と思われる骨異形成症が認められた場合、正確な確定診断は困難なことがある。これらの状況下では、FGFR3変異分子遺伝学的検査を検討するのが妥当である。

訳者注:出生前診断のほとんどはこの「リスクの少ない妊娠」に該当する。上記の超音波検査と遺伝子検査に加えて、近年は胎児CTも実施されている。

着床前遺伝子診断(PGD)は、疾患の原因となる変異が確認された家族を対象に実施可能である。PGDを実施している研究機関は「検査」を参照のこと。

更新履歴:

  1. Gene Review著者:Barbara Karczeski, MS, Garry R Cutting, MD
    日本語訳者:澤井英明(兵庫医科大学 産科婦人科学)
    Gene Review: 最終更新日: 2008.9.30.         日本語訳最終更新日: 2010.09.05
    [in present]

平成22年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「致死性骨異形成症の診断と予後に関する研究」(研究代表者 澤井英明)より補助を得て翻訳した.

原文 Thanatophoric dysplasia

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