トゥレット障害概説
(Tourette Disorder Overview)

[Gilles de la Tourette Syndrome, Maladie de Tics, Tourette Syndrome]

Gene Review著者: Althea Stillman, PhD; A Gulhan Ercan-Sencicek, PhD; Matthew W State, MD, PhD
日本語訳者: 大塚洋子(ボランティア翻訳者)、櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
Gene Review 最終更新日: : 2009.11.10. 日本語訳最終更新日: 2012.12.24

原文 Tourette Disorder Overview [GeneReviews から削除:2017年3月1日確認]


要約

疾患の特徴 

トゥレット障害(TD: Tourette Disorder)は、多様性の運動チックと少なくとも1種類の音声チックが1年を超えて持続する病態と定義される。チックとは、突発的に始まり素早く繰り返す、非律動的かつ常同的な運動または発声をいう。音声チックまたは運動チック(いずれか一方のみ)の症状が1年を超えて持続する場合に、それぞれ慢性音声チック(CVT)または慢性運動チック(CMT)と診断される。トゥレット障害は、幼児期に発症し、典型例では思春期前に症状のピークを迎え、成人するまでに著しい改善をみる。また、トゥレット障害は、他の精神神経障害、とりわけ、注意欠如・多動性障害(ADHD)および強迫性障害(OCD)、またはいずれか一方の障害と併存することが多い。同時期に症状を示したこれらの併存疾患がきっかけとなって、医学的処置が開始される例がたびたびみられる。

診断・検査 

米国内では、米国精神医学会(APA)発表の『精神障害の診断と統計の手引き』(DSM-IV-TR: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th edition text revision)がTDの主な診断基準として使用されている。TDの発病には遺伝因子の関与をうかがわせる有力な証拠があるが、今日に至るまで遺伝子座は確定されていない。TDに関連すると考えられている数個の遺伝子の一つSLITRK1の分子遺伝学的検査が臨床的に利用できる。ただし、現在の知見に基づく限り、この検査に臨床上の意義はほとんどない。

臨床的マネジメント 

症状の治療: 個々の患者に即して対応する。行動療法(特に習慣逆転法)の他に、ドーパミン拮抗薬やα2アドレナリン受容体作動薬による薬物療法も有効性が明らかになっている。チックの抑制を目的とした治療よりも併存障害の管理(薬物療法もしくは行動療法や心理療法による)が優先されることが多い。

遺伝カウンセリング 

トゥレット障害患者の家族を対象として、経験的再発率に基づき、再発リスクに関するカウンセリングを行う。TD患者の第一度近親者がTDを発症する確率は10%~15%と推定される。


診断

トゥレット障害の臨床像

慢性運動チックと慢性音声チックを発症した患者が最初に記載されたのはジル・ド・ラ・トゥレット(Gilles de la Tourette)による[de la Tourette 1885]。病名はこの医師の名に因む。今日に至るまで、トゥレット障害は、非律動的に素早く繰り返す、不随意な運動と発声が持続する病態と定義されている。運動チックは、瞬目、顔を歪めるなどの症状、音声チックは、咳払い、鼻を鳴らす、唸り声などの症状が多く見られる。

単一の筋肉または少数の筋肉から成る単一の筋群に関連するチックを「単純チック」という。一方、あたかも目的性を持った行動または発話であるかのような、筋協調パターンを持った運動または発声を「複合チック」という。

汚言症(卑猥語を発する症状)は、ごく少数の患者に認められる。マスメディアにおいては、汚言症がTDに特徴的な症状であるとされ、誤った病像が報じられることがしばしばある[Robertson 1994, Albin & Mink 2006, Mathews et al 2007]。

診断基準に従えば、TDのチック症状は通例、一日中頻回にわたって(通例、何回かにまとまって)生じ、少なくとも1年間持続するものをいう。過去の診断体系には機能障害と苦痛の基準が含まれていたが[American Psychiatric Association 2000]、最新の診断体系(DSM-IV-TR, 2000)で削除された。

チック障害のカテゴリ

注:
(1) CMTとCVTを1つのカテゴリにまとめて単に慢性チック障害(CT)と呼ぶことが多い。
(2) 上記の持続するチック障害はいずれも、ある種の共通する病因学的機構に依拠するため、同一スペクトラム上の疾患と推定される。

典型例においてTDを発症する年齢は3歳から8歳であり(平均年齢は7歳前後)、大多数は運動チックの発症が音声チックの発症に先行する。本症候群の特徴は、寛解と増悪を繰り返しながら、典型例では小児期後期(平均年齢は10歳)に症状の強度がピークを迎える[Gadow et al 2002, Fusco et al 2006]。チック症状は頻度、強度、種類に変動性があり、次第に強度を増した後、青年期後期に次第に減弱する傾向がある[Bloch et al 2006]。実際に、大多数の患者は、成人期初期までに著しい改善を示し、20歳を過ぎても機能障害が継続する患者は22%ほどにすぎない。

以下に、トゥレット障害の留意すべき特徴についていくつか説明する。

大多数の患者には、短時間ながら一部の運動チックと音声チックを制御する能力がある。しかし、結局のところチックは抑制不能である。一時的な制御が可能であるがために、とりわけ発症の初期に、観察者たちの間でこの症候群に対する誤解が生じることがある。患児の両親や教師は、ともすると症状を意志に基づく言動と思い込み、意図的に混乱を起こしているとさえ考えてしまう。

チック症状に先行して「前駆衝動」と呼ばれる内的な緊迫感が高頻度で生じる。前駆衝動は、症状の出現により軽快、消失する[Banaschewski et al 2003, Kwak et al 2003]。チックを止めさせようと無理強いを続けると、長い間にはある程度の重症化を招くことがある[Conelea & Woods 2008]。このような特性は強迫性障害(OCD)にも典型的に見られる。つまり、OCDの患者は、不安感の高まりに伴い、”特定の行為を行えばその不安が軽減、消失するような感覚”が生じる。TDとOCDに共通する臨床上、遺伝学上、神経生物学上の議論を以下に示す。

学習障害は、TDの小児および青年患者に広く見られる。TDとADHDを発症した患児の両親は、高い確率で言語関連の学習上の問題を示すことが観察されている。

上に述べた多様な併存障害に対する遺伝的、神経生物学的、心理的、および環境的な各要因の相対的寄与度は、未だ明らかでない。TDと一部OCDの症例に共通の遺伝的素因を認めるとする仮説は、後に詳述するように、家系内遺伝の調査により支持された[Pauls 1992]。一方、TDとADHDに共通する遺伝的素因については多少議論がある[Pauls et al 1986]。


トゥレット障害の確定診断

米国内で使用されるトゥレット障害の標準的な診断基準は、米国精神医学会(APA)刊行の『精神障害の診断と統計の手引き』Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th edition Text Revision (DSM-IV-TR)に定められている[American Psychiatric Association 2000]。

トゥレット障害の診断基準

一過性チック障害(TDD)の診断基準

慢性運動チック障害または慢性音声チック障害の診断基準

以上の基準に該当しないチック障害の診断基準

診断ツール TDの診断は、経過、症状のパターンおよび強さに基づき臨床的に行われる。臨床検査は、他疾患との鑑別の場合を除き、チックの存在を確認したり、個別の再発リスクを確定したりすることはできない(「鑑別診断」を参照)。チックとてんかん発作を鑑別する際に、稀にEEGが役立つことがある。

重症度の評価に広く使用されている調査ツールがいくつかある。これらは、症状の特徴や重症度を記録したり、長期にわたって症状の経過をたどる際に臨床上役立つことがある。

最も参照されることの多い臨床評価尺度は、イェール全般的チック重症度尺度(YGTSS: Yale Global Tic Severity Scale) [Leckman et al 1989, American Psychiatric Association 2000]である。

強迫症状に関しては、例えば、Goodmanらにより作成されたイェール-ブラウン強迫症状尺度(Y-BOCS: Yale Brown Obsessive Compulsive Scale) [1989] やScahillらにより作成された小児用イェール-ブラウン強迫症状尺度(CY-BOCS: Children’s Yale Brown Obsessive Compulsive Scale)[1997]の使用により、標準化された評価が可能となる。


トゥレット障害の原因

TDに関わる分子機構の大半は、未解明である。遺伝要因を主要病因とする説は、強力かつ一貫した証拠により裏付けられている。しかしながら今日に至るまで、TD感受性遺伝子座は確定されていない。一方、双生児研究により、非遺伝的要因がかなりの程度関与していることが明らかになっている。この分野では、連鎖球菌感染症がTDおよび関連する疾病に及ぼす影響に関する研究が最も盛んである。

遺伝学

TDが最初に記載されてこのかた、その家族性疾患としての特質は正当に扱われてきた。遺伝子地図の作成と遺伝子の発見への努力は数十年に及ぶ[Kidd et al 1980, Pauls et al 1981]。一卵性双生児(MZ)間の一致率が約50%であるのに対し、二卵性双生児(DZ)間の一致率は約10%である。全種類のチック障害を対象としたとき、MZの一致率が77%に達するのに対し、DZの一致率は23%である[Price et al 1985]。

遺伝要因を主な病因とする点で長期にわたり大方の見解が一致している一方、遺伝要因の実質的な寄与率をめぐって少なからぬ論争があり、未解明の問題が残されている。TD以外の比較的よく見られる複雑な疾患の研究成果を踏まえて、今日では、高頻度多型とまれな多型のどちらも寄与するとの仮説が大勢を占める。連鎖解析、遺伝子関連解析、および分子細胞遺伝学的手法を用いた研究により、候補領域と候補転写産物がいくつか同定されている。

連鎖研究

初期の研究では、常染色体優性遺伝を示唆する大きな多世代家系に関心が注がれた[Baron et al 1981, Kidd & Pauls 1982, Pauls & Leckman 1986, Curtis et al 1992]。しかし時を経て、単一遺伝子疾患の責任座位をマップする技術が改良されその解像度が向上していく過程でTDの責任座位が同定されなかったために、単一遺伝子疾患とする仮説は破棄された。

続いて、Kurlanら[1994]、Hasstedtら[1995]、およびWalkupら[1996]の報告に見るように、分離比分析の結論として、TDは遺伝子座異質性を示す複雑疾患であるとの見解の一致が得られつつある。注目すべきは、複数の患児を擁する家族を検討したところ、双系(つまり、母方、父方双方の家系)におけるトゥレットスペクトラム障害(TD、強迫性障害、および慢性チック障害)の発生率が36%と評価された点である[McMahon et al 1996]。

TD関連座位の同定を目的とした、家系図に基づく(パラメトリックな)連鎖解析の失敗が確実になったため、1990年代後半までにノンパラメトリック連鎖解析に研究動向が移行した。この解析法は遺伝的モデルを用いる必要がなく、研究の多くは罹患同胞対(ASP: affected sib pair)解析を中心的手法としている。Tourette Syndrome Association International Consortium for Genetics (TSAICG)による1999年の報告によれば、76核家族に属する92対のASPの多点連鎖解析を行った結果、染色体4q (D4S1625)および染色体8p (D8S1145D8S1106D8S136)に、多点最尤スコア(MLS: maximum-likelihood score)が2を超える部位が存在した。ただし、研究対象を18の大家族に属する238対のASPに拡大すると、これらの座位に有意な連鎖は認められなかった。TDまたは複合チックの患者の染色体2p上に連鎖の証拠が見られた。TDのみを発症しているASPの検体の解析では、染色体2p、3p、3q、4p、6p、10p、15p、21p、およびXp上のマーカーに、連鎖を示す中等度の証拠が認められた(多点最尤スコア≧2、つまりp<1X10-2)[TSAICG 1999, TSAICG 2007]。このASPの検体収集は引き続き規模を拡大して行われている。また、微細マッピングが進行中である。

この他に、2.5を超えるLODスコアを示した研究がいくつかあるが[Merette et al 2000, Curtis et al 2004, Paschou et al 2004]、今までのところ研究結果は再現されていない。また、これまでに当該区間にマッピングされる転写産物の変異は同定されていない。

関連研究

生物学的妥当性が確認されたいくつかの候補遺伝子について、TD患者のアレル頻度を比較する関連研究が報告されている。対象となった遺伝子には、ドーパミン受容体遺伝子、ドーパミン輸送体(SLC6A3)遺伝子、数個のノルアドレナリン作動性遺伝子、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)遺伝子、および各種セロトニン作動性遺伝子が含まれる[Brett et al 1995, Barr et al 1996, Chou et al 2004]。医学のあらゆる分野でよく見られることではあるが、一つまたは少数の候補座位についての研究で関連が認められながら、いずれも再現性が確認されていない。

ゲノム関連解析(GWAS)が現在進行中である。リスクが低く高頻度に存在するアレル(common allele)の複雑疾患(complex disease)に対する寄与度を明らかにする方法としては、GWASが他のどの方法よりもはるかに効果的であることは既に実証されている。

細胞遺伝学的研究

TD患者の染色体異常を記述した報告がいくつか寄せられている。このうち転写産物の破壊やゲノムの特定領域における変異の集積、近隣の遺伝子における病原性と推定される変異が同定されたものは数えるほどしかない。 

トゥレットスペクトラム障害(TD、OCD、およびCTを含む)の患者で、今までに染色体18q22上の領域を初めとする4件の細胞遺伝学上の発見が報告されている。

SLITRK1

Abelsonらによるまれな多型の解析研究で、当初TDの候補遺伝子と考えられていたのはSLITRK1であった[Abelson et al 2005]。この研究の第一報以来多くの研究で、TD患者集団に見られる高頻度多型とまれな多型がどちらも調査対象とされてきたが、結果にはばらつきが見られる。SLITRK1 のシークエンスバリアントがTD発症リスクの上昇と関連するか否かを明らかにするために、より大きなTD患者集団における評価が今なお必要とされている。今日までのSLITRK1 に関する遺伝学的知見を以下にまとめる。

Abelsonらは[2005]家族歴のないTD患児における13番染色体のde novo逆位inv(13)(q31.1;q33.1)に関して報告を行った。13q33.1切断点はSLITRK1遺伝子から約350kb離れた位置にマップされた。血縁関係のないTD患者174名のSLITRK1 の変異をスクリーニングしたところ、単塩基欠失NM_052910.1:c.1264delCが同定され、中途に終止コドンが出現する早期終止型のSLITRK1タンパク質(p.Leu422PhefsX28)の発現が予想された。この欠失は一小家族に属するTD患者と抜毛症(TTM)患者から単離されたが、この欠失に由来する変異タンパク質は、野生型SLITRK1蛋白質とは異なり、初代培養大脳皮質ニューロンの樹枝状成長を促進しなかった。更に、筆者らは、血縁関係のない2名の患者で、SLITRK1の3’UTRの高度保存領域において多型G>Aを発見した(NM_052910.1:c.*689G>A; 慣用名 var321、ハプロタイプ解析による確認)。この変異が含まれる領域はmiRNA(hsa-miR-189)の結合部位として機能することが分かった。また、in vitroの分析により、このまれな多型は標的転写産物の発現を減弱させることが明らかになった。著者らは、SLITRK1の機能的多型がTD発症リスクの上昇と関連している可能性を提示した。

3’UTR多型(NM_052910.1:c.*689G>A; 慣用名var321)とTDとの関連を認めるAbelsonらの説[2005]は、2件の検証研究[Keen-Kim et al 2006, Scharf et al 2008]により反駁された。著者らは、c.*689G>Aがアシュケナージユダヤ人に特異的もしくは他に比べて高頻度に生じている可能性、そのため集団の階層化が偽陽性の結果をもたらした可能性を提示した。しかし、Abelsonらがvar321を同定した2名の患者についてはアシュケナージユダヤ人であるとの記載がないばかりか、彼らはアシュケナージユダヤ人の拡張したハプロタイプを共有しておらず、同一母集団を形成していない。これらの事実は、最初の報告に関して、交絡因子の一つである集団の階層化の影響を否定する強力な論拠となる。

抜毛症(TTM)の患者集団のシークエンス解析により、新たなSLITRK1 の塩基配列多型を持つ2名の患者が同定された。この多型からは2000名を超える非患者集団には認められないアミノ酸置換が予想された[Zuchner et al 2006]。

上述したSLITRK1 のまれな多型とTDの関連研究とは対照的に、いくつかの研究で、SLITRK1 の頻度の高いアレルとTDとの間に関連があるとする対立仮説が検証された。これまでに、相反する結果が報告されている。Mirandaら[2009]による関連を支持する研究1件に対して、より規模の大きな研究1件では関連の証拠が得られなかった[Scharf et al 2008]。

前頭葉-皮質下回路は神経病理学上TDの原因部位として強く疑われる。最近の研究では、この回路における進化的に保存され、発生過程で制御されているSLITRK1の発現パターンが確認された[Stillman et al 2009]。また、Slitrk1をノックアウトしたマウスは不安が増大し、ノルアドレナリンの神経伝達異常を示したことが報告されている[Katayama et al 2008]。

環境の影響

一卵性双生児におけるTD発症一致率は100%ではないため、TDの発現には確かに非遺伝的因子の影響がある。しかし、特定の環境要因や原因物質を同定するのは、特定の疾病関連遺伝子を同定するのと同じくらいに困難であることが立証されている。

Leckmanら[1990]は、妊娠第1期にある母親の高度のストレスならびに重度の悪阻が発症に寄与している可能性を示唆した。

妊娠中の母親の喫煙もTDのチック症状の重症化を招きOCDが併存する割合を上昇させる強い危険因子として提示された[Mathews et al 2006]。

他に、妊娠合併症および周産期合併症に関して、TD患者と対照群との間に統計上有意な差は見られないとする研究がある[Khalifa & von Knorring 2005]。

Hydeら[1992]は、12組の双生児対を対象とした研究で、出生時体重がTDの表現型に有意な影響を及ぼすことを認めた。シャピロのトゥレット症候群重症度尺度により評価したところ、出生時に低体重の患者は体重の多い患者よりも高い重症度を示した(P<0.05)。

10年以上前から、TDとチックの病因を感染に求める仮説がある[Kushner et al 1999]。最近では、連鎖球菌の感染に対象を絞り込んでいる。周知のとおり、A群β溶血性連鎖球菌(GABHS)の感染にはリウマチ性心疾患が続発することがある。この疾患は、心病変および関節病変の他に、小舞踏病(SC:シデナム舞踏病)という中枢神経系の合併症を伴うことがある。SCの患者には、典型的な舞踏運動に加え、音声チックと運動チック、注意力の問題、多動性、強迫観念、および強迫行為が見られる。Swedoら[2004]は、以上の研究成果と独自に得た臨床所見とから、溶連菌感染関連小児自己免疫性精神神経障害(PANDAS)を次のような定義的特徴を持つ独立した臨床単位として提唱した。

最初に記述されて以来、PANDASは議論を呼び続けている。以下の例に見るように、PANDAS説を裏付ける根拠も否定的根拠も提出されている。

病因不明

上述のように、遺伝的要因と環境要因がどちらもTDの病態生理に寄与しているものと考えられるが、TDの分子機構は不明である。TDの総合的な理解は進歩してきているが、大多数の症例は原因不詳である。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

遺伝的要因がTDの一因であることはエビデンスによる裏付けを得ているが、今までのところTDの感受性遺伝子座は確定されていない。利用可能なデータの示唆するところによれば、TDはおそらく遺伝的要因と環境要因の相互作用が関与する多因子疾患である。自閉症スペクトラム障害や発達遅滞の認められないTD患児の家族に対しては、経験的再発率に基づく遺伝カウンセリングが現在唯一実施可能な対応策である。

血縁者の経験的再発危険率

発端者の両親

発端者の両親がTDを有するリスクは6.5~16%である。母親のリスク(1~9.6%)よりも父親のリスク(11.9~23.1%)のほうがはるかに高い。両親の慢性チックのリスクは11.5~21%、両親のOCDのリスクは10~23.1%である[Pauls et al 1991, Walkup et al 1996]。ただし、日本人を母集団とした研究では、両親のTDのリスクは1.9%、両親のチックのリスクは約11.5%であった[Kano et al 2001]。今までのところ疫学的データにより世界各地で同程度の頻度が示唆されてはいるが、それでもなお、TDおよびTD関連疾患の発症率および第一度近親者のリスクは、母集団により異なることがある。.

発端者の同胞 

発端者の同胞がTDを発症するリスクは約8%、OCDを発症するリスクは9.7~22%、慢性チックを発症するリスクは0~11%である[Pauls et al 1991, Walkup et al 1996]。日本人集団の経験的再発率は他集団よりも低く2.3%であった[Kano et al 2001]。

発端者の子

A発端者の子がTDを発症するリスクは22%、チック障害を発症するリスクは50%超と報告されている[McMahon et al 2003]。

他の家族 UBE3A変異,IC欠失,染色体再構成が発端者の母親(あるいはUPDとロバートソン転座の場合の父親)で見られた場合,保因者である親の同胞に対して遺伝カウンセリングや遺伝子検査が勧められる.

片親が発端者である子のリスク15%に比べ、両親が発端者である子のリスクは42.8%と高率を示した。また、親がTDの発端者であるとき、子は、チック、OCD、ADHDのいずれとも診断される率が高かった[McMahon et al 2003]。

遺伝カウンセリングに関連した問題

DNAバンキングとは、将来の使用に備えて患者のDNA(一般には白血球より抽出)を貯蔵しておくことをいう。今後、検査方法が改良されたり、遺伝子とその変異や疾患の研究の進展が見込まれるため、患者のDNAの貯蔵は検討に値する。DNAバンキングは、疾患感受性変異を持つ遺伝子が同定されていない場合にとりわけ意義がある。DNAバンキングの実施機関の一覧は、Image testing.jpgを参照して頂きたい。


臨床的マネジメント

初回診断後の評価

TDと診断された患者の障害の重症度を確認する目的で、次の各項の診察を実施することを推奨する。

新たな運動障害の発症は全般的な神経学的診察を実施すべき根拠となる。「鑑別診断」の項で述べたように、明らかに別種の運動障害が認められる場合は、他疾患を疑い運動障害の専門医への受診を促すべきである。また、挿間性に生じる意識変容などのてんかん発作のエビデンスはTDの診断に矛盾するため、適切な紹介が必要である。

症状に対する治療

薬物療法 薬物療法は40年間にわたりTD患者のチック症状の抑制に効果を示してきた。それでもなお、完全治癒は未だに現実的でなく、現行の薬物療法の限界が目立つ。一般にTDの治療は、チック症状の管理の他に、典型例においては、併存する1件以上の精神疾患(多くはADHD、OCD、うつ病、不安障害)への対応も必要となる。

TDおよび慢性チックの経過は寛解と増悪を繰り返すだけでなく変動性を示すため、理学的治療はかなり複雑である。チックは何回かにまとまって出現し、次第に症状の強度を著しく増した後、自然に弱まる傾向があるため、患者、親、臨床医が、短期間で投薬の効果があったかどうかを判断することは難しい。いかにも、患者は今までになく悪いと感じる重症度に至った時点で初めてチックに注意を向けるのだろうから、典型的な経過であれば、まさにその時こそが寛解期の始まる時期に重なりやすい。従って、初回の薬物療法で目覚ましい改善をみた後、時を経て再発または悪化したかのように映るのは珍しいことではない。

二重盲検プラセボ対照試験により、定型神経弛緩薬、非定型神経弛緩薬とも、TD患者のチック症状を有意に鎮静化させることが明らかになっている。定型神経弛緩薬とは化学構造に基づいて分類される第1世代抗精神病薬(例えば、ハロペリドール、ピモジド)を示す。非定型神経弛緩薬とは理学的特性に基づいて分類される第2世代抗精神病薬(例えば、リスペリドン)を示す。TDのチックの適応としてFDAの承認を受けた薬剤はハロペリドールとピモジドの2種類しかない。定型神経弛緩薬のうち、高力価型のドーパミン(DA) D2受容体拮抗薬が最も効果的にチックを抑制するものと予想される。比較的弱い受容体結合力を示す非定型神経弛緩薬(クロザピンなど)は、有効とは考えられない。ただし、第2世代神経弛緩薬のリスペリドンは、TDに関する比較対照試験によって有効性が証明された。ドーパミン拮抗薬はチックの不随意な運動・発声の抑制に短期的な効果をもたらし得るが、この薬剤を摂取した患者の大多数が副作用(鎮静、体重増加、気分変調、認知力低下を含む)を経験している[Singer et al 1995, Leckman et al 2001]。一方、非定型神経弛緩薬は、とりわけ長期的な危険性(体重増加、代謝異常、糖尿病)が懸念される。

寛解と増悪を繰り返すTDのチック症状の特性やドーパミン拮抗薬の短期的・長期的副作用を勘案すると、特に小児患者を対象とする場合、薬物治療は、暴露時間の制限および最低有効用量の維持に努め慎重に進める必要がある。さらに、臨床医は、チック患者が青年期中期から後期に著しい改善をみせること、また多くの症例で、不随意の運動・発声にも増してTD関連の併存障害が臨床上重大な懸念となることに留意しつつ、中長期的な見通しをもって治療に当たることが重要である。

現在のところ、α2アドレナリン受容体作動薬(クロニジン、グアンファシンなど)がTDと慢性チック障害の第一選択薬と考えられている。α2アドレナリン受容体作動薬はTDの適応薬として承認されてはいないが、比較対照試験により、特に軽度から中等度の症状に対して有効性を示すとのエビデンスが得られた[Leckman et al 1991, Scahill et al 2000, Scahill et al 2006]。副作用は、鎮静、頭部ふらつき感のほか、場合により易刺激性が見られたが、おおむね軽度であった。

この他にも、単剤投与または上述した治療法との併用時に有用とされる薬剤が各種報告されている。ベンゾジアゼピン類、バクロフェン、テトラベナジン等のいくつかの薬剤は有効性を示す中等度の証拠を得ているため、更なる比較対照試験の実施が有用と考えられる。

ボツリヌス毒素は、数件の公開研究と1件の二重盲検試験により検討した結果、有効性が確認され、特に単独症状のチックの抑制に効果的であることが分かった。有害作用には、静注時の痛みのほか、注射部位の筋肉の脆弱化がある(例えば、声帯への注射を原因とする発声不全の可能性)[Scahill et al 2006]。

一時期ニコチンが治療薬になり得ると見られていたが、今までのところ、説得力のある研究結果は得られていない。

行動療法 TD患者を対象とした行動療法のうち現時点で最も研究が進んでいる技法は習慣逆転法である。この技法では、患者自身が自らのチック症状への気づきを深め、不随意な運動とは両立しない拮抗反応を、チック症状に代わって行うように訓練する。習慣逆転法は、セルフモニタリング、筋弛緩訓練、拮抗反応訓練、気づき訓練、および随伴性マネジメントから成る多成分治療である[Wilhelm et al 2003, Himle et al 2006]。数件の盲検試験で薬物療法に匹敵する症状軽減効果が確認され、この技法の有効性が支持された。最近完了したNIHの比較対照試験を初めとして、今までのところ試験結果は非常に有望である[O’Connor et al 2009]。

その他の認知行動論的技法(暴露反応妨害法など)はさほど研究は進んでいないが、いくつか有望な結果を得ている。

一方、弛緩療法は単独で効果的とは考えられないが[Bergin et al 1998]、他の行動論的技法と併用すれば奏功する可能性がある[Wilhelm et al 2003, Woods et al 2003]。

研究中の治療法

外科的療法 外科的介入は、既存療法が奏功せずチックの弊害が強い少数の難治性TD患者を対象として行われている。最も成功例の多い外科的療法が脳深部刺激療法(DBS)である。DBSでは目標とする脳内の領域に電極を埋め込み、この電極から電気刺激を送り目標領域の脳活動に変化を加える。チックの発生が皮質-線条体-視床-皮質(CSTC: cortico-striato-thalamo-cortical)回路の不均衡に起因するとの仮説に基づき、視床、淡蒼球内節(GPi)、および側座核がDBSによる刺激目標とされている[Flaherty et al 2005, Houeto et al 2005, Ackermans et al 2006]。DBSの治療を受けた患者は、概してチック症状が頻度、強度とも低下したうえ、大きな副作用は見られなかった。これまでにDBSの治療を受けた患者は34人にすぎない。従って、この外科的介入の利点を評価するのは難しい[Ackermans et al 2008]。しかも、脳内の最適刺激部位が未だ解明されていない。

反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS) 反復経頭蓋磁気刺激法は、急激な磁場の変化により脳内の目標領域を刺激する非侵襲的治療である。この治療法は、大脳皮質活動を変化させること、つまり、高周波刺激により皮質の興奮性が高まり、低周波刺激により皮質が抑制されることが証明されている。パイロット・スタディにおいては、神経障害および精神障害の患者集団だけでなく[Fregni & Pascual-Leone 2007, George et al 2007, Fitzgerald & Daskalakis 2008]、対照集団に対しても、rTMSの様々なパラダイムが試されてきている[Fitzgerald et al 2006, Cattaneo & Silvanto 2008, Di Lazzaro et al 2008, Krause & Straube 2008]。rTMSによるTD症状の治療を対象とした研究がいくつかあるが、肯定的な結果と[Mantovani et al 2006]否定的な結果[Munchau et al 2002, Orth et al 2005]がともに報告されている。更なる臨床研究を重ね、最適な治療法と有効性についての疑義に対処する必要がある。導入当初の成果や非侵襲性を勘案すれば、rTMSは依然として興味を引く研究分野であり続けている。

ClinicalTrials.govの検索により、広範囲にわたる疾患や症状に関する臨床試験の情報を入手することができる。

その他

遺伝学の専門家を配した遺伝クリニックでは、自然経過、治療、遺伝形式、患者家族が負う遺伝的リスク、一般・患者向けの資料の利用に関する情報を、患者本人や家族に提供している。GeneTests Clinic Directoryを参照して頂きたい。

本疾患を対象とする支援組織および/または包括支援組織については'Consumer Resources'を参照して頂きたい。これらの組織は、患者個人や家族に情報や支援、患者相互の交流の機会を提供する目的で設立されている。


原文 Tourette Disorder Overview [GeneReviews から削除:2017年3月1日確認]

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