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結節性硬化症
(Tuberous Sclerosis Complex)

[Bourneville Disease. Includes: Tuberous Sclerosis 1 (TSC1), Tuberous Sclerosis 2 (TSC2)]

Gene Review著者: Hope Northrup, MD, FACMG, Mary Kay Koenig,MD, Kit-Sing Au, PhD
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院 遺伝子診療部)  
Gene Review 最終更新日: 2011.11.23. 日本語訳最終更新日: 2012.5.3.

原文 Tuberous Sclerosis Complex


要約

疾患の特徴 

結節性硬化症(TSC)では,皮膚病変(低色素斑,顔面の血管線維腫,粒起革様斑,顔面の線維斑,多発性爪周囲線維腫),脳病変(大脳皮質結節,脳室上衣下結節,脳室上衣下巨細胞性星細胞腫,けいれん発作,知的障害/発達遅滞),腎病変(血管筋脂肪腫,嚢胞,腎細胞癌),心病変(横紋筋腫,不整脈),肺病変(リンパ管筋腫症)を認める.障害と死亡の最大原因は中枢神経系の腫瘍である.早期死亡の原因の第2位が腎疾患を占めている.

診断・検査 

SCの診断は臨床所見に基づいて行う.TSCの診断基準を満たす患者の約85%に変異が同定される.変異が同定された患者のうち,TSC1遺伝子に変異を有する患者は31%,TSC2遺伝子に変異を有する患者は69%である.どちらの遺伝子に対する分子遺伝学的検査も,臨床で行われている.

臨床的マネジメント 

治療・ケア症状の治療:けいれん発作に対しては,ビガバトリンその他の抗てんかん薬を用いる.てんかん手術を行う場合もある.上衣下巨細胞性星細胞腫に対して,mTOR阻害薬を用いる.発作が生命を脅かす神経学的症状を生じさせる場合は,脳神経外科手術を行う.腎血管筋脂肪腫やリンパ脈管筋肉腫に対するmTOR阻害薬の有効性を実証する臨床試験もある.米国食品医薬品局(FDA)はTSC患者の腎臓障害と肺障害の治療薬として,mTOR阻害薬の使用を承認していない.3.5〜4.0 cm超の血管筋脂肪腫に対して,腎動脈塞栓術もしくは腎保存手術を行う.

経過観察:小児期と青年期には,頭部CT/MRIを1〜3年に1回行う.腎臓の超音波検査は,小さな血管筋脂肪腫(径が3.5〜4.0 cm未満)を有する場合は半年に1回,その他の場合は1〜3年に1回行う.腫瘍が大きい場合,もしくは多数ある場合は腎CT/MRIを行う.神経発達評価や行動評価は小児期から成人初期にかけて一定の時点で行うが,小児に教育的問題や行動的問題が生じた場合にも行う.心臓症状が疑われる場合,心エコー検査を行う.すべてのTSC患者女性に対して,18歳以降は最低1回,また,肺症状が疑われる場合,高解像度CTスクリーニングを行う.

リスクの高い親族の検査罹患している親族を同定すると,TSC関連病変を早期に診断するための定期検査が可能となり,早期治療と予後の改善につながる.

遺伝カウンセリング 

TSCは常染色体優性で遺伝する.患者の3分の2は,新生突然変異の結果,TSCを発症している.患者の子がTSC原因遺伝子変異を受け継ぐリスクは50%である.リスクの高い妊娠に対する出生前診断は,家系内の原因遺伝子変異が同定されていれば可能である.


診断

臨床診断

結節性硬化症(TSC)の診断基準が改訂された[Roach & Sparagana 2004].

新しい診断基準では,

  • 腎血管筋脂肪腫を併発している孤発性のリンパ脈管筋肉腫症患者は,TSC患者としない[Smolarek et al 1998].
  • 非特異的所見(点頭てんかん,ミオクローヌス発作,強直発作,脱力発作など)を除外し,より具体的な所見(非外傷性の爪下または爪周囲の線維腫,3か所以上の白斑)を判断基準とした.

Definitive TSC (TSCであることが確実).大症状を2つ認める場合,もしくは大症状を1つ+小症状を2つ認める場合

Probable TSC (TSCの可能性が高い).大症状を1つ+小症状を1つ認める場合.

Possible TSC (TSCの疑い).大症状を1つ,もしくは小症状を2つ以上認める場合.

Possible TSC (TSCの疑い).大症状を1つ,もしくは小症状を2つ以上認める場合.

大症状

  • 顔面の血管線維腫または前額部,頭部の結合織よりなる局面
  • 非外傷性多発性爪周囲線維腫
  • 低色素斑(3か所以上)
  • シャグリンパッチ(粒起革様斑,結合組織母斑)
  • 網膜の多発性過誤腫
  • 大脳皮質結節1
  • 脳室上衣下結節
  • 脳室上衣下巨細胞性星細胞腫
  • 心臓横紋筋腫(単発性もしくは多発性)
  • 肺リンパ管筋腫症2
  • 腎血管筋脂肪腫2

小症状

  • 不規則に分布する歯エナメル質の多発性小腔l
  • 過誤腫性直腸ポリープ4
  • 骨嚢腫5
  • 放射状大脳白質神経細胞移動線(cerebral white matter radial migration lines )1,3,5
  • 歯肉線維腫
  • 腎以外の過誤腫4
  • 網膜無色素斑
  • 「金平糖」様散在性小白斑(confetti skin lesions)
  • 多発性腎嚢胞4
    1. 大脳皮質形成異常と大脳白質細胞移動線が同時に出現している場合,2つのTSC所見ではなく1つとみなす.
    2. リンパ管筋腫症と腎血管筋脂肪腫をどちらも認める場合,TSCと診断するためには他の結節性硬化症の所見が存在しなければならない.
    3. 大脳白質細胞移動線や限局性の大脳皮質形成異常は,TSC患者に多くみられる.しかし,このような病変は独立してみられることもあり,比較的非特異的所見と考えられるため,こうした所見はTSC診断基準では小症状の1つとみなされる [Roach & Sparagana 2004].
    4. 組織学的診断があることが望ましい.
    5. 画像診断で十分である.

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子 遺伝子.結節性硬化症に関連する遺伝子はTSC1遺伝子とTSC2遺伝子の2つだけである [European Chromosome 16 Tuberous Sclerosis Consortium 1993,van Slegtenhorst et al 1997].

他の遺伝子座異質性を示す所見.シークエンス解析と欠失・重複解析(エクソン内の欠失もしくはエクソン全体の欠失の検出)によるTSC1遺伝子とTSC2遺伝子に対する分子遺伝学的検査で,確実にTSCと診断される患者の約85%が同定される.約15%のTSC患者では変異が同定されない..

臨床検査

TSC1遺伝子とTSC2遺伝子は遺伝子が大きく,原因遺伝子変異が多く,体細胞モザイクの割合が高いため,分子遺伝学的検査は複雑になる[Sampson et al 1997,Verhoef et al 1999].TSC1遺伝子変異ではシークエンス解析で検出される小さい欠失や挿入,ナンセンス変異が主である.対照的にTSC2遺伝子変異では,シークエンス解析で検出できない大きな(エクソン全体や遺伝子全体の)欠失や組換えが大部分を占めるため,検出には欠失・重複解析が必要である.
体細胞モザイク.TSC患者やその両親には体細胞モザイクを多く認める.しかし,体細胞モザイクの頻度を推定することは,以下の理由から困難である.

  • 推定方法の感受性と,低レベルモザイク検出の困難さ.
  • エクソン全体もしくは遺伝子全体に及ぶ欠失や重複のモザイクは比較的容易に検出できるが,点変異やエクソン内部の小さな欠失や重複のモザイクは検出が困難である.
  • 他の分子遺伝学的検査方法(シークエンス解析や欠失・重複解析)で同定される変異を持たない患者のみに対してモザイクの有無を確かめる検査が行われるため,モザイクの割合が過大評価されている可能性があるとする研究もある.
  • また,TSC1遺伝子変異とTSC2遺伝子変異から生じる表現型をそれぞれ臨床的に鑑別することは不可能であるため,体細胞モザイクのスクリーニングを行う研究の開始時点で,各表現型を有する患者の割合は不明である.

注:(1)低レベルのモザイクを有するシークエンス・バリアントのほとんどが,PCR検査を行う中で導入されたと思われる産物であるため,幾つかのヌクレオチドを含むミスセンス変異や他の変異を,確実に低レベルのモザイクと判断することは困難である.(2)モザイクのレベルが20%超であるなら,リンパ球DNAで検出可能である[Qin et al 2010].

(シークエンス解析や他の類似の手法で変異が同定されない)患者でのTSC1遺伝子とTSC2遺伝子における大きな欠失や重複の体細胞モザイクの頻度は,約5%(N=165)と報告されている[Kozlowski et al 2007; 著者の個人的観察所見].モザイクを有する8人の患者は,複数のエクソンに再構成がみられた.このうち7人はTSC2遺伝子に複数の欠失があり,1人はTSC2遺伝子に1つ重複があった[Kozlowski et al 2007].

Qin ら [2010]はTSC1遺伝子とTSC2遺伝子に対して次世代シークエンス解析を用いて,シークエンス解析や欠失・重複解析で変異が同定されなかった33人の患者のうち2人で体細胞モザイクを同定した.どちらの変異もTSC2遺伝子変異であり,1つはミスセンス変異,もう1つはスプライス部位変異であった.

体細胞モザイクの検出率を5%とし[Kozlowski et al 2007,Qin et al 2010],TSC患者の15%がTSC1遺伝子やTSC2遺伝子にシークエンス解析で同定される変異を持たないとすると,TSC患者の少なくとも1%がTSC1遺伝子変異もしくはTSC2遺伝子変異の体細胞モザイクを有すると筆者は結論づけた[著者の個人的な観察所見].

生殖細胞系列モザイク.生殖細胞系列モザイクに関する研究の多くは,2人以上の患児がいるが親が罹患していない家系を扱っている.Roseら [1999]は,こうした120家系のうち6家系(5%)で,変異が確認されている生殖細胞系列モザイクを同定した.このうちの1つはTSC1遺伝子変異であり,5つがTSC2遺伝子変異であった.変異はミスセンス変異,ナンセンス変異,1塩基の挿入もしくは欠失であった.

表1.結節性硬化症に用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子
記号
確実にTSCと診断される発端者での割合と当該遺伝子で同定可能な変異1,2
検査方法
遺伝子,家族歴,検査方法ごとの変異検出率
検査の実施
家族例
孤発例3

TSC1

〜31%

シークエンス解析

~30%

~15%

臨床
説明: Image testing.jpg

欠失・重複解析4,5

0

〜1%6

TSC2

〜69%

シークエンス解析

50%

~60〜70%

臨床
説明: Image testing.jpg

欠失・重複解析4,5

〜1% 6

〜6%6

検査の実施とは,GeneTests Laboratory Directory掲載施設での実施状況である.GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能としている.GeneTestsは研究機関から提出された情報の検証や,研究機関の承認状態もしくは実施結果の保証を行わない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.

  1. 家系内の原因遺伝子変異が同定されたTSC患者4200人超のうち,発端者の31%未満がTSC1遺伝子変異を,69%未満がTSC2遺伝子変異を有していた[Jones et al 1999,Dabora et al 2001,Au et al 2004,Sancak et al 2005,Au et al 2007,表A].総括については,こちらをクリック.
  2. TSC患者の約15%は,どちらの遺伝子にも同定可能な変異を持たない.
  3. 孤発例=家系内で唯一の発症例.孤発例とTSCを発症した家系の第1世代は,体細胞モザイクを有することが多いため,変異検出率は低くなる.
  4. ゲノムDNAのシークエンス解析で容易に検出できない欠失・重複を検出する場合,定量PCR検査,リアルタイムPCR検査,MLPA法,アレイGH法など,様々な検査方法を用いる.
  5. Rendtorff ら[2005]はTSC患者65人における大きな(複数の)エクソン/遺伝子(に及ぶ)欠失を同定する方法を比較して,MLPA法の感度がサザンブロット解析やロング・レンジPCR法よりも高いと判断した.ここではシークエンス解析やサザンブロット法で同定できる変異を持たない15家系のうち4家系に対してMLPA法を用いて,TSC2遺伝子の大きなエクソン全体もしくは遺伝子全体の欠失を同定した.
  6. Kozlowski ら [2007]は,TSC1遺伝子とTSC2遺伝子のすべてのエクソンを網羅するようにRendtorff ら[2005]が改良したMLPA法を用いて,エクソン全体もしくは遺伝子全体の欠失・重複による大きな変異がTSC2遺伝子変異の5.6%,TSC1遺伝子変異の0.5%を占めると推定した.

検査結果の解釈

  • 検出されうる変異
    • 既に報告されている病原性変異
    • 病原性と推測されるが過去の報告がない変異
    • 臨床的意義が不明なシークエンス変化
    • 病的意義がないと考えられるが過去に報告がないシークエンス変化
    • 既に報告されている病原性のないシークエンス変化
  • 変異が検出されない場合に考えられる可能性
    • 患者は解析した遺伝子に変異を有していない
    • 患者は変異を有しているがシークエンス解析で検出できない
  • TSC2遺伝子変異の体細胞モザイクは,TSC−PKD(常染色体優性の多発性嚢胞腎)型の表現型を有する26家系の7人と,他の表現型を有する62人の発端者のうち6人で報告されているため,体細胞モザイクが疑われ,通常の分子遺伝学的検査で変異が検出できない場合,他組織(腫瘍,唾液,皮膚,毛包など)のDNA検査を行うとよい.現時点では,体細胞モザイクを検出するキットや検査サービスはない.

検査手順

発端者の確定診断

  1. TSC1遺伝子とTSC2遺伝子のシークエンス解析を行う.
  2. 変異が同定されない場合,TSC1遺伝子とTSC2遺伝子の欠失・重複解析を行う.

発症前診断リスクの高い無症状血縁者の発症前診断を行うには,事前に家系内の原因遺伝子変異の同定が必要である.

出生前診断・着床前診断リスクの高い妊娠に対する出生前診断や着床前診断には,事前に家系内の原因遺伝子変異の同定が必要である.

注:GeneTests Laboratory Directoryに掲載されている検査機関で検査が臨床的に行われている場合に限り,臨床的に実施されているとするのがGeneReviewsの方針である.こうした掲載には著者,編集者,査読者の意向は必ずしも反映されていない.

遺伝的に関連のある疾患

TSC1遺伝子,TSC2遺伝子の生殖細胞系変異に関連する他の表現型は知られていない.

肺のリンパ脈管筋腫孤発例のリンパ脈管筋腫患者の中に,肺組織から抽出したDNAが生殖細胞系にないTSC2遺伝子変異もしくはTSC1遺伝子変異を有する患者がいた[Smolarek et al 1998,Carsillo et al 2000,Sato et al 2002].リンパ脈管筋腫の組織ではチュベリンの発現が増強する[Johnson et al 2002].

血管周囲の類上皮細胞腫瘍.血管周囲の類上皮細胞腫瘍の中には,TSC2遺伝子もしくはTSC1遺伝子が消失したという報告[Pan et al 2008]があり,これはTSCでの血管周囲の類上皮細胞腫瘍と血管筋脂肪腫が腫瘍形成性を有することを支持する所見である.


臨床像

自然経過

結節性硬化症(TSC)の臨床所見は,家系内でも家系間でも多彩である.女性の症状は男性より軽症となる傾向がある[Sancak et al 2005,Au et al 2007].TSCでは,いかなる臓器にも症状が生じる.

皮膚皮膚病変は実質的にTSC患者の100%に現れる.皮膚病変には,低色素斑(患者の87〜100%),顔面の血管線維腫(47〜90%),粒起革様斑(20〜80%),顔面の線維斑,爪下線維腫(17〜87%)である.皮膚病変の中では,顔面の血管線維腫が最も美容を損なうものである.いずれの皮膚病変も重篤な医学上の問題を引き起こすものではない.

中枢神経系中枢神経系の腫瘍がTSCの障害および死亡の最大原因である.上衣下結節 [Torres et al 1998],大脳皮質結節,上衣下巨細胞性星細胞腫といったTSCの脳病変は,神経画像検査で識別可能である.上衣下結節は患者の90%に,大脳皮質結節や皮質下結節は70%に生じる.上衣下巨細胞性星細胞腫はTSC患者全体の6〜14%に生じる[Torres et al 1998].このような巨細胞性星細胞腫は腫大して圧迫や閉塞をもたらし,疾患の重症度や死亡率を高める.

TSC患者の80%以上にけいれん発作を認めるとの報告があるが,この割合は重症度の高い患者での診断をもとにした数値であるという確認バイアスを反映したものかもしれない.TSCは点頭てんかんやヒプスアリスミア症候群の原因として知られている.50%以上の患者に発達遅滞や知的障害を認める.TSC患者の早期死亡の最多の原因(32.5%)は,重度の知的障害の合併症(てんかん重積状態や気管支肺炎など)である.

TSC患者では神経発達障害や行動障害を発症するリスクが高い.最も一般的所見である行動障害や精神障害は,自閉症スペクトラム障害に含まれる.

  • Numis ら[2011]の報告によれば,TSC患者の40%が自閉症スペクトラム障害と診断されている.
  • Ehninger & Silva [2011]は,TSC患者の20〜60%が自閉症スペクトラム障害であると示唆している.

TSC患者では注意欠陥多動性障害(ADHD)と攻撃性も多く認める[Baker et al 1998,Gutierrez et al 1998].

Prather & de Vries [2004]は,TSC関連神経疾患で最も障害を受けるのは一貫して前頭葉機能であり,このため制御行動や目的志向的行動に異常が生じることを見出した.

Zaroff ら[2004]は,早期発症性の発作や結節による負荷の増大が認知障害の危険因子であるため,発作コントロールを含めた行動評価や治療的介入の早期開始により,神経行動的な治療成果が高まると報告した.

腎臓腎疾患はTSC患者の早期死亡の第2の原因である(27.5%).TSC患児の推定80%には,平均して10.5歳までに特定可能な腎病変を認める [Ewalt et al 1998].

TSCで生じる腎病変は,良性の血管筋脂肪腫(患者の70%),上皮性嚢胞(20〜30%)[Sancak et al 2005,Au et al 2007],好酸性細胞腫(良性の腺腫性過誤腫)(1%未満),悪性血管筋脂肪腫(1%未満),腎細胞癌(3%未満)の5つである[Patel et al 2005].

良性の血管筋脂肪腫良性の血管筋脂肪腫は異常血管,シート状の平滑筋,および成熟脂肪組織からなる.小児では時間の経過とともに血管筋脂肪腫の大きさと数が増加する傾向がある.良性の血管筋脂肪腫は生命を脅かす出血を引き起こしたり,腎実質に置き換わって末期腎不全(ESRD)に至るおそれがある.

腎嚢胞腎嚢胞は肥大した過形成の好酸球に裏打ちされた上皮からなる.

TSC2遺伝子変異の徴候と常染色体優性の多発性嚢胞腎1型(PKD1)の徴候を併せ持つ患者がいる.このような患者では,嚢胞の進行性増大が機能している腎実質を圧迫し,腎不全に至ることがある[Martignoni et al 2002].TSC2−PKD1(多発性嚢胞腎1型)隣接遺伝子症候群の患者では,PKD1を合併するリスクもあり,他の臓器(肝臓など)での嚢胞性病変や桑実状動脈瘤などの合併症が生じる.

悪性の血管筋脂肪腫と腎細胞癌悪性の血管筋脂肪腫や腎細胞癌によって死亡に至ることもある.この2つの腫瘍は,稀ではあるが,一般人口と比較するとTSC患者での発症ははるかに多い[Pea et al 1998].TSC患者の2〜5%が腎細胞癌を発症すると推定されている.TSC患者での腎細胞癌の診断年齢は28〜30歳であり,孤発例の腎細胞癌での診断年齢よりずっと早い[Borkowska et al 2011,Crino et al 2006].注:一般的な画像検査では,腎細胞癌と脂肪の少ない血管筋脂肪腫を鑑別できないことがある.血管筋脂肪腫に対するHMB-45免疫染色と,腎細胞癌に対するサイトケラチン免疫染色を行うとよい.

心臓TSC患者の47〜67%に心臓横紋筋腫が生じる[Jones et al 1999,Dabora et al 2001, Sancak et al 2005].これらの腫瘍は時間の経過とともに退縮し,最終的には消失すると報告されている.心臓横紋筋腫は新生児期に最大であることが多い.既存研究のメタ解析を行ったVerhaaren et al[2003]では,以下の結論が出ている.

  • 出生直後に外科的介入が必要となるのは,心室流出障害が生じている場合のみである.
  • 出生時に心室流出障害がない場合,後年,腫瘍による健康障害が起こる可能性は低い.

肺.主として女性に生じるリンパ管筋腫症は,TSC患者の約30%に発症すると推定されており,発症率は孤発例のリンパ脈管筋腫症の5〜10倍である[Costello et al 2000,Franz et al 2001, Moss et al 2001,McCormack 2008].リンパ管筋腫症の診断は年齢依存性であるため,Kinder et al [2010]はTSC女性の最大40%にリンパ管筋腫症が生じると推定した.

リンパ管筋腫症の平均診断年齢は,孤発例では35歳であるのに対し,TSC患者では28歳である.

孤発例のリンパ管筋腫症患者に息切れや喀血が生じることがある.胸部X線写真ではびまん性の網状陰影を,CT画像では浸潤と嚢胞性変化を伴うびまん性の間質変化を認める.気胸や乳糜胸が生じることがある.進行して呼吸不全となり,死亡する患者もいる.

TSC関連のリンパ管筋腫症は米国国立心肺血液研究所(NHLBI)のリンパ管筋腫症協会(LAM Foundation)の登録者の約15%を占めるに過ぎないため,TSC関連のリンパ管筋腫症は孤発例よりも軽症であることが示されている[McCormack 2008].また,TSC関連のリンパ管筋腫症患者の肺膿瘍は,孤発例よりも軽症である[Avila et al 2007].

2型肺上皮細胞の多発性結節増殖を特徴とする多病巣性微小結節型肺上皮細胞過形成は,1991年に初めてTSCとの関連が示された[Popper et al 1991].Muir ら[1998]は,多病巣性微小結節型肺上皮細胞過形成患者14人(女性12人,男性2人)のうち,TSCとリンパ管筋腫症を併発している者が7人,TSCのみを併発している者が2人,リンパ管筋腫症のみを併発している者が3人,多病巣性微小結節型肺上皮細胞過形成のみを発症している者が2人と報告した.これまでに多病巣性微小結節型肺上皮細胞過形成患者の50人未満がTSC患者であると報告された.

Avila ら [2007]は,TSC関連のリンパ管筋腫症患者の12%の肺画像に,多数の非石灰化結節を認めたと報告した.孤発例のリンパ管筋腫症患者でこのような所見が得られたのは1%であった.また,孤発例のリンパ管筋腫症の結節は,ほとんどが非定型の腺腫状過形成である.

TSCの網膜病変は過誤腫(盛り上がった桑実様病変や斑様病変)と無色素斑(低色素皮膚病変に類似)である.このような病変は患者の最大75%に1か所もしくは複数生じる.こうした病変には症状がないことが多いが,完全な滲出性網膜剥離と血管新生緑内障を伴って,進行性肥大性星状膠細胞過誤腫が生じるTSC患者が少数いる[Shields et al 2004].

腎臓以外の血管筋脂肪腫.稀ではあるが,腎臓以外の血管筋脂肪腫が報告されている[Elsayes et al 2005].Frickeら[2004]は超音波画像とCT画像に対する後ろ向き研究で,TSC患者62人のうち8人(13%)に肝血管筋脂肪腫を認めた.

Dworakowska & Grossman [2009]は,神経内分泌腫瘍を有するTSC患者の症例報告を総括した.腫瘍の大多数が下垂体腺腫,副甲状腺腺腫,副甲状腺過形成,膵腺腫(インスリノーマ,膵島細胞新生物)であった.最近,ガストリノーマ,褐色細胞腫,カルチノイドを認めた単一の症例が報告された.数人の患者で膵島細胞腫瘍におけるTSC2遺伝子の変異やヘテロ接合性の消失を認めた.

遺伝子型と臨床型の関連

TSC1遺伝子変異とTSC2遺伝子変異によって生じる表現型は,従来TSC2PKD1型隣接遺伝子症候群(「臨床像」を参照)を除き,同一とみなされていたが,今日では遺伝子型/表現型に関するデータが増え,TSC2遺伝子変異はTSC1遺伝子変異よりも重症の表現型を生じさせることがわかった[Dabora et al 2001,Lewis et al 2004,Sancak et al 2005,Au et al 2007].

  • 重症度の高いTSCの表現型を有する患者では,TSC1遺伝子の新生突然変異よりも高い割合で,TSC2遺伝子の新生突然変異がある[Jones et al 1999,Dabora et al 2001,Sancak et al 2005,Au et al 2007].
  • 孤発例(家系内で唯一の発症例)ではTSC2遺伝子変異が多く,家族例ではTSC1遺伝子変異とTSC2遺伝子変異の割合はほぼ同程度となっている[Au et al 2007].Jonesらの報告[1997]とJones らの報告[1999]では,家族歴のないTSC患者におけるTSC1遺伝子変異を持つ患者の割合は減っている.これは生物学的現象を正しく示していると考えられる.すなわち,TSC1遺伝子の新生突然変異を持つ患者では幾分症状が軽症化するため,患者の確認数が減っているということであろう.
  • Al-Saleem ら[1998]はTSC2遺伝子変異を持つ患者で腎癌のリスクが高まると報告した.
  • Jonesら[1997]とJonesら[1999]は,TSC2遺伝子変異を持つ患者で知的障害の発症率が高いことを見出した.
  • 自閉症,低知能指数,点頭てんかんはTSC2遺伝子変異により頻繁に認められる[Lewis et al 2004].
  • Strizhevaら [2001]は,TSC2遺伝子産物(チュベリン)のカルボキシ末端に変異の影響がある女性では,リンパ管筋腫症の発症率や重症度が高くなる傾向があるとした[Strizheva et al 2001].
  • TSC1遺伝子,TSC2遺伝子のいずれに対しても,変異のタイプ(タンパク質切断であるかミスセンス変異であるか)や変異の部位から表現型の重症度を予測することはできない.TSC2遺伝子の幾つかのミスセンス変異(p.Arg905Gln変異およびp.Gln1503Pro変異)は例外で,疾患の軽症化に関連している[Khare et al 2001,Jansen et al 2006].

腎嚢胞を発症する患者は以下である.

  • TSC1遺伝子変異が認められる場合
  • TSC2遺伝子の微小変異(単一もしくは少数の塩基挿入や欠失,および点変異)を持つ場合
  • 16番染色体短腕13.3領域で隣接しているTSC2遺伝子とPKD1遺伝子双方に,大規模な遺伝子欠失と再構成を有する隣接遺伝子症候群患者

    注:PKD1遺伝子変異は常染色体多発性嚢胞腎(ADPKD)を発症させる.

浸透率 

TSC1遺伝子変異もしくはTSC2遺伝子変異を持つ患者に対する詳細な評価により,現在,TSCの浸透率は100%であると考えられている.非浸透とみられる稀な症例の報告もあるが,分子遺伝学的検査を行ってこのような症例を検討したところ,1家系では2つの異なるTSCの原因遺伝子変異が,他の家系では生殖細胞系モザイクの存在が明らかになった[Connor et al 1986,Webb & Osborne 1991].

多彩な表現型TSC遺伝子の発現は,臓器レベルでは常染色体優性であるが,細胞レベルでは常染色体劣性であるため,臨床像は多様なものとなる.TSC1遺伝子とTSC2遺伝子はどちらもKnudsonの2ヒットセオリーに従って機能する癌抑制遺伝子と同じ特性を持つ[Knudson 1971].生殖細胞系変異を持つ患者では2段階目の「ヒット」が起こる確率が予測できないため,臨床像の多様性が生じる.チュベリン(TSC遺伝子産物)とハマルチン(TSC1遺伝子産物)が多数の細胞シグナル伝達経路を介した制御を受けやすいことを考慮すると,TSC患者は定義上,TSC1遺伝子もしくはTSC2遺伝子について機能性アレルを1つしか持たないため,これらの経路に作用する遺伝的・環境的要因がTSC患者の疾患発現に影響を及ぼすと考えられる.

表現促進現象

TSCで表現促進現象は認められない.

病名

過去に結節性硬化症に該当する所見を示すために用いられた用語は,現在使われていない,もしくは不適切とされているが,まったく使われなくなったわけではなく,以下の用語のように医学文献に散見されるものもある.

  • 皮脂腺腫(adenoma sebaceum)以前は顔面病変を表すために用いられていたが,TSC病変には「脂腺」の要素がないため,現在では「顔面の血管線維腫」の方が適切とされている.
  • 筋肉腫(Myomata)より正確な用語である心臓横紋筋腫や大脳皮質結節という用語が用いられるようになった.
  • トネリコ葉様斑(white ash leaf spots).以前は低色素斑を示すために用いられていたが,低色素斑の形状や大きさは様々であるため,現在は用いられなくなった.大きさや形状が一定の低色素斑を認めても,結節性硬化症との関連を示唆しない.
  • エピロイアTSCとてんかんを持つ患者に対して用いられた.

頻度 

TSCの頻度は出生児5,800人のうち1人とされている[Osborne et al 1991].変異率は高い(1:25,000)と推測されている[Sampson et al 1989].


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

TSCの特徴の多くは非特異的であり,単独の症状しか出現しないこともあるし,他の疾患の症状として認められることもある.

皮膚.低色素斑を新生児の0.8%に認めるとする研究があるが,医学的に問題となることはほとんどない[Alper & Holmes 1983].Vanderhooftらの研究[1996]では,低色素斑が3個以上認められる場合,後年TSCと診断される可能性が高いとされている.低色素斑を伴う他の疾患には,尋常性白斑,白斑性母斑,貧血性母斑,まだら症,Vogt-Koyanagi-Harada症候群がある.通常,これらの疾患は随伴所見からTSCとの鑑別が可能である.

顔面の血管線維腫様の病変が1つあっても,TSCの診断には至らない.診察では,尋常性座蒼,酒さ性ざ瘡,多発性毛包上皮腫が血管線維腫と間違えられやすいが,生検により鑑別は容易である.

TSCの粒起革様斑は他の結合組織母斑と鑑別できない.結合組織母斑は稀ではあるが,複数の家系で散発的にみられる.

爪下線維腫は外傷により生じることもあるが,一般に外傷性の爪下線維腫は単独病変であり,原因がはっきりしている(たとえばゴルフクラブを握る時の癖など).爪下線維腫に対しては,必ず上皮封入体嚢胞,尋常性疣贅,小児指線維腫症との鑑別を行うこと.

中枢神経系中枢神経系の多発性病変(大脳皮質結節,脳室上衣下結節,脳室上衣下巨細胞性星細胞腫,放射状細胞移動線)はTSCの確定的所見である.

腎臓. 腎嚢胞は一般人口集団にも生じるが(1〜2%),30歳未満では稀である[Becker & Schneider 1975,Northrup et al 1993].

腎臓の血管筋脂肪腫は稀な腫瘍であり,他の医学的問題のない人にも観察されることがある.こうした散発性の血管筋脂肪腫ではTSC2遺伝子と隣接遺伝子に対するマーカーでヘテロ接合性の消失を認める研究があり,結節性硬化症に罹患していない場合,TSC2遺伝子の機能喪失の結果,血管筋細胞腫が生じたことを示している.

リンパ管筋腫症の女性患者では,腎血管筋脂肪腫は合併するが他のTSC所見を認めない患者もいる.このような患者の子がTSCやリンパ管筋腫症を遺伝することはない.リンパ管筋腫症と血管筋脂肪腫の患者にこれ以外のTSC症状を認めない場合,TSCの診断基準を満たさない[Roach & Sparagana 2004].

心臓心臓横紋筋腫が認められる乳児がTSCを発症する確率は50%である.この他の50%では,心臓横紋筋腫が単独所見である.散発性の心臓横紋筋腫にも散在性の血管筋脂肪腫と類似の発症機序が存在する可能性がある(「腎臓」を参照のこと).

臨床医への注本疾患に関連して行われる患者に応じた「医療相談説明: Image SimulConsult.jpg」には,親の所見に基づいた鑑別診断を提供する双方向性診断支援ソフト(要登録,アクセス制限あり)を参考にしてもよいだろう.

臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

結節性硬化症(TSC)と診断された患者の疾患の程度を測るためには,1998年7月に開催された結節性硬化症コンセンサス会議の第1回臨床問題委員会による以下の評価が推奨されている(改訂版については[Roach & Sparagana 2004]を参照.全文は説明: Image guidelines.jpgを参照).

  • 特にTSC症状に関する既往歴
  • 特にTSC症状に関する家族歴
  • 暗室でのWoodsランプ(紫外線)を用いた診察.とりわけ皮膚所見に注意を払うこと.
  • 頭部CT/MRI検査
  • 腎超音波検査
  • 眼科検査
  • 心臓症状が疑われる場合は,心電図や心超音波検査.
  • 発作が懸念される場合は脳波検査.
  • 神経発達評価および行動評価
  • 成人女性に対する胸部CT検査
  • 医学的遺伝相談

症状の治療

脳室上衣下巨細胞性星細胞腫.数件の臨床試験で有効性が認められた後,2010年11月に肥大性巨細胞性星細胞腫治療薬としてFDAが承認したmTOR阻害薬は,肥大性巨細胞性星細胞腫の早期発見の非外科的治療を可能にした[Franz et al 2006,Krueger et al 2010].mTOR阻害薬治療を行うと,神経外科的介入の必要性がなくなる患者が増える.

けいれん発作.発作の早期コントロールは,てんかん脳炎の続発を予防し,認知行動障害の後遺症を減らすと考えられている[Muzykewicz et al 2009,Bombardieri et al 2010].点頭てんかんに対する様々な治療は,患者ごとに有効性が異なる.先行研究と真っ向に対立するが,最近の後向きレビューではTSC患児の73%でビガバトリンにより点頭てんかんのコントロールが可能であることがわかった[Camposano et al 2008].(ビガバトリン治療に関しては,「続発性合併症の予防」を参照).

TSCの発作は多剤併用の抗痙攣薬治療に抵抗性を示すことがある.数々の小規模試験で,てんかんの外科治療後,優れた成果が得られたことが報告されている[Avellino et al 1997,Baumgartner et al 1997,Weiner et al 1998,Romanelli et al 2002,Thiele 2004].

  • Jarrar ら[2004]は,てんかんの外科治療を行う時点で発作が一源性であり,発達遅滞が軽度もしくは認められない場合,長期的転帰の予測が極めて良好になるとした.
  • Romanelli ら[2004]は,てんかん発生部位が多源性であるTSC患者に対して外科的切除部位を選択する際の脳波記録,脳機能画像解析,侵襲的な皮質マッピングの利用に関して議論した.
  • Kagawaら[2005]は,PET画像上の放射性標識されたα-メチル-L-トリプトファンの高吸収部位が,83%の精度でてんかん発生源の結節であることを見出し,これによりてんかんの外科的治療の成功率が高まるとした.
  • Weiner et al[2006]はTSC患者22人に対して3段階の両側性外科治療アプローチを用いた.このアプローチは結節を複数有する若年患者における原発性と二次性のてんかん発生部位の同定に有用であると言われている.

腎血管筋脂肪腫血管筋脂肪腫は腫瘍への出血のため,激痛が生じかねない.幾つかの研究者は,血管筋脂肪腫の大きさが3.5〜4.0 cmを超えた場合,出血が生じやすくなるため,この数値が介入の必要性を示すよい指標であると判断している.

3.5〜4.0 cm超の脂肪腫を有する患者に対しては,予防的な腎動脈塞栓術もしくは腎温存手術(すなわち核出術もしくは腎部分切除)を考慮するとよい[Oesterling et al 1986,Steiner et al 1993,van Baal et al 1994].

腎摘除ができない場合,多巣性の血管筋脂肪腫に対する血管塞栓術により,急性出血の急速な安定化が得られ腎機能が保持されることが1件の研究で示された[Faddegon & So 2011].

焦点式アブレーションや,血管新生阻害薬やmTOR阻害薬などの薬剤療法など,外科手術以外の治療の安全性は高いが,有効性は同等であると考えられる.これらの選択肢が現在探求されている.

他の臨床試験では,腎血管筋脂肪腫とリンパ脈管筋肉腫に対するmTOR阻害薬の有効性が示された[Bissler et al 2008,McCormack et al 2011].FDAはTSC患者の腎臓障害と肺障害の治療薬としてmTOR阻害薬の使用を承認していない.

腎血管筋脂肪腫を有する100人以上の調査により,Sooriakumaran ら [2010]は,選択的動脈塞栓術による急性出血のコントロールは有効であるが,TSC患者の長期的管理における有効性は限定されると結論づけた.緩徐増殖性の血管筋脂肪腫を有する患者に対しては,経過観察が妥当であることが1件のレビューで示された[Mues et al 2010].(「経過観察」を参照).

リンパ管筋腫症.リンパ管筋腫症は出産年齢の女性のみに発症することから,エストロゲンが肺の平滑筋細胞の増殖刺激に関与していることが疑われる.メドロキシプロゲステロン療法や卵巣摘出術によりエストロゲンの産生量は減少するが,治療への奏効は個人によって極めてばらつきがある.肺機能障害には酸素療法が必要である.重度症状を呈する患者では肺移植が必要となる.

他の臨床試験では,腎血管筋脂肪腫とリンパ管筋腫症に対するmTOR阻害薬の有効性が示されている[Bissler et al 2008,McCormack et al 2011].FDAはTSC患者における腎障害と肺障害の治療薬としてmTOR阻害薬の使用を承認していない.

続発的合併症の予防

ビガバトリン療法中の患者ビガバトリン療法中の患者には,周辺視野障害のリスクがあるため,治療開始時から視野検査を行い,最初の18カ月間は3カ月ごと,その後は6カ月ごとの検査が推奨される[Willmore et al 2009].

経過観察

以下の定期的モニタリングがTSC患者には推奨される.

  • 頭部CT/MRIは,無症状の小児と青年には1〜3年に1回,無症状の成人には5年に1回行う.

    脳室上衣下結節を認める小児や青年に対し定期的に脳画像検査を行うと,腫瘍が大きくなり神経外科的手術の緊急適応となる前に,早期発見が可能となり介入を開始できる[Weiner et al 1998,Krueger et al 2010].
  • 腎画像検査
    • まだ腎病変のない患者に対しては,1〜3年に1回超音波検査を行う.
    • 径が3.5〜4.0 cm未満の血管筋脂肪腫を有する患者に対しては,半年に1回超音波検査を行う.
    • 腎臓の超音波検査で大きな腎腫瘍もしくは腎腫瘍が多数発見された場合,腎CT/MRIを行う.
  • けいれん発作の管理目的で,必要に応じて脳波検査を行う.
  • TSC患児の神経発達及び行動評価に関する2005年の結節性硬化症同盟会議(TS Alliance Conference)が作成した合意に基づく臨床ガイドライン(全文は説明: Image guidelines.jpgを参照).
    • 小児期や成人初期の様々な時期に,時期ごとの目的(生後3歳までは自閉症の有無の確認;就学前は教育的必要性の程度判定;小児中期は学業上の到達度評価とADHDや神経認知的障害の有無の確認,中等教育への移行計画や児童福祉からの脱退の計画など)を設定して行われる神経発達面と神経認知面に対する評価.
    • 脳室上衣下巨細胞性星細胞腫,てんかん,血管筋脂肪腫,腎不全などの医学的問題に伴って生じることの多い学習や行動に急速/突然/予期せぬ変化が生じた場合,神経発達評価と神経認知評価を行う.
  • 心症状が疑われる場合,心エコー検査を行う.
  • 肺評価
    • 結節性硬化症連携会議(TS Alliance Conference)は,18歳以上のすべてのTSC患者女性に,少なくとも1回,高解像度CTを行うことを推奨している.
    • 症状や他の臨床要因に応じて,6〜12カ月に1回の肺機能検査と,1〜3年に1回の高解像度CT検査を定期的に行う.

    注:(1)腎病変を有する患者が進行性の失明を発症することはめったにないため,これより頻繁に眼科検査を定期的な医療管理として行う必要はない.(2)定期的な皮膚の評価はほとんどの患者で不要である.治療の効果があると考えられる患者は,経験のある専門医へ紹介すること.

リスクの高い血縁者の検査

患者の特定により,TSCに関連する問題の有無を早期に検出できるため,早期治療と転帰の改善につながる.家系特異的変異がわかれば,分子遺伝学的検査を用いてリスクの高い罹患親族を特定することができる.わからない場合は,TSC所見の有無を確認する検査を行うこと(「診断」を参照).

遺伝カウンセリング目的のリスクのある血縁者に対する検査に関連する問題は,「遺伝カウンセリング」を参照のこと.

研究中の治療

約20件の臨床試験で,TSC症状に対する薬剤効果が評価されている.終了した試験もあれば,進行中の試験もある(「臨床試験」を参照).

脳室上衣下巨細胞性星細胞腫

  • ラパマイシンの経口投与により,5人の患者でTSC関連の星細胞腫の退縮が誘導された[Franz et al 2006]が,投与中断後,治療前の大きさに戻ったり,治療前の大きさ以上になった腫瘍もあった.その後,ラパマイシン投与を再開したところ,腫瘍は退縮した.
  • 2006年に開始された巨細胞性星細胞腫に対するエベロリムス(RAD001薬剤)の安全性と有効性を評価する第I/II相試験(NCT00411619)では,巨細胞性星細胞腫の容積と発作頻度に顕著な減少を認めた[Krueger et al 2010].生活の質の改善がみられた.

点頭てんかん.2007年に開始された点頭てんかんのコントロールに対するガナクソロンの安全性と有効性を評価するランダム化比較試験(NCT00441896)は終了した.

腎血管筋脂肪腫腎血管筋脂肪腫に対するシロリムス(ラパマイシン)の安全性と有効性を評価する第II相ラパマイシン試験(NCT00126672)が,2005年に開始された.

注:野生型TSC2遺伝子変異ラット(Ekerラット)モデルを用いてKenersonら[2005]は,ラパマイシンを投与したラットの腎腫瘍が顕著に縮小したことを報告した. しかし,治療が長期化すると,ラパマイシン抵抗性病変を示す所見も認められた.

英国での臨床試験では,2年間のシロリムス(ラパマイシン)投与後,TSC患者とリンパ管筋腫症の孤発例(家系内で唯一の発症)で腎血管筋脂肪腫の持続的退縮が認められた[Davies et al 2011].

リンパ管筋腫症

  • 2006年後半から2011年に行われた第III相臨床試験(NCT00414648)では,シロリムス(ラパマイシン)がリンパ管筋腫症患者の肺機能を安定化し,血清血管内皮増殖因子(VEGF)‐D値を低下させると結論づけられた[McCormack et al 2011].この試験は,プラセボ対照群と比較して,治療群においてリンパ管筋腫による症状が軽減し,生活の質が改善することが示された.投与中止により肺機能は悪化した.有害事象の発症はプラセボ対照群より治療群で頻度が高かったが,重篤な有害事象の頻度は両群間に有意な差はなかった.
  • TSC患者の腎血管筋脂肪腫の治療薬としてラパマイシンを用いた最近の臨床試験では,投与中は腫瘍容積が減少したが,投与中止後に腫瘍容積が増大したため,腫瘍増殖のコントロールにはさらに治療を続ける必要があることが報告された[Bissler et al 2008,Davies et al 2008].リンパ管筋腫症患者における肺機能は,Bisslerの試験では改善したが,Daviesの試験では改善しなかった.ここから,規模を拡大した多施設共同試験の必要性がうかがわれる.

様々な疾患や病態に対する臨床試験に関する情報入手の際には, ClinicalTrials.govを参照のこと.

その他

遺伝クリニック は,患者や家族に自然経過,治療,遺伝形式,患者家族の遺伝的発症リスクに関する情報を提供とするとともに,患者サイドに立った情報も提供する.Gene Test Clinic Directoryを参照のこと.

患者情報.本疾患の支援グループや複数疾患にまたがった支援グループについては「患者情報」を参照のこと.これらの機関は患者やその家族に情報,支援,他の患者との交流の場を提供するために設立された.

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

結節性硬化症(TSC)は常染色体優性で遺伝する.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • TSC発端者の約3分の1は,親の1人が罹患者である.
  • 患者の3分の2が,TSC1遺伝子もしくはTSC2遺伝子に新生突然変異の結果として変異を有する.
  • 一見して結節性硬化症の家族歴を持たない患児の両親に対する評価の際には,徹底した皮膚病変に対する評価,網膜検査,脳画像検査,腎超音波検査が推奨されるが,原因遺伝子変異が発端者で同定されている場合は分子遺伝学的検査も行うとよい.両親の評価を行うと,親の1人が罹患しているが,医療機関の見落としにより症状が認識されなかったり,症状の発現が軽症であるなどの理由でこれまで診断されないでいたことが判明することがある.従って,一見して家族歴がないように見える場合でも,適切な評価が実施されるまでは診断の確定を待つべきである.

発端者の同胞 

  • 発端者の同胞のリスクは,両親の遺伝状態による.
  • 両親の1人が罹患者である場合,もしくは原因遺伝子変異が家系内に同定されている場合,同胞のリスクは50%である.
  • 両親のどちらにもTSCが疑われる所見がない場合,もしくはどちらの白血球から抽出された両親のDNAにも原因遺伝子変異が検出されない場合,生殖細胞系モザイクの可能性があるため,発端者の同胞の再発リスクは1〜2%である.

発端者の子

結節性硬化症患者の子が変異を受け継ぐ確率は50%である.

他の家族 発端者の他の親族のリスクは,発端者の両親の遺伝状態による.両親の1人が罹患者である場合,もしくは原因遺伝子変異を有する場合,その両親の親族にはリスクがある.

遺伝カウンセリングに関連した問題

遺伝カウンセリング目的のリスクのある親族に対する検査に関連する問題は,「治療・ケア」,「リスクの高い親族の検査」を参照のこと.

TSC1遺伝子変異とTSC2遺伝子変異の浸透度は100%と考えられる.しかし,TSCの臨床所見は,家系内でも家系間でも極めて多彩である.「浸透率」を参照のこと.

遺伝子型と臨床型が関連することはわかっているが,分子遺伝学的検査の結果から臨床型を予測することは困難である.「遺伝子型と臨床型の関連」を参照.

見かけ上新生突然変異を有する家系に対する配慮常染色体優性疾患において,発端者の両親とも病原性変異が認められない場合や当該疾患の臨床所見が認められない場合,発端者が新生突然変異を有している可能性がある.しかし,生物学的父親や母親が異なるといった非医学的理由(生殖補助医療など)もしくは養子関係が秘められている場合といった理由も検討されるだろう.

家族計画 

  • 遺伝的リスクの確定や出生前診断の実施に関する議論を行う最適な時期は妊娠前である.同様に,リスクのある無症状親族の遺伝状況の確定検査に関する議論を行う時期は妊娠前がもっともよい.
  • 罹患している若年成人や原因遺伝子変異を有する若年成人への遺伝カウンセリング(子への潜在リスクや生殖に関する選択に関する議論など)の提供は妥当である.

DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,特に発症原因が確定できない発端者のDNAの保存は考慮に値する.

出生前診断

高リスクの妊娠

  • 分子遺伝学的検査.高リスクの妊娠に対する出生前診断は,通常胎生週数15〜18週頃に実施される羊水検査や胎生週数10〜12週頃に実施される絨毛生検(CVS)により採取された胎児細胞のDNA解析により可能である.出生前診断の実施以前に,家系内患者の発病型アレルが同定されていることが条件である.

注:胎生週数とは最終月経の第1日から換算するか,超音波による計測によって算出される.

  • 胎児の画像診断.原因遺伝子変異が同定されてない家系には,腫瘍に対する高解像度超音波検査を実施できるが,感度は不明である.胎児MRI画像検査はTSC発症リスクが50%の胎児の評価に有用である可能性がある.

注:一般に,心臓腫瘍は妊娠3期(後期)以降になるまで検出されない.

低リスクの妊娠胎児超音波検査で心臓病変が横紋筋肉腫であることが判明した場合,TSCの家族歴がない胎児のTSC発症リスクは50%である.

着床前診断(PGD)は家系内に原因遺伝子変異が同定されている場合,実施可能である.着床前診断を行っている施設に関しては「Testing」参照のこと.

注:GeneReviewsの方針は, GeneTests Laboratory Directoryに掲載されている臨床施設で臨床的に実施されている検査を含めるというものである.ここに挙げられている検査は著者,編集者,審査担当者の推薦を反映したものでない.


更新履歴

  1. GeneReview 著者 :Hope Northrup, MD, FACMG; Kit-Sing Au, PhD.
    日本語訳者 :和田敬仁(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
    GeneReview 最終更新日: 2002.10.3.日本語訳最終更新日: 2003.8.21.
  2. GeneReview 著者 : Hope Northrup , MD, FACMG; Kit-Sing Au, PhD
    日本語訳者 :和田敬仁(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
    GeneReview 最終更新日: 2005.12.05.日本語訳最終更新日: 2006.1.30.
  3. Gene Review著者: Hope Northrup, MD, FACMG, Kit Sing Au, PhD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院 遺伝子診療部)
    Gene Review 最終更新日: : 2009.5.7. 日本語訳最終更新日: 2010.12.31.
  4. Gene Review著者: Hope Northrup, MD, FACMG, Mary Kay Koenig,MD, Kit-Sing Au, PhD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院 遺伝子診療部)  
    Gene Review 最終更新日: 2011.11.23. 日本語訳最終更新日: 2012.5.3. (in present)

原文 Tuberous Sclerosis Complex

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