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結節性硬化症
(Tuberous Sclerosis Complex)

[同義語: Bourneville Disease]

Gene Reviews著者: Hope Northrup, MD, FACMG, Mary Kay Koenig,MD, Deborah A Pearson, PhD, Kit-Sing Au, PhD
日本語訳者: 水上都(札幌医科大学医学部遺伝医学)
AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)

Gene Reviews 最終更新日: 2018.7.12. 日本語訳最終更新日: 2018.8.31

原文: Tuberous Sclerosis Complex


要約

臨床所見 

結節性硬化症(TSC)には、皮膚の異常(低色素斑、散在性小白斑、顔面の血管線維腫、シャグリンパッチ、線維性の頭部プラーク、爪囲線維腫)、脳の異常(皮質異形成、上衣下結節および上衣下巨細胞性星状細胞腫(SEGAs)、痙攣、知的障害・発育遅延、精神病)、腎臓の異常(腎血管筋脂肪腫、嚢胞、腎細胞癌)、心臓の異常(横紋筋腫、不整脈)、および肺の異常(リンパ脈管筋腫症(LAM))がある。本疾患の障害と死亡の主要な原因は中枢神経系の腫瘍であり、早期死亡の原因の第2位は腎疾患である。

診断・検査 

TSCは臨床所見に基づいて診断される。TSCの臨床診断基準を満たす個人の75%〜90%にヘテロ接合体の病原性変異が同定されている。病原性変異が同定される人々のうち、31%にTSC1、69%にTSC2の病原性変異が見られる。

TSCの診断は以下の1つを満たす発端者においてなされる。
・大症状を2つ認める
・1つの大症状と2つ以上の小症状を認める
・分子遺伝学的検査においてTSC1またはTSC2にヘテロで病的変異を認める

臨床的マネジメント 

症状の治療肥大するSEGAs:mTOR阻害剤。SEGAのサイズが、生命を脅かす神経学的症状を来す程大きい場合は脳神経外科手術を行う。てんかん発作:ビガバトリンや他の抗てんかん薬、また場合によってはてんかん手術。4cmを超えるもの、または3p以上で急速増大傾向にある腎血管筋脂肪腫:第一選択治療としてmTOR阻害剤、また第二選択治療として塞栓術または腎保存術, または切除術。LAM:mTOR阻害剤。顔面血管線維腫:mTOR阻害剤外用。症候性心臓横紋筋腫:外科手術による治療介入、またはmTOR阻害剤の使用を考慮。

二次的合併症の予防ビガバトリンを投与する患者に対しては視野検査を治療開始後4週間以内に行ったあと、治療期間中は3か月毎に行う。更に治療終了の3〜6か月後にも行う。

経過観察:25歳以下の無症状の患者には脳MRIを1〜3年毎に施行し、SEGAsが新たに発現していないか観察する。小児期に無症候性のSEGAを認めた場合は、成人期にも定期的な画像検査を施行する。大きな、または増大傾向のSEGAを有する患者、もしくはSEGAのため脳室拡大を呈している患者は、より頻繁に脳MRIを施行する。TSC関連神経精神症状(TAND)のスクリーニング検査は少なくとも年に1度行う。また発達上重要な各時期において、TANDについて包括的に評価する必要がある。てんかん発作を認める、または疑われる個人には定期的な脳波検査(EEG)を施行する。腎血管筋脂肪腫および腎嚢胞性疾患の進行を評価するために1〜3年毎に腹部MRIを施行する、また少なくとも年に1回は腎機能評価(糸球体濾過率および血圧)を行う。心臓横紋筋腫を有する無症状の乳児や小児には腫瘍が縮小消退するまで1〜3年毎の心エコーを施行する。LAMの症状(労作時呼吸困難および息切れ)の有無を18歳以上の女性または呼吸器系症状を訴えた個人に毎回の受診毎に確認する。LAMのリスクがある無症状の個人(19歳以上の成人女性)に対しては、たとえベースラインの検査でLAMの徴候を認めない場合でも5〜10年毎に高解像度CT(HRCT)を施行、HRCTで肺嚢胞が発見された個人には肺機能検査を年1回、およびHRCTを2〜3年毎に施行する。年1回の皮膚検査、6か月毎の歯科検診、過去に眼病変または視覚症状が確認された個人には年1回の眼科医による評価を実施する。

避けるべき薬剤・状況喫煙、エストロゲンの使用、腎摘除術

リスクのある血縁者の評価罹患している血縁者を同定すると、TSC関連病変を早期に診断するための定期検査が可能になり、早期治療と予後の改善につながる。

遺伝カウンセリング 

TSCの遺伝形式は常染色体優性遺伝である。罹患者の3分の2は新生突然変異の結果発症する。罹患者の子が病的遺伝子変異を受け継ぐ確率は50%である。家系内の原因遺伝子変異が同定されている場合は、リスクの高い妊娠に対する、出生前診断、着床前診断は可能である。


診断

TSCを疑うべき所見

結節性硬化症(TSC)に関し、下記の大症状を1つ満たす場合、または小症状を二つ以上満たす場合はTSCの罹患を疑う必要がある

大症状

  • 血管線維腫(3個以上)または頭部の結合識よりなる局面
  • 心臓横紋筋腫
  • 大脳皮質の異形成(大脳皮質結節・放射状大脳白質神経細胞移動線を含める)
  • 低色素斑(3個以上, 直径5mm以上)
  • リンパ脈管筋腫症(LAM)(*注を参照)
  • 多発性の網膜過誤腫
  • 腎血管筋脂肪腫(*注を参照)
  • シャグリンパッチ
  • 脳室上衣下巨大細胞性星状細胞腫(SEGA)
  • 脳室上衣下結節(SENs)
  • 爪囲線維腫(2個以上)

小症状

  • 散在性小白斑(腕や脚などの身体の領域に散在する直径1〜3 mmの多数の脱色素斑)
  • のエナメル質の小腔(4個以上)
  • 口腔内線維腫(2個以上)
  • 多発性腎嚢胞
  • 腎以外の過誤腫
  • 網膜無色素斑

確定診断

結節性硬化症(TSC)の臨床診断基準は分子遺伝学的検査の結果を考慮したものに改訂された(Northrupら(2013年))。

TSCの確定診断可能になるのは以下のいずれかの場合である。

  • 大症状2つ、または大症状1つと小症状2つ以上を満たす場合
  • 分子遺伝学的検査でTSC1またはTSC2のいずれかにヘテロ接合性の病的変異が同定された場合
    (注)LAMと腎血管筋脂肪腫が共に見られるが他の特徴を認めない場合は、確定診断の臨床的診断基準を満たさない。

分子遺伝学的検査には、単一遺伝子検査マルチジーンパネル検査の使用などの方法がある。

同時遺伝子検査(Concurrent gene testing)

TSC1, TSC2のシークエンス解析及び標的遺伝子の欠失/重複解析を行う。(注):もし病的変異が同定されなかった場合は、病的変異の体細胞モザイクの可能性も考えられる。(Qinら(2010年)、Nellistら(2015年))TSCの原因となる体細胞性モザイク現象に関してさらに情報を得るにはこちら(PDF)をクリック。

マルチ遺伝子パネル

SC1、TSC2、および重要な他の遺伝子(「鑑別診断」を参照)を含むマルチ遺伝子パネルは、コストが制限されていたり、VUSの同定や表現型と合わない遺伝子の病的変異が同定され、TSCの診断が不確実な際に、遺伝学的原因を追究するために考慮されうる。(注)(1)マルチ遺伝子パネルに含まれる遺伝子や検査の感度は検査機関や時間経過により異なるものになる。(2)マルチ遺伝子パネルの中にはこのGenReviewで言及している症状と関連のない遺伝子が含まれているものもある。(3)検査機関の中には、その検査機関がデザインした独自のパネルや表現型に注目し臨床医によって絞りこまれた遺伝子を含んだエクソーム解析も含めたパネルオプションを提供しているところもある。(4)パネル検査で使用される方法はシークエンス解析、欠失/重複解析、そして/または その他の非シークエンス検査が含まれる。この疾患に関しては、欠失/重複解析も含んだマルチ遺伝子パネル検査が推奨される。
マルチ遺伝子パネルに関してさらに情報を得る場合はこちらをクリック。

表1. 結節性硬化症に用いる分子遺伝学的検査

遺伝子1 本遺伝子の病原性変異に起因するTSCの割合 試験方法 遺伝子、家族歴、検査方法別の病原性変異2の発見頻度
家族例 孤発例3
TSC1 〜26%4 シークエンス解析5,6 〜9.8% 〜15.5%
標的遺伝子の欠失・重複解析7 〜0.1%8 〜0.5%8
TSC2 〜69%4 シークエンス解析 13.8% 〜53%
標的遺伝子の欠失・重複解析7,9 〜0.2%8 〜2%8
不明 〜5%10,11 該当せず 該当せず
  1. 遺伝子はアルファベット順に並べている
  2. 染色体遺伝子座とタンパク質については「表A. 遺伝子とデータベース」を参照
  3. 本遺伝子で検出されるアレル変異に関する情報は「分子遺伝学」を参照。
  4. 孤発例とは家族内の一人に変異が発生した例である。
  5. 病原性変異が確認された10000人以上のTSC患者とその家族のうち、発端者の26%までがTSC1に、73%までがTSC2に病原性変異を認めた(Jonesら(1999年)、Daboraら(2001年)、Auら(2004年)、Sancakら(2005年)、Auら(2007年))(表A「TSCのデータベース」参照)。
  6. シークエンス解析では, benign, likely benign, 意義不明, likely pathogenic, pathogeni,の変化が検出される。病的変異には, 遺伝子内の欠失/挿入, ミスセンス, ナンセンス, スプライス部位変異が含まれる. 通常はエクソン, または全エクソンの欠失/重複は検出されない。シークエンス解析結果の解釈に関する記事はこちらをクリック。
  7. TSC1の病原性変異は主にシークエンス解析で検出される小さな欠失や挿入、およびナンセンス変異である。
  8. 標的遺伝子の欠失/重複解析では、遺伝子内の欠失/重複を検出するのに以下の方法を用いる。定量的PCR、long-range PCR, MLPA。更に単一エクソン欠失および重複を検出するために標的遺伝子マイクロアレイ検査も用いる。
  9. TSC患者65名において多数のエクソン、大きな遺伝子上の欠失を検出する方法を比較すると、Rendtorffら(2005年)はMLPA法がサザンブロット法及びlong-range PCR法と比較してより感度が高いという結論を出した。MLPA法を使用するとシークエンス解析やサザンブロット法で病的変異が検出されなかった15家系のうち4家系においてTSC2 エクソンの大欠失または全遺伝子欠失を同定した。
  10. TSC2の病的変異には、エクソンのシークエンス解析では検出できない多数の大きな(エクソンまたは全遺伝子の)欠失や再配列が含まれるため、それらの発見には標的遺伝子の欠失・重複解析の実施が必要となる。
  11. Sancakら(2005年)、Auら(2007年)、Kwiatkowski(2010年)、TableA,  TSC変異のデータベース
  12. シークエンス解析によりTSC1またはTSC2に病的変異が同定されなかったTSC患者の15%のうち, 体細胞性モザイクが5%であった(Kozlowskiら(2007年)、Qinら(2010年))ことから推測すると、著者は、TSC患者の少なくとも1%は、TSC1またはTSC2no
    病的変異の体細胞モザイクであると結論付けた(著者の個人的な観察)。

臨床像

臨床症状に関する説明

結節性硬化症(TSC)は家族間、および家族内で多様な臨床所見を示す。女性は男性より軽症な傾向がある(Sancakら(2005年)、Auら(2007年))。TSCでは全ての臓器系に疾患が発現する可能性がある。

皮膚

TSC患者のほぼ100%に皮膚の疾患が現れる。皮膚病変には、低色素斑(〜90%)、散在性小白斑(発生頻度は子供では3%、患者全体では58%と大幅に異なる)、顔面血管線維腫(〜75%)、シャグリンパッチ(〜50%)、頭部の結合識よりなる局面、および爪囲線維腫(患者全体では20%だが、高齢では80%までの患者に見られる)(Northrupら(2013年))がある。皮膚病変の中でも顔面血管線維腫は最も外見を損なう。いずれの皮膚病変も重篤な医学上の問題はもたらさない。

中枢神経系(CNS

中枢神経系の腫瘍はTSCによる障害と死亡の主要な原因である。TSCの脳病変には脳室上衣下結節(SENs)(Crinoら(2010年))、大脳皮質異形成、および脳室上衣下巨細胞性星状細胞腫(SEGAs)などがあり、いずれも神経学的画像検査で評価が可能である。SENsは患者の80%、皮質異形成は約90%に発現する。SEGAsは全TSC患者の5%〜15%に発生する(Northrupら(2013年))。このような巨細胞性星状細胞腫は増大し、周辺組織を圧迫、閉塞し重大な障害や死亡につながる可能性がある。

てんかん発作

患者の80%以上がてんかん発作を発症すると報告されているが、ただし、この割合にはより重症な患者の情報が収集される確認バイアスがかかっている可能性がある。TSCは点頭てんかんの原因となることが知られている。少なくとも50%の患者に発達遅滞や知的障害が見られる。TSC患者に生じる若年死亡(32.5%)の主な原因は、重度の知的障害による合併症(例:てんかん重積状態および気管支肺炎)である(Shepherdら(1991年))。

TSC関連神経精神症状(TAND

TANDは、TSC患者によく見られる脳機能障害の、相互に関連する機能的および臨床的な所見を指し、行動、精神、知能、学業面の、そして神経精神学的、心理社会的な障害が含まれる(de Vries(2010年a))。TSCに罹患した90%以上の子供や成人がその後の生涯でTANDの発症を懸念することが一度またはそれ以上あるにもかかわらず、これまでに評価や治療介入を受けたのはそのうちわずか20%にとどまっている(Krueger(2013年)de Vriesら(2015年))。

自閉症スペクトラム障害(ASD

TSC患者はASDの高いリスクがあり、その発症率は16%〜61%であると推計されている(Gillbergら(1994年)、Boltonら(2002年)、Wong(2006年)、de Vriesら(2007年)、Chungら(2011年)、Numisら(2011年)、Spurling Jesteら(2014年))。これに対して一般集団でのリスクは2%未満となっている(米国疾病管理予防センター、自閉症スペクトラム障害データおよび統計資料を参照)。TSC患者のASDの徴候は生後9か月頃に出てくる。脳室上衣下巨細胞性星状細胞腫を有するTSC患者では、ASDを発症する可能性はほぼ2倍になり(Kothareら(2014年))エベロリムスによる治療はSEGAのサイズ、てんかん、ASDの症状を改善することがわかっている。言語経路の障害(Lewisら(2013年))や顔認識異常(Spurling Jesteら(2014年))等の、ASDと密接に関連する神経機能障害がTSCに罹患した人々に認められてきた。TSCに罹患し、さらにASDを発症している子供は、発症がない子供に比べ全般的な認知機能障害を生じるリスクが高くなる(Jesteら(2008年))。

注意欠陥多動性障害(ADHD

ADHDも、TSCに密接に関わる疾患でよく見られる(そして潜在的に重篤な衰弱を来す)ものである。TSC患者のADHDの発病率は21%から50%と推計される(Gillberら (1994年)、Pratherとde Vries(2004年)、Muzykewiczら(2007年)、Koppら(2008年)、Chungら(2011年))。TSCを有する子供および成人の神経心理学的検査では、注意力(特に二重課題の遂行場面)、認識の柔軟性、および記憶における障害も認められた(Ridlerら(2007年)、de Vriesら(2009年)、Tiemeyら(2011年)de Vriesら(2015年))。

学習および認知機能障害

TSC患者は知的障害を生じるリスクが高く、その発病率は44%〜64%と推計されている(Joinsonら(2003年)、Gohら(2005年)、van Eeghenら(2012年))。

  • TSCに罹患している子供の約36%-58%には、介入を必要とする深刻な学業上の困難さ(学習障害)を抱えている(de Vries(2010年b))。
  • てんかん発作がコントロールされていない場合、学習および認知機能の障害のリスクは顕著に増加する。点頭てんかん(IS)の既往、および/またはてんかん発作のコントロール不良は、一般に知能の低下を伴うことが数多くの調査により立証されている(Joinsonら(2003年)、Gohら(2005年))。Humphreyら(2014年)は小規模なサンプル(n = 6)による調査で、てんかん発作と知能障害との間に劇的な用量依存関係があることを証明した。推定される知能指数(IQ)は92(IS以前)から、73(ISの持続期間が1か月以下)、そして62(ISの持続期間が1か月以上)へ低下した。これらの所見は、TSC患者において適切なてんかんのコントロールが重要であることを示している。

破壊的行動障害および情緒障害

破壊的行動障害と情緒障害は、TSCに関連する消耗性疾患の1つである。攻撃性は多くのTSC患者(13%〜58%)に認められ(de Vriesら(2007年)、Koppら(2008年)、Staleyら(2008年)、Chungら(2011年)、Edenら(2014年))、自傷行為(27%〜41%)などとして現れる(de Vriesら(2007年)、Edenら(2014年))。TSC患者には不安(13%〜48%)(de Vries (2007年)、Muzykewiczら(2007年)、Koppら(2008年)、Chungら(2011年))やうつ病(19%〜43%)(de Vriesら(2015年))などの高いリスクがある。

評価

TANDの有無は患者の臨床的転帰や生活の質と密接に関連しており、TSC患者全てに評価を実施する必要がある(Krueger、(2013年))。TANDチェックリスト(de Vriesら(2015年))は、無料で利用できるスクリーニング用の簡素な筆記式アンケートであり、TANDに伴う臨床ニーズと、そのニーズを受けて治療介入が実施される患者との間の大きな隔たりに対処するツールとして期待できるものである(de Vriesら(2015年)、Leclezioとde Vries(2015年))。TANDへの懸念に対処しないことは予後不良の大きな原因となり、またTSC患者が医療支援を受ける割合は非常に高いことを考えると、TANDに対する懸念を認識し対処することの重要性が過大評価されることは起こり得ない。

腎臓

腎疾患はTSC患者における若年死亡の2番目に大きな原因(27.5%)である(Shepherdら(1991年))。TSCに罹患した子供の推定で80%が、平均年齢で10.5歳までに腎病変の発現を特定されている(Ewaltら(1998年))。
TSC患者には以下の5つの異なる腎病変の発生が考えられる。

  • 良性の腎血管筋脂肪腫(患者の70%)
  • 上皮嚢胞(患者の20%〜30%)(Sancakら(2005年)、Auら(2007年))
  • オンコサイトーマ(良性の腺腫性過誤腫)(患者の1%未満)
  • 悪性の腎血管筋脂肪腫(患者の1%未満)
  • 腎細胞癌(患者の3%未満)(Patelら(2005年))

良性の腎血管筋脂肪腫

良性の腎血管筋脂肪腫は異常な血管、平滑筋の層、および成熟した脂肪組織から成る。小児期には、腎血管筋脂肪腫はその大きさと数が時間と共に増加する傾向がある。良性の腎血管筋脂肪腫は生命を脅かす出血をもたらす可能性や、正常な腎実質にとってかわり、末期腎不全(ESRD)の原因となる。

腎嚢胞

腎嚢胞は肥大した過形成の好酸球に裏打ちされた上皮層を伴う。

TSC患者には、TSC2の欠失により生じたTSCと、PKD1の欠失により引き起こされた常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の両方の特徴を認める場合がある。その場合、嚢胞が徐々に増大し、機能する腎実質を圧迫してESRDをもたらす場合がある(Martignoniら(2002年))。ADPKD は他臓器(例:肝臓)の嚢胞性病変や桑実状動脈瘤を伴うが、TSC2/PKD1隣接遺伝子欠失症候群を有する患者はADPKDの合併症を発症するリスクもある。

悪性腎血管筋脂肪腫および腎細胞癌(RCC)

悪性腎血管筋脂肪腫とRCCは死亡をもたらす場合がある。これら二つの腫瘍はまれにしか見られないが、一般集団に比べTSC患者ではるかに多く発現する(Peaら(1998年))。TSC患者の2%〜5%と推定される人々がRCCを発現する。患者がRCCと診断される年齢は28〜30歳であり、散発性腎細胞癌の診断年齢よりはるかに若年である(Crinoら(2006年)、Borkowskaら(2011年))。(注)一般的な画像検査の技術では、脂肪に乏しい腎血管筋脂肪腫をRCCと見分けられない場合がある。免疫染色検査を実施し、HMB-45陽性の場合は腎血管筋脂肪腫、サイトケラチン陽性の場合はRCCと診断することが推奨される。

心臓

心臓横紋筋腫はTSC患者の47%〜67%に存在する(Jonesら(1999年)、Daboraら(2001年)、Sancakら(2005年))。この腫瘍は時間と共に縮小し、最終的には消失することが実証されている。心臓横紋筋腫は新生児期に最も大きい場合が多い。心臓から流出する血液の通過障害を出生時に認めなければ、その後この腫瘍による健康上の問題を抱える可能性は低い。しかし少数の患者は、横紋筋腫が縮小後に残存した細胞によって不整脈を起こす。閉塞性病変の治療選択肢に関する情報は、「管理」を参照。

  • リンパ脈管筋腫症(LAM
    肺のLAMは主に女性に影響を及ぼし、TSCを有する女性の約30%〜40%に発現すると推定されている。しかしながら、最近の調査ではLAMの診断は年齢依存的であり、TSCの女性患者の80%は40歳までにLAMと診断されることが示唆されている。TSCの女性の約5-10%は症候性のLAMを呈する。LAMに一致する嚢胞性病変はTSCを有する男性の10%〜12%に認められる(Northrupら(2013年))。
    • TSC患者がLAMと診断される平均年齢は28歳であり、一方で孤発性LAMでは35歳である。
    • TSC関連のLAMの患者は孤発性LAMの患者と同様に息切れや喀血を呈する場合がある。胸部X線検査により散在性の網状陰影が示され、CT検査では浸潤影や嚢胞性変化を伴うびまん性の間質性変化が明らかになる。気胸および乳び胸水が発生する場合がある。疾患が進行して呼吸不全や死亡に至ることもある。
    • TSCとLAMを発症している患者は国立心肺血液研究所LAM財団の登録者のわずか15%を占めるに過ぎないため、TSCに伴うLAMは孤発性LAMより症状が軽度であることが示唆される(Avilaら(2007年))。また、散発例と比較し、肺嚢胞も少ない。
  • 多発性小結節性肺胞過形成(MMPH
    多発性小結節性肺胞過形成(MMPH)は2型肺胞上皮細胞の多発性小結節性増殖を特徴とし、TSCとの関連で最初に報告されたのが1991年であった(Popperら(1991年))。MMPHが患者の予後や生理学的側面に与える影響は分かっていないが、MMPHに伴う呼吸不全は少なくとも2例で報告されている(Cancellieriら(2002年)、Kobashiら(2008年))。TSCを有する人々のMMPHに関する正確な罹病率は不明だが、40%〜58%に達している可能性がある(Franzら(2001年)、Muzykewiczら(2009年b))。性別による発症の差異はなく、TSC患者にとってMMPHはLAMの有無にかかわらず発現する場合がある。MMPHは、TSCとの明確な関連がない前癌病変である異型腺腫様過形成と混同される可能性がある。

TSCにおける網膜病変には過誤腫(隆起した桑実状病変、または斑状病変)があり、TSC患者の30%〜50%に認められる。この病変の発生は一般集団では比較的まれであり、最近実施された正期産新生児3,573人に関する調査では網膜病変が特定されたのはわずか2人であった(Liら(2013年))。TSC患者の39%に無色斑(脱色素性病変に類似)の発生が見られるが、一方で一般集団での発現率は20,000人に1人である(Northrupら(1993年))。これらの病変は通常無症候であるが、TSC患者の少数に、全滲出性網膜剥離および血管新生緑内障を伴う、徐々に肥大する網膜星状膠細胞過誤腫を認める場合もある(Shieldsら(2004年))。

腎外血管筋脂肪腫(AMLs
まれではあるが、腎外血管筋脂肪腫の発現が報告されている(Elsayesら(2005年))。超音波およびCTによる画像検査が用いられた後ろ向き研究で、Frickeら(2004年)はTSC患者62名(13%)に8個の肝臓AMLを確認した。

神経内分泌腫瘍(NETs
DworakowskaとGrossman(2009年)はNETを有するTSC患者の症例報告をまとめた。腫瘍の大部分は、下垂体腺腫(ACTH産生下垂体腺腫および成長ホルモン産生下垂体腺腫)、副甲状腺腫および副甲状腺過形成、および膵腺腫(インスリノーマおよび膵島腫瘍)であった。より最近の症例報告では、ガストリノーマ、褐色細胞腫、およびカルチノイドが報告された。患者の数名に膵島細胞腫瘍におけるTSC2病原性変異、および/またはヘテロ接合性の消失が認められている。

遺伝子による表現型との関連

TSC2の病的変異による症状はTSC1の病的変異による症状と比較し重症となる。より重症なTSC患者はTSC2のde novoの病的変異を持っていることが多い。孤発例(家系内に他に患者がいない場合)はよりTSC2の病的変異をもっている可能性が高いが、家族例ではTSCTSC2の変異の割合は同等である。
TSC2の病的変異をもつ人は、下記のリスクがより高くなる

  • 腎悪性腫瘍(Yangら 2014年)
  • 知的障害(Kothareら 2014年)
  • 自閉症、低いIQ、点頭てんかん(Numisら 2011年)

遺伝子型と表現型との関連

TSC2

  • TSC2遺伝子の産生物であるチュベリンのC末端における病的変異をもつ女性は、リンパ脈管筋腫症(LAM)の頻度と重症度が高くなる。(Strizhevaら 2001年)
  • p.Arg622Trp, p.Arg905Gln, p.Ser1036Pro, p.Arg1200Trp, p.Gln1503Pro, p.Gly1579Ser, p.Arg1713His (表6を参照)などのTSC2ミスセンス変異はより軽症の表現型と相関している。(Khareら2001年、O’Connorら 2003年, Mayerら 2004年, Jansenら2006年, Wentinkら2012年, Farachら2017年, Foxら2017年)軽症の表現型と関連していると思われる変異は家族例の患者の中で見つかっている。
  • 腎嚢胞性疾患は小さなTSC2病的変異(1bp以上の挿入、欠失、単ヌクレオチド変異)をもつ場合により重症となっている可能性がある。

浸透率

TSC1, TSC2の病的変異をもつ患者の詳細は後述するが、TSCの浸透率は100%と考えられている。明らかな無表現型はまれにしか報告されていない。しかしながら、2つの異なる病原性変異が存在する家族や、生殖細胞系列にモザイク現象がある家族などが分子検査で明らかになっている(Connorら(1986年)、WebbとOsborne(1991年)、Roseら(1999年))。

用語

従来、結節性硬化症の所見の説明に使用されていた用語は現在の状況に合わないか不適切となっている。以下に示す用語は医学文献からまだ削除されていないものである。

  • 脂腺腫はこれまで顔面病変を説明する際に用いられていたが、病変には「皮脂腺」の要素はないため、顔面血管線維腫とした方が特徴のより良い説明となる。
  • 筋腫は、より正確な用語である心臓横紋筋腫と大脳皮質結節に置換された。
  • 木の葉型灰白斑は従来、脱色素斑の説明に用いられていたが、脱色素斑にはあらゆる形やサイズが考えられるため現在では使用されていない。あるサイズや形の脱色素斑を認めたとしても、それは事実上、結節性硬化症との関連を示唆するものではない。
  • 結節硬化はTSCとてんかんを有する個人に用いられてきた。

有病率

TSCの発現率は出生児5,800人に1人に達している(Osborneら(1991年))。高い突然変異率が推定されている(ある集団では遺伝子250,000個に1個)(Sampsonら(1989年))。


遺伝子学的に関連する(アレル)障害

隣接遺伝子欠失症候群

PKD1、および隣接するTSC2が欠失した隣接遺伝子欠失症候群が報告されてきた(Sampsonら(1997年)、Consugarら(2008年))。本症候群を有する個人では、結節性硬化症の表現型、および重度の多発性嚢胞腎が一般に胎児期、または乳児期に診断される。

散在性腫瘍

散在性腫瘍(肺リンパ脈管筋腫症、血管周囲類上皮細胞腫瘍、尿路上皮癌、および肝細胞癌を含む)は、TSCの所見を他に認めない場合に単発性の腫瘍として発現し、TSC1、TSC2の生殖細胞系列変異ではなく、体細胞変異が見られる。したがって、これらの腫瘍が生じやすい素因は遺伝性のものではない。詳細はがんと良性腫瘍を参照。


鑑別診断

TSCの特徴の多くはTSCに特異的なものではなく、また単独の所見として、あるいは他の疾患の特徴として見られる可能性がある。

皮膚

脱色素斑

ある調査では新生児の0.8%に脱色素斑が認められているが、ほとんどの場合では医学的に重要なものではない(AlperとHolmes(1983年))。Vanderhooftら(1996年)が実施した調査では、3個以上の脱色素斑を認める個人では、その後TSCと診断される可能性がはるかに高くなることが判明した。他の疾患で表現型の一環として脱色素斑を伴うものには、尋常性白斑、色素性母斑、貧血母斑、限局性白皮症、およびフォークト・小柳・原田症候群がある。関連する所見により、通常はこれらの疾患とTSCを鑑別することが可能である。

血管線維腫

顔面血管線維腫
顔面血管線維腫が単独で、または二か所に見られる場合であってもTSCとは診断されない(「示唆的な所見」参照)。診察において、尋常性ざ瘡、酒さ性ざ瘡、または多発性毛包上皮腫は血管線維腫と誤診される可能性があるが、生検によりこれらを容易に見分けることができる。

シャグリンパッチ
TSC患者のシャグリンパッチは発生部位と外見が非常に特異的であり、TSCの主要な診断基準として用いられてきた。しかしながら、「結合織母斑」という用語が、必ずしもTSC患者に見られるわけではない皮膚結合組織過剰形成を伴う多様な皮膚病変まで網羅することから、診断基準の改訂により「結合織母斑」の用語が削除された。

爪囲線維腫
爪囲線維腫は外傷により生じることがあるが、一般的には外傷性の爪囲線維腫は単一病変であり、その発生理由は説明が可能である(例:ゴルフクラブの特定の握り方による等)。現在、TSCの主要な臨床診断基準では2か所以上に爪囲線維腫が存在することが必要とされている。爪囲線維腫は上皮封入嚢胞、尋常性疣贅、および乳児指趾線維腫症と鑑別される必要がある。

腎臓

腎嚢胞は一般集団にもよく見られる(1%〜2%)が、30歳以下の患者にはまれにしか発生しない(Northrupら(1993年))。

腎血管筋脂肪腫(AMLsは、他に医学上の問題を何も抱えていない個人に見られることがある、まれな腫瘍である。散在性のAMLsは、TSC2のヘテロ接合性の欠失(LOH)を伴うと調査で示されていることから、散在性のAMLsは結節性硬化症を発病していない個人のTSC2の機能喪失の結果であると結論付けられる。

リンパ脈管筋腫症(LAM)を有する女性が腎血管筋脂肪腫を発症し、かつTSCの他の所見が見られないことがある。これらの人々では、TSCやリンパ脈管筋腫症は次世代に伝わらない。リンパ脈管筋腫症および腎血管筋脂肪腫を有し、また他のTSCの特徴を認めない場合は、TSCの臨床診断基準を満たさない(Northrupら(2013年))。

心臓

心臓横紋筋腫を有する幼児がTSCに罹患する可能性は75%〜80%である。まれに、心臓横紋筋腫が単独の所見として認められる場合がある。散在性の心臓横紋筋腫の作用機序は散在性AMLsで説明される作用機序と潜在的に類似する可能性がある(「腎臓」参照)。


臨床的マネジメント

TSC患者の臨床管理および経過観察で推奨される合意の内容が発表されている(Kruegerら(2013年a))(全文)。

初診診断後の評価

臓器 評価
皮膚 詳細な皮膚科的、歯科的検査
  • 血圧
  • 腎機能:GFRレベルをみるために血清クレアチニン値を測定
  • 腹部MRI:AMLsと腎嚢胞の存在を評価する
CNS
  • 脳MRI:結節、SENs, 脳室形成異常, SEGAsの評価
  • TANDの評価
  • EEG:異常を認めた場合、TANDがある場合:潜在性てんかん活動を評価するために24時間ビデオEEG
  • 乳児期は最初の診断時に症状がなくとも、両親に乳児スパスムについて教育する
網膜病変、視野欠損を評価するため、眼底検査も含めた眼科的評価
心臓 小児期には心エコー
ECG: すべての年代で、伝導障害を評価
  • 基礎肺機能検査(肺機能検査と6分歩行試験)とHRCT:LAMのリスクのある18歳以上の女性では無症状でも行う
  • 成人男性は、症状があれば肺機能検査を行う
その他 臨床遺伝医、遺伝カウンセラーへ相談

 症状の治療

上衣下巨細胞性星状細胞腫(SEGAs

上衣下巨細胞性星状細胞腫の肥大の早期発見はmTOR阻害剤による治療を可能にし(Franzら(2006年)、Kruegerら(2010年))、多くの人々に対する脳神経外科的な治療介入の必要性を除去する。しかし、SEGAが肥大し生命を脅かす神経症状をもたらす場合には、やはり神経系外科手術の適応となる場合がある。

てんかん発作

てんかん発作の早期管理はその後のてんかん性脳症を予防し、認知や行動への影響を低下させる(Bombardieriら(2010年))。点頭てんかんに対する様々な治療の効果は個人により異なるが、後ろ向き検討において、TSCを有する子供の73%がビガバトリンでコントロールされることが判明した(Camposanoら(2008年))(「二次的合併症の予防」参照)。また、現在、TSC関連の点頭てんかんを発症した乳児に早期にビガバトリンを使用することでの発達予後について前向き検討が行われているところである。

TSC患者のてんかん発作は、抗けいれん薬による多剤療法に耐性を示す場合がある。てんかん手術による良好な結果が数多くの小規模試験により報告されている。

  • Jarrarら(2004年)らは、単源性のてんかん発作であり、手術時点で軽度の発育遅延を伴う、または発育遅延を全く伴わない場合には長期的に良好な結果が予測されることを確認した。
  • Romanelliら(2004年)は、多発性のてんかん原性領域を有するTSC患者への外科的切除の選択肢を評価する外科医を支援するため、脳波を用いた技法、機能的神経イメージング、および皮質マッピングの使用を検討した。
  • Kagawaら(2005年)は、PETスキャンにおける放射標識されたα-メチル-L-トリプトファンの取り込み増加はてんかん誘発性結節を83%の精度で示し、したがって、てんかん手術の成功に寄与することを見出した。
  • Weinerら(2006年)は、22名のTSC患者に対し左右両側からの3段階から成る手術方法を用いた。この方法は、複数の結節を有する若年者の一次的、および二次的てんかん誘発性結節の特定に役立つことが示唆された。

先の症例報告により、TSCの難治性てんかんに対し、mTOR阻害剤の有効性が示唆された。EXIST-3臨床試験(Frenchら2016年)はこれらの治療の有効性を確認し、EXIST-3はTSC関連部分発作に対する補助的治療としてFDAに承認された。

腎血管筋脂肪腫

  • 無症候性の急速に増殖する血管筋脂肪腫で、直径4 cm以上または3 cm以上で急速に増大傾向にあるものは、mTOR阻害剤の投与が短期的に最も有効な第一選択治療として現在推奨されている(Daviesら(2011年)、Bisslerら(2013年))。長期的な利益と安全性を確認する試験が依然として必要ではあるが、これまでに実証されている忍容性は、血管筋脂肪腫の進行または塞栓・切除療法により生じる腎障害に比べはるかに望ましい(Kruegerら(2013年b))。
    無症候性の血管筋脂肪腫に対しては、選択的塞栓術、およびそれに続くコルチコステロイド投与、腎温存切除術、ま
  • は外側増殖病変に対する切除療法が第二選択治療として容認できる(Bisslerら(2002年))。
  • 急性出血の治療では、塞栓術とその後のコルチコステロイド投与がより適切である(Mourikisら(1999年))。腎摘除術は、合併症発現の高いリスク、将来の腎不全と末期腎不全のリスクの増加、および慢性腎不全がもたらす予後不良などのため避けるべきである。

顔面血管線維腫

mTOR阻害剤の外用が顔面血管線維腫の治療に有効であることが示されている。

心臓横紋筋腫
生命を脅かす合併症(すなわち、流出路閉塞)を来す心横紋筋腫を有する新生児への標準的治療は以前は外科手術であった。TSCに罹患する幼児の心臓横紋筋腫の治療としてmTOR阻害剤の適応外使用が現在、数例で報告されており、その結果は希望が持てるものである(Tiberioら(2011年)、Doganら(2015年)、Goyerら(2015年)、Mlczochら(2015年))。これらの報告はmTOR阻害剤が臨床的に重症な心横紋筋腫に対し外科的治療に代わる治療となりうることを示している。

LAM
LAMに対するmTOR阻害剤の効果は治験により示されてきたため、mTOR阻害剤のTSCの肺疾患の治療としての使用がFDAにより承認された。LAMに対する診断と管理の公的ガイドラインが発行された。(McCormackら2016年、Guptaら2017年)

二次的合併症の予防

ビガバトリンで治療を受ける患者は周辺視野が制限されるリスクがあるため、視野検査を治療の開始後4週間以内、および治療期間中は3か月毎、そして治療後3か月〜6か月に受けることが推奨される(Willmoreら(2009年))。

経過観察

TSCを有する個人には以下の所定のモニタリングを実施することが推奨される(出典:Kruegerら(2013年a)、表3)。

  • 中枢神経系
    • 新たな上衣下巨細胞性星状細胞腫(SEGA)の発現をモニターするため、TSCを有する25歳未満の無症状(中枢神経系に起因する症状が無い)の個人に対し、1年〜3年毎に脳MRIを施行する。小児期に無症候性のSEGAを認めた場合は増大がないことを確認するために成人後も定期的に評価する。
    • TSCに罹患し、大きいまたは増殖するSEGAにより脳室肥大が生じているが、まだ無症状の個人には、脳MRIスキャンをより頻繁に施行すべきである。またこれらの個人とその家族には、新たな症状の潜在的可能性について情報を提供する必要がある。
    • 少なくとも年に1回、TANDの症状の有無に関するスクリーニングを実施する。総合的で規定に従ったTANDの評価を発育上の重要な時点、つまり乳児期(0〜3歳)、就学前(3〜6歳)、中学校入学前(6〜9歳)、思春期(12〜16歳)、成人期初期(18〜25歳)に実施し、必要に応じてその後も実施する。
    • てんかん発作の発症が判明している、または疑われる個人に対して所定のEEGを施行する。この頻度は臨床上の必要により決定する。
  • 腎臓
    • 血管筋脂肪腫および嚢胞性腎疾患の進行を評価するため、罹患者に対し生涯を通じて1〜3年毎に腹部MRIを施行する。
    • 腎機能(GFRの測定を含む)と血圧を少なくとも年に1回評価する。
  • 心臓
    • 心臓横紋筋腫の存在が証明されている無症状の幼児や子供は、心臓横紋筋腫の退縮が立証されるまで心エコーを1〜3年毎に施行する。
    • 症状のある者にはより頻回のまた詳細な評価が必要となる。
    • 18歳以上の女性または呼吸器症状の報告がある個人に対し、労作時呼吸困難および息切れを含むLAMの症状の臨床スクリーニング(対象となる既往について)を、受診毎に実施する。
    • LAMに罹患するリスクがある個人に関しては、喫煙によるリスクやエストロゲンの使用を受診毎にカウンセリングの場で再検討する必要がある。
    • ベースラインのHRCTで肺嚢胞の徴候を認めなかった、LAMのリスクがある無症候の個人に対し、5〜10年毎に肺のHRCTを施行する。HRCTで肺嚢胞が発見された個人には1年毎の肺機能検査(肺機能検査および6分間の歩行)および2-3年毎のHRCTを施行する。
  • 皮膚
    詳細な臨床的皮膚検査・診察を1年毎に実施する。
  • 歯科
    詳細な臨床的歯科検診・診察を少なくとも6か月毎に実施する。パノラマX線撮影を、7歳までに施行していない場合は施行する。
  • 眼科
    過去に眼病変、またはベースラインの評価で視野症状が確認されている罹患者には、眼科での評価を1年毎に実施する。

避けるべき薬剤・状況:

以下を避ける必要がある。

  • 喫煙
  • 若年者および成人女性のエストロゲンの使用
  • 腎摘除術(「症状の治療」、「腎血管筋脂肪腫」参照)

リスクのある血縁者の評価:

罹患者の血縁者で、一見したところ無症状だがリスクのある全ての人々を評価することは、治療や予防処置の開始が誰にとって有益なのかを可能な限り早く特定するために適切である。
評価には以下の方法が考えられる。

  • 病原性変異が家族に存在することが判明している場合は分子遺伝学的検査
  • 病原性変異が不明な場合は、診察および画像検査(皮膚の検査、網膜の検査、脳の画像検査、腎臓の超音波検査)
    遺伝カウンセリングを目的としたリスクのある親戚の検査に関する事項は「遺伝カウンセリング」を参照。

妊娠管理

一般的にてんかんまたはあらゆる原因によるけいれん発作を有する女性は一般の妊娠女性と比較し、妊娠中の死亡率が明らかに高くなるが、妊娠中の抗てんかん薬の使用はこのリスクを下げる。しかし、抗てんかん薬の暴露は胎児への影響(使用薬物、使用量、使用時の妊娠週数による)のリスクを増大させる可能性がある。しかし、抗てんかん薬暴露による胎児への副作用のリスクは未治療の母体のけいれん発作による影響のリスクよりは小さい。従って、母体けいれん発作に対する妊娠中の抗てんかん薬の使用は通常推奨される。妊娠中の抗てんかん薬の使用のリスクとベネフィットに関する議論は理想的には妊娠前になされるべきである。妊娠に対しよりリスクの低い薬物に変更することも可能である。

試験が進行中の治療法

多くの治験においてTSCの症状に対する薬物療法の効果の評価が行われている。(ClinicalTrials.gov参照)。
Clinical Trials.govでは幅広い疾患の臨床試験に関する情報の入手が可能である。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

結節性硬化症(TSC)は常染色体優性遺伝性疾患である。

患者家族のリスク

発端者の両親

  • TSCと診断された個人の約3分の1は、その親がTSCの罹患者である。
  • TSCを有する個人の3分の2は、TSC1またはTSC2に新たに発生した病原性変異の結果として疾患を発症する。
  • 子どもにde novoの病的変異が検出された場合、両親は下記のような臨床的、遺伝学的評価を受けることが推奨される。
    • もし子に病的変異が同定されれば、標的分子遺伝学的検査を受ける。
    • もし子に病的変異が同定されなければ、両親の症状を確認するために皮膚検査、網膜検査、脳画像検査、腎超音波検査を受ける。
  • 両親を評価することで、軽症のためこれまで診断されていなかった人の診断がつく可能性がある。
  • 発端者に確認された病原性変異が両親の白血球DNAに発見されない場合には、両親のいずれかの生殖細胞系列にモザイク現象があるか、または発端者に発生した新規の病原性変異であるかの二通りの説明が可能である。生殖細胞系列のモザイク現象の調査では、一般的に罹患した2名以上の子供と罹患していない両親で構成される家族に対象が限定される。Roseら(1999年)による調査では、このような家族120組のうち、6組(5%)の家族で分子的に生殖細胞系列のモザイク現象が確認された。これら6組ではTSC1に1個、TSC2に5個の病原性変異を認めた。病原性変異の内訳は、ミスセンスおよびナンセンス変異、およびヌクレオチドの欠失または挿入が1個であった。
  • TSCと診断された個人に家族歴を聴取しても罹患者がいないように思われる場合があるが、この理由には、家族が認識していない可能性、該当する親が症状の確認以前に早期に死亡したこと、または罹患する親の疾患が遅発性であること等が挙げられる。したがって、適切な臨床評価および/または分子遺伝学的検査が発端者の両親に実施されている場合を除いて、家族歴なしということは言えない。
  • (注)親の病原性変異が家族に最初に発生したものである場合、その変異は体細胞性のモザイク現象であり、軽度またはわずかな症状を伴う場合がある。

発端者の兄弟姉妹

  • 発端者の兄弟姉妹へのリスクは、発端者の両親の臨床的/遺伝学的な状態による。
  • 発端者の親が発病している、または家系内に認めたTSC1、TSC2の病原性変異を有する場合、兄弟姉妹へのリスクは50%である。
  • 発端者の両親が臨床的に発病していない場合、兄弟姉妹が発病するリスクは低い(1%〜2%以下)が、生殖細胞系列のモザイク現象を有する可能性があるため一般集団よりは高くなる。

発端者の子孫

結節性硬化症を発症している個人の病原性変異が子に遺伝する可能性は50%である。

他の血縁者

家系内ほかの血縁者のリスクは発端者の両親の遺伝学的状況 による。発端者に罹患者あるいは本症の原因遺伝子に変異を有する親がいれば、その親の血縁者は同じ変異を有する可能性がある。

遺伝カウンセリングに関する事項

早期診断と治療を目的としたリスクを有する親戚の評価に関する情報は、「リスクのある血縁者の管理と評価」を参照。

発症前診断

リスクがある無症状の成人血縁者に対する発症前診断では、家族にTSC1またはTSC2の病原性変異が存在するか否かを事前に特定することが必要になる。

明らかに新規の病原性変異を有する家族に関する留意事項

発端者の両親のいずれにも病原性変異やTSCの臨床徴候を認めない場合、TSC1またはTSC2の病原性変異は新規のものである可能性が高い。しかしながら、代理父や代理母(例:生殖医療による)、または養子の事実が明かされていない場合など、医学では説明されない他の理由を調査することが可能な場合もある。

家族計画

  • 遺伝的リスクの判断、および出生前検査の利用可能度に関する話し合いに最適な時期は、妊娠前である。
  • 発病した、またはリスクがある若年成人に対しては、遺伝カウンセリング(子孫への潜在的リスクや生殖の選択肢に関する話し合いを含む)を提案することが適切である。

DNAバンク

DNAバンクでは、DNA(一般的には白血球から抽出されたもの)が将来利用される可能性に備えて保管されている。遺伝子、アレル変異、および疾患の検査方法や、これらへの私たちの理解は将来向上する可能性があるため、罹患者のDNAをバンキングしておくことを考慮すべきである。

出生前検査と着床前遺伝子診断

リスクの高い妊娠

  • 分子遺伝学的検査
    家族内の罹患者にTSC1またはTSC2の病原性変異が一旦確認されれば、リスクが増加した妊娠に対し出生前検査やTSCに関する着床前遺伝子診断を実施することが可能である。
  • 胎児の画像検査
    病原性変異が確認されなかった家族については、腫瘍の高解像度超音波検査の施行が可能である。しかしながら、この検査の感度は不明である。50%のリスクがある胎児にTSCの評価を行う場合は、胎児MRIが有用である。
     (注)心臓腫瘍は妊娠末期になるまで一般的には発見されない。

リスクの低い妊娠

胎児超音波検査で横紋筋腫に一致する心臓の病変が特定された場合、TSCに関する既知の家族歴がない胎児がTSCを発病するリスクは75%〜80%である(Northrupら(2013年))。


関連情報

本疾患の罹患者とその家族に益するため、GeneReviewsのスタッフが本疾患に特化した、および/または統括的な支援団体、および/または登録制度を選定した。GeneReviewsは下記以外の組織から提供された情報について責任を負わない。選択の基準に関する情報はこちらをクリック。

  • Medline Plus
    結節性硬化症
  • National Library of Medicine Genetics Home Reference
    Tuberous sclerosis
  • NCBI Genes and Disease
    Tuberous sclerosis
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    Email:info@tsalliance.org
     Website:www.tsalliance.org
  • My46 Trait Profile
     結節性硬化症
  • 米国てんかん学会(AES
    Website:www.aesnet.org
  • てんかん財団
    郵便番号20785-7223、アメリカ合衆国、メリーランド州、ランドオーバー、プロフェッショナルプレイス東8301番地、200号室
    Phone:010-1-800-332-1000(フリーダイヤル)
    Email:ContactUs@efa.org
     Website:www.epilepsyfoundation.org
  • LAM財団
    郵便番号45241、アメリカ合衆国、オハイオ州、シンシナチ、エグゼクティブパーク大通り4015番地、320号室
    Phone:010-1-513-777-6889(フリーダイヤル)010-1-877-CURELAM(877-287-3526)
    Email:info@thelamfoundation.org
     LAM財団

分子遺伝学

下記の記述は最新の情報が含まれているため、GeneReviewsに記載されているほかの情報と異なる場合がある

表A. 結節性硬化症:遺伝子およびデータベース

遺伝子 染色体遺伝子座 蛋白質 遺伝子座特異的 HGMD ClinVar
TSC1 9q34.13 ハマルチン 結節性硬化症データベース(TSC1) TSC1 TSC1
TSC2 16p13.3 ツベリン 結節性硬化症データベース(TSC2) TSC2 TSC2

以下の標準的な基準から引用してデータをまとめた。ヒューゴ遺伝子用語委員会(HGNC)の遺伝子、オンライン・ヒトメンデル遺伝形質(OMIM)カタログの染色体遺伝子座、遺伝子座名、責任領域、相補性グループ、UniProtの蛋白質。データベース(遺伝子座特異的、HGMD)の説明についてはこちらのリンクをクリック。

表B. 結節性硬化症に関するOMIMの見出し語(OMIM内の「全てを表示」)

191092 TSC2遺伝子;TSC2
191100 結節性硬化症1;TSC1
605284 TSC1遺伝子;TSC1
613254 結節性硬化症2;TSC2

分子遺伝学的発症機序

ハマルチンとチュベリンがヘテロ二量体を形成していることは、これらが細胞の成長と増殖を共同で調節する役割を果たしていることを示唆する(Plankら(1998年)、van Slegtenhorstら(1998年)、HanとSahin(2011年))。ハマルチンとチュベリンは、AKT/mTORシグナル伝達経路の主要な制御因子であり、またこの他にもMAPK、AMPK、b-カテニン、カルモジュリン、CDK、オートファジー等のいくつかのシグナル伝達経路や、細胞周期経路に関与することが明らかになっている(KozmaとThomas(2002年)、Astrinidisら(2003年)、El-Hashemiteら(2003年)、HarrisとLawrence(2003年)、Yeung(2003年)、Auら(2004年)、Birchenall-Robertsら(2004年)、Liら(2004年)、MakとYeung(2004年)、Zhangら(2013年))。ハマルチンとチュベリンの複合体はまた、細胞骨格の形成とAKTの活性化に影響を与えるmTORC2複合体の調節も行っている可能性がある(HanとSahin(2011年))。このような見解は、シグナル伝達経路キナーゼを制御するハマルチンよりチュベリンが多いことと整合性が取れており、このことがチュベリンとハルマチンの複合体を不安定化し、さらにmTORの機能の抑制を除去し、蛋白質が翻訳され、細胞の成長と増殖へつながる。TSC1病的変異の大多数とTSC2の病的変異の70%は機能喪失したタンパク質を産生すると予測される。この続発する機能喪失は、制御されない細胞の成長と増殖の原因となり、過誤組織(解剖学的領域に通常は存在する組織型の無秩序な配列から成る限局性の奇形)や過誤腫を形成する(Auら(2004年))。

さらに、チュベリンとハマルチンは多数の細胞シグナル伝達経路により制御されるため、それらの体細胞性の病原性変異の量と質及び、これらの経路を標的とした環境要因の双方が、生殖細胞系列にTSC1またはTSC2の正常コピーをただ一つしか持たない人の疾患発現を修飾することが予期される。

病原性変異とは、TSC1またはTSC2がコードする蛋白質の機能を明らかに不活性化(すなわち、out-of-frame欠失・挿入変異、またはナンセンス変異)する、または蛋白質の合成を阻害する変異と定義されるもの、または病原性のミスセンス変異が蛋白質の機能に影響を及ぼしていることが機能評価により明らかになったものである(LOVDデータベース – TSC1、LOVDデータベース– TSC2、Hoogeveen-Westerveldら(2012年)、およびHoogeveen-Westerveldら(2013年)を参照)。蛋白質の機能への影響があまり明白でない他のTSC1TSC2の変異は、TSCの診断基準を満たさない。

TSC1

遺伝子構造

TSC1はサイズが約50 kbであり、最も長い転写変異体(NM_000368.4)は23のエクソンから成る。初めの2つはノンコーディングエクソンである。エクソンの5と12は選択的にスプライスされ、より短い転写変異体が産生される。遺伝子と蛋白質に関する情報のより詳細な概要は、「表A. 遺伝子」参照。

病原性変異

TSC1の病原性変異はほぼ全てが蛋白質ハマルチンの切断をもたらすと推測される。TSC1病原性変異の発生部位は疾患の重症度に関連しないと考えられている。1,950を超える個人または家族に、650個を上回る固有のTSC1病原性変異が特定された(表A)。ほとんどの病原性変異は固有のものであるが、エクソン15の特定コドンに見られる変異のように繰り返し生じることが知られるものも一部にある。他の病原性変異はエクソンやスプライス部位の至るところに散発する。少数の病原性ミスセンス変異は、その発生の大部分がハマルチンのN末端をコードする領域で特定される(Choiら(2006年)、Leeら(2007年)、Mozaffariら(2009年)、Nellistら(2009年)、Hoogeveen-Westerveldら(2012年))「遺伝子型-表現型の相関」も参照。病原性変異の型毎の割合を表4に示す。

表4. TSC1に見られる病原性変異の型

TSC1に発生する全病原性変異の割合1
小さな欠失および挿入 57.8%
ナンセンス 22.7%
スプライス 10.9%
大きな欠失および再構成 2.9%
ミスセンス2 5.7%
  1. LOVDによる推定割合
  2. 機能の喪失が明らかとなっていたTSC1の in vitro試験で、少数のミスセンス変異が同定された(Choiら(2006年)、Leeら(2007年)、Mozaffariら(2009年)、Nelhstら(2009年)、Hoogeveen-Westerveldら(2012年))。

上記に関する他の情報については表Aを参照。

正常な遺伝子産物

TSC1が、他の既知の遺伝子ファミリーとの間で構造的相同性を有するかについては分かっていない。
遺伝子産物である蛋白質ハマルチンには、膜貫通領域1つとコイルドコイル領域が2つある。1つ目のコイルドコイル領域は、ハマルチンとチュベリンの蛋白質間の相互作用に必要となる。2つめのコイルドコイル領域ペプチドはエクソン17から23までにコードされているが、チュベリンと相互作用し、チュベリンとハマルチンの複合体を安定化させる。他の領域は、細胞骨格系ERM蛋白質、低分子G蛋白のRho、細胞分裂促進蛋白質キナーゼ、およびIカッパキナーゼβ(IKK-β)との相互作用に関与する。ハマルチンの結晶構造に関する最近の研究では、大部分の病原性ミスセンス変異が折り畳まれたハマルチンN末端の球状構造の内側に位置していることが判明し、これらの変異がハマルチンの球状構造を不安定化し、チュベリンとハマルチンの複合体の解離をもたらすことが示唆された(Sunら(2013年))。

ハマルチンの主な機能は、ハマルチンとチュベリンの複合体におけるチュベリンのGTPase活性化機能を促進するために複合体を安定させることにある(HanとSahin(2011年))。さらに、ハマルチンはアクチン結合蛋白質ファミリーのエズリン,ラディキシン,モエシンからなるERM 蛋白質と相互作用し(Lambら(2000年))、またハマルチンは、CDKとの相互作用により細胞分裂も制御する(Floricelら(2007年)、Knoxら(2007年))。ハマルチンは、アミノ酸残基Ser511においてTNFαにより活性化されるIKK-βリン酸化反応に抑制を受け、これによりツベリンとハマルチンの複合体が解離し、S6KinaseとVEGFの産生が活性化される。最近の研究ではハマルチンが分子シャペロンheat-shock protein90(Hsp90)が正しくチュベリンをフォールディングするのを助けチュベリンがユビキチン化し、プロテアソーム分解されるのを防いでいるということが報告された。

異常な遺伝子産物

「分子遺伝学的発症機序」参照。

TSC2

遺伝子構造

TSC2はサイズが約50 kbであり、最も長い転写変異体(NM_000548.3)は42のエクソンから成る。非コード型エクソンであるlaは最近少なくとも6つの選択的スプライスを受ける転写物であることがわかっている。エクソン25と31は選択的にスプライシングされる。TSC2およびPKD1の3’末端同士は塩基対3個が重複するが、このことは、大きな欠失が両方の遺伝子に及んでいる場合にTSC2-PKD1 隣接遺伝子症候群が発現する理由を説明している。遺伝子および蛋白質の形成に関する詳細な概要は、「表A遺伝子」を参照。

病原性変異

5800を超える個人または家族に、1,900個を上回る固有の病原性変異がTSC2の全域にわたり確認された。TSC2の病原性変異の約33%が、いくつかの重要な機能モチーフから成るカルボキシ領域をコードする、エクソン32から41まで(および関連するスプライス部位)に位置する(例:GAP領域、エストロゲン受容体およびカルモジュリン結合領域、および複数のシグナル伝達経路キナーゼの標的)。

病原性変異の型毎の割合を表5に示す。

ミスセンス変異はTSC2の全病原性変異の約26%を占め、その約50%がカルボキシ領域に集中している。ミスセンス変異がキナーゼの直接の標的となることはまれである。Tyr1571残基のミスセンス変異2個のみがチロシンキナーゼの標的になると推測される(Hoogeveen-Westerveldら(2013年))。

表5. TSC2に見られる病原性変異の型(n = 1,947)

TSC2に発生する全病原性変異の割合1
小さな欠失および挿入 〜37.7%
ミスセンス 〜25.7%
ナンセンス 〜14.5%
スプライス 〜16.6%
大きな欠失および再配列2 〜5.4%
  1. LOVDによる推定割合
  2. TSC2病原性変異の約6%が大きな欠失または再配列であり、4.7%が部分的な遺伝子欠失、1.2%が遺伝子の全欠失である。大きな遺伝子欠失全てのうち約半数はTSC2とPKD1が関与している。

情報をさらに得る場合は、表Aを参照。

表6. TSC2の特定の病原性変異に関して

DNAヌクレオチドの変化

予測される蛋白質の変化

基準配列

c.1864C>T

p.Arg322Trp1

NM_000548.3
NP_000539.2

c.2714G>A p.Arg905Gln1
c.3106T>C p.Ser1036Pro1
c.3598C>T p. Arg1200Trp1
c.4508A>C p.Gln1503Pro1
c.4735G>A p.Gly1579Pro1
c.5138G>A p.Arg1713His1

変異の分類に関する注記:表中の変異のデータは著者により提供されたものである。GeneReviewのスタッフは変異の分類を単独で検証してはいない。
用語に関する注記:GeneReviewはヒトゲノム変異協会(varnomen.hgvs.org)の標準的な命名の慣例に従った。用語の説明については「クイックリファレンス」を参照。

  1. 「遺伝子型-表現型の相関」を参照。

正常な遺伝子産物

遺伝子産物であるチュベリンは、低分子G蛋白質のRheb、および蛋白質の翻訳や細胞の成長と増殖に関わるmTORC1の、下流のシグナル伝達経路の主要な制御因子として、GTPase活性化蛋白質の機能を持つ(Inokiら(2003年))。チュベリンもまた、Rap1aやRab5などの他の低分子G蛋白質を制御する機能を有する(Xiaoら(1997年))。チュベリンの活性はAKTやERK2により抑制され、GSK2やAMPKにより活性化される(HanとSahin(2011年))。「分子遺伝学的発症機序」を参照。

異常な遺伝子産物

「分子遺伝学的発症機序」を参照。

癌および良性腫瘍

肺リンパ脈管筋腫症(LAM
散発性のLAMを有する数名の個人の肺組織から抽出したDNAに、生殖細胞系列には見られなかったTSC2またはTSC1の病原性変異を見出した(Smolarekら(1998年)、Carsilloら(2000年)、Satoら(2002年))。チュベリンはLAM組織において強く発現する(Johnsonら(2002年))。最近の研究では散発性LAM結節のすべてに病的なTSC1, TSC2の変異が含まれるわけではなく、4-60%であることが報告された。

血管周囲類上皮細胞腫瘍(PEComa
PEComaを有する症例でTSC2またはTSC1のいずれかの喪失が報告されれば(Panら(2008年))、TSCにおける血管筋脂肪腫およびPEComaの癌化細胞の系譜が存在することを裏付ける徴候となる。PEComa 11例を対象とした最近の調査で、6例がmTOR阻害剤に対し部分奏功から完全奏功までの結果を示した(Dicksonら(2013年))。

尿路上皮癌
尿路上皮癌に罹患するかなりの患者がTSC1に機能の喪失した体細胞性病原性変異を持つことが判明し、また一部の患者にはTSC2にも病原性変異が確認された(Pymarら(2008年)、Sjodahlら(2011年))。こうした所見は、かなりの割合の尿路上皮癌がmTORC1阻害剤に反応を示す可能性を示唆している。

肝細胞癌
近頃実施された調査により、肝細胞癌の10-20%でTSC2に機能の喪失した体細胞性病原性変異を伴うことが示され、これらの癌がmTORC1阻害剤に反応する可能性を示唆する結果となっている。


更新履歴

  1. Gene Reviews著者: Sara Huston Katsanis, MS and Ethylin Wang Jabs, MD
    日本語訳者: 江田 肖(瀬戸病院 遺伝診療科),石川亜貴(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    Gene Reviews 最終更新日: 2012.8.30 語訳最終更新日: 2015.1.6
  2. Gene Reviews著者: Hope Northrup, MD, FACMG, Mary Kay Koenig,MD, Deborah A Pearson, PhD, Kit-Sing Au, PhD
    日本語訳者: 水上都(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)
    Gene Reviews 最終更新日: 2015.8.3. 日本語訳最終更新日: 2018.8.31 in present)

原文: Tuberous Sclerosis Complex

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