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アッシャー症候群1型
(Usher Syndrome Type I)
[Synonym: USH1. Includes: USH1B, USH1C, USH1D, USH1E, USH1F, USH1G, USH1H, USH1J, USH1K]

Gene Review著者: Bronya JB Keats, PhD, FACMG,Jennifer Lentz, PhD
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),小笠原徳子(札幌医科大学耳鼻咽喉科)    
Gene Review 最終更新日: 2013.6.20. 日本語訳最終更新日:2014.3.14

原文 Usher syndrome Type 1


要約

疾患の特徴 

アッシャー症候群1型の特徴は,先天性で両側性の最重度の感音難聴,前庭反射消失,機能障害青年期発症の色素性網膜炎網膜色素変性症である.人工内耳埋め込み術の適応とならなければ,会話を発達させることが(正常な言語発達が)できないことが多い.青年期には網膜の桿体と錐体の機能が進行性,両側性,左右対称性に損なわれる網膜色素変性症を発症し,視野狭窄が進み,視力が損なわれる.

診断・検査 

アッシャー症候群1型の診断は,聴覚と網膜機能を電気生理学的検査と主観テスト自覚的検査を用いて調べることによって,臨床的に判断される.少なくとも9ヶ所存在する遺伝子座に含まれる遺伝子変異によってアッシャー症候群1型は発症する.こうした遺伝子座のなかで6種類の遺伝子――MYO7A(USH1B)遺伝子,USH1C遺伝子,CDH23(USH1D)遺伝子,PCDH15(USH1F)遺伝子,USH1G遺伝子,CIB2(USH1J)遺伝子――が同定されている.

臨床的マネジメント 

症状の治療:補聴器が有効でない場合がほとんどである.とりわけ年少児には,人工内耳埋め込み術を考慮する.コミュニケーション能力は,家族全員が(すなわち,患児以外の家族も)聴覚障害専門の教育者から特別な訓練を受ければ,最大限に伸ばすことが可能である.視力喪失が進行すると,最終的にコミュニケーション手段が触知型表示(点字等)に限られることがある.

経過観察: 定期的な眼科検査を行い,白内障のような治療可能な合併症の有無を確かめること.

回避すべき薬剤・環境:鋭い視覚や優れた平衡感覚を必要とするスポーツで競い合うことは難しいことがあり,危険となりうる.周辺視野の喪失が進むと,車両の安全な運転ができなくなる.水中に潜ると方向感覚を失う危険性が高いため,水泳は慎重に行うこと.

リスクのある親族の検査:難聴の早期診断と早期治療を可能とするため,リスクのある同胞の聴覚検査は,出生後できる限り早期に行うこと.

遺伝カウンセリング 

アッシャー症候群1型の遺伝形式は常染色体劣性である.アッシャー症候群1型の子を持つ夫婦が次の妊娠でアッシャー症候群1型の子を持つ確率は25%,保因者である未発症児を持つ確率は50%,保因者でない未発症児を持つ確率は25%である.大多数のタイプのアッシャー症候群1型では,リスクが高い妊娠での出生前診断は,病原性変異が家系内で同定されていれば可能である.


診断

臨床診断

アッシャー症候群1型の診断基準は以下である.

  • 先天性(言語修得獲得前)の最重度の両側性感音難聴(「難聴・遺伝性難聴概説」を参照)
  • 前庭機能障害
  • 網膜色素変性症
  • 全身の健康状態と知能は正常;もしくは身体的診察が正常所見
  • 常染色体劣性の遺伝形式に一致する家族歴

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子 アッシャー症候群1型を発症させることが知られている変異が存在する6種類の遺伝子が同定されている.

アッシャー症候群1型のタイプと関連遺伝子:

  • アッシャー症候群1B型(USH1B):MYO7A遺伝子
  • アッシャー症候群1C型(USH1C):USH1C遺伝子
  • アッシャー症候群1D型(USH1D):CDH23遺伝子
  • アッシャー症候群1F型(USH1F):PCDH15遺伝子
  • アッシャー症候群1G型(USH1G):USH1G遺伝子
  • アッシャー症候群1J型(USH1J):CIB2遺伝子
  • 遺伝子座異質性の根拠
  • アッシャー症候群1型に関連する7番目の遺伝子座(USH1E)が21番染色体(21q21)にマッピングされているが,遺伝子は依然として不明である.
  • アッシャー症候群1型に関連する8番目の遺伝子座(USH1H)が15番染色体(15q22-q23)にマッピングされている[Ahmed et al 2009].
  • アッシャー症候群1型に関連する9番目の遺伝子座(USH1K)が10番染色体(10p11.21-q21.1)にマッピングされている[Jaworek et al 2012].
  • USH1A遺伝子座.Gerber et al [2006]により,USH1A遺伝子座が存在しないことが確証された.当初,フランスのブレシュイール地方の9家系のうち6家系でこの遺伝子座がマッピングされたと報告されていたが,その後,MYO7A(USH1B)遺伝子の複数の変異であることが判明した.

検査

表1.アッシャー症候群1型(USH1)の分子遺伝学的検査

遺伝子1
(遺伝子座)

当該遺伝子によるアッシャー症候群1型の割合2

検査方法

検出変異3

検査の利用

MYO7A遺伝子
(USH1B)  

53〜63%

配列解析

配列変異1,4, 5, 6

臨床

標的変異解析

既知の標的配列変異パネル7

欠失・重複解析8

エクソン単位,もしくは遺伝子全体の欠失     

USH1C遺伝子
(USH1C)

1〜15%9

配列解析

配列変異4

臨床

標的変異解析

既知の標的配列変異パネル7

欠失・重複解析8

エクソン単位,もしくは遺伝子全体の欠失10

CDH23遺伝子
(USH1D)  

7〜20%

配列解析

配列変異1,4, 6

臨床

標的変異解析

既知の標的配列変異パネル7

欠失・重複解析8

エクソン単位,もしくは遺伝子全体の欠失     

不明
(USH1E)  

連鎖解析11

該当なし

研究のみ

PCDH15遺伝子
(USH1F)  

7〜12%

配列解析

配列変異4

臨床

標的変異解析

p.Arg245* 12

欠失・重複解析8

エクソン単位,もしくは遺伝子全体の欠失13

USH1G遺伝子
(USH1G)

稀(0〜4%)

配列解析

配列変異4

臨床

標的変異解析

既知の標的配列変異パネル7

欠失・重複解析8

不明,報告なし14

不明
(USH1H)

連鎖解析11

該当なし

研究のみ

CIB2遺伝子
(USH1J)

不明

配列解析

配列変異4

臨床

欠失・重複解析8

不明,報告なし14

不明
(USH1K)

不明

連鎖解析11

該当なし

研究のみ

  1. 「表A.遺伝子と染色体座・蛋白質データベース」を参照.
  2. Bonnet et al [2011], Roux et al [2011], Stabej et al [2012]
  3. アレル変異に関する情報については,「分子遺伝学」の項を参照.
  4. 配列解析で検出される変異には,小規模の遺伝子内欠失/挿入,ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス部位変異などがあるが,通常,エクソン単位の欠失/重複や遺伝子全体の欠失/重複は検出されない.配列解析の結果の解釈で考慮すべき問題については,こちらを参照.
  5. Maubaret et al [2005], Jaijo et al [2007]
  6. MYO7A遺伝子やCDH23遺伝子の変異の検出率は90%未満
  7. 検査パネルに含まれる変異と変異検出率は,検査機関ごとに異なる.
  8. ゲノムDNAのコード領域や隣接イントロン領域の配列解析で容易に検出できない欠失・重複を同定する際には,定量PCR法,ロングレンジPCR法,MLPA法,当該遺伝子や染色体部位の染色体マイクロアレイ解析(CMA)など,さまざまな方法が用いられる.
  9. アケイディア人(米国ルイジアナ州)におけるアッシャー症候群患者のほぼ全員がUSH1C遺伝子変異の保有者である.
  10. 稀なエクソン内や複数エクソンの欠失が報告されている[Bitner-Glindzicz et al 2000].
  11. USH1E,USH1H,USH1Kが分離されている家系では,連鎖解析が可能である.
  12. アシュケナージ系ユダヤ人のアッシャー症候群1型患者では,高率にp.Arg245*(c.733C>T)変異が検出される.
  13. 欠失・重複はPCDH15遺伝子変異の37%を占める [Roux et al 2011].
  14. USH1G遺伝子やCIB2遺伝子では,アッシャー症候群を発症させる欠失や重複は報告されていない.(注:定義上,欠失・重複解析により,ゲノムDNAの配列解析で同定できない再構成が同定できる.)

検査の特徴検査の感受性や特異性やその他の検査の特徴に関する情報は,www.eurogentest.orgで検索可能である[Bolz & Roux 2011].

 

検査手順

発端者の確定診断を目的とする検査

  • アケイディア人(米国ルイジアナ州)やアシュケナージ系ユダヤ人の分子遺伝学的検査では,アケイディア人(米国ルイジアナ州)ではまず初めにUSH1C遺伝子を,アシュケナージ系ユダヤ人ではまず初めにPCDH15遺伝子を検査する(表1の脚注9と12を参照).
  • アケイディア人やアシュケナージ系ユダヤ人でない場合や,上述の2種類の遺伝子変異が検出されない場合には,単一遺伝子解析や複数遺伝子パネル検査を行う.
    • 単一遺伝子検査.アッシャー症候群1型の発症が疑われる発端者への分子学的診断手順には,各遺伝子に対して個別に配列解析を行うというやり方がある(MYO7A遺伝子,CDH23遺伝子,PCDH15遺伝子,USH1C遺伝子,USH1G遺伝子,及びCIB2遺伝子の配列解析後,欠失・重複解析を行う).
    • 複数遺伝子パネル検査.このほか,アッシャー症候群1型の発症が疑われる発端者への分子学的診断には,複数遺伝子パネルを使用するという方法もある.

リスクのある血縁者の保因者診断 に際しては,事前に家系内で病原性変異を同定しておく必要がある.

注:保因者は,常染色体劣性疾患に関してヘテロ接合の保有者であり,疾患を発症するリスクはない.
リスクの高い妊娠に対する出生前診断と着床前診断(PGDに際しては,家系内で病原性変異を事前に同定しておく必要がある.

遺伝的に関連のある疾患

MY07A遺伝子

  • アッシャー症候群3型.MYO7A遺伝子(NM_000260.3)のp.Leu651Pro変異とp.Arg1602Gln変異のヘテロ接合によって,アッシャー症候群3型に一致する表現型が生じる[Liu et al 1998a].
  • DFNA(常染色体優性非症候性難聴)11MYO7A遺伝子変異も常染色体優性非症候性難聴(DFNA11)を発症させることがわかっている[Tamagawa et al 2002](「難聴・遺伝性難聴概説」を参照).ミオシン7aのホモダイマー形成に必要なコイルドコイルドメインに生じると推定される稀なドミナントネガティブ変異が,常染色体優性非症候群性難聴(DFNA11)患者の血縁者でみつかっている.
  • DFNB(常染色体劣性非症候性難聴)2常染色体劣性非症候群性難聴(DFNB2)に関連するMYO7A遺伝子変異が報告されている[Hildebrand et al 2010].しかし,DFNB2の1大家系の表現型を再解析したところ,色網膜色素変性症の存在が明らかになり,実際のところ患者は(DFNB2ではなく)アッシャー症候群1B型(USH1B)を発症していることが明らかになった.この事例からも,正確なアッシャー症候群の診断には集学的なアプローチが必要であることが示されている[Zina et al 2001].

USH1C遺伝子

  • 隣接遺伝子欠失症候群.USH1C遺伝子座を含む隣接遺伝子欠失により,乳児発症型高インスリン症,腸症,難聴が生じる[Bitner-Glindzicz et al 2000].
  • DFNB18「難聴・遺伝性難聴概説」を参照.USH1C遺伝子変異も常染色体劣性非症候性難聴(DFNB18)を生じさせることがわかっている[Ahmed et al 2002, Ouyang et al 2002].DFNB18遺伝子座が確認されている家系出身者や,網膜色素変性症を伴わない難聴の孤発例(家系内で唯一の発症者)におけるUSH1C遺伝子の有害度の低い変異に対する観察から,遺伝子型と臨床型に関連性があるのではないかといわれるようになった[Ahmed et al 2002, Ouyang et al 2002].

CDH23遺伝子

  • DFNB12.「難聴・遺伝性難聴概説」を参照.CDH23遺伝子のミスセンス変異によっても常染色体劣性非症候性難聴(DFNB12)が生じることがわかっている[Bork et al 2001, Astuto et al 2002a, Bork et al 2002].
  • アッシャー症候群2型.CDH23遺伝子変異をもつ患者では,広範な聴覚障害や網膜障害が生じることがわかっており,なかにはアッシャー症候群1型というよりも2型に該当する症例もある[Astuto et al 2002].

PCHD15遺伝子

  • DFNB23CDH23遺伝子変異によるUSH1D/DFNB12やUSH1C遺伝子変異によるUSH1C/DFNB18でみられるように,PCDH15遺伝子変異のミスセンス変異がDFNB23を生じさせることがわかっている[Ahmed et al 2008, Doucette et al 2009].一方,より重症度の高い変異(スプライス部位変異,フレームシフト変異,ナンセンス変異,大規模欠失)はUSH1Fを生じさせる.

USH1G遺伝子

  • アッシャー症候群2型.USH1G遺伝子変異のなかには,1型よりも2型に近い,比較的軽症のアッシャー症候群を発症させるものがあることがわかっている[Bashir et al 2010].

CIB2遺伝子

  • DFNB48.常染色体劣性非症候群性難聴(DFNB48)と関連のあるCIB2遺伝子変異が報告されている[Riazuddin et al 2012].

 


臨床像

自然経過

アッシャー症候群1型での難聴は先天性で(すなわち,出生時からみられる),両側性で,最重度である.患者には(正常な言語発達が)できないことが多い.難聴の随伴症状として前庭反射消失機能障害を認めることが,この疾患の決定的な特徴となっている.アッシャー症候群1型の患児の歩行開始は,前庭反射消失機能障害が原因となって通常よりも遅れることが多く,歩行開始はおよそ18月齢から2歳である.年長児は「不器用」にみえることがあり,予期せぬ損傷を負ったり,自転車に乗ったり,スポーツをするといったような平衡感覚を要する活動が困難な場合もある.
アッシャー症候群1型の小児は,網膜色素変性症(RP)の初期徴候であるトンネル状視野や夜盲が重症化して,両親や先生,もしくは患者本人が気づくようになるまで,非症候群性難聴と誤診されることが多い.膜色素変性症は網膜の進行性,両側性,左右対称性の変性であり,周辺から発症する.初めに変性するのは主に桿体(暗順応状態で活性化する光受容器)であり,夜盲と視野狭窄(トンネル状視野)が起きる.錐体(明順応状態で活性化する光受容器)も変性することがある[Gregory-Evans & Bhattacharya 1998].
時間とともに視野狭窄は進行する.視野欠損の速度と程度は,家系内でも家系によってもばらつきがある.30〜40歳のアッシャー症候群1型患者では,通常視野は5〜10度である.年を追うごとに視覚障害は著しく悪化する[Pennings et al 2004].とはいえ,典型的なアッシャー症候群1型患者が完全失明に至ることは稀である.しかし,白内障により中心視が明暗認識のみに減退することもある.
ヘテロ接合体.ヘテロ接合体は無症状である.しかし,電気眼振図(EOG)や聴力図像がわずかに正常値以下となることもあるが,これらの検査は保因者診断となりうるほど感受性や特異性は高くない.注:電気眼振図は眼球運動系の電気生理学的機能検査である.電極をそれぞれの目の両側に付ける.被験者は頭部を静止させ,点滅する2つの赤い光を交互にみて,眼球を前後に動かす.ほとんどの網膜障害は網膜電図で十分であり,電気眼振図を行う必要はない.しかし,電気眼振図の利点は,電極が眼球表面と接触しないことである.

遺伝子型と臨床型の関連

CDH23遺伝子.CDH23変異をもつ患者では,難聴,前庭機能障害,色素性網膜炎網膜色素変性症において,明白な遺伝子型と臨床型の関連性が存在する.CDH23遺伝子のヌル変異(ナンセンス変異,フレームシフト変異,スプライス部位変異など)の頻度が低下すると,表現型が軽症化することが観察されており,アッシャー症候群1型患者でのヌル変異の割合は約88%,非定型のアッシャー症候群1型患者では67%,DFNB18患者では0%程度である[Astuto et al 2002a].

浸透率 

アッシャー症候群1型は完全浸透を示す.

表現促進現象

アッシャー症候群1型で表現促進現象は報告されていない.

病名

USH1A遺伝子座.Gerber et al [2006]により,USH1A遺伝子座が存在しないことが確証された.この遺伝子座は当初,フランスのブレシュイール地方の9家系のうち6家系でマッピングされたと報告されていたが,MYO7A(USH1B)遺伝子の複数の変異であることが判明した.

頻度 

アッシャー症候群の頻度は,少し古い文献では,10万人中3.2〜6.2人と報告されている.アッシャー症候群は小児の難聴全体の3〜6%,盲聾者全体の約50%を占めると推定されている.これらの推定値の多くは,Moller et al [1989]がアッシャー症候群を1型と2型に分けた1989年以前に算出されたものであり,その当時はまだアッシャー症候群3型は認識されていなかった.時代を追うごとに先天性難聴者に対する特別教育が必要とされるようになってきたことから,アッシャー症候群1型患者が研究目的の試験に参加しやすくなってきた.これらの推定値には,発話によるコミュニケーションを行い,普通学級へ進学したアッシャー症候群2型や3型の患者は反映されていない.したがって,一般集団におけるアッシャー症候群の頻度は,実際にはもっと高いと考えられる.

オレゴン州の難聴児に対する最近の研究では,アッシャー症候群関連の遺伝子変異陽性者は11%であり,頻度は6,000人中1人程度まで高くなると思われる[Kimberling et al 2010].


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

非症候性難聴.難聴児が複数いる家系では,最年長児が網膜色素変性症(RP)と診断されるまで,非症候群性難聴(NSHL)(「難聴・遺伝性難聴概説」を参照)と考えられることが多い.その後の視覚検査で,年少の同胞に症状が現れる前の初期段階の網膜色素変性症を認めることが多い.非症候群性難聴や網膜色素変性症の病原性変異は,アッシャー症候群に類似した症状を呈する1個人から独立して遺伝することがある[Fakin et al 2012].非症候群性難聴と色素性網膜炎網膜色素変性症はどちらも比較的多く,頻度はそれぞれ1,000人中1人と4,000人中1人である.この発現率に関しては,少なくとも1人の同胞がどちらか1つの変異を受け継ぎやすいため,家系の規模が大きくなると統計的確率が低下する.

アッシャー症候群2.アッシャー症候群2型の特徴は,(1)軽度から重度まで多岐にわたる主に高周波数領域を侵される先天性両側性感音難聴,(2)正常な前庭機能,(3)青年期から成人期に発症する網膜色素変性症である.アッシャー症候群1型と2型を臨床的に区別する際には,アッシャー症候群1型の小児では前庭機能障害のため,歩行開始時期が通常18月齢〜2歳まで遅れるが,アッシャー症候群2型では通常1歳頃であることが,最も重要な鑑別所見の1つである.

アッシャー症候群3型.アッシャー症候群3型の特徴は,言語修得後の進行性感音難聴,遅発型の色素性網膜炎網膜色素変性症,障害の程度がさまざまな前庭機能障害である[Plantinga et al 2005].CLRN1遺伝子,もしくはHARS遺伝子の変異が原因である[Joensuu et al 2001, Vastinsalo et al 2011, Puffenberger et al 2012].アッシャー症候群3型の患者のなかには,最重度の難聴と前庭機能障害を呈する者もおり,このような患者は臨床診断でアッシャー症候群1型と誤診されることがある[Pennings et al 2003].

難聴-ジストニア-視神経障害(DDON).難聴-ジストニア-視神経障害(DDON)の男性には,小児早期に言語修得前,もしくは言語修得後の感音難聴が,10歳代に緩徐進行性ジストニア,もしくは運動失調が,20歳前後から視神経萎縮による緩徐進行性の視力低下が,40歳前後から認知症が生じる.人格変化や妄想症といった精神症状が小児期に現れ,進行することもある.難聴は発症年齢も進行の程度も一定であるように思われるが,神経学的徴候,視覚的徴候,神経精神学的徴候の重症度や進行速度にはばらつきがある.女性では,難聴は軽度であり,ジストニアは局在性である.TIMM8A遺伝子変異が原因である.遺伝形式はX連鎖性である.

難聴-ジストニア-視神経障害(DDON)患者には,初めのうち,アッシャー症候群が疑われることがある[Kimberling W信(あるいは未発表データ)2005].その理由は,DDONの難聴が先天性であったり,アッシャー症候群2型の難聴が進行性であったりするためである[Sadeghi et al 2004].
その他.ウイルス感染,糖尿病性ニューロパチー,ミトコンドリア病(「ミトコンドリア異常症概説」を参照)などの症候群はみな,アッシャー症候群が疑われる難聴や網膜色素変性といった併発症状を呈することがある.

臨床医への注:本疾患の患者向けの「同時相談(simultaneous consult)についてはを参照のこと.本ツールは患者ごとのデータに基づく双方向の診断に関する意思決定支援ツールである(登録,もしくは施設アクセス許可が必要).


臨床的マネジメント

初回の診断時における評価

アッシャー症候群1型と診断された患者の疾患の程度を確定する際には,以下の評価を行うとよい.

  • 聴力検査.耳鏡検査,標準純音聴力検査,音声知覚検査評価.聴性脳幹反応(ABR)や歪成分耳音響放射(DPOAE)を調べることもある.
  • 前庭機能検査.回転椅子による回転眼振検査,温度刺激眼振テスト,電気眼振検査,重心動揺計検査
  • 眼科検査.眼底検査,視力検査,視野検査(ゴールドマン視野計),網膜電図検査(ERG)
  • 遺伝診療科の診察

症状に対する治療

聴覚.補聴器は,アッシャー症候群1型患者の難聴の重症度により,有効でない場合が多い.(アッシャー症候群1型患者の難聴は重症度であるので補聴器装用は有効でない場合が多い)
とりわけ年少児に対しては,人工内耳埋め込み術を考慮すること[Damen et al 2006, Pennings et al 2006, Liu et al 2008].

コミュニケーション能力に関しては,家族全員が聴覚障害者専門の教育者から特別な訓練を受ければ,最大限に引き伸ばすことができる可能性がある.

平衡機能.トンネル状視野や夜盲により前庭反射消失が生じやすいため(トンネル状視野や夜盲と前庭機能障害が合わさると),予期せぬ損傷につながりやすい.
アッシャー症候群1型患者は,監視の行き届いた状態でスポーツを行うことによって,体性感覚をうまく使えるようになると,平衡機能障害を補うことができる場合もある.

視覚.「網膜色素変性症概説」の「臨床的マネジメント」の項を参照のこと.
身ぶり言語や読唇術によるコミュニケーションは,網膜色素変性症の進行につれてますます困難になってゆく.視力喪失が進行すると,アッシャー症候群1型患者は触知型表示(点字等)を通じてしかコミュニケーションができなくなる.

経過観察

白内障などの治療可能性のある合併症を検出するため,定期的な眼科検査を行うとよい.

回避すべき薬剤・環境

鋭い視覚や優れた平衡感覚を必要とするスポーツで競うことは難しく,危険となりうる.
アッシャー症候群1型の患者は,水中に潜ると「どちらが上か」という感覚がなくなるため,方向感覚を失いやすいため,水泳は慎重に行うこと.
周辺視野の喪失が進むと,車両の安全な運転ができなくなる.

リスクの高い血縁者の検査

アッシャー症候群1型のリスクの高い患者の同胞全員に,出生後のできるだけ早い段階で,聴性脳幹反応や歪成分耳音響放射を調べて聴覚検査を行うとよい.こうすることにより,難聴に対する早期診断と治療が可能となる.
遺伝カウンセリングを目的とするリスクのある血縁者への検査に関連する問題については,「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと.

研究中の治療法

さまざまな疾患に対する臨床試験の情報にアクセスするためには,ClinicalTrials.govを検索のこと.注:この疾患の臨床試験は行われていないと思われる.

その他

補聴器は,アッシャー症候群1型患者の難聴の重症度により,有効でない場合が多い.(アッシャー症候群1型患者の難聴は重症度であるので補聴器装用は有効でない場合が多い)

ビタミンAサプリメント.色素性網膜炎網膜色素変性症の孤発例やアッシャー症候群2型患者では,ビタミンA/パルミチン酸の投与により色素性網膜炎網膜色素変性症の進行が抑制されることがあるが,アッシャー症候群1型患者においてビタミンA/パルミチン酸の有効性を立証した研究はない.ビタミンAは脂溶性であり,尿中に排泄されない.したがって,高用量のビタミンAサプリメントの摂取時は,肝毒性のような有害な副作用への監視が必要となるため,必ず医師の指示のもとで行うこと.注意すべき点として,小児への高用量ビタミンA摂取の効果は不明であるため,Berson et al [1993]は18歳以上の患者を対象とする研究を行った.(妊娠期や授乳期の1日所要量以上の)高用量のビタミンA補給は,胎児の成長への催奇形作用の可能性があるため,妊娠中の女性患者に行うべきではない.

ルテインサプリメント.7ヶ月間のルテインの内服(1日20 mg)を行ったが,中心視への効果は認められなかった.しかし,その長期的効果は不明である[Aleman et al 2001].

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

アッシャー症候群1型の遺伝形式は常染色体劣性である.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • アッシャー症候群1型患者の未発症の両親は絶対的ヘテロ接合体であるため,アッシャー症候群1型に関連する遺伝子の病原性変異のアレルを1つ保有している.
  • ヘテロ接合体(保因者)は無症状である.

発端者の同胞 

  • 受精時,患者の同胞が発病する確率は25%,無症状の保因者となる確率は50%,発病せず保因者ともならない確率は25%である.
  • リスクのある同胞が発病しないと判明した場合,その同胞が保因者である確率は2/3となる.

発端者の子

  • 患者の子が未発症の場合,その子は絶対的ヘテロ接合体である.患者のパートナーが同一のアッシャー症候群関連遺伝子に変異を1つもつ保因者である場合,子が発症する確率は50%である.患者のパートナーがアッシャー症候群の同一の遺伝子型をもつ場合,すべての子が発症する.
  • (1)アッシャー症候群の頻度が20,000人に1人であり,(2)アッシャー症候群患者の25%が1型患者であり,(3)アッシャー症候群1型の患者の50%がIB型だとすると,人口における保因者頻度は,IB型については約200人に1人となる.このため,親の1人がアッシャー症候群1型患者で,そのパートナーの聴覚が正常で,アッシャー症候群の家族歴をもたない場合,各妊娠でIB型のアッシャー症候群の子が出生する確率は1/800となる.他のアッシャー症候群1型についても同様の計算を行うと,こうした両親の子がアッシャー症候群1型を発症する全確率は約1/500となる.(この確率は,両親ともアケイディア人やアシュケナージ系ユダヤ人である場合には該当しないことに留意すること).

他の発端者の血縁者発端者の両親の子が保因者となるかリスクは50%である.

保因者診断

リスクのある血縁者の保因者診断は,家系内で病原性変異が同定されていれば,実施可能である.

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断と早期治療を目的とするリスクのある血縁者の検査に関する情報については,「臨床的マネジメント」,「リスクのある血縁者の検査」を参照のこと.

家族計画 

  • 遺伝リスクの判定,保因者状態の確認,また,出生前診断を利用するかどうかに関する議論を行う最適な時期は妊娠前である.
  • 罹患者や保因者である成人やリスクのある成人が若いうちに,(子へのリスクや生殖における選択肢などの議論も含めた)遺伝カウンセリングを提供することが適切である.

DNAバンキングは,将来の使用のために,通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.DNAバンキングは,将来の使用のために,通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.

出生前診断

大多数のタイプのアッシャー症候群1型について,リスクの高い妊娠に対する出生前診断は,病原性変異が家系内で同定されていれば,(通常,妊娠15〜18週頃に行われる)羊水穿刺や,(通常,妊娠10〜12週頃に行われる)絨毛生検で採取した胎児細胞から抽出したDNAを解析することにより可能である.
注:妊娠週数とは,最終月経の第1日から換算するか,超音波検査による計測によって算出される.
アッシャー症候群のような病態に対する出生前診断の要望は多くない.特に遺伝子検査が早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は,医療関係者の間やと家族の間に出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない.多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが,この問題については注意深い検討が求められる.

着床前診断(PGDは,病原性変異が同定している家系では可能である.


更新履歴

  1. Gene Review著者: Bronya JB Keats, PhD, FACMG, Jennifer Lentz, PhD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),鳴海 洋子(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)   
    Gene Review 最終更新日: 1999.12.10. 日本語訳最終更新日: 2009.10.20
  2. Gene Review著者: Bronya JB Keats, PhD, FACMG,Jennifer Lentz, PhD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),小笠原徳子(札幌医科大学耳鼻咽喉科)    
    Gene Review 最終更新日: 2013.6.20. 日本語訳最終更新日:2014.3.14 ( in present)

原文 Usher Syndrome Type I

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