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アッシャー症候群1型
(Usher Syndrome Type I)

[Synonym: USH1. Includes: USH1B, USH1C, USH1D, USH1E, USH1F, USH1G, USH1H, USH1J, USH1K]

Gene Review著者: Bronya JB Keats, PhD, FACMG,Jennifer Lentz, PhD
日本語訳者: 吉村豪兼(信州大学医学部附属病院耳鼻咽喉科)
Gene Review 最終更新日: 2013.6.20. 日本語訳最終更新日: 2014.8.15.(revised)

原文 Usher syndrome Type 1


要約

疾患の特徴 

アッシャー症候群タイプ1は、両側先天性重度感音難聴,前庭機能障害に加えて、(青年期に症状が出現する)網膜色素変性症を伴う疾患である.(重度難聴であるが)人工内耳装用により、音声言語の発達が可能となる.網膜色素変性症は両側進行性であり、桿体細胞の機能が低下していくことにより次第に視野狭窄が進み,その後視力低下を招く.

診断・検査 

アッシャー症候群タイプ1は、両側先天性重度感音難聴,前庭機能障害に加えて、(青年期に症状が出現する)網膜色素変性症を伴う疾患である.(重度難聴であるが)人工内耳装用により、音声言語の発達が可能となる.網膜色素変性症は両側進行性であり、桿体細胞の機能が低下していくことにより次第に視野狭窄が進み,その後視力低下を招く.

臨床的マネジメント 

症状の治療補聴器では十分な効果を得られない場合が多い.とりわけ幼少児では人工内耳植込術が検討されるべきである.コミュニケーション能力は、言語聴覚士の指導による家族の支援により最大限に伸ばすことができる.視野狭窄が進行すると、最終的にコミュニケーション手段が触手話に限られることがある.

経過観察定期的な眼科的検査により、白内障のような治療可能な合併症の有無を確かめることが必要である.

避けるすべき薬剤・環境繊細な視覚や平衡感覚を必要とするスポーツは困難なことがあり、危険を伴うことがある.囲からの視野狭窄が進行すると安全な運転が困難となる.また水中では方向感覚を失うリスクが高く、水泳は慎重を期す必要がある.

同胞の検査難聴の早期診断・治療を可能とするため、同胞の聴覚検査は,出生後できる限り早期に行うことが重要である(新生児聴覚スクリーニング検査).

遺伝カウンセリング 

アッシャー症候群タイプ1は常染色体劣性遺伝形式をとる.アッシャー症候群タイプ1の子を持つ夫婦の次子がアッシャー症候群タイプ1となる確率は25%、保因者が生まれる確率は50%、保因者でない児を持つ確率は25%である.出生前診断は、原因遺伝子変異が家系内で同定されていれば可能である(参考:本邦では不可).


診断

臨床診断

アッシャー症候群タイプ1の診断基準は以下である.

  • 両側性先天性(言語獲得前)重度感音難聴(Deafness and Hereditary Hearing Loss Overview 参照)
  • 前庭機能障害
  • 網膜色素変性症
  • 正常な全身状態と知能;もしくは身体所見が正常
  • 常染色体劣性遺伝形式に一致する家族歴

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

原因遺伝子

アッシャー症候群タイプ1の原因遺伝子変異は6種類が同定されており、以下のようにサブタイプに分類されている.

  • アッシャー症候群タイプ1B(USH1B):MYO7A遺伝子
  • アッシャー症候群タイプ1C(USH1C):USH1C遺伝子
  • アッシャー症候群タイプ1D(USH1D):CDH23遺伝子
  • アッシャー症候群タイプ1F(USH1F):PCDH15遺伝子
  • アッシャー症候群タイプ1G(USH1G):USH1G遺伝子
  • アッシャー症候群タイプ1J(USH1J):CIB2遺伝子

遺伝的異質性 

  • アッシャー症候群タイプ1に関連する7番目の遺伝子座(USH1E)が21番染色体(21q21)にマッピングされているが,遺伝子は同定されていない.
  • アッシャー症候群タイプ1に関連する8番目の遺伝子座(USH1H)が15番染色体(15q22-q23)にマッピングされている[Ahmed et al 2009].
  • アッシャー症候群タイプ1に関連する9番目の遺伝子座(USH1K)が10番染色体(10p11.21-q21.1)にマッピングされている[Jaworek et al 2012].

 

  • アッシャー症候群タイプ1A(USH1A)について
    Gerber et al [2006]により,USH1A遺伝子座が存在しないことが確認された.当初,フランスのブレシュイール地方の9家系のうち6家系でこの遺伝子座がマッピングされたと報告されていたが,その後MYO7A(USH1B)遺伝子の変異によることが明らかとなった.

検査手順

発端者の確定診断

  • アケイディア人(米国ルイジアナ州)やアシュケナージ系ユダヤ人におけるアッシャー症候群タイプ1症例の分子遺伝学的検査では,前者ではまず初めにUSH1C遺伝子を,後者ではPCDH15遺伝子を検査する(表1の脚注9と12を参照).
  • アケイディア人やアシュケナージ系ユダヤ人でない場合や,そうであっても上述の2種類の遺伝子変異が検出されない場合には,単一遺伝子解析、もしくは複数遺伝子解析を行う.
  • 単一遺伝子検査:アッシャー症候群タイプ1が疑われる発端者の遺伝学的検査を各遺伝子それぞれにおいて解析を行う(MYO7A遺伝子,CDH23遺伝子,PCDH15遺伝子,USH1C遺伝子,USH1G遺伝子,及びCIB2遺伝子
  • 複数遺伝子解析アッシャー症候群タイプ1が疑われる発端者に対する遺伝学的検査を複数遺伝子の同時解析を行うことができるパネルを使用するという方法もある.

リスクのある血縁者の保因者診断は,事前に家系内で原因遺伝子変異を同定しておく必要がある(参考:本邦では保因者診断は不可).

注:常染色体劣性遺伝形式をとるため、ヘテロ接合体の遺伝子変異を持つ場合(保因者)は疾患発症のリスクはない.
出生前診断と着床前診断(PGD)は,家系内の原因遺伝子変異を同定しておく必要がある(参考:本邦では不可).

関連疾患

MY07A遺伝子

  • アッシャー症候群タイプ3MYO7A遺伝子(NM_000260.3)でp.Leu651Pro変異とp.Arg1602Gln変異の複合ヘテロ接合が同定された例にアッシャー症候群タイプ3に一致する表現型がみられた [Liu et al 1998a].
  • DFNA11(常染色体優性非症候性難聴):MYO7A遺伝子は常染色体優性非症候性難聴(DFNA11)の原因にもなることがの発症させることが報告されている[Tamagawa et al 2002] (Deafness and Hereditary Hearing Loss Overview 参照).ミオシン7aタンパクのホモダイマー形成に必要なcoiled-coilドメインにdominant-nagative効果より影響を与える変異が常染色体優性非症候群性難聴(DFNA11)患者で同定されている.

 

  • DFNB2(常染色体劣性非症候性難聴):MYO7A遺伝子変異による常染色体劣性非症候群性難聴(DFNB2)例が報告されている[Hildebrand et al 2010].しかしDFNB2とみられていた一家系で網膜色素変性症が認められ,実際はDFNB2ではなく,アッシャー症候群タイプ1B(USH1B)であったことが明らかになった.この事例からも,アッシャー症候群の正確な診断には集学的なアプローチが必要であることが示唆される[Zina et al 2001].

USH1C遺伝子

  • 隣接遺伝子欠失症候群:USH1C遺伝子を含む隣接遺伝子の欠失により,乳児発症型高インスリン症,腸症,難聴が生じた報告がある[Bitner-Glindzicz et al 2000].
  • DFNB18(Deafness and Hereditary Hearing Loss Overview 参照).USH1C遺伝子変異も常染色体劣性非症候性難聴(DFNB18)の原因となる例が報告されている [Ahmed et al 2002, Ouyang et al 2002].DFNB18と診断された家系,もしくは網膜色素変性症を伴わない難聴の孤発例をみてみると,タンパク質への影響が少ない変異についてはDFNB18をとるという,遺伝子型と表現型の関係が示唆されている。

CDH23遺伝子

  • DFNB12:(Deafness and Hereditary Hearing Loss Overview 参照)CDH23遺伝子のミスセンス変異による難聴は常染色体劣性遺伝形式をとる非症候群性難聴を呈する [Bork et al 2001, Astuto et al 2002a, Bork et al 2002]。
  • アッシャー症候群タイプ2CDH23遺伝子変異をもつ患者は,多彩な聴覚障害や視覚障害が生じることが知られており,その中にはアッシャー症候群タイプ1よりもむしろタイプ2に一致する表現型を呈する症例もある [Astuto et al 2002]。

PCDH15遺伝子

  • DFNB23CDH23遺伝子変異によるUSH1D/DFNB12やUSH1C遺伝子変異によるUSH1C/DFNB18でみられるように,PCDH15遺伝子のミスセンス変異はDFNB23の原因になることが報告されている [Ahmed et al 2008, Doucette et al 2009]。

USH1G遺伝子

  • アッシャー症候群タイプ2USH1G遺伝子変異をもつ患者の中には,タイプ1よりもタイプ2に近い,比較的軽症のアッシャー症候群を発症するものがあることが報告されている [Bashir et al 2010]。

CIB2遺伝子

  • DFNB48:常染色体劣性遺伝形式をとる非症候群性難聴(DFNB48)と関連があるとされるCIB2遺伝子の変異が報告されている [Riazuddin et al 2012]。

臨床像

臨床経過

アッシャー症候群タイプ1の難聴は先天性であり,両側性で重度である。正常な言語発達がみられないことが多い。難聴の随伴症状としてみられる前庭機能障害はこの疾患を定義する特徴となる。前庭機能障害により、アッシャー症候群タイプ1の患児の歩行開始は通常よりも遅れることが多く,およそ生後18ヶ月から2歳である。年長児は不器用にみられることや思わぬ怪我を負うことがある。また自転車に乗ったり,スポーツといったような平衡感覚を要する活動が困難な場合もある。

アッシャー症候群タイプ1の小児は,網膜色素変性症(RP)の初期徴候であるトンネル視や夜盲が進行して,両親や先生,もしくは患者本人が気づくようになるまで,非症候群性難聴と診断されることが多い。網膜色素変性症は進行性,両側性,左右対称性の網膜の変性が生じ,周辺からおこる。初めに障害を受けるのは主に桿体細胞(暗順応状態で活性化する光受容器)であり,夜盲と視野狭窄(トンネル視)が起きる。後に錐体細胞(明順応状態で活性化する光受容器)も変性することがある[Gregory-Evans & Bhattacharya 1998]。

時とともに視野狭窄は進行する。視野狭窄の進行と程度は,家系内でも家系によってもばらつきがある。30〜40歳のアッシャー症候群タイプ1患者では,通常視野角は5〜10度である。年を追うごとに視覚障害は著明に悪化する [Pennings et al 2004]。とはいえ,典型的なアッシャー症候群1型患者が完全失明に至ることは稀である。しかし,白内障により中心視力が明暗認識のみに悪化することもある。

ヘテロ接合体のみで変異をもつ症例:基本的には無症状であるが、電気眼球図(EOG)や聴力がわずかに異常となることもある。しかし、これらの検査が保因者診断となりうるほど感受性や特異性は高くない。注)電気眼球図は眼球運動系の電気生理学的機能検査である。電極をそれぞれの目に装着する.被験者は頭を動かさずに点滅する2つの赤い光を交互にみて,眼球を前後に動かす。ほとんどの網膜疾患は網膜電図で十分であり,電気眼球図を行う必要はないが、その利点は,電極が眼球表面と接触しないことである。

遺伝子型と臨床型の関連

CDH23遺伝子:CDH23変異をもつ患者では,難聴,前庭機能障害,色素性網膜炎網膜色素変性症において,明白な遺伝子型と臨床型の相関関係が存在する.CDH23遺伝子のヌル変異(ナンセンス変異,フレームシフト変異,スプライス部位変異など)の割合が低くなると,表現型が軽症化することが報告されており,アッシャー症候群タイプ1患者でのヌル変異の割合は約88%,非定型のアッシャー症候群タイプ1患者では約67%,DFNB18患者では0%程度である [Astuto et al 2002a].

浸透率 

アッシャー症候群タイプ1は完全浸透を示す.

表現促進現象

アッシャー症候群タイプ1で表現促進現象は報告されていない.

病名

USH1AGerberら[2006]により,USH1A遺伝子座が存在しないことが報告された.この遺伝子座は当初,フランスのブレシュイール地方の9家系のうち6家系でマッピングされたと報告されていたが,MYO7A(USH1B)遺伝子変異でよるものであることが判明した.

頻度 

アッシャー症候群の頻度は,古い文献では10万人中3.2〜6.2人と報告されている.アッシャー症候群は小児の難聴全体の3〜6%,盲聾者全体の約50%を占めると推定されている.これらの推定値の多くは,Mollerら[1989]がアッシャー症候群をタイプ1とタイプ2に分けた1989年以前に算出されたものであり,その当時はまだアッシャー症候群タイプ3は認知されていなかった.時代を追うごとに先天性難聴者に対する特別な療育が必要と考えられた背景により、アッシャー症候群タイプ1患者の研究参加が容易となってきた.これらの研究に基づく推定値には,音声言語によるコミュニケーションが可能なため普通学級へ進学したアッシャー症候群タイプ2やタイプ2の患者は反映されていない.したがって,一般集団におけるアッシャー症候群の頻度は,実際にはもっと高いと考えられる.

オレゴン州の難聴児に対する最近の研究では,アッシャー症候群関連の遺伝子変異をもつ者は11%であり,頻度は6,000人中1人程度まで高くなると報告されている [Kimberling et al 2010].


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

非症候群性難聴.難聴児が複数いる家系では,最年長児が網膜色素変性症(RP)も診断されるまで,非症候群性難聴(NSHL)(Deafness and Hereditary Hearing Loss Overview 参照)と判断されることが多い.その後、眼科的検査で同胞の年少児の症状が現れる前の初期段階の網膜色素変性症の診断がなされる場合が多い.非症候群性難聴や網膜色素変性症の病的変異がそれぞれ独立して遺伝し,アッシャー症候群に類似した症状を呈する場合がある [Fakin et al 2012].非症候群性難聴と網膜色素変性症はそれぞれ1,000人中1人,4,000人中1人と比較的頻度が高い.ただし大家系になるほど、難聴と網膜色素変性症の原因遺伝子がそれぞれ異なる確率は低下する.

アッシャー症候群タイプ2.アッシャー症候群2型の特徴は,(1)軽度から高度の高音漸傾型の先天性両側性感音難聴,(2)正常な前庭機能,(3)青年期から成人期に発症する網膜色素変性症である.アッシャー症候群タイプ1とタイプ2を臨床的に鑑別として,タイプ1の小児では前庭機能障害のため歩行開始時期が通常生後18ヶ月〜2歳と遅れるが,タイプ2では通常1歳頃であることが最も重要な所見の1つである.
アッシャー症候群タイプ3.アッシャー症候群タイプ3の特徴は,言語修得後の進行性感音難聴,遅発型の網膜色素変性症,程度がさまざまな前庭機能障害である [Plantinga et al 2005].CLRN1遺伝子,もしくはHARS遺伝子の変異が原因とされる[Joensuu et al 2001, Vastinsalo et al 2011, Puffenberger et al 2012].アッシャー症候群タイプ3の患者では重度難聴と前庭機能障害を呈する者こともあり,臨床診断でアッシャー症候群タイプ1と誤診されることがある [Pennings et al 2003].

Deafness-dystonia-optic neuropathy(DDON).DDONの男性は,小児早期に言語修得前,もしくは言語修得後の感音難聴,10歳代からの緩徐に進行性するジストニアもしくは運動失調,20歳前後からの視神経萎縮による緩徐に進行性する視力低下,さらに40歳前後からの認知症がみられる.人格変化や妄想といった精神症状が小児期に現れ,進行することもある.難聴は発症年齢や進行の程度が同じようであるが,神経学的,視覚的,および神経精神的所見の重症度や進行具合にはばらつきがある.女性では,難聴は軽度であり,ジストニアは局在性である.TIMM8A遺伝子変異が原因である.遺伝形式はX連鎖性である.DDON患者は,初めはアッシャー症候群と疑われることがある [Kimberling 2005].それは,DDONの難聴が先天性であったり,またはアッシャー症候群タイプ2の難聴が進行性であったりするためである[Sadeghi et al 2004].

その他.ウイルス感染,糖尿病性ニューロパチー,ミトコンドリア病(Mitochondrial Disorder 参照)などの症候群はみな,アッシャー症候群が疑われる難聴や網膜色素変性症といった随伴症状を呈することがある.


臨床的マネジメント

初診時の評価

アッシャー症候群タイプ1と診断された患者の疾患の程度を確定する際には,以下の評価を行うとよい.

  • 聴力検査.耳鏡検査,標準純音聴力検査,語音聴力検査.聴性脳幹反応(ABR)や歪成分耳音響放射(DPOAE)を調べることもある.
  • 前庭機能検査.回転椅子検査,温度刺激検査,電気眼振検査,重心動揺検査
  • 眼科検査.眼底検査,視力検査,視野検査(ゴールドマン視野計),網膜電図(ERG)
  • 遺伝子診療部へのコンサルト

症状に対する治療

聴覚.アッシャー症候群タイプ1患者は重度難聴であるため,補聴器は有効でない場合が多い.特に年少児に対しては,人工内耳装用を考慮することが必要である [Damen et al 2006, Pennings et al 2006, Liu et al 2008].
コミュニケーション能力は,家族全員が言語聴覚士によるトレーニングを受け実践すれば,最大限に引き伸ばすことができる.

平衡機能.トンネル視や夜盲に前庭機能障害が加わると予期せぬ怪我につながりやすい. アッシャー症候群タイプ1患者は,監視の行き届いた状態でスポーツすることで体性感覚をうまく使えるようになると,前庭機能障害を補うことができることもある.

視覚.(Retinitis Pigmentosa Overview 参照) 手話や読唇術によるコミュニケーションは,網膜色素変性症の進行につれて困難になってゆく.視野狭窄が進行すると,アッシャー症候群タイプ1患者のコミュニケーション手段は触手話のみとなる.

経過観察

白内障などの治療可能な合併症を発見するため,定期的な眼科的検査を行うとよい.

回避すべき薬物や環境

より視覚や平衡感覚を必要とするスポーツで競うことは難しく,危険wp及ぼす. アッシャー症候群タイプ1の患者は,水中に潜ると「どちらが上か」という感覚がなくなるため,方向感覚を失いやく,水泳は慎重に行う必要がある. 周辺の視野狭窄が進むと,安全な車の運転ができなくなる.

リスクの高い血縁者への検査

アッシャー症候群タイプ1の発症リスクの高い同胞は出生後のできるだけ早い段階で,聴性脳幹反応(ABR)や歪成分耳音響放射(DPOAE)による聴覚検査を行うとよい.これにより,難聴に対する早期診断と治療が可能となる(Genetic Conseling 参照).

研究中の治療法

ClinicalTrials.gov 参照)

その他

補聴器.アッシャー症候群タイプ1患者は重度難聴であるので補聴器による装用効果は不十分な場合が多い.

ビタミンA網膜色素変性症の孤発例やアッシャー症候群タイプ2患者ではビタミンAの投与により網膜色素変性症の進行が抑制することがあるが,アッシャー症候群タイプ1患者においてはビタミンAの有効性を報告したものはない.ビタミンAは脂溶性であり,尿中に排泄されない.よって高用量のビタミンAサプリメントの摂取時は,肝障害などの有害な副作用の有無を観察する必要があるため,必ず医師の指示のもとで行う必要がある.注意すべき点として,小児例への高用量ビタミンA投与の効果は不明であるため,Bersonら[1993]は18歳以上の患者を対象として研究を行った.妊婦への高用量のビタミンA投与は,胎児の成長への催奇形作用の可能性があるため禁忌である.

ルテイン.7ヶ月間のルテイン内服(1日20 mg)の中心視力への効果は認められなかった.しかし,その長期的な効果は不明である[Aleman et al 2001].


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

アッシャー症候群タイプ1は常染色体劣性遺伝形式をとる.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • アッシャー症候群タイプ1患者の両親はアッシャー症候群タイプ1の原因遺伝子の病的変異のアレルを1つもつ.
  • ヘテロ接合体(保因者)では無症状である.

発端者の同胞 

  • 受精時,患者の同胞が発病する確率は25%,無症状の保因者となる確率は50%,発病せず保因者ともならない確率は25%である.
  • リスクのある同胞が罹患していないと判明した場合,その同胞が保因者である確率は2/3となる.

発端者の子

  • 患者の子が罹患していない場合,ヘテロ接合体で変異をもつ.患者のパートナーが同一のアッシャー症候群原因遺伝子に変異を1つもつ保因者である場合,子が発症する確率は50%である.患者のパートナーが同一の原因遺伝子によるアッシャー症候群である場合,すべての子が発症する.
  • (1)アッシャー症候群の頻度が20,000人に1人,(2)アッシャー症候群患者の25%がタイプ1患者,(3)アッシャー症候群タイプ1の患者の50%が1B型だとすると,保因者頻度は,1B型については約200人に1人となる.このため,親の1人がアッシャー症候群タイプ1患者で,そのパートナーの聴覚が正常で,アッシャー症候群の家族歴をもたない場合, アッシャー症候群(1B型)の子が出生する確率は1/800となる.他のアッシャー症候群タイプ1についても同様の計算を行うと,両親うち1人がアッシャー症候群タイプ1である場合、子もアッシャー症候群タイプ1を発症する全確率は約1/500となる.(この確率は,両親ともアケイディア人やアシュケナージ系ユダヤ人である場合には該当しないことに注意).

他の発端者の血縁者

発端者の両親の同胞が保因者となる確率は50%である.

保因者診断

リスクのある血縁者の保因者診断は,家系内で原因遺伝子変異が同定されていれば実施可能である. (参考:本邦では保因者診断は不可)

 

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断と治療を目的とするリスクのある血縁者の検査に関しては,「臨床的マネジメント」,「リスクのある血縁者の検査」を参照のこと.

家族計画 

  • 遺伝するリスクの判定,保因者かどうかの評価,および出生前診断を利用するかどうかに関する議論を行う最適な時期は妊娠前である.
  • 罹患者や保因者、および保因者である可能性がある成人が若いうちに,(子へのリスクなどの内容も含めた)遺伝カウンセリングを提供することが適切である.

DNAバンキング は,未来のために通常白血球から抽出したDNAを保存しておくことである.検査手法や,遺伝子や、その変異,疾患への理解は進歩する可能性があり,そのためにも患者のDNAを保存しておくことは考慮されるべきである.

出生前診断

大多数のタイプのアッシャー症候群タイプ1について,リスクの高い妊娠に対する出生前診断は,原因遺伝子変異が家系内で同定されていれば,(通常,妊娠15〜18週頃に行われる)羊水穿刺や,(通常,妊娠10〜12週頃に行われる)絨毛生検で採取した胎児細胞から抽出したDNAを解析することにより可能である. (注:妊娠週数とは,最終月経の第1日から換算するか,超音波検査による計測によって算出される. )アッシャー症候群のような病態に対する出生前診断の要望は一般的ではない.特に遺伝子検査が早期診断よりも中絶を目的とされる場合は,医療関係者と家族の間に出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない.多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが,この問題については注意深い検討が求められる.

着床前診断(PGD)は,原因遺伝子変異が同定している家系では可能である.(参考:本邦では保因者診断は不可)


更新履歴

  1. Gene Review著者: Bronya JB Keats, PhD, FACMG, Jennifer Lentz, PhD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),鳴海 洋子(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)   
    Gene Review 最終更新日: 1999.12.10. 日本語訳最終更新日: 2009.10.20
  2. Gene Review著者: Bronya JB Keats, PhD, FACMG,Jennifer Lentz, PhD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),小笠原徳子(札幌医科大学耳鼻咽喉科)    
    Gene Review 最終更新日: 2013.6.20. 日本語訳最終更新日:2014.3.14 
  3. Gene Review著者: Bronya JB Keats, PhD, FACMG,Jennifer Lentz, PhD
    日本語訳者: 吉村豪兼(信州大学医学部附属病院耳鼻咽喉科)
    Gene Review 最終更新日: 2013.6.20. 日本語訳最終更新日: 2014.8.15.(in present) (translation revised ,No.2)

原文 Usher syndrome Type 1

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