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Y染色体不妊
(Y Chromosome Infertility)

[Y chromocome-related azoospermia]

Gene Review著者: Christine M Disteche, PhD.
日本語訳者: 吉村祐実(翻訳ボランティア),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)

Gene Review 最終更新日: 2007.3.19 日本語訳最終更新日: 2012.8.17.

原文 Y Chromosome Infertility


要約

疾患の特徴 

Y染色体性不妊は,無精子症(精子がないこと),重度乏精子症(精子数<1 x 106 /ml),中等度乏精子症(精子数1〜5 x 106 /ml )または軽度乏精子症(精子数5〜20 x 106 /ml)を特徴とする.また,Y染色体性不妊の男性は,身体所見上小さな睾丸や停留睾丸を認めることもあるが,通常明らかな症状がない.

診断・検査 

他の不妊の原因が否定された男性で無精子症や乏精子症,精子の形態や運動性に異常がある場合に Y染色体性不妊が疑われる.日常の細胞遺伝学的検査でこれらの男性の5〜10%にY染色体異常が認められる.分子遺伝学的検査により,これらの男性のさらに5〜10%にY染色体長腕上に微小欠失を認める.これらの分子遺伝学的検査は臨床に利用可能である.

臨床的マネジメント 

症状の治療
射精(乏精子症の男性)または精巣生検(無精子症の男性)で採取した精子をパートナーから採取した卵子に注入するICSI(卵細胞質内精子注入法)を利用する人工授精によって妊娠が可能である.

その他
AZFB欠失およびAZFA欠失を伴うセルトリ細胞遺残症候群 (SCOS) の男性では精巣から精子を採取しても体外受精による妊娠は期待できないが,AZFC欠失の大多数の男性では有効である.

遺伝カウンセリング 

Y染色体性不妊はY染色体連鎖の形式で遺伝する.Y染色体長腕のAZF領域に欠失を有する男性は不妊症となり,また,この欠失は通常新生突然変異なので,発端者の父親が同様の欠失をもつことはない.稀に,家族内で同じY染色体欠失が男性にのみ生じることがある.したがって,AZF領域の欠失を有する生殖能のある男性は,不妊症の息子の父親となる. AZF領域の欠失により不妊である男性が,ICSIによって妊娠を達成した場合,生まれてくる男児は父親と同じくAZF領域の欠失を有し,男性不妊のリスクが高い.Y染色体欠失を有する父親の女の胎児には先天性異常および不妊のリスクが上がることはない.生殖補助技術(ART,assisted reproductive technology)による妊娠が男児のY染色体欠失のリスクとなることが知られている.出生前診断や着床前診断で胎児の性別やY染色体の欠失を調べることは技術的に可能である.


診断

臨床診断

Y染色体性不妊の男性は,身体所見上小さな睾丸や停留睾丸を認めることもあるが,通常身体所見は正常である.注目すべきは,単独で不妊の原因となるY染色体異常および精索静脈瘤の両方を有すると考えられる男性がいることである.

男性不妊の他の原因を排除する必要がある(鑑別診断を参照) 顔面所見に関しては図1を参照のこと.

精液検査

射精で得られた精子で精子の数,運動性,形態を調べる.

表1 精子数の分類

分類 1
精子数 百万 /ml
無精子症 Azoospermia
0
重度乏精子症 Severe oligozoospermia
<1
中等度乏精子症 Moderate oligozoospermia
1-5
軽度乏精子症 Mild oligozoospermia
5-20
正常
>20
  1. いずれのカテゴリーにおいても,運動性や形態は正常の場合も異常の場合もある.

検査

細胞遺伝学的検査

無精子症乏精子症や精子の運動性や形態に異常を認める原因不明の不妊男性のおよそ5-10%に細胞遺伝学的に染色体異常が認められるが,ほとんどの場合,性染色体異常だけでなく常染色体異常を認める.

末梢血にて行われる通常の細胞遺伝学的な検査で,Y染色体の構造的異常を検出できる.

  • Y染色体長腕の端部の異色染色質帯域Yq12を含むYqの端部欠失
  • 長腕欠失を誘導するさらに複雑な別のY染色体の遺伝子の再配列.たとえば,pseudodicentric Y chromosome(偽二動原体染色体,別名:non fluorescent“Y”)がY染色体長腕の一部の欠失ならびにY短腕および近位Y長腕の複製を誘導する.その複雑なY染色体の再配列の欠失は重要である.というのは,それらの一部(pseudodicentric Y染色体およびring Y chromosomes)がしばしば45,X細胞株と関連があるからである.
    しかし,細胞遺伝学的検査単独では,以下の発見は不可能である.
  • Y染色体の微小欠失の検出
  • 細胞遺伝学上明らかな欠失がYZF領域に拡大したかどうか
  • YZF領域の小さな中間部欠失

精巣生検:精巣生検で以下のうちの1つであることが明らかになる.

  • 胚細胞の欠損に伴う無精子症におけるセルトリ細胞遺残症候群 (SCOS)
  • 胚細胞の減少または各発育段階における胚細胞の停止に伴う精子形成機能低下症

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子

Y染色体不妊は以下のいずれかが原因となりうる.
Y染色体長腕(Yq)の複数の遺伝子の欠損を伴うAZF領域の微小欠損 (図1参照)
USP9Yにおけるまれな単一遺伝子の異常

図1 Y染色体模式図.

yci_omg

臨床検査

欠失/ 重複解析

Y染色体の比較的大きな領域内で一連の HYPERLINK "http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/n/gene/glossary/def-item/polymerase-chain-reaction-pcr/" PCR (ポリメラーゼ連鎖反応)増幅を実施して,Y染色体の分子学的診断を行う.Yq の微小腕内欠失では,切断点の位置により長腕の様々な位置で欠損することがある.Y染色体の完全さを確かめるためにY染色体上の特異遺伝子(USP9Y, DDX3Y, HSFY1, RBMY, CDY1およびDAZ)を解析に含めるべきである.

注意: (1) 検査のガイドライン (PCR分析のための陽性対照および陰性対照標本)が発表されているが [Simoni et al 2004],推奨される検査は,含まれるべき特異遺伝子に関する項目が特に不十分である.(2) 市販のキットが作成されているが,更なる評価が必要である[Aknin-Seifer et al 2005].

元来,3つのAZF領域は,AZFA,AZFBおよびAZFC (無精子症因子a, bおよびc ; azoospermia factors a, b, and c)に分類されており,長腕(Yq)のセントロメアからテロメアまで順々に位置し,重複していないと考えられている.しかし,その後の研究でAZFBおよびAZFCが重複することが明らかになった [Repping et al 2002] (図1参照).欠損は大きなパリンドローム構造間で起こる傾向があるため,再発性の欠損の種類の適切な命名法として,flanking repeatsの名前を使用するべきである [Yen 2001, Repping et al 2002].

研究検査

単一遺伝子欠損 AZFA 領域に位置する USP9Y 遺伝子の変異は稀である[Sun et al 1999].このタイプの変異は PCRでは検出できず,他のタイプ(DNA配列の解析など)の検査が必要である.これらの検査は現在研究目的にしか行われていない.

検査結果の解釈

臨床的にはASと診断されながら11%あるいはそれ以上の患者で変異を同定できない理由としては,1)臨床診断が正しくない,2)UBE3Aの調節領域に同定できない変異が存在する,3)UBE3Aの機能に関連する他の未確認の機序や遺伝子変異がASの原因になっている,などがあげられる.

表2. Y染色体不妊で用いられる分子遺伝学的検査

検査方法 遺伝的メカニズム 表現型 変異欠失の頻度 1 検査の実施
欠失/ 重複解析 AZFA 腕内欠失 (HERV15yq1-HERV15yq2) 2 SCOS 9% 臨床説明: Image testing.jpg
AZFC 腕内欠失 (b2/b4) 2 乏精子症 6%
無精子症 13%
AZFBおよびAZFB+C 腕内欠失(P5/proxP1, P5/distP1, P4/distP1) 2 無精子症 1%-2%
AZF端部欠失 ND ND

GeneReviews(TM)では,各種の分子遺伝学的検査のうち,米国CLIAの認定を受けた検査機関または米国以外の臨床検査機関によってGeneTests(TM) Laboratory Directoryに掲載されたものに限り臨床的に実施可能とみなす.GeneTests(TM)では,検査機関から提出された情報を検証していない.また,いかなる観点からも検査機関の認可状況や業務実績を保証していない.情報の検証には,臨床医から直接,検査機関に連絡する必要がある.

SCOS = セルトリ細胞遺残症候群
ND = データなし

  1. 遺伝子/遺伝子座,表現型,人種,遺伝的メカニズムおよび/または検査方法によって分類される変異を有する患者の割合
  2. 反復構造を示す

検査方法

Y染色体長腕の微小欠失の有無を調べるために,Y染色体長腕の微小欠失の分子遺伝学的検査を行うとともに,精子の数や形態,運動性の評価やルーチンの細胞遺伝学的検査を行うべきである.

出生前診断および着床前遺伝診断(PGD)では,Y染色体長腕のAZF領域の欠失について事前の診断を必要とする.

注:GeneTests Laboratory Directoryには掲載施設で実施可能な臨床検査を載せることがGeneReviewsの方針である.ここで掲載されている検査は必ずしも著者や編集者や審査者が推奨をするものではない.

検査結果の解釈

遺伝子レベルでの関連疾患

AZF 領域のY染色体長腕欠失が原因で起こる障害は,不妊以外知られていない.Y染色体不妊の男性は,他の点では健康である.

精巣胚細胞腫瘍の疑いをわずかに増やす原因はAZFC領域のY染色体欠失の1つであると単一の試験で示唆されている.


臨床像

自然経過

Y染色体性不妊の男性は,身体所見上小さな睾丸や停留睾丸を認めることもあるが,通常身体所見は正常である.Y染色体性不妊の男性は無精子症や,種々の程度の乏精子症を呈する(表1).軽度乏精子症では稀に受精能がある.
成長制御遺伝子と考えられる GCY 領域のあるセントロメア付近にまでYq欠失が及ぶと低身長を呈することがある[Kirsch et al 2002, Kirsch et al 2004].

遺伝子型と臨床型の関連

それぞれの AZF領域には精子形成の様々な段階に関わっているいくつかの遺伝子が含まれている.将来,これらの個々の遺伝子の解析により,より正確な遺伝子型と表現型の関連が明らかになるだろう.

最初にAZFBおよびAZFCと定義された領域は部分的に重複していることが見出されている(図1) [Repping et al 2002].文献の多くは今もこれらの領域名を引用している.したがって,本稿ではこれらの領域名を引用したもの,およびより正確に欠失を規定する最近のパリンドローム反復配列を引用したものの両方を参照している.

  • AZFA 領域を含む腕内,端部欠失はHERV15yq1-HERV15yq2 反復配列の組み換えによって生じることが多いが,通常は重度のセルトリ細胞遺残症候群 (SCOS)の表現型を呈する [Kamp et al 2001].
  • AZFBおよび/または AZFB+C (以後,AZFB/Cと表す) 領域を含む腕内,端部欠失は,P5/proxP1, P5/distP1, または P4/distP1のパリンドローム反復配列間の組み換えによって生じる.これらの欠失によって通常無精子症が生じる.
  • AZFC領域のみを含む腕内,端部欠失は,b2/b4パリンドローム反復配列間の組み換えによって生じ,無精子症やSCOSから重度または軽度の乏精子症までの様々な表現型を呈する.AZFc 領域の欠失は時折,若年時は正常だが,年齢とともに悪化する表現型をとることがある.
  • AZFC の2つの部分欠損(b1/b3およびgr/gr)は,多型であると考えられる.
  • AZFA 領域の重複が報告されているが,異常な表現型と関連があるとは考えられていない[Bosch & Jobling 2003].
  • これまでは AZFA 領域にある USP9Y遺伝子 だけが不妊症の表現型に直接関連があるとされていたが,この USP9Y にのみ点突然変異または欠失がある二人の不妊男性は,低精子形成だが SCOSではなかった[Sun et al 1999].この研究により,通常 AZFa 領域の欠失と関連しているSCOSは USP9Y のみの欠失では起こらず,重度の表現型が発症するには少なくともあと一つ DDX3Y 遺伝子の欠失も必要であると考えられる.これらの所見はそれぞれのAZF領域が多くの遺伝子を含んでおり,かつそれらの遺伝子が多コピー存在しているという,AZF領域の複雑さを示すものである.

浸透率 

稀に,家族内で,同じY染色体欠失が男性にのみ生じることがある[Chang et al 1999, Saut et al 2000, Gatta et al 2002, Repping et al 2003].したがって,AZF領域の欠失を有する生殖能のある男性は,不妊の息子の父親となる.

頻度 

Y染色体の欠失または微小欠失の頻度はおよそ1/2000から1/3000である.
無精子症または重度乏精子症の男性におけるYq微小欠失の頻度は,約5-10%である[Vogt 1997, Silber et al 1998, Oates et al 2002].ゴナドトロピン欠乏性の性機能低下症,精索静脈瘤,感染など明らかに他の原因による無精子症の男性は,Yq欠失の発生率が上がる可能性もあると複数報告されている[Krausz et al 1999].民族性に基づく発症率の違いは報告されていない.


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

生殖可能年齢のカップルの 15-20%が不妊であり,これらのカップルの半数が男性不妊である.男性不妊の原因は,Y染色体長腕の部分欠失以外に多数ある.

  • 射精管の閉塞, 身体診察により射精管の閉塞を評価する必要がある.[Male Infertility Best Practice Policy Committee - AUA 2004].先天性両側精管欠損症(嚢胞性線維症Cystic fibrosisの項参照)をこの評価で考慮すべきである(see HYPERLINK "http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/n/gene/cf/" CFTR-Related Disorders).CFTR関連疾患に嚢胞性線維症 (CF) および先天性両側精悍欠損症(CBAVD).CFの男性95%以上がウォルフ管の欠如,萎縮または線維化が原因の無精子症の結果,不妊である.また,CBAVDが生じる.肺または胃腸症状のないCFの男性は無精子症となり,不妊となる.CFは常染色体劣性形式で遺伝する.
  • 抗精子抗体による免疫異常
  • 感染症 (ムンプス精巣炎,精巣上体炎,尿道炎).これらの疾患は一般に既往歴によって,Y染色体不妊とは区別される.
    身体診察で特定される血管異常(精索静脈瘤). しかし,Y染色体異常は精索静脈瘤の男性でも報告されていることに注意すること[Moro et al 2000].
  • 外傷 (既往歴によって区別する)
  • 内分泌異常 (先天性副腎皮質過形成,卵胞刺激ホルモン(FSH)欠損および高プロラクチン血症). これらは内分泌学的検査を通じて区別可能である.カルマン症候群(KS)は,特発性低ゴナドロピン性機能低下(idiopathic hypogonadotrophic hypogonadism (IHH)との関連も考慮に入れる必要がある.KSの男性の一部では新生児に小陰茎,停留睾丸が見られる.KSの成人男性では,不完全な二次性徴および思春期前の大きさの精巣( <4 mL)が認められる. カルマン症候群に関連する遺伝子はKAL1およびFGFR1 の2つしか知られていない.2遺伝子の変異は,KSの15〜25%で認められる.不妊型表現型と(Non-reproductive phenotypes)としては以下がある.
    • KAL1 変異を有する男性  指の連合運動 (ミラー運動),片側性の腎欠損,感音性難聴,高口蓋 が認められる
    • FGFR1変異を有する男性 指の連合運動,口唇裂および/または口蓋裂,歯牙無形成,短指(趾)症または指趾癒合, 脳梁欠損が認められる
  • 毒物の曝露が原因のまたは他の腫瘍
  • 放射線,化学療法,熱暴露などの有精巣腫瘍害物質・環境への曝露
  • クラインフェルター症候群(XXY)は,細胞遺伝学的評価で検出できるが,非閉塞性無精子症および乏精子症の男性に推奨される.
  • バランスの良い染色体再配列, 細胞遺伝学的評価で検出できるが,非閉塞性無精子症および乏精子症の男性に推奨される.このケースでは,繰り返す流産の家族歴がありうる.

上記以外の男性不妊は,病因が不明である.

セルトリ細胞遺残症候群 (SCOS) は,男性の胚細胞無形性の所見に適応される名称であり,中毒性の化学療法の薬剤または放射線照射,ムンプス精巣炎,ダウン症,クラインフェルター症候群(染色体数47,XXY性染色体成分を持つ染色体異常),先天性副腎形成不全,孤立性卵胞刺激ホルモン(FSH)欠損および高プロラクチン血症など多くの原因が考えられる.これらそれぞれについては,既往歴,奇形や他の症状の存在を考慮し,染色体分析を実施してY染色体不妊と区別する必要がある.SCOSの男性の多くは,病因が不明である.


臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

Y染色体不妊であると診断された患者に適切である. 精子数,運動性,形態が適正であるか検討するために精液検査を実施する.

病変に対する治療

Y染色体不妊の男性の夫婦には,ICSI (intracytoplasmic sperm injection,卵細胞質内精子注入法)を利用した体外授精の選択が提供される.この方法では,射精(乏精子症の男性)または精巣生検(無精子症の男性) で精子を採取し,IVFで培養した卵子に注入する(体外受精).

精子の採取は,AZFC欠損の男性では主に成功するが,AZFBまたはAZFA欠失の男性では稀である.SCOSの男性は精子が全くないため,精子の採取をしてはいけない.

ICSIおよび IVFを試みる前に Y染色体不妊が男の子孫に遺伝する可能性について話し合うのは重要である(遺伝学的カウンセリングを参照).

精子の採取が可能な男性では,Y染色体の長腕欠損の有無にかかわらず,受精率および妊娠率に明白な影響を受けない.この方法で生まれた子供には先天性欠損のリスクは高くならない.

SCOSの男性は睾丸に胚細胞がないため,精巣内精子採取は選択肢とならない.

研究中の治療法

種々の疾患に対する臨床試験については,ClinicalTrials.gov .を参照のこと

注:本疾患に関する臨床試験は行われていない.

その他

SCOSの男性は通常,AZFBおよびAZFA欠失があるため,人工授精のために精巣精子採取を実施するのは無効である.しかし,AZFC欠失の男性は妊娠を成立させている[Krausz et al 1999, Stouffs et al 2005, Reyes-Vallejo et al 2006].


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

Y染色体遺伝はY連鎖遺伝形式である.

患者家族のリスク

発端者の両親 /父親

  • Y染色体長腕のAZF領域に欠失がある男性は不妊であるので,欠失は通常は新生突然変異であり,発端者の父には変異は存在しない.
  • 家族内で同じY染色体を有する場合,不妊になる人とならない人が稀にいる.こうした例では,AZF領域の欠失した男性から不妊症の男児が生まれることがある.
  • 理論的に,AZF領域の欠失にたいしてモザイクを有することがあるが,このような報告はない.

発端者の同胞/兄弟 

  • 不妊の男性のY染色体欠失は通常新生突然変異であるため,発端者の兄弟のリスクは低い.しかし,稀ケースでは,家族内でY染色体の同じ欠失があるが,ある人は不妊となるが,他の人では不妊ではないということがある.

発端者の子

  • CSI(卵細胞質内精子注入法)によりAZF領域に欠失のある不妊男性から妊娠が成立している.
  • ICSIによりAZF領域に欠失のある不妊男性から妊娠が成立した場合,男の胎児は父親と同じ欠失を持ち,男性不妊のリスクが高い.しかし,胚細胞モザイクのある不妊患者がICSIを行った場合(こうした例の報告はない),欠失を持たない男の子も生まれうる.
  • Y染色体不妊の父親から生まれた女児の先天異常や不妊のリスクは通常と変わらない.

他の家族

その他の家族で Y染色体不妊のリスクが高くなることは考え難い.しかし,男性の親類(発端者の父方の叔父やその息子)にAZF領域の欠失が見られることもある.

遺伝カウンセリングに関連した問題

DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.将来,検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,患者のDNAの保存が考慮される.DNAバンキングを行っている研究所のリストは,image2を参照.

出生前診断

生殖補助技術(ART)を実施してY染色体不妊が男性を妊娠が成立した場合の出生前診断は,胎生15−18週に羊水穿刺で採取した胎児細胞または胎生10-12週に採取したCVS(絨毛膜標本採取)から調整したDNAを解析することで可能である. 検査では胎児の性別および/またはY染色体欠失の有無が判明する.また,出生前診断では,父方のY染色体再配列による染色体異常(例:偽二動原体Y染色体,環状Y染色体)のリスクのある妊娠に対して実施可能である( 45,Xモザイク).

注:在胎期間は最終月経の初日から計算または超音波で計測して求める.
Y染色体欠失の男性が生殖補助技術(ART)により妊娠が成立した場合着床前診断(PGD)が可能な場合がある.着床前診断を行っている施設に関しては image3を参照のこと.

注:GeneTests Laboratory Directoryの掲載施設で実施可能な臨床検査を載せることがGeneReviewsの方針である.ここで掲載されている検査は必ずしも著者や編集者や審査者の推奨を反映するものではない.

着床前診断

遺伝クリニック

遺伝専門医のいる遺伝クリニックは患者や家族に自然経過,治療,遺伝形式,患者家族の遺伝的発症リスクに関する情報を提供とするとともに,患者サイドに立った情報も提供する.GeneTests Clinic Directoryを参照のこと.

Consumer Resources では,この疾患について,疾患別の支援グループや複数疾患にまたがった支援グループが掲載されている.これらの組織は患者やその家族に情報,支援,他の患者との交流の場を提供する.

Y染色体不妊のように知的障害を伴わず,治療法も存在する疾患に対して出生前診断を求められることは通常ない.特に遺伝子検査が早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は,医療関係者と家族の間では出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない.多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが,この問題については注意深い検討が求められる.

訳注:一般にY染色体不妊に対して出生前診断の適応があるとは考えられておらず,日本では行われていない.


更新履歴

  1. GeneReview 著者 :Christine M Disteche , PhD.
    日本語訳者 :榊原嘉彦(信州大学医学部社会予防医学講座)
    GeneReview 最終更新日: 2002.10.31 日本語訳最終更新日: 2003.8.31.
  2. Gene Review著者: Christine M Disteche, PhD.
    日本語訳者: 吉村祐実(翻訳ボランティア),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
    Gene Review 最終更新日: 2007.3.19 日本語訳最終更新日: 2012.8.17.(in present)

原文 Y Chromosome Infertility

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