常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎
(Polycystic Kidney Disease, Autosomal Dominant)

[Synonyms:ADPKD]

Gene Reviews著者: Peter C Harris, PhD, Vicente E Torres, M.D.
日本語訳者: 関屋智子(金沢大学附属病院遺伝診療部) ,花岡一成(東京慈恵会医科大学第三病院総合診療内科),渡邉淳(金沢大学附属病院遺伝診療部・遺伝医療支援センター)

GeneReviews最終更新日: 2018.7.19  日本語訳最終更新日: 2022.9.21

原文 Polycystic Kidney Disease, Autosomal Dominant


要約

疾患の特徴 

常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎(ADPKD)は一般的に,両側性の腎嚢胞,肝嚢胞,脳動脈瘤の発症リスクの増加を特徴とする遅発性多臓器疾患である.その他の症状として,膵嚢胞,精嚢嚢胞,くも膜嚢胞,大動脈弓拡張,胸部大動脈解離,僧帽弁逸脱,腹壁ヘルニアがある.腎症状には高血圧,腎の痛み,腎不全がある.約50%のADPKD患者は60歳までに末期腎不全状態(ESRD)となる.肝嚢胞の有病率は年齢とともに増加し,時に重度の多発性肝嚢胞(PLD)に至ることもある.脳動脈瘤の有病率は一般集団の5倍であり,動脈瘤またはくも膜下出血の家族歴のある方は,さらに有病率が高い.腎や他臓器の病変の重症度は同一家系内でも患者ごとに差がある.

診断・検査 

ADPKDの診断は,腎画像診断の年齢別基準を満たし,第一度近親内の血縁者にADPKD患者がいるあるいはPKD1PKD2GANABDNAJB11遺伝子に病的変異をヘテロ接合体で同定された罹患者に確定される.

臨床的マネジメント 

症状に対する治療
バソプレシンV2受容体拮抗薬(例:トルバプタン)が疾患の進行を遅らせる.高血圧の治療にはACE阻害薬またはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の投与や食事療法がある.側腹部痛に対する保存的治療として非オピオイド鎮痛剤,三環系抗うつ剤,麻薬性鎮痛剤,内臓神経ブロック,腎の脱神経療法などがある.より積極的な治療としては腎嚢胞穿刺吸引療法,硬化による嚢胞減圧術,腹腔鏡や開腹術による嚢胞摘出術,腎臓除神経や腎臓摘出手術がある.嚢胞内出血や肉眼的血尿は通常自然治癒する,腎結石に対してはADPKD以外の一般的な治療と同様である.嚢胞の感染症への治療は難しく難治性である.治療薬としてはトリメトプリム-サルファメトキサゾールやフルオノキノロン,クリンダマイシン,バンコマイシン,メトロニダゾールが選択される.悪性化の診断には疑いを高くする指標が必要となる.ESRDへの進行が緩やかであるADPKDにおいて高血圧や高脂血症のコントロール,蛋白摂取の制限,アシドーシスのコントロール,高リン血症の予防などが治療の目的となる.PLDのほとんどの方は無症状であり治療を要しないが,外科的切除や肝移植が必要となる重症の方が数少ないがいる.破裂もしくは症状を有する脳動脈瘤に対する第一の治療は破裂した動脈瘤の外科的クリッピングであるが,取り外し可能なプラチナコイルによる血管内治療も適応となる方もいる.大動脈弓部の直径が規定値を超えると,胸部大動脈置換術の適応となる.

二次症状の予防(病状に影響する可能性のある生活習慣および治療因子)
適切な血圧および尿浸透圧の維持,低浸透圧食の摂取(例えば,適度な塩分およびたんぱく質の摂取),適度な水分摂取による水分補給の増加,炭酸水素ナトリウム≧22mEq/Lの維持,食事による適度なリン摂取),BMI正常域の維持を目指した適度なカロリー摂取量,負荷の少ない運動,脂質のコントロール,トルバプタン療法.

定期的診察

  • 小児期からの早期血圧モニタリング
  • ハイリスク群の患者には,脳動脈瘤のMRIスクリーニング
  • 心雑音のある,あるいは家族歴で第一度近親内の血縁者に胸部大動脈解離がある方には心エコー検査のスクリーニング.

避けるべき薬剤/状況:
腎毒性薬の長期投与,カフェインの多飲,PLD患者へのエストロゲンや黄体ホルモンの使用,喫煙,肥満.

リスクのある血縁者の評価:
リスクのある成人血縁者では検査により,合併症や関連疾患の早期発見と治療が可能となる.

妊娠中の管理:
ADPKDを有する妊婦においては,高血圧,尿路感染症,羊水過少症,妊娠高血圧症候群の発症に注意が必要である.
胎児においては,子宮内胎児発育遅延,羊水過少症,胎児の腎臓異常(嚢胞,腎臓肥大,非定型的なエコー像)に注意すべきである.

遺伝カウンセリング 

ADPKDは常染色体優性遺伝形式で継承される.ADPKD患者の約95%は片親が罹患し,一方少なくとも10%の患者は新生突然変異による.患者の子はそれぞれ50%の確率で病的変異を受け継ぐ.家系内で変異がすでに明らかとなっていれば,ADPKDのリスクの高い妊娠中の出生前検査や着床前診断が可能である. 訳注:日本では本症に対する出生前診断,着床前診断は行われていない.

訳注:日本では『エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン2020』が作成されています.


診断

常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎(ADPKD)の診断基準については,KDIGO会議の要約[Chapman et al 2015]で論じられている.

臨床診断

常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎(ADPKD)の診断基準については,KDIGO会議の要約[Chapman et al 2015]で論じられている.

示唆すべき所見

示唆すべき所見 以下のような方において,ADPKDを疑うべきである.

  • 両側性に複数の腎嚢胞があり,別の腎嚢胞性疾患を示唆する症状がない
  • 他臓器の嚢胞:特に肝臓,その他に精囊,膵臓,くも膜
  • 身体的所見で腎臓や肝臓の肥大
  • 35歳未満の高血圧症
  • 脳動脈瘤
  • ADPKDの家族歴

確定診断

確定診断 ADPKDは,以下のいずれかが該当した場合に確定診断する.

  • 超音波所見で年齢別基準を満たし,第一度近親内の血縁者にADPKD患者を有する
  • MRI所見で年齢別基準を満たし,第一度近親内の血縁者にADPKD患者を有する
  • 表3に記載されたいずれかの遺伝子に病的変異をヘテロ接合体で同定する

超音波所見による年齢に合わせた診断基準

  • 15~39歳では,(片側性または両側性の)3つ以上の腎嚢胞の存在
  • 40~59歳では,各腎臓に2つ以上の嚢胞がある場合
  • ADPKDのリスクを50%持つ乳児/小児において,超音波上肉眼で明らかな嚢胞を認めないが腎腫大を認める

注:(1)これらの基準の陽性的中率は,(a)PKD1またはPKD2遺伝子の病的変異の有無および(b)初期評価時の個人の年齢に関係なく,100%と記載されている(表1参照) .PKD1またはPKD2の病的変異以外にも腎嚢胞の遺伝的要因があることに注意する(表3,表5)
(2)感度が低い(表1;81.7%~95.5%),特にPKD2(69.5%~94.9%).低感度はPKD1の非短縮型病的変異(ポリシスチン-1タンパク質は短縮しない)を有する家系や,軽度の嚢胞性病変と典型的に関連するGANABまたはDNAJB11の病的変異を有する家系に当てはまる傾向がある(表(3)これらの家系では,明らかに患者の多くが診断されていない可能性があり,除外診断が重要となる際には問題となるかもしれない(除外診断を参照).

表1.家族歴からADPKDのリスクが50%の患者におけるADPKDの診断のための超音波診断基準

年齢 PKD1 PKD2 ADPKD遺伝子型が不明
  15-30歳 嚢胞※が3個以上
陽性的中率 = 100%
感度 = 94.3%
嚢胞※が3 個以上 
陽性的中率 = 100%
感度= 69.5%
嚢胞※が3個以上
陽性的中率 = 100%
感度= 81.7%
  30-39歳 嚢胞※が3 個以上 
陽性的中率 = 100%
感度= 96.6%
嚢胞※が3個以上
陽性的中率 = 100%
感度= 94.9%
嚢胞※が3個以上
陽性的中率 = 100%
感度= 95.5%
  40-59歳 嚢胞が両腎に各々2個以上
陽性的中率 = 100%
感度= 92.6%
嚢胞が両腎に各々2個以上
陽性的中率 = 100%
感度= 88.8%
嚢胞が両腎に各々2個以上
陽性的中率 = 100%
感度= 90%

※(片腎もしくは両腎),出典 Pei et al [2009].  全ての値は予測値である.

年齢別MRI基準は,超音波検査結果が不明確な場合に特に有用である[Pei et al 2015].16-40歳で第一度近親内の血縁者にADPKD患者を有することで50%のリスクがある方では,10個以上の嚢胞があればADPKDの診断には十分である.
注)これらの基準は,1-2mm程度の小さな嚢胞を検出できる最新の高解像度超音波スキャナーを使用する際にも適切であろう.

除外診断

リスクのある15~30歳(陰性的中率[NPV] =99.1%)またはそれ以上(陰性的中率=100%)の方で,超音波検査で腎嚢胞を認めない場合,PKD1の短縮型機能喪失変異(ポリシスチン-1短小化タンパクを生じる)に起因するADPKDは事実上除外診断される.しかし,ADPKDのリスクがある40歳未満の若年者に腎嚢胞がないからといって,不完全浸透型もあり,またPKD1非短縮型病的変異あるいは軽症ADPKDに関連する他の遺伝子の病的変異に起因することもあり,診断が除外されるわけではない.

通常の腎超音波検査では,リスクの高い30歳未満の若年者においてADPKDを確実に除外することはできない(表2参照).
リスクのある血縁者を生体腎移植ドナーの候補から除外するために使用される超音波検査基準を表2に示す.

表2. 腎臓ドナーからADPKDのリスクが50%の方を除外する超音波診断基準

年齢 PKD1 PKD2 ADPKD遺伝子型が不明
15-30歳 嚢胞が1個以上
陰性的中率=99.1%
特異度  =97.6%
嚢胞が1個以上
陰性的中率=83.5%
特異度  =96.6%
嚢胞が1個以上
陰性的中率=90.8%
特異度  =97%
30-39歳 嚢胞が1個以上
陰性的中率=100%
特異度  =96%
嚢胞が1個以上
陰性的中率=96.8%
特異度  =93.8%
嚢胞が1個以上
陰的適中率=98.3%
特異度  =94.8%
40-59歳 嚢胞が2個以上
陰性的中率=100%
特異度  =98.4%
嚢胞が2個以上
陰性的中率=100%
特異度  =97.8%
嚢胞が2個以上
陰性的中率=100%
特異度  =98.2%

Derived from Pei et al [2009].  全ての値は予測値である.

分子遺伝学的検査

検査方法には,多遺伝子パネルまたは同時遺伝子検査がある.

選択肢1(推奨)

PKD1,PKD2,GANAB,DNAJB11,および関連する他の遺伝子を含む多遺伝子パネル(鑑別診断を参照)は,最も合理的なコストで病態の遺伝的原因を同定する可能性が高いが,一方で意義不明変異や表現型を説明できない病的変異が同定される限界がある.

注:

  1. 次世代シークエンシングを用いた多遺伝子パネルは,高度に相同性の高い偽遺伝子がいくつかあり複雑化となるPKD1遺伝子において病的変異の同定を最大化になるように慎重に設計されるべきである[Trujillano et al 2014, Eisenberger et al 2015].
  2. パネルに含まれる遺伝子および各遺伝子に使用される検査の診断感度は検査室によって異なり,時間の経過とともに変化する可能性がある.
  3. 多遺伝子パネルの中には,本GeneReviewで論じられている以外の病態に関連しない遺伝子が含まれている場合がある.
  4. 検査室によっては,パネルのオプションとして,臨床医が指定した遺伝子を含むパネル及び/または表現型に焦点をあてたエキソーム解析を含んでいる.
  5. パネルで使用される方法は,塩基配列解析,欠失/重複解析,および/または他の塩基配列解析ではない検査を含む. 多遺伝子パネルはこちらを参照. 遺伝子検査を検討される臨床医はこちらを参照

選択肢2

同時遺伝子検査 塩基配列解析および欠失/重複解析をPKD1遺伝子およびPKD2遺伝子で同時に行う. 注:塩基配列解析は,PKD1遺伝子では相同性の高い偽遺伝子がいくつかあり複雑なので,PKD1遺伝子で病的変異の同定を最大となるように設計されるべきである[Trujillano et al 2014, Eisenberger et al 2015].

表3  ADPKDにおける遺伝学的検査

遺伝子1 ADPKDのうちこの遺伝子の病的変異に起因する割合 手法による病的変異2の検出可能な割合
塩基配列解析3 遺伝子欠失・重複解析4
PKD1 ~78% ~97%5 ~3%
PKD2 ~15% ~97%5 ~3%
GANAB ~0.3% 7/7 不明,報告なし6
DNAJB11 ~0.1% 7/7 不明,報告なし6
不明 ~7%
  1. 表A(遺伝子ならびに染色体遺伝子座とタンパク名のデータベース)参照
  2. アレル変異の情報に関する「分子遺伝学」の項を参照
  3. 塩基配列解析の結果は「良性」,「おそらく良性」,「病的意義不明」,「おそらく病原性」,「病原性」と解釈される.病的変異としては,小さな遺伝子内欠失/挿入およびミスセンス変異,ナンセンス変異およびスプライス部位変異が挙げられる.通常,エクソンおよび全遺伝子欠失/重複は検出されない.塩基配列解析の解釈について考慮すべき事項は,こちらを参照
  4. 遺伝子欠失/重複解析は,遺伝子内欠失または重複を検出する.1エクソンの欠失や重複を検出する方法として,定量PCR法,ロングPCR法,MLPA法,標的マイクロアレイ法など,様々な方法がある.PKD1はセグメントとして重複しているため,MLPA法[Consugar et al 2008, Cornec-Le-Gall et al 2013]またはこの遺伝子/染色体セグメントを含む染色体マイクロアレイ(CMA)のような大きな再構成も検出する特別な方法を必要とすることがある.
  5. Rossetti et al [2007],Audrézet et al [2012],Cornec-Le-Gall et al [2016],Heyer et al [2016]
  6. 遺伝子欠失・重複解析の検出率のデータはない.

臨床像

自然経過

腎病変

ADPKDの患者は全員が腎嚢胞を生じるが,腎症状や他臓器の症状の重症度は同一家系内であっても個人差が大きい.

予後不良因子

30歳前の診断[Gabow 1996];30歳前に認めた最初の血尿;35歳前の高血圧の発症[Cornec-Le-Gall et al 2016];高脂血症およびBMI高値 [Nowak et al 2018];尿中ナトリウム高値[Torres et al 2017a].腎血流量の低下;血清HDLコレステロールの低値[Torres et al 2011a];大きな総腎容積(TKV)[Chapman et al 2012,Irazabal et al 2015];およびPKD1短縮型機能喪失変異の存在[Cornec-Le-Gall et al 2013,Heyer et al 2016].末期腎不全に至る率は女性患者では男性患者に比べて低いことから,ADPKDは男性がより重症となることが示唆されている.フランスのGenkystコホート解析からPKD1陽性ADPKDは,男性の方が女性よりも腎生存率が低いことが示された(ESRDになる平均年齢は男性58.1歳,女性59.5歳)[Cornec-Le-Gall et al 2013].Heyerら[2016]は,HALT PKD研究集団全体およびPKD1陽性ADPKD患者では,女性に比べて男性で推定糸球体濾過率(eGFR)が低く,身長調整済み総腎容積(htTKV)も大きいことを示した.同様にPKD2陽性 ADPKD の男性では,女性に比較しeGFR は低かった.PKD1短縮型機能喪失変異の男性,35歳前に高血圧の発症,および/または35歳前に泌尿器系症状を有する男性が最も重症であった[Cornec-Le-Gall et al 2016].

嚢胞の発症と経過

ADPKDの腎症状には,腎機能障害,高血圧,腎痛,腎不全がある.これらの症状は,腎嚢胞の発症と肥大に直接関連している.多嚢胞性腎疾患の進行を評価する画像化研究コンソーシアム(CRISP)により非高窒素血症の患者241人を毎年MRI検査で前向きに追跡したところ,総腎容積と嚢胞の体積が指数関数的に増加した.ベースラインでの総腎容積は1,060±642mLであったが,3年間に平均して204mL(年あたり5.3%)増大した.ベースラインの総腎容積はその後の腎容積の増加率,すなわち腎が大きくなれば腎容積の拡大速度も速くなると予測された.ベースライン総腎容積が1,500mL以上の人では糸球体濾過量(GFR)の低下が観察された[Grantham et al 2006].
腎臓の大きさはその後の腎機能低下の強い予測因子であり,総腎容積が600 mL/mは8年以内に腎不全を発症する高い予測値である[Chapman et al 2012].また年齢調整した総腎容積を総腎容積/年齢に基づいて 5 つに分類すると,腎機能と末期腎不全を強く予測することも示されている[Chapman et al. htTKV(腎臓の寸法と楕円体容積計算法を用いて推算できる),年齢,推定糸球体濾過量を含むモデル(オンラインアプリで入手可能)は,将来の推定糸球体濾過量を推定する上で良好な予測値を有する[Irazabal et al 2015].
PKD1陽性ADPKD患者では,PKD2陽性ADPKD患者に比べて腎臓が著しく大きく,嚢胞の数も多い傾向がある.しかし,嚢胞の増加率に差はないため,PKD1陽性ADPKD患者に重症度が高いのは,嚢胞の成長が速いからではなく,嚢胞の発生が早いからであることが示唆されている [Harris et al 2006].
ときに,ADPKDのリスクのある胎児に,腎嚢胞の有無にかかわらず,エコーにて肥大した腎臓が出生前から検出される[Zerres et al 1993].このような方は,少なくとも小児期には大きい腎臓の体積は減少し,腎機能の低下も見られないことから,予想以上に良好である経過が多い.しかし,ESRDへは,一般的な成人発症よりも早く進む[Fick et al 1993, Zerres et al 1993].非常に早期に発症したADPKD患者において両アレルにPKD1またはPKD2の病的変異を検出した症例が報告されている(遺伝子型と表現型の関連 を参照)[Cornec-Le-Gall et al 2018].

機能障害
尿濃縮能とアンモニア排泄能の低下はADPKD患者に早期に起こる.代謝ストレス(不適切な食事摂取など)の存在下でアンモニアの尿中排泄量が低下すると,尿が酸性に傾き低クエン酸尿となり尿酸結石やシュウ酸カルシウム結石の形成を促す現象はADPKD患者で起こりやすい.
尿濃縮障害と血清バソプレシン濃度の上昇が嚢胞形成に関与する可能性が示唆されている[Nagao et al 2006].また,これは小児および若年成人に見られる糸球体過剰濾過に繋がり,高血圧の発症,および慢性腎臓病の進行にも関与している可能性がある[Torres 2005].
血清クレアチニンの上昇でみられる腎機能の低下は,一般的には疾患の進行した時期,通常は末期腎不全の約10年前にしか認められない.
しかし,腎機能が低下し始めると,糸球体濾過量は急速に低下することが観察されている.(~4~6mL/分/年)[Klahr et al 1995].
腎疾患の重症度は,腎機能低下の時期と速度に影響を及ぼす可能性がある.
もう一つの初期の機能障害は腎血流量の低下であり,これは若年者(収縮期血圧および拡張期血圧がまだ正常な時)に検出され,高血圧の発症に先行している[Torres et al 2007b].

高血圧
高血圧は糸球体濾過量が低下する以前にあらわれ,以下のような特徴を有する.

  • 腎血管抵抗の上昇と濾過率の上昇
  • 末梢血レニン活性は正常または上昇
  • 血圧-ナトリウム利尿の関連の再設定
  • 食塩感受性
  • 細胞外液量,血漿量,心拍出量は正常もしくは増加
  • アンギオテンシン変換酵素阻害薬により腎血流動態やナトリウム動態が部分的に改善

高血圧は,ADPKD患者において発症時からかなり後になって診断されることが多い.小児または若年成人の外来血圧を24時間モニタリングすると,血圧の上昇,夜間血圧の降圧の減弱,運動時の血圧反応の増強が目立つになることがあり,左室肥大および拡張機能障害を伴うことがある[Seeman et al 2003].ADPKDのリスクがある小児の血圧のモニタリングが推奨されている[Massella et al 2018].
心血管疾患は主な死因であるため,ADPKDにおける高血圧の早期発見と治療が重要である.
高血圧が制御されていないと,以下のリスクが高まる.

  • 蛋白尿,血尿,および腎機能の早期低下
  • 心臓弁膜症や動脈瘤による罹患率と死亡率
  • 妊娠中の胎児および母体の合併症

腎の痛み 疼痛はADPKD患者でよくみられる症状である.原因としては嚢胞内出血,腎結石,嚢胞の感染,そして頻度は低いが腫瘍などがある.不快感(軽度の膨満感から激痛に至るまで程度はさまざま)は腎臓の肥大や嚢胞によるねじれによっても起きる.肉眼的血尿は嚢胞内出血や腎結石に伴って生じることも,これらを伴わずに独立して生じることもある.凝血塊の排泄も痛みの原因となる.嚢胞内出血は発熱を伴うことがあり,これはおそらく嚢胞内感染に起因する.多くの場合痛みは自制内で2-7日以内に軽快する.まれには後腹膜出血によって痛みを生じ,重症化し輸血を要することがある.

腎結石
ADPKD患者における腎結石の有病率は約20%である.結石の大部分は尿酸とシュウ酸カルシウムで構成されている.尿停滞は腎構造の破壊や代謝因子に起因する二次的なものと考えられ,結石形成に関与する.
ADPKDにおいて腎結石を誘発する因子としては,アンモニア排泄の低下,尿の酸性化,尿中クエン酸濃度の低下が挙げられる.しかし,これらの因子は,腎結石の既往歴のあるADPKD患者と腎結石の既往歴のないADPKD患者では,同じ頻度で発生している[Nishiura et al 2009].

尿路感染,嚢胞感染
過去においてはADPKD患者における尿路感染症の頻度は過大評価されていた.これは無菌性膿尿が頻繁に起こるためである.一般集団と同様,男性患者に比べて女性患者のほうが尿路感染症の頻度は高く,起炎菌はたいていの場合大腸菌や他の腸内細菌である.膀胱からの逆行性感染は腎盂腎炎や嚢胞感染を引き起こす.腎嚢胞感染症は,ADPKD患者の入院の約9%を占めている[Sallée et al 2009].

その他
重度の腎肥大は下大静脈の圧迫や胃流出路の閉塞(主に右腎嚢胞によって生じる)などの局所構造の圧迫に起因する合併症を引き起こす.

腎不全
約50%のADPKD患者は60歳までに末期腎不全にいたる.腎機能低下の機序として,拡張する嚢胞による正常な腎実質の圧迫や血管硬化,間質性炎症および線維化,尿細管上皮細胞のアポトーシスが原因と考えられる.

腎外病変

多発性肝嚢胞
多発性肝嚢胞はADPKDにおいて最も高頻度に見られる腎外病変である.肝嚢胞は小児では稀である.肝嚢胞の頻度は年齢とともに増加し,超音波検査やCT検査では過小評価されている可能性がある.CRISP試験のMRIによる有病率は,15~24歳で58%,25~34歳で85%,35~46歳で94%である [Bae et al 2006].多発性肝嚢胞は女性のほうが早期に発症し,複数回の分娩を経験している女性のほうがより重症化する.閉経後にエストロゲンの補充療法を受けた女性では肝嚢胞の増大がみられ,肝嚢胞の進展にエストロゲンが重要な関与をしていると推測される.
HALT PKD研究におけるADPKD患者534人の肝体積および肝嚢胞体積の解析は,生活の質の低下に加え,実質体積の増加,多発性肝嚢胞の重症度と生化学的および血液学的特徴との間に相関を示した[Hogan et al 2015].身長調整した総肝体積が1.8リットルと定義された重症多発性肝嚢胞患者の解析では, PKD1短縮型機能喪失変異, PKD1非短縮型病的変異,およびPKD2病的変異を有する個体間で頻度に差は認められず,他の因子が多発性肝嚢胞の重症度に主に関与していることが示唆された[Chebib et al 2016].この研究では,閉経後の女性では重度の多発性肝嚢胞がしばしば軽症化することも示された.

肝嚢胞は通常無症状で肝不全をきたすことはない.症状が現れる場合は嚢胞による占拠性の影響や合併症の進行,あるいはまれな併発病変による.占拠性の影響として腹部膨満や腹痛,早期満腹感,呼吸困難,腰背部痛などがみられる.肝嚢胞はまた下大静脈や肝静脈,胆管を圧迫することもある[Torres 2007].
肝嚢胞上皮は,消化管癌の腫瘍マーカーである炭水化物抗原19-9(CA19-9)を産生・分泌する.CA19-9の濃度は,多発性肝嚢胞患者の血清中で上昇し,肝嚢液中で著しく上昇する.血清中のCA19-9濃度は多嚢胞性肝容積と相関している. [Waanders et al 2009Kanaan et al 2010].

多発性肝嚢胞の合併症としては嚢胞内出血,感染,破裂がある.嚢胞内出血は発熱をきたし,胆嚢炎や嚢胞感染と見誤る.嚢胞感染は腸内細菌による単一菌感染が原因である. 局所痛,圧痛,発熱,白血球増加,赤血球血沈速度の上昇,アルカリフォスファターゼおよびCA19-9の上昇を伴う.しかし,急性胆管炎や憩室炎のような腹痛や発熱を引き起こす他の疾患でもみられる所見である. CTやMRIは嚢胞感染の診断に有用であるが,特異度は高くない.CT検査では,以下のことが感染と関連している:嚢胞内の液面形成,嚢胞壁の肥厚,嚢胞内ガス気泡,不均一高密度.白血球分画はより特異的であるが,いつも確実な結果を得るとは限らない.18F-FDG PETは,感染した嚢胞の診断に最も感度の高い検査法である[Bleeker-Rovers et al.2003].肝嚢胞の破裂は急激な腹痛と腹水を生じる可能性がある.

他の肝病変 

  • 胆管拡張は,その他の肝疾患に関連している可能性がある.
  • 胆管拡張は胆管炎の既往に付随する.
  • 先天性肝線維症はADPKD患者にはきわめてまれである.
  • ADPKD患者における胆管癌の合併頻度は低い.
  • ファーター膨大部(乳頭膨大部)の腺腫は稀である.

膵病変 

  • 膵嚢胞はADPKD患者の約8%に生じる.これらはフォンヒッペル・リンドウ病で見られるものよりは軽度である.(表5参照) ほとんどの場合無症状で,再発性の膵炎を伴うことはまれである. [Başar et al 2006].
  • 膵管内乳頭粘液性腫瘍は頻度が増加しているが,ADPKDにおける有病率や予後は不明である[Naitoh et al 2005].
  • ADPKDと膵がんの関連性についての報告もあるが,これは二つの疾患の偶然の合併と思われる.

他の臓器の嚢胞

  • 精嚢嚢胞は,男性の40%に存在するが,不妊の原因となることは稀である.精子の運動性異常はADPKDの男性不妊の原因の一つである [Torra et al 2008].
  • 患者の8%にみられるくも膜嚢胞[Danaci et al 1998]は,通常は無症状であるが,硬膜下血腫のリスクを高める可能性がある [Wijdicks et al 2000].
  • 脊髄髄膜憩室は頻度が高くなることがあり,患者は脳脊髄液漏出による二次的な低髄圧症を呈することがある [Schievink & Torres 1997].
  • 卵巣嚢腫はADPKDとは関連していない [Stamm et al 1999, Heinonen et al 2002].

血管および心病変
ADPKD患者において最も重要な嚢胞以外の病変には脳動脈瘤や他の動脈瘤,そしてよりまれであるがドリコエクタジア(血管の延長・彎曲),大動脈弓の拡張,胸部大動脈や頭頸部動脈の解離,心弁膜異常,冠動脈瘤がある[Pirson et al 2002].ADPKD家系における胸部大動脈解離の集積が証明されている.

脳動脈瘤はADPKD患者の約10%に生じる.脳動脈瘤やくも膜下出血の家族歴がある患者ではこれらの家族歴がない患者に比べてその頻度が高い(22% vs 6%).脳動脈瘤の多くは無症状である.脳神経麻痺や痙攣といった局所症状は拡大した動脈瘤による局所圧迫が原因である.

ADPKD患者における脳動脈瘤破裂時の平均年齢は一般集団よりも若い(39歳 vs 51歳).

脳動脈瘤破裂の危険性は他部位での破裂の既往があるかどうかによる[International Study of Unruptured Intracranial Aneurysms Investigators 1998].他部位での破裂の既往がない場合,破裂のリスクは以下の通りである.

-直径10ミリ未満の動脈瘤が破裂する危険性は年間0.05%
-直径10-24ミリでは年間1%
-直径25ミリ以上では年間6%

過去に他部位での破裂の既往がある場合には,破裂の危険性は動脈瘤の大きさに関係なく年間0.5-1%である.
症状を伴う動脈瘤の破裂の危険性は高く,年間約4%に達する.
動脈瘤の破裂は3か月以内に35-55%の重度の臨床症状や死亡をきたす危険性がある[Inagawa 2001].動脈瘤破裂時は大多数の患者では腎機能は正常で,30%は正常血圧である.
脳動脈瘤を伴うADPKD患者の追跡調査によれば,過去に臨床症状を伴った患者では,新たな動脈瘤の出現や既存の動脈瘤の拡大について中程度のリスクがあり,スクリーニングで発見された無症候性の動脈瘤の拡大のリスクは低かった[Belz et al 2003,Gibbs et al 2004,Irazabal et al 2011].

ADPKD患者では,脳血管造影後の血管痙攣や一過性の虚血性合併症のリスクが高くなる可能性がある.また,アドレナリン刺激による血管収縮と動脈壁のリモデリングが亢進した結果として,網膜中心動脈および静脈閉塞のリスクも高まる可能性がある[Qian et al 2007b].

僧帽弁逸脱はADPKD患者において最も頻度の高い弁膜異常で,心エコー上25%の患者に認められる.
大動脈弁閉鎖不全は,大動脈弓の拡張に関連して生じることがある.これらの病変は時間の経過とともに進行することがあるが,弁置換術を必要とすることは稀である.検査で心雑音が検出されない限り,スクリーニング心エコー検査は適応とならない.

いくつかの研究で,正常血圧で腎機能が保たれている若いADPKD患者で左室実質の増加,左室拡張不全,内膜機能不全,中膜肥厚,運動時の血圧過剰上昇が認められるという報告がある.血圧が正常でもADPKD患者では両室の拡張不全があり早期から心臓が影響を受けていると考えられる[Martinez-Vea et al 2004, Oflaz et al 2005].こうした所見の臨床的意義はまだ明確ではない.

憩室性疾患
大腸憩室症および憩室炎は,ADPKDを伴う末期腎不全患者では,他の腎疾患を有する患者よりも一般的である [Sharp et al 1999,Lederman et al 2000].このリスクの増加が末期腎不全発症前のADPKD患者にまで及ぶかどうかは不明である. 結腸外憩室もまた頻度が高くなり,少数の患者では臨床的に重要な疾患となることがある [Kumar et al 2006].

モザイク

家系内での疾患発現のばらつきや,明らかな新生突然変異は,モザイクによるものである可能性がある.体細胞および/または生殖細胞系列のPKD1病的変異を有するADPKDの4つの家系が報告されている[Connor et al 2008,Consugar et al 2008,Reiterová et al 2013,Tan et al 2015].これらの家系における表現型は変化に富み,他のモザイクでない家系に類似したものから,はるかに軽症なものまであり,おそらく腎臓における病的変異のレベルを反映していると考えられる.家族歴のないADPKDを有する方を対象とした最近の研究では,2つの家系で生殖細胞モザイクが,1つの家系で体細胞モザイクが認められた[Iliuta et al 2017].

遺伝子と臨床像の関連

PKD1 の病的変異は,PKD2 の病的変異よりもADPKD診断時年齢および末期腎不全に至る平均年齢が早く,より重篤な疾患と関連している(PKD1 は 58.1 年,PKD2 は 79.7 年) [Hatebeboer et al 1999,Cornec-Le-Gall et al 2013].PKD1の完全浸透の病的変異を有する患者のほとんどは70歳までに腎不全に至る;PKD2の病的変異を有する患者の50%以上は,その年齢で十分な腎機能を有する.

GANAB 病的変異は通常,腎機能の低下を伴わない軽度の嚢胞性腎疾患を引き起こし,大多数は肝嚢胞を有する[Porath et al 2016].しかしながら,一部の患者は重度の肝嚢胞性疾患を有し,腎嚢胞がほとんどない常染色体優性多嚢胞性肝疾患(ADPLD)の症状を有する[Porath et al 2016,Besse et al 2017,Besse et al 2018].

DNAJB11 症状は非常に一貫しており,通常は腎肥大を伴わない小さな両側性の腎嚢胞が発生する.高齢者では,腎臓が線維化して腎不全を発症することが多く,59歳から89歳までの7人に末期腎不全が認められている[Cornec-Le-Gall et al 2018].腎肥大を伴わない腎不全は,常染色体優性遺伝性尿細管間質性腎疾患(ADTKD)のいくつかの特徴を示す.肝嚢胞を認めることもある.

遺伝子型と表現型の関連

PKD1 PKD1 短縮型機能喪失変異を有する患者の末期腎不全に至る平均年齢は55.6歳であるのに対し,PKD1非短縮型変異を有する患者では67.9歳であることから,インフレームなバリアントのかなりの割合が機能低下(すなわち,タンパク質の機能低下を起こす遺伝子機能の部分喪失である)となる可能性が高いことが示唆されている[Cornec-Le-Gall et al 2013, Hwang et al 2016].

より詳細な生物情報学(バイオインフォマティクス)的な解析により,PKD1非短縮型機能喪失変異を変異強度グループ(MSG)として重症,軽症グループの2つに分けた.オーソログ(訳注:異なる生物に存在する相同な機能をもった遺伝子)およびドメイン内のよく保存された部位でアミノ酸の非保存的置換(MSG2)は,推定糸球体濾過量および腎容積量の点でPKD1短縮型機能喪失変異と同様の重症となることが明らかになった[Heyer et al 2016].したがって,ミスセンスおよび他のインフレームとなる変化の約50%は完全浸透の病的変異である可能性が高い[Harris & Hopp 2013].一方,あまり保存されていない部位におけるより保存的な置換群(MSG3)は,推定糸球体濾過量および腎容積量の解析により機能低下となることが判明した.

家系研究では,低い重症度と関連している不完全浸透のPKD1非短縮型機能喪失変異が同定されている[Rossetti et al 2009, Pei et al 2012].その中でよく研究されたPKD1変異の1つであるp.Arg3277Cysは,ヘテロ接合体では数個の嚢胞のみか,疾患との関連を示さない[Rossetti et al 2009].これらの機能低下アレルはしばしばタンパク質機能の低下をもたらす.したがって,表現型は,機能低下アレルが単独で起こるか,他のPKD1および/またはPKD2病的変異との組み合わせで起こるかによる.(両アレルPKD1またはPKD2関連ADPKDを参照).

新生児期に発症するADPKDもまた,片親性ダイソミーによって生じたPKD2機能低下アレルのホモ接合に関連している[Losekoot et al 2012].

2遺伝子性のADPKD PKD1PKD2 の2遺伝子に病的変異を持つ症例が報告されている.ある家系の2人の患者は,PKD1PKD2の2遺伝子に病的変異を持つ2重ヘテロ接合体であり,ヘテロ接合体の血縁者よりも重度の腎疾患を発症した[Pei et al 2001].
早期発症のPKDは,PKD1HNF1Bの2遺伝子にヘテロ接合性の病的変異によって引き起こされる可能性が示唆されている(2遺伝子遺伝)[Bergmann et al 2011].HNF1Bの変異は常染色体優性尿路間質性腎疾患(ADTKD)と関連している(表5参照).

浸透率

ADPKDにおける浸透率は年齢と遺伝子型に依存する.高齢者における多発性両側性腎嚢胞の浸透率は100%に近い.しかし,この疾患は進行性であるため,小児期または若年成人期には,特にPKD1非短縮型病的変異またはPKD2GANAB,またはDNAJB11遺伝子に病的変異を有する患者では,嚢胞の数が少ないことが明らかになることがある.

命名

ADPKDという病名は成人型多発性腎嚢胞(APKD)に対しては用いられない.

頻度

ADPKDは致死性のある単一遺伝性疾患の中ではもっとも頻度の高いものである.出生時の有病率は約1,000分の1で,米国では約30万人が罹患している.


遺伝的に関連する(アレリックな)疾患

結節性硬化症を伴うPKDは,PKD1と隣接するTSC2の欠失により障害される隣接遺伝子症候群がある.隣接遺伝子症候群の方は,出生前もしくは新生児期に結節性硬化症および重度の多発性嚢

胞腎が認められる;モザイクを有する方は,より軽い症状を呈することがある.[Sampson et al 1997]


鑑別診断

PKDの家族歴がない場合や臨床像が典型的でない場合は,鑑別として良性単純性嚢胞(表4参照)や他の嚢胞性疾患の可能性を考慮するべきである. より小さな嚢胞(1~2mm)を検出する造影CTを用いた腎臓提供者候補の研究では,19歳から49歳までに直径2mm以上,5mm以上,10mm以上,20mm以上の嚢胞がそれぞれ39%,22%,7.9%,1.6%,50歳から75歳までに直径2mm以上,5mm以上,10mm以上,20mm以上の嚢胞がそれぞれ63%,43%,22%,7.8%,7.8%であった[Rule et al 2012].

4 未発症者の超音波検査による単純性腎嚢胞の有病率

年齢 単純性腎嚢胞1 両側性腎嚢胞2
15-29歳 0% --
30-49歳 1.7% 1%
50-69歳 11.5% 4%
70歳以上 22.1% 9%

Ravine et al [1993]

  1. 腎嚢胞1個以上
  2. 各腎臓に1個以上の嚢胞

表5にある病態は,ADPKDと混同することがある

表5.ADPKDの鑑別診断で考慮すべき疾患

疾患名 遺伝子 遺伝形式 臨床的特徴
ADPKDとの共通点 ADPKDとの相違点
常染色体優性尿路間質性腎疾患(ADTKD)
(若年発症成人型糖尿病5型)
HNF1B 常染色体優性 嚢胞性腎疾患
  • 糖尿病
  • 膵臓疾患
  • 肝酵素上昇
  • 低マグネシウム血症
  • 先天性腎・尿路異常
常染色体劣性多発性嚢胞腎
(ARPKD)
PKHD1 常染色体劣性 両側性腎嚢胞性疾患
  • 多くは新生児期に認める
  • 肺低形成症
  • 早期発症腎不全
  • 嚢胞というよりも肝線維症
  • 両側腎容積の経時的減少(増加ではなく)
常染色体優性多発性肝嚢胞
(ADPLD)
(OMIM PS174050)
ALG8
GANAB
LRP5
PRKCSH
SEC63
SEC61B
常染色体優性
  • 肝嚢胞
  • 時折,腎嚢胞を認める
  • 主な症状が肝疾患であり,腎障害が非常に軽度である.
  • ADPKDとADPLDの間には,いずれかの疾患の原因となるGANAB病的変異が重複していることに注意.
常染色体優性尿細管間質性腎疾患,UMOD関連 UMOD 常染色体優性 腎嚢胞
  • 両側腎容積の増加を伴わない腎機能低下
  • 肝嚢胞がない
  • 痛風
常染色体優性尿細管間質性腎疾患,MUCI関連 MUC1 常染色体優性 腎嚢胞
  • 両側腎容積の増加を伴わない腎機能低下
  • 肝嚢胞がない
家族性若年性高尿酸血症性腎症4型
(OMIM 617056)
SEC61A1 常染色体優性 腎嚢胞
  • 両側腎容積の増加を伴わない腎機能低下
  • 肝嚢胞がない
結節性硬化症 TSC1
TSC2
常染色体優性 腎嚢胞
  • 腎血管筋脂肪腫
  • 皮膚と脳の症状
  • 心臓横紋筋腫
  • リンパ脈管筋腫症
フォンヒッペル・リンドウ病 VHL 常染色体優性 ・腎嚢胞
・膵嚢胞
  • 血管芽腫
  • 褐色細胞腫
  • 神経内分泌腫瘍
口顔指症候群1型 OFD1 X連鎖性 罹患した女性に腎嚢胞を認める
  • 小帯の過形成
  • 分葉舌
  • 口唇口蓋裂
  • 歯の位置異常
  • 広い鼻根や鼻翼低形成,頬骨低形成を伴う顔貌異常
  • X連鎖性遺伝;通常は,男性は胎内で致死的となる
腎症,動脈瘤,筋痙攣を伴う遺伝性血管障害(関連疾患 参照) COL4A1 常染色体優性 腎嚢胞
  • 血尿
  • 筋痙攣またはCPK(クレアチニンフォスフォキナーゼ)上昇
  • 網膜動脈蛇行
  • 脳小血管病
Hajdu-Cheney症候群 (OMIM 102500) NOTCH2 常染色体優性 腎皮質および腎髄質の嚢胞を伴う腎肥大
  • 低身長
  • 眼球突出,平坦な顔面中央部
  • 下顎低形成
  • 男性型多毛症
  • 末節骨の先端骨溶解
  • 頭蓋底陥入
限局性腎嚢胞 進行性ADPKDに強く類似した組織学的所見
  • 片側の腎の一部に嚢胞変性
  • 非進行性
  • 家族歴がない
後天性腎嚢胞 腎嚢胞 末期腎不全で嚢胞を生じる

1. Porath et al [2016], Besse et al [2017], Besse et al [2018]
Polycystic Kidney disease: OMIM Phenotypic Series 参照


臨床的マネジメント

最初の診断時に病態評価のために行う検査

常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎(ADPKD)と診断された患者の病態評価を確立するために,以下の評価を行うことが推奨される.

  • 腎超音波検査 (CT検査やMRI検査ができない場合)疾患の重症度を判断し,嚢胞の大きさや分布,腎臓のサイズの推定値を検出できる.
  • 造影剤を使用した場合と使用しない場合の腹部のCTまたはMRI検査

より感度が高く,疾患の重症度を定量化することができるため,腎臓や肝臓の嚢胞性疾患の範囲を算定し予後を推定するのに役立つ. CTは結石や実質の石灰化も検出できるがMRIではこれらを検出できない.CTもしくはMRI血管造影(MRA)は腎動脈の描出が必要な時に行う.ヨード造影剤の投与禁忌の方にはMRIを使用できる.

  • 高血圧を検出するための血圧測定 白衣高血圧(病院で測定する血圧は高いが,院外で測定すると正常)が疑われる場合外来での血圧モニタリングが有効である.
  • 血清脂質の測定 高脂血症はADPKDを含む進行性腎疾患の危険因子である.
  • 尿検査 重度の腎嚢胞性疾患における微小アルブミン尿や蛋白尿は疾患の進行の可能性が高くなることを示す所見であり,血圧の厳格なコントロールが必要となる.
  • 心エコー検査 心臓弁膜症,僧帽弁逸脱,または先天性心疾患に起因する可能性のある心雑音または収縮期クリックを有する人

心雑音や収縮期クリックは僧帽弁逸脱や先天性心奇形などの弁膜症の存在を示唆する.

  • 心エコー検査もしくは心MRI 胸部大動脈解離の家族歴があり,リスクが高い患者に対するスクリーニングとして行う.
  • 頭部MRAもしくはCT血管造影 脳動脈瘤の家族歴があり,リスクが高い患者に対するスクリーニングとして行う.脳動脈瘤の家族歴がない患者の脳動脈瘤のスクリーニングは推奨されない[Irazabal et al 2011].
  • 臨床遺伝専門医および/または遺伝カウンセラーとの相談

腎臓内科医が遺伝性疾患の専門家でない場合

症状に対する治療

ADPKD KDIGO会議で策定された治療ガイドラインは,Chapman et al [2015]にまとめられている.
ADPKDに対する現在の治療は,特定の治療法が利用可能になりつつあるが,治療目標は腎合併症および腎外合併症による罹患率および死亡率の減少に向けられている.

バソプレシンV2受容体拮抗薬
バソプレシンV2受容体を標的としたcAMPレベルの調節は,ネフロン癆,ARPKD,ADPKDの動物モデルにおいて,嚢胞の発生を劇的に抑制できることが研究で示されている[Gattone et al 2003, Torres et al 2004, Wang et al 2005, Wang et al 2008].バソプレシンV2受容体拮抗薬(トルバプタン)を用いた第II相非盲検臨床試験[東原ら2011]と第III相国際共同治験,二重盲検プラセボ対象ランダム化並行群間比較試験が終了している[Torres 2008, Torresら2011b, Torresら2012].
3年間にわたって実施された第III相試験では,腎機能は温存されているが腎臓の容積が大きい患者1,445人が対象となった.腎機能は温存されているが腎容積が大きい患者1,445人を対象とした第III相試験で,治療群の腎容積の増加率は,未治療群が5.5%/年であったのに対し,治療群では2.8%/年であった.また,トルバプタンの使用は,腎機能の低下が緩やかになることと関連していた.腎機能に関連した有害事象は治療群では少なかったが,水利尿症状,可逆的な肝酵素値の上昇がトルバプタン投与群の約5%の患者でみられた.これらの上昇は,肝不全のリスクが10%であることを示すHyの法則の基準を満たしていた

最近,1,370人の腎不全患者を対象としたトルバプタンの1年間のグローバル無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験が終了した[Torres et al 2017b].対象者は,推定糸球体濾過量が25~65mL/分/1.73m2の18~55歳,または推定糸球体濾濾過量が25~44mL/分/1.73m2の56~65歳のいずれかであった.推定糸球体濾過量の変化は,プラセボ群では-3.61 mL/分/1.73 m2であったのに対し,実薬群では-2.34 mL/min/1.73 m2であった(p<0.001).前述のように,肝酵素の上昇は治療対象者の約5%に認められたが,トルバプタンの休薬により上昇は改善した.Hyの法則の基準を満たした症例はなかったが,これは肝酵素のモニタリングがより頻繁に行われ,トルバプタンの投与がより早く中止されたためと考えられる.

トルバプタンは,日本,カナダ,欧州,米国でADPKD患者を対象とした臨床使用が承認されている.トルバプタンの投与を導くための様々なガイドラインが作成されており,末期腎不全を引き起こす可能性のある急性増悪の患者を選択することに焦点を当てている[Gansevoort et al 2016,Soroka et al 2017].急性増悪のADPKDを同定するために考慮される因子は,総腎容積/年齢,総腎容積の変化率,推定糸球体濾過量/年齢,推定糸球体濾過量の低下率,遺伝子型,および家族歴である.

高血圧
ADPKDにおける降圧剤の選択基準は定まっていない.ADPKD患者の高血圧の病態におけるレニン・アンジオテンシン系の役割から,腎機能が温存されている患者ではACE阻害剤やアンジオテンシンII受容体拮抗剤が他の降圧剤よりも有用性が高いかもしれない. ACE阻害剤,アンジオテンシンII受容体拮抗剤は腎血流を増やし,副作用が少なく,血管平滑筋増殖や動脈粥状硬化の進展を抑制する.

  • ACE阻害剤の投与がADPKD患者の微量アルブミン尿を軽快させることが示されているが,カルシウムチャネルブロッカーではこのようなデータはない.
  • 過去の非ランダム化研究では,利尿剤を併用しないACE阻害剤の投与は,利尿剤の投与に比べて,同じ血圧の患者群において糸球体濾過量の低下を遅らせ,蛋白尿の頻度を低下させた[Ecder & Schrier 2001].しかし,別の研究ではACE阻害剤はβ-阻害剤よりも優れた腎保護作用を示せなかった[van Dijk et al 2003].一方他の研究では,より厳格な血圧コントロールは左室重量を低下させたものの,腎保護作用は示さなかった[Schrier et al 2002].
  • 腎疾患におけるタンパク質制限と厳しい血圧目標を含む食事療法(MDRD)の効果を見た長期追跡研究では,厳しい血圧目標(平均血圧92mmHg未満)に無作為に割り当てられたADPKD患者は,通常の血圧目標(平均血圧107mmHg未満)に無作為に割り当てられた患者に比べて,末期腎不全およびESCD合併死亡が有意に少なかったことが示された.
  •  HALT PKD試験では,腎機能温存におけるACE阻害薬へのアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の追加の有益性は示されなかった[Torres et al 2014].しかしながら,同じ試験では,腎機能が温存された若年の患者において,標準的な目標血圧(120-130/70-80mmHg)と比較して血圧目標値(95-110/60-75mmHg)を低くすることは,腎容積の増加が遅くなることと関連していたが,eGFRによって測定される腎機能の低下には全体的な変化はなかった[Schrierら2014].

側腹部痛
感染や結石,腫瘍など,治療が必要な側腹部痛の原因を除外した後,保存的方法による疼痛管理が推奨される.

  • 非オピオイド系薬剤 好んで用いられるが,鎮痛剤と非ステロイド消炎鎮痛剤の併用のような,腎毒性のある薬剤の長期投与を避けるように注意する必要がある.
  • 三環系抗うつ剤 どのような慢性疼痛にも有効であり,安全に用いることができる.
  • 麻薬系鎮痛剤 長期に用いると身体的,心理的依存を招くので,急性発作の治療のために使うべきである.
  • 内臓神経ブロック 局所麻酔薬やステロイドを用いる局所麻酔薬の作用時間を超えて疼痛緩和をもたらすことがある.

保存的治療が奏功しない場合は嚢胞内容の吸引と硬化療法による嚢胞減圧術などが行われる.

  • 嚢胞内容吸引 超音波やCTガイド下に行われ放射線医によって行われる比較的容易な方法である.中央部に位置する嚢胞の吸引による合併症はより一般的であり,治療した嚢胞の数に比例する.嚢胞内容吸引は,嚢胞と痛みの因果関係を立証するのに役立つが,体液が再貯留するため,長期的な緩和が得られることは稀である.
  • 硬化療法 95%エタノールやミノサイクリンの酸性溶液などの硬化剤は,嚢胞液の再貯留を防ぐために一般的に使用される. 95%エタノールは非常に有効で,良性の腎嚢胞では90%の成功率が得られる.軽度の合併症としては顕微鏡的血尿,局所痛,一過性発熱,アルコールによる全身への影響などがある.気胸,腎周囲血腫,動静脈瘻,尿瘤,感染などの重篤な合併症はまれである.

疼痛の原因となる嚢胞が多発している例では,内視鏡的もしくは外科的な嚢胞摘出術(腰部切開もしくは側腹切開),腎除神経術,および(慢性腎不全患者においては)腎摘出術が有効である.

  • 外科的減圧術 80-90%の患者で1年間効であり, 62-77%では2年以上にわたって持続的な疼痛緩和が得られた.外科的治療が腎機能低下を促進するものでも,残存腎機能を温存するものでもない.
  • 内視鏡的開窓術 病変が限局している患者に対して短期的にも長期的にも外科的開窓術と同様の効果があり,開腹手術よりも術後の回復に要する期間が短く合併症が少ない.
  •  腎(交感)神経除神経術(腎神経焼灼術?)

胸腔鏡的アプローチによる腎神経除神経術は,1人の患者で成功しており[Chapuis et al 2004],経皮的経尿道カテーテルによる除神経は少数の患者で有効であった[Shetty et al 2013, Casteleijn et al 2014].

  • 内視鏡的および後腹膜鏡的腎摘出術 末期腎不全に至ったADPKD患者に対して行われた[Ubara et al 1999, Dunn et al 2000].
  • 内視鏡的腎摘出術 手術時間が短く合併症も少ないので通常の腎摘出術よりも好まれる[Lee & Clayman 2004].

嚢胞内出血と肉眼的血尿
嚢胞内出血や肉眼的血尿は自然に軽快し,保存的管理として安静,鎮痛剤,凝血塊による閉塞を防止するための適切な補液を行う.
まれに出血がより重度で被膜下や後腹膜の血腫を形成し,ヘマトクリットの低下や血行動態の不安定化を招くことがある.そのような場合には入院,輸血,CTや血管造影による検査が必要となる.非常に重度の出血や持続性の出血の場合には局所的動脈塞栓術が奏功する.もしこうした治療がうまくいかない時には出血をコントロールするために手術が必要となる.生命を脅かす血尿の治療におけるトラネキサム酸の効果を示唆する報告もある[Hulme & Wylie 2015].
肉眼的血尿が一週間以上持続する場合や,50歳以上の患者で初めて出現した場合には精査を要する.

腎結石
小さい尿酸結石は腎断層撮影では見逃されることがあり,検出にはCTが最も優れている.集合管内の局在を確認し,結石と実質内石灰化を区別するためにCTは造影剤投与の前後で撮影する必要がある.現在ではデュアルエネルギー CT(スペクトラル CT)により,尿酸石とカルシウム含有結石の鑑別が容易になった.排泄性尿路造影ではADPKD患者の15%に尿管拡張を認める.
ADPKD患者の腎結石の治療はADPKD患者以外に生じた腎結石の治療と同様である.

  • 尿酸結石,低クエン酸性シュウ酸カルシウム結石,遠位尿細管アシドーシスでは飲水の励行とクエン酸カリウム投与が選択される.
  • 尿酸結石の医学的溶解は,通常,飲水の励行,尿のアルカリ化(pHを6~6.5に維持する),およびアロプリノールの投与が行われる.
  • 体外衝撃波結石破砕術や経皮的結石破砕術はADPKD患者に対しても特に合併症をきたすことなく施行することができる.[Umbreit et al 2010].

嚢胞感染
嚢胞感染が疑われた場合は,画像検査による確認を行うべきである.

  • CTやMRIが感染をおこした嚢胞を高感度に描出してくれるが,所見は感染に特異的なものではない.
  • 核医学検査,特にインジウム標識白血球スキャンは有用であるが偽陽性や偽陰性の結果を得ることもある.
  • 18F-FDG PET は,感染した嚢胞を検出する最も感度の高い方法であるが,高価であり,容易に利用できず,保険会社から払い戻しを受けられない場合がある[Sallée et al 2009].

発熱,側腹部痛,画像所見などが揃っている場合は,抗生物質選択のために超音波もしくはCTのガイド下で嚢胞内容の吸引と細菌培養を行うべきである(特に血液培養と尿培養が陰性の場合).

嚢胞感染はしばしば治療に困難をきたす.感受性のある抗生物質による長期の治療をおこなっても軽快しないことも多い.これは抗生物質が嚢胞上皮を通過して嚢胞内に十分な濃度で到達することができないことによる.Gradient 嚢胞の嚢胞上皮は遠位尿細管の微小構造と機能を有している.抗生物質はtight junctionを貫通するが,ここは脂溶性物質のみを通過させる.Gradient でない 嚢胞はより一般的なものであるが,溶質は拡散によって通過できる.しかし動態解析研究の結果では,水溶性物質はいずれの嚢胞もゆっくりかつ不規則に貫通するため,嚢胞内の薬物濃度は不安定で信頼できない.脂溶性物質はいずれの嚢胞も同様にかつ安定して貫通し,酸性の嚢胞内液に到達するに十分な解離定数が得られる.
薬剤としてはトリメトプリム-サルファメトキサゾールやフルオノキノロンが選択される.クリンダマイシン,バンコマイシン,メトロニダゾールも嚢胞によく浸透する.クロファムフェニコールは難治性の病変に対して有効性が示されている.

もし適切な抗生剤治療を1-2週間行っても発熱が持続する場合は,感染した嚢胞に対して経皮的もしくは外科的ドレナージを行うべきである.閉塞,腎周囲膿瘍,あるいは結石のような併発病変がある場合はそれぞれ適切な対処が必要となる.併発病変がない場合には以前に有効だった治療を継続するが,感染症を完全に根治させるためには数ヶ月を要することもある.
生命表によるデータでは,ADPKDによって透析となった患者は他の理由で透析導入された患者に比べて予後は良い.女性の予後は明らかに男性より良好である.理由は明確ではないが,内因性エリスロポエチン産生が維持され,ヘモグロビン濃度が保たれることと関連しているかもしれない.まれではあるが,下大静脈が正中近くに存在する嚢胞によって圧迫されていると,透析中の血圧上昇をきたすことがある.腎の大きさにもかかわらずADPKD患者でも腹膜透析が行われる.ただしこれは鼠径ヘルニアや臍ヘルニアのリスクを高め,もし発症した場合は手術的修復が必要となる.

ある研究では,血栓塞栓症のリスクの増加が示唆されている [Jacquet et al 2011].ADPKD患者が移植後新規発症糖尿病を発症するリスクが高まるかどうかは疑問である[Ruderman et al 2012].

自己腎(固有腎)の腎摘出術は,感染性嚢胞の既往歴,頻回な出血,重度の高血圧,または重度の腎肥大を有する患者にのみ行われる.腎摘出術の最適な時期に関する見解は得られてない:腎摘出術を移植前に行うか,移植時に行うか,または移植後に行うかは,腎摘出術の適応やその他の考慮事項によってある程度異なる [Lucas et al 2010, Kirkman et al 2011].腹腔鏡下固有腎摘出術は,増えてきている[Lee & Clayman 2004].

多発性肝嚢胞
大多数の多発性肝嚢胞患者は無症状で治療を必要としない.臨床症状を有する例に対する治療としては,エストロゲン,カフェインを避け,症状軽減のためのH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤の投与がある.

  • 嚢胞吸引とアルコールやミノサイクリンによる硬化療法は単一あるいは少数の嚢胞によって症状が出ている場合に適応となる.硬化剤を注入する前に嚢胞内に造影剤を注入し,胆管との交通がないことを確認する.この治療法の奏功率(1回の治療で70%,追加治療を行うと90%)は嚢胞の大きさと逆相関する.
  • 肝嚢胞の内視鏡的開窓術はあまり頻繁には行われないが,40%の患者では一過性の腹水を生じ,効果はしばしば一過性である.したがって内視鏡的開窓術は非常に大きい嚢胞に対する経皮的硬化療法の代用として行われる.
  • 多くの中小サイズの嚢胞がある患者では,大きな嚢胞に対する治療は経皮的硬化療法と内視鏡的開窓術のいずれも有効ではない.多くの例では肝臓の一部分は冒されていないので,肝部分切除と嚢胞開窓術の併用が可能である.一過性の腹水や胆汁漏出などの合併症があり,周術期死亡率が2.5%に及ぶなど手術とその回復期の治療は難しいので,治療は特別な施設でのみ行われるべきである.重度の多発性肝嚢胞患者に対する手術は良好な長期的成績が得られ,場合によっては肝移植よりも望ましい.肝移植は肝実質が強く障害されて肝不全を生じているようなまれな患者に行われるべきである.
  • 重症多発性肝嚢胞患者は肝機能がほとんど正常であり,MELD(末期肝疾患モデル)スコアが低く,臓器移植には不利である.このグループの中でさらに選択された患者では,実質温存肝切除とそれに続く生体肝移植が代替手段となる可能性があった [Mekeel et al 2008].
  • 症状が強く手術が選択肢に上がらない場合には,選択的肝動脈塞栓術を検討することができる[Takei et al.2007]

脳動脈瘤
破裂したもしくは症状を呈する動脈瘤 外科的クリッピングが第一選択である.

無症状の動脈瘤 

  • 直径が5ミリメートル以下の動脈瘤やスクリーニングで見つかったものは最初のうちは年1回のスクリーニングで経過観察可能である.もし次第に大きくなってくる場合は手術が考慮される.
  • 直径6-9ミリメートルの動脈瘤に対する治療は議論のあるところである.
  • 直径10ミリメートル以上の未破裂動脈瘤は多くの場合外科的治療が行われる.

外科手術に対するリスクのある患者や手術が難しい位置に動脈瘤が存在する患者の場合にはプラチナコイルによる血管内治療が行われる.血管内治療はクリッピングに比べて合併症は少ないが,長期的治療成績についてはまだ不明である.

解離性大動脈瘤 

大動脈弓の直径が55-60ミリメートルに達する場合は大動脈置換術の適応となる.
胸部大動脈疾患の管理のためのガイドラインが発表されている[Hiratzka et al 2010].大動脈解離の管理は,循環器専門医と心臓血管外科医を含む諸専門分野が協力したチームの介入を必要とする.
二次症状の予防
ADPKDにおけるESRDの進行を遅らせることを目的としたその他の介入には,高血圧と高脂血症のコントロール,食事におけるたんぱく質制限,アシドーシスのコントロール,高リン血症の予防が含まれる.腎疾患における食事療法の変更(MDRD)試験では,疾患の後期状態(1.73 m2あたりのGFR 13-55 mL/分)で超低たんぱく食を導入した場合,わずかに(有意差はボーターラインレベル)有益な効果しか示されなかった. (GFR 13-55 mL/min per 1.73 m2)CRISP試験では,BMI≧30kg/m2は,腎臓容積のより早い増加と糸球体濾過率の低下と関連している[Nowak et al 2018].動物実験では,ADPKDモデルにおけるカロリー制限の有益性の可能性が示されている[Warner et al 2016].
上記(高血圧を参照)で示されているように,腎機能が温存されている若年患者の血圧目標値(95-110/60-75mm Hg)が標準目標値(120-130/70-80mm Hg)と比較して低いことは,HALT PKD試験における腎容積の増加速度が遅いことと関連していた[Schrier et al 2014].

  • 血圧コントロール(18~50歳でeGFR>60mL/分の場合は目標値110/75mmHg以下,それ以外の場合は130/85mmHg以下
  • 24時間(日中,就寝時,起床時は夜間)に渡って適度な水分補給を行い,尿浸透圧を280mOsm/kg以下に維持する.
  • 低オスモル濃度(低浸透圧)食:中等度のナトリウム(2~3g/日)とタンパク質(理想体重の0.8~1g/kg)の制限
    • 血清重炭酸塩を22mEq/L以上に維持;適度な食事によるリン摂取量(800mg/日).
    • カロリー摂取量の調節;正常なBMI;低負荷の運動
    • 脂質コントロール;LDL低値よりスタチンを開始する(LDL≦100mg/dLを目指す)
    • 急速に進行するリスクがある患者では,疾患修飾治療薬の検討(現時点ではトルバプタンしか承認されていない)(「症状の治療」の項を参照)

経過観察(サーベイランス)

経過観察に関するガイダンスは,Chapmanら[2015]に記載されている.
高血圧の早期発見.ADPKDの家族歴を持つ小児は,5歳から血圧を観察すべきであるが,血圧が正常な方では3年の間隔をあけて観察すべきである.収縮期または拡張期血圧が年齢,身長,および性別の95パーセンタイル以上になった時に高血圧の診断が下される.

脳動脈瘤 
無症状の患者に対するスクリーニングで発見される脳動脈瘤は小さく,破裂の危険性も低く,治療を必要としない[Irazabal et al 2011, Chapman et al 2015]ので,スクリーニングは通常推奨されないが反対意見も発表されている[Rozenfeld et al 2014].

平均余命が良好な患者に対するスクリーニングの適応としては脳内動脈瘤やくも膜下出血の家族歴がある例,動脈瘤破裂の既往がある例,血行動態に大きな変動をきたすような手術が予定されている例,パイロットのようなリスクの高い仕事についている例,本人の不安が強い例がある.
無症状患者に対するスクリーニング法としてはMRAが優れており,これは非侵襲的で造影剤投与も必要としない.最初の検査で陰性であった76名の患者のうち,平均9.8年の経過観察中に新規の動脈瘤が発生した患者は1名しかいなかったので,再検査を10年後に行うのは理にかなっている.

大動脈解離
より多くの情報が利用可能になるまで,2〜3年間隔で心エコーまたは胸部MRI検査のいずれかを使用して胸部大動脈解離の患者の第一度近親内の血縁となる成人をスクリーニングすることが合理的である.大動脈起始部拡張症が認められた場合は,循環器専門医への紹介が必要である.
腎細胞がん,心臓弁膜異常,大腸憩室症のサーベイランスは,これらの合併症の示唆的な徴候や症状がないADPKD患者には適応とならない.

回避すべき薬物や環境

  • 麻薬性鎮痛剤と非ステロイド系鎮痛剤のように腎毒性のある薬剤を長期に投与すること
  • カフェインの多量摂取;カフェイン入り飲料の低用量または中用量の摂取がADPKDの進行を促進するというエビデンスはない.
  • 重度の多発性嚢胞腎がある患者に対するエストロゲンおそらく黄体ホルモン投与
  • 喫煙
  • 肥満

リスクのある血縁者の評価

血縁者のうち一見無症状のADPKDリスクがある成人(18歳以上)の臨床的・遺伝的状態を明らかにすることによって:

  • 患者に対して疾患の情報提供ができる
  • 病変や症状に対して早期の治療ができる
  • 非罹患者であることを確定できる
  • 必要に応じて治療を開始できる

リスクのある血縁者の評価には,以下のようなものがある

  • 腹部超音波検査,CT,またはMRI検査による画像診断
  • 家系内でADPKD関連の病的変異が知られている場合は,遺伝学的検査を行う.病的変異が知られている血縁者に対しては,画像所見が明らかでない場合には,遺伝学的検査で明らかになることがある.

(注)(1)検査前に保険や雇用に関する問題も含めた適切なカウンセリングを行うことが最も重要である(2)現時点では,無症状の小児に対する遺伝学的検査の適応はない.これは将来適切な治療法が実現すれば変わるかもしれない.

妊娠管理

  • ADPKDを持つ妊婦は,高血圧症や尿路感染症の発症を注意深く観察する必要がある.
  • 妊娠中に高血圧を発症した妊婦や腎機能に障害がある妊婦はリスクが高く,妊娠高血圧症候群,子宮内胎児発育遅延,羊水過少症の発症を注意深く観察する必要がある.
  • どちらかの親がADPKDの場合は,胎児の腎臓の大きさとエコーによる胎児の腎嚢胞の存在,羊水量を評価するために,妊娠中期の出生前超音波検査が必要である[Vora et al 2008].

評価中の治療 

ADPKDの遺伝学に関する理解の進展や嚢胞形成メカニズムの解明により,治療的介入の標的が次第に明らかになってきた.

ソマトスタチンアナログ
ソマトスタチンの長時間作用型であるオクトレオチドは,PKDの動物モデル[Masyuk et al 2007]および小規模ランダム化プラセボ対照クロスオーバー試験[Ruggenenti et al 2005, Caroli et al 2010]において,多嚢胞性腎および肝臓の肥大を遅らせることが示されている.多嚢胞性腎および肝臓疾患に対するオクトレオチドおよびランレオチドの2つの無作為化プラセボ対照試験では,これらのソマトスタチンアナログの投与は,プラセボと比較して,中等度ではあるが有意な肝臓容積の減少を引き起こし,多嚢胞性腎の成長速度を低下させることが示されている[van Keimpema et al 2009, Hogan et al 2010].
イタリアで,75人の患者(うち38人がオクトレオチド-LARを投与され,37人がプラセボを投与された)を対象としたオクトレオチド長時間作用性放出(LAR)の無作為化,3年間の単盲検,プラセボ対照試験が終了した[Caroli et al 2013].腎臓と肝臓のサイズの数値的増加は,1年後に治療群で有意に小さくなった;3年後には,治療群と未治療群で臓器のサイズが小さくなったが,いずれの臓器についてもその差はもはや統計的に有意ではなかった.これらの薬剤がADPKDおよび/または多嚢胞性肝疾患の患者に安全に投与できるかどうか,また有効性があるかどうかを判断するために,より大規模で長期の無作為化試験が現在進行中である[Meijer et al 2014].Pkd1マウスモデルにおけるトルバプタンとソマトスタチンアナログ・パジレオチドの研究は,併用治療の相加的効果を示した[Hopp et al 2015].

チロシンキナーゼ阻害薬
Src阻害薬であるボスチニブの第II相臨床試験では,治療群ではTKVの上昇速度が遅く,eGFRの低下に差は認められなかった[Tesar et al 2017].しかし,特に本剤の高用量投与により,有意な有害事象を伴う試験からの脱落が高率で認められた. 米国ではClinicalTrials.gov,欧州ではEUのClinical Trials Registerを検索して,幅広い疾患や病態を対象とした臨床試験の情報を得ることができる.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

ADPKDは常染色体優性遺伝の形式をとる.

家族構成員のリスク

発端者の両親

  • 大多数のADPKD患者には罹患した親がいる.
  • ADPKDと診断された方の中には,新生突然変異の病的変異でこの疾患を有する方もいる.新生突然変異の病的変異に起因する方の割合は約15%である[Iliuta et al 2017].
  • 明らかな新生突然変異の病的変異を有する方の両親を評価するための推奨事項には,画像検査,特に腎症状が軽度の家系においては,MRIやCT検査によるスクリーニング,および/または,発端者の病的変異が判明している場合には,両親の遺伝学的検査を行うことが推奨される.
  • もし,発端者の病的変異がどちらの親の白血球DNAからも検出できない場合,発端者の新生突然変異の病的変異や親の性腺モザイクなどが考えられる.親の性腺モザイクが報告されている(臨床症状,モザイクの項を参照)
  • ADPKDと診断された方の中には,家系内で疾患を認識していなかったり,症状が出る前に親が早期に死亡していたり,あるいは罹患した親の発症が遅かったりするために,家族歴がないように見えることがある.したがって,一見陰性であるように見える家族歴を確認するには,発端者の両親に対して適切な評価(例えば,画像検査および/または遺伝学的検査)を実施しない限り,確認することはできない.
  • 注:親が病的変異を最初に発症した方である場合,その親は体細胞モザイクを有している可能性があり,軽度の影響を受ける可能性がある.

発端者の同胞 

  • 患者の同胞における罹患リスクは両親の遺伝的状況に依存する.
  • もし親が罹患している場合は,同胞が罹患する可能性は50%である.
  • もし両親のいずれもが画像検査によって罹患していないことが判明した場合は,発端者は新生突然変異によって発症した可能性が高く,同胞のリスクは低い.性腺モザイクによる例の報告はないが,可能性としては残される.
  • 複雑な遺伝も少数みられている可能性があり [Rossetti et al 2009, Cornec-Le-Gall et al 2018] ,他の家系構成員へのリスクを考慮すると重要である.

発端者の子

患者の子が病的変異を受け継ぐ可能性は50%である.

他の家族構成員

他の家系内構成員のリスクは発端者の両親の遺伝的な状況による.もし両親のいずれかが発症していたり,変異を有したりしている場合は,発端者の血縁者にもリスクがある.

血縁者の腎移植ドナー

腎移植のドナー候補となる血縁者には,ADPKDの有無を評価する必要がある.評価としては超音波やCT,MRIによる画像検査が行われる.画像検査の結果が不明瞭な場合,ドナー候補者が若年者(30歳未満)である場合,あるいは病状が立証されていない場合,遺伝学的検査によってドナー候補者の遺伝学的状態を立証することができる.血縁の罹患者で既知の病的変異が既に同定されている場合,解析は容易である.遺伝学的に特徴のない家系では,ドナー候補の分析の前に血縁の罹患者のスクリーニングにより病的変異を同定することが必要となる.検出された変異の病原性が特定できない場合,解析結果は注意して解釈する必要がある.罹患した血縁者の病的変異が同定されていない場合,または血縁者が遺伝学的検査を受けていない場合,ドナー候補の分子遺伝学的検査は,病的変異が確認された場合にのみ有益であり,陰性はドナー候補がADPKDでないことを証明するものではない.

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断と治療を目的としたリスクのある血縁者の評価については,管理,リスクのある血縁者の評価を参照のこと.

発症前診断(すなわち,無症状でリスクのある成人の検査) 

  • リスクのある血縁者に対する発症前診断は,ADPKD関連の病的変異が罹患した家系の中で同定されている場合には,容易に行うことができる.そうでない場合は,「陰性」であってもADPKDをもたないことを証明するものではない.
  • このような検査の潜在的な影響(社会経済的変化,検査結果が陽性の人の長期的なフォローアップと評価の必要性などを含むが,これだけではない),および発症前診断の能力と限界については,検査に先立って正式な遺伝カウンセリングで議論されるべきである.

未成年者における発症前診断(すなわち,18歳未満の無症候性のリスクのある人の検査)

  • 早期治療ができない成人発症する疾患において無症状のリスクがある未成年者に対しては,発症前診断は不適切であると考えられている.さらに,そのような情報が家系内の関係性に及ぼす可能性のある不健康な悪影響,将来の差別やスティグマ化のリスク,そしてそのような情報が引き起こす可能性のある不安についても,さらなる懸念が存在する.
  • 詳細については,成人になってから発症する疾患に対する未成年者の遺伝学的検査に関する全米遺伝カウンセラー協会の見解声明および米国小児科学会および米国臨床遺伝・ゲノム学会の方針声明:子供の遺伝子検査およびスクリーニングにおける倫理的および政策的問題点を参照.

明らかに新生突然変異によると思われる家系について 発端者の両親が変異を有していなかったり,疾患の所見を示していなかったりする場合には,発端者は新生突然変異によって発症した可能性が高い.しかし,父親が異なるとか開示されていない養子縁組があったとかいう非医学的な理由による可能性も考慮に入れておく必要がある.

家族計画

遺伝的リスクの評価や出生前診断についての決定は妊娠前に行われるのが望ましい.同様にリスクのある無症状成人の検査についての自己決定も妊娠前に行われるのが最良である.

DNAバンキング DNAバンキングとは将来的な使用を想定してDNAを(多くは白血球から抽出する)保存しておくものである.遺伝子検査技術や遺伝子,変異,疾患に対するわれわれの認識が将来変化するかもしれないので,DNA保存が考慮されうる.
非定型症状(例えば,子宮内での致死的な発症)を持つ患者からのDNAバンキングは,疾患の病因を理解し,家系に家族計画の選択肢を提供するために特に価値のあるものである.

出生前診断

分子遺伝学的検査 

特に遺伝学的検査が早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は,医療関係者と患者家族の間では出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない.
多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが,この問題については注意深い検討が求められる.

着床前診断 着床前遺伝子診断は,ADPKDのリスクがある家系において,ますます採用されるようになってきている[De Rycke et al 2005, Zeevi et al 2013].
訳注:日本では本症に対する出生前診断は行われていない.


関連情報


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A. 常染色体優性嚢胞腎:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体上の位置(遺伝子座) タンパク質 遺伝子特有のデータベース HGMD ClinVar
DNAJB11 3q27.3 DnaJ ホモローグ subfamily B member 11 DNAJB11 DNAJB11
GANAB 11q12.3 Neutral alpha-グルコシダーゼ AB GANAB GANAB
PKD1 16p13.3 ポリシスチン-1 ADPKD 変異 データベース (PKD1) PKD1 PKD1
PKD2 4q22.1 ポリシスチン-2 ADPKD変異 データベース (PKD2) PKD2 PKD2

データは,次の標準参照からまとめられている:
遺伝子はHGNCから;染色体の位置はOMIMから;タンパク質はUniProtから.

 B . 常染色体優性嚢胞腎のOMIM登録

104160 グルコシダーゼ, ALPHA, NEUTRAL AB; GANAB
173900 多発性嚢胞腎 1; PKD1
173910 ポリシスチン 2; PKD2
600666 多発性嚢胞腎 3; PKD3
601313 ポリシスチン 1; PKD1
611341 DNAJ/HSP40 ホモローグ, SUBFAMILY B, MEMBER 11; DNAJB11
613095 多発性嚢胞腎 2; PKD2

分子病因

ポリシスチン-1 と ポリシスチン-2は結合して機能的なポリシスチン複合体を形成し,この結合はこれらのタンパク質の成熟と局在化の中心となる[Kim et al 2014, Gainullin et al 2015]. PKD症候群 (例えば, Meckel 症候群)に関連するタンパク質である. ポリシスチン-1 とポリシスチン-2は一次繊毛に局在する [Pazour et al 2002, Yoder et al 2002, Liu et al 2018]; PKDは繊毛病であり [Hildebrandt et al 2011], 繊毛の欠損はPKDに関連する [Lin et al 2003].
繊毛 は,いくつかの繊毛病で見られる表現型に関わるシグナル伝達経路 (例えば, ソニック・ヘッジホック おそらく平面的な 細胞の極性) に必須であることが知られている. 他の臓器で繊毛病の表現型を有するPKD症候群の亜型 (例えば, Meckel 症候群, Joubert 症候群)の原因となるタンパク質は,繊毛を構成するタンパク質合成の調節に関与している [Fischer et al 2006, Hildebrandt et al 2011, Garcia-Gonzalo & Reiter 2012, Yang et al 2015].

しかしながら,  ポリシスチン複合体が繊毛との通常正確な役割は議論がある.ポリシスチンは受容体[Ong & Harris 2015], 尿細管内の流量[Nauli et al 2003]やWnt リガンドの結合[Kim et al 2016]の変化により複合体を調節している可能性が高いです.繊毛の欠失を伴う ポリシスチンの不活性は,ポリシスチン単独よりも嚢胞表現型は軽症であるという報告がある.ポリシスチン複合体は膀胱形成を進める繊毛経路の調整としても捉えられている[Ma et al 2013].ポリシスチン複合体の主要な下流シグナルについても議論があり, Ca2+, cAMP,やG-タンパク質 シグナル全てが重要視されている.[Torres & Harris 2014, Chebib et al 2015, Hama & Park 2016, Lemos & Ehrlich 2018].

ポリシスチンやARPKD タンパク質であるフィブロシスティンの別の部位としては, ネフロンにおける分泌タンパク質のシグナルの役割に関与する尿嚢がある [Hogan et al 2009, Bakeberg et al 2011]. ポリシスチンの他の表現型部位(例えば., 血管系)として,頭蓋内動脈瘤に関与するタンパク質群が低下することを示されている[Kim et al 2000].

PKD1

遺伝子構造 PKD1 はおおよそ 14-kb の転写産物をコードし,46 エクソンで構成される [Hughes et al 1995]. 16番染色体のゲノム領域にはPKD1 をコードする5末側の3/4と合致する偽遺伝子が6つ存在する.[ヨーロッパ 多発性嚢胞腎 コンソーシアム 1994, Loftus et al 1999, Symmons et al 2008].

病的変異 PKD1 病的変異のおおよそ 50%-70% は 一家系ごと唯一である[Rossetti et al 2007, Audrézet et al 2012]. ADPKD変異データベース (表 A) には,おおよそ 2,450 家系のPKD1-関連ADPKDについて全部でおおよそ 1,650の病的変異が登録されている. 病的変異 遺伝子全体に広がり; 65% はタンパク質産物の短縮を来すと予測される. 近年の結果ではインフレームな 病的変異のおよそ半数は機能低下となり(RNA やタンパク質が減少して,遺伝子機能が減弱するアレル) 軽症の腎臓病に関連する [Cornec-Le Gall et al 2013, Heyer et al 2016, Hwang et al 2016].

表 6. 本GeneReviews で示したPKD1 病的変異
DNA 塩基変化 予測 タンパク質 変化 Reference Sequences
c.9829C>T1 p.Arg3277Cys NM_001009944.2
NP_001009944.2

表にある変異リストは著者により提供する. GeneReviews スタッフはこの分類の検証に関与していない.
GeneReviews では,Human Genome Variation Society (varnomen.hgvs.org).の標準命名規定に従っている

  1. 機能低下アレル

正常遺伝子産物  PKD1 遺伝子産物であるポリシスチン-1は, 4303-アミノ酸から成るタンパク質であり, 分子量は非グリコシル化では 460 kd となる[Hughes et al 1995,国際多発性嚢胞腎 コンソーシアム 1995, Sandford et al 1997]. このタンパク質は 多くは細胞外領域にあり一部細胞質にある11 回膜貫通するドメインを有している. このタンパク質はG-タンパク質共役型受容体タンパク質分解部位(GPS) ドメインで切断される,しかしながらこのタンパク質産物付帯して留まっている [Ponting et al 1999, Qian et al 2002, Yu et al 2007]. 細胞外領域はタンパク質あるいは糖質との相互作用に関与する特徴的なドメインを有している. タンパク質の機能は不明であるが,ポリシスチン複合体の一部であるポリシスチン-2チャネルの調節に関与していると考えられている. [Ong & Harris 2015].
ポリシスチン-1 は腎臓の成熟尿細管やほとんどの臓器の上皮や他の細胞に広く発現し, 胚が最も強く発現し成人になるに従い低下していく. 上皮と共に平滑, 骨格や心筋にも発現し,ポリシスチン-1 は疾患の腎外症状にも直接的な役割を持つことを示唆している.

異常遺伝子産物幅広い短縮型PKD1病的変異は,アレルの不活性により機能タンパク質が減弱あるいは欠損することにより嚢胞が進行する病態を示唆している. ポリシスチン-1がある一定レベルよりも減弱すると嚢胞が進行するしきい値仮説では,しきい値は複合体形成において嚢胞の発展や拡大は正常アレルの欠失が体細胞変異あるいは非遺伝的変化で生じることによる [Lantinga-van Leeuwen et al 2004, Jiang et al 2006, Gallagher et al 2010, Hopp et al 2012, Cornec-Le Gall et al 2014].
PKD1非短縮病的変異による機能低下はポリシスチン-1の折り畳みや輸送の欠陥を繋がるという報告が増加している.[Hopp et al 2012, Cai et al 2014, Gainullin et al 2015].

PKD2

遺伝子構造 PKD2 の転写産物は おおよそ 5.5 kb (NM_000297.3) であり,15 エクソンからなる [Mochizuki et al 1996].

病的変異 PKD2 病的変異のおおよそ 50%は,それぞれの家系ごと唯一である.[Rossetti et al 2007, Audrézet et al 2012]. ADPKD変異データベース (表 A)には, 550 家系に渡りおおよそ 250 の異なるPKD2 病的変異 が登録されている. その病的変異は 遺伝子全体に渡り,多く (~85%) は タンパク質が短縮すると予測され, 不活性型のアレルとなる . PKD2 における機能低下 アレルは唯一報告されている [Losekoot et al 2012].

正常遺伝子産物 ポリシスチン-2 は968 アミノ酸(NP_000288.1)からなり,N- とC-末に6つの細胞質膜貫通ドメインを有している [Mochizuki et al 1996]. 膜貫通領域はポリシスチン-1 とのホモロジーがある.構造的には一過性の潜在的な(TRP)チャネル受容体と類似し,TRP タンパク質ファミリーの1つ(TRPP2)として考えられている. 近年,極低温電子顕微鏡 により,ポリシスチン-2のホモ4量体構造の記載が報告されている.新規のポリシスチン-特異的な正方晶のポリシスチン (TOP) ドメイン 開口は,開口を調節する古典的なTRPチャネルと結合する. [Shen et al 2016, Grieben et al 2017].一次繊毛におけるポリシスチン-2 の電気生理学的解析によると,K+, Na+や 繊毛内Ca2+ 開口の確率を上昇させることを優先的に行っている. [Liu et al 2018]. ポリシスチン-2 は広く発現し,おおよそ成人においても一定レベルで続いている.

異常遺伝子産物 PKD1と同様に,病態のメカニズムは機能的タンパク質が減少あるいは欠損ししきい値より低下することによる.

GANAB

遺伝子構造. GANAB遺伝子はゲノム上 21.9 kbに渡っている. 最長の 転写産物(NM_198335.3) は 25 エクソンから成り, 最長のタンパク質 アイソフォームとなる. (NP_938149.2) [Treml et al 2000].

病的変異. これまでに, GANAB 遺伝子に11の病的変異が12罹患家系から報告されている.このうち 3つはフレームシフトによる欠失, 3つはスプライス変化,3ミスセンス変化, 2つはナンセンス変化であり,この遺伝子のすべての部位に存在する. [Porath et al 2016, Besse et al 2017,Besse et al 2018].

正常遺伝子産物GANABは グルコシダーゼ IIαサブユニットをコードし, 966-アミノ酸からなる タンパク質 (NP_938149.2)である.カルネキシン/カルレティキュリン サイクルの一部としてタンパク質の糖鎖のグリカンをトリミングし, 膜や 分泌 タンパク質の品質管理の主たる役割を担っている. [Xu & Ng 2015].グルコシダーゼ IIβ サブユニットはADPLD-関連遺伝子であるPRKCSHにコードされることは注目される.[Drenth et al 2003, Li et al 2003].

異常遺伝子産物 GANAB 病的変異は不活化により,グルコシダーゼ IIα サブユニットの量が減弱し疾患に関連している. ポリシスチン-1研究により,成熟と輸送はGANABの欠失や減少に感受性が高い.[Porath et al 2016, Besse et al 2017]. 肝臓や腎臓のよく見られる表現型である嚢胞は,膜タンパク質を合成する経路がポリシスチン-1の輸送が阻害されることを通して生じている [Fedeles et al 2011].

DNAJB11

遺伝子構造.  DNAJB11遺伝子の最長の転写産物 (NM_006145.2) は10エクソンからなり,ゲノム構造はおおよそ15 kbに渡る.

病的変異 これまでに, 5つの異なるDNAJB11病的変異が,7 家系の23罹患者で同定されている[Cornec-Le Gall et al 2018]. 内訳は, 2つのフレームシフト変化, 2つのミスセンス病的変異, と 1つのナンセンス変異である.

正常遺伝子産物DNAJB11 DNAJ/HSP40 ホモローグの内,Bサブファミリー, 11番目 (DNAJB11)は358-アミノ酸からなる可溶性小胞体タンパク質(NP_006136.1)であり,膜や分泌タンパク質の効率的な折り畳みに必要とされるBiPの共同シャペロンとして機能する. [Shen et al 2002, Shen & Hendershot 2005].

異常遺伝子産物  DNAJB11病的変異のヘテロ接合体は,不活性化し病状は DNAJB11量と関連する. ポリシスチン-1の研究から,成熟とトラフィッキングは DNAJB11の欠損と特に影響を受ける.[Cornec-Le Gall et al 2018].


更新履歴:

  1. GeneReviews最終更新日:2004.3.5 日本語訳最終更新日: 2005.11.10. 櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座)
  2. Gene Review著者: Peter C Harris, PhD, Vicente E Torres, M.D.G
    Gene Review 最終更新日: 2006.6.6. 日本語訳最終更新日: 2006.6.10. 櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座)
  3. Gene Reviews著者: Peter C Harris, PhD, Vicente E Torres, M.D.
    日本語訳者: 関屋智子(金沢大学附属病院遺伝診療部) ,花岡一成(東京慈恵医科大学第三病院総合診療内科),渡邉淳(金沢大学附属病院遺伝診療部・遺伝医療支援センター)
    GeneReviews最終更新日: 2018.7.19  日本語訳最終更新日: 2022.9.21[ in present]

原文 Polycystic Kidney Disease, Autosomal Dominant

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