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フォンヒッペル・リンドウ病
(Von Hippel-Lindau Disease)
[VHL Disease]

Gene Review著者: R Neil Schimke, MD, Debra L Collins, MS, Catherine A Stolle, Ph.D.
日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)           
Gene Review 最終更新日: 2007.3.20. 日本語訳最終更新日: 2007.5.14.

原文 Von Hippel-Lindaou Disease


要約

疾患の特徴 

フォンヒッペル・リンドウ病(VHL病)は脳,脊髄,網膜の血管芽腫,腎嚢胞や腎がん,褐色細胞腫,内耳内リンパ嚢胞腺腫などを生じる.小脳の血管芽腫は頭痛,嘔吐,歩行障害や失調を伴うことがある.網膜の血管芽腫はしばしば初発症状となり,失明の原因ともなりうる.腎がんは約40%の患者に発生し,主要な死因となる.褐色細胞腫はしばしば無症状であるが,持続性あるいは発作性の高血圧の原因となる.内耳内リンパ嚢胞腺腫はさまざまな程度の難聴を引き起こし,これがしばしば主症状となる.

診断・検査 

血管芽腫,腎嚢胞や腎がん,褐色細胞腫,内リンパ嚢胞性病変などの特徴的な病変を有する患者に対してはVHL病が疑われる.VHL遺伝子はVHL病の原因となる唯一の遺伝子である.分子遺伝学的検査で変異は患者のほぼ100%に検出される.この検査は臨床的に利用が可能である.

臨床的マネジメント 

臨床症候に対する治療:大部分の中枢神経系病変に対する治療;脊髄病変は完全に除去する;網膜病変は早期に治療する(視神経病変は除く);腎細胞癌に対しては早期の手術(可能であればネフロン温存もしくは腎部分切除);褐色細胞腫の切除;内耳内リンパ嚢胞腺腫は外科的切除を考慮する(特に腫瘍が小さい場合には聴覚や前庭感覚を保存する目的で)

二次症状の予防聴覚喪失,失明,神経症状などの二次的障害を予防し最小限にとどめるために腫瘍の早期発見,早期治療.

定期検査:VHL病と診断されている,もしくはVHL遺伝子変異が確認されている者,あるいはVHL病に罹患するリスクのある患者親族:毎年の眼科診察を5歳から開始;褐色細胞腫の罹患率が高い家族では毎年の血圧測定と尿中カテコラミン代謝物の定量を5歳から開始;毎年の腹部超音波検査を16歳から開始し,必要に応じてCTやMRIを追加;難聴が疑われる場合には聴力検査;もし聴力低下が確認された場合は側頭骨のT1強調MRI検査.

リスクのある親族の検査:もし家系内のVHL遺伝子変異が同定されていれば,未発症親族に対する遺伝子検査が可能である.変異を有していないことが確認できれば費用のかかる定期検査は不要になる.

遺伝カウンセリング 

VHL病は常染色体優性遺伝の形式をとる.患者の約80%は罹患した親からの遺伝で,約20%は新生突然変異と考えられている.親のモザイクが報告されているが,その頻度は明らかではない.患者の子は50%の確率で変異遺伝子を受け継ぐ.出生前診断は変異が確認されていれば技術的には可能である.


診断

臨床診断

VHL病の臨床診断は以下の場合に確定する

  • 散発例の場合は,以下のいずれかにあてはまる場合

    2つ以上の網膜もしくは中枢神経の血管芽腫の存在

  • 網膜あるいは中枢神経の血管芽腫に,腎嚢胞,膵嚢胞,腎がん,褐色細胞腫,さらに低頻度ではあるが内リンパ嚢胞腺腫,精巣上体嚢胞腺腫,膵の神経内分泌腫瘍,のうち少なくとも1病変を合併

  • 家族歴がある場合は,以下の1病変以上を発症している場合

    網膜血管腫,中枢神経血管芽腫,褐色細胞腫,多発性膵嚢胞,精巣上体嚢胞腺腫,多発性腎嚢胞,60歳

診断の確定や病態の評価に用いられる検査

  • CTやMRIは以下の病変の検出に用いられる.
    • 中枢神経系腫瘍
    • 褐色細胞腫はMRIのT2強調画像で高信号を呈し,副腎皮質腫瘍との鑑別に有用である.
    • 内耳内リンパ嚢胞腺腫は側頭骨のT1強調MRI撮影で高信号を呈する,頭骨錐体部後壁の腫瘤性病変として描出される.
  • 超音波検査は精巣上体の検査や腎の安価なスクリーニング法として有用である.
  • MIBGシンチグラフィーは副腎外褐色細胞腫が疑われる時に有用である.
  • 18F-DOPA全身PETは褐色細胞腫の高感度,高特異度の検出法として期待される.
  • 高血圧がなくても尿中カテコラミン代謝産物(VMA,メタネフリン,総カテコラミン)排泄量が増加している時は褐色細胞腫が疑われる.

分子遺伝学的検査

遺伝子 VHL遺伝子(3p26-p25)は本症に関連していることが知られている唯一の遺伝子である.

分子遺伝学的検査:臨床応用

  • 確定診断
  • 保因者診断
  • 出生前診断
  • 着床前診断

分子遺伝学的検査:検査法

  • 直接シークエンス 全3エクソンの直接シークエンスは,VHL遺伝子の点変異を検出する(全変異の72%を占める)
  • 欠失解析 さまざまな方法(定量的サザンブロッティング,定量的PCR)がVHL遺伝子の部分欠失もしくは全欠失の検出に用いられる.VHL遺伝子変異全体のうちこうした欠失は約28%を占める

 表1 VHL病で用いられる分子遺伝学的検査

検査法

検出される変異

検出率

直接シークエンス

点変異

〜72%

欠失解析

部分・完全欠失

〜28%

遺伝子検査結果の評価

検査の手順

  • 遺伝子検査はVHL病と診断された,または本症が疑われるすべての患者に対して適応となる.
  • VHL遺伝子変異の検出率はほぼ100%なので,遺伝子検査はVHL関連の一病変のみを有し,家族歴がない患者に対しても考慮される.
  • VHL病の臨床症状を有するが厳密には診断基準を満たさない患者はVHL遺伝子変異が同定されない患者では体細胞モザイクの可能性を考慮する必要がある.そのような場合は,患者の子の遺伝子検査でVHL遺伝子変異が検出される.

遺伝子レベルでの関連疾患

VHL 2C型 家族性褐色細胞腫あるいは非家族性両側性褐色細胞腫の患者の一部は目や中枢神経系の症状を呈さないがVHL遺伝子変異を有している(VHL type 2C).

Chuvash多血症 Chuvash多血症はロシアのボルガ川中流域に見られる常染色体劣性遺伝性疾患で,高エリスロポエチン血症を呈し,大多数の症例はVHL遺伝子の598C>T(Arg200Trp)変異を有している.ボルガ川流域以外の地域で先天性多血症を呈する患者の一部は複合へテロとして598C>T変異を有していることが報告された.Chuvash変異は多彩な人種で同定されている.VHL遺伝子変異は先天性多血症の最大17%の原因になっていると推測される.ハプロタイプ解析では598C>T変異は二つの人種で別個に発生している.人種のいかんにかかわらず,先天性多血症患者に対してはVHL遺伝子解析が考慮される.

血栓症や出血は多くの患者に発生するものの,Chuvash変異を有する患者のヘテロ接合親族にVHL関連腫瘍が発生したという報告はない.

体細胞変異 VHL遺伝子の体細胞変異は散発性VHL関連腫瘍(腎淡明細胞癌,褐色細胞腫など)で認められる.


臨床像

自然経過

VHL病は中枢神経系,脊髄,網膜の血管芽腫,腎嚢胞と腎がん,褐色細胞腫,内リンパ嚢胞病変などを発症する.いくつかの腫瘍は集積性が認められ,特殊なVHL病型を示す.臨床症状とその重症度は家系ごとに,さらには家系内で同じ変異を有していても患者ごとに差がある.

血管芽腫 中枢神経系の血管芽腫はVHL病における特徴的な病変であり,おおよそ80%が脳に,20%が脊髄に発生する.脳では大部分はテント下,特に小脳半球に発生する.同時にあるいは時期を異にした腫瘍の多発はしばしば認められる.脊髄の血管芽腫は通常硬膜内に発生し,頸胸髄領域に多いが時に全領域が冒される.まれに末梢神経にも血管芽腫が発生することがある.

臨床症状は腫瘍発生部位に依存する.テント下腫瘍では頭痛,嘔吐,歩行障害や失調が主症状となる.テント上腫瘍の場合の症状は腫瘍発生部位により異なる.血管芽腫は一般には増殖や緩除であるが,時には急速な増大によって水頭症やうっ血乳頭を引き起こすこともある.脊髄血管芽腫は通常疼痛を伴うが,脊髄の圧迫により感覚運動障害も生じうる.臨床症状を引き起こすような血管芽腫の大部分は脊髄空洞症を伴っている.

血管芽腫の一部は無症状でMRIによってのみ発見される.中枢神経血管芽腫を胎児超音波検査で同定しえたという報告がある.

網膜血管芽腫 網膜血管芽腫は以前は網膜血管腫とよばれていたが,病理学的には血管芽腫と同一のものである.約70%の患者に発症し,初発症状となりうる.発症時平均年齢は25歳である.腫瘍は網膜の耳側部に発生することが多く,流入および流出血管は視神経乳頭から(視神経乳頭へ)達している.時には後極(1%)や視神経乳頭(8%)に発生することもある.これらは無症状で眼科的検査によって発見されることもあるが,多くは網膜剥離や出血による視野欠損や視力障害を生じる.

病変数が年齢とともに増加する傾向はないが,年齢とともに失明の可能性は増大する.

網膜血管芽腫がなくても網膜機能で異常を認めることもある.

腎病変 VHLでは多発性腎嚢胞はよく見られる.

腎癌,特に淡明細胞癌が嚢胞内や周囲実質から発生する.腎癌の発生は患者の約40%に達し,これがVHLにおける最大の死因となる.

褐色細胞腫 褐色細胞腫は持続型あるいは発作型高血圧の原因となるが,時にはまったく無症状で腹部画像検査の際に偶然発見される.褐色細胞腫は通常片側あるいは両側の副腎に発生するが,時には腹部,胸部,頭頚部の交感神経系に沿ってあらゆる部位から発生する.腫瘍は通常2センチメートル以上の大きさとなる.

褐色細胞腫は通常良性であるが,悪性化例も報告されている.

膵病変 多くの膵病変は単純性嚢胞でしばしば多発する.病変がかなり進展しないと内分泌・外分泌機能障害は生じない.時に膵頭部嚢胞が胆汁うっ滞をひきおこす.

まれに膵の神経内分泌腫瘍が発生することもある.これは通常ホルモン産生はなく増殖もゆっくりであるが,特に腫瘍径が3 cmを超えるものではより悪性度の高い例も報告されている.

内リンパのう胞腫瘍 内リンパ嚢胞と内リンパ管は膜迷路が外胚葉性に進展したものである.嚢胞腫瘍は種々の程度の難聴を生じる.頻度は少ないがめまいや耳鳴を訴えることもある.腫瘍が大きい場合は他の脳神経も影響を受ける.内リンパ嚢胞腫瘍はVHL病患者の約10%に認められ,これによる片側性あるいは両側性の難聴が初発症状となる場合もある.悪性例はまれである.

精巣上体腫瘍 精巣上体の嚢胞腺腫は男性VHL病患者に比較的よく見られる.通常臨床症状はないが両側に発生した場合は男性不妊の原因となる.女性でこれに対応する病変としては卵巣索の乳頭嚢胞腺腫があるが,これはより頻度が低い.

遺伝子型と臨床型の関連

褐色細胞腫と腎がんの発生しやすさに基づいてVHL病は4病型に分類されている.

VHL type 1は褐色細胞腫の発症リスクが低い.VHL蛋白の折りたたみが障害されると考えられるようなVHL遺伝子のトランケーション変異(欠失,フレームシフト,ナンセンス変異,スプライス変異)を認める.

VHL type 2は褐色細胞腫の発症リスクが高い.VHL type 2の患者はほぼ全例がミスセンス変異を有している.一部のミスセンス変異は特徴的な臨床像と関連しているようである.

VHL type 2はさらに以下の3亜型に分類される.

  • 2A 腎細胞癌のリスクは低い
  • 2B 腎細胞癌のリスクが高い
  • 2C 褐色細胞腫のみを発症する

最近2つのグループが,VHL遺伝子の完全欠失では腎細胞癌のリスクが低いことを報告した.この病型の患者では腎細胞癌と褐色細胞腫のリスクがいずれも低い.

浸透率

VHLの浸透率は高い.変異を有している者のほぼ全員が65歳までにVHL病に関連した症状を発症する.

促進現象

VHL病では促進現象は認められていない.

病名

かつてはVHL病に対して「網膜中枢神経血管母斑症 (angiophakomatosis retinae et cerebelli)」,「家族性小脳網膜血管腫症 (familial cerebello-retinal angiomatosis)」,「小脳網膜血管芽腫症 (cerebelloretinal hemangioblastomatosis)」,「Hippel病」,「Hippel-Lindau病」,「Lindau病」,「網膜小脳血管腫症 (retinocerebellar angiomatosis)」などの病名が用いられていた.

頻度

VHL病の頻度は36,000出生あたり1名,新生突然変異率は配偶子100万あたり4.4と推測されている.


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

VHL病患者でのVHL遺伝子変異検出率が高いため,単発性の血管芽腫や腎淡明細胞癌を発症した患者に対しては遺伝子検査の結果に基づいて高い確率でVHL病を否定することは可能である.もちろん体細胞モザイクの可能性は常に考慮する必要があるが.若く,特に複数の病変を認める患者では,高齢で一か所の病変しか認めない患者に比べてVHL遺伝子変異を検出する可能性はより高い.

褐色細胞腫はVHL病変のひとつであり,特に2C型では唯一の病変であるため,褐色細胞腫の家族歴がある患者や両側性もしくは多発性に褐色細胞腫を生じた患者ではVHL遺伝子検査が考慮されるべきである.散発性かつ片側性の褐色細胞腫でVHL遺伝子変異を認めることは,患者が20歳未満でない限りまれである.例外としては,コハク酸脱水素酵素(SDH)のサブユニットをコードする遺伝子の変異が原因である家族性の頭頚部傍神経節腫(パラガングリオーマ)や,他の症候を合併する多発性内分泌腫瘍症2型や多発神経線維腫症1型がある.

遺伝性平滑筋腫症および腎癌(hereditary leiomyomatosis and renal cell cancer: HLRCC) は皮膚の平滑筋腫症が特徴である.罹患女性は通常若年で子宮平滑筋腫症(類線維腫)を発症する.一部の家系では腎腫瘍が高率に発生する.大部分の腎腫瘍は“2型”腎乳頭癌に分類され,明瞭な乳頭構造と特徴的な病理像を呈する.他のタイプの腎腫瘍としては,腺管乳頭様腎癌から集合管腎細胞癌まで多彩である.フマル酸ヒドラターゼをコードするFH遺伝子の変異に起因する常染色体優性遺伝性疾患である.

Birt-Hogg-Dube(BHD)症候群 は特徴的な皮膚所見(線維毛包腫,毛盤腫,先端線維性軟ゆう症)を呈する.肺嚢胞や気胸の既往,種々の腎腫瘍が患者や家族で高頻度に見られる.最も高頻度に見られる腫瘍は好酸性顆粒細胞腫と嫌色素性細胞の混合した,いわゆる好酸性顆粒細胞性混合腫瘍(67%)であり,他に嫌色素性腎細胞癌(23%),腎好酸性顆粒細胞腫(3%)がある.腎好酸性顆粒細胞腫のみが良性である.これまでに報告されたより低頻度の腎腫瘍には淡明細胞癌や腎乳頭癌がある.FLCN(BHD)遺伝子の変異が原因であり,常染色体優性遺伝性である.

淡明細胞癌以外の病変を認めない患者ではVHL遺伝子変異を有する可能性は低い.


臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

VHL病と診断された患者の病変の状態を把握するために以下の検索が行われる.

  • 中枢神経系もしくは末梢神経系の血管芽腫を証明する神経学的な既往や身体所見
  • 網膜血管芽腫に対する眼科診察
  • 内耳リンパ内嚢胞腫瘍に伴う聴力低下に対する聴力検査
  • 褐色細胞腫の発生率が高い家系では5歳以降の血圧測定と尿中カテコラミン代謝産物の定量
  • 16歳以降の腹部超音波検査.腎臓,副腎,膵の疑わしい所見に対してはCTやMRIによる精査を行う.

若年者に対して脳脊髄のMRIによる検査を勧める考えもあるが,これは高価であり無症状の場合の有用性は疑問がある.

病変に対する治療

中枢神経系血管芽腫

  • 臨床症状の有無にかかわらず早期の手術を提唱する者もあるし,無症状の腫瘍に対しては毎年の画像診断で経過をみるべきとする考えもある.多くの中枢神経系病変は最終的には治療が必要となる.
  • 手術前の動脈塞栓術は特に大きな脊髄腫瘍に対して適応となる.
  • ガンマナイフ治療は手術が困難な部位に生じた小病変に対して有用であろう.この手法は固形腫瘍を縮小させる効果はあるが,嚢胞性病変を予防することはおそらくできない.手術による死亡率はおおよそ10%であり,脳幹部腫瘍ではより高くなる.
  • 脊髄病変は完全に切除することが推奨される.脊髄腫瘍切除に伴う重大な合併症として対麻痺がある.

網膜血管芽腫

  • たとえ自然消退が認められるとはいえ,多くの眼科医は失明を防ぐために網膜病変に対する早期治療が適切と考えている.ただし視神経病変はこの限りではない.
  • 網膜血管芽腫の治療法としてはジアテルミー,キセノン,レーザー,凍結凝固法などがあり,それぞれの治療効果は病変の部位,大きさ,数に依存する.治療から数年経過して再発することも知られているが,これは同じ部位に生じた新たな病変の可能性もある.
  • 標準的な治療が病変の進行を制御できない例に対して外照射放射線療法の有用性が示されている.

腎癌

  • 腎癌に対しては早期の手術が最良の治療法である.腫瘍の大きさと部位によっては予後に影響を与えることなく腎の一部を残存させる部分切除術も可能となる.
  • 小さい病変や外科手術のリスクが高い例に対して凍結凝固法が用いられる機会が増えている.
  • 両側腎摘出術が必要となった患者に対しては腎移植も有効である.ドナーとなりうる,かつVHL保因者でない血縁者に対する評価を行うことが必要である.

褐色細胞腫

  • 褐色細胞腫は手術によって摘除する.腹腔鏡手術も有効である.
  • 患者にたとえ高血圧がなくても手術前7-10日はα交感神経遮断薬による治療を行うのが適切である.

内リンパ嚢胞腫瘍の増殖は遅いので,手術を考慮する際は合併症として聴力を失う可能性について議論しておく必要がある.小腫瘍に対する早期治療は聴力と前庭機能を保護することが示されている.

精巣上体,卵巣索ののう胞腺腫は通常治療を必要としない.

二次病変の予防

定期検査による病変の早期発見と腫瘍の切除は聴力や視力の喪失や神経症状を予防したり最小限に抑えたりできる.

定期検査

VHL遺伝子変異を有しているが未発症の者,あるいは保因者の可能性があるがまだ遺伝子検査を受けていない者に対しては,VHL病に精通している医師あるいは医療チームによる定期的なモニタリングが必要である.モニタリングは以下の項目を含む.

  • 毎年の眼科検査,できれば5歳以前に開始する.
  • 褐色細胞腫の罹患率が高い家族では毎年の血圧測定と尿中カテコラミン代謝物の定量を5歳から開始する.
  • 毎年の腹部超音波検査を16歳から開始する.腎,副腎,膵に疑わしい所見がある場合には必要に応じてCTやMRIを追加する.
  • 聴力低下が疑われる場合には聴力検査を行い,異常を認めた時は側頭骨のT1強調MRI検査を行う.

リスクのある親族の検査

患者家族に対する遺伝子検査は診断の確実性を高め,家系内の非保因者に対する高価な検査の必要性を除外するために有用である.アメリカ臨床がん学会はVHL病をグループ1,すなわち家族に対する遺伝子検査を通常の臨床業務の一部として位置づけるべき疾患である分類している.

VHL病に伴う病変を早期に発見することは適切な治療介入と予後の改善につながる.ゆえに小児を含めて保因者の可能性がある者に対し,臨床的な経過観察を行うことは適切な行為である.

研究中の治療法

特定のVHL変異ではHIFαを抑制することができず,VEGFの過剰発現を招く.VEGF受容体阻害薬であるSU5416は,特に局所治療が奏功しない網膜血管芽腫を有する患者に用いられ,ある程度の効果を示している.全例ではないが,一部の症例では中枢神経系血管芽腫を安定させることが示されている.しかしながら,この薬剤が投与された一部の患者では二次性多血症を生じている.

別の抗血管新生薬であるhalofuginoneはVHL関連褐色細胞腫を移植したマウスで腫瘍の増殖を抑制することが示された.この薬剤はまれにみられる切除不能な褐色細胞腫に用いることができるかもしれないが,通常の良性褐色細胞腫に対しては手術のほうが適切である.

種々の疾患に対するさまざまな臨床試験の情報については,ClinicalTrials.govを参照のこと.

その他

遺伝の専門家による遺伝クリニックは患者本人や家族に対して自然歴,治療,遺伝形式,他の家族の遺伝学的リスク,利用可能な情報源などについて情報を提供する.

患者や家族のためのサポートグループが組織されており,情報やサポート,他の患者家族との連絡法を提供している.関連情報の項を参照のこと.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

VHL病は常染色体優性遺伝の形式をとる.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • 約80%のVHL病患者には罹患した親がいる.
  • 発端者の約20%は新生突然変異によると推測される.
  • VHL病患者に遺伝子変異が同定された場合は,その両親にもVHL遺伝子検査が提供されるべきである.もし患者の遺伝子変異が明らかでない場合は,最低限両親に対して眼科的スクリーニングと腹部超音波による検索が行われるべきである.

注:家族の病変が認識されていない,浸透率が低い,罹患者が発症前に死亡した,罹患している親の発症が遅い,などの理由で一見家族歴がないように見える場合もある.家族歴がなくてもVHL病を除外する理由にはならない.もし親の代で変異が初めて生じた場合には,彼(女)が体細胞モザイク変異を有しており,このために臨床症状が軽度であったり現れなかったりしている可能性がある.

発端者の同胞 

  • 患者の同胞における罹患リスクは両親の遺伝的状況に依存する.
  • もし患者の親が罹患しておりVHL遺伝子変異を有している場合は,同胞が変異遺伝子を受け継いでいる可能性は50%である.
  • もし両親のいずれもが患者で認められた遺伝子変異を有していない場合は,一方の親の体細胞モザイクの可能性はあるが,同胞におけるVHL病のリスクは小さい.
  • モザイクの報告はあるが,その頻度は不明である.

発端者の子  患者の子が変異遺伝子を受け継ぐ可能性は50%である.臨床的な重症度の予測はできない.

他の家族 他の家族のリスクは個々の遺伝的な近親度によるので,家系図による検討か遺伝子検査によって決定される.

遺伝カウンセリングに関連したその他の問題

遺伝学的リスクの評価と遺伝カウンセリング がんリスク評価や分子遺伝学的検査によってリスクのある人を確定することに伴う医学的,心理的,倫理的影響に関しては以下の記載が参考になる.

  • Genetic Cancer Risk Assessment and Counseling: Recommendations of the National Society of Genetic Counselors
  • Elements of Cancer Genetics Risk Assessment and Counseling (part of PDQ, National Cancer Institute)

無症状の家族の検査について 患者家族に対する遺伝子検査は以後の臨床定期検査が必要かどうかを判断するために有用な手段である.遺伝子検査は家系内患者で遺伝子変異が明らかとなっている場合に特に有用であり,臨床的な所見がまったくない家族に対してとりわけ有用性が高い.変異遺伝子を有する者は定期的な検査を要し,一方変異遺伝子を受け継いでいない者やその子供は将来的な問題を心配する必要はない.

早期に保因者を同定することはその後の臨床的マネジメントに影響を与えるので,無症状の小児に対する検査も利益が大きい.保因者に対する眼科的検査は極力早期,5歳以前に開始されるべきなので,遺伝子検査は小児に対しても考慮される.遺伝子検査の結果によって小児の臨床的マネジメントの変更があるのなら,検査はより早期に行われうる.

両親はしばしば不必要な臨床検査を避けたいという理由で,臨床的スクリーニングを行うよりも前の時点で子供の遺伝子検査を求める.遺伝子検査の前に両親や子に対する説明(education)について特別な配慮が求められる.検査結果を両親と子の双方に伝える方法を確立しておくべきである.

VHL病に罹患している家族がいるものの遺伝子の情報が入手されていない場合,家族の保因者診断目的の遺伝子検査はそれほど単純ではない.検査結果の解釈には注意を要する.もし発症の原因となるような遺伝子変異が確認された場合は,他の家族の保因者診断にこの変異の有無を利用することができる.しかし,変異が確認できなかった場合はいくつかの可能性が考えられる.

  • 被検者は変異VHL遺伝子を有していない.
  • この家系のVHL遺伝子変異は,用いた検査法では検出できない.
  • 罹患している家族のVHLの臨床診断が誤っている.

こうした状況では,家族には小さいながらも病気の原因となる遺伝子を受け継いでいる可能性が残される.こうした者に対する遺伝カウンセリングでは,家系内罹患者のVHL病という臨床診断の確実性,患者と相談者との遺伝的な関係,検出されないVHL遺伝子変異の可能性,今後の臨床的経過観察の必要性などについて注意深い配慮が必要である.

他の考慮すべき点 VHL遺伝子検査をオーダーする医師や検査を受けようとする被験者は検査の前に,検査のリスク,有用性や限界について十分理解していることが望まれる.ある調査では常染色体優性遺伝性疾患である家族性大腸ポリポーシスの遺伝子検査に際して,約3分の1の医師が結果の解釈を誤っていたという.遺伝子検査を通常業務として行っている遺伝カウンセラーや診療機関への紹介が望まれる.

明らかに新規突然変異と思われる家系について 常染色体優性遺伝性疾患患者の両親が罹患していない場合には,患者に新生突然変異が生じた可能性が高いが,それ以外に父親あるいは母親(生殖補助医療)が異なっている場合や開示されていない養子縁組など,非医学的な理由による場合もある.

家族計画 遺伝的リスクの評価や出生前診断に関する遺伝カウンセリングは妊娠前に行われるのが望ましい.患者家族が発症前診断を受ける場合も同様である.

DNAバンク DNAバンクとは将来的な使用を想定してDNAを(多くは白血球から抽出する)保存しておくものである.遺伝子検査技術や遺伝子,変異,疾患に対するわれわれの認識が将来変化する可能性があるので,特に現在の遺伝子検査の精度が100%でない状況下ではDNA保存が考慮されうる.

出生前診断

罹患している親のVHL遺伝子変異が明らかとなっている場合は,子(胎児)が変異遺伝子を受け継いでいる可能性は50%であり,VHL病の出生前診断は技術的には可能である.胎児のDNAは胎生16-18週に施行される羊水穿刺や胎生10-12週に行われる絨毛サンプリングによって採取された胎児細胞から得られる.

VHL病のように知能に影響を与えず治療法も存在している疾患に対して,出生前診断が求められることはあまりない.特に遺伝子検査が早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は,医療関係者と家族の間では出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない.多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが,この問題については注意深い検討が求められる.

VHL病に対する着床前診断が報告されており,遺伝子変異が同定されている家系においては技術的には可能である.

訳注:日本ではVHL病に出生前診断の適応があるとは考えられておらず,着床前診断は行われていない.


関連情報

  • フォンヒッペル・リンドウ病患者会「ほっとchain」

http://www.kochi-ms.ac.jp/~fm_urol/japanese/vhl.html

事務局:高知大学医学部 腎泌尿器制御学教室内

  • VHL Family Alliance (米国の患者家族会)

www.vhl.org


更新履歴

  1. 日本語訳者 櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
    Gene Review 最終更新日: 2002.12.4. 日本語訳最終更新日: Gene Review 最終更新日: 2004.4.1 
  2. Gene Review著者: R Neil Schimke, MD, Debra L Collins, MS, Catherine A Stolle, Ph.D.
    日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)           
    Gene Review 最終更新日: 2007.3.20. 日本語訳最終更新日: 2007.5.14. (in present)

原文 Von Hippel-Lindaou Disease

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