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フォンヒッペル・リンドウ病
(Von Hippel-Lindau Syndrome)

[同義語: VHL Syndrome]

Gene Reviews著者: Carlijn Frantzen、MD、Timothy D Klasson、BSc、Thera P Links、MD、PhD、Rachel H Giles、PhD
日本語訳者
: 矢尾正祐(横浜市立大学附属病院泌尿器科)
AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)

Gene Reviews 最終更新日:2015.8.6. 日本語訳最終更新日: 2018.8.25.

原文: Von Hippel-Lindaou Disease


要約

疾患の特徴 

フォンヒッペル・リンドウ (VHL)症候群は、脳、脊髄、ならびに網膜の血管芽腫を主徴とし、腎嚢胞や淡明細胞型腎細胞がん、褐色細胞腫、膵の嚢胞および神経内分泌腫瘍、内耳リンパ嚢腫、精巣上体や子宮広間膜の嚢胞などを生じる。小脳の血管芽腫は頭痛、嘔吐、歩行障害や失調を伴うことがある。脊髄内血管芽腫とそれに関連する空洞形成は通常疼痛を伴う。脊髄圧迫に伴って感覚消失や運動麻痺が生じることがある。網膜血管芽腫はVHL症候群の初期徴候と考えられ、失明の原因になり得る。腎細胞がんはVHL患者の約70%に発症し(注、Genereviews著者の「腎がん罹患患者の約70%は60歳までに診断される」[Maherら1990]のreferenceを誤解して、短縮してしまったようです。一般的には罹患頻度は25-50%です。)、主要な死因となる。褐色細胞腫は無症候性であることが多いが、持続性あるいは発作性の高血圧の原因となる。膵臓病変は無症候性のまま経過をたどることが多く、膵内分泌や膵外分泌機能不全の原因とにはほとんどならない。内耳リンパ嚢腫はさまざまな程度の難聴を引き起こし、これがしばしば主症状となる。精巣上体嚢腫は比較的よくみられる。不妊をもたらす両側性でない限り、これが問題となることは少ない。

診断・検査 

VHLの診断は、既存の診断基準を満たす発端者で確定される。臨床的特徴が不確定な場合は、分子遺伝学的検査でヘテロ接合性のVHL遺伝子生殖細胞系列病的バリアントを同定することで診断が確定できる。

臨床的マネジメント 

症状に対する治療:ほとんどの中枢神経系(CNS)病変(大きな腫瘍および/または症候性病変の場合、脳および脊髄病変の完全切除)に対する介入、網膜(視神経ではない)血管芽腫の治療、腎細胞がんの早期手術(可能であれば腎温存手術または腎部分切除術)、両側腎摘出術後の腎移植、褐色細胞腫切除(可能であれば副腎部分切除術)、膵嚢胞および膵神経内分泌腫瘍のモニターおよび神経内分泌腫瘍切除の検討、内耳リンパ嚢腫の外科的切除の検討(特に腫瘍が小さい場合には聴覚や前庭機能を保存する目的で)、症候性あるいは生殖能力に危険を及ぼす場合は精巣上体嚢胞腺腫または子宮広間膜嚢腫の治療。

二次症状の予防:聴覚喪失、失明、神経症状、および腎移植治療の必要などの二次的障害を予防し最小限にとどめるための早期検出および腫瘍の切除。

定期検査
VHL症候群患者、VHL遺伝子の病的バリアント保有者、遺伝子の状態が不明なリスクのある血縁者。

  • 1歳で検査開始:神経症状、視覚障害、および聴覚障害の検査を年に1回。血圧モニタリングを年に1回。眼科検査を年に1回。
  • 5歳で検査開始:血中または尿中メタネフリン分画を年に1回。聴力検査を2〜3年に1回。耳感染を繰り返す患者では内耳道の薄いスライス厚の造影MRI。
  • 16歳で検査開始:腹部超音波検査を年に1回。腹部、脳、全脊髄のMRIを2年に1回。

回避すべき薬剤や環境
タバコは腎がんのリスク因子と考えられているため、回避すべきである。VHL症候群にかかわる臓器に影響を及ぼすことが知られている化学薬品および工業毒物は回避すべきである。副腎または膵臓病変を呈する場合は、コンタクトスポーツは回避すべきである。

リスクのある血縁者の検査 :
同一家系に遺伝子の病的バリアント保有者がいる場合は、リスクのある家族の遺伝子の状態を調べるために遺伝子検査を使用することが可能で、病的バリアントを保有していない他の家族の定期検査の必要性を排除することができる。

妊娠管理 :
受胎前および妊娠期間中における小脳血管芽腫および褐色細胞腫に対する確認検査。;妊娠4カ月時点の小脳単純MRI検査。

遺伝カウンセリング 

VHL症候群は常染色体優性形式で遺伝する。VHL症候群患者のおよそ80%は罹患した親からの遺伝で、約20%は新規(ドノボ、de novo)の遺伝子の病的バリアントの結果だと考えられている。親のモザイクが報告されているが、その頻度は明らかではない。VHL症候群患者の子供は50%の確率でVHL遺伝子の病的バリアントを受け継ぐ。病的バリアントが同一家族に確認されていれば出生前診断は可能である。


診断

疑われる所見

VHL症候群は、VHL家族歴の有無にかかわらず、以下の場合に疑うべきである。

  • 網膜血管腫、特に若年患者
  • 脊髄または小脳血管芽腫
  • 副腎あるいは副腎外の褐色細胞腫
  • 腎細胞がん、患者が47歳未満の場合、あるいはVHL症候群で一般的な他の腫瘍の罹患歴や家族歴がある場合
  • 多発腎および膵嚢胞
  • 膵臓の神経内分泌腫瘍
  • 内耳リンパ嚢腫
  • まれではあるが、精巣上体または子宮広間膜の多発性乳頭状嚢胞腺腫

診断の確定

VHL症候群の診断は、以下の臨床的特徴を示す発端者 [Lonserら2003、Butmanら2008、Maherら2011] および/または遺伝子検査でヘテロ接合性の生殖細胞系列VHL遺伝子病的バリアントを同定後に確定できる。遺伝子検査における遺伝子病的バリアントの同定(表1)は、臨床的特徴や画像検査での所見が不確定な場合でも、診断を確定し、定期的な経過観察に役立つ。

さまざまな検査法を使用することで診断を確定し、臨床的徴候の広がりを判定することができる(脳および脊髄MRI、眼底検査、腹部超音波検査/MRI、および血中/尿中カテコラミン代謝産物が臨床診断の確認に使用可能である)。「定期検査」の項を参照。

  • 以下に示す特徴的な病変を2ヶ所以上呈する孤発症例(VHL症候群の家族歴が不明な患者):
    • 2ヶ以上の網膜、脊髄または脳の血管芽腫、あるいは血管芽腫1ヶに加えて1ヶ所の内蔵病変(多発性の腎嚢胞や膵嚢胞など)
    • 細胞がん
    • 副腎あるいは副腎外の褐色細胞腫
      まれではあるが、内耳リンパ嚢腫、精巣上体または子宮広間膜の乳頭状嚢胞腺腫、または膵臓の神経内分泌腫瘍
  • VHL症候群の明らかな家族歴があり、以下の1ヶ以上の病変を呈する患者。
    • 網膜血管芽腫
    • 脊髄または小脳血管芽腫
    • 腎あるいは副腎外褐色細胞腫
    • 腎細胞がん
    • 多発性の腎嚢胞や膵嚢胞
      注:他のVHLの特徴的な病変は、内耳リンパ嚢腫(ELST)と膵神経内分泌腫瘍である。しかし、これらは通常VHLの臨床診断には用いられない。ELSTは、側頭骨錐体部後面の腫瘤として現れ、標準MRIでは見過ごされることがある。症候性の場合は、造影剤を用いたMRIおよびT1強調像で薄いスライス厚の内耳道の撮像を行うことが推奨される。

分子検査アプローチには、単一遺伝子検査、複数遺伝子を含むパネル検査の使用、より包括的なゲノム検査がある。

  • 単一遺伝子検査
    まずVHL遺伝子のシークエンス解析を実施し、病的バリアントが検出されない場合に、VHL遺伝子の欠失/重複解析を行う。
  • VHLや他の関心遺伝子を複数含む遺伝子パネル検査(「鑑別診断」の項参照)を使用することもできる。注:パネルに含まれる遺伝子群は検査施設によって異なり、時間とともに変化することがある。

包括的なゲノム検査の詳細についてはここをクリック。

  • VHL症候群の特徴を呈する患者で、遺伝子検査(および/または遺伝子パネル検査の使用)で診断の確認ができなかった場合は、エクソームシークエンス、ゲノムシークエンス、ミトコンドリアシークエンスなどのより包括的なゲノム検査(必要に応じて)を検討してもかまわない。包括的ゲノム検査の概要についてはここをクリック。遺伝子検査発注の詳細はここへ。

表1.フォンヒッペル・リンドウ症候群で用いられる分子遺伝子診断検査

遺伝子1 検査法 本検査法で検出される病的バリアント2の割合
VHL シークエンス解析3 ~72% 4
遺伝子欠失/重複解析5 ~28% 4、6
  1. 表A遺伝子および染色体遺伝子座タンパク質のデータベース参照。
  2. 当該遺伝子で検出されたアレルのバリアントの詳細については分子遺伝子参照。
  3. シークエンス解析では、バリアントを、良性、良性の可能性が高い、不確定、病的の可能性が高い、病的、として検出する。病的バリアントには、遺伝子内の小欠失/挿入およびミスセンス、ナンセンス、およびスプライス部位バリアントを含み、通常、エクソンまたは遺伝子全体の欠失/重複は検出できない。(シークエンス解析の結果の解釈で検討すべき問題については、ここをクリック。)
  4. Stolleら[1998]
  5. 標的遺伝子の欠失/重複解析では、遺伝子内欠失または重複が検出される。使用される方法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、multiplex ligation-dependent probe amplification(MLPA)法、単一エクソンの欠失または重複を検出できるようにデザインされた遺伝子標的マイクロアレイが挙げられる。
    6.Hoebeeckら[2005]、Banksら[2006]

検査の特性

感度および特異度などの検査の特性に関する情報は「臨床的有用性遺伝子カード」の項を参照[Deckerら2014]。


臨床的特徴

VHL症候群は脳、脊髄、ならびに網膜の血管芽腫を主徴とし、腎嚢胞や腎細胞がん、褐色細胞腫、膵嚢胞および神経内分泌腫瘍、内耳リンパ嚢腫、精巣上体や子宮広間膜の嚢胞などを生じる。いくつかの病変では集積性が認められ、特徴的なVHL症候群の表現型を示すことがある。臨床徴候とその重症度は家系ごとに、さらには家系内で同じ変異を有していても患者ごとに差異がある。

血管芽腫

中枢神経系(CNS)の血管芽腫はVHL症候群における特徴的な病変である [Catapanoら2005、Gläsker 2005]。CNS腫瘍は同時性または異時性に起こり、多発性であることが多い。概ね80%が脳に、20%が脊髄に発生する。まれに末梢神経にも血管芽腫が発生することがある [Gianniniら1998]。

血管芽腫は増殖期と安定期の間を行き来し [Waneboら2003]、一般には増殖は緩除であるが、時に急速な増大によって水頭症やうっ血乳頭を引き起こすこともある。一部の血管芽腫は症状を呈さず、画像検査でのみ発見される。

中枢神経系血管芽腫の増大は男性および生殖細胞系列でのVHL遺伝子の部分欠失と関連していると思われる [Lonserら2014、Huntoonら2015]。この病変の増大のパターンは跳躍型(72%)、直線型(6%)、指数関数的(22%)がある。増大は男性、症候性腫瘍および血管芽腫に伴う嚢胞性病変で顕著である。

  • 脳血管芽腫
    脳では大部分はテント下、特に小脳半球に発生する。VHL症候群では、テント上の血管芽腫は下垂体茎でもっとも発生しやすい [Lonserら2009]。臨床症状は腫瘍発生部位に依存する。テント下腫瘍では頭痛、嘔吐、歩行障害や失調が主症状となる。テント上腫瘍の場合の症状は腫瘍発生部位により異なる。
  • 脊髄血管芽腫
    通常硬膜内に発生し頸胸髄領域に多いが、時に全脊髄にできる場合がある。臨床症状を引き起こすような血管芽腫の大部分は脊髄空洞症を伴っている [Waneboら2003]。脊髄血管芽腫は通常疼痛を伴うが、脊髄の圧迫により感覚運動障害も生じる。
  • 網膜血管芽腫
    網膜病変は、以前は網膜血管腫とよばれていたが、病理学的にはCNS血管芽腫と同一のものである。これらはVHL症候群の初発症状であり、小児期から生じることがある。網膜血管芽腫は患者の約70%の患者に発症し [Websterら1999、Kreusel 2005]、診断平均年齢は25歳である [Dollfusら2002]。腫瘍は網膜の側頭側辺縁部に発生することが多く、流入および流出血管は視神経乳頭に達している。しかし、後極(1%)や視神経乳頭部(8%)に発生することもある。

網膜血管芽腫は無症候性で、眼科的検査によって発見される。他に、網膜剥離や出血による視野欠損や視力障害を生じる。網膜血管芽腫が静止状態であっても、網膜機能検査では異常結果を示すことがある [Kreuselら2006]。網膜血管芽腫の数が年齢とともに増加する傾向はないが、年齢とともに失明の可能性は増大する [Kreuselら2006]。

腎病変

  • VHL症候群では多発性腎嚢胞がしばしば見られる [Lonserら2003]。
  • 腎細胞がん(RCC)、特に淡明細胞癌が嚢胞内や腎実質の周辺領域から発生し、腎がん罹患患者の約70%は60歳までに診断される。またVHL症候群の主要な死因となっている [Maherら1990、Maherら1991]。VHL遺伝子の病的バリアントは家族性および散発性の腎細胞がんのもっとも主要な原因である。VHL患者に発症した腎細胞がんの全生存は腫瘍サイズ(<3 cmまたは≥3 cm)や患者の年齢と相関がみられる [Kwonら2014]。

褐色細胞腫は持続性あるいは発作型の高血圧の原因となるが、時にはまったく無症状で腹部画像検査の際に偶然発見される。褐色細胞腫は通常片側あるいは両側の副腎に発生する。褐色細胞腫は通常良性であるが、悪性例も報告されている[Chenら2001、Jimenezら2009]。

パラガングリオーマ。同様な病因で、パラガングリオーマが腹部あるいは胸部の交感神経幹に沿って発生する[Schimkeら1998、Boedekerら2014]。これらの腫瘍はほとんどの場合非機能性である。

膵病変

  • 膵嚢胞
    多くの膵病変は単純性嚢胞でしばしば多発するが、病変がかなり進展しないと内分泌・外分泌機能障害は生じない。時に膵頭部嚢胞が胆汁うっ滞を引き起こす。
  • 神経内分泌腫瘍
    5%〜17%のVHL患者に膵の神経内分泌腫瘍が発生する[Lonserら2003、Maherら2011]。これは通常ホルモン産生はなく増殖もゆっくりであるが、特に腫瘍径が3 cmを超えるものでは悪性例も報告されている[Marcosら2002、Corcosら2008]。

内耳リンパ嚢腫はおよそ10%〜16%のVHL症候群患者にみられ、片側性あるいは両側性の難聴が初発症状となる場合がある[Kimら2005、Binderupら2013b]。難聴は通常突然発症し、その重症度はさまざまであるが、重症から重篤であることが多い[Chooら2004、Kimら2005]。めまいや耳鳴を訴えることもある。症状と腫瘍サイズが関連しているとは思われない。大きな内耳リンパ嚢腫は他の脳神経を巻き込むことがある。内耳リンパ嚢腫の悪性例はまれである [Muzumdarら2006]。

精巣上体および子宮広間膜の嚢胞腺腫

精巣上体または乳頭状嚢胞腺腫はVHL症候群の男性に比較的よく見られる。通常臨床症状はないが両側に発生した場合は男性不妊の原因となる。女性でこれに対応する病変としては子宮広間膜の乳頭状嚢胞腺腫があるが、これはより頻度が低い。

遺伝型と臨床型の関連

褐色細胞腫または腎細胞がんの発生しやすさに基づいて、VHL症候群は4つの表現型(1型、2型A、2型B、2型C)に分類されている。多くの研究により、褐色細胞腫の分子発生機構は他のVHL病変とは異なるという結論が裏付けられている。したがって、もっとも関連する遺伝型と表現型の関係は、当該アレルに関連する褐色細胞腫の有無に大きく依存する。以下の考察では、これまでに発表された遺伝型-表現型の研究を要約し、今後の研究を要する注記を付記した。注:パターンは明確ではなく、遺伝型-表現型関連には現在の所、診断的あるいは治療的な意味がなく、学術目的でのみ使用される。

VHL1型

網膜血管腫、CNS 血管芽腫、腎細胞がん、膵嚢胞および神経内分泌腫瘍。
VHL1型は褐色細胞腫の発症リスクが低い。VHLタンパク質のフォールディングを著しく破壊する切断型変異またはミスセンス病的バリアント[Stebbinsら1999]はVHL1型と関係している。

VHL2型

褐色細胞腫、網膜血管腫およびCNS血管芽腫。
VHL2型は褐色細胞腫の発症リスクが高い。VHL2型の患者はほぼ全例がミスセンス病的バリアントを有している。一部のミスセンス病的バリアントは特徴的な臨床像と関連しているようである[Weirichら2002、Sansóら2004、Abbottら2006、Knauthら2006](「分子遺伝学」の項を参照)。

VHL2型はさらに以下のサブタイプに分類される。

  • 2型A: 褐色細胞腫、網膜血管腫およびCNS血管芽腫;腎細胞癌のリスクは低い
  • 2型B: 褐色細胞腫、網膜血管腫、CNS血管芽腫、膵嚢胞および神経内分泌腫瘍、腎細胞がんのリスクが高い
  • 2型C: 褐色細胞腫のみを発症する

いくつかのグループが、VHL遺伝子の完全欠失では腎細胞癌のリスクが低いことを報告した[Cybulskiら2002、Maranchieら2004、McNeillら2009]。特にVHL遺伝子の全欠失または部分欠失領域が5’側に位置するC3orf10遺伝子を含むような患者では腎細胞がんのリスクが有意に低い[Maranchieら2004、McNeillら2009]。この遺伝子型では、腎細胞がんと褐色細胞腫の両方のリスクが低いという特徴を持ち、VHL1型Bとも命名されるかもしれない特徴的な臨床型を示すことがある。

明らかな2型C症候群の家系内患者の一部では血管芽腫がみられる[Neumann & Eng 2009]。

浸透率

VHL病的バリアントでは疾患浸透率は高い。VHL病的バリアントの保持者のほぼ全員が65歳までに症状を呈する [Maherら1991]。

病名(表記法)

VHL症候群の旧名には、網膜・小脳血管母斑症(angiophakomatosis retinae et cerebelli)、家族性小脳・網膜血管腫症、小脳網膜血管芽腫症、ヒッペル病、ヒッペル・リンドウ症候群、リンドウ病、網膜・小脳血管腫症などがある[Molinoら2006]。

有病率

VHL症候群の有病率は36,000出生あたり1名、デノボ変異率は配偶子100万あたり4.4と推測されている[Maherら1991]。

遺伝的に関連のある疾患

家族性赤血球増加症2型(ECYT2)(OMIM 263400)は、循環赤血球量の増加、血清エリスロポエチンレベルの上昇、正常な酸素親和性を主徴とする。家族性ECYT2はVHL遺伝子のホモ接合型または2種類のヘテロ接合型の病的バリアントが原因となっている。家族性ECYT2患者の多くに血栓症および/または出血を起こすが、本疾患患者または患者の血縁者でヘテロ接合性のバリアントを有する者にVHL症候群に関連する腫瘍性病変を発症したという報告はこれまでない[Gordeukら2004]。

注:先天性赤血球増加症は、世界的に見てある地域に特有の疾患である。VHLの病的バリアントは先天性赤血球増加症の主な原因である[Pastoreら2003]。本疾患が地方病として見られるロシア連邦のチュバシ共和国で、Angら[2002]が、VHL 遺伝子の病的バリアントp.Arg200Trpのホモ接合性を同定した。


鑑別診断

単発の血管芽腫、網膜血管腫、または淡明細胞型腎細胞がん。以下の条件を満たす場合、VHLの分子遺伝学的検査の結果に基づいて高い確率でVHL症候群を否定することは可能である。(1)単発の血管芽腫、網膜血管腫、または淡明細胞型腎細胞がん、(2)検出可能な生殖細胞系列VHL病的バリアントがみられない。しかし、病的バリアントの体細胞モザイクの可能性は常に考慮する必要がある。若年で、特に複数の病変を認める患者では、高齢で一ヶの病変しか認めない患者に比べて生殖細胞系列のVHL病的バリアントを検出する可能性はより高い[Neumannら2002]。

褐色細胞腫

およそ25%の褐色細胞腫患者および褐色細胞腫の家族歴が不明な患者では、RETVHLSDHDSDHBSDHASDHCSDHAF2TMEM127MAX遺伝子のいずれか1つのヘテロ接合性病的バリアントがみられる。患者が20歳未満でない限り、散発性かつ片側性の褐色細胞腫(VHL症候群の家族歴がない患者)で生殖細胞系列VHL病的バリアントを認めることはまれである。

  • 多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)
    MEN2A患者は、甲状腺の髄様がん、褐色細胞腫、および副甲状腺腺腫または過形成を発症するリスクが高い。褐色細胞腫は通常、甲状腺髄様がん(MTC)発症後あるいは同時に生じるが、MEN2A患者の13%〜27%では初発症状となる[Inabnetら2000、Rodriguezら2008]。MEN2Bの特徴として、口唇や舌の粘膜神経腫、厚く赤い上下口唇を伴う特徴的な顔貌、消化管の神経節腫、マルファン様体形などが挙げられ、MTCおよび褐色細胞腫発症リスクも高い。褐色細胞腫は、MEN2B患者の50%でみられ、これらのうち約半数は多発性で両側性であることが多い。RET遺伝子のヘテロ接合性病的バリアントはMEN2と関連している。
  • 遺伝性パラガングリオーマ・褐色細胞腫症候群
    明らかに非家族性で無症候性の褐色細胞腫患者のおよそ8.5%で、遺伝性パラガングリオーマ・褐色細胞腫症候群の原因となるコハク酸脱水素酵素のサブユニットをコードする遺伝子(SDHDSDHBSDHASDHCSDHAF2)の1つに病的バリアントが認められている[Neumannら2002、Neumannら2004]。これらの遺伝子の変異は、副腎外褐色細胞腫またはグロームス腫瘍としても知られている家族性パラガングリオーマと関連している[Baysalら2000、Astutiら2001]。Korpershoekら[2011]は、明らかに散発性のパラガングリオーマ・褐色細胞腫患者の3%にSDHA生殖細胞系列病的バリアントがみられることを見出した。MAX生殖細胞系列病的バリアントが家族性または非家族性褐色細胞腫患者のおよそ1%にみられている[Burnichonら2012]。
  • TMEM127に関連する褐色細胞腫感受性(OMIM 613403)
    最新の研究では、1%〜2%の家族性または非家族性褐色細胞腫患者でTMEM127の生殖細胞系列病的バリアントがみられると推定している[Yaoら2010、Abermilら2012]。TMEM127の生殖細胞系列病的バリアントを有する少数例で頭頚部または副腎外のパラガングリオーマを有している[Neumannら2011]。
  • 褐色細胞腫は神経線維腫症1型(NF1)で時に認められる。

腎細胞がん(RCC)。家族性RCC患者は、遺伝性平滑筋腫症および腎癌(HLRCC)およびBirt-Hogg-Dubé(BHD)症候群の検査を受けるべきである。

VHLの内耳リンパ嚢腫はメニエール病と誤診断されることが多い。


臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

VHL症候群と診断された患者の疾患の範囲やニーズを把握するために、以下の評価が推奨される。

  • CNSまたは末梢神経系の血管芽腫症を証明するような神経学的な既往や身体検査。べースライン時の脳および脊髄MRIは標準検査と考えられている。
  • 網膜血管芽腫に対する眼科的診察
  • 16歳以降での腹部超音波検査。腎臓、副腎、膵臓の疑わしい病変は、より感度の高い方法であるCTまたはMRIで検査すべきである。
  • 血圧測定に加えて、5歳以降は褐色細胞腫に対する尿中カテコラミン代謝産物測定を行う。 ●内耳リンパ嚢腫に伴う聴力低下に対する聴力検査。
  • 臨床遺伝子専門家および/または遺伝カウンセラーとのカウンセリング。

徴候に対する治療

VHL病変の管理に関するガイドラインはない。

CNS血管芽腫

  • ほとんどの中枢神経系血管芽腫は完全かつ安全に切除可能である[Lonserら2003]。
  • 臨床症状の有無にかかわらず早期の手術を提唱する者もあるが、無症状の腫瘍に対しては毎年の画像診断で経過をみるべきとする考えもある。
  • 脊髄の嚢胞/空洞に対する外科的治療を推奨する。
  • 手術前の動脈塞栓術は、特に大きな脊髄腫瘍に対して適応となる。
  • 定位放射線治療の位置付けはいまだ疑問である[Oldfield 2015]。ガンマナイフ治療は手術が困難な部位に生じた小病変に対して有用であると思われる[Asthagiriら2010、Simoneら2011]。この手法は固形腫瘍を縮小させる効果はあるが、嚢胞性病変を予防することはおそらくできない。定位放射線治療を受けた20名の40血管芽腫を対象にほぼ6年間追跡した試験では、33%で進行がみられなかった[Asthagiriら2010]。血管芽腫(25%)の自然経過の解析で同様の結果が得られている[Lonserら2014]。予期しない増殖パターンが、不要な介入を回避するための定位放射線治療をいつ始めるかの判断を困難にしている。最新の試験では、定位放射線治療による局所腫瘍のコントロール率は3年後で93%、5年後で89%、10年後で79%であった[Kanoら2015]。腫瘍のコントロールの要因は、固形腫瘍であること、サイズがより小さい、VHL症候群に合併した血管芽腫であること、および高い辺縁線量であった。186名中13名(7%)に合併症が認められ、11名はステロイド治療を要し、1名は難治性腫瘍の周辺浮腫により死亡した。2名には追加の手術が必要であった。

網膜血管芽腫

  • 自然消退が認められるとはいえ、多くの眼科医は失明を防ぐために、網膜(視神経ではない)血管腫に対する早期治療が適切と考えている。
  • 網膜血管芽腫の治療法としては、ジアテルミー、キセノン、レーザー、凍結凝固法などがあり、それぞれの治療効果は病変の部位、大きさ、数に依存する。治療から数年経過して再発することも知られているが、これは同じ部位に生じた新たな病変の可能性もある。
  • 標準的な治療が病変の進行を制御できない例に対する外照射放射線療法の有用性が示されている[Rajaら2004]。

腎細胞がん

  • 腎細胞がんに対しては早期の手術が最良の治療法であるが、3 cm未満のサイズの病変には均一なモニタリングが推奨される。腫瘍の大きさと部位によっては、予後に影響を与えることなく腎の一部を残存させる部分切除術も可能となる[Grubbら2005]。
  • 腎摘出術を行う際には、VHL症候群ではない腎細胞がん患者で行われているのと同様、副腎を温存すべきである。対側副腎に褐色細胞腫が生じた場合に、残存副腎が機能し、またステロイド補充療法を遅らせ得る。
  • 小さい病変や外科手術のリスクが高い例に対しては、凍結凝固法が用いられる機会が増えている[Shingleton & Sewell 2002]。
  • 高周波アブレーション療法は腫瘍サイズが小さい場合(特に3 cm未満)に適用されることが多い[Bestら2012]。しかし、高周波アブレーション療法で治療された小さいサイズの病変は頻回な治療を要する[Jolyら2011]。腹腔鏡下および経皮的な高周波アブレーション療法の主な合併症発現率(放射線治療、手術、内視鏡的治療を要する)はそれぞれ7.3%および4.3%である[Youngら2012]。
  • 両側腎摘出術が必要となった患者に対しては、腎移植も有効である。ドナーとなりうる、かつVHL保因者でない血縁者に対する評価を行うことが必要である。

褐色細胞腫

  • 褐色細胞腫は手術によって摘除する。腹腔鏡手術も有効であることが示されている。
  • 患者に高血圧がなくても、手術前7〜10日のαアドレナリン遮断薬による治療を行うのが適切である。
  • 副腎部分切除も考慮できる。36名の患者を対象とした1件の長期にわたる追跡試験(9.25年)では、転移はみられなかった。副腎部分切除術後の同側の再発が3名(11%)に認められた[Benhammouら2010]。
  • 副腎部分切除は小児でも選択肢となる。10名のVHL患者に対して行った手術のうち、18手術が問題なく行われた。追跡後(中央値7.2年)、2名が同側副腎に新規の腫瘍を発症した[Volkinら2012]。

膵嚢胞および神経内分泌腫

  • 膵嚢胞はよくみられるが、内分泌機能に影響を及ぼすことはまれで、通常手術的摘除は要しない。
  • 膵神経内分泌腫瘍は嚢胞および漿液性嚢胞腺腫と鑑別する必要がある。膵腫瘍の進行は通常緩徐で、ホルモン的に活性ではないが、転移の原因となる。以下の予後基準のいずれかに該当する転移リスクがある場合、手術を考慮すべきである[Blansfieldら2007]。
    • 3 cm以上の腫瘍
    • VHL遺伝子エクソン3の病的バリアント
    • 腫瘍倍加時間が500日未満のもの

内耳リンパ嚢腫(ELST)。内耳リンパ嚢腫の増殖は遅いため,手術を考慮する際は合併症として聴力を失う可能性について議論しておく必要がある。小腫瘍に対する早期治療は聴力と前庭機能を保護することが示されている[Kimら2005、Friedmanら2013]。Friedmanらは、術後に2名で(2/18)顔面神経機能が低下し、3名(3/18)でELSTが再発したと報告した(平均追跡期間:67カ月)。Kimら[2013]は、31名のVHL患者の33件のELST切除について調査した。29名は症候性であった。術後、97%の患者で聴力は安定するか改善し、91%の患者で腫瘍摘出を完了した。合併症が3腫瘍で生じ、その内訳は、脳脊髄液漏出(2名、6%)、一過性の下部脳神経の麻痺(1名、3%)であった。

精巣上体または子宮広間膜の乳頭状嚢胞腺腫。症候性または生殖能力を脅かさない限り、通常手術を必要としない。

二次病変の予防

定期検査による病変の早期発見と腫瘍の切除により、聴力や視力の喪失や神経症状を予防し、最小限に抑えるとこができる。

定期検査

VHL症候群が既知の患者、臨床的病変がないがVHL病的バリアント保因が同定されている患者、DNAベースの検査を受けていない一親等血縁者は、VHL症候群に精通している医師または医療チームによる定期的な臨床モニタリングが必要である。

  • 神経症状、視覚障害または聴覚障害については1歳から年に1回の検査を開始する
  • 眼振、斜視、白色瞳の徴候については1歳から年に1回の測定を開始する
  • 1歳から年に1回の血圧測定を開始する

合併症のモニタリングは以下の通りとする。

  • CNS病変: 2年に1回の脳および脊髄のMRIを16歳から開始する。内耳/側頭骨錐体部(ELST)および後頭蓋に注意が必要である。
  • 蔵病変: 年に1回の腹部超音波、2年に1回の腹部MRI(腎臓、膵臓および副腎)を16歳から開始する。
  • 網膜血管腫: 年に1回の倒像検眼鏡による眼科的検査を1歳から開始する。
  • 褐色細胞腫: 年に1回の血中または尿中メタネフリン分画測定を5歳から開始する。
  • 内耳リンパ嚢腫(ELST)。最良のELST検出法は不明である。
    • ELSTは側頭骨錐体部後面の腫瘤として現れ、標準MRIでは見過ごされることがある。症候性の場合は、造影剤を用いたMRIおよびT1強調像(水種検出のため)で薄いスライス厚の内耳道の撮像を行うことが推奨される。Butmanら[2013]は、ELST関連の水腫検出にFLAIR MRIが有用としている。
    • Butmanら[2013]は、ELSTが症状の原因となる迷路骨包への浸潤(注、Genereviews版のoptic capsuleは間違いで, reference原著ではotic capsuleです)、出血、内リンパ水腫の3つの病理生理学的機序を報告した。これら3つの機序はすべて症状の原因となり、出血や水腫はMRIで視認できる病変(<3 mm)がなくとも生じる。
    • 5歳から2〜3年に1回の聴覚検査を開始する(難聴、耳鳴、めまいがある場合は年に1回)。聴覚は難聴の(早期)検出に用いることができる。Binderupら[2013b]は、聴力データで難聴が明らかな男性患者について報告し、その患者のELSTは1年以上後に、右耳の聴力が完全に損失した後にMRIでのみ検出可能であったと報告した。VHL患者の聴力データについての大規模試験の結果はまだ報告されていない。

現行の定期検査ガイドラインではVHL患者の構造化された精神的な支援を取り上げていないが、患者のパートナー、家族、さらに研究によると、精神的な支援が明らかに必要である[Lammensら2010、Lammensら2011b]。

注:VHL向けに作成された定期検査ガイドラインはエビデンスベースではなく、多くは北米からの経験的な報告に依存している。ガイドラインは地域的なケアの基準によって少しずつ異なっている。

米国では、VHLアライアンスが医療専門家とともに、世界で一般的に受け入れられているガイドライン作成のために広範囲に活動してきた [VHLハンドブック]。他のガイドラインはデンマークとオランダを起源としている。例えば、オランダのガイドラインでは、適応がある場合にのみELSTのスクリーニングを推奨している。さらに、プライマリケアの医師による検査およびメタネフリン値の測定を10歳から開始し、眼科検査を5歳から開始することを推奨している。

2件の最新の試験では腫瘍の進行を調べている。一件の試験では、新規腫瘍の発生を年齢と遺伝子型で比較した[Binderupら2013b]。その結果によると、ティーンエイジでの網膜血管腫の定期検査は不可欠で、成人では中枢神経系血管芽腫の検査が主に重要である。もう一つの試験では、臓器ごとの最適なサーベイランスの開始とその間隔について分析した[Kruizingaら2013]。それによるとメタネフリン測定を開始する最適年齢は5歳である。VHL患者の網膜スクリーニングは12歳で開始できる。中枢神経系血管芽腫および内蔵病変については、その開始年齢は現行の定期検査ガイドラインと一致していた。さらに、5%の検出率を達成するには、網膜腫瘍に対するサーベイランスの間隔はガイドラインのものの2倍長、副腎については4倍長となった。

定期検査ガイドラインの改訂版では、VHL患者の平均余命は1990年と比べて16年以上延長した[Wildingら2012]。2件の試験では、デンマークとオランダの国主導の定期検査ガイドラインの実施について調べている。1件の試験では、試験対象となった84名の患者のうち90%以上が自国のVHL定期検査ガイドラインを良く理解していたと報告している。しかし、日常での生活習慣に関しては、オランダのガイドラインと部分的にしか一致していない情報を患者の64%が得ていた[Lammensら2011a]。デンマークの試験では、国が定めたVHL患者およびリスクのある人向けのVHLガイドラインに関して、フォローアップのコンプライアンスおよび頻度は実に低かった[Bertelsen & Kosteljanetz 2011]。これらの試験は総合して、医師を通して定期検査ガイドラインを正確に実施し、VHL患者は患者指向の情報キャンペーンにより即座にプラスの影響が得られると提言している。

回避すべき薬剤や環境

タバコ製品は、腎がんのリスク因子と考えられているため、回避すべきである。
VHLにかかわる臓器に影響を及ぼすことが知られている化学薬品および工業毒物は回避すべきである。
副腎または膵臓病変を呈する場合は、コンタクトスポーツは回避すべきである。

リスクのある親族の検査

VHL症候群に伴う病変を早期に発見することは適切な治療介入と予後の改善につながる。したがって、小児を含めて未発症者の可能性がある者に対し、臨床的な経過観察を行うことは適切な行為である。米国臨床がん学会はVHL症候群をグループ1(家族に対する遺伝子検査を通常の臨床業務の一部として位置づけるべき疾患)と分類している[Robsonら2010](全文)。

家系でVHL病的バリアントの保有が既知の場合、リスクのある家族に分子遺伝学的検査を実施して早期に同定して診断の確実性を高め、病的バリアントを遺伝していないリスク者に対する不要なスクリーニングを軽減することができる[Priesemannら2006]。

家系でVHL病的バリアントの保有が未確定の場合および/またはリスクのある人が遺伝子検査を宗教上あるいは経済的な理由から拒んだ場合、VHL病変の継続的なスクリーニングを行う(「定期検査」の項を参照)。

VHL症候群と臨床的に診断された家族の検査ができない場合、リスクがあると推定される血縁者の遺伝子の状態を確認する目的の分子遺伝学的検査は単純ではない。このような検査の結果の解釈には注意が必要である。検査結果が陽性の場合は、リスクのある家族がVHL病的バリアントを保有していることを意味し、同様の分子遺伝学的検査法を使用して他のリスクのある家族の遺伝子の状態を評価することができる。しかし、検査結果が陰性の場合は、以下のうちいずれかの可能性が示唆される。

  • リスクのある家系員がVHL病的バリアントを遺伝していない。
  • 家族のVHL病的バリアントが使用した検査法では検出できていない。
  • 罹患している家系員に対するVHL症候群の臨床的診断が疑わしい。

この状況では、リスクがあると推定される家系員は、可能性は小さく限定されてはいるものの、病的なアレルを保持しているという残されたリスクがある(例えばVHL症候群または他の遺伝性疾患など)。このような場合のカウンセリングでは、VHL病的バリアントを保有している家系員のVHL症候群の臨床診断の確実性、リスクがある人と罹患者の関係、VHL病的バリアント(または他の遺伝子)がみられない家族の認識されているリスク、継続的な臨床的定期検査のニーズについて慎重に検討する必要がある。

遺伝カウンセリング目的に対するリスクのある血縁者の検査に関連する問題については「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。

妊娠管理

妊娠しているVHL女性患者への定期検査の推奨はいまだ議論がある。フランスのVHL研究グループによる研究では、1回以上妊娠経験のあるVHL患者で有意に高い血管芽腫合併症発生率が示された[Abadieら2010]。他の研究では、妊娠は小脳血管芽腫増殖に大きな影響を及ぼし、全体的に高い合併症発生率(17%)の原因であると結論付けた[Frantzenら2012]。妊娠前ケアおよび妊娠中の専門の医療センターでの集中的な定期検査が、したがって推奨される。褐色細胞腫および小脳血管芽腫には特別の注意を要する。他の試験では、妊娠は新たな血管芽腫の発生または血管芽腫/嚢胞の増殖と関連していなかった[Yeら2012]。彼らのデータから、妊娠期間中の特別な措置は不要であることが示唆される。VHLハンドブックでは、造影剤を用いない小脳のMRI検査を妊娠4カ月で実施することを推奨している。

研究中の治療法

特定のVHL病的バリアントではHIFαを抑制することができず、病因となる血管内皮細胞増殖因子(VEGF)過剰発現を招く。多くの実験的治療ではこれらの制御破綻したシグナル伝達経路を標的としている。VEGF受容体阻害薬であるラニビズマブの硝子体内注入は、局所治療が奏功しない網膜血管芽腫を有する患者に用いられ,ある程度の効果を示している[Wongら2008]。別のVEGF受容体阻害薬であるベバシズマブの硝子体内注入も、VHL患者の網膜血管芽腫の治療に有効であることが示されている[Hrisomalosら2010]。全例ではないが、一部のCNS血管芽腫症例では中枢神経系血管芽腫を安定させることが示されている[Madhusudanら2004]。

成長因子受容体群の作用を阻害するチロシンキナーゼ阻害薬であるスニチニブは、まれな切除不能の悪性褐色細胞腫に対してある程度役立つが、これらの腫瘍は通常良性であるため手術による切除の方が明らかに好ましい[Jimenezら2009]。スニチニブはVHL患者(血管芽腫ではない)の淡明細胞型腎細胞がんを効果的に治療できることが示されている[Jonaschら2011]。

PD-L1を標的とする抗体のような免疫チェックポイント阻害薬は腫瘍の制御に有望であることが示されているが、全身に多くの無症状の病変を有する可能性が高いVHL患者におけるこれらの薬剤の毒性はまだ不明である。

Sardiら[2009]は、サリドマイドで治療した進行性の多病巣性脊髄血管芽腫の病勢が3年間安定していたと報告した。

遺伝子置換療法および他の治療的処置のアプローチはまだ初期開発段階にある。現在のところ、VHLに対するそのような治療は存在しないが、失明の原因となる他の単一遺伝子疾患の例を見習うのは非常に興味深い。勇気づけられることとして、遺伝子置換療法は、レーバー先天性黒内障や網膜色素変性、アッシャー症候群などの他の眼の疾患に問題なく用いられていることである[Ashtariら2011、Trapaniら2014、Dengら2015]。医学会やおよび研究団体は、疾患進行の改善や早期検出法の改善に大きく着目している。手術手技は迅速に改善しており、治療オプションは毎年広がっている。

ナンセンスバリアントがメッセンジャーRNA(mRNA)で未成熟終止コドンを引き起こす罹患者の一部は、アタルレンとしても知られる終止コドン124(PTC124)による恩恵を受ける可能性がある [Auldら2010]。UAA、UAG、UGAの3つの終止コドンがある。PTC124は3つすべての終止コドンのリードスルーを促すがそれぞれの率は異なる。もっとも高いリードスルー率はUGAで認められ、UAGとUAAがそれに続く。PTC124は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、膵嚢胞線維症(CF)、アッシャー症候群1型Cで問題なくナンセンスバリアントのリードスルーを促すことが示されている。第1相および第2相臨床試験では、長期使用後もPTC124治療による重篤な副作用がみられなかった[Wilschanskiら2011]。VHLに対するPTC124の効果に関する前臨床試験が進行中である。

ゲンタマイシンのようなアミノグリコシドは、高用量で使用した場合未成熟終止コドンのリードスルーを促すが、重篤な副作用を引き起こす。

さまざまな疾患の範囲および症状に対する臨床試験の情報はClinicalTrials.govを参照のこと。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

VHL症候群は常染色体優性形式で遺伝する。

患者家族のリスク

発端者の両親

  • 約80%のVHL症候群患者には罹患した親がいる。
  • 発端者の約20%は、デノボVHL病的バリアントによると推測される。デノボ病的バリアントに起因するVHL症候群患者の割合は約20%である。
  • 発端者で同定されている病的バリアントがいずれかの親の白血球DNAにみられない場合、2つの説明が考えられる。1つは片親の生殖細胞系列モザイク現象で、もう1つは発端者のデノボの病的バリアントである。生殖細胞系列モザイク現象が起こる確立は不明である。しかし、いくつかの結果により、モザイク現象は現在考えられているよりも大きくVHL症候群に影響することが示唆される。感度が改善された次世代シークエンス解析によりVHLのモザイク現象検出率があがるだろう[Wuら2013、Coppinら2014]。
  • 明らかなデノボ病的バリアントを有する発端者の親に対しては分子遺伝学的検査が推奨される。発端者のVHL病的バリアントが不明な場合は、最低限両親に対して眼科的スクリーニングと腹部超音波による検索が行われるべきである。
  • 一部のVHL症候群患者の家族歴は、家族の疾患、症状発現前の親の早期死亡、または罹患親の疾患の後期発症を認識することができず、陰性となることがあると思われる。したがって、発端者の両親の適切な評価が行われない限り、明らかに陰性の家族歴は確認できない。

注:親の代で病的バリアントが初めて生じた場合には、体細胞モザイク変異を有しており、このために臨床症状が軽度であったり現れなかったりしている可能性がある。

発端者の同胞

  • 患者の同胞における罹患リスクは両親の遺伝的状況に依存する。
  • 患者の親が罹患しておりVHL遺伝子病的バリアントを有している場合は、同胞が病的バリアントを受け継いでいる可能性は50%である。
  • 両親が、臨床的に罹患がなく35歳あるいはそれ以上である場合は、発端者の兄弟姉妹のリスクは低いと思われる。
  • 疾患を認識していない可能性や症候群の後期発症の可能性により、両親が罹患していない発端者の兄弟姉妹にもVHL症候群の発症リスクはある。
  • 両親のいずれもの白血球DNAに発端者で認められた病的バリアントが検出されない場合、兄弟姉妹のリスクは低いが、生殖細胞系列モザイク現象により一般人口よりは高い。
    モザイク現象の発生率は不明である[Murgiaら2000、Sgambatiら2000、Santarpiaら2007、Wuら2013、Coppinら2014]。

発端者の子供

VHL症候群患者の子がVHL病的バリアントを受け継ぐ可能性は50%である。臨床的な重症度の予測はできない。

他の家族

  • 他の家族のリスクは発端者の両親の遺伝的状況に依存する。
  • 親が罹患している場合は、その親の家族にはリスクがある。

遺伝カウンセリングに関連したその他の問題

早期発見,早期診断を目的とした血縁者の検査の情報については「管理」、「リスクのある血縁者の検査」の項を参照のこと。

遺伝学的がんリスク評価とカウンセリング

分子遺伝学的検査実施の有無にかかわらず、がんリスク検査を通してリスクのある人を同定する上での医学的、心理社会的、倫理的な問題の全体的な説明は、「遺伝学的がんリスク評価とカウンセリング– 医療専門家向け(国立がん研究所、PDQ®の一部PDQ®)を参照のこと。

無症状の家族の検査

リスクのある家族の分子遺伝学的検査は継続的な臨床的定期検査の必要性が必要かどうかを判断するために有用な手段である。罹患家族で生殖細胞系列VHL病的バリアントが同定されている場合、分子遺伝学的検査結果の解釈がもっとも正確となる(「リスクのある血縁者の検査」の項を参照).

早期に保因者を同定することはその後の臨床的管理に影響を与えるため、無症状の小児に対する検査も利益が大きい[Hesら2001、Lonserら2003、Binderupら2013a、VHLハンドブック]。保因者に対する眼科的検査は極力早期、5歳以前に開始されるべきなので、遺伝子検査は小児に対しても考慮される。分子遺伝学的検査の結果によって小児の臨床的管理の変更があるのなら、検査はより早期に行われうる。

両親は、不必要な臨床検査を避けたいという理由で、臨床的スクリーニングを行う前に子供の分子遺伝学的検査を求めることが多い。遺伝子検査の前に両親や子に対する教育について特別な配慮が求められる。検査結果を両親と子の双方に伝える方法を確立しておくべきである。著者は小児にはVHLアライアンス作成のVHLハンドブックを参照することを推奨する [VHLハンドブック-小児版]。

他の考慮すべき点

VHL分子遺伝学的検査をオーダーする医師や検査を受けようとする被験者は検査の前に、検査のリスク、有用性や限界について十分理解していることが望まれる。ある調査では常染色体優性遺伝性疾患である家族性大腸ポリポーシスの遺伝子検査に際して,約3分の1の医師が結果の解釈を誤っていた[Giardielloら1997]。遺伝子検査を通常業務として行っている遺伝カウンセラーや診療機関への紹介が望まれる。

明らかな新生病的バリアントを有する家族について考慮すべき点

発端者のどちらの親もVHL症候群および/またはVHL病的バリアントを有していない場合、VHL病的バリアントは新生(de novo)である可能性が高い。しかし、考え得る非医学的説明として、父系または母系の変更(生殖補助医療など)または明かされていない養子縁組などが挙げられる。

家族計画

  • 遺伝的リスクの評価や出生前診断に関する遺伝カウンセリングは妊娠前に行われるのが望ましい。
  • 罹患しているまたはリスクのある若年者には遺伝カウンセリングの実施が適している(子供への潜在的リスクおよび妊娠/出産オプションの検討を含む)。
  • 妊娠前の検討には、精巣上体嚢胞によって起こり得る男性不妊症を含む。

DNAバンクは将来使用する可能性に備えてDNA(通常白血球細胞から抽出する)を保管する機関である。検査方法および遺伝子、アレルバリアント、および疾患に対する我々の理解が今後進歩する可能性が高いため、罹患者DNAのバンクへの寄託を考慮すべきである。

出生前検査および着床前遺伝子診断

病的バリアントが罹患者の家族の一員に同定されれば、VHL症候群のリスクがある妊娠についての出生前検査およびおよびに着床前遺伝子診断(PGD)が可能である。PGDはVHL症候群のリスクがある人に問題なく実施されている[Rechitskyら2002、Simpsonら2005]。

特に遺伝子検査が早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は、医療関係者と家族の間では出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない、多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが、この問題については注意深い検討が求められる。


関連情報

GeneReviewsのスタッフは、この疾患患者およびその家族の便益のために、以下の疾患特異的および/またはアンブレラサポート組織および/またはレジストリを選択した。GeneReviewsは他の組織から提供された情報についてその責を負わない。選択条件関する情報についてはここをクリック。

  • Cancer.Net
    電話:571-483-1780;888-651-3038
    ファックス:571-366-9537
    Eメール:contactus@cancer.net
    フォンヒッペル・リンドウ症候群
  • 米国国立医学図書館 Genetics Home Reference
    フォンヒッペル・リンドウ症候群
  • NCBI遺伝子と疾患
    ォンヒッペル・リンドウ症候群
  • VHLハンドブック:VHLについて知るべきこと
    フォンヒッペル・リンドウ患者、家族、支援者向け参考ハンドブック
    VHLハンドブックダウンロード
  • VHLアライアンス
    2001 Beacon Street
    Suite 208
    Boston MA 02135-7787
    電話:800-767-4845 (toll-free);617-277-5667
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    www.vhl.org
  • アメリカがん協会(ACS)
    1599 Clifton Road Northeast
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  • CancerCare
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    電話:800-813-4673 (フリーダイヤル);212-712-8400(事務局)
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  • 腎がん学会
    PO Box 96503
    Washington DC 20090
    電話:800-850-9132 (toll-free);312-436-1455
    ファックス:847-332-2978
    Eメール:kidney.cancer@hotmail.com
    www.kidneycancer.org

分子遺伝学

分子遺伝学の項、およびOMIMの表に記載されている情報はGeneReviewsの他の記載と異なることがある。表にはより最近の情報が含まれていることがある

表A.フォンヒッペル・リンドウ症候群:遺伝子およびデータベース

遺伝子 染色体遺伝子座 タンパク質 遺伝子座特異的 HGMD
VHL 3p25.3 フォンヒッペル・リンドウ病腫瘍抑制 VHL@LOVD VHL

データは以下の参照標準から収集した:遺伝子:HGNCから、染色体遺伝子座:OMIMから、タンパク質:UniProtから。データベースの記述について(遺伝子座特異的、HGMD、ClinVar)のリンクはここをクリック。

表B.フォンヒッペル・リンドウ症候群のOMIMエントリ(全文はOMIM参照)

193300 フォンヒッペル・リンドウ症候群;VHL
608537 VHL遺伝子;VHL

遺伝子構造

ゲノムDNAの長さが約10 kbの3エクソンから成るVHLは、線虫、ハエ、ゼブラフィッシュ、ヒトで高い確率で存在している[Kaelin 2002、Gossageら2015]。長さが約4.5 kbのmRNAはほぼ遍在的に発現し、213ヶと159ヶのアミノ酸残基を有するタンパク質をコードする。後者のアイソフォームはほとんどの組織の主な産物であり、54番に位置するインターナルメチオニンコドンからの転写の結果である。これらのタンパク質アイソフォームはいずれも機能性であると思われる。遺伝子およびタンパク質の詳細については、およびタンパク質情報、表A「遺伝子」参照。

病的バリアント

500を超える生殖細胞系列病的バリアントがVHL症候群の家系で同定されている(表A参照)[Nordstrom-O'Brienら2010]。これらは遺伝子の部分欠失/全欠失およびフレームシフト、ナンセンス、ミスセンス、スプライス部位のバリアントから成る。一塩基バリアントが、3エクソンすべてで同定されている。コドン167はバリアントの「ホットスポット」と考えられている。

Nordstrom-O'Brienら(2010)は、VHLの945家系について詳細な表現型および病的バリアント情報を報告した。病的バリアントの領域は、52%がミスセンス、13%がフレームシフト、11%がナンセンス、6%がインフレーム欠失/挿入、11%が大規模完全欠失、7%がスプライス部位バリアントであった。表現型に褐色細胞腫を含む家系では、83.5%に病的ミスセンスバリアントが認められた。褐色細胞腫がみられない家系では、病的ミスセンスバリアントよりも病原性短縮型バリアントが6.6%多くみられた。

正常遺伝子産物

フォンヒッペル・リンドウ症候群腫瘍抑制タンパク質(pVHL)が、転写制御や転写後遺伝子発現、アポトーシス、細胞外マトリックス形成、ユビキチン化などさまざまな機能にかかわっているとされてきた[Kaelin 2007、Roberts & Ohh 2008]。標的ユビキチン化およびHIF1α分解を介した低酸素誘導遺伝子の制御におけるpVHLの役割が報告されており、VHLが損傷を受けるとどのように腎細胞がん、血管芽腫、血管新生性の高い他の腫瘍の発生原因になるかを示すモデルにつながる。

正常なpVHLは、エロンギンBとカリン2(それぞれTCEB2およびCUL2にコードされる)との複合体を形成するエロンギンCおよびRbx1(図1参照)と結合する。この複合体には、酵母の特定のタンパクのポリユビキチン化に触媒作用を及ぼすというSCFユビキチンリガーゼまたはE3複合体との共通点があり、特定のタンパク質を標的としてプロテアソームにより分解する。正常酸素分圧条件下では、HIF1αは2ヶ所の特定のプロリン残基が、プロリン水酸化酵素のEglNファミリーメンバーにより水酸化される。(訳者注:元のGenereviewsでは,
「2ヶ所の特定のプロリン残基のうちの一つが・・・」と記載されていますが、これは間違いなので、こちらのように訳しました )

図1
pVHLおよびHIF Aの概略図

fig1

A 正常細胞の酸素正常分圧状態;HIFはpVHLと結合する。
B 正常細胞の低酸素状態;HIFはpVHLと結合しない。
C VHL病的バリアントを有する細胞;HIFはpVHLを結合できないため、細胞は低酸素状態が定常状態である可能にみえる。

VHLタンパク質は水酸化されたHIF1αに結合し、それを分解の標的とする。低酸素条件下では、HIF1αは水酸化されず、pVHLは結合しない。また、HIF1αサブユニットが蓄積する。HIF1αはHIF1βによりヘテロ二量体を形成し、さまざまな低酸素誘導遺伝子(VEGFEPOTGFαPDGFβ)の転写を活性化させる。同様に、pVHLが欠失または変異している場合、HIF1αサブユニットが蓄積し、細胞増殖およびVHL症候群の特徴を持つ腫瘍の血管新生につながる[Gossageら2015]。

異常な遺伝子産物

HLの病的バリアントは、VHLタンパク質の発現を阻害するか(欠失、フレームシフト、ナンセンスバリアント、スプライス部位バリアント)、異常なタンパク質の発現をもたらすか(病原性ミスセンスバリアント)のいずれかに作用する。病的ミスセンスバリアントに起因するVHLの型は、タンパク質の三次元構造に及ぼす影響によって異なる[Stebbinsら1999]。VHL病的バリアントはミスフォールディングやそれに続くシャペロニンが媒介するブレイクダウンの原因となる[Feldmanら2003]。アルファヘリックスドメインのパッキングを不安定する病的ミスセンスバリアントは、α-βドメインインターフェイスの安定性を損ない、エロンギンCとHIF1αの結合を妨げる、または疎水性コア残基を破壊してHIFの制御を失わせ、最終的にVHL1型となる可能性が高い。HIFの制御に関しては正常なpVHLにつながる病原性ミスセンスバリアントは多くの場合VHL 2型に関連する可能性が高い(「遺伝子型と表現型の関係」の項を参照)。

RCC(腎細胞がん)(2型Aおよび2型C)リスクが低く(あるいはない)褐色細胞腫につながる病的ミスセンスバリアントは、酸素分子が存在する状態でHIF1αをユビキチン化させる能力(そしてその機能を低下させる)を保っているVHLタンパク質を、褐色細胞腫とRCC(2型B)を伴うVHL症候群につながる病的バリアントよりもコードしていることが多い。さらに、変異pVHLは、発生段階で交感神経-副腎髄質前駆細胞のアポトーシスを制御する分子経路のタンパク質グループ間のバランスを変化させることで褐色細胞腫になりやすい。このような細胞は、のちの段階で褐色細胞腫となるリスクが増大することがある[Leeら2005、Kaelin 2007]。

がんおよび良性腫瘍

VHLの後天的な体細胞病的バリアントは、遺伝性症候群で特徴的な他の腫瘍病変を伴うことなく散発性のVHL型腫瘍(淡明細胞腎がんや血管芽腫)をおそらく発生させている [Iliopoulos 2001、Kim & Kaelin 2004] 。


更新履歴

  1. 日本語訳者 櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
    Gene Review 最終更新日: 2002.12.4. 日本語訳最終更新日: Gene Review 最終更新日: 2004.4.1 
  2. Gene Review著者: R Neil Schimke, MD, Debra L Collins, MS, Catherine A Stolle, Ph.D.
    日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)           
    Gene Review 最終更新日: 2007.3.20. 日本語訳最終更新日: 2007.5.14.
  3. Gene Reviews著者: Carlijn Frantzen、MD、Timothy D Klasson、BSc、Thera P Links、MD、PhD、Rachel H Giles、PhD
    日本語訳者: 矢尾正祐(横浜市立大学附属病院泌尿器科)
    AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)
    Gene Reviews 最終更新日:2015.8.6. 日本語訳最終更新日: 2018.8.25.(in present)

原文: Von Hippel-Lindaou Disease

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