鰓眼顔症候群
(Branchiooculofacial Syndrome)

[Synonyms: BOF症候群]

GeneReviews著者: Angela E Lin, MD, FAAP, FACMG,Chad R Haldeman-Englert, MD,Jeff M Milunsky, MD, FACMG
日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、水上都(札幌医科大学医学部遺伝医学)

GeneReviews最終更新日:2018.3.29. 日本語訳最終更新日: 2022.6.29.

原文 Branchiooculofacial Syndrome


要約

疾患の特徴 

鰓眼顔症候群(BOFS)の特徴としては、鰓(頸部ないし耳介の上方ないし下方)の皮膚欠損(これは、ほとんどわからないくらいごくわずかに皮膚が薄くなっている状態ないしヘアパッチから、紅斑状の「血管腫様」病変、大きな滲出性糜爛に至るまで、大きな幅をもつ)、小眼球・無眼球・コロボーマ・鼻涙管狭窄/閉鎖などの眼奇形、両眼隔離・内眼角開離・広い鼻尖・眼瞼裂斜上・時として口蓋裂を伴う口唇裂や口唇形成術後を思わせる目立つ人中稜(以前、これは偽性口唇裂と呼ばれていた)・上口唇瘻・下顔面の問題(啼泣時の顔の非対称や顔面神経部分麻痺(訳注:言語は「partial weakness」であるが、適切な訳語が見つからなかったため、「部分麻痺」とした))といった顔面奇形がある。

耳介奇形ないし目立つ耳介、内耳奇形や錐体骨奇形に起因する難聴も多くみられる。

知能はふつう正常である。

診断・検査 

診断は臨床所見をもとに行われ、TFAP2Aの病的バリアントのヘテロ接合を同定することで確定する。

臨床的マネジメント 

症状の治療
BOFSの患児は、一般に、頭蓋顔面を専門とする医師、形成外科医、耳鼻科医、言語聴覚士などの多専門共同医療チームによって管理していく必要がある。
線状・表在性で、わずかな範囲の皮膚欠損であれば、自然に治癒することもある。
しかし、中には外科的介入を要するようなものもある。
無眼球や小眼球の場合は、コンフォーマー(眼窩内に挿入して眼窩の成長を促す器材で、多くはプラスチック製)が必要になることがあり、鼻涙管の狭窄や閉鎖についてもしばしば手術が必要になる。
口唇裂については、経験豊富な小児形成外科医の手で行うことが推奨される。

口唇裂の軽度型(偽性口唇裂)についても修正術が必要になることがある

サーベイランス
専門家チームの判断に基づき、大症候関連の変化について経時的にモニターしていく

遺伝カウンセリング 

BOFSは、常染色体顕性の遺伝様式をとる。
罹患者の50%-60%は新生の病的バリアントに起因するものである。
BOFS罹患者の子に病的バリアントが継承される確率は50%である。
家系内でTFAP2Aの病的バリアントが同定された場合には、リスクの高い妊娠に対し出生前検査や、着床前遺伝子診断を行うことが可能となる。


診断

鰓眼顔症候群(BOFS)の診断は臨床症候をもとに行われる。
現在のところ、コンセンサスパネルの作成した診断のための正式なガイドライン、臨床所見を階層化したアルゴリズム、エビデンスに基づいた検査基準といったものは存在しない。

以前は、代表部位であるB,O,Fの障害に基づいて非公式な形での診断基準が用いられた時期もあったが、2011年に、胸腺奇形が存在するという点、ならびに、いま問題にしている症例とは独立した形でBOFSの診断がなされた第1度近親が存在するという点の重要性を汲んだ上で、1つの診断基準が提唱された[Milunskyら2011](表Ⅰ)(訳注:本章の「表1」ではなく、Milunskyらの論文中の「表Ⅰ」を指すと思われる)。

注:疾患名の元となったBOFという3つの症候のうち、「B」(皮膚欠損)については、前頸部に両側性に存在する場合に最も把握しやすい。

本症候群を示唆する所見

次のカテゴリーの中の2つあるいは3つのカテゴリーに該当所見がみられる罹患者については、鰓眼顔症候群(BOFS)を疑う必要がある。

鰓(皮膚)欠損

頸部ないし耳介下部、耳介上部の皮膚欠損

  • ほとんどわからないくらいわずかな皮膚の菲薄化やヘアパッチから、紅斑性の「血管腫様」病変や大きな滲出性糜爛まで、幅がみられる。
  • 鰓耳腎症候群(BOR症候群)でみられるような刺し傷様の瘻管とは明確に異なる。
  • ごく軽度の例では、発見しづらく、また自然治癒することもあるが、多くは滲出性になっていく傾向がある。

眼の奇形

  • 小眼球,無眼球
  • コロボーマ
  • 白内障
  • 眼瞼下垂
  • 鼻涙管狭窄/閉鎖
  • 斜視

顔の異常

  • 長頭型、両眼開離ないし内眼角開離、広い鼻尖、眼瞼裂斜上を伴う特徴的顔貌(図1)
  • 口唇裂ないし目立つ人中稜(学術的には口唇裂の軽度型で、以前は「偽性口唇裂」と呼ばれていた)
  • 上口唇瘻
  • 下部顔面神経ないしその部の筋の低形成(啼泣時の顔の非対称、顔面神経部分麻痺)
  • 蝸牛異形成、Mondini型奇形、前庭水管拡大などの内耳、錐体骨奇形
  • 耳介奇形ないし目立つ耳介
  • 難聴(伝音性、感音性、混合性)

 

fig1

1BOF症候群5歳男児の写真

分子レベルの検査結果の詳細については、Milunskyら[2008](症例3:2歳)で報告されている。
本症例では、すでに修復術施行済の右側頸部皮膚欠損(B)、両側性の鼻涙管狭窄と両眼開離(O)、両側性の「痕跡」唇裂と広い鼻尖、軽度の眼瞼裂斜上(F)を呈する。
両側性の伝音性難聴があるものの、患者本人が骨導補聴器ではなく従来型の補聴器を選択した。
スマイルにて、右側の下部顔面神経部分麻痺があることがわかる。
幼稚園に通っているが、聴覚障害者学習センターの個別教育計画の目標をすべて達成している。
非常に社交的で、英語のスピーチやアメリカ手話の習得も良好である。

この写真は、母親のご厚意により提供されたものである。

診断の確定

発端者については、以下に示すような臨床診断基準を満たし、かつ、分子遺伝学的検査でTFAP2Aの病的バリアントのヘテロ接合が同定されることで、診断が確定する(表1参照)。
診断基準は、

  • 次の3つの主要症候がすべて存在すること
    • 鰓の皮膚欠損
    • 眼奇形
    • 顔面奇形(特徴顔貌)

もしくは、

  • 主要症候3つのうちの2つに加えて、以下のものの1つが存在すること
    • 別個に診断が下された第1度近親が存在すること
    • 異所性胸腺(皮膚)

分子遺伝学的検査としては、遺伝子標的型検査(単一遺伝子検査、マルチ遺伝子パネル)、網羅的ゲノム検査(エクソームシーケンシング、エクソームアレイ、ゲノムシーケンシング)を、表現型に応じ組み合わせて使用する。

遺伝子標的型検査は、臨床医が原因遺伝子の目星をつけた上で進める必要があるが、網羅的ゲノム検査の場合、その必要はない。
BOFSの表現型には幅がみられるため、「本症候群を示唆する所見」に記載された症候を有する罹患者については遺伝子標的型検査(「方法1」参照)、BOFSの診断を検討するところにまでまだ至っていない罹患者についてはゲノム検査(「方法2」参照)を用いて診断を行うことになろう。

方法1

表現型の所見からBOFSの診断が示唆される場合に行う分子遺伝学的検査は、単一遺伝子検査、あるいはマルチ遺伝子パネルということなる。

  • 単一遺伝子検査

TFAP2Aの配列解析を行うことで、遺伝子内の小欠失/挿入や、ミスセンス、ナンセンス、スプライス部位バリアントを検出することができる。
一般に、エクソン単位あるいは1遺伝子全体の欠失/重複は検出されない。
初めは配列解析を行うべきである。
そこで病的変異が同定されないようであれば、遺伝子内における欠失や重複を検出するため、次に遺伝子標的型欠失/重複解析を行うようにする。

  • マルチ遺伝子パネル検査

意義不明バリアントや、現在の表現型と直接関連のない遺伝子の病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の原因遺伝子を最もよく検出できるのは、TFAP2Aその他の関連遺伝子(鑑別診断参照)を含むマルチ遺伝子パネル検査である。
注:

(1)パネルに含められる遺伝子の種類、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、いま本章で取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によって、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。

本疾患に関しては、欠失/重複解析を含むマルチ遺伝子パネル検査が推奨される(表1参照)。

マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。
遺伝学的検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。

方法2

罹患者の示す表現型が典型的なものでないため、BOFSという診断を検討するに至らないときは、網羅的ゲノム検査(この場合、臨床医は事前に原因遺伝子の目星をつけておく必要はない)が最適の選択肢となる。
ゲノム検査としては、エクソームシーケンシングが最も一般的である。
ゲノムシーケンシングを用いることも可能である。

網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。
ゲノム検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。

エクソームシーケンシングで診断がつかなかった場合は、エクソームアレイ(利用可能であればの話)の使用も視野に入る。

1:鰓眼顔症候群で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 手法 その手法で検出可能な病的変異2
発端者の中で占める割合
TFAP2A 配列解析3 95%超4
遺伝子標的型欠失/重複解析5 5%未満6
  1. 染色体の座位ならびにタンパク質に関しては、表A「遺伝子とデータベース」を参照のこと。
  2. 本遺伝子において検出されるアリルのバリアントに関する情報については、「分子遺伝学」の項を参照。
  3. 配列解析を行うことで、benigm、likely benign、意義不明バリアント、likely pathogenic、pathogenicのバリアント等が検出される。
    バリアントの種類としては、遺伝子内の小さな欠失/挿入、ミスセンス、ナンセンス、スプライス部位バリアントなどがあるが、通常、エクソン単位ないし遺伝子全体の欠失や重複は検出されない。
    配列解析の結果の解釈に際して留意すべき事項についてはこちらをクリック。
  4. Milunskyら[2011
  5. 遺伝子標的型の欠失/重複解析では、遺伝子内の欠失や重複が検出される。
    具体的手法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、あるいは単一エクソンの欠失ないし重複の検出を目的に設計された遺伝子標的型マイクロアレイなどがある。
  6. Milunskyら[2008],Gestriら[2009]

臨床的特徴

鰓眼顔症候群罹患者の大部分については、臨床症候をもとに乳児期に診断を行うことが可能である。
罹患者の男女比は1:1である。

BOF症候群の典型的所見

鰓(皮膚)欠損
欠損のみられる部位は、頸部(90%)、あるいは耳介の下部ないし上部(60%)である。

  • 欠損は、ほとんどわからないくらいごくわずかに皮膚が薄くなっている状態ないしヘアパッチから、紅斑状の「血管腫様」病変、大きな滲出性糜爛に至るまで、大きな幅をもつ。
  • ごく軽微な欠損の場合は気づかれることなく経過し、稀には完全に自然治癒してしまうことがある。時に小さな腔や管が残っていることがあり、そこから「流涙」様の浸出液が出ることで穴の開いていることが明らかになるようなことがある。

眼の奇形
眼の奇形としては次のようなものがある。

  • 眼の構造的奇形
    • 小眼球、無眼球
    • コロボーマ
    • 白内障
  • 眼周囲の異常
    • 眼瞼下垂
    • 鼻涙管狭窄/閉鎖による流涙
  • 視覚の問題
    • 斜視
    • 重度の視覚障害

顔の奇形
特徴的症候としては、長頭、両眼開離ないし内眼角開離、広い鼻尖、眼瞼裂斜上がある(図1参照)。
その他の所見としては、次のようなものがある。

  • 口唇裂ないし目立つ人中稜(学術的には痕跡唇裂の1型として知られ、以前は「偽性口唇裂」と呼ばれた)
    • これに口蓋裂が伴うこともあれば伴わないこともある(99%)
    • 口唇裂のない口蓋裂単独例は報告されていない。
  • 上口唇瘻
  • 下顔面の顔面神経/筋の低形成(啼泣時の顔の非対称、顔面神経の部分麻痺)
  • 耳の奇形
    • 耳介奇形ないし目立つ耳介
    • 蝸牛異形成、Mondini型奇形、前庭水管拡大などの内耳、錐体骨奇形
    • 難聴(70%)(伝音性、感音性、混合性)
  • 通常の口唇裂患者にみられるものとははっきり異なる広い鼻尖を伴う幅広の鼻

BOF症候群にみられるその他の所見

免疫系
胸腺奇形(異所性、皮膚)(35%以内)が通常、両側性に現れるが、胸腺機能は正常。

泌尿器系

  • 構造奇形(35%)(異形成腎、腎無形成、多嚢胞性腎)
  • 膀胱尿管逆流

外胚葉(毛髪,歯,爪)

  • 早発性白髪,白毛症(forelockもしくはパッチ状)(35%)
  • 歯の低形成
  • 爪の異形成
  • 皮下の嚢胞(類皮腫様で、しばしば頭皮上に出現;頭蓋内や頸部への出現はそれより少ない)

精神運動発達(通常は正常)

  • 視覚や聴覚の障害(頻発)
  • 自閉症スペクトラム障害,知的障害(稀)

成長抑制
それほど多くはない。

その他、雑多で稀な(5例未満の報告)問題

  • 虹彩異色症
  • 先天性心疾患(心房中隔欠損,Fallot四徴)
  • 多指趾症(両側性で、通常は軸後性)
  • 髄芽腫(報告は1例のみ[Milunskyら2008])

遺伝型と表現型の相関

遺伝子型と表現型との間に明確な相関はみられない。

同一の病的変異であっても、家系間、家系内で症候の現れ方に大きな幅がみられる[Milunskyら2011]。
一方、ミスセンス、フレームシフト、スプライス部位のバリアント、遺伝子全体のより複雑な再配列[Tekinら2009,Milunskyら2011]などのいずれもが、同じような表現型となって現れる。

ただ、TFAP2A領域の欠失を有する罹患者については、その大多数が口唇裂の軽微型のスペクトラム上にあると思われる目立つ人中稜を呈するようである[Linら2009]。
Le Blancら[2013]は、TFAP2Aを含む計6つの遺伝子にまたがる593kbの欠失を有する母と乳児の例を報告している。
その母子については、2人とも口唇裂や人中の異常はみられなかったと報告されている。
この点を除けば、遺伝子内に生じた病的バリアントに起因して現れる表現型に家系間、家系内で大きな幅がみられるのと全く同じように、TFAP2Aの欠失の場合も、やはり表現型には大きなばらつきが存在するようである。

浸透率

BOFSの浸透率は、ほぼ100%であることがわかっている。
BOFSの家系にあってTFAP2Aの病的バリアントを有することが確認された人たちについては、早発性白髪(毛染めで隠している可能性がある)、薄い頸部の毛、虹彩異色といったわずかな症候がないかどうか、慎重に診査する必要がある。

発生頻度

BOFSの発生頻度は明らかではない。
BOFSは稀な疾患で、臨床診断や分子診断が詳細に報告されたものは150例に満たない。
2017年の形態異常学会に出席した臨床遺伝医を対象に非公式な調査を行ったところ、27人の未発表症例(臨床診断が18例、分子診断が9例)があることが判明した。
人口ベースでの発生頻度を算出する上では十分な数ではなく、BOFSが依然、稀な疾患であるという印象を追認するものとなっている。


遺伝子の上で関連のある疾患(同一アレル疾患)

TFAP2Aの病的バリアントに関連するものとしては、このGeneReiewで述べたもの以外の表現型は知られていない。


鑑別診断

2BOF症候群との鑑別を検討すべき疾患

疾患名

遺伝子 遺伝様式 臨床症候
BOFSと重なるもの BOFSと異なるもの
鰓耳腎(BOR)スペクトラム障害 EYA1
SIX5
SIX1
常染色体顕性
  • 耳の異常
  • 鰓の異常
  • 腎の異常
BOR症候群では、
  • BOFSの顔の特徴の欠如
  • 鰓の小窩(BOFSでは皮膚欠損を伴う腔からの浸出液の排出)
CHARGE症候群 CHD7 常染色体顕性
  • 眼の異常
  • 耳の異常
  • 口腔顔面裂
CHARGE症候群では、
  • 皮膚欠損の欠如
  • 早発性白髪の欠如
  • BOFSの顔の特徴の欠如
  • 後眼部コロボーマや後鼻孔閉鎖の頻発
22q11.2欠失症候群 22q11.2欠失 常染色体顕性
  • 眼の異常
  • 耳の異常
  • 鰓の異常
  • 腎の異常
  • 口腔顔面裂
22q11.2DSでは、
  • BOFSの顔の特徴の欠如
  • 心奇形が頻発
Waardenburg症候群(WS)
(WS1を参照)
PAX3
MITF
EDNRB
EDN3
SNAI1
SNAI2
SOX10
常染色体顕性
常染色体潜性
  • 早発性白髪
  • 内眼角開離
  • 難聴
WSでは、
  • 腎の異常の欠如
  • BOFSの顔の特徴の欠如
EEC症候群3型
(TP63関連疾患を参照)
TP63 常染色体顕性
  • 口腔顔面裂
  • 外胚葉の異常
EEC3では、
  • 欠指趾
  • BOFSの顔の特徴の欠如

臨床的マネジメント

最初の診断に続いて行う評価

鰓眼顔症候群(BOFS)と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済ということでないようなら、以下のような評価を行うことが推奨される。

  • 小児形成外科医による皮膚欠損の評価

これは、病変の範囲を把握する目的、洞の有無を確認する目的、そして何より重要なこととして、胸腺組織の遺残の有無を確認するといった目的で行われる。

  • 小児眼科医による完全な眼の診査

これは、視力障害、斜視、鼻涙管閉塞の評価を目的に行われる。

  • 無眼球/重度小眼球を有する罹患者については、視覚障害者支援サービスへの紹介。
  • 口唇裂口蓋裂その他の顔面の異常に関する口唇裂口蓋裂チームによる正式な評価。

チームの構成員は、多くの場合、臨床遺伝医、小児形成外科医、耳鼻咽喉科医、聴能訓練士、言語訓練士、歯科医、矯正歯科医などである。

  • 聴覚評価
  • 最適な聴覚補正を受けるのに必要な側頭骨のCT撮影[Ravehら2000,Stoetzelら2009,Tekinら2009]
  • 腎超音波検査

腎の異常が確認された場合は、腎臓内科医への紹介を行う。

  • 発達評価

特に、視覚や聴覚に障害のある子どもについては必要性が高い。

  • 鬱、注意欠陥、自閉症、知的障害などのモニタリング
  • 心雑音や心症状がある場合は心エコー
  • 臨床遺伝医や遺伝カウンセラーとの面談

注:(1)BOFSでは運動機能の遅れはみられない。したがって、理学療法や作業療法は不要である。
(2)がんの追跡評価を行う意味については、現時点ではよくわかっていない。

症候に対する治療

Milunskyら[2011]による管理のガイドラインがある。
これは現在でも有用なものではあるが、アップデートはなされていない。

一般に、BOFSと多発奇形を有する子どもは、多職種によるケアが提供可能な環境でフォローがなされるべきである。
そのチームの構成は、例えば、頭蓋顔面分野を専門とする医師、形成外科医、耳鼻咽喉科医、言語治療士といったものである(Milunskyら[2011]の表Ⅳより引用)。

理想を言えば、そうした多職種による評価や手術は、1つの頭蓋顔面医療機関の中で行われるのが望ましい。

  • 口唇裂の手術を担当するのは、経験豊富な小児形成外科医のみに限定すべきである。

口唇裂の軽度型(以前は「偽性口唇裂」として知られていたもの)についても、修正手術が必要になることがある[Linら2009]。

  • 口唇裂に伴って生じる鼻尖の平坦化や鼻の非対称に加え、BOFSに特徴的な丸く平坦な鼻尖についても、手術が必要になることがある。
  • 耳介の奇形や突出に対する再建術が必要になる例もみられる。

乳児期のごく早期に診断された例については、耳介矯正が適用できることもある。

  • 鰓欠損ないし耳介上部の皮膚欠損については、小さく、線状、表在性である場合は、自然治癒することもある。
  • より大きな皮膚欠損は、湿潤性の「擦り傷」様の外観を呈し、しばしば外科的介入が必要になる。

焼灼は禁忌である。
大きな皮膚欠損については、多くの場合、外科的切除を要する。

  • 瘻孔は、熟練した小児形成外科医の手で切除することが重要である。
    • 胸腺の遺残に関し、精査が必要なことがある。
      こうした組織は病理組織検査に回す必要がある。
    • 皮膚胸腺組織の存在が明らかになった場合は、その異所性胸腺の切除に先立って、縦隔胸腺組織の評価を行う必要がある。

眼科的な問題に関しては、小児眼科医が対応するのが最善である。

  • 鼻涙管狭窄/閉鎖に起因する閉塞状態については改善が必要で、その後も再狭窄が生じないかモニターが必要である。
  • 重度の小眼球ないし無眼球の場合は、眼窩内にコンフォーマーを挿入して、眼窩の成長促進を図る対処もありうる。

難聴に関しては、通常の方法で治療が行われる(「遺伝性難聴・聴力喪失概説」のGeneReviewを参照)。

腎奇形、心奇形に対しては、標準治療で対応が行われる。

歯の大きさ・数・齲蝕・不正咬合に関して、モニタリングが必要である。

感覚・心理・発達上の問題に関しては、支持療法による治療を行う。
重症者向けの心理サポートがもっと必要かどうかという点に関しては、裏づけとなるデータが不足している現状である。

定期的追跡評価

チーム内の各専門家から指摘のあった主要な所見に関して、経時変化の様相をモニターする。

 思春期に入った年長の子どもについては、自尊心の低下、その他の心理学的問題といったものの兆候がないか、モニタリングを行う。

リスクを有する血縁者の評価

治療や予防的処置を迅速に開始することが有益な人を可能な限り早期に特定することを目的として、リスクを有する血族で、見かけ上、無症候の人たちについては、年長者、若年者を問わず、評価を行うことが適切である。

 評価の内容は以下の通りである。

・家系内に存在する病的バリアントの内容が既知の場合は、分子遺伝学的検査
・家系内における病的バリアントが同定されていない場合は、BOFSをうかがわせるごくわずかな身体的所見がないかどうかを慎重にチェックするための診査

遺伝カウンセリングを目的として、リスクを有する血族に対して行う検査関連のことについては、「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。

研究段階の治療

 さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、米国の「Clinical Trials.gov」、ならびにヨーロッパの「EU Clinical Trials Register」を参照されたい。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

鰓眼顔症候群(BOFS)は常染色体顕性の遺伝様式を示す。

家族構成員のリスク

発端者の両親

  • BOFSの診断の下りた罹患者の40-50%については、その片親が罹患者である[Milunskyら2011]。
  • BOFSの診断の下りた罹患者の50-60%については、TFAP2Aの新生の病的バリアントに起因するものである[Milunskyら2011]。
  • 新生の病的バリアントによるものと思われる発端者については、その両親に対して分子遺伝学的検査を行うことが推奨される。
  • 発端者において検出された病的バリアントが、両親いずれの白血球DNAにおいてもみられなかった場合、考えられる可能性は、発端者に生じた新生の病的変異、もしくは片親の生殖細胞系列モザイクである。

生殖細胞系列モザイクについては、理論上、可能性があるとはいうものの、これまでに報告された例はない。

  • BOFSと診断された罹患者の中には、血族内に疾患の症候が見つからない、表現型が軽微である、症候(例えば早発性白髪)発生前の段階で親が早逝したといった理由で、一見したところ家族歴なしのように思われることがある。

そのため、明らかに家族歴なしと思われる場合でも、発端者の両親に分子遺伝学的検査が行われない限り、家族歴なしということの確定はできない。

  • 注:もし、病的バリアントの生じた最初の人が発端者の片親であったとしたら、その片親の有している病的変異が体細胞モザイクであるために、軽微ないし最小の影響にとどまった可能性が考えられる。

発端者の同胞 

発端者の同胞の有するリスクは、発端者の両親の有する遺伝的状況によって変わってくる。

  • 発端者の片親が罹患者だった場合、発端者の同胞に病的変異が継承されるリスクは50%である。
    BOFSの浸透率はほぼ100%であるが、家系内における表現型のばらつきはかなり大きいことがわかっている[Milunskyら2011]。
  • 発端者で検出されたTFAP2Aの病的変異が、両親のいずれの白血球DNAからも検出されない場合、同胞への再発リスクは1%と推定される。
    それは、親の生殖細胞系列モザイクの可能性が考えられるからである[Rahbiら2016]。
  • 両親が、臨床的にみて罹患者ではないと目されたとしても、発端者の同胞の有するBOFSのリスクは、依然としてやや高いとみるべきである。
    それは、ヘテロ接合を有している片親の表現型が軽度である可能性、ならびに、理論上、親が生殖細胞系列モザイクを有している可能性が残っているからである。

発端者の子

BOFS罹患者の子はそれぞれ、TFAP2Aの病的バリアントを継承する50%の可能性を有する。

他の家族構成員

他の血族の有するリスクは、発端者の両親の遺伝子の状態によって変わってくる。
片親がTFAP2Aの病的バリアントを有している場合、その血族はすべてリスクを有することになる。

関連する遺伝カウンセリング上の諸課題

リスクを有する血族に関して、早期に診断を確立し、治療につなげることを目的とした各種情報については、「管理」、「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照されたい。

新生変異と思われる病的バリアントを有する患者の家族についての考え方

常染色体顕性遺伝疾患の発端者のいずれの親も、発端者で検出された病的バリアントを有しておらず、かつBOFSの臨床症候も示していないということであれば、発端者のもつその病的変異は新生のものであると考えられる。
ただ、代理父、代理母(例えば生殖補助医療によるもの)、もしくは秘匿型の養子縁組といった医学とは別次元の理由が潜んでいる可能性もある。

家族計画

  • 遺伝的リスクの確定、ならびに出生前検査を受けるかどうかの話し合いといったことに最も適しているのは、妊娠前の時期である。
     ・若い成人の罹患者に対しては、遺伝カウンセリング(子に生じる可能性のあるリスクや、子を儲ける上での選択肢についての説明を含む)を提供することが望ましい。

DNAバンキング

DNAバンキングとは、将来の利用を見越してDNA(通常は白血球から抽出したもの)を保存しておくことを言う。
検査の手法であるとか、遺伝子・アレルバリアント・疾患等に対するわれわれの理解は、将来、より進歩していくことが予想される。
そのため、罹患者のDNAについては、保存しておくことを検討すべきである。

出生前検査ならびに着床前遺伝子検査

家系内にあるTFAP2Aの病的バリアントの内容が同定された場合は、リスクを有する妊娠のための出生前検査、ならびに着床前遺伝子検査が可能となる。

出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
早期診断を目的とするのではなく、堕胎を目的としてこれを利用しようという場合は、特にそれが言える。
現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。


関連情報

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分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A. 鰓眼顔症候群の遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体上の座位 タンパク質 座位別データベース HGMD ClinVar
TFAP2A 6p24​.3 転写因子AP-2-α TFAP2A database TFAP2A TFAP2A

データは、以下の標準資料から作成したものである。
遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。
リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。

表B:鰓眼顔症候群関連のOMIMエントリー(閲覧はすべてOMIM>へ)

107580 TRANSCRIPTION FACTOR AP2-ALPHA; TFAP2A
113620 BRANCHIOOCULOFACIAL SYNDROME; BOFS

分子レベルの病原

TFAP2Aは、転写因子AP-2ファミリーの1つの、レチノイン酸応答性タンパク質で、胚発生期に、眼、耳、顔、体壁、四肢、神経管において遺伝子発現の制御を行っている[Schorleら1996,Zhangら1996,Ahituvら2004,Nelson & Williams 2004]。

遺伝子構造

TFAP2A中には8つのエクソンがある(参照配列 NM_003220.2,NM_001042425.1,NM_001032280.2)。
遺伝子ならびにタンパク質の情報に関する詳細は、表Aの「遺伝子」の欄を参照されたい。

病的バリアント

鰓眼顔症候群(BOF症候群)は、TFAP2A内の病的変異、あるいは遺伝子全体の欠失によって生じる。
Milunskyら[2008]は、遺伝子全体の欠失を示した1家系例、ならびに新生のミスセンスバリアントを示した孤発性(家系内で1例だけの発生)の4例を報告している。
現時点で、それ以外に病的変異や家族性の欠失例が報告されている[Gestriら2009,Stoetzelら2009,Tekinら2009,Reiberら2010,Aliferisら2011,Frascariら2012,Gallianiら2012,LeBlancら2013,Murrayら2013,Günesら2014,Meshcheryakovaら2015,Titheradgeら2015,Xiongら2015,Yiら2016]。

病的変異の発生は、遺伝子全体を通じてみられるものの、エクソン6と7のミスセンスバリアントをきたすホットスポット領域が、BOFSの発端者ないし家系の約90%においてみられることが明らかになっている[Milunskyら2011]。

また、モザイクが1家系で同定されている[Milunskyら2011]。

30家系、41人のBOFSについて分子レベルのスペクトラムをみると、ミスセンスバリアントのヘテロ接合(28/30例;93%)、フレームシフトバリアント(1例)、遺伝子全体の欠失(1例)であったという[Milunskyら2011]。
Tekinら[2009]は、BOFSの1例において、276番から281番のアミノ酸の部分にみられた複雑なTFAP2Aアレル(18個のヌクレオチドの欠失と6個のヌクレオチドの挿入)を報告している。
現在までに、30種を超えるミスセンス/ナンセンスの病的バリアント、数種の微小欠失/挿入、5種未満の遺伝子全体の欠失が報告されている。

正常遺伝子産物

TFAP2Aタンパク質は、437個のアミノ酸から成り、中央部に塩基性DNA結合領域、C末端に二量体化を媒介するヘリックス-スパン-ヘリックスモチーフ、N末端にトランス活性化ドメインをもつ[Eckertら2005]。
塩基性のDNA結合ドメイン領域(エクソン6と7)のアミノ酸は、ヒトからユウレイボヤ(透明のホヤ)に至るまで、進化的に見て高度の保存性を有している[Milunskyら2008]。

TFAP2Aは、胚発生の時期における遺伝子発現の制御という役割に加え、タンパク質発現レベルが細胞の形質転換に影響を及ぼすという形での腫瘍発生、さらには腫瘍の成長、転移、腫瘍細胞の生存にも関与している[Jeanら1998,Heimbergerら2005,Orsoら2007]。
TFAP2Aタンパク質関連の分子レベルの障害に起因して、さまざまな表現型が現れる背景には、おそらく多数の遺伝子の相互作用が関与しているものと思われる。
TFAP2Aは、遊走前ならびに遊走中の神経堤細胞において発現することが知られており[Hilger-Eversheimら2000,Li & Cornell 2007]、水晶体の形態形成初期に必要なものである[Gestriら2009]。

異常遺伝子産物

ヒトにおいて、BOFSで報告されている各種奇形は、TFAP2Aの病的変異ないし欠失によって、胚発生期を中心に制御機能不全が引き起こされることに関連して生じるものと考えられている。

TFAP2Aタンパク質オーソログの機能喪失や機能変化により、ゼブラフィッシュやマウスでは、顔面の裂、四肢奇形、眼・耳・体壁・神経管・心流出路の障害をきたすことが報告されている[Schorleら1996,Zhangら1996,Nottoliら1998,West-Maysら1999,Brewerら2002,Holzschuhら2003,Knightら2003,Ahituvら2004,Brewerら2004,Nelson & Williams 2004,Fengら2008]。

眼の形態形成に及ぼすTFAP2Aの病的変異の影響を明らかにするため、Gestriら[2009]がゼブラフィッシュを用いて行った研究で、この病的変異が数多くの眼病変に係わっていることが明らかとなった。
それに加え、病的変異によってこの遺伝子の機能低下が生じることで、発生中の眼がbmp4tcf711aなど、他の遺伝子の有害な病的変異に対して感作されるという[Gestriら2009]。

Damberg[2005]は、成体の脳内のモノアミン作動性機構の制御にAP-2ファミリーが関与している可能性を指摘した上で、これが精神神経疾患を引き起こす結果になっているのではないかとしている。

Brewerら[2004]は、Tcfap2a変異マウスの中で生存しているものについては、頭蓋顔面奇形、中耳の発生異常、色素異常がみられたことを報告している。

Liら[2013]は、DNA結合ドメインの病的変異のいくつかについて、野生型AP-2αタンパク質に対してドミナントネガティブ効果をもつ可能性があることを明らかにしている。
それゆえ、ヌルアレル(訳注:野生型の本来有している機能を全く有しない産物を生成するアレル)、ハイポモルフィックアレル(訳注:野生型の本来有している機能が低下した産物を生成するアレル)、アンチモルフィックアレル(訳注:野生型の本来有している機能を阻害するような産物を生成するアレル)といった活性の違いによって、BOFSの表現型にばらつきが生じる可能性がある。


更新履歴:

  1. GeneReviews著者: Angela E Lin, MD, FAAP, FACMG,Chad R Haldeman-Englert, MD,Jeff M Milunsky, MD, FACMG
    日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、水上都(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    GeneReviews最終更新日:2018.3.29. 日本語訳最終更新日: 2022.6.29.[ in present]

    原文 Branchiooculofacial Syndrome

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