鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害
(Cleidocranial Dysplasia Spectrum Disorder)

[Synonyms:Cleidocranial Dysostosis]

Gene Reviews著者: Karen Machol, MD, PhD,Roberto Mendoza-Londono, MD, MS, Brendan Lee MD, PhD
日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)

GeneReviews最終更新日: 2017.11.16 日本語訳最終更新日: 2023.1.8

原文: Cleidocranial Dysplasia Spectrum Disorder


要約


疾患の特徴

鎖骨頭蓋異形成(CCD)スペクトラム障害は、古典的CCD(頭蓋縫合閉鎖遅延・鎖骨の低形成ないし無形成・歯の異常の3兆候)から、軽症型CCD、さらには骨格症候を伴わない歯の異常のみのものに至るまで、臨床的連続性を示す骨系統疾患である。古典的症候を有することが決め手となって診断に至る例が大多数を占める。出生時、罹患児は通常、異常に大きく開いた大泉門を示し、大泉門は生涯にわたって開存することがある。鎖骨の低形成のため、肩は細く、なで肩になり、両肩を正中で合わせられる場合がある。中等度の低身長がみられることが多く、大多数の罹患者は非罹患者の同胞より低身長を示す。歯の異常としては、複数の過剰歯、永久歯萌出障害、乳歯と第二大臼歯の混在がある。CCDスペクトラム障害の罹患者は反復性副鼻腔炎、反復性の耳の感染症とそれに続発する伝音性難聴、上気道閉塞といったことの発生に関し、高リスクとなる。知能は典型例では正常である。

診断・検査

CCDスペクトラム障害の診断は、典型的な臨床所見・X線写真所見がみられること、もしくはRUNX2CBFA1 )の病的バリアントのヘテロ接合が同定されることで確定する。

臨床的マネジメント 

症候に対する治療:
頭蓋冠の欠損が大きい場合には、鈍的外傷から頭部を保護する必要がある。高リスクの活動に際しては、ヘルメットの着用が考えられる。前額部の陥凹に対する美容外科的対応や、低形成の鎖骨に対する延長術も検討対象となる。骨密度が正常値を下回るときは、カルシウムとビタミンDの補給を行う治療が検討される。乳歯の残存、過剰歯の存在、永久歯の萌出障害などの問題に対しては、歯科的対応を行う。具体的には、補綴的対応、過剰歯の抜去と永久歯の外科的移動術、埋伏している永久歯を萌出させ配列するための外科的手法と矯正歯科的手法の組合せなどである。歯科処置を行っている期間には、言語治療が併せて必要になることがある。副鼻腔や中耳の感染症に対しても積極的治療を行う。反復性の中耳感染症に対しては、鼓膜切開・チューブ留置を考慮することになる。

一次症候の予防:
骨粗鬆症に対する予防処置は、低年齢から開始する必要がある。骨密度の低下に対するスクリーニングを早期から行い、適切な形でビタミンDとカルシウムを補給することが推奨される。

二次的合併症の予防:
頭蓋顔面の異常や歯の異常が存在するため、麻酔管理にあたっては慎重な計画が必要である。気道の確保を確実に行うため、耳鼻科医との相談が必要である。脊椎の異常が存在する可能性を考慮した上で、脊髄幹麻酔等の代替麻酔手段を検討する。

定期的追跡評価:
子どもに対しては、整形外科的合併症、歯の異常、上気道閉塞、副鼻腔・耳の感染症、難聴に関し、モニタリングを継続する。骨粗鬆症のモニタリングは思春期初期から始め、その後は5年から10年間隔で行う。

避けるべき薬剤/環境:
高リスクの活動に参加するときは、ヘルメットや防具を着用すべきである。

妊娠に関する管理:
罹患女性が妊娠したときは、児頭骨盤不均衡に関するモニタリングを行う。

遺伝カウンセリング

鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。RUNX2de novo病的バリアントに起因する罹患者の割合が高い。CCDスペクトラム障害罹患者の子にその病的バリアントが継承される可能性は50%である。家系内に存在する病的バリアントが既知の場合には、高リスクの妊娠に備えた出生前検査を行うことが可能である。


診断

鎖骨頭蓋異形成(CCD)スペクトラム障害は、古典型(頭蓋縫合閉鎖遅延・鎖骨の低形成ないし無形成・歯の異常の3兆候)から、軽症型CCD、さらには骨格症候を伴わない歯の異常のみのものに至るまで、臨床的連続性を示す骨系統疾患である。CCDスペクトラム障害の正式な臨床診断基準は、今のところ公表されていない。

臨床所見

fig1

図1 鎖骨の低形成を有する罹患者については、両肩を正中で合わせられることがある。

X線写真所見

fig2

図2:鎖骨低形成を示す胸部X線写真

fig3

図3:鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害の2歳半男児の手のX線写真

a.第2、第3中手骨基部に偽骨端核がみられることに注目。第4、第5中手骨基部には過剰成長軟骨板がみられる。
b.円錐形の骨端が、特に第3、第4中節骨に顕著にみられる。指節骨の形成に異常があるように見受けられ、特に第2から第5中節骨にそれが顕著にみられる。

診断の確定

発端者におけるCCDスペクトラム障害の診断は、次のいずれかを満たすことで確定する。

分子レベルの検査としては、単一遺伝子検査、核型検査、マルチ遺伝子パネル検査などがある。

最初にRUNX2の配列解析を行い、そこで病的バリアントが検出されなければ、続いて遺伝子標的型の欠失/重複解析を行う。
注:遺伝子標的型の検査では単一エクソンから遺伝子全体までの範囲の欠失が検出可能であるが、大欠失ないし隣接遺伝子群を含む欠失の切断点については検出できないことがある。

CCDスペクトラム障害の症候を示しつつも、RUNX2の検査では診断に至らない、あるいは先天性の多発奇形ないし発達遅滞を併せもつ疑いが濃いといった場合には、6p21.1領域(RUNX2の座位)が関与しつつもRUNX2のコピー数変化には至らない複雑な染色体再配列や転座を調べるための核型検査を検討すべきであろう[Purandareら2008,Northupら2011]。

RUNX2、ならびにその他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含むマルチ遺伝子パネルも考慮に値する。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。したがって、臨床医には、意義不明のバリアントや現況の表現型と無関係な遺伝子の病的バリアントの検出を抑えつつ、どのマルチ遺伝子パネルが安価にして本疾患の原因遺伝子を同定するのに最も適しているかという点を判断することが求められる。
(3)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、その他の非配列ベースの検査などがある。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。遺伝子検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。

表1:鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 手法 その手法で病的バリアント2が検出される割合
RUNX2 配列解析3 60%近く4
遺伝子標的型欠失/重複解析5 10% 6,7
核型検査 脚注8参照
不明9 適用対象外  
  1. 染色体上の座位ならびにタンパク質に関しては、表A「鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害の遺伝子とデータベース」を参照。
  2. 本遺伝子において検出されている各種バリアントに関する情報については、「分子遺伝学」の項を参照。
  3. 配列解析を行うことで、benign、likely benign、意義不明、likely pathogenic、pathogenicといったバリアントが検出される。バリアントの種類としては、遺伝子内の小さな欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントなどがあるが、通常、エクソン単位ないし遺伝子全体の欠失や重複については検出されない。
  4. 配列解析の結果の解釈に際して留意すべき事項についてはこちらをクリック。

  5. Ottら[2010]
  6. 遺伝子標的型欠失/重複解析では、遺伝子内の欠失や重複が検出される。具体的手法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、あるいは単一エクソンの欠失ないし重複の検出を目的に設計された遺伝子標的型マイクロアレイなどがある。
  7. こうした欠失を有する罹患者は、CCDスペクトラム障害の表現型に加えて、発達遅滞などの別の所見も示す場合がある。遺伝子標的型の検査では、単一エクソンの欠失から遺伝子全体の欠失までを検出することができるが、大欠失ないし隣接遺伝子群を含む欠失の切断点については検出できないことがある。
  8. Ottら[2010]
  9. RUNX2の座位を含む転座を示した2例が報告されている[Purandareら2008,Northupら2011]。
  10. 臨床的にCCDと診断されたすべての罹患者で、RUNX2の病的バリアントのヘテロ接合が同定されるわけではない。ただ、座位異質性が存在するという確たるデータが存在するわけでもない。

臨床的特徴

臨床像

鎖骨頭蓋異形成(CCD)スペクトラム障害は、古典的CCD(頭蓋縫合閉鎖遅延・鎖骨の低形成ないし無形成・歯の異常の3兆候)から、軽症型CCD、さらには骨格症候を伴わない歯の異常のみのものに至るまで、臨床的連続性を示す骨系統疾患である[Golanら2000]。
古典的症候を有していることで診断に至る例が大多数を占める。CCDスペクトラム障害では、頭蓋や鎖骨のような膜性骨化を示す骨に最も強い影響が及ぶものの、軟骨内骨化により形成される骨についても、影響を受けることがある。Cooperら[2001]は、90人の発端者ならびに56人の第1度・第2度近親者について、自然歴を報告しており、その中で同一の病的バリアントを共有する同一家系内の罹患者間にあっても、臨床的表現型には大きなばらつきがあることを強調している。Robertsら[2013]は、南アフリカで自らの経験した100人以上の罹患者についてレビューを行っている。罹患者の男女比は1:1である。

古典的CCD
古典的CCD罹患者で最も顕著にみられる所見は、「本症候群を示唆する所見」で述べた通り、出生時において異常に大きく開き、生涯にわたって開存する可能性のある大泉門、鎖骨の低形成によって生じる正中で左右の肩を合わせることのできる細いなで肩、歯の異常(「歯科的合併症」を参照)である。
CCDスペクトラム障害罹患者においてみられるその他の医学的問題には以下のようなものがある。

身長
CCDスペクトラム障害罹患者の多くは、非罹患同胞より低身長である。

骨格の問題、ないし整形外科的問題
罹患者は、骨に関連するその他の諸問題を有することが多い。

これらより低頻度の整形外科的問題としては、肩関節や肘関節の脱臼がある[El-Gharbawyら2010]。

歯科的合併症
CCDスペクトラム障害罹患者の94%に、過剰歯(先行乳歯を脱落させる力を有しないことが多い)や永久歯萌出障害などの歯科的問題がみられる[Golanら2003]。CCDスペクトラム障害罹患者に最も共通した歯科的所見は、第二大臼歯と乳歯の混在(80%)、下顎切歯部の大きな空隙、過剰歯胚の存在(70%)、左右下顎枝の平行化である[Cooperら2001,Golanら2003,Golanら2004,Bufalinoら2012]。CCDスペクトラム障害罹患者は開咬になりがちで、顎骨内の過剰歯周囲に嚢胞を形成しがちである[McNamaraら1999]。

耳鼻咽喉科的合併症
一般集団に比べ、CCDスペクトラム障害罹患者においては、反復性副鼻腔感染症その他の上気道の問題が明らかに生じやすい傾向にある。上気道閉塞を示唆する症候がみられるときは、睡眠検査が適応となり、場合によっては外科的介入を要するようなこともある。
罹患者の39%に伝音性難聴がみられる。年齢を問わず、CCDスペクトラム障害罹患者には反復性の耳感染症が多くみられる。

内分泌
CCDスペクトラム障害罹患者の中にはIGF-1レベルが低値を示す例がみられる。骨粗鬆症と直接の関連性を示さないビタミンD低下の報告もみられる[Dinçsoy Birら2017]。CCDスペクトラム障害罹患者は、稀にアルカリホスファターゼ値の低下を示すことがある[Moravaら2002,Ungerら2002,El-Gharbawyら2010]。

発達
通常、知能は正常である。5歳未満の子どもについては、軽度の運動発達遅延、特に粗大運動技能の遅延を示すことがある。扁平足や外反膝などの整形外科的合併症に起因して、こうした遅延が生じる場合がある。小学生になると、明らかな運動発達遅延はみられなくなる。

遺伝型と表現型の相関

歯の症候については、遺伝型と表現型との間の相関が一部明らかになっているものの、遺伝型と鎖骨の病変との間の相関は明らかになっていない[Ottoら2002,Bufalinoら2012,Jarugaら2016]。

浸透率

RUNX2の病的バリアントは高い浸透度と、極度の多様性を示す。

命名法について

鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害は、大家族の数人にみられた歯-骨異形成症として最初に報告されたものである。
本疾患に対しては、かつては「鎖骨頭蓋異骨症」という用語が用いられたものの、RUNX2が骨の形成や維持に重要な役割を果たしていることを踏まえ、現在では異形成症という、より正確な捉えられ方がなされている。

頻度

CCDスペクトラム障害は、世界的にみて1,000,000人に1人の出現頻度を示す。すべての民族において出現がみられる。Stevensonら[2012]は、米国ユタ州の集団について、10,000人あたり0.12人という数字を示し、それまで認識されていたより発生頻度が高い可能性を示唆している。


遺伝学的に関連のある疾患(同一アレル疾患)

RUNX2の遺伝子内部分重複により、骨幹端異形成-上顎低形成-短指症(metaphyseal dysplasia, maxillary hypoplasia, and brachydactyly;MDMHB)(訳注:「2019年版骨系統疾患国際分類の和訳」では、「上顎低形成を伴う骨幹端異形成症」と訳されている)(OMIM 156510)が生じる。罹患者は、低身長、長管骨と脊椎の異常、歯のジストロフィー、鎖骨内側半分の拡大を呈する。

頭蓋縫合早期癒合症と部分性無歯症を呈する複数の罹患者で、RUNX2の完全重複が報告されている[Meffordら2010,Greivesら2013,Molinら2015]。


鑑別診断

CCDスペクトラム障害と症候を共有する疾患がいくつか存在する。CCDスペクトラム障害と共通の骨格要素が影響を受けることから考えて、こうした疾患は、下流ターゲットとしてRUNX2の作用に影響を及ぼす遺伝子群の変異に起因するものである可能性が考えられている。その中で最も注目すべきものは、大きく開いた大泉門と短い鎖骨を呈する、CBFBを含む16q22.1の欠失に起因するものである[Gotoら2004]。

CBFBはRUNX2とヘテロ二量体を形成して、下流ターゲットの転写を活性化する。そのため、CBFBのハプロ不全により、CCDスペクトラム障害類似の表現型が生じたものと考えられる。

表2:CCDスペクトラム障害との鑑別診断を検討すべき疾患

疾患名ないし遺伝的メカニズム 遺伝子 遺伝形式 臨床症候
CCDスペクトラム障害と重なる症候 CCDスペクトラム障害と異なる症候
16q22欠失(CBFBの欠失を含む)
(OMIM 614541)
CBFB   大きく開いた大泉門,短い鎖骨
  • 成長障害
  • 精神運動発達遅滞
  • 先天性心疾患
Crane-Heise症候群
(OMIM 218090)
不明 AR?
  • 大きな頭
  • 頭蓋骨の石灰化不全
  • 口唇裂口蓋裂
  • 耳介の低位と形成不全
  • 鎖骨,肩甲骨の低形成
  • 指節骨の低形成/欠損
  • 頸椎の欠損
  • 生殖器低形成
  • 致死的状況
  • 子宮内成長抑制
  • 多発性関節拘縮
  • 頸椎の欠如を伴う重度の脊椎-四肢奇形
下顎先端異形成症
(OMIM PS248370)
LMNA
ZMPSTE24
AR
  • 低身長,頭蓋縫合の閉鎖遅延,下顎骨低形成,鎖骨異形成
  • 20歳代までに生じる薄毛
  • 進行性の関節硬直
  • 手根骨骨化遅延を伴う四肢の先端骨異形成
  • 小下顎症
  • 歯の早期喪失
  • 皮下脂肪の減少を伴う皮膚萎縮
  • 肢端骨溶解症
  • 高色素沈着
  • 脂肪異栄養症
  • 脱毛症
濃化異骨症 CTSK AR
  • 低身長,骨の脆弱性を伴う大理石骨病,末節骨の短小
  • 大泉門の開存を伴う頭蓋縫合閉鎖不全
  • 皮質骨以外の海綿骨の密度上昇に起因するすべての骨のX線不透過性亢進
  • 大理石骨病
  • 肢端骨溶解症
Yunis Varon症候群
(OMIM 216340)
FIG4 AR
  • 出生前の成長障害
  • 広く開いた大泉門や縫合,頭蓋骨石灰化異常,鎖骨低形成
  • 拇指趾の低形成ないし欠損
  • 拇指趾と末節骨の欠損/低形成
  • か細い骨
  • 脳奇形
CDAGS症候群
(OMIM 603116)
不明 AR
  • 頭蓋縫合早期癒合症,大泉門閉鎖遅延,頭蓋骨欠損,鎖骨低形成
  • 肛門-尿路性器奇形
  • 皮膚の湿疹
  • 頭蓋縫合早期癒合症
  • 肛門奇形
  • 皮膚病変(汗孔角化症)
低ホスファターゼ症2 ALPL AR
AD3
  • 複数の骨格要素の骨化遅延を伴う全身性の石灰化障害
  • 乳児型の子どもは、頭蓋の顕著な石灰化不全、頭蓋縫合の拡大、短い肋骨、狭い胸郭を示すことがある。
  • 血清ならびに組織中のアルカリホスファターゼが顕著な低値を示す。
  • 鎖骨への影響は少ない。
  • 過剰歯はみられない。
  • 乳歯の早期脱落
  • 骨格のくる病病変
  • 腎石灰化症
  • 高カルシウム血症
鎖骨頭蓋異形成症を伴う頭頂孔4 MSX2 AD
  • 頭頂孔
  • 軽度の頭蓋顔面形態異常
  • 鎖骨低形成
古典的CCDにみられるような歯の異常は現れない5
MSX2の上流の微小重複     鎖骨頭蓋異形成症の表現型模写6 一部に合多指趾が現れる。
家族性過剰歯   AD 小臼歯部の過剰歯 非症候群性過剰小臼歯7
甲状腺機能低下症     大泉門の閉鎖遅延  

AD=常染色体顕性,AR=常染色体潜性

  1. CDAGS症候群は、縫合の早期閉鎖、骨化遅延という、明らかに相反する病態生理学上、発達上の反応を呈する[Mendoza-Londonoら2005]。
  2. 重度のCCD罹患者で、当初、低ホスファターゼ症とみられていた1例の報告がある[Ungerら2002]。
  3. 周産期型ならびに乳児型の低ホスファターゼ症は、常染色体潜性の遺伝形式をとる。より軽症型のもの、特に成人型、歯限局型低ホスファターゼ症については、ALPLの病的バリアントが組織非特異型アルカリホスファターゼ(TNSALP)の活性に及ぼす影響に従って、常染色体潜性もしくは常染色体顕性の遺伝形式をとる。
  4. 頭頂孔拡大」のGeneReviewを参照。
  5. Garcia-Miñaurら[2003]
  6. Ottら[2012]
  7. Baeら[2017]

 


臨床的マネジメント

最初の診断に続いて行う評価

鎖骨頭蓋異形成(CCD)スペクトラム障害と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、すでに実施済でなければ、次の評価を行うことが推奨される。

症状に対する治療

頭蓋顔面
罹患者の大多数については、経年的に大泉門が閉鎖していくため、頭蓋の形成に関する治療は、通常、不要である。

骨格
DXAにて骨密度が正常範囲を下回る場合には、カルシウムとビタミンDの補給を検討する。


CCDに精通した歯科に早期に紹介することにより、必要な処置を適期に立案することが可能となる。

言語
歯科的処置を進めている期間については、言語治療が必要になることがある。

上気道閉塞
上気道閉塞が疑われる場合には、睡眠検査を行い、場合によっては外科的処置が必要となる。

副鼻腔と中耳の感染症
副鼻腔と中耳の感染症については、適期に積極的な介入が必要となる。感染が反復性の場合は、鼓膜チューブを検討すべきである[Visoskyら2003]。

内分泌
本疾患でみられる低身長に対する成長ホルモン投与療法については、今のところ有効性の証明がなされていない。RUNX2は、軟骨細胞の分化や成長板の維持といったことに直接的に関与しているため、成長ホルモン投与療法が、軟骨異形成を呈する一次成長板に対してマイナスの効果を及ぼすことは、理論上、十分ありうるように思われる[Zhengら2005]。

一次症候の予防

骨密度は10歳代ないし20歳代にピークに達することから、骨粗鬆症に対する予防処置は低年齢の段階で開始する必要がある。骨密度の低下に関するスクリーニングを早期に行い、ビタミンDとカルシウムの補給を適切な形で行うことが推奨される。

二次的合併症の予防

CCDスペクトラム障害罹患者の頭は短頭形で大きく、下顎前突と上顎の劣成長を伴う例があるため、麻酔管理は慎重に計画する必要がある。さらに、低い鼻梁、副鼻腔低形成のため、鼻呼吸が障害される。また、歯や頭蓋顔面の異常によって気道管理が難しくなることも予想される。その場合は、耳鼻咽喉科医と協議して気道確保を確実に行う手助けをしてもらう必要がある。脊椎奇形の可能性を念頭に、脊髄幹麻酔等の代替麻酔手段を検討すべきである[Ioscovichら2010]。

定期的追跡評価

CCDスペクトラム障害の子どもについては、以下の諸点に関するモニタリングが必要である。

反復性の耳の感染症を伴う罹患者に対し、定期的に聴力検査を行うことで、仮に難聴が生じたとしても、早期発見、早期治療が可能となる。

骨密度を測定するDXAを思春期初期には行い、その後も5年ないし10年ごとに行うようにする。骨減少症の臨床的兆候がみられる場合(例えば骨折回数の増加)は、評価や治療を早期に開始する必要がある。
すべての罹患者は、プライマリーケア医によるフォローを受け、予防接種や予備的ガイダンス(訳注:症候が現れる前、あるいは検査結果が出る前の段階で、症候が現れた場合、あるいは検査結果が陽性であった場合の心の準備について指導することをいう)を受けることが推奨される。

避けるべき薬剤/環境

頭部の外傷を回避するため、高リスクのスポーツや活動に参加する際には、ヘルメットや防具を着用すべきである。

リスクを有する血縁者の評価

リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。

妊娠に関する管理

CCDスペクトラム障害の妊婦については、児頭骨盤不均衡に関するモニタリングを慎重に行う必要がある。児頭骨盤不均衡がある場合は、帝王切開による分娩が必要になる可能性がある。CCDスペクトラム障害女性の初産の際の帝王切開施行率は69%と、対照群より高い値を示す[Cooperら2001]。

研究段階の治療

さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「Clinical Trials.gov」、ならびにヨーロッパの「EU Clinical Trials Register」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

鎖骨頭蓋異形成(CCD)スペクトラム障害は、常染色体顕性の遺伝形式を示す。

家族構成員のリスク

発端者の両親

注:病的バリアントが最初に現れたのが、発端者ではなくその片親であったということであれば、その片親は、病的バリアントの体細胞モザイクであったために、症候の現れ方が軽度ないし軽微となった可能性が考えられる。

発端者の同胞 

発端者の同胞の有するリスクは、発端者の両親の遺伝子の状態によって変わってくる。

(注:RUNX2の病的バリアントを継承した場合でも、同胞間で表現型が異なる場合がある。)

発端者の子

CCDスペクトラム障害罹患者の子にRUNX2の病的バリアントが継承される確率は50%である。

他の家族構成員

他の血族の有するリスクは、発端者の親の状態によって変わってくる。片親にCCDスペクトラム障害の症候がみられる、あるいは片親がRUNX2の病的バリアントを有している場合は、その血縁者もリスクを有することになる。

保因者の検出

家系に特異的な変異が、家系内の罹患男性において同定されている場合、家系内の保因者であるリスクがある女性には保因者診断を行うことが可能である。

家系内の罹患男性でシークエンス解析が実施されていない場合は、CD40LGのコード領域を直接シークエンス解析することで、女性保因者の95 %で変異を検出できる。

(注):フローサイトメトリーによるCD40Lの発現は、信頼性の高い保因者診断ではない。

遺伝カウンセリングに関連した問題

de novoの病的バリアントと目される家系について

CCDスペクトラム障害の発端者のいずれの親からも、発端者の有するRUNX2の病的バリアントが検出されない、もしくは、いずれの親も本疾患の臨床症候を有していない場合は、発端者のもつRUNX2の病的バリアントはde novoである可能性が高い。
ただ、代理父、代理母(例えば生殖補助医療によるもの)、もしくは秘匿型の養子縁組といった、医学とは別次元の理由が潜んでいる可能性もある。

家族計画

DNAバンキング

DNAバンキングとは、将来の利用を見越してDNA(通常は白血球から抽出したもの)を保存しておくことをいう。検査の手法や、遺伝子・アレルバリアント・疾患等に対するわれわれの理解は、将来、より進歩していくことが予想される。そのため、罹患者のDNAについては、保存しておくことを検討すべきである。

出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査

家系内に存在するRUNX2の病的バリアントの内容が確定している場合には、鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害に関する出生前検査や着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。

超音波検査

親が罹患者である場合、古典的CCDに関しては、妊娠14週になれば、超音波検査によって子の診断を行うことが可能となる。一貫してみられる症候として最も多いのは鎖骨の異常で、短小(妊娠週齢で比較したとき5パーセンタイル未満)、部分欠損、全欠損などがみられる。これより出現頻度の低いものとして、他に、低石灰化を伴う短頭形の頭蓋、前額部の突出、全身性の骨化遅延などがある[Stewartら2000,Hermannら2009]。

注:妊娠週齢については、最終月経の第1日から数えた週齢、もしくは超音波での計測値をもとにした週齢で表記される。

出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。


関連情報

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Cleidocranial Dysplasia (CCD)

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International Skeletal Dysplasia Registry


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A:鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害の遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体上の座位 タンパク質 Locus-Specific
データベース
HGMD ClinVar
RUNX2 6p21.1 Runt関連転写因子2 RUNX2 database RUNX2 RUNX2

データは、以下の標準資料から作成したものである。
遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。
リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。

表B:鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害関連のOMIMエントリー閲覧はすべてMIM

119600 CLEIDOCRANIAL DYSPLASIA;CCD

600211 RUNT-RELATED TRANSCRIPTION FACTOR 2;RUNX2

遺伝子構造

CCDスペクトラム障害として報告された例の大多数は、転写因子RUNX2(以前はCBFA1の名で知られていた)の病的バリアントのヘテロ接合を原因とするものである。RUNX2の最も長い転写バリアント(NM_001024630.3)は、9つのエクソンから成る。選択的プロモーターと選択的スプライシング[RefSeq,2008年7月]により、それぞれ別のタンパク質アイソフォーム[Geoffroyら1998]をコードする複数の転写バリアントが生じる。遺伝子ならびにタンパク質の詳細な情報の要約については、表Aの「遺伝子」の欄を参照されたい。

病的バリアント

RUNX2の病的バリアントとしては、ミスセンスバリアント、早期終止をもたらす[欠失/スプライス/挿入]バリアント、ナンセンスバリアントがある。古典的CCD罹患者で確認されているRUNX2の病的バリアントは、その大部分がruntドメインに影響を及ぼすもので、病的バリアントの大半はDNAとの結合能力の喪失につながるものと考えられている[Leeら1997,Mundlosら1997,Ottoら2002]。RUNX2の機能上、アルギニン225(p.Arg225)は決定的に重要な残基であるが、病的ミスセンスバリアントはこの部分に集中している。In vitroの研究で、p.Arg225の病的ミスセンスバリアントによりRUNX2タンパク質の核内蓄積が阻害されることがわかっている。本遺伝子の微小欠失もまた、CCDの重要な一因となっている(詳細な情報に関しては、表A参照)。

3:このGeneReviewで取り上げたRUNX2の病的バリアント

DNAヌクレオチドの変化(別表記1) 予測されるタンパク質の変化 参照配列
c.90dupC(90insC) p.Ser31LeufsTer130 NM_001024630.3
NP_00109801.3
c.598A>G p.Thr200Ala
c.673C>T p.Arg225Trp
c.674G>T p.Arg225Leu
c.674G>A p.Arg225Gln
c.1171C>T p.Arg391Ter
c.1205dupC p.Pro403AlafsTer872

上記のバリアントは報告者の記載をそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独自に変異の分類を検証したものではない。
GeneReviewsは、Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準拠している。
命名規則の説明については、Quick Referenceを参照のこと。

  1. 現在の命名規則に従わない別の変異表記法
  2. コドンPro402のフレームシフト変異として報告されたもの[Quackら1999]

正常遺伝子産物

Runt関連転写因子2(RUNX2)というタンパク質は、骨芽細胞の分化や骨格の形態形成に関与する転写因子である。RUNX2は、膜性骨化の際の骨芽細胞の分化、ならびに軟骨内骨化の際の軟骨細胞の成熟に不可欠であるとされる[Zhengら2005]。RUNX2は、N末端にQ/Aドメインと呼ばれるポリグルタミンとポリアラニンの反復構造をもつアミノ酸残基ストレッチ、1つのruntドメイン、C末端にプロリン/セリン/スレオニン(PST)リッチ活性化ドメインを有する。Runtドメインは、もともとショウジョウバエのrunt遺伝子で発見された128個のアミノ酸から成るポリペプチドモチーフで、DNAとの結合やタンパク質の二量体形成に関し、独立メディエーターとしての独特の働きをしている[Zhouら1999]。

異常遺伝子産物

RUNX2の病的バリアントにより、RUNX2タンパク質のハプロ不全が生じ、これにより古典的CCDが生じる。ただ例外もあり、タンパク質の部分的機能喪失をきたすhypomorphicなアレルの変異(c.90dupCならびにc.598A>G)は、軽症型のCCD、歯の異常のみのCCD、家系内で大きな表現型のばらつきを示すタイプのCCDを生じる。
こうしたことから、RUNX2内の他のアレル、ないし遺伝的修飾因子のhypomorphic/neomorphicな変異によって、病的バリアントの臨床的表現度が変化しているのではないかとの疑問が提示されている[Zhouら1999]。


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者: Karen Machol, MD, PhD,Roberto Mendoza-Londono, MD, MS, Brendan Lee MD, PhD
    日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    GeneReviews最終更新日: 2017.11.16 日本語訳最終更新日: 2023.1.8[in present]

原文: Cleidocranial Dysplasia Spectrum Disorder

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