Cardiofaciocutaneous (CFC)症候群
(Cardiofaciocutaneous Syndrome, CFC syndrome)

GeneReviews著者: Katherine A Rauen, MD, PhD
日本語訳者:南條(斎藤)由佳,新堀哲也、青木洋子(東北大学大学院医学系研究科 遺伝医療学分野) 、松原洋一(国立成育医療研究センター)

GeneReviews最終更新日: 2016.3.3. 日本語訳最終更新日: 2021.7.14.

原文: Cardiofaciocutaneous Syndrome, CFC syndrome


要約

疾患の特徴 

Cardiofaciocutaneous (CFC)症候群(心臓・顔・皮膚症候群)は、心奇形(肺動脈弁狭窄およびその他の弁異形成、中隔欠損、肥大型心筋症、不整脈)、特徴的顔貌、皮膚の異常(皮膚の乾燥、角化亢進、魚鱗癬、毛孔性角化症、眉毛瘢痕性紅斑、湿疹、色素性母斑、血管腫、掌蹠角化症)が特徴である。毛髪は一般に薄く、カールしており、細かったり太かったり、もじゃもじゃしていたりもろかったり、まつ毛や眉毛は欠損したり薄いことがある。爪は異栄養性または成長が早い。神経学的遅滞と認知の遅滞(軽度~重度)はすべての患者でみられる。腫瘍が何人かの患者で報告されており、そのほとんどは急性リンパ性白血病である。

診断・検査 

診断は臨床症状と分子遺伝学的検査でなされる。CFC症候群との関連が知られている4つの遺伝子は、BRAF(~75%)、MAP2K1MAP2K2(~25%)、KRAS(<2%)である。

臨床的マネジメント 

症状に対する治療
集学的なチームでケアを行う。先天性心疾患、肥大型心筋症、不整脈の治療は一般と同様である。皮膚の乾燥やそう痒に対しては、生活環境の湿度を高くし保湿剤を使用する。重度の摂食障害に対しては摂取カロリーを上げ、経管栄養・胃瘻をを使用する。重度の胃食道逆流に対しては手術。成長ホルモン分泌不全や眼科的異常に対しては一般と同様に対処。痙攣については多剤療法が必要になることがある。必要に応じて、作業療法、理学療法、言語療法。コンセンサスを得た医学的管理ガイドラインが出版されている。

二次的な合併症の予防
弁異形成を持つ患者に対して、亜急性細菌性心内膜炎を予防するための抗生剤投与、麻酔に先立って肥大型心筋症や不整脈の評価を行う。

サーベイランス
定期的な心エコー検査(肥大型心筋症)、心電図(不整脈)、神経学的・眼科的検査、側彎のチェック、成長と認知発達の評価。

遺伝カウンセリング 

Cardiofaciocutaneous (CFC)症候群は優性遺伝形式をとる。ほとんどの患者は新生突然変異による。患者のこどもがCFCに関連する病的バリアントを受け継ぐ確率は50%である。患者でBRAFMAP2K1MAP2K2KRASのいずれかの病的変異が同定されている場合には、その家系において妊娠中の出生前診断が可能である。


診断

Cardiofaciocutaneous (CFC)症候群は、RASopathyの一つである。RASopathyは、共通の病的メカニズムに起因し、互いにオーバーラップした臨床症状を有する症候群の一群である(Tidyman & Rauen 2009a)。診断基準は確立されていない。CFC症候群の診断は、臨床症状から本症が疑われ遺伝学的検査によって確定される。

CFC症候群を疑わせる臨床症状

下記のような、心臓・顔・外胚葉の臨床症状を有する患者では、cardiofaciocutaneous (CFC)症候群を疑わなければならない

その他の臨床症状(患者により、その有無や程度は様々)

注意:CFC症候群患者の表現型は様々であり、すべての患者がすべての所見を呈するわけではない。

fig1

1 BRAFあるいはMAP2K2の既知の病的変異をもつCFC症候群患者
A.  BRAF変異を持つ3名の子供。左:エクソン11の p.Thr470del、中央:エクソン11の p.Ser467Ala、右:エクソン6 のp.Gln257Arg。年齢は左から2.5歳、2歳、2歳。
B. MAP2K2のミスセンス変異を持つ12歳と8歳の男児。左:エクソン2の p.Phe57Cys、右:エクソン3 のp.Tyr134Cys。
C. 2人の6歳の少年。2005年のCostello syndrome family conferenceでは、臨床的にコステロ症候群と診断されていた。2人ともBRAF変異、つまり左:エクソン13のp.Gly534Argと右:エクソン12のp.Leu485Phe変異を有していた。

CFC Internationalの厚意による。

診断の確定

CFC症候群の診断は、分子遺伝学的検査によって、BRAF,MAP2K1,MAP2K2,KRASのいずれかにヘテロ接合性の病的変異を同定することによって確定される(表1参照)。

分子遺伝学的検査の進め方には、一連の単一遺伝子検査、複数遺伝子パネル検査、より包括的なゲノム解析検査の3種類がある。

CFC症候群における遺伝学的検査の進め方については、コンセンサスの得られた指針が作成されている(Pierpont et al 2014)。

現時点で論文化された情報に基づき、段階的なシークエンス解析が実施される:

  1. BRAF,MAP2K1,MAP2K2,KRASとその他の関連遺伝子(鑑別診断の項を参照)を含む、RASopathy/ヌーナン症候群関連疾患複数遺伝子パネル検査が、第一段階として一般的に推奨される検査である。
  2. 複数遺伝子パネル検査が実施できない場合、BRAF,MAP2K1,MAP2K2からはじめKRASまで対象とする一連の単一遺伝子検査が推奨される。病的バリアントが見つからない場合は、たとえ臨床診断がCFC症候群に見えたとしてもHRAS(すべてのエクソン)のシークエンスを行う。HRASの病的変異を持つ患者は、定義上、コステロ症候群である。
  3. シークエンス解析で上記の遺伝子に病的バリアントが同定されない場合、標的遺伝子の欠失/重複解析またはCGHアレイを考慮する。MEK遺伝子(すなわちMAP2K1MAP2K2)の稀な欠失がCFC症候群に類似した臨床症状を引き起こすことがある(Nowaczyk et al 2014)。

CFC症候群の徴候を有する患者で、一連の単一遺伝子検査(またはBRAF,MAP2K1,MAP2K2,KRAS
を含む複数遺伝子パネル検査)によって診断が確定できない場合、エクソーム解析または全ゲノム解析などのより包括的なゲノム解析検査が考慮される(実施可能な場合)。このような検査によって、当初は考慮されなかった診断(例:類似の臨床症状を呈する別の遺伝子の変異)がなされたり、示唆されることがある。

表1 CFC症候群における分子遺伝学的検査

遺伝1 当該遺伝子の病的変異がCFC症候群に占める割合 当該手法によって検出される病的変異の割合
シークエンス解析 標的遺伝子の欠失/重複解析
BRAF ~75% 100% 不明 1例報告あり
MAP2K1 ~25% 100% 不明
MAP2K2 99% 不明 数例の報告あり
KRAS <2-3% 100% 不明6
不明   NA  
  1. A参照
  2. Rauen(2013)
  3. 本遺伝子で検出されたバリアントに関する分子遺伝学的情報を参照
  4. シークエンス解析で検出される遺伝子のバリアントは、良性、おそらく良性、不明、おそらく病的、病的のいずれかに分類される。検出されるバリアントは、小さな遺伝子内欠失・重複、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライシング異常であり、通常、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失・重複は検出されない。
  5. 標的遺伝子を対象とした欠失・重複解析は、遺伝子内の欠失または重複を検出するものである。用いられる手法は、定量的PCR、long-range PCR、MLPA、単一エクソンの欠失や重複を検出できるように設計されたマイクロアレイである。
  6. 標的遺伝子を対象とした欠失・重複解析による検出率のデータはない。
  7. CFC症候群類似の表現型を示すBRAF欠失の1例報告(Yu & Graf 2011)があるが、機能解析による裏付けはない
  8. Nowaczykら(2014)によって、CFC症候群類似の症状がありMAP2K2欠失を有する数名の患者が報告されている。MAPK経路の調節不全を裏付ける機能解析がなされている。
  9. 現時点では、CFC症候群の原因となる別の未知の遺伝子における病的変異の存在は不明

臨床的特徴

臨床像

CFC症候群への罹患に性差はない。

胎児期, 羊水過多が大多数に認められる。妊娠悪阻が起こることがあり、主観的な胎動減少がみられることもある。新生児は未熟であったり、在胎週数に比して大きかったりすることもあるが、多くは在胎週数相当である。

新生児期,特徴的な顔貌がみられる。出生時の乳び胸やリンパ浮腫も報告されている。心疾患がある場合、一般的には出生時から存在するが、肥大型心筋症や不整脈は後から出現することもある。哺乳不良がある。

乳児期,重度の摂食障害が共通してみられ、結果として体重増加不良となる。多くの子供は経管栄養もしくは胃瘻が必要となる。重度の胃食道逆流に対してニッセン噴門形成術を行うこともある。便秘も一般的に認められ、小児期から思春期まで持続する。
すべての子供が何らかの神経学的異常、神経認知遅滞、または学習障害を有する。全般的に、発達遅滞は中等度からきわめて重度である。少数の患者は正常範囲のIQを有する。子供たちには言語発達遅滞があり、大多数は筋緊張低下のために運動発達遅滞を呈する。

小児期から思春期,現時点では、CFC症候群の長期的な経過や自然歴に関する研究は存在しない。しかし、CFC症候群では表現型が変化していく。

より多くのCFC患者における評価が、遺伝子型と臨床型の相関を明らかにするために必要で、そのことによってより正確な予後がわかるであろう。

現在進行中の相関研究は以下の通りである:

浸透率 

CFC症候群の浸透率は100%である。

病名 

1979年Blumbergらによって、特徴的な顔貌、外胚葉異常、心疾患を持つ3名の精神遅滞を持つ患者が報告された(March of Dimes Birth Defects Conference)。続いて1986年にReynoldsらが、この3名に他の5名を加えて、新しい疾患cardiofaciocutaneous症候群として報告した。また、1986年にBaraitserとPattonらが報告した、ヌーナン症候群に似た低身長と外胚葉異常を持つ症候群、は同じ疾患と考えられる。

頻度 

文献的に100例を超える報告がある。世界中のCFC症候群患者の数は数百名と推定されるが、症状の軽い患者が診断されていないために実際より少なく見積もられているかもしれない。全体としての頻度は未知であるが、日本における頻度は81万人に1人と推定されている(Abe at al 2012)。

遺伝学的に関連する疾患

BRAF
多発性黒子を伴うヌーナン症候群(Noonan syndrome with multiple lentigines: NSML NSML(以前はLEOPARD症候群と呼ばれていた)と臨床診断された数名の患者でBRAFの病的変異が報告されている。

ヌーナン症候群 ヌーナン症候群と臨床診断された数名の患者でBRAFの病的変異が報告されている。

メモ: NSMLまたはヌーナン症候群と臨床診断された患者でBRAFの病的変異が認められたと医学文献に報告されている(Sarkozy et al 2009)が、本稿の著者は、BRAFの病的変異は分子遺伝学的にCFC症候群と定義づけられるべきと考えている。

KRAS
ヌーナン症候群と臨床診断された患者のうち5%未満にKRASの病的変異が同定されている(Carta et al 2006, Schubbert et al 2006, Zenker et al 2007)。


鑑別診断

複数遺伝子パネル検査には、下記の疾患に関連する遺伝子が含まれている。

コステロ症候群は、出生後の重度の摂食障害の結果として生じる乳児期の体重増加不良、低身長、発達遅滞、知的障害、粗な顔貌(分厚い口唇、大きな口、分厚い鼻尖)、カールしたり薄く細い毛髪、手掌・足底の深いしわを伴う柔らかくてよくのびる皮膚、顔や肛門周囲の乳頭腫、全身的な筋緊張低下、手首と指の尺側偏位を伴う緩い関節、アキレス腱拘縮、さらに心肥大(一般的には典型的な肥大型心筋症)、先天性心疾患(通常、弁性肺動脈狭窄)、不整脈(通常、上室性頻脈、とくに無秩序心房性律動/多源性心房性頻脈または異所性心房性頻脈)を含む心疾患が特徴である。相対的あるいは絶対的大頭が典型的で、出生後の小脳過成長が水頭症や脊髄空洞症を伴うキアリⅠ型奇形を生じる可能性がある。コステロ症候群患者における悪性腫瘍の生涯発生率は約15%で、その内訳は幼少期の横紋筋肉腫や神経芽腫、青年期から成人にかけての膀胱移行上皮癌などである。

生殖細胞系列のHRASの病的変異が原因である(Aoki et al 2005)。遺伝形式は常染色体優性遺伝で生殖細胞系列モザイクが報告されている(Sol-Church et al 2009)。

HRASの病的変異が同定された患者は、定義上コステロ症候群と診断される。HRAS変異陰性でコステロ症候群に似た表現型を持つ患者においてBRAFの病的変異が同定されている(Rauen et al 2006)。しかしながら詳細な臨床所見によると、臨床診断はCFC症候群に一致していた。Costello症候群とCFC症候群は多くの共通する特徴を持ち、表現型の特徴のみで臨床診断をつけるのは難しい。BRAFの病的変異を有する患者は、たとえコステロ症候群でみられる徴候があったり、ヌーナン症候群と重なる表現型を持っていたとしても、CFC症候群と診断される(下記参照)。

ヌーナン症候群は、低身長、先天性心疾患、様々な程度の発達遅滞が特徴である。このほかの所見として、幅広いあるいは翼状の頸部、上部が鳩胸で下部が漏斗胸の変わった胸郭の形、停留精巣、特徴的な顔貌、出血素因、リンパ系の異形成、眼科的異常がみられる。出生時の身長は通常正常であるが、成人後の最終身長は正常下限である。先天性心疾患は患者の50~80%に起こる。しばしば異形成を伴う肺動脈弁狭窄が最も多く、患者の20~50%に見られる。患者の20~30%にみられる肥大型心筋症は、出生時に存在することもあるが、乳児期や小児期に出現することもある。その他の構造異常としては、心房中隔欠損、心室中隔欠損、肺動脈分枝狭窄、ファロー四徴症がある。患者の約3分の1に軽度の知的障害がある。

臨床的にヌーナン症候群と診断される患者のうち約50%にPTPN11の病的変異が同定される(Tartaglia et al 2001)。SOS1変異の病的変異はヌーナン症候群の約13%に認められる(Roberts et al 2006, Tartaglia et al 2007)。KRASの病的変異は5%以下の症例に報告されている(Schubbert et al 2006)。RAF1の病的変異は3~17%に報告されている。その他の病的変異が同定されている遺伝子は、NRAS(Chirstea et al 2010), BRAF, MAP2K1で、いずれも1%以下である。

CFC症候群の顔貌の特徴は、ヌーナン症候群を思い起こさせるもので、大頭症、広い額、側頭部の狭小、眼窩上縁の低形成、眼瞼裂斜下、眼瞼下垂、低い鼻根部をもつ短い鼻、上向きの鼻孔、耳介低位、後方回転した厚い耳輪、高口蓋などがある。このことは、正確な診断のために遺伝学的検査が重要であることを強調している。

遺伝形式は常染色体優性遺伝であるが、患者の多くは新生突然変異による。


臨床的マネジメント

最初の診断時におこなう評価

CFC症候群と診断されたり、疑われた場合、病状を把握するために次のような評価を行うことが推奨される。これらの評価は、初診時の検査や生涯にわたる継続的な医学的管理のための、出版されコンセンサスを得たガイドラインに基づいている(Pierpont et al 2014)。

症候に対する治療

診断時点での精密検査と生涯を通じての医学的管理に関するコンセンサスを得たガイドラインが出版されている(Pierpont et al 2014)。

CFC症候群は多くの臓器に症状が認められるため、大半の患者では多分野の医療者によるチーム医療が必要とされる。現時点では、BRAF, MAP2K1,MAP2K2,KRASのいずれかの病的変異によって引き起こされる臨床症状は、一般集団と同様に治療される。

メモ:米国や英国では、神経線維腫症/Rasopathyの遺伝専門クリニックが存在する。

二次病変の予防

心臓 ある種の先天性心疾患(特に弁の異形成)では、亜急性細菌性心内膜炎の予防のため抗生剤が必要である。

麻酔 CFC症候群患者では、気付かれていない肥大型心筋症、気管軟化症、不整脈の素因が存在する場合があるため、麻酔薬使用に先立ってこれらについて評価すべきである。

経過観察

もしいずれかの臓器に異常がみとめられた場合、生涯にわたるフォローアップが必要である。CFC症候群におけるコンセンサスを得た経過観察ガイドラインが確立されている(Pierpont et al 2014)。

忌避すべき薬剤/環境

熱気への過剰暴露。CFC症候群患者は熱さに弱い。

血縁者における再発リスク評価

遺伝カウンセリングの目的で血縁者の検査を行うことについては、遺伝カウンセリングの項を参照。

妊娠管理

CFC症候群が疑われる妊婦では、羊水過多、心疾患、高血圧の可能性があるため、母体胎児医学専門の医師による産科的ケアが必要。

研究段階の治療法

RAS/MAPK経路は癌との関連でよく研究されているので、この経路に対する特異的標的治療が数多く研究開発されている。
様々な疾患と病態に対する臨床試験の情報は、米国のClinicalTrials.gov、欧州のEU Clinical Trials Registerを検索すると得られる。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

Cardiofaciocutaneous (CFC)症候群は常染色体優性遺伝形式をとる(Rauen et al 2010)。これまでに報告された患者のほとんどは新生突然変異による。

患者家族のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の子

CFC症候群患者のこどもが、BRAF, MAP2K1, MAP2K2, KRASのいずれかの病的バリアントを受け継ぐ確率は50%である。

発端者の他の家族

その他の血縁者が罹患リスクは、発端者の両親の遺伝的状況による。両親のいずれかが罹患していれば、その血縁者の罹患リスクがある。

遺伝カウンセリングに関連した問題

家族計画

分子遺伝学的検査によって病因を確定することの重要性  ヌーナン症候群とCFC症候群は表現型がオーバーラップしている。分子遺伝学的検査で遺伝的病因を確定して発端者の正しい診断をおこない、正確な遺伝カウンセリングができるようにすることが重要である。

DNAバンキングは、DNA(一般的には白血球から抽出)を将来利用することを目的として保存するものである。将来的に、検査法や遺伝子・遺伝子変異・疾患に対する私たちの理解が進歩する可能性が高いので、DNAの保存を考慮すべきである。

出生前診断

家族の中のCFC症候群患者でBRAF, MAP2K1, MAP2K2, KRASのいずれかの病的変異が同定されていれば、CFCの出生前診断や着床前遺伝子診断が可能である。


資源

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここクリック。


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A CFC症候群:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体座位 タンパク 各遺伝子毎のデータベース HGMD ClinVar
BRAF 7q34 Serine/threonine-protein kinase B-raf BRAF database BRAF BRAF
KRAS 12p12.1 GTPase KRas KRAS database KRAS KRAS
MAP2K1 15q22.31 Dual specificity mitogen-activated protein kinase kinase 1 MAP2K1 @ LOVD MAP2K1 MAP2K1
MAP2K2 19p13.3 Dual specificity mitogen-activated protein kinase kinase 2 MAP2K2 database MAP2K2 MAP2K2

表B CFC症候群に関するOMIM記載事項

115150 CARDIOFACIOCUTANEOUS SYNDROME 1; CFC1
164757 B-RAF PROTOONCOGENE, SERINE/THREONINE KINASE; BRAF
176872 MITOGEN-ACTIVATED PROTEIN KINASE KINASE 1; MAP2K1
190070 KRAS PROTOONCOGENE, GTPase; KRAS
601263 MITOGEN-ACTIVATED PROTEIN KINASE KINASE 2; MAP2K2
615278 CARDIOFACIOCUTANEOUS SYNDROME 2; CFC2
615279 CARDIOFACIOCUTANEOUS SYNDROME 3; CFC3
615280 CARDIOFACIOCUTANEOUS SYNDROME 4; CFC4

分子遺伝学的病因

現時点で知られているCFC症候群に関連する4遺伝子は、Ras/MAPKシグナル伝達経路に存在する。この二重特異性キナーゼ(Rauen et al 2011)を有するMAPKシグナル伝達経路は真核生物間で高度に保存されており、細胞の増殖、分化、運動性、アポトーシス、老化に重要な役割を担っている。Ras/Raf/MEK/ERKシグナル伝達経路は細胞外からの刺激によって活性化される。活性化されたRasは、この経路の最初のキナーゼであるRafを細胞膜に呼び寄せる。活性化されたRafはMEK1(MAP2K1によってコードされている)と MEK2(MAP2K2によってコードされている)をリン酸化し、それらがさらにERK1とERK2(別名MAPK)をリン酸化する。ヌーナン症候群は、PTPN11(タンパク産物はSHP2), SOS1, SOS2, RAF1(タンパク産物はCRAF), NRAS, RIT1, LZTR1, RRAS, KRASの病的変異と関連している。HRASの病的変異はコステロ症候群と関連している。CFC症候群は、BRAF, MAP2K1, MAP2K2の病的変異と関連している。KRASの病的変異は、臨床的にCFC症候群と診断された患者とヌーナン症候群と診断された患者のいずれにも同定されている(Niihori et al 2006, Schubbert et al 2006)ため、そのタンパク産物であるGTPase KRas (KRAS)がCFC症候群において担う役割はまだ明らかにされていない。

BRAF

遺伝子構造 BRAFは、Rafファミリーの一員であるBRAFをコードしている。RafファミリーにはCRAFとX連鎖遺伝子ARAFにコードされるARAFも含まれている。BRAFの全長は約190kbで18エキソンよりなる。遺伝子とタンパクに関する情報の詳細な要約は、表A遺伝子を参照。

病的変異 CFC症候群患者におけるBRAF病的変異のスペクトラムは、がんでみられる体細胞系列病的変異のスペクトラムに似ている。しかしながら、CFC症候群に関連する病的変異は遺伝子全体により広く分布しており、その多くはこれまでがんでは同定されなかった新規のものである。病的変異はヘテロ接合性で、主として二つの領域、CR1 cysteine-rich domainとprotein kinase domain、に密集している。これまでに報告されたほぼすべての病的変異は、新生のミスセンス変異である。しかし、稀なBRAFエキソン11のin-frame欠失が同定されている(Yoon et al 2007)。

2 厳選されたBRAFの病的変異

DNA塩基の変化 予測されるタンパクの変化 対照塩基配列
c.770A>G p.Gln257Arg1) NM_004333​.4
NP_004324​.2
c.1399T>G p.Gln257Arg1)
c.1408_1410del p.Gln257Arg1)
c.1455G>C p.Leu485Phe2)
c.1600G>C p.Leu485Phe2)
c.1787G>T p.Gly596Val
c.1799T>A p.Val600Glu3)
c.1799T>G p.Val600Gly
  1. 図1参照
  2. コステロ症候群に伴っている
  3. 3)p.Val600Gluは、固形腫瘍に認められた体細胞の病的変異である(遺伝学的に関連する疾患の項を参照)

正常遺伝子産物 BRAFのタンパク産物であるBRAFはセリン/スレオニンプロテインキナーゼで、Rasの直接の下流に存在する多くのエフェクターの一つである。Raf/MEK/ERKのキナーゼモジュールは、細胞の増殖、分化、運動性、アポトーシス、老化において重要な役割を担っている。シグナル伝達経路は細胞外からの刺激によって活性化される。BRAFの下流のエフェクターは二つのみで、mitogen-activated protein kinase 1 and 2 (MEK1およびMEK2)である。BRAFには3つの保存配列がある。保存配列1(conserved region 1: CR1)はRas結合ドメインとcysteine-richドメインを含んでおり、いずれもBRAFを細胞膜に呼び寄せるために必要である。CR2は保存配列の中で最小で、CR3はglycine-richループ(エキソン11)と触媒ドメインの活性化部位(エキソン15)を含むキナーゼドメインである。

異常遺伝子産物 CFC症候群にみられるBRAFの病的バリアントのタイプは、がんの体細胞系列病的変異と類似しており、キナーゼ活性の増加や減弱を伴っている(Niihori et al 2006, Rodriguez-Viciana et al 2006)。さらに、CFC症候群の変異BRAFタンパクが下流のエフェクターを活性化することが、MEKとERKのリン酸化を測定する実験系で確かめられている。CFC症候群およびがんに関連する高いキナーゼ活性をもつ変異BRAFタンパクがいずれも正常BRAFに比較してMEKとERKのリン酸化レベルを上げる一方で、キナーゼ活性が減弱した変異BRAFタンパクはMEKとERKのリン酸化を促す能力に欠けている(Rodriguez-Viciana et al 2006)。がんで最も多いBRAFの病的変異p.Val600Gluは、CFC症候群では同定されていない。おそらくそのような機能獲得型変異は生存できないのであろう。しかしながら、最近、生殖細胞系列のp.Val600GlyがCFCで報告されたが(Champion et al 2011)、p.Val600Gluと同様に、がんでも報告されている。

がんと良性腫瘍-固形腫瘍 BRAFの体細胞系列の病的変異は腫瘍の約8%に報告されており、最も頻度が高いのはメラノーマ、甲状腺、直腸大腸、卵巣である。BRAFの病的変異の大多数は、BRAFのキナーゼドメインのエキソン11(glycine-richループ)とエキソン15(活性化部位)にみられるミスセンス置換である(これ以外の個所も存在する)(Wellbrock et al 2004)。キナーゼ活性を上昇させるp.Val600Gluは、ヒトのがんで同定されるBRAF病的変異の90%以上を占めている。体細胞系列のBRAF p.Val600Glu病的変異は、良性母斑や前がん状態の大腸ポリープでもみられる。このがんで頻度が高いp.Val600Glu病的変異はCFC症候群では同定されていない。しかしながら、最近、BRAF p.Val600Gly病的変異がCFC症候群患者で報告されている(Champion et al 2011)。

MAP2K1, MAP2K2

遺伝子構造 MEKは、Rafと同様、遺伝子ファミリーとして存在する。MAP2K1の全長は約104 kbで、MAP2K2の全長は約34kbである。各遺伝子は11エキソンよりなる。遺伝子とタンパクに関する情報の詳細な要約は、表A遺伝子を参照。

病的変異 MAP2K1MAP2K2のミスセンス変異は、CFC症候群と臨床的に診断された患者の約25%で病因となっている。病的変異はヘテロ接合性のミスセンス置換で、その多くはMAP2K1およびMAP2K2のエキソン2と3に同定される。MAP2K1MAP2K2におけるアミノ酸置換は似通っており、この二つのアイソフォームの機能的な帰結が類似していることを示唆している。

表3 厳選されたMAP2K1の病的変異

DNA塩基の変化 予測されるタンパクの変化 対照塩基配列
c.389A>G p.Tyr130Cys NM_002755​.3
NP_002746​.1
c.199G>A p.Asp67Asn
c.171G>T p.Lys57Asn

表4 厳選されたMAP2K2病的変異

DNA塩基の変化 予測されるタンパクの変化 対照塩基配列
c.170T>G p.Phe57Cys1) NM_030662​.3
NP_109587​.1
c.383C>A p.Pro128Gln
c.401A>G p.Tyr134Cys1)

正常遺伝子産物 MAP2K1MAP2K2はスレオニン/チロシンキナーゼをコードしており、いずれのアイソフォームもERK1とERK2を活性化する。MAP2K1はmitogen-activated protein kinase 1 (MEK1)をコードし、MAP2K2はMEK2をコードする。これらのタンパクは約85%のアミノ酸相同性を有している。マウスの発生をみると、MEK1とMEK2は重複した役割を担っているわけではない。

異常遺伝子産物 In vitroの機能実験によると、CFC症候群に関連したMAP2K1MAP2K2の病的変異にコードされたMEKタンパクは、ERKのリン酸化を正常よりも過剰に刺激する。しかし、恒常的に活性化している人工的に作成されたMEKの病的変異体のレベルよりは低い(Rodriguez-Viciana et al 2006)。

がんと良性腫瘍 最初に見つかった機能的MAP2K1病的変異であるp.Asp67Asnは、卵巣がんの細胞株で同定されたもので、この変異タンパクはERKのリン酸化を亢進させる(Estep et al 2007)。続いてMAP2K1の病的変異p.Lys57Asnが小細胞肺がんで同定された(Marks et al 2008)。これらの最初の報告以降、様々なタイプの腫瘍でMAP2K1MAP2K2の体細胞系列病的変異が報告されている。

KRAS

遺伝子構造 KRASは4つのエキソンよりなり、全長は約45 kbである。2種の選択的スプライシングが存在し、KRAS4bはあまねく発現している。遺伝子とタンパクに関する情報の詳細な要約は、表A遺伝子を参照。

病的変異 がんで同定されたものとは異なる生殖細胞系列のKRASミスセンス変異が、エキソン1,2,4bに同定されている(Carta et al 2006, Niihori et al 2006, Schubbert et al 2006, Zenker et l 2007)。

正常遺伝子産物 GTPaseであるKRASはsmall GTPaseの大きなスーパーファミリーに属しており、類似のH-Ras,N-RasとともにRasタンパクの中でもっとも広範に研究されている。Rasタンパクは、細胞成長、増殖、分化を制御する。Rasはその下流に存在するmitogen-activated protein kinase (MAPK)、phosphotidylinositol 3-kinase (PI3K)、RAL guanine nucleotide dissociation stimulator (RALGDS)、phospholipase Ce (PLCe)などを活性化する。

異常遺伝子産物 異常タンパク産物はシグナル伝達の統制を喪失し、成長因子に対する造血細胞の過剰反応を引き起こす。ヌーナン症候群およびCFC症候群に関連したKRASの病的変異の機能研究によると、内因性のGTPase活性は正常よりも低下していたが、がんでよくみられるK-Ras変異タンパクほどではなかった(Schubbert et al 2006)。おそらく後者のような機能獲得型の病的変異は、生存不能であろう。

がんと良性腫瘍 Rasの異常な活性化はしばしばがんで認められ、全腫瘍の約20%に起こる。がんにみられる病的変異の大多数は、ホットスポットであるコドン12、13または61に起こる。これらはヌーナン症候群やCFC症候群でみられるものと同一ではない。KRASの一塩基変異は、Ras遺伝子ファミリーの病的変異のうち約85%を占める。NRASの病的変異(全体の~15%)とHRASの病的変異(全体の~1%)の頻度はより低い。KRASの病的変異によるアミノ酸置換はグアニンヌクレオチドとの結合に影響してGTPの加水分解を減少させ、その結果タンパクの機能獲得をもたらす。


更新履歴:

  1. GeneReviews著者: Katherine A Rauen, MD, PhD
    日本語訳者:南條(斎藤)由佳,新堀哲也、青木洋子(東北大学大学院医学系研究科 遺伝医療学分野) 、松原洋一(国立成育医療研究センター)
    GeneReviews最終更新日: 2016.3.3. 日本語訳最終更新日: 2021.7.14.[ in present]

原文 Cardiofaciocutaneous Syndrome, CFC syndrome

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