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ヌーナン症候群
(Noonan Syndrome)

Gene Review著者: Judith E Allanson, MD.
日本語訳者: 鳴海洋子(群馬県立小児医療センター遺伝科)
Gene Review 最終更新日: 2008.10.8. 日本語訳最終更新日: 2009.4.5.

原文 Noonan Syndrome


要約

疾患の特徴 

ヌーナン症候群は低身長, 先天性心疾患, 発達遅滞を特徴とする. その他, 幅の広く, 翼状の首, 鳩胸, 漏斗胸などの胸郭変形, 停留精巣, 特異的顔貌, 凝固異常, リンパ管異形成や眼の異常を認める. 出生時身長は通常正常であるが, 最終身長は正常下限である. 先天性心疾患は患者の50-80%に認める. 形成不全を伴う肺動脈弁狭窄は最も多い心症状で 患者の20-50%に認める. 肥大型心筋症は患者の20-30%に認め, 出生後または乳幼児期に見つかる. その他の心血管系異常として心房中隔欠損, 心室中隔欠損, 肺動脈分枝狭窄, ファロー四徴がある. 患者約の約1/3に軽度精神遅滞を認める. .

診断・検査 

ヌーナン症候群は主要な臨床症状より診断される. 患者の染色体検査は正常である. ヌーナン症候群の4つの原因遺伝子の検査によって患者の50%にPTPN11, 5%未満にKRAS, 約13%にSOS1, 3-17%にRAF1変異が同定される.

臨床的マネジメント 

ヌーナン症候群における心血管系異常の治療は通常と同様である. 発達障害は早期教育プログラムと個人に合わせた教育により取り組む. 出血の治療は特定の凝固因子欠乏もしくは血小板凝集異常に起因するかを把握することが治療方針に役立つ. 成長ホルモン補充療法により成長速度は増加する. 経過観察:いずれかの臓器(特に心血管系異常)に異常を認めた際は経過観察を要する.

遺伝カウンセリング 

ヌーナン症候群は常染色体遺伝形式を示し, ほとんどの罹患者は新生突然変異であるが家系の30-75%で片親の罹患を認める. 発端者同胞のリスクは両親の遺伝的状況に依存する. もし両親のどちらかが罹患者の場合, そのリスクは50%である. 両親が非罹患者の場合, 同胞のリスクは低くなる(<1%). 罹患者の子供が遺伝子変異を受け継ぐリスクは50%である. 家系内罹患者に遺伝子変異が同定されている場合に出生前診断は可能となる.


診断

臨床診断

ヌーナン症候群の診断は主要な臨床所見より診断される. 診断基準が定義されていないにもかかわらず,ヌーナン症候群の主症状は明確にされている.

  • 低身長
  • 先天性心疾患
  • さまざまな程度の発達遅滞
  • 幅広い, 翼状の頚
  • 鳩胸、漏斗胸などの胸郭変形
  • 明らかに低位置の乳首
  • 男性では停留精巣
  • 特異顔貌. ヌーナン症候群の顔貌は年齢と共に変化する. 特異的顔貌が最も明らかになるのは新生児期と幼児中期で, 逆に成人になると不明瞭になる. 肉厚の耳輪, 低耳介, 後方回転した耳, 眼間解離, 内眼角贅皮, 厚い瞼、眼瞼下垂は年齢に関係なく主要な症状である.
  • その他
    • 凝固障害. プロトロンビン時間(PT), 活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT), 血小板数, 出血時間などの凝固系スクリーニングでしばしば異常を認める. 特殊検査によりvon Willebrand病のような特定の凝固欠乏, 血小板減少, さまざまな凝固因子の欠乏(第X, [, XI, XII因子, プロテインC)と血小板機能障害を同定する.
    • リンパ管異常

分子遺伝学的検査

遺伝子 4つの原因遺伝子が同定されている.

  • PTPN11
  • KRAS
  • SOS 
    注:臨床的にヌーナン症候群と診断されたがPTPN11遺伝子変異が同定されなかった患者の約16-20%にSOS1変異が同定された.
  • RAF1

他の遺伝子座 12q(PTPN11遺伝子が存在する部位)の連鎖を認めない家族例の報告もあり, 遺伝子座の異質性が推測される. しかしこの家族例がKRAS, SOS1, RAF1変異を持っているかは不明である. まだ同定されていない新たな遺伝子座の存在が予想される.

臨床検査

  • シークエンス解析
    • TPN11 PTPN11全エキソンのシークエンス解析によって患者の50%にミスセンス変異が同定される. PTPN11遺伝子欠失例は3塩基の欠失(p.Gly60del)による1例のみで, 胎児水腫や若年性骨髄単球性白血病など重度の臨床症状を認めたヌーナン症候群の乳児例である.
    • KRAS KRAS全エキソンのシークエンス解析では, ヌーナン症候群の5%未満に変異が同定される.
    • SOS123エキソンのシークエンス解析でミスセンス変異が同定される.
    • RAF1 17エキソンのシークエンス解析でミスセンス変異が同定される.
  • 欠失/重複解析 最近になって, シークエンス解析により遺伝子内の微小欠失が報告された. よって, ヌーナン症候群の診断では欠失解析を行う臨床的意義は限定される. PTPN11が含まれる12q24.11q24.23領域の重複では, 遺伝子量の増加によってヌーナン症候群と類似もしくは同一の表現型がおこると考えられる.

表1 ヌーナン症候群の分子遺伝学的検査のまとめ

遺伝子座名

ヌーナン症候群全体に占める割合

検査方法

検出される変異

変異検出率

実施可能性

PTPN11

50%

シークエンス解析

塩基配列変化

50-60%

米国では臨床系の検査室で可能

欠失/重複解析

遺伝子の部分、全欠失

KRAS

<5%

シークエンス解析

塩基配列変化

5%

米国では臨床系の検査室で可能

SOS1

10-13%

シークエンス解析

塩基配列変化

10-15%

米国では臨床系の検査室で可能

RAF1

3-17%

シークエンス解析

塩基配列変化

3-8%

米国では臨床系の検査室で可能

  1. 欠失, 重複の解析はDNAのシークエンス解析ができなくても, 定量PCR, real-time PCR, multiplex ligation dependent probe amplification (MLPA), CGHアレイを含む様々な方法によって解析可能である.

検査結果の解釈

シークエンス解析の結果解釈において考慮すべき点は以下である.

検出されうる塩基置換

  • すでに報告されている疾患の原因となる変異
  • 疾患の原因となると考えられるがまだ報告されていない変異
  • 臨床的意義の不明な塩基置換
  • 良性変異と考えられるがまだ報告されていない塩基置換
  • すでに報告されている良性変異

変異が検出されなかった場合に考えられる可能性

  • 患者は検査した遺伝子には変異を持っていない.すなわち変異は他遺伝子に存在する.
  • 患者はシークエンス解析では検出できない大きな欠失やスプライス変異などを有している.
  • 患者はシークエンス解析でカバーしていないイントロンや調節領域に変異を有している.

検査手順

発端者の診断確定

  1. PTPN11遺伝子のエキソン3, 8, 9, 13のシークエンス解析を行う.
  2. 変異が同定されなかった場合, SOS1遺伝子23エキソンを解析する.
  3. PTPN11, SOS1に変異が同定されなかった場合, PTPN11残りの11エキソンおよびRAF1遺伝子エキソン7, 14, 17の解析を行う.
  4. それでも変異が同定されなかった場合, RAF1の残りのエキソンの解析とKRAS遺伝子6エキソンの解析を行う.

リスクが高い妊娠に対する出生前診断および受精卵診断は家系内罹患者の遺伝子変異が事前に同定されている必要がある.

遺伝学的に関連する疾患

PTPN11

  • LEOPARD症候群(lentigines 黒子, ECG abnormalities 心電図異常, ocular hypertelorism 眼間開離, pulmonary stenosis 肺動脈狭窄, abnormalities of genitalia 性器障害, retardation of growth 発育障害, deafness 難聴)は様々な症状を伴う常染色体優性遺伝病である. この疾患は母斑(25%), カフェオレ斑(10%), 黒子(3%)などの色素性所見を持ち, ヌーナン症候群と臨床症状の重複を認める. PTPN11RAF1はLEOPARD症候群の原因遺伝子である. これら2つの遺伝子の検査によって罹患者の約93%に変異が同定されるが, さらなる原因遺伝子の存在が考慮される. 遺伝形式は常染色体優性遺伝を示す.

生後早期にヌーナン症候群に典型的な表現型を持ち, 成長と共にLEOPARD症候群の特徴である難聴と黒子を認めた少女例をSarkozyらは報告している.

  • 白血病と固形腫瘍. 若年性骨髄単球性白血病(JMML)は骨髄異形成症(MDS)の1/3, 白血病の約2%を占める. NRAS, KRAS2, NF1遺伝子変異は罹患者の約40%に認め, JMMLの原因であるRAS/MAPK経路の調節障害を認める. PTPN11のエキソン3, 13の体細胞変異はJMML患者34%に同定された.
    エキソン3の遺伝子変異は, 芽球増加を伴う小児MDS患者の19%に認め, 多くの場合, 急性骨髄性白血病(AML)へと進展し予後不良である. 非症候性AMLのうち, 特にFAB分類で単球性タイプはPTPN11変異が原因となる. これらの変異はすべて非受容体型チロシンホスファターゼU型(SHP-2)の機能獲得が原因で, RAS/MAPK経路の活性化延長によって細胞増殖が起こり JMMLの早期発症が考慮される.

最近では, PTPN11変異を原因とする白血病は小児の急性リンパ球性白血病(ALL)でも認める. 遺伝子変異はB-cell precursor ALLの8%に認めるが, T-cell ALLでは認めない. さらにBentires-Aljらは乳がん, 肺がん, 消化器がんや神経芽細胞腫などの固形腫瘍でSHP2が活性化するPTPN11変異について報告している.

  • Noonan like/multiple giant-cell lesion syndrome(臨床像を参照)

KRAS KRAS変異はcardio-facio-cutaneous症候群でも稀に認められる.

SOS1 SOS1遺伝子のフレームシフト変異は4世代にわたる遺伝性歯肉増殖症の家系例で報告された. この疾患は上顎と下顎の角化した歯肉の良性緩徐進行型線維性腫脹を特徴とする稀な歯肉の過成長を認める. SOS変異は同疾患の他の家系では報告されていない.

RAF1 LEOPARD症候群もRAF1の機能獲得型変異を原因とする. PTPN11変異が同定されなかった家系の1/3にRAF1変異が同定された.

癌の体細胞変異ではRAF1ミスセンス変異は稀である.


臨床像

自然経過

性差なく罹患する.

成長 浮腫により一過性に体重増加することもあるが, 出生体重は通常正常である.ヌーナン症候群の乳児は大抵哺乳障害を認める. 18か月頃まで体重増加不良が続くが, 摂食障害は自然に軽快する.

出生時の身長は通常正常. 成長速度は平均以下で思春期の成長スパートもかかりにくい傾向にあり, 思春期までの平均身長は3%タイルで推移する. 通常骨年齢は遅延し, 20歳をすぎても成長が続くことがある. 成人の最終身長は正常下限に達し, 男性は161cm, 女性では150-152cmである. 最近の研究によると, 女性の50%以上, 男性の40%近くの最終身長は正常の3%タイル以下となる一方で, 罹患者の30%は正常範囲内に到達すると報告されている.

一部の罹患者は, IGF1とIGFBP3の低下及び誘発試験による反応の低下を認め, 成長ホルモン分泌障害または成長ホルモン/インスリン様増殖因子の阻害が示唆される. PTPN11変異が同定されたヌーナン症候群患者ではシグナル伝達異常に関連する軽度の成長ホルモン抵抗性を認め, 代償性に成長ホルモンの分泌が上昇する.

循環器 以前はヌーナン症候群の診断に心疾患の存在を必須とする医師が多かった為, 先天性心疾患の合併頻度には明らかな偏りがみられた. 先天性心疾患の頻度は50〜80%の間と推定される. 心電図異常はヌーナン症候群患者のおよそ90%で認めると記載され, それら患者では心臓の構造異常を伴わないこともある.

  • 肺動脈弁狭窄は異形性を伴うことが多く, ヌーナン症候群では最も多い症状で, 患者の約20-50%で認める. 肺動脈弁狭窄のみの場合もあるが他の心疾患が併存している場合もある.
  • 肥大型心筋症は患者の20-30%で認める. 生下時, 乳児期, 幼児期に明らかとなる.
  • その他の構造異常として心房, 心室中隔欠損, 分枝肺動脈狭窄, ファロー四徴は頻度が多い. 大動脈縮窄はこれまで考えられていたよりも頻度が高い.

精神運動発達 発達は遅れることがあるが, 関節可動性の亢進や筋緊張低下の合併がこれに関係していると考えられている.

学童期児童の大部分は普通教育を受けている. しかし患者の25%に学習障害を認め, 10-15%は特殊教育が必要となる. 軽度精神遅滞は患者の約1/3に認める. 言語能は非言語能より劣り, 特殊教育が必要である.

構音障害が多い(72%)が通常は言語療法に対する反応がよい. 言語発達遅滞は聴覚障害や知覚運動障害, 構音障害に関連することがある.

行動異常や精神疾患は観察されない。自尊心は年齢相応である。ヌーナン症候群の精神健康面に関しての記載は少ないが, ヌーナンらは成人例51人の問題点について記載している。これによると23%ではうつを認め、薬物乱用や躁うつ病についても記載されている。しかしイギリスでの数年にわたるコホート研究では同様の所見は認められなかった。11人の患者の詳細な心理学的評価によると不安神経症, パニック発作, 社会的内向, 自己認識の悪化, 感覚や感情の表現などが困難(無感情症)を認めた。

泌尿生殖器 腎疾患は通常軽度で, 患者の11%に認める. 腎盂拡張が最も多いが, 重複集合系, 回転異常, 遠位尿管狭窄, 腎低形成, 片側腎異型性, 片側腎転位, 瘢痕を伴う両側腎嚢胞などの疾患を合併した報告はほとんどない.

男性の思春期発育と妊孕性{にんよう せい}は正常, 遅滞, 不全など様々である. 精子形成不全は男性患者の60-80%で認めるが, これは停留精巣と関連する.(筆者個人データ)

女性では思春期発来が遅れることがあり, 初経は平均14.6±1.17歳である. 通常妊孕性は正常である.

顔貌特徴 顔貌の相違は, ある年齢ではわずかであるが, 臨床所見として重要である.

新生児期は, 広い前額部, 眼瞼裂斜下, 眼瞼下垂, 低耳介,耳介後方回転, 厚い耳輪, 深い人中の溝, 高く, 幅広い上赤唇の先端, 短頚, 首の余剰皮膚,後頭部毛髪線低位を認める.

乳児期は, 眼球突出, 水平な眼瞼裂, 眼瞼下垂, 厚く下垂した瞼, 低い鼻根部, 幅広い鼻基部, 球根状の鼻尖を呈する.

幼児期の顔貌は感情や表情が欠如しているように見え, ミオパチー患者と類似する.

思春期は, 顔は逆三角形となり, 前頭部は広く, 顎は先細りする. 眼球突出はあまり目立たなくなり眼の形ははっきりしてくる. 首は長くなり, 網状皮膚と, 僧帽筋が目立つ.

高齢者では, 鼻唇溝が目立ち, 皮膚は薄くなり, 皺が目立つ.

出血傾向 ほとんどの患者では異常出血または打撲の既往がある. ヌーナン症候群患者の約1/3は1つ又はそれ以上の凝固異常を認める. 血液凝固障害は重度の外科的出血や 軽度の打撲もしくは臨床症状を伴わない検査所見上の異常として認めることがある.

リンパ管 ヌーナン症候群患者では様々なリンパ管異常を認める. これらは出生前もしくは出生後に, 局所性または広汎性にみられる. 足背や手背のリンパ管浮腫が最も多い. まれに 腸管, 肺, 精巣のリンパ管拡張症, 乳糜胸水 や腹水, 陰嚢や外陰部の局所的リンパ管腫も認める.

ヌーナン症候群が示唆される出生前の特徴として, 一過性または持続性の嚢腫, 羊水過多, そして(稀であるが)胎児水腫を認めることがある.

 斜視, 屈折異常, 弱視, 眼振のような眼科的異常は罹患者の95%位に認める. 前眼部および眼底病変はあまり一般的ではない.

皮膚 皮膚の異常、特に伸側面と顔面の毛孔性角化症は比較的多い所見で, 時々cardio-facio-cutaneous症候群(鑑別疾患参照)で認める所見と同程度に重症の場合もある.

頭髪はカールし, 薄く, ウール様, 粗でもろく, 髪の成長が遅いこともある.

カフェオレ斑と黒子は一般集団よりヌーナン症候群での頻度が高いとされる.(遺伝的関連疾患のLEOPARD症候群考察を参照)

その他 

  • Arnold-Chiari奇形T型は何例か報告されている. 著者は少なくとも3人の患者にこの奇形を認めている.(著者私見)
  • 肝脾腫の頻度は高く, 原因は不明であるが, 無症状の骨髄形成不全との関連する可能性がある.
  • 若年性骨髄単球性白血病(JMML)はPTPN11の体細胞変異を原因とすることが多い.(遺伝学的に関連する疾患参照)PTPN11変異のあるヌーナン症候群患者はJMML発症の素因がある. 一般に, ヌーナン症候群に合併したJMMLは比較的良性の経過を取り, 白血病化をおこす体細胞変異よりも高い機能獲得効果が見られる.
  • 骨髄増殖性疾患は一過性もしくは劇症で, ヌーナン症候群乳児にも起こりうる.
  • Noonan like/multiple giant-cell lesion syndrome. Noonan like/multiple giant-cell lesion syndromeにおける巨細胞肉芽腫と骨, 関節変形はヌーナン症候群の臨床症状のスペクトラムの一部として認める. これらはSH3BP3変異が原因の常染色体優性遺伝病であるケルビム症, 神経線維腫症, または若年性関節リウマチ(多関節色素性絨毛結節性滑膜炎)を伴うRamon症候群で観察される病変と類似する.
  • Noonan like/multiple giant-cell lesion syndromeはPTPN11変異, SOS1変異を原因とする. Noonan like/multiple giant-cell lesion syndromeの家系例では, giant-cell lesionの合併がないヌーナン症候群で報告されたPTPN11遺伝子の変異と同じ変異が同定された. よって, giant-cellが増殖するには他の遺伝子要因が必要と考えられる.
  • これらgiant-cell lesionはBRAFおよびMEK1が原因であるcardio-facio-cutaneous症候群にも認められた. それゆえgiant-cell lesion発生にはRas-MAPK経路の調節障害が関係していることが明らかとなり, Noonan like/multiple giant-cell lesion syndromeが独立した疾患概念であるか議論が生じている.

遺伝子型と臨床型の関連

PTPN11 ヌーナン症候群患者の大規模コホート解析によると, PTPN11変異は肺動脈狭窄を持つ患者に多く同定され, 反対に肥大型心筋症の合併はPTPN11変異陽性のヌーナン症候群では稀であることが示唆された.

その後のコホート解析では低身長, 胸郭変形, 易出血性, 特異的顔貌, 停留精巣とPTPN11変異との関連が認められた.

Asn308Asp変異が同定された患者は普通教育を受けることが多いとされてきたが, 同変異陽性患者群と変異陰性群との間に発達遅滞の尤度の違いは認められなかった.

コドン61, 71, 72, 76の変異は特に白血病化との関連が深く, JMMLのリスクが高いヌーナン症候群患者に同定される.

PTPN11変異陽性のヌーナン症候群患者では, 成長ホルモン受容体のシグナル伝達不全によって軽度の成長ホルモン抵抗性がおこり, その結果成長ホルモンの治療効果が減少すると考えられている.

KRAS KRAS変異に関連した表現型は非典型的であり, 精神遅滞の重症度の尤度が高くなる傾向がある.

SOS1 Tartagliaらによると,SOS1変異が同定された22人の表現型はヌーナン症候群の表現型スペクトラムの範疇であるが, 外胚葉系異常を伴い, 正常な発達や身長 を示す頻度が高いとしている. 一方RobertsらはSOS1変異が同定されたヌーナン症候群14人について報告しており, これによると発達や身長に関して他のヌーナン症候群患者との差異は認めなかった. また心臓中隔欠損の症状はPTPN11変異陽性ヌーナン症候群より頻度が高かったが, 外胚葉症状については特に記載されていない.

RAF1 ヌーナン症候群における肥大型心筋症の合併頻度は18%であるに対し, RAF1変異陽性患者では95%に認め肥大型心筋症との明らかな相関が報告されている. このことから心筋細胞の肥大はRASシグナルの増加により起こることが示唆される.

浸透率 

偏った診断や臨床症状が軽微な患者も多いため多様な表現型を呈し, ヌーナン症候群の浸透率決定は困難である.
成人では, 罹患が明らかな子供が誕生した後にはじめて自分も罹患者と診断されることが多い.

促進現象

ヌーナン症候群で促進現象の記載はない.

病名

「男性ターナー症候群 (male Turner syndrome)」とは当初ヌーナン症候群をさす用語であり, 本疾患が女性では見つからないという誤解を与えた.

1949年にUllrichは, bonnevieによって繁殖された翼状頚とリンパ管腫を持つマウスと患者の特徴との間の類似性を報告している. Bonnevie-Ullrich症候群という用語はヨーロッパで特に有名である.

頻度 

ヌーナン症候群は1:1,000から1:2,500の頻度で発症するとされている. 軽度の表現型の場合, 見過ごされている可能性がある.


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

Turner症候群は女性にのみ発症し, 性染色体の異常を証明することでヌーナン症候群と鑑別される. 実際,Turner症候群はヌーナン症候群と全く異なる表現型をとる. Turner症候群はヌーナン症候群と比較して腎奇形が多く, 発達遅滞の頻度は低い. 通常, 左心系の異常が見られる.

Watson症候群はヌーナン症候群と同じく, 低身長, 肺動脈弁狭窄を認め, 知能発達は様々で, 皮膚の色素性変化(たとえばカフェオレ斑)を特徴とする. ワトソン症候群は神経線維腫症T型とも表現型の重複を認め, この2つは対立形質と知られる.

Cardio-facio-cutaneous(CFC)症候群とヌーナン症候群は非常に多くの特徴が重複する. CFC症候群は心, リンパ管症状を持ち, 精神遅滞は重度で, 中枢神経系奇形の頻度は高く, 皮膚所見, 消化管症状はより重度だが, 出血障害は稀である. 顔貌は疎で, 長頭症と眉毛欠如の頻度が高い. CFC症候群の原因はこれまでにBRAF(75%-80%), MAP2K1, MAP2K2(10%-15%), そしてKRAS(<5%)の4つの遺伝子が知られる.

Costello症候群はヌーナン症候群およびCFC症候群と症状が重複する. Costello症候群患者ではPTPN11変異は同定されなかったが, HRASがん原遺伝子エキソン2の生殖細胞変異が同定されCostello症候群の原因として明らかになった.

その他. ヌーナン症候群は発達遅滞, 低身長, 先天性心疾患, 特異的な顔貌を伴う他の症候群, 特にWilliams症候群, Aarskog症候群, アルコールやプリミドンの胎児期曝露による疾患と鑑別すべきである.

臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

ヌーナン症候群と診断された患者には, 次の評価を推奨する.
・全身の身体及び神経学的検査
・ヌーナン症候群専用の成長用曲線への記入.
・心エコー, 心電図による心臓評価
・眼科検査
・聴力検査
・凝固系スクリーニング
・腎エコー検査;尿管異常を認めればさらに検尿を行う.
・脊椎と胸郭の診察とレントゲンの評価
・神経学的症状が存在する場合は脳, 頚髄MRIを施行
・総合的な発達評価
・遺伝相談

病変に対する治療

ヌーナン症候群の合併症治療は通常行われる標準的治療と同様である.

心血管異常に対する治療は通常行われる治療と同様である.

発達障害に対しては早期の教育プログラムと個人に合わせた教育によって取り組む.

ヌーナン症候群の出血の原因は多岐にわたる. 重度の出血では, 原因が凝固因子欠乏か血小板凝集障害かにより特異的治療が異なる. 第Za因子は血友病, von Willebrand病, 血小板減少症, 血小板無力症等が原因の出血治療として用いられる. これは血小板やPT, APTTが正常のヌーナン症候群で, 胃炎を原因とする術後重度出血の管理にも用いられた.

成長ホルモン治療はイギリス, 日本, オランダで研究されすでに報告されている. これらによると, 成長ホルモン治療によって少なくとも最初の3年は成長率の増加を認め, さらに最初の1〜2年は成長率が最大であった. 治療によってごく一部の研究参加者は標準的な最終成人身長に達したが, 一部では骨年齢の過剰促進を認めた. しかし, これはヌーナン症候群における治療では珍しくない. また投与後, 心室壁肥厚の異常所見は認めなかった. これらの結果より, アメリカではヌーナン症候群に対する成長ホルモン補充療法への関心は高いが, アメリカ以外の国では同疾患であっても成長ホルモンの欠損を認めなければ成長ホルモン投与は行われていない. 一部の研究によると, 成長ホルモン投与により最終身長が7cm増加し+1.5SDになったと報告している.

経過観察

いずれかの臓器に奇形が見つかった場合は定期的に検診を行い, 生涯にわたるモニタリングが必要である. たとえば, 心奇形があった場合は定期的な心エコー, 屈折異常、眼振があった際には眼科検査, 腎尿路奇形がある際は検尿を行う.

回避すべき薬物や環境

アスピリン療法は出血性素因を悪化させる可能性があり避けるべきである.

リスクのある親族の検査

リスクのある親族の検査については遺伝カウンセリングの項を参照.

研究中の治療法

幅広い疾患に関する臨床研究の情報入手のためClinicalTrials.govを検索する. 注:本疾患の臨床試験が無いこともある.

その他

遺伝外来は個人と家族にとって自然歴, 治療, 遺伝的な状態, 患者の遺伝情報の他に家系内の他の家族の遺伝リスクに関する情報源となる.

患者会は患者および家族が情報提供や援助, 他の患者との交流を目的に設立されている. 会は疾患特異的なものもあれば包括的な支援団体の場合もある.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

ヌーナン症候群は常染色体優性遺伝形式である.

家系メンバーへのリスク

発端者の両親

  • ほとんどの患者は新生突然変異であるが, 家族内の30-75%に患者を認める. 家族歴がないような単純な症例では, 変異が父由来であることが明らかとなった. 父の年齢が上がるにつれて特異的な性差比が観察される.

  • 両親の診察が重要である. ヌーナン症候群の特異的症状に関する医学的検査, エコーや心電図, 凝固系スクリーニングを行う. 幼少時代からの顔写真を確認し, ヌーナン症候群の重要な特徴の検索を行う.
    発端者の変異が同定されていれば両親の遺伝子検査は可能である.

発端者の同胞

  • 同胞の発症リスクは両親の遺伝状況に依存する.
  • 両親が罹患者, または発端者の遺伝子変異が同定されていれば, 同胞再発率は50%である.
  • 両親が臨床的に非罹患で, 発端者の遺伝子変異が同定されていない場合, 同胞再発率は低い(<1%).性腺モザイク例は報告されていないが, その可能性は考慮しなければならない.

発端者の子

  • ヌーナン症候群罹患者の子どもは50%の確率で変異遺伝子を受け継ぐ.

他の家系メンバー  発端者の他の家族がヌーナン症候群を発症するリスクは発端者の両親の遺伝状況による. もし, 親が罹患している場合, その家族はリスクがあるといえる.

遺伝カウンセリングに関連した問題

家族計画 

  • 遺伝リスクの決定や出生前診断の可否に関しては妊娠前に行われるのが望ましい.
  • 罹患者が若年者の場合,(子孫のリスク及び再発率について)遺伝カウンセリングを行う必要がある.

明らかに新生突然変異による家族 

常染色体優性遺伝疾患の発端者の両親が原因遺伝子がない場合または疾患の臨床症状が見られないときは発端者は新生突然変異と考えられる. しかしながら,父親や母親が異なる場合(生殖補助医療など)や明らかにされていない養子縁組など,非医学的な要因がある可能性も考慮される.

DNAバンク DNAバンクは主に白血球から調整したDNAの将来利用を目的として保存するものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.ことに現在利用できる分子遺伝学的検査の感度が100%でない疾患に関しては特に重要である.

出生前診断

リスクのある妊娠

  • 遺伝子検査. ヌーナン症候群の罹患リスクのある妊娠に対する出生前診断は可能である. 胎生16−18週に採取した羊水中細胞や10−12週*に採取した絨毛から調整したDNAを用いて解析する. 検査を行うには,家系内患者の遺伝子変異が同定されている必要がある.
    注:胎生週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される.

  • 超音波検査. リスクが50%の妊娠では, 高解像超音波検査も可能である. ヌーナン症候群を疑う胎児所見として、リンパ管機能不全や異常が原因となる水滑液嚢腫である. これは頭皮の浮腫, 羊水過多, 胸水, 心嚢液貯留, 腹水を認め, 胎児水腫を伴うこともある. これらの所見を認めればヌーナン症候群を疑うべきである. 最近の研究によると出生前に心疾患が見つかることは稀との報告もあるが, 心疾患の検索も合わせて行う.
    リスクが低い場合. 上記の超音波検査所見はリスクが高い妊娠ではヌーナン症候群を示唆するが, これらは非特異的所見なので, 心疾患や他の染色体, 非染色体疾患による場合もある.

着床前診断. 着床前診断は家系内の遺伝子変異が明らかになっている場合に研究室レベルで可能である.
訳注:ヌーナン症候群に対する出生前診断, 着床前診断は, 日本では行われていない.


原文 Noonan Syndrome

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