アデノシンデアミナーゼ2欠損症
(Adenosine Deaminase 2 Deficiency)

[Synonyms: ADA2欠損症、DADA2 (Deficiency of Adenosine Deaminase 2)]

GeneReviews著者: Ivona Aksentijevich, MD, Natalia Sampaio Moura, BS, and Karyl Barron, MD.
日本語訳者:清水 日智(社会福祉法人恩賜財団済生会支部済生会長崎病院 小児科)

GeneReviews最終更新日: 2019.8.8. 日本語訳最終更新日: 2021.6.4.

原文 Adenosine Deaminase 2 Deficiency


要約

疾患の特徴 

アデノシンデアミナーゼ2欠損症 (DADA2: Adenosine deaminase 2 deficiency) は、血管障害/血管炎、免疫機能障害、血液学的異常などを主症状とする複雑な全身性自己炎症性疾患である。炎症の特徴としては、間欠的な発熱、発疹 (しばしば分枝状皮斑 [livedo racemose]/網状皮斑 [livedo reticularis]) 、筋骨格系の病変 (筋肉痛/関節痛、関節炎、筋炎) などが挙げられる。血管炎は、通常、10歳未満で発症し、早期に発症する虚血性脳卒中 (ラクナ梗塞) および/または出血性脳卒中、あるいは皮膚性または全身性の結節性多発動脈炎といった症状を呈することがある。高血圧と肝脾腫がしばしば認められる。さらに重症になると、進行性の中枢神経障害 (構音障害、運動失調、脳神経麻痺、認知機能障外) や、腎臓、腸管、指などの虚血性障害が生じることがある。免疫機能障害では、様々な重症度の免疫不全や自己免疫性疾患をきたし得る。すなわちリンパ節腫脹が認められることもあり、罹患者 のうち幾人かではリンパ増殖性疾患を合併する場合もある。血液学的異常は、人生の早期または成人期後期より出現し、リンパ球減少症、好中球減少症、赤芽球癆、血小板減少症、もしくは汎血球減少症などを呈する。特筆すべきは、家系間および家系内の両者において表現型の違い (例えば、発症年齢、症状の頻度および重症度) が観察されることである。また、両アレル性 ADA2病原性バリアントを持つ人の中には、成人期まで無症状のままであったり、DADA2の臨床症状を一切発症しないこともある。

診断・検査 

DADA2の診断は、発端者 において、臨床上および検査上疑うべき所見があり、分子生物学的検査にてADA2の両アレル性 機能喪失型病原性バリアントが同定され、血漿または血清中のADA2触媒活性が低い (正常値の5%未満)、もしくは検出されない場合に確立される。

臨床的マネジメント 

症状に応じた治療:
TNF (腫瘍壊死因子) 阻害薬 (エタネルセプト、アダリムマブ、ゴリムマブ、インフリキシマブ、セルトリズマブ) は、ADA2両アレル性病原性バリアントを持つ人に対して、症状がある場合、ない場合の両方において選択される薬剤である。TNF阻害薬は、自己炎症性疾患/血管炎の症状を予防、改善し、虚血性脳卒中のリスクを低減し、炎症による負荷を軽減し、免疫不全、肝脾腫、好中球減少を緩和する。また、TNF阻害薬は、患児の成長や発育、赤血球数や血小板数を改善するが、重度の骨髄異常を回復する効果はほとんどないようである。

定期検査 (サーベイランス):
  DADA2の臨床症状および検査結果を定期的にモニタリングする。

避けるべき薬剤/環境:
 アスピリンを含む抗血小板薬、抗凝固薬(心房細動がある場合を除く)、末梢動脈疾患を悪化させる可能性のある喫煙など。

リスクのある血縁者の評価:
 現在症状があり迅速な治療開始がのぞまれる人や、現在症状がなく脳卒中のリスクを低減するためにTNF阻害薬による治療を受けることが有益な人が、両アレル性機能喪失型 ADA2病原性バリアントを有していることをできるだけ早期に同定するために、罹患者 (の一見無症状なリスクを有する同胞 (兄弟姉妹) について、遺伝的状態を明らかにすることが望まれる。

遺伝カウンセリング 

DADA2は、常染色体劣性遺伝 形式をとる。受胎時点において、罹患者の同胞 (兄弟姉妹) は、25%の確率で罹患をし、50%の確率で無症候性保因者 ヘテロ接合体となり、25%の確率で罹患しておらず保因者でもない。ADA2の病原性バリアントが罹患者のいる家系内で特定されると、(訳者注:米国では) リスクのある血縁者に対する保因者検査、リスクの高い妊娠に対する出生前検査、着床前遺伝検査が可能となる。


診断

アデノシンデアミナーゼ2欠損症 (DADA2: Adenosine deaminase 2 deficiency) の正式な診断基準は確立されていない。

疑うべき所見

アデノシンデアミナーゼ2欠損症 (DADA2: Adenosine deaminase 2 deficiency) は、血管炎、免疫機能障害、血液学的異常を特徴とする全身性自己炎症性疾患の臨床検査所見を有する人に対して、疑うべきである [Hashem et al 2017b, Lee 2018, Meyts & Aksentijevich 2018]。

全身性自己炎症性疾患

臨床所見

検査所見

血管炎


臨床所見

検査所見

抗好中球細胞質抗体 (ANCA) が検出されない

画像所見

免疫機能障害

臨床所見

検査所見

血液学的異常

血液疾患は通常、人生の早い時期に発症するが、まれに骨髄不全が成人期後期になってから発症する場合がある (例:40~50歳台):

骨髄生検では、低細胞性/高細胞性、グレード1の骨髄線維症、リンパ球浸潤 (主にCD8+)、軽度の骨髄細網線維化 (reticulin fibrosis) が認められることがあり、さらに細胞の分化不全が示唆される。患者1人において、骨髄におけるCD138+形質細胞数が減少していたことが報告されている[Zhou et al 2014, Van Eyck et al 2015, Ben-Ami et al 2016, Hashem et al 2017a, Michniacki et al 2018, Trotta et al 2018]。

その他

その他の臨床所見 その他の臨床所見としては、筋骨格の所見、アフタ性潰瘍、炎症性腸疾患様疾患、難聴などがみられる。
その他の検査所見 遺伝性のアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症 (deficiency of ADA) の患者とは対照的に、DADA2の患者では重度のリンパ球減少をきたさず、赤血球のADA活性は正常レベルであり、デオキシアデノシン三リン酸または総デオキシアデノシンヌクレオチドは、上昇するのではなく、検出されない。

診断の確立

疑うべき所見 を有する発端者おいて、分子検査により両アレル性 ADA2機能喪失型病原性バリアント(1 )が同定され、かつ/もしくは、血漿中の ADA2酵素活性が低値 (正常値の 5%未満) または検出されない場合に、DADA2の診断は確立される。注:どちらの検査によっても診断可能であるが、分子遺伝学的検査の方がより広く利用可能である。

分子遺伝学的検査の手法には、表現型 に応じて、遺伝子 を標的とした検査 (単一遺伝子検査、マルチ遺伝子パネル と包括的なゲノム (査 (エクソームシーケンス [、エクソームアレイ、ゲノムシーケンス の組み合わせが選択できる。

遺伝子を標的とした検査では、どの遺伝子 (たち) が関与しているかを臨床医があらかじめ判断する必要があるが、ゲノム検査ではその必要はない。DADA2の表現型 (は幅広いため、疑うべき所見に記載されている特徴的な所見を持つ患者では、遺伝子を標的とした検査で診断される可能性が高く (オプション1:、一方、DADA2が疑われていない患者では、ゲノム検査で診断される可能性が高い (オプション2)。

オプション1

表現型と検査所見から DADA2が疑われた場合、用いられる分子遺伝学的検査には、単一遺伝子 検査およびマルチ遺伝子パネル がある。臨床的にDADA2が疑われ、フランスの自己炎症性疾患センターで遺伝子解析を受けた66人の患者のうち、11家系13人 (20%) が両アレル性 にADA2病原性バリアント 有することが判明した [Rama et al 2018]。DADA2患者のうち80%以上が、炎症のバイオマーカー (発熱、CRP上昇)、血管炎の所見 (皮膚、神経) そして1回以上の臨床症状の増悪 (clinical flare) を組み合わせて有していた。なお、この報告は、血液学的異常のみを呈する人には当てはまらない可能性がある [Ben-Ami et al 2016, Sönmez et al 2018]。

単一遺伝子検査

ADA2のシーケンス解析では、両アレル性 に、ホモ接合 もしくは複合ヘテロ接合のミスセンス ナンセンス 、およびスプライスサイト バリアントが検出されるが、通常、エクソン または全遺伝子の欠失/重複は検出されない。非常に疑わしい臨床症状を呈し、血漿もしくは血清中の ADA2活性が低値の場合において、病原性バリアントが1つだけしか見つからない、または全く見つからなかった場合には、遺伝子を標的とした欠失/重複解析 を行うことにより、 遺伝子内の欠失または重複 (すなわち、コピー数多型 [CNV: copy number variants]) が検出される可能性がある。

マルチ遺伝子パネル

ADA2をはじめ、免疫異常、原発性免疫不全症、自己炎症性疾患に関連する他の遺伝子を含むマルチ遺伝子パネル (「鑑別診断を参照)は、最も合理的なコストで遺伝的原因を特定できる可能性が高く、その一方で、意義不明なバリアントや、患者に認められる表現型 (とは合致しない病態を引き起こす遺伝子の病原性バリアントが偶発的に見つかることを抑制できる。注: (1) パネルに含まれる遺伝子の種類や診断の感度 は検査室によって異なり、時代とともに変化する可能性がある。(2) マルチ遺伝子パネルの中には、当GeneReviewのサイト上で説明した病態には関連しない遺伝子が含まれている場合がある。(3) 検査会社によっては、パネルのオプションとして、臨床医が指定した遺伝子を含む、検査室で設計したカスタムパネルおよび/または表現型をもとに作成されたカスタムエクソーム 解析が含まれている場合がある。(4) パネルで使用される方法には、シーケンス解析 、欠失/重複解析 、および/または他のシーケンス解析に基づかない手法による検査が含まれる。DADA2の診断には、欠失/重複解析を含むマルチ遺伝子パネルが推奨される (1 参照)。

マルチ遺伝子パネルの詳細については、こちらを参照のこと。遺伝子検査をオーダーする臨床医のためのより詳細な情報は、ここをクリックのこと。

オプション2

表現型が非典型的であるために DADA2が疑われていない場合、包括的なゲノム検査 (どの遺伝子 が関与しているかを臨床医が判断する必要がない) が最適な選択肢となる。エクソームシーケンスが最も一般的に用いられるが、ゲノムシーケンス)も可能である。エクソームシーケンスでADA2の病原性バリアント が1つしか同定されなかった場合、シーケンス解析 では検出できない (複数の) エクソンの欠失や重複を検出するために、エクソームアレイ (を実施する (臨床的に可能な場合)。
包括的なゲノム検査については、 こちらを参照のこと。ゲノム検査を依頼する臨床医のためのより詳細な情報はこちらを参照のこと。

1.

アデノシンデアミナーゼ2欠損症 (DADA2: Adenosine deaminase 2 deficiency) に用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 検査手法 各検査手法によって、病原性バリアントが発端者において同定される割合2
ADA2 シーケンス解析3 ~97%4
遺伝子標的欠失/重複解析 5 ~3%6
  1. 染色体座 とタンパク質については、表A. Genes and Databases.遺伝子とデータベースを参照のこと。
  2. この遺伝子 で検出されたアレルバリアントの情報については、分子遺伝学的情報Molecular Geneticsを参照のこと。
  3. シーケンス解析は、良性、良性の可能性が高い、意義不明 (、病原性の可能性が高い、または病原性のあるバリアントを検出する。病原性バリアントには、小さな遺伝子内欠失/挿入、ミスセンス 、ナンセンス、スプライスサイトバリアントが含まれることがあり、通常、エクソン または全遺伝子の欠失/重複は検出されない。シーケンス解析 の結果を解釈する際に考慮すべき事項については、こちらを参照のこと。
  4. Hashem et al [2017b], Meyts & Aksentijevich [2018]
  5. 遺伝子標的欠失/重複解析 は、遺伝子内の欠失または重複を検出する。使用される方法は、定量PCR 、ロングリードPCR (long-range PCR)、MLPA法 (multiplex ligation-dependent probe amplification) 、単一エクソン 欠失や重複を検出するために設計された遺伝子標的マイクロアレイなどの方法が用いられる。
  6. Zhou et al [2014], Fellmann et al [2016], Uettwiller et al [2016], Lee et al [2018], Grossi et al [2019]

ADA2酵素活性 

ヒトでは、ADA2酵素は血漿および骨髄細胞に存在するが、赤血球には存在しない。DADA2では、血清または血漿 (新鮮なサンプルまたは凍結保存されたサンプル) 中のADA2酵素活性値は低値 (正常値の5%未満) または欠損を示す。DADA2は、乾燥ろ紙血抽出液中のADA2活性を測定することでも診断できる [Ben-Ami et al 2016]。生化学的な測定法としては、ELISA (酵素結合免疫吸着測定法) とHPLC (高速液体クロマトグラフィー) が用いられる。

注: (1) ADA2活性のELISA法による測定は、研究室では一般的に可能であるが、臨床検査室では検査ができない場合がある。 (2) DADA2患者では、免疫沈降法によるADA2酵素の欠損が証明されているが [Zhou et al 2014]、臨床検査室で使用できる抗ADA2抗体を用いた検査法は検証されていない。


臨床的特徴

臨床所見

アデノシンデアミナーゼ2欠損症 (DADA2: Deficiency of adenosine deaminase 2) は、血管炎、免疫機能障害、血液学的異常を3徴とする全身性自己炎症性疾患である [Hashem et al 2017b, Lee 2018, Meyts & Aksentijevich 2018]。その他の臨床的特徴としては、神経学的異常、消化器病変、筋骨格系病変が挙げられる。重篤な症状 (例えば、組織および/または臓器における卒中や虚血性障害) は、障害を引き起こし、さらに/もしくは、生命を脅かすことがある。DADA2の分子病態が解明され、十分な治療法が確立される以前は、罹患者 の8%が30歳前に死亡すると報告されていた [Hashem et al 2017b, Meyts & Aksentijevich 2018]。

病原性バリアントがタンパク質の機能に及ぼす影響だけでは完全に説明できない、表現型のばらつきが同一家系内で観察されることがある。例えば、ある人の症状の発症が幼少期であっても、その人の同胞 (兄弟姉妹) は幼少期以降に発症することがある。同じ創始者バリアント をホモ接合性に 持つ罹患者であっても、発症年齢、症状の頻度や重症度にばらつきがある [Van Montfrans et al 2016]。イラク系の大家系では、同じ病原性バリアントをホモ接合性に持つ4人の成人が、ADA2活性が低かったにもかかわらず、症状を有していなかった [Nanthapisal et al 2016]。

血管炎

DADA2の最も頻度の高い症状は、動脈血管障害に関連したもので、しばしば皮膚病変として現れる。皮膚症状は75%以上の患者で報告されており、分枝状皮斑 (livedo racemose)/網状皮斑 (livedo reticularis)、結節性多発動脈炎 (PAN: polyarteritis nodosa)、皮下結節、皮膚潰瘍、またはループス様発疹が含まれる [Gonzalez Santiago et al 2015, Caorsi et al 2016, Skrabl-Baumgartner et al 2017]。

DADA2関連の結節性多発動脈炎 (PAN) と原因不明のPANの病理組織学的所見は同一であり、非肉芽腫性の中小血管における壊死性血管炎である。時には非特異的な所見が白血球破砕性血管炎と解釈されることもある。分枝状皮斑を呈する若年者では、皮膚生検で、明らかな血管炎を伴わない好中球およびマクロファージの間質浸潤が認められる。
ある研究では、PAN、皮膚型PAN、分類不能な血管炎 (UCV: unclassifiable vasculitis)、若年発症の慢性血管炎、脳卒中の既往歴を有する小児60人のうち、9人 (15%) が両アレル性に ADA2病原性バリアントを有していることが判明した。判明前の臨床診断は、PAN (5人)、UCV (3人)、ANCA関連血管炎 (1人) であった [Gibson et al 2019]。

虚血性脳卒中は、脳幹、視床、基底核、内包においてしばしば認められる (ただし、これらに限定されない) [Bulut et al 2019]。ラクナ梗塞と表現されるこれらの小さな梗塞は、MRIで常に観察可能とは限らない。

初期には検出できなかったこれらの小さな脳梗塞の影響が、時間をかけて蓄積されると、持続的な構音障害、運動失調、1つ以上の脳神経麻痺、認知機能障害などの重篤な神経症状へと繋がることがある [Springer et al 2018]。

その他の神経学的症状は以下の通りである:

遠位動脈の閉塞によるその他の症状としては、末梢血管機能不全、指先の壊死、レイノー(Raynaud) 症状などがある [Navon Elkan et al 2014、Zhou et al 2014]。

消化器症状としては、一般的に腹痛や慢性胃炎が挙げられる。まれに、腸管壊死、腸管穿孔、動脈の狭窄などが認められる [Belot et al 2014, Batu et al 2015]。

肝疾患としては、肝腫大や脾腫が認められ、門脈圧亢進症やそれに伴う食道静脈瘤を合併しうる。病理組織学的所見には、末期肝不全につながる可能性のある、結節性再生性過形成および/または肝硬化の所見が含まれる [Springer et al 2018]。
その他の臓器として、腎臓のような密集した血管を持つ臓器に症状を呈することもある。腎動脈の狭窄や梗塞だけでなく、中・小腎内動脈の多発性の瘤状拡張や、内径の変化が報告されている [Navon Elkan et al 2014, Nanthapisal et al 2016, Sahin et al 2018]。

免疫機能障害

一般的な免疫機能障害の症状には、免疫不全、リンパ増殖性疾患、および様々な重症度の自己免疫性疾患が含まれる。
免疫不全。DADA2に関するの初期の頃の報告では、自己炎症性の表現型 が優位であったが、軽度の免疫不全が、DADA2患者コホート9人のうち5人で確認された [Zhou et al 2014]。当初、免疫不全が免疫抑制療法と関連するかどうかは明らかではなかったが、その後、抗体欠損症および/または分類不能型免疫不全症の特徴を有する181人のドイツ人コホートにおいて、11人がDADA2であることが判明した [Schepp et al 2016, Schepp et al 2017]。そして、これらDADA2患者のうち、4人は免疫不全を呈していながら血管炎症状を有していなかった。現在までのところ、免疫不全の範疇には、様々な程度のB細胞欠損と低ガンマグロブリン血症が含まれている。T細胞数は、骨髄不全の患者を除いて、ほとんど変化が認められない。

DADA2患者の約20%は、免疫不全に起因する細菌やウイルスの感染症を認める。細菌感染症は、典型的には上下気道、胃腸管、尿路の感染症が認められる。ウイルス感染症には、再発性の単純ヘルペスウイルス (HSV) 感染症、皮膚疣贅 (ヒト乳頭腫ウイルス [HPV] が原因) [Arts et al 2018]、1人の小児では帯状疱疹 (水痘帯状疱疹ウイルス [VZV] が原因) [Ghurye et al 2019] が認められた。
真菌やマイコバクテリウムの感染は稀だが、重度の単球減少症を有する1人の患者で観察され [Hsu et al 2016]、ADA2とIL-17RAが関連する近接遺伝子欠失 を有する2人の同胞例では、繰り返す真菌感染症がIL-17R欠損症に起因するとされた [Fellmann et al 2016]。
リンパ増殖性疾患。全身のリンパ節腫脹は罹患者 (の10%以上に見られ、脾腫はかなり一般的である。DADA2におけるリンパ増殖性疾患の表現型 ( は、以下の通りである

自己免疫性疾患。全身性エリテマトーデスに似た自己免疫疾患と自己免疫性細胞減少症が無関係の2家系で報告された [Schepp et al 2016, Skrabl-Baumgartner et al 2017]。

血液学的異常

造血器の合併症としては、白血球、血小板、赤血球の様々な減少 (ダイアモンド・ブラックファン貧血 [Blackfan-Diamond anemia] に類似した赤芽球癆 [PRCA: pure red cell aplasia] を含む) や、完全な骨髄不全による汎血球減少が存在する。DADA2を有する161人のデータのメタ分析報告では、貧血が13%、好中球減少が7%、血小板減少が6%で認められることに対し、白血球減少、赤芽球癆、NK細胞欠損、汎血球減少は5%未満であることが明らかになった [Meyts & Aksentijevich 2018]。

それぞれ独立した近親婚 (4家系の5人の小児患者における初期臨床症状は、炎症や血管炎の症状を伴わない赤芽球癆と溶血性貧血であった [Ben-Ami et al 2016]。

好中球減少は、2人の罹患者では重度 (すなわち好中球絶対数が低値もしくはゼロ) であり [Hashem et al 2017a, Cipe et al 2018]、他の罹患者では中等度の好中球減少であったが持続した [Ghurye et al 2019]。

筋骨格系症状

約40%の罹患者 ¥が以下の筋骨格系の症状を呈する: 筋肉痛/関節痛(22%)、関節炎 (14%)、筋炎 (1%) [Meyts & Aksentijevich 2018、Sahin et al 2020]。筋骨格系の症状は、発熱および/または急性期反応物質の上昇など、全身性炎症における他の特徴を伴うことがよくみられる。

遺伝型と表現型の相関

現在までに、ADA2の病原性バリアントとDADA2の臨床症状を関連付ける、遺伝型と表現型の相関 は確認されていない。
しかしながら、中東と北ヨーロッパの2つの主な創始者集団の罹患者 を対象とした研究により、遺伝子型と表現型の相関について知見が得られる可能性がある。詳細は3 を参照のこと。

有病率

DADA2は稀な疾患と考えられているが、2014年に最初の報告がなされて以来、170人以上の罹患者 が文献上報告されている。コンピュータシミュレーションに基づき (in silico) 予測されたADA2に機能能低下を起こすバリアントの対立遺伝子 頻度に基づくと、DADA2の推定有病率は4:100,000にも達する可能性がある。
DADA2の有病率は、血縁関係 が強い集団や創始者バリアントを持つ集団で高くなる。表3 を参照のこと。


遺伝子に関連する (対立遺伝子) 疾患

ADA2の生殖細胞系列 病原性バリアントによって引き起こされる表現型は、このGeneReviewで述べられているもの以外には知られていない。


鑑別診断

DADA2の鑑別診断として考慮すべき遺伝性疾患を表2 (Table 2) に示す。鑑別診断で考慮すべき既知の、遺伝的要素を持たない疾患については、表2の後に記載する。

2.
アデノシンデアミナーゼ2欠損症 (DADA2: Deficiency of adenosine deaminase 2) の鑑別疾患として考慮すべき、ADA2活性正常である遺伝性疾患

鑑別疾患 遺伝子 遺伝形式
(MOI)
鑑別疾患の臨床的特徴
DADA2と共通の症状 DADA2では認めない症状
ダイアモンド・ブラックファン貧血
Diamond-Blackfan anemia (DBA)
12のリボソームタンパク遺伝子、
GATA1
TSR2
AD 赤芽球癆 小頭症、口蓋裂、特徴的顔貌(眼間開離、広い鼻梁、低い鼻梁) を伴う場合がある。
ADA-SCID 1 ADA AR 免疫不全
  • 免疫不全はより重度となる
  • T細胞、B細胞、NK細胞の枯渇
  • ADA低値
  • 脳血管障害と皮膚症状の欠如
GATA2欠損症
GATA2 deficiency (OMIM 614172)
GATA2 AD 免疫不全、血球減少、繰り返す感染症 2
  • 感染症はしばしば侵襲的となる
  • 血管炎の合併は稀である
自己免疫性リンパ増殖症候群
Autoimmune lymphoproliferative syndrome (ALPS)
CASP10,
FAS,
FASLG 3
AD
AR
リンパ節腫脹、脾腫、免疫介在性血球減少症 4 ALPSはプログラムされた細胞死の一次的な障害により生じ、より自己免疫的な特徴を持つ

AD = 常染色体優性遺伝: autosomal dominant; AR =常染色体劣性遺伝: autosomal recessive; MOI = 遺伝形式: mode of inheritance

  1. ADA-SCID = アデノシンデアミナーゼ欠損症 (adenosine deaminase defects) による重症複合免疫不全症 (severe combined immune deficiency)
  2. Hsu et al [2016]
  3. ALPS罹患者の約20%~25%は遺伝子診断を受けていない (ALPSの稿を参照)
  4. Alsultan et al [2018]

ADA2酵素活性が正常であり、遺伝的要素が知られていない鑑別疾患は以下の通りである:


管理

初期診断後の評価

アデノシンデアミナーゼ 2 欠損症 (DADA2) と診断された患者の疾患の重症度を把握し、患者のニーズをはっきりとさせるために、(診断のきっかけとなった検査の一部として実施されていない場合には) このセクションでまとめられている検査によって評価を行うことが推奨される。

症状に対する治療

症状のあるDADA2患者への治療の現状

腫瘍壊死因子 (TNF) 阻害薬 (Anti-tumor necrosis factor [TNF] agents)  エタネルセプト、アダリムマブ、ゴリムマブ、インフリキシマブ、セルトリズマブなどの腫瘍壊死因子 (TNF) 阻害薬 (生物学的製剤) は、自己炎症性疾患/血管炎の症状を予防・改善するために選択される薬剤である。これらの薬剤を使用することで、虚血性脳卒中のリスクや炎症による負荷が軽減され (CRP/ESR値の低下や皮疹の減少により評価される)、免疫不全、肝脾腫、好中球減少症の程度が緩和される。TNF阻害薬の開始前に合計37回の脳卒中のエピソードがあるDADA2患者15人のコホートでは、治療開始後、脳卒中は1回も観察されなかった [Ombrello et al 2019]。また、これらの薬剤を使用することで、患児 の成長・発達が促進され、炎症による負担が軽減されることで赤血球数や血小板数が改善される。特記すべきこととして、TNF阻害薬は重度の骨髄異常に対しては、改善効果をほとんど持たないようである。

血清免疫グロブリンが低下し、感染症が頻発している患者の中には、TNF阻害薬と併用して免疫グロブリンの静注、抗生物質や抗ウイルス剤による治療が必要になる場合がある [Hashem et al 2017c, Schepp et al 2017]。
アダリムマブやインフリキシマブを投与する際には、抗薬物抗体の発現を防ぐために、メトトレキサートを追加する。
サリドマイドは、生物学的製剤が使用できない場合のTNF阻害のための治療法として期待されている。サリドマイドは、樹状細胞におけるTNF産生を阻害し、単球に対して抑制効果を発揮することが知られている [Deng et al 2003]。注目すべき点は、6人の患者を対象とした研究において、全員がサリドマイド治療に完全に反応したが、その後、神経毒性のために6人中3人で本剤を中止しなければならなかった (20ヶ月から5年の治療後) [Caorsi et al 2017]。多発性骨髄腫患者におけるサリドマイドの長期治療を評価した研究では、神経毒性の特徴として、感覚性末梢神経障害 (知覚異常、振戦、めまいなど) が挙げられている [Tosi et al 2005]。

ステロイドおよび一般的な免疫抑制療法 (アザチオプリン、シクロスポリン、シクロホスファミド、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムスなど) の奏効率は様々である。
IL-6療法は、症状が多中心性キャッスルマン病に類似したDADA2患者において成功した [Van Nieuwenhove et al 2018]。

造血幹細胞移植 (HSCT: hematopoietic stem cell transplantation) は、骨髄不全および/または免疫異常が優勢であり、TNF阻害剤治療に反応しない患者の治療に用いられる。造血幹細胞移植が成功すると、血漿中の ADA2活性が正常レベルに戻る。ある研究では、骨髄機能障害または免疫不全を有する14人の患者全員 (うち6人は血管炎も患っていた) において、造血幹細胞移植後には血液学的および免疫学的異常所見 (表現型) が消失したが、急性移植片対宿主病 (GVHD)や、自己免疫による中等度の慢性GVHDが報告された [Hashem et al 2017c]。

DADA2を生じ得るADA2バリアントを両アレル性に有する無症状者への治療の現状

現在のところ、両アレル性に ADA2病原性バリアントを持つ人のうち、誰が脳卒中を発症するのか、また、いつ脳卒中を発症するのかを予測することはできない。脳卒中は取り返しのつかない結果をもたらす可能性があるため、著者らは、脳卒中のリスクを減らすために、両アレル性にADA2病原性バリアントを持つすべての人に対して、TNF阻害薬の投与を行っている。

定期検査 (サーベイランス)

推奨されるフォローアップ評価は以下の通りである:

避けるべき薬剤/環境

下を避けるべきである:

リスクのある血縁者の評価

現在症状があり、速やかに治療を開始することが有益な、両アレル性 ADA2病原性バリnoアントを有する人や、現在は症状がなく、脳卒中のリスクを軽減するためのTNF阻害薬による治療が有益な人を、できるだけ早期に特定するために、リスクがあり、一見無症状な、罹患者ん の同胞 (兄弟姉妹) の遺伝的状態を明らかにすることは、適切である。

遺伝カウンセリング を目的としたリスクのある血縁者の検査に関する問題については、遺伝カウンセリングを参照のこと。

妊娠管理

妊娠中のTNF阻害薬の使用の安全性に関する情報は限られている。炎症性腸疾患を有する妊婦に対するTNF阻害薬の使用を評価したある研究では、これらの薬剤は短期的にはリスクが低いものの、妊娠第2三半期の後半から胎盤を通過する可能性があると判断されている [Gisbert & Chaparro 2013]。

今後の導入が検討されている治療法

米国のClinicalTrials.govと欧州の EU Clinical Trials Registerを検索することで、幅広い疾患や症状の臨床試験に関する情報にアクセス可能である。注:この疾患に関する臨床試験が存在しない可能性もある。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

アデノシンデアミナーゼ2欠損症 (DADA2: Adenosine deaminase 2 deficiency)は、常染色体劣性遺伝形式を示す。

家族構成員のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の子孫

他の家族構成員

発端者 の両親の同胞 (兄弟姉妹) はそれぞれ、ADA2病原性バリアント の保因者 であるリスクが50%ある。

保因者 (ヘテロ接合性に病原性バリアントを持つ人) の検出

リスクのある血縁者に対して保因者検査を行うためには、あらかじめ家系内におけるADA2の病原性バリアントが同定されている必要がある。

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断と治療を目的としたリスクのある血縁者の評価に関する情報については、管理、リスクのある血縁者の評価 参照のこと。

家族計画 

DNAバンク DNAバンクとは、将来使用する可能性を考慮し、DNA (通常は白血球から抽出されたもの) を保管することである。検査の手法や、遺伝子に対する理解、アレルバリアントに対する理解、疾患についての理解は将来的に向上すると思われるため、罹患者 由来のDNAをバンク化することを検討するべきである。

出生前検査および着床前遺伝子検査

(訳注:米国においては) 家系内で罹患者にADA2の病原性バリアントが同定された場合、リスクの高い妊娠のための出生前検査 や着床前遺伝子検査 (が可能となる。
医療の専門家の間や家族内においても、出生前検査に対する考え方の相違が存在しうる。多くの専門機関は出生前診断については夫婦の自己決定の問題だと考えているが、この問題については議論することが適切である。


資源

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここクリック。

Email: info@dada2.org
www.dada2.org

362 Concession Road 12
RR #2
Hastings Ontario K0L 1Y0
Canada
Phone: 877-262-2476 (toll-free)
Fax: 866-942-7651 (toll-free)
Email: info@cipo.ca
www.cipo.ca

110 West Road
Suite 300
Towson MD 21204
Email: idf@primaryimmune.org
www.primaryimmune.org

Firside
Main Road
Downderry Cornwall PL11 3LE
United Kingdom
Phone: +44 01503 250 668
Fax: +44 01503 250 668
Email: info@ipopi.org
ipopi.org

747 Third Avenue
New York NY 10017
Phone: 866-463-6474 (toll-free); 212-819-0200
Fax: 212-764-4180
Email: info@jmfworld.org
www.info4pi.org

PO Box 28660
Kansas City 64188
Phone: 816-436-8211; 800-277-9474
Fax: 816-656-3838
www.vasculitisfoundation.org

www.dada2.org/registry

Dr. Gerhard Kindle
University Medical Center Freiburg Centre of Chronic Immunodeficiency
Engesserstr. 4
79106 Freiburg
Germany
Phone: 49-761-270-34450
Email: esid-registry@uniklinik-freiburg.de
ESID Registry

Patient Contact Registry


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

A. 
アデノシンデアミナーゼ2欠損症 (DADA2: Deficiency of adenosine deaminase 2) : 遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体座 タンパク質 遺伝子座特異的データベース HGMD ClinVar
ADA2 22q11​.1 Adenosine deaminase 2 ADA2 ADA2 ADA2

データは以下の標準的な参照サイトより収載した:遺伝子はHGNCから、染色体遺伝子座はOMIMから、タンパク質は UniProtから。リンク先のデータベース(Locus Specific, HGMD, ClinVar)の説明はこちらを参照のこと。

B. 
アデノシンデアミナーゼ2欠損症 (DADA2: Deficiency of adenosine deaminase 2) に関連するOMIM項目 (OMIMで全てを見る)

607575 アデノシンデアミナーゼ2欠損症
ADENOSINE DEAMINASE 2; ADA2
615688 血管炎-自己炎症-免疫不全-血液学的異常症候群; VAIHS
VASCULITIS, AUTOINFLAMMATION, IMMUNODEFICIENCY, AND HEMATOLOGIC DEFECTS SYNDROME; VAIHS

分子病態

ヒトはADA1 (ADAとも呼ばれる) (アデノシンデアミナーゼ欠損症 [Adenosine Deaminase Deficiency] の項参照) とADA2という2つの酵素を発現しており、アデノシンと2'-デオキシアデノシンを、それぞれイノシンとデオキシイノシンへと脱アミノ化する反応を触媒している。ホモログな (homologous) タンパク質であるADA1とADA2は、アイソザイムであるとみなされるが、触媒の中心となる基質結合ポケットの配置など、構造が大きく異なる [Zavialov et al 2010b]。その結果、ADA2のアデノシンに対する親和性は、ADA1のもつ親和性の100分の一程度と低くなっている。
ADA1は大部分が細胞内に存在するタンパク質であることに対し、ADA2は分泌型のタンパク質である。ADA2は細胞外のアデノシンレベルをコントロールし (細胞外のATPとAMPが段階的に脱リン酸化されて生成される)、さまざまな生物学的プロセスを (脳や免疫系、心血管系の多くの細胞に発現する4つの異なるアデノシン受容体を介して) 制御しているのではないかと推測されている。

遺伝子の構造 ADA2は約43,000塩基対であり、10個のエクソンから構成されている。翻訳開始のコドン (p.1Met) はエクソン2 (exon 2) に位置する。

遺伝子とタンパク質の情報の詳細なまとめは、表A (Table A) の遺伝子を参照。
病原性バリアントの大部分はミスセンス バリアントであるが、ナンセンスバリアントやスプライスサイト バリアント、大小の欠失も報告されている。病原性ミスセンスバリアントは、遺伝子 のさまざまな領域に存在し、特定のエクソン に集簇してはいない。

表3.

参照配列 DNA ヌクレオチド変化 予測されるタンパク質の変化 コメント [参考文献]
NM_001282225​.1
NP_001269154​.1
c.139G>A p.Gly47Arg イスラエル人、グルジア系ユダヤ人、トルコ人に見られる創始者バリアント [Hashem et al 2017b]
c.140G>C p.Gly47Ala 様々な集団で認められる
c.506G>A p.Arg169Gln フィンランド人やオランダ人を祖先に持つ人に見られる創始者バリアント [Van Montfrans et al 2016]
c.752C>T p.Pro251Leu 様々な程度の (variable expressivity) 臨床症状を伴うADA2活性低下 [Nanthapisal et al 2016]
c.1078A>G p.Thr360Ala イタリア人の祖先を持つ人に多く見られる [Caorsi et al 2017]
c.1358A>G p.Tyr453Cys 汎民族的に最も一般的に認められるバリアント [Hashem et al 2017b]
c.973-2A>G mRNAスプライシング異常 (Aberrant mRNA splicing) 様々な集団において認められる

特記すべきADA2病原性バリアント一覧

表に記載されているバリアントは、著者によって提供されたものである。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類を独自に検証していない。GeneReviewsは、Human Genome Variation Society (varnomen​.hgvs.org) の標準的な命名規則に従っている。命名法に関する説明は Quick Reference を参照のこと。

正常遺伝子産物 ADA2は、511個のアミノ酸からなる59kdのモノマー蛋白質である。4つのドメインを有している

ADA2はホモ二量体 (homodimer) を形成して細胞外に局在し、細胞外のアデノシン濃度を低下させる。

ADA2は、p.Asn127, p.Asn174, p.Asn185, p.Asn378の4か所のアスパラギンに、グリコシル化部位を持つ [Zavialov et al 2010a]。グリコシル化は、小胞体 (ER) からゴルジ体へのADA2の輸送を調節することで、ADA2の分泌に重要な役割を果たしている。p.Thr129とp.Asn127で構成される1か所の、コンセンサスが得られているグリコシル化を受ける配列を置換した場合、異常なADA2が小胞体に滞留し、その分泌が障害されることが示されている [Lee et al 2018]。

ADA2は、単球、マクロファージ、樹状細胞などの骨髄細胞に優位に発現している。ADA2は、活性化した骨髄細胞から分泌される。ADA2は、炎症がある、または腫瘍組織がある部位において細胞外アデノシン濃度を減少させると仮定されてきたが、これは試験管内 (in vitro) または生体内 (in vivo) における実験系では確認されていない。測定されたところでは、DADA2患者の血漿中のアデノシン値は上昇しておらず [Van Eyck et al 2015]、これはADA欠損症患者に見られるアデノシン値の上昇とは対照的である (アデノシンデアミナーゼ欠損症 [Adenosine Deaminase Deficiency] の項参照)。多くの研究では、HIV感染者や慢性炎症性疾患の患者の血清、および結核性胸水におけるADA2値の上昇が報告されている。
ADA2は、いくつかの昆虫種、魚類、カエルなどで確認されている、いわゆるアデノシンデアミナーゼ成長因子 (ADGF) と相同性がある。ADA2は多くの種で発見されているが、マウスにはADA2のオーソログ (ortholog) がないため、ADA2の機能をin vivo (生体内) で研究する上での障害となっている。ADGFは、細胞外のアデノシンのレベルを調節することで組織の成長を制御していると考えられる [Zurovec et al 2002, Zavialov et al 2010a]。ADA2はまた、プロテオグリカンや免疫細胞上のアデノシン受容体と結合し、細胞シグナル伝達に関与していることが示唆されている。

多系統の造血におけるADA2の役割はいまだ不明である。ADA2が骨髄前駆細胞の分化に追加的な役割を果たしているのか、あるいはDADA2の骨髄不全が炎症細胞の浸潤に関係しているのかも分かっていない [Meyts & Aksentijevich 2018]。
異常遺伝子産物 (病原性ミスセンスバリアントは、全てのタンパク質ドメインに存在し、タンパク質の分泌、二量体形成、触媒活性が影響を受ける可能性がある。基本的に、ADA2タンパク質の発現や触媒活性の低下もしくは完全な喪失をもたらす全ての病原性バリアントは、ADA2 の診断的特徴の一つとなる。蛋白活性の喪失は、DADA2の病因となるいくつかの細胞プロセスを損なう(分子病態 の項参照)。

ADA2欠損症では、抗炎症性のM2マクロファージと炎症性のM1マクロファージのバランスが崩れ、血管にダメージを与える炎症状態が亢進した環境が形成される可能性がある [Zhou et al 2014]。別の研究では、アデノシンが好中球細胞外トラップ (NETs: neutrophil extracellular traps) の形成を誘導することが示され、また、低密度顆粒球 (LDGs: Low-density granulocytes) の循環が見つかったことから、好中球が炎症の表現型 にさらに寄与していることが示唆された [Carmona-Rivera et al 2019]。活性化した骨髄細胞は、内皮細胞にダメージを与え、血管障害・血管炎を引き起こす。ADA2欠損骨髄細胞が内皮細胞に及ぼすこの影響は、TNF阻害薬による治療で回復させることができる (症状に対する治療 の項参照)。


更新履歴:

  1. GeneReviews著者: Ivona Aksentijevich, MD, Natalia Sampaio Moura, BS, and Karyl Barron, MD.
    日本語訳者:清水 日智(社会福祉法人恩賜財団済生会支部済生会長崎病院 小児科)
    GeneReviews最終更新日: 2019.8.8. 日本語訳最終更新日: 2021.6.4.[ in present]

原文: Adenosine Deaminase 2 Deficiency

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