Gene Reviews著者: Gregory A Schmale , MD; Howard A Chansky , MD; Wendy H Raskind , MD, PhD.
日本語訳者: 古庄知己(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
Gene Reviews 最終更新日: 2003.7.2.日本語訳最終更新日: 2003.8.21.
原文: Hereditary Multiple Osteochondromas の項目に統一された。
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(GeneReviews日本語版事務局注:最終確認 2019.5.19)
疾患の特徴
遺伝性多発性外骨腫( HME)は、成長する多発性外骨腫を特徴とする。この外骨腫は、長管骨の骨幹端から外側に成長する、軟骨で覆われた骨の良性腫瘍である。外骨腫により、骨の成長障害、骨変形、関節可動域制限、低身長、若年からの変形性関節症、末梢神経への圧迫症状を来す。診断される平均年齢は3歳で、ほとんどの患者は12歳までに診断される。骨軟骨腫への悪性化のリスクは年齢とともに増加するが、生涯をとおして1%以下と低い。
診断・検査
診断は身体所見およびレントゲン所見で、1人または複数の家族が多発性外骨腫を有することによってなされる。 EXT1 (8q24.11-q24.13)および EXT2 (11p12-p11)の分子遺伝学的解析は臨床レベルで対応可能となった(米国において、訳者註)。
遺伝カウンセリング
常染色体優性遺伝形式。浸透率は 95%。患者の10%は新生突然変異による。患者の子どもが変異遺伝子を受け継ぐ率は50%。出生前診断は可能となった(米国において、訳者註)。
臨床診断
HMEの臨床診断は、以下の所見により確定する。
分子遺伝学的検査
遺伝子 HMEとの関与が知られているのは、 EXT1 遺伝子と EXT2 遺伝子である。 遺伝性多発性外骨腫の家系のうち64 ~76%が EXT1 遺伝子変異を有し、21 ~30%が EXT2 遺伝子を有する。連鎖解析で第3の遺伝子 EXT3 が推測されているが、見いだされていない。
80をこえる異なる EXT1 遺伝子変異と40をこえる異なる EXT2 変異が報告されている。これらの変異は、2つの遺伝子の全領域に見いだされ、あらゆるタイプがある(ミスセンス、フレームシフト、インフレーム欠失、ナンセンス、スプライス部位)。アミノ酸配列に変化を来さない1塩基多型も報告されているが、有害でないアミノ酸置換は報告されていない。
検査の適応
検査方法
シーケンス解析 EXT1 遺伝子と EXT2 遺伝子のシーケンス解析が臨床レベルで可能になった(米国において、訳者註)。両遺伝子の全コード領域の DNAシーケンスによってすべての変異が同定できるわけではないようである。変異検出率は約70%である。
表1 HMEに用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子 | 検査方法 | 検出される変異 | 変異検出率 | 検査の位置付け |
---|---|---|---|---|
EXT1 | シーケンス | EXT1 変異 | >70%1) | 臨床レベル 2) |
EXT2 | シーケンス | EXT2 変異 | >70% | 臨床レベル 2) |
臨床像
HMEの臨床症状は多彩である。これは、外骨腫の数、罹患した骨の数や場所、変形の程度に関係している。平均診断年齢は3歳である。加齢に伴って症状が出現する(出生時は5%の患者に、12歳では96%の患者に症状が認められる)。成人期までに75%の患者が臨床的に明らかな骨の変形を持つ。男性は女性よりも重症化する傾向にある。臨床的に明らかな症状を呈さない保因者(家系から変異遺伝子を有することは確実であるが)の報告から、浸透率は約96%と推定されている。こうした無症状保因者はほとんどの報告で女性である。しかし、これらの無症状保因者の多くに対しては、全身骨のレントゲン検査を行っていないため、微細な所見を見落とした可能性は否定できない。
典型的な罹患患者は6つの外骨腫を持つ。通常、骨は対称性に罹患する。罹患頻度の高い骨は、上腕骨( 50%)、前腕骨(50%)、膝周囲の骨(70%)、そして足関節骨(25%)である。肩甲骨も50%の患者で罹患する。中手骨の短縮による手の変形もしばしば見られる。骨のリモデリングの異常により、骨幹端の拡大を伴った短縮と彎曲を来す。
ワシントン州の 46家系の研究によれば、患者の39%に前腕の変形が、10%に脚長差が、8%に膝の角ばった変形が、2%に足首の変形が見られた。前腕および足首の変形は臨床上最も重要な整形外科的問題となる。大腿骨近位部の外骨腫を伴うHME患者のおいて股関節異形成が認められたとの報告がある。したがって、大腿骨と寛骨臼の発達における骨の成熟度を検査することは、寛骨臼周辺の外骨腫を有する患者に対して推奨されるかもしれない。
典型的な外骨腫は、長管骨の骨幹端または扁平骨(骨盤骨、肩甲骨)の表面から発生する。外骨腫は、無茎のこともあれば有茎のこともある。無茎性の外骨腫は広い基部によって骨皮質に付着している。有茎性の外骨腫は、接している骨の成長板からつながった茎を持つ。有茎性の外骨腫の方が、上に乗っている組織(腱など)を刺激したり、末梢神経や血管を圧迫することが多い。腫瘍が発生した骨の骨髄・海綿状骨と外骨腫とは連続している。
症状は腫瘍による圧迫効果によって二次的に起こることもある。末梢神経の圧迫・引き延ばしにより、通常疼痛が見られるが、時に感覚や運動の障害が見られることもある。関節の骨に接する大きな外骨腫によって、関節運動制限をきたすこともある。外骨腫の上にある筋肉や腱に影響が出ることもあり、疼痛や運動制限をきたす。神経や血管が正常な解剖学位置からずれてしまうことがあり、このような場合外骨腫の摘出術の時に難渋することになる。大きい骨盤骨の外骨腫によって、尿路や腸管の閉塞を来すことはまれである。
40%のHME患者が低身長を示すこと、および脚の長管骨における長軸方向の成長障害により最終身長が低下することが言われてきたが、ほとんどの患者は正常範囲内の身長である。
HMEの最も重大な合併症が、外骨腫の肉腫化である。特に身体的に成熟した患者において、腫瘍が急速に増大し、疼痛が増したら、外骨腫の肉腫への変化を疑う。厚さ2 ~3cmをこえる大きい軟骨帽(MRIまたはCTで最もはっきり描出される)を認めたら、軟骨肉腫の可能性が高い。骨成熟後、繰り返し行ったテクネシウム骨シンチグラフィーにおいて取込みが増加していれば、悪性化の証拠となるであろう。
軟骨肉腫(あるいは頻度は低いが他の紡錘形細胞による肉腫)に悪性化する頻度は、過去の報告によれば 0.5 ~20%である。最近の報告では、このなかでも最も低い方の値に近い。悪性化は小児期でも思春期でも起きうるが、リスクは年齢とともに増加する。一般人口のなかの軟骨肉腫の頻度は、およそ1/250,000 ~100,000人であるが、そのうち5%がHMEである。したがって、HMEでは、HMEでない人に比べて軟骨肉腫の危険性は1,000 ~2,500倍である。
寿命が短縮することはなく、大多数の患者は活動的で健康的な生活を送っている。
遺伝子型と臨床型の関連
遺伝子型と臨床型の関連を検討する試みがなされているが、結論は出ていない。重症度を評価する共通のスケールがないため、研究間の比較は難航している。外骨腫の悪性化を呈する患者が集積している家系の報告が見られるが、体系的な研究はなく、これらの報告では確認と出版におけるバイアスがかかりやすい。
頻度
グアムでの1 /100人からヨーロッパでの1/100,000人まで様々な報告がある。ワシントン州では、少なくとも1/50,000人と報告されている。大規模な研究のほとんどにおいて、 EXT1 遺伝子変異の方が EXT2 遺伝子変異より多くの患者の原因となっている(変異が検出された患者のうち EXT1 の変異は64 ~76%)。中国人においては EXT1 遺伝子変異の割合が低い(30%)との報告があったが、この報告では半数以下の患者にしか検出されていないため再検討を要する。
単発の外骨腫 を見た時に、鑑別すべき疾患として、皮質近傍の骨肉腫、軟部組織骨肉腫、異所性石灰化がある。鑑別には、単純レントゲン検査や CTがしばしば有効である。これらの疾患のなかで、海綿骨と骨皮質が、発生した骨から腫瘍まで連続して存在している特徴的な所見を示すものはHMEの他にはない。多発性外骨腫を呈する3つの遺伝学的状態がある。
初期診断後の評価
臨床的に問題がなければ、外骨腫は治療を必要としない。発症前検査は、低年齢で臨床診断が可能であり、かつ、予防手段や特別な非手術的治療があるわけではないので、行う妥当性がない。
HMEの患者には、骨の角ばった変形、皮膚・腱・神経の刺激による疼痛、脚長差に対して、しばしば手術が行われる。大多数の患者が少なくとも1回の手術を、多くの患者が複数回の手術を受ける。骨変形がない場合にも、疼痛部に対して簡単な腫瘍切除術が行われる。軟骨帽やそれを覆う軟骨膜を含めて切除しなければ、再発する可能性がある。外骨腫の切除術は、成長障害を遅らせたり、外見を改善したりする利点があるだろう。肘や手首の疼痛や運動制限は、しばしば障害の原因となる。前腕の骨変形に対する手術では、外骨腫の切除と骨切りによる(変形の)修正術を行う。ただ保存的な治療で十分である場合もある。1インチ以上の脚長差に対しては、(長い方の骨の成長板の発育停止を目的とした)骨端固定術または(罹患脚の)脚延長術を行う。
最近の研究によれば、足首の変形、疼痛、早期発症の関節炎が HMEの患者の約1/3に認められる。そしてそのうちほとんどが脛骨・踵骨の傾斜異常を伴う。この変形に対する早期治療により、晩年の足首の機能荒廃を予防したり、軽減したりできるかもしれない。股関節異形成は大腿骨近位部の外骨腫または外反股によって生じるかもしれない。股関節の角度が小さく、大腿骨頭が寛骨臼に十分おおわれていないと、早期に大腿痛が出現したり、外転筋が弱くなったり、また晩年に関節炎を呈したりする可能性がある。
肉腫へ変化した場合、治療は外科的切除である。二次的に発生した軟骨肉腫の場合、補助的な放射線療法および化学療法の有効性は確立していない。二次的に発生した骨肉腫の場合、しばしば使用される治療である。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
HMEは常染色体優性遺伝形式である。家族のリスク
患者の親
患者の同胞
患者の子 患者の子どもは 50%の確率で変異遺伝子を受け継ぐ。
他の家族 罹患した親の遺伝的状態によっては、他の家族メンバーがリスクを有することもある。親の1人が罹患していれば、その家族はリスクを有する。
関連した遺伝カウンセリング上の問題
一見新規突然変異の家系について 常染色体優性遺伝性疾患の患者の親が罹患していない場合、実は父が違うとか養子であることを隠していたといった非医学的な状況がありうる。
家族計画 遺伝的リスクを決定し、出生前検査を行うかどうかを議論するのに最適なタイミングは、妊娠前である (訳者注:これは米国の状況であり、日本では 出生前検査を行っている施設はない)。
DNAバンキング DNAバンキングは、将来使用する可能性を見越してDNA(通常は白血球から抽出した)を保存しておくことである。検査方法や遺伝子、変異、疾患に対する理解が将来的に改善されることが予想されるので、DNAバンキングを考慮すべきなのである。DNAバンキングは、現在実施可能な検査の敏感度が100%未満である状況において、特に重要である。詳しくはこのサービスを行っている検査室のリストを参照されたい(訳者注:これは米国の状況であり、日本では基本的にこうしたサービスを行っていない)。
出生前検査
リスクのある妊娠に対する出生前検査は可能である。妊娠 16 ~18週における羊水穿刺または妊娠10 ~12週の絨毛生検により得られた胎児細胞から抽出されたDNAを分析する。出生前検査の前に、変異を同定していなければならない。
HMEのように知能や生命予後に影響を与えない疾患に対する出生前検査を希望されることはまれである。特に出生前検査を早期診断のためではなく妊娠中絶のために行うことが考慮されている場合、出生前検査に関して医学専門家と家族との間に認識の相違が存在する可能性がある。ほとんどの施設で出生前検査が選択肢の1つとして考慮されるであろうが、慎重な議論が必要である。
胚の細胞を用いた着床前診断は、1人の親が罹患しているため HMEの子どもを持つリスクが50%であって、かつその親で EXT1 遺伝子または EXT2 遺伝子の変異が同定されている場合に可能である。妊娠は生殖補助医療技術によって成立し、妊娠と内分泌学の専門科と協力することが必要である。
訳者註:以上は米国における事情であり、日本では基本的にこうしたサービスを行っていない。
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(GeneReviews日本語版事務局注:最終確認 2019.5.19)