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糖原病Ⅰ型
(Glycogen Storage Disease TypeⅠ)

Gene Review著者: Deeksha S Bali, PhD, Yuan-Tsong Chen, MD, PhD, Stephanie Austin, MS, MA, CGC, and Jennifer L Goldstein, PhD, MS, CGC
日本語訳者: 和田宏来 (県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)                      

Gene Review 最終更新日: 2016.8.25.日本語訳最終更新日: 2017.1.19

原文 Glycogen Storage Disease TypeⅠ


要約

疾患の特徴 

糖原病Ⅰ型(Glycogen Storage Disease TypeⅠ, GSDⅠ)は肝・腎へのグリコーゲンおよび脂肪の蓄積とそれによる肝腫大・腎腫大を特徴とする疾患である。2つの亜型(GSDⅠaとGSDⅠb)は臨床的に区別することはできない。一部の未治療新生児では重度の低血糖を認めることがある。しかし、未治療の場合、より一般的には生後3~4ヶ月に肝腫大、乳酸アシドーシス、高尿酸血症、高脂血症、高グリセリド血症、低血糖によるけいれんなどで発症する。患児は典型的には頬がふくよかな人形様顔貌、相対的に痩せている四肢、低身長、腹部膨満を呈する。黄色腫や下痢を認めることがある。血小板機能障害による出血傾向のため鼻出血を起こしうる。未治療の糖原病Ⅰb型では、生後数年以降の慢性好中球数減少症だけではなく好中球および単球の機能障害をきたし、全員に反復性の細菌感染症や口腔・腸管粘膜の潰瘍を認める。未治療の糖原病Ⅰ型の長期合併症には、成長障害による低身長、骨粗鬆症、二次性徴遅延、痛風、腎疾患、肺高血圧、悪性化する可能性のある肝細胞腺腫、多嚢胞性卵巣、膵炎、脳機能の変化がある。治療を受けている小児では正常な成長および二次性徴が期待できる。ほとんどの患児は成人期まで生存する。

診断・検査 

糖原病Ⅰ型はG6PCまたはSLC37A4いずれかの両アレル変異を同定することによって診断される。分子遺伝学的検査で診断できないときは肝組織標本の肝酵素活性欠損(グルコース-6-ホスファターゼ活性もしくはグルコース-6-ホスファターゼ交換輸送体SLC37A4活性)によって診断する。

臨床的マネジメント 

症候の治療:
正常血糖濃度を維持して低血糖を予防し、成長と発達に適切な栄養投与を行うために栄養療法を行う。食事療法で尿酸値が完全に正常化しない場合には痛風予防のためにアロプリノールを投与する。良好な代謝コントロールでも脂質異常が続く場合には脂質降下薬を使用する。クエン酸塩は尿路結石の予防もしくは腎石灰化症の軽減に有用である。ACE阻害薬により微小アルブミン尿を治療する。末期腎疾患(end-stage renal disease, ESRD)には腎移植を行う。肝細胞腺腫には外科手術もしくは経皮的エタノール注入療法やラジオ波焼灼のような手技を行う。内科的治療に不応の場合は肝移植を施行する。反復性感染にはヒト顆粒球コロニー刺激因子(human granulocyte colony-stimulating factor, G-CSF)を投与する。

二次合併症の予防:
腎疾患の発症予防のため、高尿酸血症や高脂血症を改善し正常な腎機能を維持する。動脈硬化や膵炎を予防するため脂質レベルを正常範囲内に維持する。

定期検査:
10歳以降は1年に1回は腎臓エコーを施行する。肝臓エコーは16歳まで1~2年おきに行う。16歳以上では肝細胞腺腫に注意しながら半年~1年ごとに肝臓の造影CTもしくはMRIを撮影する。肝細胞腺腫が見つかった場合、肝臓のエコーもしくはMRI(選択は年齢による)を3~6ヶ月ごとに行う。肝機能検査(AST, ALT, アルブミン、ビリルビン、PT/INR, APTT)や血清クレアチニンを半年~1年ごとに測定する。G-CSFを投与している患者では3ヶ月ごとに血算の測定を行う。また、脾臓のサイズも計測する。乳幼児期から受診ごとに血圧を測定する。肺高血圧のスクリーニングのため10歳(症状がある場合にはより早期)から3年ごとに心エコーを行う。ビタミンD濃度をルーチンに測定する。

避けるべき薬物や環境:
果糖やショ糖の摂取を減らし、ガラクトースや乳糖の摂取は1日あたり1食分に制限するべきである。女性、とくに肝細胞腺腫を認める場合には経口避妊薬は避けるべきである。

リスクのある親族の検査:
リスクのある同胞において、出生後すぐに分子遺伝学的検査(家族内で病原性変異が判明している場合)や専門医の診察を受けることで早期診断や治療が可能となる。

遺伝カウンセリング 

糖原病Ⅰ型は常染色体劣性遺伝性疾患である。罹患者の同胞は、受胎時には25%の確率で罹患者であり、50%の確率で無症候性キャリアであり、25%の確率で罹患者でもキャリアでもない。ヘテロ接合型保因者(キャリア)は無症状である。家族内で病原性変異が判明している場合、リスクのある親族に対する保因者診断や出生前検査を行うことは可能である。


診断

臨床診断

糖原病Ⅰ型には2つの主な亜型がある。

肝臓におけるG6Pase活性の低下もしくはグルコース-6-ホスファターゼ交換輸送体SLC37A4活性の低下いずれかにより、グリコーゲン分解や糖新生におけるグルコース-6-リン酸からグルコースへの転換が不十分となり、重度の低血糖や糖原病Ⅰ型のその他多くの徴候や症候を呈する。
米国遺伝医療・ゲノム医療学会から診断治療ガイドラインが発行されている。

示唆的な所見

以下の臨床所見、検査所見、組織所見を認めた場合に糖原病Ⅰ型を疑うべきである

臨床所見 低血糖症状、肝腫大、成長障害

検査所見

肝組織所見 グリコーゲンや脂肪による肝細胞の膨化を認める。PAS染色陽性でジアスターゼによって分解されるグリコーゲンが細胞質内に均一に分布している。グリコーゲンは他の肝型糖原病(とくにⅢ型やⅨ型)に比べれば正常か、わずかに増加している。そして大滴性で多数の脂肪滴を認める。線維化や肝硬変は糖原病Ⅰ型では認められない。

注:肝生検は侵襲的であるため、分子遺伝学的検査で診断がつかない時のみに行うべきである(「診断の確定」を参照)肝組織は他の手術(胃瘻造設など)の際に凍結標本として採取される場合があり、G6Pase活性の測定によって診断することができる。しかし、凍結標本のG6Pase酵素活性測定では糖原病Ⅰb型は診断できない。

診断の確定

糖原病Ⅰ型の診断は発端者において以下のいずれかを認めた場合に確定する

分子遺伝学的検査

分子遺伝学的検査の手法には、連続的な単一遺伝子検査、病原性変異のターゲット解析、多遺伝子パネル、より包括的な遺伝子検査がある。

酵素活性検査

経皮的もしくは開腹生検で得た凍結標本15-20mgはドライアイスで検査機関に即日配送すべきである。

表1 糖原病Ⅰ型で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 病原性変異ごとの糖原病Ⅰ型の割合 検査ごとの病原性変異2の割合
シークエンス解析3 標的遺伝子の欠失・重複解析4
G6PC 80% ~95%5 患者2名6
SLC37A4 20% ~95% 不明7
  1. 染色体座位と蛋白については、表A「遺伝子・データベース」を参照。
  2. 検出される病原性変異に関する情報については,「分子遺伝学」の項を参照。
  3. シークエンス解析では、良性の変異、良性と考えられる変異、臨床的意義が不明の変異、病原性と考えられる変異、病原性変異が検出される。病原性変異には、小さな遺伝子内欠失・挿入、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス部位変異が含まれるが、典型的にはエクソンや遺伝子全体の欠失・重複は検出できない。シークエンス解析の結果の解釈について考慮すべき問題はこちらをクリック。
  4. 標的遺伝子の欠失・重複解析では、遺伝子内の欠失や重複が検出できる。検査方法には、定量PCR、ロングレンジPCR、MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法、単一エクソンの欠失や重複の検出を目的とする標的遺伝子マイクロアレイなどがある。
  5. Rakeら(2000)、Seydewitz & Maternら(2000)(40症例)
  6. (複数)エクソン欠失の頻度は不明だが、これらの遺伝子における報告はほとんどない。
  7. 標的遺伝子の欠失・重複解析による同定率のデータはない。

臨床的特徴

臨床像

糖原病Ⅰ型の臨床症状には、成長障害による低身長、肝腎へのグリコーゲンや脂肪の蓄積による肝腫大・腎腫大がある。
新生児のなかには重度の低血糖がみられる場合もあるが、より多くは生後3~4ヶ月に肝腫大、乳酸アシドーシス、高尿酸血症、高脂血症、高トリグリセリド血症、低血糖によるけいれんなどで発症する。低血糖および乳酸アシドーシスは短い空腹時間(2~4時間)でも起こりうる。
未治療の小児では、典型的には頬がふくよかな人形様顔貌、相対的に痩せている四肢、低身長、肝腫大による腹部膨満を呈する。脾臓のサイズは正常である。黄色腫および下痢を認めることがある。血小板機能障害による出血傾向を認め、鼻出血はよく問題となる。
上記の所見にくわえて、糖原病Ⅰb型患者では慢性好中球減少症や好中球・単球機能障害を合併する。好中球減少症は典型的には生後数年経過してから発症し、反復性の細菌感染や口腔・腸管粘膜潰瘍を呈する。口腔内の症状には、潰瘍、歯肉炎、歯周病、出血性素因、齲歯、歯の成熟遅延や発疹などが数名で報告されている。

未治療の糖原病Ⅰ型患者の長期的な合併症には以下がある。

過去には、未治療患者の多くは幼少期に死亡し、生存者においても予後は悪かった。しかし、早期の診断および治療によって予後は改善している。治療を行えば正常な発育と二次性徴も期待できる可能性があり、ほとんどの患者は成年に達する。しかし、良好な代謝コントロールによって全ての長期的な二次合併症を避けることができるかどうかは不明である。一部の治療患者では早期に肝細胞腺腫や成人期に蛋白尿を呈する。

遺伝子型と臨床型の関連

糖原病Ⅰ型患者において遺伝子型と臨床型に強い相関は認められていない。

G6PC 2症例の報告では、c.648G>Tスプライシング変異のホモ接合体を有する糖原病Ⅰa型では肝細胞癌の発症リスクが増加する可能性が示唆されている。この変異は日本人糖原病Ⅰa型患者においては最もよくみられる原因である。c.648G>Tのホモ接合体を有する日本の成人患者19人において、3人は肝細胞癌、1人は胆管細胞癌、7人は肝細胞腺腫を認めている。この変異のホモ接合体を有する患者40人における検討では、c.648G>Tは低血糖に関して軽症な臨床型と相関することが明らかとなった。

c.562G>C変異のホモ接合体を有するⅠa型患者においては、軽度の好中球減少を伴い、Ⅰb型様の臨床型を呈することが報告されている。この臨床型は複合ヘテロ接合体の患者では認めない。

SLC37A4 Ⅰb型患者において遺伝子型と臨床型の明らかな相関は認められていない。

命名

G6Paseは多組成酵素複合体でしばしばG6Paseシステムと呼ばれる。以前にⅠc型およびⅠd型に分類されたほとんどの患者はSLC37A4変異を有することが今では明らかとなっているため、一部の専門家は「Ⅰa型」「非Ⅰa型」と分類していた。しかし、新しい文献は全てⅠa型とⅠb型という分類を採用している。したがって、もはや糖原病Ⅰ型を4つに分類することはない。

1972年に最初に報告したDr.エドガー・フォン・ギールケの名にちなんで、歴史的に糖原病Ⅰ型はフォン・ギールケ病とも呼ばれる。

頻度

糖原病Ⅰ型全体の発生率は100,000人に1人である。

ヨーロッパ人ではⅠa型が最も多い。

アシュケナージ系ユダヤ人では、もっともよくみられる変異(p.Arg83Cys)保因者の推定頻度は1.4%で、疾患発生率は20,000人に1人である。

変異の頻度における民族間の違い(日本人患者の88%にc.648G>T、ヒスパニック系アメリカ人の50%にc.379_380dupTAを認めるなど)は疾患発生率の違いを反映している可能性がある。


遺伝学的関連(アレル)疾患

このGeneReviewで記述した以外の臨床型でG6PCSLC37A4との関連が知られているものは現在ない。


鑑別診断

糖原病Ⅲ型(GSDⅢ)(脱分枝酵素欠損症)は乳幼児期にⅠ型と臨床像が類似している。しかし、加齢とともに、臨床所見や生化学的検査によって鑑別することができるようになる。糖原病Ⅲ型の主な症候には以下がある。

Ⅰ型とは対照的に、Ⅲ型では以下が認められる。

糖原病Ⅰ型と似た臨床像をとりうる他の疾患には、糖原病Ⅵ型、糖原病Ⅸ型(ホスホリラーゼキナーゼ欠損症)、フルクトース-1, 6-ビスホスファターゼ欠損症(OMIM)、糖尿病、ニーマン・ピック病B型(酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症を参照)がある。


臨床的マネジメント

初期診断後の評価

疾患の広がりと患者のニーズを把握するため、以下のような評価が推奨される。

病変に対する治療

米国臨床遺伝学会によってガイドラインが発行されている(全文)。

治療には、糖原病患者の長期にわたる治療に関連する問題に精通している代謝専門チームによるケアも含まれている。少なくとも、チームには以下の者が参加しているべきである。

栄養療法の目標

血糖を正常に維持し、低血糖を予防する、

成長および発達に最適な栄養を与える

他の病変に対する治療

アロプリノールはキサンチンオキシダーゼ阻害薬で、食事療法で血中尿酸値が完全に正常化しない場合、特に思春期後に痛風予防のために用いられる。
HMG-CoAレダクターゼ阻害薬やフィブラート(リピトール®やゲムフィブロジルなど)のような脂質降下薬は、代謝コントロールが良くてもまだ脂質レベルが高い場合に、特に思春期後に用いられる。

クエン酸塩の補給は腎石灰化や尿路結石の形成を予防もしくは軽減する可能性がある。

カプトプリルのようなアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬腎機能障害の早期の徴候である微量アルブミン尿の治療に用いられる。

末期腎疾患に対して腎移植が施行されることがある。

肝細胞腺腫に対して外科手術もしくは経皮的エタノール注入療法やラジオ波焼灼のような治療を行うことがある。
他の治療が奏功しない場合に肝移植を考慮することがある。

反復感染の治療にヒト顆粒球コロニー刺激因子(human granulocyte colony-stimulating factor, G-CSF)を用いることがある。

血小板機能異常/フォン・ヴィレブランド病患者の標準的な治療には抗線溶薬デアミノ-8-アルギニン-バソプレッシン(DDAVPがある。DDAVPは内皮細胞から第Ⅷ因子を放出させ、フォン・ヴィレブランド因子活性や血小板放出反応を改善させる。しかし、DDAVPは体液過剰や低ナトリウム血症のリスクがあるため注意して用いるべきである。

一次病変の予防

「病変に対する治療」を参照。

二次合併症の予防

高尿酸血症および高脂血症を改善し、腎疾患の発症を予防するため正常な腎機能を維持する。

動脈硬化や膵炎を予防するため、脂質レベルを正常範囲内に維持する。

定期検査

最近専門家グループによって発行された糖原病Ⅰ型ガイドラインに従う。

腎石灰化を評価するため年1回の腎エコーを当初から開始するべきである。

肝臓の定期検査は以下のように行う。

G-CSFの投与を受けている患者においては、治療への反応性をみるため、また急性骨髄性白血病(AML)のリスクは低いけれども、血中の骨髄芽球の有無を評価するため連続した血算の測定を約3ヶ月ごとに行うべきである。肝臓の定期的な画像検査(エコー、CT、MRIなど)では、脾腫の有無を評価するため脾臓のサイズを測定するべきである。

心血管系の定期検査

避けるべき薬物や環境

ショ糖、果糖の量を控えた食事を続ける。

1日に摂取するガラクトースや乳糖の量を1食分に制限する。

性ホルモンの肝細胞腺腫への潜在的な悪影響を避けるため、経口避妊薬は女性糖原病Ⅰ型患者、とくに肝細胞腺腫を認める患者では避けなければならない。

リスクのある親族の検査

発端者の同胞の評価を可及的すみやかに行うことで、迅速な診断・治療により良好な予後が期待できる。以下のような評価を行う。

遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある親族への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。

妊娠期の管理

妊娠成功例が報告されているものの、注意すべき事項がある。

妊娠中をとおして代謝コントロールを緊密にフォローするべきである。妊娠中は炭水化物の必要量が増加するため、血糖値を緊密にモニターし、それに応じて治療を行うべきである。
腹部エコーを6~12週ごとに行うべきである。Sechiらは妊娠中には以前から存在する肝細胞腺腫のサイズの増大や新規発症を報告しており、妊娠前、妊娠中、妊娠後の画像検査によるモニタリングを推奨している。5cm以上の大きな腺腫もしくは増大傾向の腺腫は妊娠前の切除が推奨されている。

腎機能は妊娠中に悪化する可能性があるため緊密にフォローすべきである。腎結石の発症がⅠb型の妊婦で報告されている。

分娩中のグルコース静注が施行されてきた。

出産時に出血が増える可能性があるため、血小板数、ヘモグロビン、凝固能の測定を行うべきである。

研究中の治療法

現行の食事療法は低血糖を予防し、糖原病Ⅰ型患者の生命予後を著明に改善した。しかし、肝細胞癌に進行する肝細胞腺腫の発症や進行性の腎不全などの長期合併症もまだ認められる。糖原病Ⅰ型に対する新しい治療法の開発は、一次的な原因の治療や長期合併症の回避に重点を置いている。肝細胞移植のパイロット研究では、ドナー細胞の持続性が示された。しかし、この治療法の長期的な効果の評価にはさらなる研究が必要である。Ⅰa型およびⅠb型患者に対する遺伝子治療では、ごく最近では組み換えアデノ随伴ウイルス(recombinant adeno-associated virus, rAAV)ベクターに焦点が合わせられている。動物実験では有望な結果が得られている。rAAVによりG6PC遺伝子を組み換えした動物の実験では、肝臓のG6PaseおよびG6PT活性の増加や代謝指標の改善が認められている。しかし、導入遺伝子の発現は経過とともに減少し、ヒトにおける長期的な治療のためには反復して行う必要があることが示唆されている。G6Pase導入遺伝子の組み換え方法は研究中であるが、有望な結果が得られている。注目すべきことに、生存するため、また肝細胞腺腫の発症を予防するためには、比較的低い肝G6PC活性(正常の3%)が必要である。腎G6Pase欠損の遺伝子治療はあまり研究されてこなかった。形質導入腎細胞を作成する最も効果的な方法については研究段階にある。

効果的に全ての罹患臓器に形質導入するアデノ随伴ウイルスの血清型を同定することは有益であると思われる。

さまざまな疾患に関する臨床試験に関する情報はClinicalTrials.govを参照のこと。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

糖原病Ⅰ型は常染色体劣性遺伝形式で遺伝する。

患者家族のリスク

発端者の両親

発端者の同胞

発端者の子

糖原病Ⅰ型患者の子どもは必然的にG6PC変異もしくはSLC37A4変異のヘテロ接合保因者(キャリア)である。

発端者の他の家族

発端者の両親の同胞がG6PC変異もしくはSLC37A4変異のキャリアであるリスクは50%である。

保因者診断

分子遺伝学的検査

リスクのある親族の保因者診断を行う前に、家族内のG6PC変異もしくはSLC37A4変異の同定が必要である。

遺伝生化学的検査

酵素検査は信頼性に乏しく、保因者診断には用いられない。

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断・治療を目的としたリスクのある親族の検査についての情報は、「臨床的マネジメント」「リスクのある親族の検査」を参照のこと。

家族計画

DNAバンク は主に白血球から調整したDNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子、変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、DNA保存が考慮される。

出生前診断および着床前診断

分子遺伝学的検査

ひとたび家族内でG6PC変異もしくはSLC37A4変異が同定された場合、リスク妊娠に対する出生前検査や着床診断を行うことは可能である。

生化学検査

正確性が低く、胎児に対する肝生検はリスクがあるため、G6Pase酵素活性もしくはG6Pトランスロカーゼ酵素活性の測定による出生前検査は行わない。in vitroでのG6Pase酵素活性測定では、保因者と健常者または罹患者と区別することができない可能性があり、よって推奨されない。

特に早期診断ではなく妊娠中絶を考慮した検査である場合に、医療従事者や家族の間でも出生前検査に関して視点の違いが存在する可能性がある。ほとんどの施設において、出生前診断に関する決定は両親の選択によると考えるが、これらの問題に関して話し合うことがのぞましい。


更新履歴:

  1. Gene Review著者: Deeksha S Bali, PhD, Yuan-Tsong Chen, MD, PhD, Stephanie Austin, MS, MA, CGC, and Jennifer L Goldstein, PhD, MS, CGC
    日本語訳者: 和田宏来 (県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)         
    GeneReview 最終更新日: 2016.8.25.日本語訳最終更新日: 2017.1.19 [ in pesent]

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