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基底細胞母斑症候群
(Nevoid Basal Cell Carcinoma Syndrome)

[Synonyms: Basal Cell Nevus Syndrome (BCNS), Gorlin Syndrome, NBCCS]

Gene Review著者: D Gareth Evans, MD, FRCP,Peter A Farndon, MD, FRCP
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学) 
Gene Review 最終更新日: 2013.3.7. 日本語訳最終更新日: 2013.5.25

原文 Nevoid Basal Cell Carcinoma Syndrome


要約

疾患の特徴 

基底細胞母斑症候群の特徴は,顎に多発する角化嚢胞や基底細胞癌である.角化嚢胞は10歳代から発症が始まる場合が多く,基底細胞癌は通常20歳代以降に生じる.患者の約60%は,巨頭症,前額部の瘤,粗野な顔貌,顔面の稗粒腫を呈した疾患特有の外観を有する.骨格異常(二分肋骨,楔形の椎骨など)のある患者がほとんどである.異所性石灰化がとりわけ大脳鎌に生じやすく,20歳までに患者の90%超に認める.心線維腫は患者の約2%に,卵巣線維腫は約20%に発症する.基底細胞母斑症候群の患児の約5%が髄芽腫(未分化神経外胚葉性腫瘍[PNET])を発症する.髄芽腫は多くの場合,線維形成性である.発症のピークは2歳時である.基底細胞母斑症候群の平均余命は一般人口平均と大差ない.

診断・検査 

大多数の患者は臨床診断基準に基づいて基底細胞母斑症候群と診断される.基底細胞母斑症候群を発症させることが知られている変異が存在する唯一の遺伝子はPTCH1遺伝子(これまではPTCH遺伝子とされていた)であり,この遺伝子の分子遺伝学的検査は臨床的に実施されている.

臨床的マネジメント 

 症状の治療本疾患に精通した専門医の治療を受けること;若年期に見つかった角化嚢胞の外科的切除;基底細胞癌を完全に根絶し,正常組織の変形を予防するための基底細胞癌の早期治療;卵巣線維腫の外科的治療が必要な場合には,卵巣組織を保存すること.

一次病変の予防:他の治療を行うことができない場合を除き,放射線療法を避けること;X線診断を受ける機会を極力減らすこと;完全に日光を遮断する日焼け止めを利用し,長袖やハイネック,帽子などで皮膚を覆って,直射日光を避けること.

経過観察小児期を通じて頭囲を継続して計測すること;髄芽腫のリスクが高いため,1歳までは6カ月に1回,発達評価と身体的診察を行うこと. 8歳以上では顎の角化嚢胞の有無を確かめるため,パノラマX線撮影を12〜18カ月間に1回行うこと;少なくとも1年に1回皮膚検査を行うこと.

回避すべき薬剤と環境基底細胞母斑症候群の合併症(最も顕著な例では小児の髄芽腫や成人の顎の角化嚢胞や基底細胞癌)の有無や,日焼け止め対策の必要の有無を確かめるため,リスクのある血縁者には,子どもを含めて,遺伝学的状況を確定することが妥当である.

遺伝カウンセリング 

基底細胞母斑症候群は常染色体優性遺伝性疾患である.発端者の約70〜80%は両親の1人から疾患を受け継いでいる.発端者の約20〜30%には新生突然変異が存在する.罹患者の子に基底細胞母斑症候群が遺伝するリスクは50%である.血縁罹患者に病原性遺伝子変異が同定されている場合には,リスクの高い妊娠に対する出生前診断が可能である.


診断

臨床診断

基底細胞母斑症候群(NBCCS)は,診断基準のうち大項目を2つおよび小項目を1つ有する場合,もしくは大項目を1つおよび小項目を3つ有する場合に診断される[Evans et al 1993].同様の診断基準がKimonisら[1997]によって提案された.どのように診断基準を組み合わせると診断の感度と特異度が最適となるかを評価した研究はない.

基底細胞母斑症候群患者の大部分には特徴的な顔貌がみられるが,臨床診断には頭囲の測定や基底細胞癌,母斑,稗粒腫,足底や手掌の痘痕の有無の確認が欠かせない.

分子遺伝学的検査の利用により基底細胞母斑症候群の臨床型にばらつきがあることがわかったため,すべての診断基準を満たしていない患者にも病原性のPTCH1遺伝子(これまではPTCH遺伝子とされていた)変異がみつかることがある.(家系で最初の発症者は,体細胞モザイクのため,臨床徴候が軽症である場合がある.)

大項目

  • 大脳鎌の層板状(シート様)石灰化.20歳未満では,大脳鎌の層板状(シート様)石灰化や明瞭な石灰化所見.20歳以降では大脳鎌に石灰化が存在する場合がほとんどであり,頭部X線画像(前後像)に見られる(「X線再検査に関する注」を参照).(トルコ鞍に石灰化が存在する場合には,頭部X線検査の側面像に見られる.)
  • 顎の角化嚢胞.(組織学的には歯原性角化嚢胞,パノラマX線撮影画像では半透明領域として現れる)
  • 手掌や足底の小陥凹(2つ以上).とりわけ診断には有益であり,手足を最長10分間お湯につけると,はっきりみえるようになる.小陥凹は「型を抜いたような」白色に見える場合もあれば,「ピンで刺したような」ピンク色に見える場合もある.
  • 多数の基底細胞癌(生涯で5つ以上),もしくは30歳未満で1つの基底細胞癌.褐色肌人種では基底細胞癌のリスクは低下し,日照時間の長い暑い気候に住む白人ではリスクが高まることを念頭に置く必要がある.
  • 基底細胞母斑症候群患者の第1度近親者

小項目

  • 小児期髄芽腫(別名,未分化神経外胚葉性腫瘍[PNET])

    注:米国の専門家を主体とするコンセンサス会議(1名はフランスからの参加者)では,髄芽腫を大項目に変更し,大項目が1つと小項目が2つあれば,基底細胞母斑症候群と診断できるようにしてはどうかという提案がなされた[Bree et al 2011].懸念すべき点は,放射線療法を受けた髄芽腫では,基底細胞母斑症候群でなくとも複数の基底細胞癌が生じる可能性があるため,これにより診断基準の特異度が低下することである.髄芽腫の診断を結節性/線維形成性に限定し,放射線療法後に生じた基底細胞癌を大項目から外すことで,特異度を減じることなく精度を高めることができるかもしれない.
  • 腸間膜リンパ節もしくは胸膜の嚢胞
  • 巨頭症(児頭前後径[OFC]97パーセンタイル超)
  • 口唇裂・口蓋裂
  • 胸部X線や脊髄X線での椎骨や肋骨の異常(X線再検査に関する注を参照):二分肋骨/外へ開いた助骨/過剰肋骨,二分脊椎
  • 軸前性/軸後性多指症
  • 卵巣/心臓の線維腫
  • 眼異常(白内障,形成異常,網膜上皮の色素異常)

    X線再検査に関する注基底細胞母斑症候群の確定診断のためには,通常,頭蓋X線(前後像と側面像),頭部のパノラマX線撮影,胸部X線,脊髄X線が必要となる.

  • X線検査を行わなくても診断が明白である場合や,家系内変異がわかっている場合,臨床医は小児へのX線検査を避けるべきである.
  • すでにX線撮影を行っている場合(すなわち,基底細胞母斑症候群の診断が考慮される以前に撮影された場合),基底細胞母斑症候群患者はX線照射への感受性が高いため,再度撮影するよりも以前撮影した画像を入手して検討を行うことが望ましい.
  • 二分肋骨,二分脊椎,大脳鎌石灰化を呈していても一般集団でも認められる変化であるとみなされて,X線所見の正式な報告書で言及されない場合が多い.
  • X線所見は,心線維腫,口唇裂や口蓋裂,多指症,巨頭症を有する年少児に本症を疑ったり,診断を確定する場合に役立つことがある[Debeer & Devriendt 2005, Veenstra-Knol et al 2005].

検査

細胞遺伝学的解析第9染色体の転座や細胞遺伝学的に検出可能な大規模欠失が少数の基底細胞母斑症候群患者において報告されているが,染色体解析が診断に役立つことはごくまれである.

以下の徴候をどちらも呈している場合には,第9染色体長腕欠失を考慮すべきである.

  • 基底細胞母斑症候群に合致する臨床徴候
  • 重度の発育遅延や低身長などの追加的所見
後者の徴候が認められる場合には,別の染色体領域の欠失も疑われる.

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子 PTCH1遺伝子(これまでのPTCH遺伝子)は,基底細胞母斑症候群を発症させることが知られている唯一の遺伝子である.

臨床検査

表1.基底細胞母斑症候群の分子遺伝学的検査

遺伝子記号

検査方法

検出変異

検査方法ごとの変異検出頻度1

検査の実施状況

PTCH1

シークエンス解析

シークエンス変異2

50〜85%3

臨床
説明: Image testing.jpg

欠失・重複検査 4

エクソン全体の欠失や,複数エクソンの欠失,遺伝子全体の欠失

6〜21%5

連鎖解析

該当なし

該当なし6

「検査の実施」とはGeneTests Laboratory Directoryでの検査の実施状況を指す. GeneReviewsでは,当該検査が米国の臨床検査機関改善修正法(CLIA)承認施設もしくは米国以外の臨床施設によりGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合にのみ,分子遺伝学的検査が臨床的に実施されているとしている.GeneTestsは各施設の提出する情報に対して事実確認することはなく,各施設承認状況や治療実績に関してはいかなることであっても保証しない.医師は直接各施設へ問い合わせて情報確認すること.

  1. 当該遺伝子に存在する変異の検出方法の精度
  2. シークエンス解析で検出される変異は,小規模な遺伝子内欠失・挿入やミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス部位変異などが含まれる.通常,エクソン全体の欠失・重複や,遺伝子全体の欠失・重複は検出されない.
  3. イントロン−エクソン連結部位を含むエクソン2-23のシークエンス解析と,エクソン1のスプライス部位に対するシークエンス解析により,典型的な基底細胞母斑症候群の臨床所見を有する患者の50〜85%で変異が検出できる.多発性の基底細胞癌の症状を除いて症状がない患者や家系でPTCH1変異が検出される可能性は非常に低い[Klein et al 2005, Marsh et al 2005].
  4. シークエンス解析で容易に検出できないゲノムDNAのコード領域や隣接するイントロン領域の欠失・重複を同定する検査には,定量PCR法,ロングレンジPCR法,MLPA法,(遺伝子/セグメント特異的)染色体マイクロアレイGH法などがある.「染色体マイクロアレイGH法」を参照のこと.
  5. 38人の基底細胞母斑症候群のうち8人に,シークエンス解析では同定できない大規模な欠失があった[Nagao et al 2011].
  6. 家系図で十分な情報が得られ,血縁者が検査に協力的であるならば,潜在的病原性変異の共分離を確認するため,患者家系の連鎖解析を行ってもよい.基底細胞母斑症候群の確定診断のために連鎖解析を用いることはできない.

検査の特徴.検査の感度や特異度,その他の検査の特徴はオンラインで検索可能である[Lo Muzio et al 2013].

検査結果の解釈

  • シークエンス解析結果の解釈について考慮すべき点についてはこちらを参照のこと.
  • ミスセンス変異は比較的多い変異であるため,基底細胞母斑症候群の家族歴がない者や診断基準を満たしていない者では,病原性であるか否かの判断が困難なことがある.しかし,家族歴がなく,新生突然変異によるミスセンス変異であることが証明された場合には,病原性が裏付けられる.
  • 病原性である可能性が極めて高いアレル(ナンセンス変異,フレームシフト,欠失・重複,スプライス部位変異など)の不活化が確認されれば,基底細胞母斑症候群の臨床診断が確定する.基底細胞母斑症候群と合致する臨床徴候を1つ有する患者のなかには,通常の手法で検出可能なPTCH1遺伝子変異を持たない者もいるため,PTCH1遺伝子変異を検出できなかったからといって基底細胞母斑症候群の診断が除外できるわけではない.
  • 検査の感度は検査方法と用いられた診断基準の両者によって変わってくる.幾つかの研究での変異検出率の低さは,分子遺伝学的手法よりも臨床診断基準を反映したものであろう[Boutet et al 2003].
  • 変異検出率は,家系内で最初の罹患者であることがわかっている場合には低くなることがある.これは,新生突然変異がこの患者に体細胞モザイクを生じさせた結果であろうと考えられる.そのような場合,検査を受けた罹患者が軽症の基底細胞母斑症候群患者の子である場合には,変異検出率は高まる.
  • 2つ以上の腫瘍に同じPTCH1 遺伝子変異が存在するが,リンパ球DNAには存在しない(もしくは正常よりも少ない割合で存在する)場合,体細胞モザイクの可能性が強く示唆される.

個別のアレル変異に関する情報は「分子遺伝学」で得られる(表A「遺伝子・データベース・病原性アレル変異」を参照).

検査手順

発端者の確定診断

非定型の臨床所見を有する患者での確定診断には,分子遺伝学的検査を用いることができる.すべてのエクソンに対する直接シークエンス解析と,その後の欠失・重複解析によってリンパ球DNAの検査を行うことができる.

体細胞モザイクによる基底細胞母斑症候群が疑われる患者に対しては,(検体を入手しやすい基底細胞癌などの)腫瘍を用いて検査を開始するとよいだろう.2つの別々の腫瘍に同一の変異が同定された場合には,リンパ球に認められなくても,モザイクの存在が確証される[Evans et al 2007].

発症前診断.リスクを有する無症状の成人血縁者に対する発症前診断に際しては,事前に家系内の病原性遺伝子変異を同定しておかなければならない.

出生前診断や着床前診断(PGD)リスクのある妊娠に対する出生前診断や着床前診断(PGD)に際しては,事前に家系内の病原性遺伝子変異を同定しておかなければならない.

注:GeneTests Laboratory Directoryに掲載されている検査機関で臨床的に検査が行われている場合に限り,臨床的に実施されているとするのがGeneReviewsの方針である.こうした掲載には著者,編集者,査読者の意向は必ずしも反映されていない.

遺伝的に関連のある疾患

Mingら[2002]は,血縁関係のない全前脳胞症の発端者100人のうち5人においてPTCH1遺伝子のミスセンス変異を報告している.Mingらは,基底細胞母斑症候群でヘッジホッグ・シグナル伝達経路が活性されているのではなく,PTCH1遺伝子がコードするパッチドホモログ1蛋白のハプロ不全によって,このミスセンス変異がPTCH1遺伝子のヘッジホッグ・シグナル伝達経路に対する抑制活性を高めているという仮説を提示した.Ribeiroら[2006]は,このほかの4種類のPTCH1遺伝子のミスセンス変異が全前脳胞症に関連すると報告した.

PTCH1遺伝子の体細胞変異は,基底細胞母斑症候群で観察される変異も含め,一連の孤発例の腫瘍(角化嚢胞,基底細胞癌,皮膚の毛包上皮腫,髄芽腫,卵巣線維腫)で見つかっている.


臨床像

自然経過

家系内や家系間でもばらつきのある100種類以上の多様な臨床徴候が基底細胞母斑症候群に関連している[Farndon 2004].

これらの臨床所見を発症が多い徴候順にあげる.

  • 外観PTCH1遺伝子変異を有する患者の約60%が,巨頭症,前額部の瘤,粗野な顔貌,顔面の稗粒腫を伴う疾患特有の外観を有する.肩はなで肩である.
  • 巨頭症まず目につきやすい特徴が,相対的巨頭症である.基底細胞母斑症候群児の大半は頭囲が大きいため,分娩は帝王切開となる.出生後の頭囲の成長パターンは停止性水頭症の場合に類似することが多いが,治療を要するような水頭症はまれである.頭囲は月齢10〜18ヶ月に至るまでに97パーセンタイル超となり,その後はそのまま推移する.

    運動発達が幾分遅れることが多いが,ほとんどがおよそ5歳までに追いつく.全般的な発達遅滞を示す心理測定的報告はない.
  • 先天性欠損大多数の患者はX線画像で明らかな骨格異常(二分肋骨,楔形の椎骨など)を有する.複数の肋骨や椎骨の異常から生じる重度の骨格障害が報告されているが,開放性二分脊椎と同様,それほど頻度は高くない.

    とくに大脳鎌における異所性石灰化は,20歳までの患者の90%超に認める[Ratcliffe et al 1995, Kimonis et al 2004].

    約5%に認められる先天性奇形には,口唇裂・口蓋裂(5%),多指症,重度の眼異常がある.眼所見には,斜視,白内障,眼窩嚢胞,小眼球症,網膜上皮の色素異常などがある[Black et al 2003, Ragge et al 2005].
  • 髄芽腫基底細胞母斑症候群患者の約5%が,小児悪性脳腫瘍である髄芽腫(現在は未分化神経外胚葉性腫瘍[PNET]と呼ばれることが多い)を発症する[Cowan et al 1997].この腫瘍は組織学的には線維形成性であることが多く[Amlashi et al 2003],予後は良好であることが多い.基底細胞母斑症候群で髄芽腫の発症が最も多いのは2歳頃であり,孤発例が7歳であるのにくらべて若年で発症する[Cowan et al 1997, Amlashi et al 2003].
  • 顎の角化嚢胞.罹患者の約90%には顎の角化嚢胞が複数生じる.顎の角化嚢胞は5歳という若年でも発症しうるが,もっとも発症が多いのは12〜19歳である.顎の角化嚢胞は通常,痛みを伴わない腫脹として現れる.未治療のままでいると,大きな歯の破損や顎骨骨折につながる恐れがある.顎の嚢胞が30歳以降に生じることはまれである.

    角化嚢胞が悪性化したエナメル上皮腫と呼ばれるまれな腫瘍は,基底細胞母斑症候群患者において少なくとも6例報告されている[Ponti et al 2012].
  • 基底細胞癌.小児初期に褐色・ピンク色・橙色の基底細胞母斑が生じることがあるが,侵襲的性質を呈することなく,静止状態で存在し続けることがある.組織学的には典型的な基底細胞癌であり,とりわけ小児では,この所見ではじめて基底細胞母斑症候群の孤発例(すなわち基底細胞母斑症候群の家族歴のない患者)であることが判明する場合がある.すでに無数に生じている基底細胞母斑から活動性の基底細胞癌が生じることもあれば,ほとんどしみのない皮膚から典型的な基底細胞癌が生じることもある.基底細胞癌は痂皮を生じさせたり,出血したり,潰瘍を形成したり,局在性感染として現れることもある.

    基底細胞癌は小児初期でも生じるが,一般には10歳代後半や成人初期になるまで生じない.基底細胞癌は年齢とともに生じやすくなるが,生涯にわたって基底細胞癌が生じない基底細胞母斑症候群患者も10%いる.1型皮膚(ケルト系民族の皮膚のように褐色に日焼けせず,熱傷が生じる白色皮膚)を有する者や紫外線を過剰に浴びた者は,とりわけ多数の基底細胞癌を発症しやすいように思われる.臨床的には放射線への感受性がきわめて高い患者もおり,こうした患者では放射線療法後,照射野に新たな基底細胞癌が生じる.

他の皮膚症状その他の皮膚症状には,顔面の稗粒腫や眼瞼のマイボーム腺嚢胞がある.稗粒腫は多数生じやすい.皮脂腺嚢胞や皮様嚢腫も多い.(とくに首周囲の)皮膚垂は組織学的に基底細胞癌の外観を呈することが多いが,侵襲性を示すことはない.

他の腫瘍心線維腫は女性の約2%に,卵巣線維腫は女性の約20%に生じる[Evans et al 1993, Gorlin 2004].通常,心線維腫は出生時もしくは出生直後に現れる.これらは無症状であることもあるが,不整脈を引き起こしたり心臓からの血流を閉塞させることもある.横紋筋腫が心臓その他の部位に生じることがある[Watson et al 2004].

卵巣線維腫は通常,超音波検査や帝王切開時に思いがけず見つかることが多い.卵巣線維腫が卵巣捻転を生じさせることがあるが,受胎能には影響を与えないと考えられている.卵巣線維腫は大型化し石灰化することがあるが,悪性化は少ない.

その他の悪性腫瘍のリスクの上昇は明らかにされていないが,これまでにリンパ腫[Pereira et al 2011]や髄膜腫[Kijima et al 2012]が報告されている.

罹病率・死亡率.基底細胞母斑症候群の平均余命は一般人口平均と大差ない[Wilding et al 2012].一番の問題は多数の皮膚腫瘍への治療によって生じる審美的影響であり,この次に顎の角化嚢胞治療の影響に伴う問題がくる.審美的に損なわれるため,雇用維持が難しくなるなど,社会生活上の困難が生じる.

遺伝子型と臨床型の関連

初期の報告では遺伝子型と臨床型の関連は認められていなかった[Wicking et al 1997].特に,基底細胞癌の発症年齢に影響を与える遺伝子型を示す根拠はない[Jones et al 2011].現時点ではPTCH1遺伝子の個々の変異について,臨床的重症度を予測することは可能ではない.PTCH1遺伝子は他の遺伝子の影響を受けて調節されている可能性がある.

網膜の色素異常などの一連の眼所見を有する1家系で,大規模な欠失が同定された[Black et al 2003].

9q22.3微小欠失症候群PTCH1遺伝子を含む大規模な染色体欠失から9q22.3微小欠失症候群が生じる.この症候群の特徴は,基底細胞母斑症候群の徴候に加えて,発育遅延や知的障害,前額部の頭蓋縫合早期癒合症,閉塞性水頭症,出生前後の巨大児,及び発作である[Muller et al 2012].

浸透率 

基底細胞母斑症候群の発現には家系内や家系間でばらつきが認められるが,臨床経験や分子遺伝学的検査所見は完全浸透に合致したものである[著者の個人的観察所見].

表現促進現象

表現促進現象は報告されていない.さまざまな表現型が認められることから,親よりも子の重症度が高い例が説明できる.

頻度 

疾患頻度に関する研究はほとんどない.最もよく引用される57,000人中1人という頻度は,イングランド北西部の400万人の英国人集団に関する研究から得られたものである[Evans et al 1991b].この研究の発表以来,基底細胞母斑症候群への認識が高まったために診断数が増加し,30,827人中1人近くにまで数値は引き上げられている[Evans et al 2010].より軽症の症例が気づかれない場合があるため,真実の値はもっと高いだろう.

オーストラリアでの研究では,164,000人中1人という最も低い頻度が報告された[Shanley et al 1994].

最近,出生時の発症率が最大18,976人中1人にのぼることが確認された [Evans et al 2010].


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

鑑別診断は症状の現れ方に基づく.

巨頭症.発端者が巨頭症やその他の先天性欠損を有する乳児である場合,ソトス症候群やベックウィズ・ヴィーデマン(Beckwith-Wiedemann)症候群など,少数の過成長症候群を考慮する必要がある.

  • ソトス症候群の特徴は,特徴的な顔貌,知的障害,過成長(高身長,大きな頭囲)である.新生児黄疸,側弯,発作,斜視,伝音難聴,先天性心疾患,腎障害,行動障害を伴う.仙尾骨部の奇形腫や神経芽腫のリスクがわずかに上昇する.ソトス症候群患者の約80〜90%にNSD1遺伝子の変異や欠失が存在する.ソトス症候群は常染色体優性疾患であり,95%超の患者が新生突然変異を有する.
  • ベックウィズ・ヴィーデマン症候群は,巨大児,巨舌症,内臓巨大症,胎児性腫瘍(ウィルムス腫瘍,肝芽腫,神経芽腫,横紋筋肉腫など),臍帯ヘルニア,新生児低血糖症,耳たぶの溝や孔,副腎皮質巨大細胞,腎障害(髄質形成不全,腎石灰沈着症,海綿腎,腎肥大など)を特徴とする成長障害である.巨舌症や巨大児は出生時に明らかであることが多いが,出生後に発症することもある.成長速度は7〜8歳ごろに緩やかになる.片側過形成は身体の体節的部位や,特定の臓器や組織に影響を与えることがある.診断は主に臨床所見によるが,分子遺伝学的検査により診断が変更される患者もいる.
  • 孤発性の水頭症巨頭症 は臨床検査,家族歴,X線画像により鑑別可能である.

基底細胞癌.初発症状が多発性の基底細胞癌の場合は,ほぼすべての基底細胞母斑症候群の診断が臨床検査やX線検査で確立する.類似の皮膚所見を有する他の遺伝性疾患は以下である.

  • 10歳代や20歳代に生じる毛包上皮腫,稗粒腫,円柱腫(常染色体優性遺伝性疾患).稗粒腫は小型の毛包上皮腫であり,日光曝露部位にのみ現れる.
  • バゼックス(Bazex)症候群.バゼックス症候群の特徴は,多発性基底細胞癌,手や足の背側の毛包性皮膚萎縮症,発汗減少,貧毛症である(OMIM 301845).手の甲の小陥凹はオレンジ・ピールを連想させるものであり,基底細胞母斑症候群における手掌や足底の小陥凹とはまったく異なる.遺伝形式は常染色体優性もしくはX連鎖優性である.
  • ロンボ(Rombo)症候群.バゼックス症候群に類似する常染色体優性遺伝性疾患であるロンボ症候群が報告されたのは1家系のみである(OMIM 180730).皮膚所見は,虫食い様の皮膚萎縮症,稗粒腫,貧毛症,毛包上皮腫,基底細胞癌,チアノーゼを伴う末梢血管拡張である.小児後期まで皮膚は正常である.基底細胞癌は成人期に発症する.発汗は正常である.
  • 貧毛症や基底細胞癌を呈する常染色体優性もしくはX連鎖優性の症候群が報告されたのは,1家系にのみである[Oley et al 1992] (OMIM 301845を参照のこと).
  • 他の徴候を伴わない多発性基底細胞癌を呈する常染色体優性疾患

多発性基底細胞癌の後天的原因には,ヒ素曝露も含まれる.

顎の角化嚢胞初期症状が顎の角化嚢胞である場合,ほぼすべての基底細胞母斑症候群の診断が臨床検査やX線画像によって確定する.小児への検査に加えて,両親に対する病歴聴取や検査も勧められる.

髄芽腫.髄芽腫を呈している小児に対しては,とりわけ3歳未満の場合や組織学的所見が線維形成性である場合には,基底細胞母斑症候群に対する評価を行う必要がある.小児への検査に加えて,両親に対する病歴聴取や検査も勧められる.

結節性や線維形成性の髄芽腫を有する児に対しても,SUFU遺伝子の変異を検査する必要がある[Brugie`res et al 2012].Brugie`resらは結節性髄芽腫の患者3人のうち3人において,また線維形成性髄芽腫の患者20人のうち4人において,SUFU遺伝子の変異が基底細胞母斑症候群に幾つかの特徴を生じさせていることを示した.さらに,SUFU遺伝子の変異は巨頭症と関連しており,SUFU遺伝子の変異を有する8人の髄芽腫患者のうち1人では,放射線の照射野に基底細胞癌が発症した[Brugie`res et al 2012].

臨床医への注: 患者に応じた本疾患の「simultaneous consult」に関しては, 説明: Image SimulConsult.jpgに進むこと.simultaneous consultは,患者ごとの所見に基づき鑑別診断を行う双方向の診断サポートソフトである(登録もしくは登録施設の登録が必要).


臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

基底細胞母斑症候群と診断された患者の疾患の程度を確定するためには,以下の手順が推奨される.

  • 初回診断時の頭囲の測定.身長表に記録することが望ましい.パーセンタイル値に急激な増加が認められた場合には,水頭症の有無を確認するため,早急に検査を行うこと.
  • 臨床的意義のある先天性欠損(口唇裂や口蓋裂,多指症など)に対する身体的検査
  • 肋骨や脊椎の異常や大脳鎌の石灰化を評価するためのX線検査
  • 基底細胞母斑症候群に精通した歯科医や矯正歯科医による評価.8歳以降では顎部のX線撮影(パノラマX線撮影)を行い,顎の角化嚢胞やその他の異常を評価すること.
  • 基底細胞母斑症候群に精通した皮膚科医による皮膚の診察
  • 白内障,発達障害,網膜上皮の色素異常に対する眼科的評価
  • 妊娠前に卵巣の超音波検査を行い,卵巣線維腫の評価を行う.
  • 1歳までに心線維腫への評価のため,心エコー検査を行う.
  • 遺伝専門医の診察

腸間膜や胸膜の嚢胞はまれなため,症状がなければ検査の必要はない.

症状に対する治療

本疾患に精通した専門医(口腔外科医,皮膚科医,形成外科医,小児科医,遺伝専門医など)による治療を行うこと.

通常,角化嚢胞は外科的切除を要する.

基底細胞癌の早期治療は,とりわけ顔面の場合,長期的な美容的問題を予防するために不可欠である.悪性度の高い基底細胞癌を完全に根絶し,変形が生じないよう,正常組織を守ることが最優先される.外科的切除の補完治療として,早期病変に対する凍結療法やレーザー治療,光線力学的療法など,他の数多くの治療が行われる.モース顕微鏡手術[Mohs et al 1980]による外科的治療は,とりわけ有効性が高いように思われる.

レチノイドによる全身療法(エトレチナートなど)は可能であるが,忍容性が良好でない場合が多い.

心線維腫は無症状であることがあり,小児循環器専門医によるモニタリングが望ましい.

卵巣線維腫に外科的治療が必要となる場合には,再発リスクを伴うが,卵巣組織の保存が望ましい[Seracchioli et al 2001].

一次病変の予防

放射線療法を行うと,照射野に何千もの基底細胞癌が発症しかねない[Strong 1977, Evans et al 1991a]ため,他の治療が可能ならば,とりわけ小児期の放射線療法は避けるべきである.治療チームが放射線療法のほかに治療法がないと考える場合は,できるだけ少ない照射ポートを用いて行うこと.

X線検査による診断検査を行う回数を減らすべきである.

基底細胞母斑症候群の患者には,できるだけ直射日光に当たらないように指示すること.過剰な日光曝露により,基底細胞癌が発症する可能性が高まる.患者は長袖やハイネック,帽子などで皮膚を覆うこと.完全に日光を遮断する日焼け止めを使用すること.

経過観察.

小児期を通じて頭囲測定を行い,適切な成長曲線に記録すること.急速な成長が認められた場合には,早急に水頭症の可能性を評価すること.

生後1年間は髄芽腫のリスクに気を配ることが重要であるため,6カ月に1回の発達評価や身体的検査の実施は妥当である.定期的な神経画像診断の有効性を示す報告はない.頻繁なコンピュータ断層撮影(CT)には放射線過敏性に伴うリスクがあるため,避けること.最近得られたコンセンサスでは,8歳まで,年1回の頭部MRIスキャンを行うことが勧められている[Bree et al 2011]が,全身麻酔が必要となる子どもが多い.

他の腫瘍に関しては,一般集団への提供回数の定期検診を行うことが妥当であると考えられるほどの発症頻度をもつ腫瘍はない.

8歳以上では,顎の角化嚢胞の有無の確認のため,パノラマX線撮影を12〜18カ月に1回行うとよい.

皮膚検査はすくなくとも1年に1回行うこと;3〜4ヶ月に1回の専門医による皮膚検査を行うとよいとする医師もいる.

回避すべき薬物や環境

「一次病変の予防」の項を参照のこと.

リスクのある血縁者の検査

基底細胞母斑症候群の合併症(最も顕著な例では小児の髄芽腫や成人の顎の角化嚢胞や基底細胞癌)の有無や,日焼け止め対策の必要性の有無を判断するため,小児も含めたリスクのある血縁者に対して遺伝学的状況を確定することは妥当である.

  • 病原性変異が患者家系で同定されている場合,分子遺伝学的検査が可能である.
  • 石灰化の有無を確認する頭蓋部の臨床検査やX線検査では,基底細胞母斑症候群の年齢相関的な性質のため,ごく年少児では遺伝学的状況を明らかにできないことの方が多い.

遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある親族への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと.

妊娠期の管理

基底細胞母斑症候群の患者の頭囲は大きいため,罹患している胎児を妊娠している女性は,児頭骨盤不適合のため,早期の誘発分娩,もしくは帝王切開の必要がないかを検査すべきである.

研究中の治療法

(赤外線による)光線力学的療法はまだ研究の初期段階であるが有望視されており,安全性も高いように思われる[Haylett et al 2003].最近の研究では,光線力学的療法を受けた基底細胞母斑症候群患者33人において,60%に近いコントロール率という治療成績が示された[Loncaster et al 2009].

アミノレブリン酸が研究されている[Itkin & Gilchrest 2004, Oseroff et al 2005].通常,アミノレブリン酸は光線力学的療法と併用して用いられる[Loncaster et al 2009].

5-フルオロウラシル(Efudex(R))やイミキモド(5%)による局所療法が研究されている[Kagy & Amonette 2000, Marks et al 2001, Stockfleth et al 2002].最近行われたレビューでは,イミキモド治療によるコントロール率が,表在性基底細胞癌では90%,悪性度の高い基底細胞癌や結節性の基底細胞癌では50%近くに達したことが示された [Alessi et al 2009].

5-フルオロウラシルの局所療法は濾胞性病変をもたない表在型の多中心性基底細胞癌には有効であるようだが,深部浸潤性の基底細胞癌には用いるべきでない.

最近,ソニック・ヘッジホッグ阻害薬が臨床試験段階に入り,結果が有望視されている[Saran 2010].進行性/難治性基底細胞癌を有する基底細胞母斑症候群患者へのソニック・ヘッジホッグ阻害薬の全身投与も有効であり[Sekulic et al 2012, Tang et al 2012],局所進行性の基底細胞癌を有する患者63人での奏効率は43%であった.基底細胞母斑症候群患者での奏効率は極めて高かったが,有害な副作用のため,53%が投与中止となった [Tang et al 2012].最近の症例報告では,基底細胞癌に投与された場合,ソニック・ヘッジホッグ阻害薬が角化嚢胞も回復させることが示された[Goldberg et al 2011].

種々の疾患に対する臨床試験についてはClinicalTrials.govを参照のこと.

その他

遺伝クリニック 遺伝クリニックは,患者や家族に自然経過,治療,遺伝形式,患者家族の遺伝的リスクに関する情報を提供とするとともに,患者の立場からの情報も提供する.「GeneTests Clinic Directory」を参照のこと.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

基底細胞母斑症候群の遺伝形式は常染色体優性である.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • 基底細胞母斑症候群と診断された患者の約70〜80%の両親の1人は罹患者である.
  • 発端者の約20〜30%が新生突然変異を有する.
  • 見かけ上新生突然変異を有すると思われる発端者の両親に推奨される検査には,皮膚の精密検査,頭蓋部X線(前後像と側面像),胸部X線,脊椎X線などである.PTCH1遺伝子変異が発端者もしくは他の罹患している血縁者で同定されている場合には,分子遺伝学的検査を用いて親の遺伝学的状況を明らかにできる.

    注:(1)基底細胞母斑症候群と診断された患者の約70〜80%は両親の1人が罹患者であるが,表現型が多岐に渡っているため,家系内での疾患の見落としの結果,家族歴が陰性である場合がある.(2)発端者の親に最初の変異が生じた場合,この親の変異は体細胞モザイクである可能性があり,症状が軽度もしくは最小限となることがある.

発端者の同胞 

  • 同胞のリスクは両親の遺伝学的状況に基づく.
  • 発端者の親の1人が罹患している場合,同胞のリスクは50%である.
  • 両親に臨床症状が現れていない場合,発端者の同胞のリスクは低くなるように思われる.
  • 病原性遺伝子変異が親のDNAに検出されない場合,同胞のリスクは低いが,体細胞モザイクや生殖細胞モザイクの可能性があるため,一般人口よりは高い.基底細胞母斑症候群では証明されていないが,神経線維腫症2型(NF2)患者での類似の状況では,リスクの低さが確認されている[Evans et al 2007].

発端者の子

  • 罹患者の子が変異を受け継ぐリスクは50%である.
  • 体細胞モザイクによる軽症基底細胞母斑症候群患者の子が病原性遺伝子変異を受け継ぐ確率は50%未満である.

発端者の他の家族

  • 他の血縁者のリスクは,発端者の両親の遺伝学的状況によって決まる.
  • 親が罹患しているなら,その親の血縁者にはリスクがある.

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断や早期治療目的で行われるリスクのある血縁者の検査に関する情報については,「臨床管理」や「リスクのある血縁者の検査」の項を参照のこと.

癌リスクの遺伝学的評価やカウンセリング分子遺伝学的検査の利用の有無を問わず,癌リスク評価によりリスクを有する個人を確定することによる医学的,心理社会的,倫理的結果に関する包括的な記載は,「癌の遺伝リスク評価とカウンセリング」(Elements of Cancer Genetics Risk Assessment and Counseling)(米国国立癌研究所(NCI)のPDQ(R)の一節)を参照のこと.

見かけ上新生突然変異を持つ家系への配慮常染色体優性遺伝性疾患の発端者の両親のどちらにも病原性遺伝子変異がない場合,もしくは疾患の臨床症状がない場合,発端者に新生突然変異が存在する可能性がある.しかし,父親や母親が異なる場合(生殖補助医療など)や,公開されていない養子縁組といった非医学的原因も検討する必要がある.

家族計画 

  • 遺伝リスクの決定や出生前診断の利用について話し合う最適な時期は妊娠前である.
  • 罹患している若年成人やリスクのある若年成人に対して遺伝カウンセリング(子への潜在的リスクや生殖手段)を提供することは妥当である.

小児期の発症前診断基底細胞母斑症候群の合併症(最も顕著な例では小児の髄芽腫)が生じていないかを定期的に検査する必要があるため,小児期にリスクのある者の遺伝学的状況を確定することは妥当である.石灰化の有無を確認する頭蓋部の臨床検査やX線検査では,基底細胞母斑症候群の年齢相関的な性質のため,ごく年少児の遺伝学的状況を明らかにできないことの方が多い.病原性変異が家系内罹患者で同定されている場合,分子遺伝学的検査が考慮される.

成人に対する発症前診断.臨床検査やX線検査は,罹患していないようにみえる者に対する「遺伝子検査」として機能することが多い.検査を受ける者は,PTCH1遺伝子に対する分子遺伝学的検査を受ける場合と同様に,これらの検査の発症前診断としての意味を十分自覚する必要がある.

DNAバンク.

 DNAバンクは,将来の使用のために,通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.このサービスを行っている機関についてはDNA bankingの項を参照のこと.

出生前診断

リスクの高い妊娠に対する出生前診断は,通常胎生週数15〜18週頃に実施される羊水検査や胎生週数10〜12週頃に実施される絨毛生検(CVS)により採取された胎児細胞のDNA分析により技術的には可能である.出生前診断の実施以前に,家系内患者の病原性アレルが同定されていることが条件である.

注:胎生週数は最終月経の第1日から換算するか,超音波による計測によって算出される.

何らかの治療法があり,知能障害をもたらすことも寿命を短縮させることもない基底細胞母斑症候群のような疾患に対する出生前診断の希望は多くない.出生前診断を行うことに対しては,専門医のあいだでも家族によっても考え方が異なるだろう.特に,検査が早期診断目的というよりも妊娠中絶を考慮したうえで行われる場合にはなおのことである.たいていの医療機関では出生前診断を受けるかどうかの決定は両親の選択に委ねると考えるであろうが,この問題に関しては慎重な議論が必要である.

着床前診断(PGD).着床前診断(PGD)は事前に病原性遺伝子変異が同定されている家系では実施可能である. 着床前診断を行っている施設に関しては「Testing」参照のこと.

注:GeneTests Laboratory Directoryの掲載施設で実施可能な臨床検査を載せることがGeneReviewsの方針である.ここで掲載されている検査は必ずしも著者や編集者や審査者の推奨を反映するものではない.


更新履歴

  1. Gene Review著者:: D Gareth Evans, MD, FRCP, Peter A Farndon, MD, FRCP
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部) 
    Gene Review 最終更新日: 2010.7.22. 日本語訳最終更新日:2011.5.1.
  2. Gene Review著者: D Gareth Evans, MD, FRCP,Peter A Farndon, MD, FRCP
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)    
    Gene Review 最終更新日: 2013.3.7. 日本語訳最終更新日: 2013.5.25 (in present)

原文 Nevoid Basal Cell Carcinoma Syndrome

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