Gene Review著者:Karl Heintz Weiss, MD
日本語訳者: 訳者(所属) 和田宏来(県西総合病院小児科、筑波大学大学院小児科)
Gene Review 最終更新日: 2016.7.29. 日本語訳最終更新日: 2016.11.30.
疾患の特徴
ウィルソン病は銅の代謝異常であり,肝障害,神経障害,精神症状およびこれらの症候が組み合わさった病状を呈する疾患である.個々の症例は3歳から50歳以上と幅があり,症状の程度は家系間および家系内でも多彩である.
診断・検査
肝・神経・精神症状のさまざまな組み合わせをもつ発端者ではウィルソン病が疑われる.ほとんどの症例は,生化学的検査(血清銅やセルロプラスミンの低値、尿中銅排泄の増加)と臨床所見(カイザー-フライシャー輪),もしくは分子遺伝学的検査によってATP7Bの両アレルに病原性変異の存在を確認することで診断される.分子遺伝学検査の結果を待てない場合には,(肝生検による)肝銅重量の測定が診断に必要になることがある.このような症例では,診断確定のための分子遺伝学的検査が強く推奨される.
臨床的マネジメント
発症例の治療 :
銅キレート剤もしくは亜鉛製剤による治療を可及的速やかに開始することで,肝・神経・精神症状を減らすことができる.治療は生涯にわたる.銅キレート剤(ペニシラミン,トリエンチン)は尿中への銅排出を促進する.亜鉛製剤の高用量内服は腸管からの銅の吸収を抑制し,キレート剤による初期治療により体内に蓄積した銅を減量したのちに開始するともっとも効果的である.同所性肝移植は内科的治療に不応の場合や劇症肝不全症例で行われる.
発症の予防 :銅キレート剤もしくは亜鉛製剤による治療で,無症状患者における肝・神経・精神症状の進行を抑制することができる.
サーベイランス :
少なくとも1年に2回,血清銅,セルロプラスミン,肝酵素,PT-INR,血算,尿検査を測定し,神経学的評価を含む身体診察を行う.少なくとも年に1回,24時間尿中銅排泄量の測定を行う.
避けるべきもの/環境 :
銅をたくさん含む食物(レバー,脳,チョコレート,マッシュルーム,貝,甲殻類,ナッツ)を,特に治療初期は避ける.
リスクのある血縁者の評価 :
罹患した家族における病原性変異が分かっているのなら,発端者の同胞に分子遺伝学的検査を行うことで早期診断および症状が起きる前に治療を行うことができる.
罹患した家族の病原性変異が不明である場合,銅代謝パラメーターの生化学的な評価(血清銅,尿中銅,セルロプラスミン),肝機能検査,肝臓のエコーや,カイザー-フライシャー輪をみるために細隙灯検査を行う.
妊娠管理 :劇症肝不全もしくは神経症状の不可逆的な悪化のリスクのため,妊娠中は治療を継続しなければならない.キレート剤による胎児への影響の可能性があるため,できるだけ低用量を維持するべきである.
遺伝カウンセリング
ウィルソン病は常染色体劣性遺伝型式をとる.基本的に罹患者の同胞は25%の確率で罹患者であり,50%の確率で無症候性キャリアであり,25%の確率で変異を有しない非罹患者である.罹患した家族においてATP7B変異が同定された場合,リスクのある血縁者がキャリアかどうかの検査や,出生前検査や着床前診断を行うことが可能である.
臨床診断
ウィルソン病の診断はひとつの検査単独で行うことはできない.検査の組み合わせが常に必要であり,詳細は米国で最も普及しているガイドラインであるAASLD(米国肝臓病学会)ガイドラインに記述されている.より最近の欧州肝臓病学会(EASL)臨床実践ガイドライン(2012年)の診断アルゴリズムは,専門家委員会によって提唱された診断指標("ライプツィヒ"スコア)に基づいている.このスコアは臨床,生化学,分子学的な症候を含むが,大規模な症例集積研究では実証されていない.
示唆的な所見
ウィルソン病は,肝,神経,精神,眼症状,およびこれらがさまざまに組み合わさった症候をもつ3歳から60歳(多くは6歳から45歳)の症例において疑われる.
診断の確定
ウィルソン病はほとんどの症例で生化学的検査によって診断が確定される.もし低セルロプラスミン値と組み合わせて認める場合には,カイザー-フライシャー輪の存在はおおよそ疾患特異的である.診断は分子遺伝学的検査で確認する.
注:検査のタイミングが合わない場合や分子遺伝学検査の結果を待てない場合には,(肝生検による)肝銅重量の測定が診断に必要になることがある.このような症例では,診断確定のための分子遺伝学的検査もまた強く推奨される(表2を参照).
生化学検査
有症状例におけるウィルソン病の生化学的診断は以下の検査の組み合わせによる.
注:神経症状を呈する症例の少なくとも5%,肝症状を呈する症例の多く見積もって40%の症例において,血清セルロプラスミン値は正常である.よって,血清セルロプラスミン値測定はウィルソン病の信頼のおけるスクリーニング検査ではない.
注:血清銅濃度は健常新生児で低値である.生後6ヶ月の間に徐々に濃度は上昇し,2-3歳までにピークに達する.そのピーク値は健常成人の基準値よりも高いことがある.
注:酵素法によるセルロプラスミンの定量法は,ホロ化している(つまり銅と結合している)セルロプラスミンを測定する.このためとくに遊離銅の算出に際して同法が使用される.
ウィルソン病罹患者における肝組織銅含有量は一般に250μg/g肝乾重量以上である(正常範囲: 50μg/g肝乾重量未満).しかしながら他の慢性肝疾患や胆汁うっ滞でも同様の値を呈しうる.
注:(1)進行した時期においては,肝内の銅沈着は一様ではなく,肝銅含有量測定の信頼性は乏しい.(2)一部の例においては,ヘテロ接合保因者でもたまにみられるような100-250μg/g肝乾重量程度のわずかな増加しか呈さない例もある.このため,この程度の肝銅含有量であっても,ウィルソン病を除外することはできない.
分子遺伝学的検査
ウィルソン病の分子学的診断 は,分子遺伝学的検査によるATP7Bの両アレル変異の同定による(表1を参照).
分子遺伝学的検査のアプローチには,単一遺伝子検査,多遺伝子パネルの使用やより包括的な遺伝子検査などが含まれる.
単一遺伝子検査 では,ATP7Bのシークエンス解析がまず行われ、変異が1つだけもしくはない場合には続けて標的遺伝子の欠失・重複解析が行われる.
特定の集団では特定の病原性変異に対するターゲット解析を最初に行うことができる.
表1. ウィルソン病で用いられる分子遺伝学的検査の要約
遺伝子1 | 検査方法 | この方法で同定される変異2をもつ発端者の割合 |
---|---|---|
ATP7B | シークエンス解析3 | 98%4 |
欠失・重複解析5 | まれ6 |
自然経過
ウィルソン病は,肝障害,神経障害,血液学的異常,精神障害およびこれらの症候がさまざまに組み合わさった病状を呈しうる.罹患年齢は3歳から60歳以上に及ぶ.表現型は家族内であっても多彩である.臨床的・生化学的に非典型的な症例が分子遺伝学的検査によって確定診断されることで,表現型は幅がさらに広がっている.
表2はウィルソン病の典型的な症候の概略である.「古典的三徴」である肝疾患,運動障害,カイザー-フライシャー輪がそろうことは一般的ではない.
表2
症候 | 罹患者における頻度 | その症候が現れる典型的な年齢 (年齢幅) |
肝疾患 | 神経疾患 | 精神障害 | カイザー-フライシャー輪 |
---|---|---|---|---|---|---|
肝疾患 | ~40% | 6 - 45 (3 - 70) |
+ | +/- | +/- | ~50% |
神経疾患 | ~40% | 10代半ば- 壮年期(6-50) | ~軽度 | + | +/- | ~90% |
精神障害 | ~20% | 思春期- 青年期 | ~軽度 | +/- | + | ~90% |
溶血性貧血 | 数% | 思春期- 青年期 | + | - | - | + |
肝障害 ウィルソン病では小児期および青・壮年期に,典型的には6-45歳の間で,肝疾患を呈することが多い.しかしながら,重症肝疾患が就学前の小児や高齢者に生じることもある.臨床症状は多岐にわたり,以下のような病状を含む
神経疾患 神経症状は大まかに運動障害もしくは筋固縮性ジストニアという2つのパターンをとる.
構音障害,流涎,嚥下困難などの仮性球麻痺は高齢の症例に多いが,小児期・思春期の症例でも認められる.
はっきりした神経症状を呈する症例とは対照的に,肝症状を伴った症例でみられる神経症状はわずかである可能性がある.気分障害(主にうつ,時に衝動性),学業不振,微細運動(特に書字)もしくは粗大運動技能の障害を認めることがある.
精神症状 精神症状は多彩である.うつはよくある症状である.神経症性の行動として病的恐怖,衝動的行動,攻撃性,反社会的行動などが含まれる.高齢者では微細な精神病理(不安を伴った進行性の人格統合障害など)や感情変化(不安定な感情や脱抑制など)を認めることがある.
記憶力低下,抽象的思考能力の障害,注意持続時間の短縮を伴った知的退行もまた起こりうる.純粋な精神疾患は稀である.
カイザー-フライシャー輪 角膜のデスメ膜への銅の沈着によっておこり,体内の銅の蓄積が多いことを反映している.視覚は侵さず,効果的な除銅治療により軽減もしくは消退する.
その他の症候
妊孕性と妊娠 ほとんどのウィルソン病患者において妊孕性がある.治療を受けている罹患女性における妊娠の成功例が報告されている.診断や治療が行われる以前に,罹患女性は不妊や反復流産を経験しているかもしれない.
遺伝子型と臨床型の相関
完全にATP7B遺伝子の機能を阻害するような変異は,いくらかのミスセンス変異よりも重篤な臨床型をきたす傾向にある.頻度の高いp.His1069Glnホモ変異を認める症例の発症平均年齢は,より早期に発症することもあるものの,20歳から22歳である.家系内でも重症度と臨床症状は大きく異なっており,臨床転帰は修飾因子によって影響を受けることが示唆される.ウィルソン病の臨床型はMTHFR(メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼをコードする),COMMD1,ATOX1,XIAPなどの他の遺伝子変異によって修飾されることが提唱されている.いくらかの小さな相関が報告されているものの,現在までこれらのどの遺伝子にも臨床的な意義や診断または予後予測に価値は認められていない.
病名
神経型ウィルソン病はWestphal-Strumpell仮性硬化症としても知られている.
有病率
ウィルソン病の有病率はほとんどの人種で30,000人に1人と推定されている.一般人口における保因者率は90人に1人である.サルディーニャのような隔離集団においては10,000人に1人と特に頻度が高いことが最近報告されている.
このGeneReviewで記述した以外の臨床型でATP7B変異との関連が知られているものは現在ない.
肝腫大の有無にかかわらず生化学的な肝機能異常をきたす,考慮する必要のある他の肝疾患
*注: NASHが疑われる症例において,ウィルソン病は特に除外しなければならない.そうでなければ救命治療の機会を逸してしまう.
考慮するべき必要のある劇症肝炎をきたす他の肝疾患には,さまざまな病因による急性ウイルス性肝炎や重篤な薬物毒性があげられる.
カイザー-フライシャー輪はウィルソン病に特異的ではなく,きわめてまれには胆汁うっ滞性肝疾患や自己免疫性肝炎に関連した銅蓄積の際でも認められる.
正常下限程度の血清セルロプラスミン濃度それ自体は,ウィルソン病に特異的ではなく,さまざまな原因による急性肝不全や非代償性肝硬変でセルロプラスミン合成は低下しうる.
低セルロプラスミン血症は蛋白漏出性腸症,ネフローゼ症候群,栄養不良に加え,ウィルソン病の保因者でも認められる.新生児では血清セルロプラスミン濃度は生理的に低い.遺伝性セルロプラスミン欠損症では,セルロプラスミンのほぼ完全な欠損とそれによる鉄沈着を認める.
他の慢性肝疾患でも250μg/g乾重量を超える肝銅含有量の増加を認めることがある.銅はすべて胆汁を介して排泄されるため,慢性胆汁うっ滞や胆汁排泄障害を認める者においては肝銅濃度を診断に用いることはできない.
ウィルソン病とは関連しない稀な家族性/後天性銅蓄積病が知られている.これらの中で最も多いのはインド小児肝硬変である.
考慮する必要がある他の神経疾患(ジストニア概説(;GeneReviews,GeneReviewsJapanはここを参照)
初期診断後の評価
疾患の広がりと患者のニーズを把握するため,以下のような評価が推奨される.
病変に対する治療
ウィルソン病の有症状例では可及的すみやかにキレート剤による治療を開始することを目標とする.アメリカ肝臓学会(全文)とEASL臨床実践ガイドライン:ウィルソン病(全文)による概説を参照のこと.
銅キレート剤は銅の尿中排泄を増加させ,症候性ウィルソン病患者に対する第一選択の治療法である.3歳以前にキレート剤の投与をルーチンに開始すべきかについては十分に評価されておらず,成長に悪影響を与える可能性もある.
亜鉛製剤(メタロチオネイン誘導薬) 大量の経口亜鉛は,おそらく腸細胞のメタロチオネインを誘導することにより銅の吸収を阻害する.メタロチオネインは腸内容物からの銅と優先的に結合し,腸細胞の正常のターンオーバーによる剥離とともに便中に排泄される.亜鉛による治療は,キレート剤による初期治療によって体内の銅を減らした後に開始するのが最も効果的である.一部の症例では初期治療となりうる.亜鉛の錠剤を1日に少なくとも2回(通常は3回),食前に内服する.用量は錠剤中の元素亜鉛による.24時間尿中銅排泄量は減らすべき体内の銅の総蓄積量をモニターするのに用いられる.亜鉛療法中に尿中銅排泄量が増加する場合は,治療効果が不十分である可能性がある.亜鉛の用量決定にセルロプラスミン非結合銅の算定が用いられることがある.血清および尿中亜鉛濃度の測定によって,亜鉛内服の服薬状況をモニターすることができる.
注:(1)よくみられる副作用である胃炎は,酢酸亜鉛やグルコン酸亜鉛の使用によって減らすことができる.(2)さらなる臨床試験が行われるまで,亜鉛はキレート剤と同時に服用するべきではない.
抗酸化剤 ウィルソン病患者において血清および肝内のビタミンE濃度が低いことが報告されている.過剰な銅によって産生されたフリーラジカルに緩衝して働き,消費されるためと考えられている.組織損傷を防ぐため,ビタミンEのような抗酸化剤とキレート剤や亜鉛との併用も行われることがある.
銅含有量がとても多い食物の制限 レバー,脳,チョコレート,マッシュルーム,貝,甲殻類,ナッツなどは,特に治療初期には控えた方が賢明であろう.菜食主義者など特殊な食事が必要な症例では,経験のある栄養管理士に相談することを推奨する.
同所性肝移植(OLT) 内科的治療不応例もしくは重篤な副作用のため忍容性がない症例で考慮される.重度の神経症状を呈するウィルソン病において,肝移植が一次治療になりうるかは議論の余地がある.
一次性障害の予防
病状の進行を予防するため,無症候性患者に対する治療が推奨される(「病変に対する治療」の項を参照).
二次合併症の予防
治療中のモニタリングには,生化学検査や臨床評価によるルーチンの治療効果判定を含めるべきである.
定期検査
最近のガイドライン(AASLDやEASL臨床実践ガイドライン)によると,ルーチンのモニタリングには以下の検査を含めるべきである.
注:キレート剤を内服している患者では,どれだけ長期間内服していたとしても血算および尿検査を定期的に行う必要がある.
注:服薬コンプライアンスに疑問がある場合もしくは用量の調整を行う場合にはさらに頻回の測定が推奨される.
回避すべき薬物や環境
銅含有量のとても多い食物(レバー,脳,チョコレート,マッシュルーム,貝,甲殻類,ナッツ)は特に治療初期には避けるべきである.
リスクのある親族の検査
ウィルソン病発端者の同胞において,「病変の治療」の項で前述した治療を可及的速やかに開始できるように,なるべく発症前に罹患者を見つけ出すことを目標とする.以下のような検査を行うことができる.
注:発症前の症例は一般に血清セルロプラスミンは低値で基礎24時間尿中銅排泄量は軽度増加しているため,生化学的検査を用いることができる.しかし,ときに無症候性の罹患者とヘテロ保因者を区別することができない.
遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある親族への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと.
妊娠期の管理
劇症肝不全のリスクがあるため,妊娠中も治療は継続しなくてはならない.
研究中の治療法
テトラチオモリブデン酸アンモニウム(キレート剤) 腸管からの銅吸収を阻害し,血漿銅に高い親和性をもって結合する.D-ペニシラミンと異なり,治療初期の神経症状の悪化がみられないため,重症の神経型ウィルソン病の治療に有用である可能性がある.しかし,アンモニウム塩が経口製剤に適しているかは分かっていない.
テトラチオモリブデン酸コリン(キレート剤) さらに安定したテトラチオモリブデン酸塩であり,現在治験中である.
クルクミン in vitroの実験により,クルクミンはいくつかのATP7B変異の蛋白発現を部分的に保つことが示された.直接ATP7B変異の蛋白発現を高めるという新しい治療法になる可能性がある.さらには,クルクミンは理想的な抗酸化剤で,効果的な活性酸素のスカベンジャーであり,銅キレート剤として作用することもできる.しかし,ウィルソン病患者における臨床的なデータはまだない.
さまざまな疾患に関する臨床試験に関する情報はClinicalTrials.govを参照のこと.
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
ウィルソン病は常染色体劣性形式で遺伝する.
患者家族のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
発端者の他の家族
発端者の両親の同胞は,50%の確率で保因者である.
保因者(ヘテロ接合)診断
リスクある血縁者のキャリア検査を行う前に,家族内のATP7B変異の同定が必要である.
ヘテロ接合では,低セルロプラスミン血症,境界域の尿中銅,D-ペニシラミン負荷試験による尿中銅排泄の増加,肝銅含有量のわずかな増加(100-250mg/乾重量)を認めることがあるため,これらの検査で信頼性をもってキャリアと判断することはできない.
遺伝カウンセリングに関連した問題
人および小児に対する予測的検査 ウィルソン病は治療可能な疾患であるため,無症候だが疾患リスクのある成人および小児には予測的検査を提案することがのぞましい.
家族計画
DNAバンキング
DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来利用することを想定して保存しておくものである.検査技術や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解がさらに進歩すると考えられるので,DNA保存が考慮される.
出生前診断および着床前診断
ひとたび家族内でATP7B変異が同定された場合,リスク妊娠の出生前検査や着床診断は可能なオプションである.
特に早期診断ではなく妊娠中絶を考慮した検査である場合に,医療従事者や家族の間でも出生前検査に関して視点の違いが存在する可能性がある.ほとんどの施設において,出生前診断に関する決定は両親の選択によると考えるが,これらの問題に関して話し合うことがのぞましい.
Gene Review著者: Diane W Cox, PhD, FCCMG, FRSC, Eve Roberts, MD, FRCP(C)
日本語訳者: 訳者 坂本修(東北大学大学院医学系研究科発生・発達医学講座小児病態学分野)
Gene Review 最終更新日: 2006.1.24. 日本語訳最終更新日: 2008.5.1.
Gene Review著者:Karl Heintz Weiss, MD
日本語訳者: 訳者(所属) 和田宏来(県西総合病院小児科、筑波大学大学院小児科)
Gene Review 最終更新日: 2016.7.29. 日本語訳最終更新日: 2016.11.30. (in present)