Apert症候群(アペール症候群)
(Apert Syndrome)

[Synonyms:Acrocephalosyndactyly Type 1]

Gene Reviews著者: Tara L Wenger, MD, PhD, Anne V Hing, MD, and Kelly N Evans, MD.
.日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)

GeneReviews最終更新日: 2019.5.30  日本語訳最終更新日: 2023.5.28.

原文: Apert Syndrome


要約


疾患の特徴

Apert症候群は、多数の縫合にわたる頭蓋縫合早期癒合、中顔面の後退、第2-4指の爪の癒合を伴う手の合指を特徴とする疾患である。冠状縫合の早期癒合はほぼ全例で、矢状縫合やラムダ縫合の癒合も大多数の例でみられる。Apert症候群罹患者の中顔面は、後退しているだけでなく、低発達でもある。一部については口蓋裂も合併する。Apert症候群では、全例第2-4指の3本の合指がみられ、時には第1指や第5指にも合指が及ぶことがある。摂食の問題、歯の異常、難聴、多汗症、複数の骨(頭蓋骨,手,足,手根骨,足根骨,頸椎)の進行性の癒合なども多くみられる。気道閉塞を生じる位置は複数存在することがあり、原因としては、鼻腔内の気道狭窄、舌根のレベルでの気道閉塞、気管奇形など、さまざまなものがある。罹患者の大多数で非進行性の脳室拡大がみられ、ごく一部の罹患者は真性の水頭症を示す。知能については、大多数のApert症候群罹患者は正常であるが、一部、中等度から重度の知的障害を有する例が報告されている。心臓の構造異常、真性の消化器奇形、腎尿路生殖器奇形を有する例もごく一部にみられる。

診断・検査

発端者におけるApert症候群の診断は、古典的臨床症候(多縫合の頭蓋骨早期癒合症,中顔面の後退,合指)を有すること、ないし分子遺伝学的検査によるFGFR2のヘテロ接合性病的バリアントの同定に加えてApert症候群の表現型を有することをもって確定する。

臨床的マネジメント 

症状に対する治療
頭蓋顔面チームの手で管理が行われることが最も望ましい。一般的に、多縫合の頭蓋縫合早期癒合については、1歳未満の段階で外科的修復を行う必要がある。中顔面に関する顎骨前方移動術は小児期あるいは思春期に行われることが多い。口蓋形成術は、破裂音獲得前の段階を目途に行われることになろう。摂食治療が有用なことも多い。小児歯科的管理が推奨される。斜視の治療は、頭蓋縫合早期癒合症児の眼のアライメントに関する経験豊富な眼科医の手で進める必要がある。難聴に対しては、補聴器が必要になることがあろう。気道閉塞がみられる場合には、それに対する暫間処置が必要になる場合がある。睡眠時無呼吸については、外科的介入ないし鼻カニューレ経由での酸素補給が必要になることがある。合指に対して行う外科的修復の種類や施行時期は、合指が拇指に及んでいるかどうか、あるいは軟組織量の不足の程度により変わってくる。スピーチの異常や発達遅滞に対する早期介入サービスも開始する必要がある。先天性心疾患、回転異常、男性の停留精巣、水腎症、痤瘡、脊柱側彎に対する標準治療も適切な時期に開始する必要がある。

二次的合併症の予防:
頭蓋内圧が上昇すると、乳頭浮腫や高次脳機能障害を引き起こす可能性があるが、頭蓋縫合早期癒合に対して適切な時期に外科的治療を行うことで、これを予防できる可能性がある。兎眼角膜症や角膜瘢痕を予防するための潤滑用点眼剤;外科的介入を行うときは、その内容の如何を問わず、周術期の呼吸器合併症を予防するための麻酔科的評価;頸椎奇形を有する例については、脊髄損傷と神経学的後遺症の予防を目的として、脊椎に関する予防策の策定、ならびに脊椎外科医との協議といったものが必要になる。また、誤嚥性肺炎とそれに続く慢性肺疾患を予防していく上での備えが必要かどうかを判定するためには、臨床的摂食評価ないし嚥下造影検査が必要となる。

定期的追跡評価:
乳幼児期については、頭囲と大泉門の大きさの計測、ならびに頭蓋内圧亢進の評価を各診察時に;発達の進行状況に関する評価を来院のたびごとに;乳児期、小児期、思春期には頭蓋顔面チームによる評価を定期的に;歯科的チェックを6ヵ月ごとに;言語の出現後は鼻咽腔閉鎖機能不全の評価を;スピーチ障害の評価、眼科的評価、聴覚/耳科学的評価をそれぞれ少なくとも年に1度;小児期と思春期には脊柱側彎の発生に関する評価を年に1度、それぞれ行う。

避けるべき薬剤/環境:

妊娠管理 :
罹患妊婦について、

遺伝カウンセリング

Apert症候群は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。ただ、Apert症候群罹患者の大多数は、FGFR2denovoの病的バリアントに起因する例である。Apert症候群では、denovoの病的バリアントの発生に父親年齢の高まりが関係することがわかっている。罹患者が子に対して病的バリアントを伝達する可能性は50%である。家系内に存在する病的バリアントが同定されている場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前検査が可能である。


診断

Apert症候群に関するコンセンサスを得た臨床診断基準は、今のところ公表されていない。

本疾患を示唆する所見

次のような臨床症候を有する例については、Apert症候群を疑う必要がある。

頭部

多くの場合、冠状縫合は両側性に癒合が生じ、他の頭蓋縫合の癒合もさまざまな程度でみられる。

Crouzon症候群より縦方向の圧縮幅が大きい(FGFR関連頭蓋顔面早期癒合症候群」のGeneReviewを参照)。

気道

複数の位置(多レベル)で生じる気道閉塞

四肢/骨格

その外観は、時として「ミトン状の手」と呼ばれる。

拇趾は癒合する場合と癒合しない場合がある。

診断の確定

発端者におけるApert症候群の診断は、以下の2つのいずれかをもって確定する。

注:(1)アメリカ臨床遺伝ゲノム学会(ACMG)/分子病理学会(AMP)のバリアントの解釈に関するガイドラインによると、「pathogenic」のバリアントと「likelypathogenic」のバリアントとは臨床の場では同義であり、ともに診断に供しうるものであると同時に、臨床的な意思決定に使用しうるものとされている[Richardsら2015]。本セクションで「病的バリアント」と言うとき、それは、あらゆるlikelypathogenicのバリアントまでを包含するものと理解されたい。
(2)FGFR2にヘテロ接合性の意義不明バリアントが同定された場合、それは、本疾患の診断を確定するものでも否定するものでもない。

表現型の特徴からApert症候群の診断が示唆されるときの分子遺伝学的検査のアプローチとしては、単一遺伝子検査、あるいはマルチ遺伝子パネルの使用のいずれか1つが考えられる。
注:Apert症候群罹患者は、FGFR2の病的バリアントを例外なく有している。ただ、本疾患であることが確実とは言えない場合、あるいは、費用面から考えてマルチ遺伝子パネルのほうが有利であると考えられるような場合については、臨床医の判断で、症候群性の頭蓋縫合早期癒合症を生じるその他の疾患を引き起こす病的バリアントを合わせて含む標的型パネルの使用を選択することも可能である。

FGFR2の配列解析では、遺伝子内の小欠失/挿入や、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントといったものが検出される。エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複は検出されない。

現況の表現型と直接関係のない遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝的原因の特定に最もつながりやすいのは、FGFR2その他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含む頭蓋縫合早期癒合症用マルチ遺伝子パネルであるように思われる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。
遺伝学的検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。

表1:Apert症候群で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 方法 その手法で病的バリアント2が検出される発端者の割合
FGFR2 配列解析3 99%近く4,5
遺伝子標的型欠失/重複解析6 7
  1. 染色体上の座位ならびにタンパク質に関しては、表A「遺伝子とデータベース」を参照。
  2. この遺伝子で検出されているアレルバリアントの情報については、「分子遺伝学」の項を参照のこと。
  3. 配列解析を行うことで、benign、likelybenign、意義不明、likelypathogenic、pathogenicといったバリアントが検出される。バリアントの種類としては、遺伝子内の小欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントなどがあるが、通常、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複については検出されない。配列解析の結果の解釈に際して留意すべき事項についてはこちらをクリック。
  4. Parkら[1995],Wilkieら[1995],Oldridgeら[1997],Lajeunieら[1999]
  5. 多くみられる反復性の病的バリアントとしては、次のようないくつかのものがある。p.Ser252Trp(62%-71%),p.Pro253Arg(26%-33%),p.Ser252Phe(1%-3%)
  6. 遺伝子標的型欠失/重複解析では、遺伝子内の欠失や重複が検出される。
  7. 具体的手法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、あるいは単一エクソンの欠失/重複の検出を目的に設計された遺伝子標的型マイクロアレイなど、さまざまなものがある。

  8. Oldridgeら[1999],Bochukovaら[2009],Fenwickら[2011]

臨床的特徴

臨床像

Apert症候群は、他のFGFR2関連頭蓋縫合早期癒合症候群と臨床症候に大きな重なり(例えば、頭蓋縫合早期癒合,中顔面の後退,癒合椎)がみられる疾患である。Apert症候群は、大多数の罹患者については、合指がみられることをもとに、出生時あるいは出生前の段階で、症候群性の頭蓋縫合早期癒合を呈する他の症候群(例えば、Crouzon症候群,Pfeiffer症候群,Jackson-Weiss症候群,Beare-Stevenson症候群)と容易に鑑別が可能である。ただ、その他にも、治療上あるいは追跡評価上、重要な意味をもつ独自の症候がいくつか存在する(「臨床的マネジメント」の項を参照)。

頭蓋縫合早期癒合症

頭蓋縫合の早期癒合は、Apert症候群のほぼ全例でみられる所見ではあるが、他の特徴的症候(例えば中顔面の後退や合指趾)はみられるものの頭蓋縫合の早期癒合はみられないといった例が一部報告されている。Apert症候群乳児の大多数は、出生の段階で1つ以上の頭蓋縫合に早期癒合を有するが、その後、もともと早期癒合のなかった縫合にも進行性の癒合が現れる場合がある。一般に、頭蓋の主要な縫合は成人期まで癒合することがないものの、Apert症候群については、通常、骨の癒合が進行性に生じる。こうしたことから、Apert症候群の診断を受けた段階で頭蓋縫合の早期癒合なしと報告された子どもたちについても、その後、頭蓋縫合の早期癒合をきたすようになることが考えられるが、そのあたりのことはまだよくわかっていない。
早期癒合を生じる縫合によっても変わってくるが、大多数のApert症候群罹患児について言うと、大泉門は大きく、かつ前頭部に位置しているかのように前方へ転位している[Cohen&Kreiborg1996]。癒合をきたす縫合として最も多いものは、以下の通りである。

ただし、多くの罹患児は多縫合あるいは全縫合にわたる早期癒合を呈し、クローバー葉頭蓋をきたす。

中顔面の後退

Crouzon症候群については、中顔面の形成そのものに異常はみられず、位置的に後退しているだけであるのに対し、Apert症候群の場合、中顔面は低発達であると同時に後退もみられる。Apert症候群の場合は、上顎骨の高さがより強く短縮した形で縦方向の沈み込みがみられ、Crouzon症候群よりむしろPfeiffer症候群に類似している。中顔面の低発達は、眼窩の奥行きの減少、ならびに眼瞼裂斜下という形で現れることになる。また、上顎の構造が低発達となることに起因して咬合異常が生じ、見た目が相対的下顎前突となる[Cohen&Kreiborg1996]。

口蓋の異常

高口蓋あるいは口蓋裂が生じることがある。口蓋裂は、Apert症候群ではしばしばみられるが、Crouzon症候群で現れることは稀である[Cohen&Kreiborg1996]。

摂食の問題

Apert症候群の子どもには摂食の問題が多くみられ、その原因は数多くある。口蓋の異常により吸引力を発生させることが難しくなり、十分な量の哺乳が難しくなる。
後鼻孔あるいは鼻甲介の狭窄により呼吸窮迫が生じる場合があるが、時にこれが原発性の哺乳障害と誤って捉えられることがある。この場合、乳児はしばしば、数回吸啜した後、口呼吸を行うために乳首から口を放すことになる。摂食の問題の背景として呼吸が原発性の原因として係わっている乳児は、一般に、鼻呼吸が難しく、またその他にも上気道閉塞を窺わせる徴候をいくつか有する。
Apert症候群の子どもは、消化器系の問題に関するリスクを有し(後の「消化器系の問題」の項を参照)、これにより嘔吐が生じるようなことがあるものの、通常、哺乳瓶や乳房から取り込んだミルクの移行に問題が生じるようなことはない。Apert症候群の子どもで摂食障害を有する例については、その多くが外科的介入(例えば、後鼻孔閉鎖/狭窄の修復術や胃瘻造設術)を必要とする。
誤嚥の確認を目的として、全乳児に対し、臨床摂食評価ないし嚥下造影検査を行う必要がある(「臨床的マネジメント」の項を参照)。誤嚥がみられる場合には、誤嚥性肺炎、肺臓炎、慢性肺疾患の予防を目的とした措置(例えば、とろみをつけた食餌にすること、経口摂取の制限)を講じる必要がある

歯の異常

Apert症候群の子どもは、しばしば、矯正歯科治療や口腔顎顔面外科手術での対応を要するような歯の異常を有する。歯の無発生(通常は上顎犬歯)やエナメル斑が、Apert症候群の子どもの40%超にみられる。上顎第一大臼歯の異所萌出や口蓋側方の膨隆も多くみられる。その他の矯正歯科的異常としては、歯の萌出遅延、無歯症、歯の叢生、顎間咬合関係の異常などがある。異常は、乳歯にも永久歯にもみられる[Nurko&Quinones2004,Dalbenら2006]。

眼の異常

Apert症候群における外見上の眼の特徴は、眼瞼裂斜下である。眼が目立つ背景として、通常、両側性の冠状縫合早期癒合と上顎骨の低発達の両方が組み合わさる形で関与している。その他の主たる眼科的異常としては、次のようなものがある。

時の経過とともに現れる続発性の眼科的所見としては、兎眼角膜症と角膜瘢痕(8%)、ならびに視神経萎縮(8%)がある。こうした続発性のものは、閉瞼不全や頭蓋内圧亢進に関し、監視や治療を積極的に行うことで予防できる可能性がある[Khongら2006b]。

難聴/内耳奇形

難聴が多くみられ(80%)、通常は伝音性である。その原因は、中耳疾患、耳小骨の異常、外耳道の狭窄あるいは閉鎖である[Agochukwuら2014]。
半規管の異常が罹患者の70%にみられる。

多レベルでの気道閉塞

Apert症候群罹患者は、気道内の複数部位に異常を有する場合がある[Cohen&Kreiborg1992,Cohen&Kreiborg1996,Wengerら2017]。

口蓋裂を有する子どもでは、隠れていた咽頭レベルでの閉塞が口蓋形成術により初めて表面化し、閉塞性睡眠時無呼吸が悪化する結果となるようなこともある。

合指趾

Apert症候群では、手は例外なく中央3本の指が癒合し、場合によっては拇指や第5指も癒合することがある。
第3-4指の爪は、多くの場合、癒合して1つの爪となる(合爪;synonychia)。足のほうは、外側の3本の趾、第2-5趾、全足趾といった合趾のパターンを示す。一般に、合指趾は、足よりも手のほうに強く現れる。足趾については合爪の報告はみられない[Uptonら1991,Cohen&Kreiborg1995,Wilkieら1995]。

四肢のその他の奇形

その他、Apert症候群でみられる比較的出現頻度の低い四肢奇形としては、次のようなものがある[Maroteaux&Fonfria1987,Sidhu&Deshmukh1988,Gorlin1989,Lefortら1992,Cohen&Kreiborg1995,Mantilla-Capachoら2005]。

癒合椎

Apert症候群罹患者の68%に頸椎の癒合がみられる。そのうち最も多いのは、C5-C6の癒合である。癒合を有する例の約50%は1ヵ所の癒合で、残りの50%は複数箇所の癒合である。癒合の頻度や部位は、Crouzon症候群とは様相を異にしている。Crouzon症候群の場合、癒合椎を有するのは全体の25%で、そのうち最も多いのはC2-C3の癒合である。癒合椎、あるいは癒合に伴う異常が生じた場合には、結果として脊柱側彎が生じる可能性がある[Kreiborgら1992]。その他の頸椎の奇形としては、環軸関節亜脱臼(7%)、C1の潜在性二分脊椎(7%)などがある[Breikら2016]。

進行性骨癒合症

頭蓋骨、手足の骨、手根骨、足根骨、頸椎など、いくつかの骨が進行性に癒合していくことがある[Schauerte&St-Aubin1966]。
肩関節形成不全に起因する肩の可動制限により、機能障害が生じる場合がある。これは、上腕の前屈域や外転域が減少していくに従って進行していく傾向がみられ、その結果、Apert症候群罹患者は次第に「頭上の」作業をこなすことが難しくなっていく[McHughら2007,Murnaghanら2007]。
Apert症候群の子どもは、足に進行性の変形が生じて、歩行時の痛みや歩行困難をきたすようなことがある。経時的に第1中足骨は相対的に短小化し、その結果、荷重負担機能が徐々に第1中足骨から第2中足骨へとシフトし、拇趾は次第に短小化と屈曲の度を増していく。体重負荷が側方に偏ることで胼胝が形成され、疼痛や、日常生活の制限につながることになる。罹患者にぴったりフィットする履き物を見つけることは困難な状況である[Calisら2016]。

神経

罹患者の93%に頸静脈孔狭窄がみられる。
Apert症候群罹患者の約60%に非進行性脳室拡大が、6%-13%に水頭症がみられる。
・脳室拡大は、安定な状態であれば特段の外科的介入を要しない。
・進行性の脳室拡大は水頭症の存在を示すものである可能性があり、そうした場合は、内視鏡下での第三脳室開口術や脳室腹腔シャントに向けた評価を要する場合がある。
Apert症候群でみられる構造的脳奇形には、次のようなものがある[Cohen&Kreiborg1990,Cinalliら1995,Renierら1996,Quitero-Riveraら2006,Tan&Mankad2018]。

注:Apert症候群で小脳扁桃ヘルニアがみられるのは2%に過ぎないが、Crouzon症候群では73%にこれがみられる。

神経発達

Apert症候群罹患者の大多数は、知能については正常か、軽度の知的障害を示す。ただ、一部には中等度から重度の知的障害を有する例も報告されている[Renierら1996,Davidら2016,Fernandesら2016]。予期されることではあるが、家庭内で養育されたApert症候群の子どものほうが、入院管理がなされた子どもより認知機能が良好であった[Pattonら1988,Cohen&Kreiborg1990,Renierら1996]。今日では、Apert症候群をもって生まれた子どもの神経発達は、以前の報告よりかなり良くなってきているように思われる。それは、外科的、内科的管理法が進歩するとともに、早期介入プログラムへの子どもたちのアクセスも改善してきているからである。
知的障害に関して高リスクとなる要因としては、以下のようなものがある。

心血管系

Apert症候群罹患者の約10%は、心臓の構造異常を有する。そのうち最も多いのは、心室中隔欠損と大動脈騎乗であるが、中に複雑心異常を有する子どもの報告もみられる。複雑心異常を有する子どもは、心臓の構造異常を有しない子どもに比べ、早期に死亡するリスクが高い[Cohen&Kreiborg1993]。

消化器系の問題

Apert症候群においては、さまざまな理由で摂食障害が生じる可能性があり、経鼻胃管や胃管の留置が必要になる場合がある。
Apert症候群罹患者15人中1人に腸回転異常がみられたとする1研究がみられるものの、この1例以外の罹患者に回転異常(上部消化管)に関する正式な放射線的評価が行われたか否かは定かではなく、したがって、実際の頻度は、報告された数値より高い可能性がある[Hibberdら2016]。遠位食道狭窄の報告もみられる[Pelzら1994]。
Apert症候群で報告されているその他の消化器系奇形には次のようなものがある。

腎尿路生殖器系

Apert症候群の子どもの9.6%に腎尿路生殖器の奇形がみられ、そのうち最も多いのは水腎症と停留精巣である。FGFR2の生殖細胞系列の病的バリアントに起因してApert症候群が生じた子どもで、膀胱の低異型度乳頭状尿路上皮癌のみられた1例が報告されているが、この例についてはFGFR3の体細胞性のバリアント(このタイプの癌はこれに起因することがある)は検出されなかった。1例のみの報告でもあり、これがApert症候群の表現型を構成するものであるか否かは不明である[Cohen&Kreiborg1993,Andreouら2006]。

皮膚の変化

Apert症候群では、多汗症が例外なくみられる。Apert症候群の成人は、通常、思春期に脂性肌が発症し、顔・胸・背・上腕など広範囲にわたって痤瘡様病変がみられる。また一部に、前額部の過剰な皺形成を示す例もみられる[Cohen&Kreiborg1995]。爪ジストロフィーも多くみられる[BissacottiSteglichら2016]。

成人

さまざまな学歴・職業の人が報告されている。Apert症候群の成人は、非罹患者の対照、あるいはCrouzon症候群罹患者と比較して、社会性の発達や人間関係の構築に、より大きな問題を抱えているように思われる[Tovetjärnら2012,Davidら2016,Lloydら2016]。

遺伝型と表現型の相関

Apert症候群の遺伝型-表現型相関に関する報告には幅がみられ、一部に明確な相関なしとする報告もみられる[Parkら1995]。

このバリアントを有する例については、口蓋裂がより多くみられるとの報告がみられる。
Apert症候群でみられるその他の症候については、遺伝型によって変わってくるようなことはないとされている[Slaneyら1996,Lajeunieら1999]。

疾患名について

Apert症候群は、尖頭合指症Ⅰ型とも呼ばれる。

発生頻度

Apert症候群の出生時発生頻度は、生産児80,000人に1人から160,000人に1人の間と推定されている[Cohenら1992,Tolarovaら1997]。60歳超の父親の精子ではバリアントの数が最大になることから、父親年齢の高まりに伴い、発生頻度が高まる可能性が考えられる[Glaserら2003]。


遺伝学的に関連のある疾患(同一アレル疾患)

FGFR2の生殖細胞系列の病的バリアントに起因して生じるその他の表現型を表2aと2bにまとめて示した。表2aに示した疾患は、表現型の上でApert症候群と重なる症候を有しているため、鑑別診断においても検討を要する疾患である

表2a:Apert症候群との鑑別診断を検討すべき同一アレル疾患

同一アレル疾患 遺伝形式 同一アレル疾患でみられる症候
「古典的」Apert症候群と共通するもの Apert症候群ではみられないもの
FGFR2関連Antley-Bixler症候群1_ AD
  • 頭蓋縫合早期癒合(冠状縫合とラムダ縫合)
  • 前額部の突出を伴う短頭塔状頭蓋
  • 眼球突出
  • 眼瞼裂斜下
  • 橈骨と上腕骨の骨癒合
  • 低い鼻梁
  • 低位で突出した耳
  • 尺骨の内側への彎曲
  • 大腿骨の彎曲
  • 細い手足
  • 近位指節間関節の拘縮
  • 骨折
  • 骨年齢の亢進
  • 先天性心疾患
  • 腎奇形
  • 女性器の異常
  • 先天性副腎過形成の徴候
Beare-Stevenson症候群2 AD ・頭蓋縫合早期癒合(冠状縫合に最も多くみられる)
・中顔面の低形成
  • 出生歯
  • 幽門狭窄
  • 掌蹠の皺形成
  • 広範囲の脳回状皮膚
  • 黒色表皮腫
  • スキンタッグ
  • 突出した臍
  • 副乳
  • 二分陰嚢
  • 突出した会陰縫線
  • 皺のある大陰唇
Crouzon症候群2_ AD
  • 頭蓋縫合早期癒合(多縫合,冠状縫合が最も多い)
  • 短頭塔状頭蓋
  • 上顎骨低形成
  • 閉塞性睡眠時無呼吸
  • Trachealcartilaginoussleeve
  • 眼間開離
  • 眼球突出
  • 乳頭浮腫
  • 斜視
  • 外耳道閉鎖
  • 伝音性難聴
  • 水頭症
  • 頸椎癒合
  • ChiariⅠ型奇形がより高頻度にみられる
  • ・中顔面の後退はみられるものの、縦方向の圧縮幅はより小さい
Jackson-Weiss症候群2 AD
  • 頭蓋縫合早期癒合(冠状縫合が最も多い)
  • 上顎骨低形成
  • 閉塞性睡眠時無呼吸
  • 眼間開離
  • 眼球突出
  • 斜視
X線写真で確認される以下のような足の異常:
  • 足根骨,中足骨の癒合
  • 2-3趾の合趾
  • 幅広で内側に偏位した拇趾
  • 短い第1中足骨
  • 幅広の基節骨
Pfeiffer症候群1型,2型,3型 AD
  • 頭蓋縫合早期癒合(多縫合に生じ、冠状縫合が最も多い)
  • 短頭塔状頭蓋
  • 上顎骨低形成
  • 閉塞性睡眠時無呼吸
  • Trachealcartilaginoussleeve
  • 眼間開離
  • 眼球突出
  • 乳頭浮腫
  • 斜視
  • 眼瞼裂斜下
  • 外耳道閉鎖
  • 伝音性難聴
  • 水頭症
  • 頸椎癒合
  • 橈骨と上腕骨の骨癒合
  • ChiariⅠ型奇形がより高頻度にみられる
  • 幅広で偏位した拇指趾
  • 短指趾
FGFR2関連Saethre-Chotzen症候群3 AD
  • 頭蓋縫合早期癒合(片側性あるいは両側性の冠状縫合の癒合)
  • 短頭塔状頭蓋
  • 上顎骨低形成
  • 閉塞性睡眠時無呼吸
  • 高口蓋
  • 眼間開離
  • 眼瞼裂斜下
  • 難聴
  • 眼瞼下垂
  • 顔面非対称
  • 低い前頭部毛髪線
  • 頭頂孔
  • 特徴的な耳(目立つ耳輪脚を伴う小さな耳介)
  • 第2-3指の皮膚性合指
  • 拇趾末節骨の重複
AD=常染色体顕性

Saethre-Chotzen症候群は、通常、TWIST1の変異に起因して生じる。ただ、Saethre-Chotzen症候群の表現型を呈し、TWIST1の配列解析で異常がみられなかった1家系で、FGFR2の病的バリアントが検出された例が存在する[Freitasら2006]。

表2b:その他の同一アレル疾患(Apert症候群との鑑別診断の対象にならないもの)

表現型 参考文献(GeneReview,OMIM,あるいは引用文献)
彎曲骨異形成症 OMIM614592
頭蓋顔面-骨格-皮膚異形成症 OMIM101600(訳注:Pfeiffer症候群の中の1つの型)
FGFR2関連単発性冠状縫合癒合症 FGFR2関連頭蓋縫合早期癒合症候群概説」のGeneReview
涙-耳-歯-皮膚(LADD)症候群 OMIM149730
肘関節拘縮を伴う症候群性頭蓋縫合早期癒合症 Akaiら2006
舟状頭蓋,上顎骨後退,知的障害 OMIM609579

Apert症候群の所見を伴うことなく単発性の腫瘍の形で現れる孤発性腫瘍(胃癌など)の中に、FGFR2のバリアントを体細胞性に有している(生殖細胞系列にみられるわけではない)ものがしばしばみられる。こうした場合、これらの腫瘍に関する素因が継承されるわけではない。
詳細については、「癌ならびに良性腫瘍」の項を参照されたい。


鑑別診断

多縫合にわたる早期癒合を有する子どもの大多数は、症候群性の頭蓋縫合早期癒合症の中のどれかを有しているはずである。Apert症候群について言うと、その大多数が、特徴的な頭蓋顔面症候や手足の奇形の状態をもとに臨床診断が可能である。それでも、正確な診断を確定させることは、スクリーニング、追跡管理、医療的管理、遺伝カウンセリングなどを進めていく上で重要な意味をもつ(「臨床的マネジメント」ならびに「遺伝カウンセリング」の項を参照)。

Apert症候群との鑑別診断を検討すべき代表的な症候群としては、表2aに挙げた同一アレル疾患(FGFR2関連Antley-Bixler症候群,Beare-Stevenson症候群,Crouzon症候群,Jackson-Weiss症候群,Pfeiffer症候群1型,2型,3型,FGFR2関連Saethre-Chotzen症候群)、ならびに表3に挙げた代表的症候群がある。

表3:Apert症候群との鑑別を検討すべきアレルを異にする頭蓋縫合早期癒合症候群

遺伝子 疾患名 遺伝形式 鑑別対象疾患でみられる症候
「古典型」Apert症候群と重なる症候 Apert症候群ではみられない症候
POR POR関連Antley-Bixler症候群 1 AR 表2a参照 表2a参照
RAB23 Carpenter症候群 AD
  • 頭蓋縫合早期癒合(多縫合,冠状縫合が最も多い)
  • 短頭塔状頭蓋
  • 上顎骨低形成
  • 閉塞性睡眠時無呼吸
  • 眼間開離
  • 眼球突出
合指趾を伴わない短指趾
FGFR3 Muenke症候群 AD
  • 頭蓋縫合早期癒合(片側性あるいは両側性の冠状縫合の癒合)
  • 軽度の上顎骨低形成
  • 眼瞼裂斜下
  • 頸椎癒合
  • 感音性難聴
  • 短指趾
  • 手根骨-足根骨の癒合
  • 手根骨の分離異常
  • 円錐形骨端
FGFR1 FGFR1関連Pfeiffer症候群1型,2型,3型 2 AD 表2a参照 表2a参照
TWIST1 TWIST1関連Saethre-Chotzen症候群3 AD 表2a参照 表2a参照

AD=常染色体顕性;AR=常染色体潜性

  1. Antley-Bixler症候群は、FGFR2もしくはPORの変異に起因して生じる。
  2. Pfeiffer症候群は、FGFR1もしくはFGFR2の変異に起因して生じる。 「FGFR関連頭蓋縫合早期癒合症候群」のGeneReviewを参照
  3. Saethre-Chotzen症候群は、通常、TWIST1の変異に起因して生じる。ただ、Saethre-Chotzen症候群の表現型を呈し、TWIST1の配列解析で異常がみられなかった1家系で、FGFR2の病的バリアントが検出された例が存在する[Freitasら2006]。

臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

Apert症候群と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、すでに実施済ということでなければ、表4にまとめたような評価を行うことが推奨される。

表4:Apert症候群罹患者の最初の診断後に行うことが推奨される評価

系/懸念事項 評価 コメント
頭蓋顔面 口蓋裂,耳の奇形,顔の形,大泉門,縫合部の稜,頭蓋底の対称性を調べるための身体の診査  
小児眼科医による診察1 眼表面,眼のアライメント,視神経の評価を含むものとする。
耳特異的な聴力評価  
呼吸器 気道症候に関する評価(いびき,喘鳴,無呼吸,呼吸窮迫)  
終夜睡眠ポリグラフ検査(睡眠検査) 睡眠時無呼吸の存否と程度を調べることを目的として行う2。
耳鼻咽喉科医と睡眠医学の専門医による診察を検討 気道内視鏡検査(ベッドサイド軟性内視鏡検査,喉頭鏡検査,気管支鏡検査)を行うことで、気道狭窄のタイプや程度の特定に役立つ場合がある3。
心血管 心評価 心雑音がある場合、あるいは臨床的に心臓に関する懸念がある場合は、心エコー。
消化器 症状のある時、あるいは胃瘻管造設に向けた術前評価の際は、小腸を含めた上部消化管の診査 腸回転異常の評価を目的として行う。
腎尿路生殖器 男性について、停留精巣の評価 泌尿器科医へ紹介。
腎超音波検査 水腎症に関する評価を目的として行う。
筋骨格 頭部/頭蓋/縫合のCT CTの3D再構成により、縫合の病変の程度が明らかとなり、術前の計画立案に役立つ。
脊椎の癒合や不安定性を評価するための頸椎の画像診断 頭蓋の手術に先立って頸椎のCT;あるいは、2歳以降(脊椎が骨化した時点)でX線写真撮影。
合指の範囲を評価するための手のX線写真。
合指は多くの場合、骨性合指、指節癒合の状態を示す。
手の外科医による診察。
神経 水頭症や中枢神経系奇形に関する評価を目的としたCTあるいはMRI 水頭症やChiari奇形が懸念される場合は、脳のMRIを検討する。
その他 発達障害に関する評価 神経発達専門医/早期介入サービスへの紹介を検討する。
臨床遺伝医や遺伝カウンセラーとの面談 再発リスクに関するカウンセリングを含むものとする。
  1. 眼科医による管理の目標は、弱視の早期発見と管理、視神経萎縮が現れる前の段階で適期に減圧術を勧めること、ならびに角膜の保護といったことである[Khongら2006a]。
  2. Inversoら[2016]
  3. Doergaら[2016]

症候に対する治療

表5:Apert症候群罹患者の症候に対する治療

症候/懸念事項 治療 考慮事項/その他
頭蓋縫合早期癒合 頭蓋の多縫合の早期癒合については、一般に満1歳未満の段階で手術を行う必要がある1,2,3,4 患児の解剖学的状態、頭蓋内圧亢進のリスク、呼吸状態等を勘案して時期を決定する5
中顔面の後退 中顔面の前方移動術 通常、小児期あるいは思春期に行う6,7
口蓋裂 口蓋形成術は、通常、破裂音発達前の段階で行う。 スピーチの産生や明瞭度の改善を目的として行う。
摂食/嚥下障害8 摂食治療。
これは、嚥下の安全性を評価したり、経口摂取を支援したりする上で有用である。
 
頭蓋顔面チームが協調して行うケアの一環としての頭蓋顔面矯正歯科医による小児歯科的ケアと評価 口腔顔面への介入の種類や時期を決定する上で、矯正歯科医は重要な役割を果たす。
斜視 斜視の治療は、頭蓋縫合早期癒合症の子どもの眼のアライメントに関し経験豊富な眼科医の手で進める必要がある。 弱視は、視力障害の大きな一因となる。
難聴 鼓膜チューブ挿入術 慢性の中耳滲出液がみられる場合に行う。
補聴器、骨導振動子、鼓室形成術、外耳道閉鎖/狭窄修復術 聴力を最適に誘導することで言語やコミュニケーションの発達が促進される。
気道閉塞 乳幼児や小児については、気道障害の可能性を認識し、先手先手で気道管理を行うことが決定的に重要である。 Apert症候群における気道管理の内容は、気道閉塞の位置と重症度により変わってくる。
気道閉塞に対する暫間的バイパス作製:
  • 鼻腔内へのステント留置
  • 気管内挿管
  • 気管切開
気管切開が必要な乳幼児や小児については、ガス交換の正常化、正常な睡眠や成長の確保といった観点から、陽圧換気が必要になることもあろう9
睡眠時無呼吸 外科的介入(アデノイド切除術,鼻腔の気道確保処置,気管切開)が有用なことが多い。 中顔面に加わる圧力により中顔面の後退が悪化することから、睡眠時無呼吸の治療にCPAP/BiPAPを長期使用することは可能な限り避けるようにする。
鼻カニューレによる酸素補給が有効な場合がある。 睡眠時無呼吸の軽減、睡眠の質の改善といったことにより、学習、認知、行動面での改善が得られることがある。
先天性心疾患 心臓病専門医による標準治療  
腸回転異常 外科医による標準治療  
男性の停留精巣,水腎症 泌尿器科医による標準治療  
合指趾 手術の種類や実施時期は、拇指に合指があるかどうかや、軟組織の不足量によって変わってくる。 共通目標:最小回数の手術で手足の機能を改善すること。
治療は、前期相(合指趾の解放)と後期相(機能回復のための骨切り術)に分けられる10,11 大多数の罹患者については、小児期を通じて複数回の処置や見直しが必要となる12
脊柱側彎 整形外科医による標準治療  
スピーチの異常8 言語治療を主導できるだけの頭蓋顔面領域の専門知識を有する言語治療士によるスピーチの評価  
発達障害 早期介入サービス 発達小児科医や神経発達の専門医の診察を検討する。
痤瘡 標準治療法が奏功しない難治性痤瘡に対しては、イソトレチノインの経口投与を検討する13 経口イソトレチノインはヒト催奇形物質であることが知られている。
そのため、妊娠年齢の女性については、2種類の避妊法を使用し、かつ妊娠検査を毎月行わない限り、これを処方することはできない。
情動や行動の問題 小児期を通じて、心理社会的評価とメンタルヘルスに関する支援を行う14 仲間からいじめやからかいを受ける可能性を認識し、それに対する対応を行う。
  1. 頭蓋形成術は、縫合の癒合を解除して頭蓋冠の再位置づけと再建を行って、頭蓋内圧亢進の予防と、異常な頭蓋顔面発達の進行抑制につなげることを目的として行う。
  2. 具体的な手法としては、現在、内視鏡下帯状頭蓋骨切除術、後方部で骨延長術を施行することによる前方移動、従来型の頭蓋形成術など、いくつかの手法が用いられている。
  3. 頭蓋内圧を減少させるため手術は早期に行われるが、Apert症候群の幼い乳児には予備能がほとんどない場合がある。手術をもっと遅らせたほうが、骨位置の修正という点では安定した結果が得られる傾向にある[Taylor&Bartlett2016]。
  4. 頭蓋内容積の増大や脳の保護を目的としたアプローチを段階的に進めるやり方が、しばしば模索されている。Apert症候群で両側の冠状縫合早期癒合を伴う例の大多数については、前頭眼窩拡大術が有効であろう。
  5. 頭蓋顔面外科手術の目標は、脳の発達に十分な頭蓋内容積を確保するとともに、頭蓋骨の形態的改善を図ることにある。外科的介入の実施時期や順序は、患者の有する機能的、審美的、心理的ニーズによって変わってくることになる[McCarthyら2012]。
  6. 顎外科手術の実施時期は、罹患者の咬合状態、ならびに気道閉塞の程度を基準に決められることになる。
  7. Apert症候群の年長の小児について言うと、LeFortⅢ型の骨延長を行うやり方よりも、LeFortⅡ型の骨延長と同時に頰骨の移動を加えるやり方のほうが、顔面や眼窩の位置関係の改善が得られやすい[Hopperら2013]。
  8. Apert症候群罹患者は、構音、共鳴、言語発達、声質、摂食、嚥下といった分野に障害がみられることがある。
  9. Trachealcartilaginoussleeveが形成された患者の気管チューブの設置や管理にあたっては、組織の治癒異常や肉芽組織の形成が考えられることから、細心の注意を払って行うことが求められる[Wengerら2017]。
  10. Fearon[2003]
  11. 複雑性合指趾の子どもについて、より良好な審美的成果が得られる新たな手法が、最近、報告されている[Lohmeyerら2016]。
  12. Pettitら[2017]
  13. 標準治療よりもイソトレチノインの経口投与のほうが有効であるとするデータが存在する。また、アンドロゲンやFGFR2関連シグナル伝達の調節に関してイソトレチノインが一定の役割を果たしていることを示す生物モデルのデータが存在する[Melnikら2009]。
  14. 問題の分野としては、両親や家族の情緒的、社会的、経済的ニーズ、罹患児の神経認知機能の発達や教育に関するニーズ、ケアの障壁となりうるものの存在といったものが示唆されている[McCarthyら2012]。

発達遅滞/知的障害の管理に関する事項

以下に述べる内容は、アメリカにおける発達遅滞者、知的障害者の管理に関する一般的推奨事項を挙げたものである。ただ、そうした標準的推奨事項は、国ごとに異なったものになることもあろう。

03
作業療法、理学療法、言語治療、摂食治療といったものが受けられるよう、早期介入プログラムへの紹介が推奨される。早期介入プログラムは、アメリカでは連邦政府が費用を負担して行われる制度で、すべての州で利用可能である。

35
アメリカでは、地域の公立学区(訳注:ここで言う「学区」というのは、地理的な範囲を指す言葉ではなく、教育行政単位を指す言葉である)を通じて発達保育園に入ることが推奨される。入園前には、必要なサービスや治療の内容を決定するために必要な評価が行われ、その上で個別教育計画(IEP)が策定される。

521

全年齢
各地域、州、教育機関が適切な形で関与できるよう、そして、良好な生活の質を最大限確保する支援を親に対してできるよう、発達小児科医とよく話をすることが推奨される。
罹患者個々のニーズに応じ、個別の支援療法を検討することが望ましい。具体的にどのような種類の治療が推奨されるかという点については、発達小児科医が策定することになろう。
アメリカにおいては、

DDAは、認定を受けた罹患者に対してサービスや支援を提供する公的機関である。認定要件は州により異なるものの、ふつう、診断名ないし疾患に伴う認知障害・適応障害の程度に従って認定の決定が行われる。

運動機能障害

粗大運動ならびに微細運動機能障害
Apert症候群罹患児は、摂食、身だしなみ、着替え、筆記などの機能に手をうまく用いることができない。手の外科手術の目標は、指を分離することで手の機能を回復させることにある。Apert症候群罹患児の多くは、多合指や合指に伴って、手の機能を最大限に引き出すための治療が必要となる。大多数の例では手の外科手術が複数回にわたって行われ、その前後に、機能を最大限に引き出すための理学療法や作業療法が行われる。こうしたサービスを理学療法の場で行うか、作業療法の場で行うか、両者を組み合わせる形で行うかといった点に関しては、地域によってばらつきがみられる。

口腔運動機能障害
罹患者が、口からの摂食を安全に行える状況にあるということが前提ではあるが、口腔機能の制御がうまくいかないために摂食が困難であるという場合には、通常、作業療法士あるいは言語聴覚士が担当する形で行う摂食治療が推奨される。Apert症候群については、摂食障害は上気道閉塞の悪化を示すサインであることが多いので、治療を担当する者は、頭蓋顔面チームとコミュニケーションを取り合って、外科的介入を要する状況ではないことをいつも確認しておく必要がある。

成人
心理社会的支援や全体的移行計画(成人のケアへの移行計画)をはじめとする包括的ケアを、頭蓋顔面の専門医療機関の手で提供するよう計らうことで、Apert症候群の成人の生活の質が改善することが考えられる。

二次的合併症の予防

表6:Apert症候群罹患者に現れる二次的症候の予防

系/懸念事項 予防法 考慮事項/その他
乳頭浮腫/高次脳機能障害 頭蓋縫合早期癒合症の外科的治療を適期に行うこと  
兎眼角膜症,ならびに眼球突出に伴う角膜瘢痕 眼の潤滑剤 視力障害の防止と軽減を目的として、眼表面、アライメント、視力に関するモニタリングが推奨される。
周術期の呼吸器合併症1 気道に問題がある可能性のある例については、外科手術前に常に麻酔評価を行うことで、コミュニケーションや手術成果の改善につながることがある。 Apert症候群の例では、麻酔関連のリスクがより高まることになる2。
誤嚥性肺炎とそれに続く慢性肺疾患 誤嚥に対する予防的対策(例えば、とろみをつけた食餌,経口摂取の制限) 誤嚥リスクの判定に、臨床的摂食評価ないし嚥下造影検査が有用な場合がある。
脊髄損傷と神経学的続発症
  • 脊髄損傷の予防に関する絶え間ない警戒
  • 脊椎を専門とする外科医と協議を行うことで、手術や麻酔に先立ち、注意事項や患者の位置づけ方の指針が得られることにつながる。
頸椎奇形を有する例について

1.最も多くみられるのは、上気道閉塞(6.1%)である[Barnettら2011]。
2.麻酔中の合併症については、上気道閉塞が最も多くみられるものの、下気道に生じた合併症の報告もみられる[Elwoodら2001]。

定期的追跡評価

必要な専門職で構成される頭蓋顔面チームであれば、治療の計画や調整が適切に機能し、考えうる最良のケアを罹患者が受けられることにつながる[McCarthyら2012]。
Apert症候群罹患児のケアを担う多職種チームの構成は、以下のような専門医療職となるのが理想的である。

表7:Apert症候群罹患者で推奨される定期的追跡評価

系/懸念事項 評価 実施頻度
口腔咽頭 鼻咽腔閉鎖機能不全に関する評価1,2 言語出現後
言語障害に関するモニタリングを目的とした言語評価 最低限年に1度
齲蝕の低減と口腔の健康維持を目的とした歯科主治医による評価3 6ヵ月ごと
視力,眼のアライメント,視神経を診るための散瞳眼底検査などの眼科的評価4 年に1度
聴覚的,耳科学的評価 最低限年に1度
筋骨格 脊椎外科医による推奨がある場合は、臨床的診査ならびに脊椎のX線写真のチェックを通じ、脊柱側彎の発生状況に関するモニタリングを行う。 小児期ならびに思春期に年に1度
神経 進行性の水頭症に関するモニタリングを目的とした頭囲(必要な例については大泉門のサイズも)の測定 乳幼児期について、来院ごと
頭蓋内圧亢進に関する評価5,6
頭蓋顔面チームによる評価 乳児期、小児期、思春期を中心に定期的に
発達/認知 発達の進行状況に関する評価 来院ごと
  1. 口蓋裂を有する例について行う。
  2. 顎矯正手術や気道の処置によっても、鼻咽腔機能に変化が生じることがある。
  3. 頭蓋顔面の専門知識を有する矯正歯科医による追跡評価を混合歯列期以降に行うことで矯正歯科治療や顎矯正手術の計画立案に資することになる。
  4. 多縫合の早期癒合を有する例については、頭蓋減圧術の前後に乳頭浮腫が生じる場合がある[Banninkら2008]。
  5. 必要な追跡評価の内容は、罹患児が受けた手術の種類により変わり、脳神経外科医や頭蓋顔面チームがそれを指定することになる。
  6. 原因不明の持続性嘔吐、頭痛、頭囲の変化といった頭蓋内圧亢進を示唆する症状がみられた場合は、頭蓋顔面チームに緊急に連絡をとる必要がある。

避けるべき薬剤/環境

頸椎の評価を受け、問題のないことが明らかになっている場合を除き、コンタクトスポーツや、頸部の過屈曲・過伸展を伴う活動は控える必要がある。
難聴の原因となりうるような要因(耳毒性を有する薬剤,過音量の刺激)を避ける。
中顔面に圧力が加わることで中顔面の後退が悪化することにつながることから、睡眠時無呼吸の治療目的に長期間にわたってCPAP/BiPAPを用いることは、可能な限り避ける。

リスクを有する血縁者の評価

リスクを有する血縁者に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。

妊娠に関する管理

Apert症候群女性の妊娠管理に言及した研究はみられない。
罹患妊婦は、睡眠時無呼吸の悪化を示す徴候や症候に関し、注意深くモニタリングを行う必要がある。
Apert症候群妊婦については、多レベルの気道奇形あるいは脊椎奇形があることで、ある種の麻酔でさらなるリスクが加わるようなことがないかを把握するため、分娩開始前に詳しい麻酔科的評価が必要である。

研究段階の治療

さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「ClinicalTrials.gov」、ならびにヨーロッパの「EUClinicalTrialsRegister」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

Apert症候群は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。

家族構成員のリスク

発端者の両親

発端者の同胞

発端者の同胞の有するリスクは、発端者の両親の遺伝学的状態によって変わってくる。

発端者の子

Apert症候群の罹患者の子は、50%の確率でFGFR2の病的バリアントを継承する。

他の家族構成員

他の血縁者の有するリスクは、発端者の両親の状態によって変わってくる。仮に、片親がFGFR2の病的バリアントを有していれば、その片親の血縁者にあたる人はすべてリスクを有する。

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

見かけ上、denovoの病的バリアントと思われる家系についての注意事項

常染色体顕性遺伝疾患を有する発端者の両親いずれからも発端者のもつ病的バリアントが検出されない、あるいは、両親ともその疾患の臨床症候を有しないといった場合、その病的バリアントはdenovoのものである可能性が高い。ただ、代理父、代理母(例えば生殖補助医療によるもの)、もしくは秘匿型の養子縁組といった、医学とは別次元の理由が潜んでいる可能性も考えられる。

家族計画

DNAバンキング

検査の手法であるとか、遺伝子・病原のメカニズム・疾患等に対するわれわれの理解が、将来はより進歩していくことが予想される。そのため、分子診断の確定していない(すなわち、背景にある病原のメカニズムが未解明の)発端者については、DNAの保存を検討すべきである。
詳細な情報については、Huangら[2022]を参照されたい。

出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査

家系内に存在するFGFR2の病的バリアントが同定されている場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査を行うことが可能となる。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A:Apert症候群:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体上の座位 タンパク質 Locus-Specificデータベース HGMD ClinVar
FGFR2 10q26​.13 Fibroblast growth factor receptor 2 FGFR2 @ LOVD FGFR2 FGFR2

データは、以下の標準的な参考文献を編集したものである:HGNCによる遺伝子; OMIMによる染色体座位、座位の名称、決定的領域、相補性群; UniProtによるタンパク質。リンクを提供したデータベース(Locus Specific, HGMD)の記述については、ここをクリック。

表B:Apert症候群関連のOMIMエントリー(内容の閲覧はOMIMへ)

101200 APERT SYNDROME
176943 FIBROBLAST GROWTH FACTOR RECEPTOR 2; FGFR2

分子レベルの病原

FGFR2は、複数の線維芽細胞増殖因子(FGF)とその受容体(FGFR)で構成される複雑な細胞内シグナル伝達系に属するタンパク質である。このシグナル伝達ネットワークは、胚発生・血管新生・免疫・癌など数多くの局面における細胞の増殖・分化・移動・死を調節する働きをしている。このネットワークの構成要素に生じる機能喪失、機能獲得、接合後モザイク、あるいは体細胞性の変化により、一連の疾患が生じる。このシグナル伝達ネットワークの概要、ならびに、ヒトの疾患に係わるFGF群、FGFR群の生殖細胞系列や体細胞性の変化の影響については、Katohら[2016]の優れた論文、ならびにそこに載せられた参考文献を参照されたい。これ以外に、FGFR関連頭蓋縫合早期癒合症に焦点を当てたAzouryら[2017]の論文がある。

遺伝子構造

転写産物NM_000141.4は18のエクソンをもち、このうちエクソン1は非コードエクソンである。コーディング配列である648-3113ntは、1つのシグナルペプチド(648-710nt)と成熟タンパク質(711-3110nt)をコードしている。この転写産物は、転写バリアント1と呼ばれることもある。選択的スプライシングによる複数の転写バリアントが、それぞれ別々のアイソフォームをコードしていることが報告されている。遺伝子、転写産物、タンパク質アイソフォームに関する情報の詳細は、表Aの「遺伝子」の欄を参照のこと。

病的バリアント

Apert症候群は、FGFR2の機能獲得に起因して生じる。このことから予想されることではあるが、病的バリアントの範囲は限定的である。多くみられる反復性バリアントであるp.Ser252Trp、p.Pro253Arg、p.Ser252Pheが、Apert症候群のきわめて大きな部分を占める(表1の脚注5を参照)。ヌクレオチドで言うと、いずれもエクソン7の5’末端の変化である。イントロン8のスプライス部位バリアント[Torresら2015]、Ig様ドメイン構造(「正常遺伝子産物」の項を参照)に変化をもたらす大きな欠失などの新規バリアントも知られている。後者の例としては、細胞外IG様ドメインⅢc(エクソン8)の1.3kbの欠失、ならびにⅢb/Ⅲcのキメラドメインを作る1.3kbの欠失(エクソン9)などがある[Bochukovaら2009,Fenwickら2011]。ドメインⅢcをコードするエクソン9内あるいはその近傍にAlu要素が大きく挿入されたdenovoの変異も報告されている[Oldridgeら1999,Bochukovaら2009]。これらの新規バリアントは、エクソンスキッピング、あるいは調節異常に至ると考えられるその他の変化をもたらし、最終的に機能獲得に至ると考えられている。

論文の中には、エクソンの用語とドメインの用語を混同した形で病的バリアントを報告しているものがあるので注意されたい。エクソン8とエクソン9は、それぞれIG様ドメインⅢbとⅢcをコードしているため、個々に生じた変化をエクソンⅢbの変化、エクソンⅢcの変化と呼んでいるものがある。

表8:本GeneReviewで取り上げたFGFR2の病的バリアント

DNAヌクレオチドの変化 測されるタンパク質の変化 参照配列
c.755_756delCGinsTT p.Ser252Phe1 NM_000141.4
NP_000132.3

c.755C>G2 p.Ser252Trp1,3
c.756_758delGCCinsCTT p.Pro253Phe
c.758C>G4 p.Pro253Arg1,3

上記のバリアントは報告者の記載をそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独自に変異の分類を検証したものではない。
GeneReviewsは、HumanGenomeVariationSociety(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準拠している。
命名規則の説明については、QuickReferenceを参照のこと。

  1. 表1の脚注5を参照。
  2. 最初に報告されたときはC934Gと表記されていた[Wilkieら1995]。
  3. 遺伝型-表現型相関」の項を参照。
  4. 最初に報告されたときはC937Gと表記されていた[Wilkieら1995]。

正常遺伝子産物

転写産物NM_000141.4は、821のアミノ酸残基から成るFGFR2のアイソフォーム1NP_000132.3(アイソフォームBEKとも呼ばれる)をコードしている。
シグナルペプチドである残基1-21が翻訳後プロセシングで切断され、残基22-821で構成される成熟ペプチドが生成される。これは、3つの免疫グロブリン様ドメインから成る1つの細胞外領域、1つの疎水性膜貫通領域、1つの細胞内チロシンキナーゼドメインで構成される。反復性病的バリアントの部位であるSer252とPro253は、第2免疫グロブリン様ドメインと第3免疫グロブリン様ドメインの間のリンカー領域にある。

異常遺伝子産物

FGFR2の機能獲得型バリアントは、リガンドの解離を減少させる結果、シグナル伝達を亢進させるものと考えられている。

癌ならびに良性腫瘍

Apert症候群の臨床症候を有しない腫瘍単独の形で現れる孤発性の腫瘍中に、FGFR2の体細胞性の病的バリアントを有するものがある。このバリアントは生殖細胞系列には認められない。こうした場合、この腫瘍への罹患素因が遺伝により継承されるわけではない。

メラノーマ、乳癌、胃癌、子宮内膜癌、肺癌、胆管癌をはじめとするさまざまな癌において、FGFR2に生じた体細胞性の機能喪失型変異、機能獲得型変異、遺伝子融合が報告されている。FGFシグナル伝達ネットワークの概要、ならびに、ヒトの疾患に係わる生殖細胞系列や体細胞性の変化の影響については、Katohら[2016]の優れた論文、ならびにそこに載せられた参考文献を参照されたい。

 


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者: Tara L Wenger, MD, PhD, Anne V Hing, MD, and Kelly N Evans, MD.
    .日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    GeneReviews最終更新日: 2019.5.30  日本語訳最終更新日: 2023.5.28.[in present]

原文: Apert Syndrome

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