Gene Reviews著者: Daryl A Scott, MD, PhD
日本語訳者: 和田宏来 (県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)
Gene Reviews 最終更新日: 2014.6.12. 日本語訳最終更新日: 2018.2.6.
原文: Esophageal Atresia/Tracheoesopageal Fistula
食道閉鎖症は上部消化管の発達障害であり、上部食道と下部食道の連続性が失われている。食道閉鎖症は、気管と食道の間の異常な瘻孔である気管食道瘻を伴うこともあれば伴わないこともある。
診断・検査
食道閉鎖症は画像検査によって出生前もしくは出生後に見つかることがある。食道閉鎖症/気管食道瘻(EA/TEF)は、孤発性(他の先天異常を合併しない)、症候性(特定の遺伝疾患と診断され他の先天異常を合併している)、非孤発性(他の先天異常を合併しているが特定の遺伝疾患とは診断されていない)に分けられる。症候性食道閉鎖症/気管食道瘻の診断は、分子遺伝学的検査を問わず臨床所見によってなされる。
臨床的マネジメント
症候の治療:
出生後最初に行う治療は誤嚥性肺炎のリスクを最小化することである。外科的修復では気管食道瘻の閉鎖と食道の吻合を行う。その他の異常に対しては対症療法を行う。
遺伝カウンセリング
食道閉鎖症/気管食道瘻患者が特定の遺伝疾患であるか孤発性/de novoの染色体異常を有している場合、遺伝カウンセリングが適応となる。孤発性食道閉鎖症/気管食道瘻の遺伝には概して多因子が関与する。
食道閉鎖症は、上部消化管の発達障害により上部食道と下部食道の連続性が失われたものである。食道閉鎖症は気管と食道の間の異常な瘻孔である気管食道瘻を伴うことも伴わないこともある。
食道閉鎖症/気管食道瘻は、以下のような5つの形態が記述されている。
図1 食道閉鎖症/気管食道瘻の形態とその頻度
食道閉鎖症/気管食道瘻は孤発性のこともあるが、最大60%の患者はその他の奇形を伴うことが大規模な疫学研究により示されている。
食道閉鎖症/気管食道瘻は以下のように分類される。
食道閉鎖症/気管食道瘻の臨床症状
先天性の食道閉鎖症/気管食道瘻患児は、通常出生直後から多量の口腔分泌物、咳嗽、嘔気、チアノーゼ、嘔吐、呼吸窮迫といった症状を呈する。
食道閉鎖症/気管食道瘻の診断の確定
超音波検査で、羊水過多、液体で満たされた胃を認めない、小さな腹部、胎児体重が期待されるよりも低い、食道の嚢状拡張といった所見が存在する場合、食道閉鎖症/気管食道瘻は出生前より疑われることがある。食道閉鎖症/気管食道瘻の存在を確認するために胎児MRIを行うことがある。
食道閉鎖症は出生後に以下によって見つかることがある。
注:バリウムによる食道造影により診断を確定することができるが、ほとんどは必要ない。
食道閉鎖症/気管食道瘻の鑑別診断
喉頭気管食道裂 喉頭・気道後壁と食道前壁の間の正中が欠損している。この疾患は、出生前に羊水過多、胃泡が小さいもしくは認めない、出生後に経口摂取による誤嚥を呈することがある。喉頭気管食道裂は一般に気管食道瘻を含めた他の奇形を合併する。
食道ウェブ/食道輪 膜や横隔膜組織による食道内腔の全周性で部分的な閉塞であり、気管食道瘻に合併することがある。多くの症例は無症状である。症候性食道ウェブ/食道輪は典型的には反復性嘔吐、嚥下困難(固形物>液体)、ときに誤嚥で発症する。これらの症状は気管食道瘻による症状よりも遅くみられる傾向にある。
食道狭窄 さまざまな内因性や外因性の疾患による食道内腔の狭小化である。先天性食道狭窄症は、典型的には新生児期をすぎて食道ウェブ/食道輪と同じような症状で発症する。
食道憩室 食道に生じる嚢である。食道憩室は出生時に認めることがあるが、ほとんどは通常成人期に出現もしくは症状がみられ、嚥下困難、胸痛、嘔吐、ときに誤嚥性肺炎を呈する。
管状型食道重複症 食道に平行して存在する管で、しばしば食道内腔もしくは胃とつながっている。しばしば無症状で、ほとんどは剖検時に偶然に見つかることが多い。症状は一般的に炎症もしくは食物が詰まることによる膨満によって起こり、典型的には間欠的な嚥下困難を認める。
先天性短食道 食道が異常に短く、胃の一部が胸腔内に位置するものである。症状はしばしば出生時より出現し、胃食道逆流症や嘔吐などを呈する。
気管無形成/気管閉鎖症 喉頭と肺胞の間の交通を欠くものである。気管食道瘻を含む他の奇形を合併することがある。出生前にみられる所見には、高エコーの肺、平坦化した横隔膜、羊水過少もしくは羊水過多、大きな呼吸運動などがある。出生後の症候には、重度の呼吸窮迫、チアノーゼ、啼泣しない、気管内挿管しても換気できない、などがある。
食道閉鎖症/気管食道瘻の発生率
食道閉鎖症/気管食道瘻の発生率は約3500人に1人である。
環境(後天的)要因
妊娠中の薬剤投与や感染症が食道閉鎖症/気管支食道瘻の発症リスク因子である可能性が示唆されているが、外部要因は常に発症に直結するわけではない。
妊娠中のメチマゾール投与は食道閉鎖症/気管支食道瘻を含む特定の胎芽病を起こすと想定されているが、その関連を支持するデータは症例報告にとどまっている。
母体糖尿病はVACTERL連合の発症リスク因子である可能性が示唆されている。
遺伝要因
染色体異常
染色体異常は食道閉鎖症/気管支食道瘻患者の約6-10%に認められることが報告されている。
食道閉鎖症/気管支食道瘻は以下の染色体数的異常(aneuploidy syndromes)で認められる。
食道閉鎖症/気管支食道瘻に関連する染色体欠失/重複のレビューによれば、それらは複数のゲノム領域に反復して非ランダムに分布している。
単一遺伝子異常
常染色体優性症候性食道閉鎖症/気管支食道瘻(表1)
表1 常染色体優性症候性食道閉鎖症/気管支食道瘻
症候群 | 遺伝子 | 臨床所見 | OMIMへのリンク |
---|---|---|---|
無眼球-食道閉鎖-性器症候群 | SOX2 |
|
184429 |
CHARGE症候群 | CHD7 |
|
608892 214800 |
ファインゴールド症候群 | MYCN |
|
164840 164280 |
パリスター・ホール症候群 | GLI3 |
|
165240 146510 |
常染色体劣性症候性食道閉鎖症/気管支食道瘻(表2)
表2 常染色体劣性症候性食道閉鎖症/気管支食道瘻
症候群 | 遺伝子 | 臨床所見 | OMIMへのリンク |
---|---|---|---|
ファンコニ貧血 | FANCA |
|
227650 |
FANCB | 300514 | ||
FANCC | 227645 | ||
BRCA2 | 605724 | ||
FANCD2 | 227646 | ||
FANCE | 600901 | ||
FANCF | 603467 | ||
FANCG | 614082 | ||
FANCI | 609053 | ||
BRIP1 | 609054 | ||
FANCL | 614083 | ||
FANCM | 614087 | ||
PALB2 | 610832 | ||
RAD51C | 613390 | ||
SLX4 | 613951 | ||
ERCC4 | 615272 |
X連鎖性症候性食道閉鎖症/気管支食道瘻(表3)
表3 X連鎖性症候性食道閉鎖症/気管支食道瘻
症候群 | 遺伝子 | 臨床所見 | OMIMへのリンク |
---|---|---|---|
X連鎖性オピッツG/BBB症候群 | MID1 |
|
300552 300000 |
VACTERL-H | FANCB |
|
300515 |
多因子遺伝
特異的な遺伝子診断が行えないため、食道閉鎖症/気管支食道瘻の遺伝形式は一般的に多因子と考えられている。
原因不明
食道閉鎖症/気管支食道瘻患者のうち原因が特定されていない割合は不明である。
ひとたび食道閉鎖症/気管支食道瘻の診断が確定すれば、孤発性・症候性・非孤発性の分類に以下のような評価が有用である。これらの評価は、予後予測や再発リスクに関する遺伝カウンセリングに使用する情報をもたらす可能性もある。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
食道閉鎖症/気管支食道瘻は、孤発性の所見である場合や遺伝性疾患の症状の一部である場合、また非孤発性(非症候性)の所見の一部である場合がある。
患者が染色体異常を受け継いだかde novoであること、もしくは特定の症候群や食道閉鎖症/気管支食道瘻を合併することが分かった場合は、遺伝カウセリングが適応となる。
非症候性食道閉鎖症/気管支食道瘻は一般的に遺伝性もしくは多因子によると考えられている。患者家族の経験的リスク ― 気管食道瘻
ほとんどの食道閉鎖症/気管支食道瘻患者は単一症例である(すなわち家族内で唯一の罹患者である)。少数は家族内に複数の患者がいる(すなわち親族の2人以上が食道閉鎖症/気管支食道瘻患者である)。
発端者の同胞
原因がはっきりしない孤発性食道閉鎖症/気管支食道瘻患者では、同胞の再現リスクはおよそ1%である。双胎における食道閉鎖症/気管支食道瘻の一致率も低い(~2.5%)。注:孤発性と非孤発性食道閉鎖症/気管支食道瘻の再現リスクを比較したデータはない。
発端者の子ども
原因がはっきりしない食道閉鎖症/気管支食道瘻患者では、子どもの同胞の食道閉鎖症/気管支食道瘻やVACTERL連合の奇形の再現リスクはおよそ2~4%である。注:これらの推定は孤発性および非孤発性患者双方の子どもを対象とした研究に基づいているため、孤発性食道閉鎖症/気管支食道瘻患者の子どもにおけるリスクはより低い可能性がある。
患者家族の経験的リスク ― 非孤発性食道閉鎖症/気管食道瘻
非孤発性食道閉鎖症/気管支食道瘻患者-他に奇形が認められるが特定の遺伝性疾患とは診断されていない者-の再現リスクに関するカウンセリングは難しい。
そのため、この場合のカウンセリングは、他の原因不明な先天性多発奇形と同じように行うべきである。特に、同胞における推定の再現リスクは"低い"。しかしこの推定は、多くの家族における無視できる/とても低い再現リスクと、少数の家族における高い再現リスク(≦25%~50%)の平均をとったものである。
遺伝カウンセリングに関連した問題.
DNAバンクは(主に白血球から調整した)DNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子、アレル変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、患者のDNA保存を考慮すべきである。
出生前診断
家族内の患者で病原性変異が同定された場合、リスク妊娠における出生前診断はその遺伝子検査または個別の出生前検査によって行うことができる。
超音波検査
初期診断後の評価
食道閉鎖症/気管支食道瘻の診断後は、合併奇形の評価のため以下の検査を考慮するべきである。
病変に対する治療
出生後の初期治療として、誤嚥性肺炎のリスクを最小化することを目的に、通常は経口摂取の中止、分泌物を持続的にドレナージするため吸引カテーテルの留置、逆流を減らすため頭部挙上などを行う。グルコース静注や輸液を行うべきである。必要に応じて酸素投与を行う。気管内挿管が避けられない時に起こりうる合併症として胃への空気貯留があり、重篤な場合には胃瘻でのみ除去できる。
外科手術では気管食道瘻の閉鎖と食道の吻合を行う。外科手術は、低出生体重児、肺炎、そのほか大きな先天奇形を有する場合は遅らせる必要があるかもしれない。外科手術を遅らせた場合、手術できるようになるまで、経静脈栄養、胃瘻チューブの留置および上部食道盲端(upper pouch)の吸引を行われることがある。
外科手術後に最もよく認められる合併症は吻合部位の漏出、瘻孔の再発、狭窄、胃食道逆流である。
リスクのある親族の評価
遺伝カウンセリング目的のリスクのある親族に対する検査に関連した問題については「遺伝カウンセリングに関連した問題」の項を参照のこと。
研究中の治療法
さまざまな疾患に対する臨床試験に関する情報は、ClinicalTrials.govを参照のこと。注:この疾患における臨床試験はない可能性がある。
Gene Reviews著者: Daryl A Scott, MD, PhD
日本語訳者: 和田宏来 (県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)
Gene Reviews 最終更新日: 2014.6.12. 日本語訳最終更新日: 2018.2.6.(in present)
原文: Esophageal Atresia/Tracheoesopageal Fistula