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遺伝性パラガングリオーマ・褐色細胞腫症候群
(Hereditary Paraganglioma-Pheochromocytoma Syndromes)

[同義語: Familial Glomus Tumors, Familial Nonchromaffin Paragangliomas]

Gene Reviews著者: Salman Kimani, MBBS and William F Young, MD, MSc.
日本語訳者: 竹越一博(筑波大学医学医療系臨床医学域スポーツ医学)
AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)

Gene Reviews 最終更新日: 2014.11.6. 日本語訳最終更新日:2018.9.9

原文: Hereditary Paraganglioma-Pheochromocytoma Syndrome


要約

疾患の特徴 

遺伝性パラガングリオーマ・褐色細胞腫(PGL/PCC)症候群は、パラガングリオーマ(傍脊椎軸に沿って対称に頭蓋骨底から骨盤まで発生する神経内分泌組織から生じる腫瘍)と褐色細胞腫(副腎髄質に限定されるパラガングリオーマ)を特徴としている。交感神経由来のパラガングリオーマはカテコールアミンを過剰産生するが、副交感神経由来のパラガングリオーマは非産生性であることが多い。副腎外副交感神経由来のパラガングリオーマは頭蓋底、頸部、および縦隔上部に主にみられる。これらのおよそ95%はカテコールアミン非産生性である。対照的に、副腎外交感神経由来パラガングリオーマの発生は通常縦隔下部、腹部、および骨盤に限定され、カテコールアミンを過剰産生する。副腎髄質から発生する褐色細胞腫は一般的にカテコールアミンを過剰に産生している。PGL/PCCの症状は、腫瘍占拠効果によるものかカテコールアミン過剰産生(持続性または発作性血圧上昇、頭痛、一時的な大量発汗、激しい動悸、蒼白、不安定あるいは不安感など)のいずれかに起因する。悪性化のリスクは褐色細胞腫または頭蓋底および頸部パラガングリオーマよりも副腎外交感神経性パラガングリオーマで高い。

診断・検査 

遺伝性PGL/PCC症候群の診断は、身体所見、家族歴、画像検査、生化学的検査、および分子遺伝学的検査に基づいて行う。SDHASDHBSDHCおよびSDHDの4つの核遺伝子はミトコンドリア酵素コハク酸脱水素酵素(SDH)のサブユニットをコードする。5つ目の核遺伝子であるSDHAF2(SDH5としても知られる)は、SDHの他のサブユニットであるSDHAのフラビン化に必要であると考えられている捕因子であるタンパク質をコードしている。これらは総称してSDHx遺伝子と呼ばれている。MAXの病的バリアントはPCCを惹起しやすく、MAXの病的バリアントに伴う個々のサブセットはPGLも発現する。KIF1BEGLN1(かつてはPHD2とされていた)、IDH1、およびFHは、遺伝性PGL/PCCと関連すると報告されてきたが、その臨床的意義は明らかではない。

臨床的マネジメント 

症状に対する治療:
褐色細胞腫などの分泌性腫瘍に対しては、アドレナリン受容体遮断薬によりカテコールアミンの過剰産生を阻害し、その後に外科的治療を行う。頭蓋底および頸部パラガングリオーマのような非産生性腫瘍については、実行可能であれば外科的切除を行う。SDHB病的バリアント陽性のPGL/PCCは、悪性化のリスクが高いため、迅速に切除することが求められる。

二次性合併症の予防:
定期検査による早期検出および腫瘍切除により、腫瘍占拠効果、カテコールアミン過剰産生、および悪性化に関連する合併症の予防あるいは最小化が可能になることがある。

定期検査 :
10歳からあるいは家系内の最若年発症者の発症年齢から10歳を引いた年齢から開始する。遺伝性PGL/PCC症候群発症リスクがある人に対するPGL/PCCの自他覚的症状について、生涯にわたる生化学的および定期検査を開始する必要がある。PGL/PCCが関連する生殖細胞系列病的バリアント陽性の人の新規腫瘍発生や腫瘍再発を検出するための好ましい画像診断法はMRIである。

回避すべき薬剤や環境:
低酸素、喫煙

リスクのある血縁者の検査:
SDHASDHBSDHCSDHDSDHAF2、またはMAX変異陽性であることが既知の発端者の一度近親者(年齢≥10歳)は分子遺伝学的検査を受けるべきである。これにより遺伝的状況が明らかとなり診断の確実性が向上するとともに、病的バリアントを遺伝していない人にかかる検査費用削減につながる。

遺伝カウンセリング 

遺伝性PGL/PCC症候群は常染色体優性形式で遺伝する。SDHD(PGL1)の病的バリアントは片親由来効果を示し、通常、変異が父親から遺伝している場合にのみ疾患の原因となる。当初のデータは、SDHAF2(PGL2)およびMAXの病的バリアントが、SDHD病的バリアントと同様な遺伝形式を示唆している。遺伝性PGL/PCC症候群の発端者は、両親のいずれかから病的バリアントを遺伝している、あるいは新生病的バリアントを有している可能性がある。新生病的バリアントに起因する症例の割合は不明である。遺伝性PGL/PCC症候群患者の子は50%の確率で病的バリアントを受け継ぐ。SDHD病的バリアントを父親から受け継いだ場合は、パラガングリオーマ発症リスクが高く、比較的程度は低いが、褐色細胞腫も発症する。家族の病的バリアントが既知の場合は、当該遺伝子の検査を行っている検査機関あるいは検査のカスタマイズができる検査機関でリスクのある妊娠について出生前検査が可能である。


診断

臨床診断

パラガングリオーマおよび/または褐色細胞腫を有する場合、特に以下の所見が見られる場合には、遺伝性PGL/PCC症候群罹患の可能性を考慮すべきである[Young 2011、Lendersら 2014]。

  • 以下のような腫瘍
    • 多発性(複数のパラガングリオーマまたは褐色細胞腫)で、両側性腹部褐色細胞腫を含む
    • 同時性あるいは異時性腫瘍の多発局所発生
    • 再発
    • 若年発症(年齢<45歳など)
  • 腫瘍の家族歴
    注:遺伝性PGL/PCC症候群患者の多くは頭蓋底あるいは頸部、胸部、腹部、副腎、または骨盤の単発腫瘍で発症し、疾患の家族歴はない(すなわち家系内には他に罹患者がいない)[Baysalら2002、Neumannら2002、Badenhopら2004、Amarら2005]。

世界保健機関(WHO)による「2004年内分泌腫瘍の分類」[DeLellisら2004]では、パラガングリオーマ/褐色細胞腫を発生部位ならびに、直接的あるいは間接的に、分泌状態[交感神経系(カテコールアミンを過剰産生する)対副交感神経系(カテコールアミンを過剰産生しない)]で分類している。

腫瘍のタイプに関する以下の考察はWHOの内分泌腫瘍の分類に基づいている[Kimuraら2004a、Kimuraら2004b、Lloydら2004、McNicolら2004、Thompsonら2004、Tischler & Komminoth 2004]。

パラガングリオーマ(傍神経節腫瘍)は神経内分泌組織(傍神経節)から発生し、傍脊椎軸に沿って対称に主に頭蓋底および頸部から骨盤に存在する。

  • 頭蓋底、上縦隔、および頸部にみられるパラガングリオーマは主に副交感神経性で、通常、カテコールアミンや他のホルモンの過剰産生はみられない。およそ5%の頭蓋底および頸部パラガングリオーマではカテコールアミンを分泌する。
  • 縦隔下部、腹部、および骨盤にみられるパラガングリオーマは、一般的に交感神経性で、通常カテコールアミンを過剰に産生する。

注:傍脊椎軸(副腎は含まれない)に沿って存在する交感神経性パラガングリオーマは、「副腎外交感神経性パラガングリオーマ」と呼ばれる。

褐色細胞腫は、カテコールアミンを分泌するパラガングリオーマで、その発現は副腎髄質に限局されている。褐色細胞腫は副腎クロム親和性細胞腫瘍としても知られている。

注:「クロム親和性細胞/腫瘍」は、その位置にかかわらずあらゆる交感神経系(カテコールアミン分泌性)神経内分泌細胞/腫瘍を表す用語である。クロム親和性とは、細胞//腫瘍に含まれるカテコールアミンがクロム塩による酸化および重合された結果黒褐色を呈する状態である。

パラガングリオーマおよび褐色細胞腫の診断は、身体所見、画像検査、および生化学的検査に基づいて行う。さまざまな課題の中で、診断に関連する課題について最近発表された診療ガイドラインで取り上げられている[Lendersら 2014](全文購読には登録あるいは学認利用アクセスが必要)。

身体検査

患者の評価には、以下の項目を含む。

  • 詳細な家族歴(説明のできないあるいは完全には説明できない突然死したあらゆる血縁者の特定の情報を含む)
  • 以下についての病歴。
    • 持続性または血圧上昇、頭痛、一時的大量発汗、動悸(一時的、激しい、しばしば頻拍と思われる)、蒼白、および不安定または不安感などのカテコールアミン過剰の症状
    • 体位の変換、腹部内圧上昇、投薬(メトクロプラミドなど)、麻酔導入、運動誘発および膀胱パラガングリオーマの場合は頻尿がきっかけとなることがある発作性症状。膀胱パラガングリオーマは疼痛を伴うことがあるが、血尿はあまり見られない。
    • 頭蓋底および頸部パラガングリオーマのエビデンス。これらの腫瘍は腫瘤肥大を表すことがあるが、無症候性または腫瘍の大きさおよび/または位置による腫瘍占拠効果の症状を伴う。関連症状には、片側性聴覚消失、拍動性耳鳴、咳嗽、嗄声、咽頭閉塞、嚥下困難、疼痛、および/または舌運動に伴う問題が挙げられる。
  • PGL/PCCを疑わせる兆候についての身体診察。
    • 交感神経性パラガングリオーマおよび褐色細胞腫の兆候は、血圧上昇の記録、頻脈性不整脈または他の不整脈、触診可能な腹部腫瘤などである。
    • 頭蓋底および頸部パラガングリオーマの兆候は、頭蓋底および頸部腫瘤などである。
  • 頸動脈小体腫瘍は垂直方向に付着することが多く、雑音または触診可能な振戦を伴うことがある。

注:頸動脈小体は、およそ第4頸椎付近の片側上頸部の頸動脈の分岐部またはその近傍に位置している。

  • 頸静脈鼓室パラガングリオーマは、青色の拍動性腫瘤としての無傷の鼓膜の後部にみられることがある[Gujrathi & Donald 2005]。

画像検査

診断および腫瘍局在診断には、次の研究で示された方法を使用することができる[Lendersら 2005、Young 2006、Pacakら 2007、Young 2007、Lendersら 2014]。

  • CT/MRI。MRIよりも、CTはその優れた胸部、腹部、および骨盤の空間解像度から画像診断法として選択することが推奨されている[Lendersら 2014]。MRIは転移が見られる患者や、被ばくを避けるべき患者(妊娠女性、生殖細胞系列病的バリアント保有が既知の患者)のより良い選択肢である。
    • パラガングリオーマは、傍脊椎軸に沿って頭蓋底から骨盤のあらゆる場所に認められることがあり、傍大動脈交感神経鎖にも認められる。好発部位は腎血管近傍およびツッケルカンドル(Zuckerkandl)器官(下腸間膜動脈の起始部および大動脈分岐部近傍のクロム親和性組織)である。膀胱壁にみられることはあまりない。
    • PGL/PCC腫瘍では、通常、MRIのT2強調画像で高信号がみられ、褐色細胞腫と良性副腎皮質腺腫の鑑別に役立つ。これらの腫瘍のCT画像は、嚢胞部を伴う異質性外観、非強調CT減衰(吸収)、造影増強CTで認められる血管分布増大、および緩徐な造影剤ウォッシュアウトを主徴とする。
    • 複数の腫瘍を呈することがある。
    • CTおよびMRIの診断感度および特異度はそれぞれおよそ90%〜100%および70%〜80%で同等である。
    • 腫瘍に対する標的MRI法による全身短タウ反転回復(STIR)MRIは、おそらく診断およびモニタリングの合理的な方法である。この方法により、MRIのT2強調画像の高い感度という利点を生かしてCT撮像に伴う被ばくを最小限にすることが可能である。

注:MRIおよびCTは腫瘍病期の分類にも使用可能である[Lendersら 2005、Young 2006、Pacakら 2007]。

  • 超音波検査。Bモード超音波検査と超音波カラードプラ法を併用すると頚動脈小体および迷走神経パラガングリオーマの診断に有用である。
  • デジタルサブトラクション血管造影(DSA)
    • DSAは、微小なパラガングリオーマの検出感度が高く、確実な診断が可能である。
    • 術前塞栓術または頸動脈塞栓術を行う場合、DSAは不可欠である。

転移の検出には、次の研究で示された検査法が有用である[Gujrathi & Donald 2005]。

  • 123I-MIBGシンチグラフィは、腫瘍のカテコールアミンアナログ放射性同位体取り込みを測定する手法である。
    • MIBGの病変の位置を特定する特異性はCTおよびMRIより高いが、感度は低い。
    • MIBGは以下の目的で使用可能である。
      • CTまたはMRIで検出された腫瘍の質的な診断。
      • 他の疾患部位の検索。
      • CTまたはMRIの検査結果が陰性であった場合の腫瘍の特定[Young 2011]。
  • オクトレオチドシンチグラフィは、腫瘍のソマトスタチンアナログ放射性同位体取り込みを測定する手法であり、MIBG陰性腫瘍はオクトレオチドシンチグラフィでは陽性であることがあるため、MIBGシンチグラフィに加えて使用することができる。
  • 2F-18F-FDG-PETや他の画像化化合物を使用したPETも転移巣の検出に役立つ。

PGL/PCCの画像検査における機能イメージングの使用についての決定アルゴリズムが、近年内分泌学会診療ガイドラインで提唱されている(図2)[Lendersら 2014](全文購読には登録あるいは学認利用アクセスが必要).

検査

生化学的検査

PGL/PCCで過剰産生しているカテコールアミンおよびメタネフリンは、以下のうちいずれかであると思われる。

  • エピネフリン(アドレナリン)およびその主な代謝産物であるメタネフリン
  • ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)およびその主な代謝産物であるノルメタネフリン
  • ドーパミンおよびその主な代謝産物であるメトキシチラミン

カテコールアミン産生性腫瘍が疑われる場合は、カテコールアミン過剰産生について血中および/または24時間尿中メタネフリン分画およびカテコールアミンを評価する。

注:(1)カテコールアミンの測定よりも感度が高いため、血中または尿中メタネフリン分画の測定が好ましい[Young 2011]。(2)血中ノルメタネフリン分画が基準値の4倍以下の増加の場合は、24時間尿中メタネフリン分画の追跡検査により偽陽性を軽減できることがある[Algeciras-Schimnichら 2008]。(3)ノルエピネフリン過剰産生がほとんどないエピネフリンの分泌は、多発性内分泌腫瘍症2型に伴う腹部褐色細胞腫を示唆している[Young 2011]。

生検。頭蓋底および頸部パラガングリオーマの生検は通常診断に必要ではなく、侵襲性が高く高血圧性クリーゼ、出血、および腫瘍細胞の播種を引き起こすリスクがあるため禁忌である。さらに、腹部褐色細胞腫または腹部パラガングリオーマの生検は避けるべきである[Vanderveenら 2009]。

腫瘍免疫組織染色。ミトコンドリア複合体Uのコンポーネントのどれかが完全に不活性化されると、複合体全体の安定性が失われ、SDHBサブユニットの分解につながる。したがって、SDHASDHBSDHCSDHD、またはSDHAF2の機能の喪失を招く変異でSDHBの免疫組織化学は陰性となる。結果として、正常アレルの喪失に伴うSDHASDHBSDHC、またはSDHDの生殖細胞系列変異が見られる場合は必ずSDHBの免疫組織化学染色結果は陰性になると考えられる。そのため、SDHBの染色陰性は、あらゆるSDHサブユニットの生殖細胞系列の病的バリアントの存在を示唆する有望なマーカーであると思われる[Gillら2010、Paiら2014]。SDHAの生殖細胞系列の病的バリアントは、SDHAの染色性の低下を示し、さらにSDHBの染色性の低下も示している[Korpershoekら 2011]。SDHB免疫組織染色は家族性および散発性に見えるPGL/PCC例のいずれにも使用可能で、分子遺伝学的検査のスクリーニングへの利用が提唱されている。しかし、現在のところ遺伝学的検査ための免疫組織化学の日常的な使用を支持するだけのエビデンスは不十分である。

SDHB免疫組織染色の解釈にはいまだ課題があり、およびその手法が広く利用可能ではないため、日常的に行うべきかどうかは議論がある。

分子遺伝学的検査

遺伝子

病的バリアントが個々の遺伝性PGL/PCC症候群の原因となることが既知の遺伝子。

  • PGL1. SDHD [Baysalら2000]
  • PGL2. SDHAF2(SDH5と称されることがある)[Haoら2009]
  • PGL3. SDHC [Niemann & Muller 2000]
  • PGL4. SDHB [Astutiら2001]
  • PGL5. SDHA [Burnichonら2010]
  • MAX [Comino-Méndezら2011]

PGL/PCC症候群と関連すると考えられる遺伝子。KIF1B、EGLN1(かつてはPHD2として知られていた)、IDH1、およびFHは遺伝性PGL/PCCと関連することが報告されている。これらの遺伝子の臨床的意義はいまだ不明である(「分子遺伝学」の項参照)。

臨床的遺伝子解析

  • シーケンス解析。コード領域がSDHBSDHC、およびSDHDのシーケンス解析、および関連するイントロン-エクソン結合部によりおよそ70%の頭蓋底および頸部パラガングリオーマの家族性症例を検出できる[Baysalら2002]。異なる対象集団におけるこれらの遺伝子の病的バリアント報告のまとめについてはここをクリック(pdf)。

表1.遺伝性パラガングリオーマ・褐色細胞腫症候群で用いられた分子遺伝学的検査の概要

遺伝子名(座位)1 当該遺伝子の変異に起因する遺伝性PGL/PCCの割合 検査法
SDHD(PGL1) ~30% 2
頭蓋底および頸部PGLの~40%-50% 3
胸部、腹部、骨盤PGL/PCCの~15%4
シーケンス解析5、6、7、8
欠失/重複解析9、10
SDHB(PGL4) 22%-38% 2
頭蓋底および頸部PGLの12%-20% 3
胸部、腹部、骨盤PGL/PCCの24%-44%4
シーケンス解析5、11、12
欠失/重複解析 9、10
SDHC(PGL3) 4-8% 2、13 シーケンス解析 5、11
欠失/重複解析 9、10
SDHA(PGL5) 0.6-3% 2、14 シーケンス解析 5
SDHAF2(PGL2) 不明 シーケンス解析 5、11、15
選択したエクソンのシーケンス解析6、16
c.232G>Aのターゲット解析17
MAX 不明 シーケンス解析 5
欠失/重複解析 9、18
  1. 表A参照。染色体遺伝子座およびタンパク質の遺伝子およびデータベース。当該遺伝子で検出されたアレルバリアントの情報については分子遺伝学を参照。
  2. Burnichonら[2009]、Buffetら[2012]
  3. 蓋底および頸部PGLの家族性/症候性に特徴的な徴候を有する血統[Baysalら2002、Burnichonら2009]
  4. 遺伝性および副腎外交感神経PGLおよびPCCを有する血統[Amarら2005、Burnichonら2009]
  5. シーケンス解析により、バリアントが「良性」、「おそらく良性」、「不明確」、「おそらく病的」、または「病的」として検出される。バリアントには、遺伝子内欠失/挿入およびミスセンス、ナンセンス、およびスプライスバリアントを含むことがある。一般的に、エクソンまたは全遺伝子欠失/重複は検出されない。シーケンス解析結果に解釈で考慮すべき問題についてはここをクリック。
  6. エクソンは検査施設により異なることがある。
  7. 3種類のSDHD病的バリアント(p.Asp92Tyr、p.Leu95Pro、p.Leu139Pro)は、オランダ人集団の遺伝性パラガングリオーマのほぼ全症例の原因である[Taschnerら2001、Dannenbergら2002]。病的バリアントであるp.Asp92Tyrおよびp.Leu139Proが、家族性頭蓋底および頸部パラガングリオーマ(94%)を有するオランダの32家系中30家系で同定され、散発症例の55例中20例(36%)で同定された[Taschnerら2001]。SDHD病的バリアントであるp.Met1Ileは中国人集団における創始者変異であることが提唱されている[Leeら2003]。
  8. オランダでは、遺伝性頭蓋底および頸部PGLの94%が2種類のSDHD創始病的バリアント(p.Asp92Tyrおよびp.Leu139Pro)に起因している[Taschnerら2001]。
  9. コーディングのシーケンス解析で検出されなかったエクソンまたは全遺伝子欠失/重複やゲノムDNA隣接イントロン領域を同定する検査で、定量的PCR、ロングレンジPCR、多重連鎖反応依存性プローブ増幅法(MLPA)、および当該遺伝子染色体セグメントを含む染色体マイクロアレイ(CMA)のようなさまざまな方法がある。
  10. 1件の研究では、SDHB全体欠失がシーケンス解析で病的バリアントが同定できなかった12%に認められた[Cascónら2006]。大規模なフランスのレジストリからの1件の研究では、9.1%にSDHBSDHC、またはSDHDの大欠失が認められた[Burnichonら2009]。10年に及ぶフランスの研究では、大欠失の発現頻度は、SDHBの病的バリアントの13.1%、SDHDの5%、SDHCの16.7%であった[Buffetら2012]。
  11. 全体遺伝子のシーケンス解析およびスキャンでは、同様の病的欠失頻度が認められた。しかし、バリアントスキャンでの病的バリアント欠失率は、研究所が使用するプロトコルによってかなり異なることがある。
  12. SDHBエクソン1の全エクソン欠失はスペイン人集団における創始者変異であると思われる[Cascónら2008]。
  13. 欧州の頭蓋底および頸部パラガングリオーマレジストリの121名中5名にSDHC病的バリアントが認められた[Schiaviら2005]。
  14. Korpershoekら[2011]
  15. Haoら[2009]
  16. エクソン2のシーケンスバリアント
  17. van Baarsら[1982]の報告による遺伝性PGL/PCCを有するオランダ人家系の3名にはSDHAF2(SDH5としても知られる)のエクソン2における一塩基置換(c.232G>A)が同定された[Haoら2009]。
  18. Burnichonら[2012]                     

検査手順

発端者の診断の確認/確定目的。米国内分泌学会は近年ガイドラインを発表し、遺伝性PCC/PGLが疑われる患者の診断方法を提言している[Lendersら 2014]。しかし、迅速に進化しているシーケンス技術によりこれらのガイドラインは変更されることがあることに留意する必要がある。

現行の方法では、すべての利用可能な臨床データ(家族歴、身体検査、腫瘍の位置、転移の有無、および生化学的表現型)から、それぞれの患者または家族についてもっとも可能性の高い原因遺伝子から検査を行う。もし陰性であった場合はその後、段階的に追加で次に可能性が高い遺伝子検査を行うかどうか判断していく。この方法を用いて複数のアルゴリズムが提唱されている[Erlicら2009、Neumannら2009、Welanderら2011]。新たな方法として、時間が節約につながる多遺伝子検査パネルが利用可能であるが、この方法が最善であるかどうかのコンセンサスは得られていない。

ある遺伝子検査方法では、臨床的特徴を基礎とする遺伝子検査を重点的に行う。若年発症や両側性、副腎外または複数の腫瘍、悪性などの特徴により遺伝性疾患が示唆される[Gimenez-Roqueploら2006、Pacakら2007]。腫瘍の臨床的特徴に基づく遺伝子検査アルゴリズムについては、Lendersら[2014]のガイドライン、図1を参照(全文購読には登録あるいは学認利用アクセスが必要)。病因におけるKIF1BEGLN1、IDH1、およびFHの役割は不明で、通常の臨床検査で考慮する必要はない。

注:家族歴または遺伝性症候群を示唆する他の特徴がない場合でも、遺伝学的検査を行わない理由にはならない。

  • 非産生性(副交感神経)または分泌性(交感神経系)頭蓋底および頸部パラガングリオーマ罹患患者では、まずSDHDの病的バリアントを検査し、続いてSDHBSDHCを検査し最後にSDHAF2について検査する。
  • 比較的低い年齢関連浸透度、クロム親和性細胞腫瘍が悪性化に向かう傾向、および悪性パラガングリオーマおよび褐色細胞腫に伴う予後不良[Amarら 2007]が認められる場合は、すべての単発症例、特に副腎外腫瘍症例にはSDHB病的バリアントの検査を考慮すべきである。
  • 副腎外交感神経性パラガングリオーマ患者の場合、まずSDHDの病的バリアントを検査し、続いてSDHD、VHL(鑑別診断参照)を検査し、その後SDHCについて検査する。

注:SDHB病的バリアント陽性患者のかなり大きな割合は散発症例として表されている[Amarら 2005、Timmersら 2007、Kleinら 2008]。

  • 神経線維腫症1型、フォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL、VHL遺伝子の変異が原因)、または多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2、RETの変異が原因)のエビデンスがない褐色細胞腫の場合、まずSDHBおよびSDHD病的バリアントについて評価し、TMEM127およびMAX(鑑別診断参照)を評価する。
    • VHLおよびRET関連疾患患者、特に若年発症患者。
    • 両側性褐色細胞腫は特にVHLおよびMEN2に伴う場合が多い[Gimenez-Roqueploら 2006]。
    • 第1回褐色細胞腫国際シンポジウムでは、若年発症を疾患関連遺伝子の病的バリアント検査の実施判断の重要な事項であると確認し、腫瘍による産生されるカテコールアミンの種類を含む遺伝子検査に対する段階的アプローチを推奨した[Pacakら 2007]。
    • VHL患者の褐色細胞腫によりノルエピネフリンおよびノルメタネフリンが広く産生されると思われるが、MEN2を有する場合は常にエピネフリンおよびメタネフリンを産生する[Pacakら2007]。
  • 悪性腫瘍の場合は、まずSDHBの病的バリアントを検査する。

表2.遺伝的病因によるPGL/PCCの臨床的特徴の鑑別

変異遺伝子

鑑別に役立つ臨床所見 1
PGL vs PCC 両側性PCCまたは多発性PGL 生化学的特徴 悪性のリスク 遺伝形式
RET PCC ~60%両側性 エピネフリン <5% AD
VHL PCC ~40%両側性 ノルエピネフリン <5% AD
NF1 PCC ~15%両側性 エピネフリン ~9% AD
SDHD PGL(頭蓋底& 頸部) ~50%多発性 ノルエピネフリン/ドーパミン <5% 父系2
SDHB PGL ~20%多発性 ノルエピネフリン/ドーパミン 34%-97% AD
SDHC PGL ~20%多発性 ノルエピネフリン / ドーパミン AD
SDHAF2 PGL(頭蓋底 & 頸部) ~90%多発性 不明 父系
SDHA PGL 単発 混合 AD
TMEM127 PCC ~40%両側性 混合 < 5% AD
MAX PCC ~60%両側性 混合 25% 父系

AD = 常染色体優性

  1. 一般的にみられる症状。例外あり。
  2. 母系遺伝が1例報告されている(訳注:すでに複数の報告がある)。

他の遺伝子検査方法として、SDHDSDHBSDHCSDHASDHAF2、MAX、および他の関連遺伝子を含む多遺伝子パネルの使用が挙げられる(鑑別診断参照)。

注:多遺伝子パネルの遺伝子の種類および解析方法は研究所によって異なり、時間の経過とともに変化していくと思われる。

網羅的遺伝学的検査。単一の遺伝子検査(および/または複数遺伝子パネルの使用)で、PGL/PCCの特徴を有する患者の診断が確認できない場合は、網羅的な遺伝子検査を考慮することがある。このような検査には、エクソームシーケンス、ゲノムシーケンシング、およびミトコンドリアシーケンシングを含むことがある。総合的な遺伝検査の概論は、ここをクリック。遺伝検査依頼についての医師向けのより詳細な情報はこちらを参照。


臨床的特徴

臨床像

遺伝性PGL/PCC症候群では、傍脊椎軸に沿って頭蓋底から骨盤まで対称的に分布した神経堤細胞由来の傍神経節内で腫瘍が生ずる。

頭蓋底および頸部の傍神経節は、通常、副交感神経系や頚動脈小体周辺部に位置する最大規模の組織の集まり、迷走神経、および頸静脈領域とかかわりがある。これらの部位のパラガングリオーマは一般にカテコールアミンを過剰に産生していない。ほとんどの頭蓋底および頸部パラガングリオーマは転移することはなく、それらの有害な結果は通常、腫瘍占拠効果の結果である。

  • 頚動脈小体のパラガングリオーマは従来無症候性で、頸部腫瘤が片側性に肥大する。患者には腫瘍による占領性病変による症状がみられることがあり、これには神経障害につながる脳神経および交感神経系鎖圧迫が含まれる。身体検査では、腫瘍は垂直方向に付着している(水平にではなく)。雑音および/または振戦がみられることがある。
  • 迷走神経パラガングリオーマは頚動脈小体パラガングリオーマに類似した状態を呈する。自他覚的症状として、頸部腫瘤、嗄声、咽頭閉塞、嚥下障害、発音困難(発声の障害)、疼痛、咳嗽、および誤嚥がある。発声困難は胸部の占領性病変による症状や声帯や舌に関わる神経の圧迫に起因することがある。
  • 頸静脈鼓室パラガングリオーマでは、拍動性耳鳴、聴覚消失、および他の下部脳神経異常を呈することがある。耳鏡検査で青色の、拍動性腫瘤が鼓膜の後部にみられることがある[Gujrathi & Donald 2005]。

胸部、腹部、および骨盤の傍神経節は通常交感神経系と関連しており、およびこれらのパラガングリオーマの腫瘍はカテコールアミンを過剰に産生している。副腎髄質は交感神経性系パラガングリオーマ細胞の大規模な集まりである。

PGL/PCC症候群における褐色細胞腫および副腎外交感神経性パラガングリオーマは散発性(遺伝性ではない)腫瘍患者と同様の状態を呈し、以下の4つが治療に訪れるきっかけとなる場合がもっとも多い。

  • カテコールアミン過剰産生に伴う自他覚的症状、これには、血圧および心拍の評価、頭痛、激しい動悸、過剰な発汗、および不安などが挙げられる。悪心、嘔吐、疲労、および体重減少もみられることがある。症状の多くは一時的である[Lendersら2005、Young 2006]。
  • 腫瘍に起因する占領性病変に関連する自他覚的症状。
  • 他の理由で実施されたMRI/CTで偶然検出された腫瘤。
  • リスクのある血縁者のスクリーニング[Young 2011]。

副腎外交感神経性パラガングリオーマでは悪性化の可能性が高くなる[Proyeら1992]。悪性腫瘍は褐色細胞腫では可能性は低いものの起こり得る(遺伝子型と表現型の関連参照)。

PGL/PCCの兆候。散発性腫瘍の患者と比較して、SDHx遺伝子に生殖細胞系列病的バリアント保因患者は、若年発症する傾向があり、多発、両側性、および再発の可能性がより高く、さらには同時性多発腫瘍を有することが多い。

SDHC病的バリアントはまれなため、SDHC病的バリアントにかかわる表現型の特徴のデータは限られている。Schiaviら[2005]によるSDHC病的バリアント陽性の22名(15名は文献から抽出し、7名は内部で評価した)の頭蓋底および頸部パラガングリオーマ患者のレビューでは、明確に鑑別されたSDHC病的バリアントを有する患者(88名は発端者から、2名はSDHDSDHBSDHC、VHL、およびRETの病的バリアントが検出されなかった頭蓋底および頸部パラガングリオーマ患者についての文献からの散発症例)について臨床的、病理学的、あるいは人口統計学的特徴は認められなかった。

良性PGL/PCCの進行は一般に緩徐である(直径が毎年およそ0.5〜1.0 cm大きくなる)[Young 2007]。反対に、悪性腫瘍は一般的により進行が速いが、無痛性の経過をたどる悪性腫瘍も記録されている[Youngら 2002]。

良性PGL/PCCを悪性PGL/PCCから鑑別する信頼に足る病理学的方法はない。その結果、腫瘍の悪性の診断は専ら非クロム親和性部位への転移の有無によることになる。転移好発部位は骨、肺、肝臓、およびリンパ節である。腫瘍の悪性の診断は転移を確認した時点で初めて確定診断とせざるを得ないため、これらの腫瘍の現在の自然経過に対する理解にバイアスが生じることがある。

転移が見られないPGL/PCCについては、手術で治癒が見込まれる。しかし、いったん転移が見られれば、疾患は一様に致死的で、5年生存率は50%である[Thompsonら 2004、Young 2011]。

他の腫瘍

  • 消化管間質細胞腫瘍が、SDHのサブユニットをコードする4つの遺伝子のいずれかにおける病的バリアントに起因する遺伝性PGL/PCC症候群患者に生じることがある[Pasiniら 2008]。
  • 腎明細胞がんおよび甲状腺乳頭がんSDHBおよびSDHDの病的バリアントで報告されている[Neumannら2002、Neumannら2004、Vanharantaら2004]。しかし、これらの所見の意義は不明である。

生存期間。病期分類された腫瘍を標的とした治療方法により、20年以上生存する患者も存在する[Youngら2002]。

遺伝子型と表現型の関連

SDHASDHBSDHCSDHD、およびSDHAF2、およびMAX病的バリアントを有する場合は、傍神経節組織内に褐色細胞腫および/またはパラガングリオーマを発症し、下記のように遺伝子と発症部位が関連するという事実は,診断の際に、あるいは症例によっては治療の際に参考にすることができる。

SDHBの生殖細胞系列病的バリアントは一般に、他のSDHx遺伝子の病的バリアントよりも罹患率や死亡率が高い[Gimenez-Roqueploら2003]。これらは、悪性腫瘍のリスクが高い副腎外交感神経性パラガングリオーマと密接に関連しており[Gimenez-Roqueploら2003、Neumannら2004、Bennら2006、Young 2006]、頻度は少ないが、良性または悪性PCCおよび副交感神経性PGLと関連している。生殖細胞系列SDHB病的バリアントを有するクロム親和性細胞医腫瘍患者は一般のクロム親和性細胞腫瘍に比べて副腎外病変を発症する可能性が6倍高い[Van Nederveenら 2006]。

  • SDHDおよびSDHCの病的バリアントは他の腫瘍のタイプよりも副交感神経性頭蓋底および頸部パラガングリオーマに罹患しやすい[Neumannら2004]。
    • 生殖細胞系列DHD病的バリアントの場合は生殖細胞系列SDHB病的バリアントと比較して、頭蓋底および頸部パラガングリオーマ発症のオッズ比がおよそ24である[Bennら2006]。
    • 生殖細胞系列SDHD病的バリアントの場合は生殖細胞系列SDHB病的バリアントと比較して、腹部パラガングリオーマのオッズ比がおよそ0.28である[Bennら2006]。
  • 生殖細胞系列SDHB病的バリアントが見られるパラガングリオーマ患者は、散発性パラガングリオーマまたは生殖細胞系列SDHDおよびSDHC病的バリアントがみられる散発性パラガングリオーマ患者に比べて悪性化しやすい。SDHB病的バリアントは、悪性褐色細胞腫およびパラガングリオーマ患者の生命予後の短さの予測因子でもある[Amarら 2007]。生殖細胞系列SDHB病的バリアントを有する場合は、あらゆる傍神経節部位に悪性疾患を発症することがある[Youngら2002、Gimenez-Roqueploら2003、Neumannら2004、Bennら2006、Jiménezら2006]。
  • 悪性副腎外パラガングリオーマ患者の最大50%に生殖細胞系列 DHB病的バリアントが認められる[Brouwersら2006、Kleinら2008]。副腎外交感神経性パラガングリオーマは褐色細胞腫および頭蓋底および頸部パラガングリオーマに比べて、悪性腫瘍の重大な素因であることが以前から知られているため[Proyeら1992]、これが解剖的位置や変異の状態、あるいはその両方の結果なのかどうかは不明である[Limaら 2007、Kleinら 2008]。
  • 悪性副腎外交感神経性パラガングリオーマよりもまれではあるが、褐色細胞腫が悪性化することがある。特に、生殖細胞系列SDHB病的バリアントを有する場合は、生殖細胞系列SDHDまたはSDHC病的バリアントを有する場合もしくは散発性褐色細胞腫患者に比較して頻度が高い。
  • 生殖細胞系列SDHD病的バリアントを有する頭蓋底および頸部パラガングリオーマ患者は、散発性腫瘍または生殖細胞系列SDHB病的バリアントを有する場合よりも多発性であることが多い[Boedekerら2005]。しかし、表現型は患者ごとに異なり、同じ病的バリアントを有していても家族内で異なる。

注:SDHD病的バリアントと頭蓋底および頸部パラガングリオーマは関連していることが多いが、有病率、浸透率およびSDHサブユニット病的バリアントの表現型発現のばらつきには集団特異性(人種差)があると思われる[Limaら 2007]。

  • 生殖細胞系列SDHC病的バリアントは、主に(これに限るものではなく)頭蓋底および頸部パラガングリオーマと関連していると思われる[Schiaviら2005、Mannelliら2007、Pasiniら2008、Peczkowskaら2008]。
  • 報告によると、遺伝子の5’部分に病的バリアントが見られる場合、生殖細胞系列SDHD病的バリアントを有する人に褐色細胞腫および交感神経性パラガングリオーマがおよそ75%の割合で生じる[Engら2003]。
  • SDHBエクソン1の欠失および腹部副腎外PGLの関連の可能性が指摘されている[Cascónら2008]。
  • 生殖細胞系列SDHA病的バリアントがPCCおよびPGL(交感神経系および副交感神経)で認められている[Burnichonら2010、Korpershoekら2011]。
  • SDHAF2における生殖細胞系列病的バリアントであるp.Gly78Argは、頭蓋底および頸部PGLに関連する場合にのみ報告されている[Haoら2009、Bayleyら2010]。
  • MAXの生殖細胞系列病的バリアントがPCCとの関連で報告されている。罹患者の一部はPGLを発症するが、発症した患者のすべては最初にPCCを呈する[Burnichonら2012]。

浸透度

年齢関連性浸透度。SDHのサブユニットをコードする遺伝子の病的バリアントでは、浸透度が高いものの、年齢関連性であると思われる(表3)。しかしながら、データは限られている[Neumannら2004、Bennら2006、Jafriら2013]。

表3 SDHDおよびSDHB病的バリアントの推定年齢関連性浸透度

SDHD SDHB 参考文献
年齢(歳) 浸透度 年齢(歳) 浸透度
30 48% 30 29% Bennら[2006] 1
31 50% 35 50% Neumannら[2004] 2
40 73% 40 45% Bennら[2006]1
50 86% 50 <50% - 77% Neumannら[2004] 2
Jafriら[2013]
  1. 年齢関連浸透度は生殖細胞系列SDHB病的バリアントを有する場合よりも生殖細胞系列SDHD病的バリアントを有する場合で高い。
  2. SDHB病的バリアント保因者とSDHD病的バリアント保因者との年齢関連浸透度の差異は統計的に有意ではない。
  3. Jafriら[2013]は全体的なSDHB病的バリアントの浸透度は<50%であると報告している。

部位関連浸透度。頭蓋底および頸部パラガングリオーマおよび副腎外腹部または胸部腫瘍の推定浸透度を表4に示した[Bennら2006]。

表4.SDHDおよびSDHB病的バリアントの推定発現部位関連浸透度

腫瘍の部位 遺伝子 浸透度
頭蓋底および頸部パラガングリオーマ1 SDHD 68%
SDHB 15%
副腎外腹部または胸部腫瘍2 SDHD 35%
SDHB 69%
  1. 40歳まで
  2. 60歳まで

表現促進現象

表現促進現象はPGL/PCC症候群ではみられない。

病名(表記法)

PGL/PCC症候群は、褐色細胞腫との関連が発見されるまで遺伝性パラガングリオーマ症候群と称されていた。

PGL/PCC症候群の疾患名は、PGL1(SDHD)、PGL2(SDHAF2、SDH5としても知られている)、PGL3(SDHC)、およびPGL4(SDHB)にかかわる特定の遺伝子座に由来している。

有病率

褐色細胞腫/傍神経節細胞腫の有病率は正確には明らかになっていない。これらの腫瘍発症率はおよそ1:300,000/年と考えられている。


遺伝的に関連のある(アレルの)疾患

エビデンスにより、パラガングリオーマおよび消化管間質細胞腫瘍(GIST)を含むカーニー・ストラタキス二徴の一部はSDHBSDHD、あるいはSDHC病的バリアントに起因することが示唆される[McWhinneyら2007、Pasiniら2008、Tenorio Jiménezら2012]。

生殖細胞系列SDHB病的バリアントが腎細胞がんで報告されている[Neumannら2004、Rickettsら2008、Rickettsら2010]。腎細胞がんおよびSDHD病的バリアントを有する人について報告されており[Rickettsら2010]、同時に、少数ではあるがSDHBまたはSDHD病的バリアントを有する甲状腺がん患者について報告されている[Neumannら2004、Rickettsら2010]。

SDHAのホモ接合性および複合ヘテロ接合病的バリアントはリー症候群や神経変性ミトコンドリア脳筋症に関連している[Bourgeronら 1995]。


鑑別診断

遺伝性PGL/PCC症候群は、パラガングリオーマおよび褐色細胞腫患者の鑑別診断の対象である。

ほとんどの遺伝性パラガングリオーマおよび褐色細胞腫は、VHL、RET、NF1、SDHASDHBSDHCSDHDSDHAF2、TMEM127、およびMAXの病的バリアントに起因する。褐色細胞腫:OMIM表現型シリーズ参照。

すべての生殖細胞系列病的バリアントが認められる罹患者のうち、90%がSDHBSDHD、VHL、RETまたはNF1に病的バリアントを有している。残りのわずか10%がSDHCSDHASDHAF2、TMEM127、またはMAXに病的バリアントを有している。

  • 褐色細胞腫におけるMAX変異率と表現型。17カ所の独立した医療機関の1694名のPGL/PCC患者では、MAXの生殖細胞系列病的バリアントが1.12%に認められた[Burnichonら2012]。理患者のすべてがPCCを発現しており、そのうちの一部はPGLを発現した。
  • 褐色細胞腫におけるTMEM127変異率と表現型。生殖細胞系列TMEM127病的バリアントはPCCにのみ報告されており、PGLについては報告がない[Yaoら2010、Abermilら2012]。

褐色細胞腫およびカテコールアミン分泌性パラガングリオーマも次の疾病で認められている。

  • 神経線維腫症1型(NF1):NF1の変異による常染色体優性疾患である。NF1は、複数のカフェオレ斑、腋窩および鼠径のそばかす、複数の皮膚神経線維腫、および虹彩のリッシュ結節を主徴とする。学習障害がNF1患者の50%異常に認められる。消化管間質細胞腫瘍(GIST)[Stewartら 2007a]およびカルチノイド腫瘍[Stewartら2007b]もNF1患者について報告している。

    褐色細胞腫の発症はNF1ではまれながら、その頻度はNF1および高血圧患者の20%〜50%と高い。ほとんどの(84%)褐色細胞腫は片側性である。副腎外交感神経性パラガングリオーマも起こり得るが、ほとんどの場合良性である。

    NF1遺伝子は極めて長大で、褐色細胞腫発症に関わる変異の「ホットスポット」がないとされているため[Bauschら2007]、NF1病的バリアントに関する遺伝子検査は日常的には実施されない。NF1は通常若年で診断され、遺伝性PGL/PCC症候群との鑑別は一般的に容易である[Jiménezら2006]。
  • Von Hippel-Lindau(フォン・ヒッペル・リンドウ、VHL)病:VHLの変異による常染色体優性疾患である。VHL病は、脳、脊髄、腎臓の血管芽腫を主徴とする。すなわち、腎嚢胞および淡明腎細胞がん、褐色細胞腫、膵嚢胞および神経内分泌腫瘍、内リンパ嚢腫瘍、および精巣上体嚢胞および広靭帯内嚢胞などである。

    VHL病患者の褐色細胞腫の発症頻度は全体で10%〜20%であるが、疾患サブタイプによって異なる。VHL病患者における褐色細胞腫発症平均年齢はおよそ30歳であるが、10歳未満で発症する患者もいる[Lonserら2003]。VHL1型患者の褐色細胞腫発症率は6%〜9%に過ぎないが、2型では有病率が40%〜59%と高くなる。VHL 2C型では、表現型としては褐色細胞腫のみ発症する。

    褐色細胞腫のおよそ50%は両側性である。VHL病における褐色細胞腫では、主にノルエピネフリンおよびノルメタネフリンが分泌される。VHL関連カテコールアミン分泌性腫瘍のおよそ5%は悪性化し、副腎外交感神経性パラガングリオーマとなることがもっとも多く[Maher 2004]。しかし、副腎外交感神経性パラガングリオーマの発症頻度は低い[Jiménezら2006、Pacakら2007]。

    VHL病は多くの場合、臨床的背景において遺伝性PGL/PCC症候群との鑑別が可能であるが、分子遺伝学的検査を要することがある[Jiménezら2006]。シーケンス解析および欠失/重複解析を実施する場合、VHLの分子遺伝学的検査の感度は100%に近い[Lonserら2003]。
  • 多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2):RETの変異による常染色体優性症候群である。MEN2Aサブタイプは、髄様甲状腺がん、褐色細胞腫、および副甲状腺機能亢進を主徴とする。MEN2AはMEN2の80%以上を占めている。MEN2Bサブタイプでは副甲状腺機能亢進は見られないが、皮膚粘膜神経腫および/または胃腸粘膜のびまん性神経節神経腫症、マルファン様体型、関節弛緩症、および骨格奇形が認められる。MEN2BはMEN2のおよそ5%を占めている。サブタイプである家族性髄様甲状腺がん(FMTC)では唯一の特徴として髄様甲状腺がんが認められる。

    MEN2AおよびMEN2B患者のおよそ50%が褐色細胞腫を発症する。これは、患者の25%で認められる最初の兆候である。褐色細胞腫は50%〜80%の症例では両側性であるが、ほとんどは良性である。腫瘍は主にエピネフリンおよびメタネフリンを分泌する。副腎外交感神経性パラガングリオーマはMEN2ではほとんど発症しない[Ericksonら2001、Jiménezら2006、Mariniら2006、Pacakら2007]。

    甲状腺髄様がんはMEN2のもっともよく認められる特徴である。MEN2を疑うきっかけは家族歴に基づくことが多く、褐色細胞腫患者は単発症例としてはあまり見られない。
  • カーニーの三徴(OMIM 604287)は実にまれな疾患で、主に若年女性に発症する。この疾患については1977年に最初に報告され、典型的なカーニーの三徴には、副腎外交感神経性パラガングリオーマ、消化管間質細胞腫瘍、肺軟骨腫が含まれていた。その後、副腎皮質腺腫および食道平滑筋腫がこの症候群と関連することが示された[Stratakis 2009]。カーニーは、罹患者の78%は典型的な3つの腫瘍のうち2つを有し、22%は3つすべての腫瘍を呈すると報告した[Carney 1999]。遺伝性PGLまたは遺伝性GISTに関連する遺伝子に病的バリアントは認められていない[Matyakhinaら2007、Stratakis 2009]。しかし、この症候群に関わっていると考えられる染色体変化[染色体1の短いアーム(1p)および長いアーム(1q)の考え得る領域欠損を含む]が顕著であった。本症候群に関わる従来の腫瘍は、遺伝性PGL/PCC症候群と鑑別する必要がある。
  • カーニー・ストラタキスの二徴(カーニー・ストラタキス症候群)(OMIM 606864)は、パラガングリオーマおよびGISTSから成り、カーニー・ストラタキスにより報告された[2002]。カーニー・ストラタキスの二徴はカーニーの三徴とは異なると考えられている。カーニー・ストラタキス[2002]は、浸透率が高くない常染色体優性遺伝だと思われるパラガングリオーマおよびGISTの5家系について報告した。パラガングリオーマが頭蓋底および頸部、胸部、および腹部に発症する。産生性および非産生性腫瘍のいずれもが同定されている。遺伝的に関連のないカーニー・ストラタキスの二徴を有する6家系の6名について、McWhinneyら[2007]は、3名にSDHBの病的バリアントが、2名にSCHCの病的バリアントが、1名にSDHDの病的バリアントが認められたと報告した。Tenorio Jiménezら[2012]は、カーニー・ストラタキスの二徴およびSDHDの病的バリアント症例について報告した。

管理

初期診断後の評価

遺伝性PGL/PCC症候群患者の病変の部位や今後の治療方針を確立するために、以下の項目の実施が推奨される。

  • MRI/CT、123I-MIBG、および可能であればPETを用いた画像検査を行い、腫瘍の位置を診断し、疾病負荷を定量化する。
  • 副腎外交感神経性パラガングリオーマおよび褐色細胞腫患者の、原因治療施行前にコントロールする必要がある血圧上昇、頻脈、およびカテコールアミン過剰産生の他の自他覚的症状についての評価。
  • 説明のできない胃腸症状(腹部疼痛、上部胃腸出血、悪心、嘔吐、嚥下困難など)を有するまたは説明のできない腸閉塞または貧血を経験する小児、青年、若年成人における消化管間質細胞腫瘍(GIST)の評価の検討[Pasiniら2008]。
  • SDHBの病的バリアントを有する場合、腎細胞がんのスクリーニングについての検討。
  • 臨床遺伝学的コンサルテーション

症状に対する治療

PGL/PCC患者の管理に関する診療ガイドラインが近年発表された[Lendersら2014](全文購読には登録あるいは学認利用アクセスが必要)。

遺伝性PGL/PCC症候群患者における腫瘍の管理は、散発性腫瘍の管理に類似している[Young 2011]。しかし、遺伝性PGL/PCC症候群患者は、散発性腫瘍患者に比べて複数の腫瘍および多発性を示し、および/または悪性化する可能性が高い。

分泌性腫瘍の治療は、外科的切除前のアドレナリン受容体遮断薬によるカテコールアミン過剰産生の阻害が焦点となる。悪性腫瘍の治療は外科的切除と転移拡散による有害作用の緩和のために行われる[Eisenhoferら2004、Lendersら2005]。

非産生性頭蓋底および頸部パラガングリオーマについては、早期検出により時宜にかなった外科的切除が可能で、手術による合併症軽減や、予後を改善すると考えられている[Rinaldoら2004、Gujrathi & Donald 2005]。

頚動脈小体および迷走神経パラガングリオーマについては、ほとんどすべての症例の治療選択肢は外科的切除である。ほとんどの場合は良性で、完全に切除可能である。
注:高齢者または臨床的に重要な併存症がある場合、手術は遅れることがあり、画像による腫瘍の定期的なモニターがすすめられる。これらの症例では放射線治療も考慮できる[Gujrathi & Donald 2005]。

  • 頸静脈鼓室パラガングリオーマ、小さい腫瘍であれば通常困難なく切除可能である。大規模腫瘍の切除は髄液漏、髄膜炎、脳卒中、聴覚消失、脳神経麻痺、あるいは死亡につながることがある。したがって、症状を注意深く観察しながらの手術が賢明であると思われる。放射線治療も考慮できるが、考え得る長期リスクとして原発性腫瘍および他の放射線誘発腫瘍の悪性化が挙げられ、定位放射線手術の施行も考えられる[Gujrathi & Donald 2005]。

褐色細胞腫については、手術(腹腔鏡が望ましい)が治療選択肢である[Lendersら 2005、Young 2011]。

  • 術前処置。副腎クロム親和性細胞腫瘍からのカテコールアミン過剰産生による慢性および急性作用は術前に対処しなくてはならない。血圧を制御し術中高血圧クリーゼを予防するためにα-およびβ-アドレナリン受容体遮断薬の併用が求められる。メイヨークリニックでは、次のアプローチを用いることで、カテコールアミン分泌性腫瘍切除を行う患者のうち術後の血液管理を要したのは7%のみとなった[Young 2006、Young 2011]。
    • 術前の少なくとも7〜10日前に開始するα-アドレナリン遮断により血圧および血漿増量の正常化が可能になる。α遮断薬の用量は年齢ごとの正常収縮期血圧下限に合わせて調整する。
    • 高ナトリウム食
    • 適切なα-アドレナリン遮断が達成したら、β-アドレナリンの遮断を開始する(手術3日前など)。β-アドレナリン受容体遮断薬の用量は目標心拍数(80/bpm)に合わせて調整する。
  • 術後処置。術後およそ1〜2週間で、24時間尿中メタネフリン分画およびカテコールアミンおよび/または血漿メタネフリン分画を測定すべきである。
    • 測定値が正常であれば、生化学的に活性な褐色細胞腫またはパラガングリオーマが完全に切除されたと考える。
    • 測定値が上昇していれば、切除していない二次腫瘍および/または不顕性転移を疑うべきである。

SDHB病的バリアントを有する場合、パラガングリオーマまたは褐色細胞腫は検出後できるだけ速やかに切除すべきである。副腎外交感神経性パラガングリオーマは転移しやすいため、迅速な切除が特に重要である。

二次性合併症の予防

定期検査および腫瘍切除を介した早期検出により、腫瘍占拠効果、カテコールアミン過剰産生、および悪性化に関連する合併症を予防し、最小限にできる可能性がある。

定期検査

遺伝性PGL/PCC症候群が既知の患者、遺伝性PGL/PCC症候群の臨床的兆候がないもののSDHASDHBSDHCSDHDSDHAF2あるいはMAX病的バリアント陽性が既知の患者、および家族歴に基づいてリスクがあるにもかかわらずDNAベースの検査を受けたことがない血縁者は、遺伝性PGL/PCC症候群治療経験のある医師または医療チームによる定期的な臨床モニタリングを受けるべきである。

スクリーニングは10歳時点、または家系内の最若年発症者の発症年齢から10歳を引いた年齢で開始すべきである。Bennら[2006]は、生涯にわたるスクリーニングを10歳で開始した場合は、SDHD病的バリアント保因者で100%、SDHB病的バリアント保因者では96%で疾患が検出できるであろうとしている。

リスクのある人に対していつ、どのように、およびどの頻度で生化学的検査および画像検査を行うべきかについては明確な合意が得られておらず、生涯にわたって毎年1回生化学的および臨床的定期検査を検討することが妥当である。これらの検査には画像診断も含まれるべきである[Mannelli2006、Pacakら2007、Lendersら2014]。モニタリングには以下の項目を含む。

  • 転移性疾患、腫瘍再発、他の腫瘍の発症を検出するための24時間メタネフリン分画測定およびカテコールアミンおよび/または血漿メタネフリン分画の尿中排泄測定。
  • メタネフリン分画および/またはカテコールアミン値が上昇している場合は当然、原発腫瘍が増大傾向が無くカテコールアミン/メタネフリン分画の過剰産生が見られない場合であっても、MRI、CT、123I-MIBG、またはFDG-PETによる追跡画像検査は必要。一部の患者では、原発腫瘍を同定する上でもっとも効果的であったな撮像方法は定期検査においても同様に効果的である場合がある。PGL/PCC関連遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントを有する患者の累積被ばくの懸念から判断すると、MRIは好ましい画像診断法であり、CTおよび核医学診断装置は検出された腫瘍をさらに明らかにする場合に用いる。
  • SDHDおよびSDHC病的バリアントを有する場合、定期的な(2年間ごとなど)頭蓋底および頸部MRIまたはCTを行ってパラガングリオーマを検出し、定期的な(4年ごとなど)全身MRIまたはCTおよび123I-MIBGシンチグラフィによって頸部および頭蓋底の後部に生じるパラガングリオーマまたは転移性疾患を検出する。
  • SDHB病的バリアントの場合、定期的な(2年間ごとなど)頭蓋底および頸部MRIまたはCTを行ってパラガングリオーマを検出し、定期的な(4年ごとなど)123I-MIBGシンチグラフィによりMRIまたはCTで検出できなかったパラガングリオーマまたは転移性疾患を検出する。
  • 説明できない胃腸症状(腹部疼痛、上部胃腸出血、悪心、嘔吐、嚥下困難など)を有する場合または説明できない腸閉塞または貧血を経験する場合(特に小児、青年、または若年成人)、GISTの評価を検討する[Pasiniら2008]。
  • SDHB病的バリアントを有する場合、腎細胞がんのスクリーニングを検討する。

回避すべき薬剤や環境

遺伝性PGL/PCC症候群の浸透度は、高地の居住者または慢性的に低酸素状態にある人で上昇する場合がある[Pacheco-Ojedaら1988、Astromら2003]。高地での居住を回避したり、低酸素状態に長期間さらされる活動を避けたりすることを検討すべきである。

SDHASDHBSDHCSDHDSDHAF2、またはMAXに病的バリアントを有する場合、慢性肺疾患を引き起こしやすい喫煙などの行動は推奨されない。

リスクのある血縁者の検査

早期診断および治療は患者の予後を変える可能性が高いため(特に悪性疾患の前兆となるSDHB病的バリアントの観点から)、家族病的バリアント陽性が明らかになったら可及的速やかにリスクのある血縁者に遺伝子検査を促すことが進められる。

SDHASDHBSDHC、およびSDHDSDHAF2、またはMAXの病的バリアント保因者のすべての一親等血縁者には、10歳までにまたは家系内の最若年発症者の発症年齢から10歳を引いた年齢で遺伝子検査を含む発症前検査を行うべきである。

リスクのある家族に分子遺伝学的検査を実施して早期に同定することで、診断の確実性を向上し、病的バリアントを持っていない家系員のスクリーニングに必要なコストを軽減できる。腫瘍の早期検出により外科的切除が容易になり、手術関連の合併症を減らし、おそらく悪性化または転移に移行する前に切除することが可能になる[Youngら2002]。

  • 以前に病的バリアントが同定されている家系で家族特異的病的バリアントがみられない血縁者は定期的な臨床的、生化学的と画像検査、およびそれに伴う心労からも解放される。
  • その家系に特異的な病的バリアントを保持している家系員には、パラガングリオーマおよび褐色細胞腫のリスクを知らせることができ、定期検査で述べた生化学的および画像検査を促すことができる。

注:罹患者において病的バリアントの同定(または病的バリアントがないことの確認)があらかじめされてない場合は、リスクのある無症候性の血縁者の分子遺伝子検査の陰性結果を解釈する事は不可能である。

リスクのある血縁者の遺伝カウンセリング目的の検査関連の課題については、「遺伝カウンセリング」の項参照。

妊娠管理

妊娠中の遺伝性PGL/PCCの診断および管理に関する一致した管理ガイドラインはない。妊娠中の高血圧には他によくみられる理由(子癇前症など)があるため(子癇前症など)、常に妊婦にこれらの腫瘍の存在する可能性は疑うべきである。分泌性PGL/PCCは妊娠中のいずれの時点でも現れる可能性が高く(子癇前症は妊娠第2期あるいは第3期で生じることが多い)、一般的に体重増加や浮腫、タンパク尿、血小板減少症を伴わない。PGL/PCC患者は動悸、発汗、蒼白、起立性低血圧、および糖尿を伴いやすく、高血圧は一時的であることが多い。

妊娠中の血中遊離メタネフリン分画測定の使用については経験がほとんどないため、メタネフリン分画およびカテコールアミン分画の24時間蓄尿を検査の第一選択肢として用いるべきである。CTでは胎児への被ばくがあるため、ガドリニウムを投与しないMRIを検査の第一選択肢として用いて腫瘍の位置診断を行うべきである。同様の理由で、放射性同位体画像検査は妊娠後まで延期し、母乳による授乳をしていない場合に限るべきである。

手術はこれらの腫瘍に対する最終的治療であり、同時に適切なα-アドレナリン、および必要に応じて、それに続くβ-アドレナリン遮断により高血圧性クリーゼを予防する。フェノキシベンザミンはカテコールアミン分泌性腫瘍患者である妊娠および非妊娠女性のいずれにも選択できるα遮断薬である[Reischら2006]。腹腔内PGL/PCCについては、腫瘍サイズが適していれば腹腔鏡手術アプローチが理想的である。妊娠24週以降は、腫瘍へのアクセスに問題があるため、胎児の成長が34週に達するまで手術を延期する必要がある。このような状況では選択的帝王切開と併せた開腹手術アプローチが必要となる場合がある。選択症例で経腟分娩を実施した場合にのみ良好な結果が報告されている[Jungleeら2007]。

研究中の治療

低酸素誘導因子(HIF)活性の作用を阻害するあるいは制御する試み(例えばプロリルヒドロキシラーゼ活性の強化)について検討されており、遺伝性PGL/PCC症候群に有用な治療の基礎をもたらしている[Leeら2005、Selakら2005]。

  • 化合物R59949は、正常および低酸素状態のいずれの場合でもHIF1αの細胞株への蓄積を阻害しながらプロリルヒドロキシラーゼ活性を増強する[Temesら2005]。
  • HIFを阻害する他の薬剤には、mTOR阻害薬、HSP90阻害薬、HDAC阻害薬、チオレドキシン-1阻害薬、および微小管重合阻害薬の一部がある。

血管内皮細胞増殖因子(VEGF)受容体阻害薬(SU11248およびBAY43-9006など)は遺伝性PGL/PCC症候群の治療に有用である可能性がある[Kaelin 2005]。研究中の他の物質には、パゾパニブおよびスニチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬がある。

幅広い疾患および症状に関する臨床試験の情報にアクセスするにはClinicalTrials.govを検索のこと。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

遺伝性PGL/PCC症候群は常染色体優性遺伝の形式を示す。SDHDの病的バリアント(PGL1)およびおそらくSDHAF2(PGL2)およびMAXは片親起源効果を示し、父系起源の場合はほぼ例外なく疾患の原因となる[Baysal 2004]。

家族に対するリスク

発端者の両親

  • 遺伝性PGL/PCC症候群患者の多くは病的バリアントを片親から遺伝している。しかし、SDHDSDHAF2、およびMAX病的バリアントに関わる片親起源効果と同時に、年齢依存性浸透度およびSDHASDHBSDHCSDHDSDHAF2、およびMAX病的バリアントの表現度の差異により、病的バリアントを遺伝している相当数の人が散発性でことが予測できる。
  • 遺伝性PGL/PCC症候群の発端者は新生病的バリアントの結果として疾患を発症することがある。新生病的バリアントが原因である症例の割合は不明である。1件の研究では、新生病的バリアントがSDHD病的バリアントを有する24名中2名に認められた一方、SDHB病的バリアントを有する25名中に新生病的バリアントは同定されなかった[Neumannら2004]。
  • 発端者でみられる病的バリアントが、いずれかの親から継承した白血球DNAでも検出できなかった場合は、2つの説明が考えられる。1つは片親の生殖細胞系列モザイク現象で、もう1つは発端者の新生病的バリアントである。生殖細胞系列モザイク現象例は報告されていないが、依然として散発例の可能性は否定できない。
  • 発端者に明らかなデノボ病的バリアントが同定された場合、両親にも、発端者の病的バリアントの検査が推奨される。
  • 遺伝性PGL/PCC症候群と診断された患者の家族歴は、家族の疾患、症状発現前の親の早期死亡、または罹患親の疾患の後期発症を認識することができず、一見陰性となることがあると思われる。したがって、発端者の両親の適切な評価が行われない限り、明らかに陰性の家族歴は確定できない。

注:親が病的バリアントの発端者の場合、バリアントに対する体細胞モザイク現象がみられることがあり、両親と同胞への影響はは軽度か最小であると思われる。これはVHL患者[Murgiaら2000]およびHIF2A関連赤血球増加症/パラガングリオーマ[Buffetら2014]で報告されている。

発端者の兄弟姉妹

  • 発端者の兄弟姉妹リスクは発端者の両親の遺伝子の状態によって異なる。
  • 発端者の親が罹患している場合、またはPGL/PCC関連遺伝子に病的バリアントを保有する場合、兄弟姉妹が病的バリアントを遺伝するリスクは50%である。
  • 発端者の兄弟姉妹は両親が臨床的に罹患していない場合でも、親では浸透率が低い可能性もあり、 PGL/PCC症候群のリスクがある。
  • 発端者でみられる病的バリアントがいずれかの親から継承した白血球DNAでも検出できなかった場合は、兄弟姉妹のリスクは低いが、生殖細胞系列モザイク現象の可能性により一般集団よりは高い。

発端者の子

遺伝性PGL/PCC症候群患者の子供は病的バリアントを50%の確率で遺伝する。

  • SDHDSDHAF2、またはMAX病的バリアントを母親から遺伝した人は通常疾患発症のリスクがない(しかしその子には、疾患の原因となる変異を有するアレルが遺伝するリスクが50%ある)。しかし、次のような例外もある。Pignyら[2008]は、頭蓋底および頸部パラガングリオーマを伴うSDHD病的バリアントの母系遺伝がみられる11歳の少年について報告している。
  • SDHDSDHAF2、またはMAX病的バリアントを父親から遺伝した人はPGLおよびPCCの発症リスクがある。

発端者の他の家族

他の家族へのリスクは発端者の両親の病的バリアントの状態および発端者との生物学的関係によって異なる。片親が罹患している場合、または病的バリアントを保有している場合、リスクは家系分析および/または分子遺伝学的検査により判定できる。

遺伝カウンセリングに関連した問題.

早期診断および治療目的でリスクのある血縁者を評価する際の情報については、「管理」、「リスクのある血縁者の検査」参照。

明らかなデノボ病的バリアントを保有する家族に対する配慮。遺伝性PGL/PCC症候群の発端者のいずれの親にも病的バリアントまたは疾患の臨床的エビデンスが見られない場合、病的バリアントはデノボである可能性が高い。しかし、考え得る非医学的説明として、父系または母系の変更(生殖補助医療など)または明かされていない養子縁組などが挙げられる。

家族計画

  • 遺伝リスクの判定および出生前検査についての検討は妊娠前に行われるのが望ましい。

    罹患しているまたはリスクのある若年成人や遺伝カウンセリング(子供への潜在的リスクや生殖医療の選択肢の検討を含む)の実施が適切である。

DNAバンクは将来使用する可能性に備えてDNA(通常白血球細胞から抽出する)を保管する機関である。検査方法および我々の遺伝子、アレルバリアント、および疾患に対する理解が今後進歩する可能性が高いため、罹患者DNAのバンクへの寄託を考慮すべきである。

出生前検査および着床前遺伝子診断

病的バリアントの原因となるPGL/PCCが罹患者の家族の一員に同定されれば、PGL/PCCのリスクがある妊娠についての出生前検査およびに着床前遺伝子診断が可能である。

特に早期診断ではなく妊娠中絶目的で検査を考慮する場合、出生前検査の実施について医療専門家によって、また家族内で見解が異なることがある。ほとんどの医療施設は出生前検査実施の決断は両親の選択にゆだねるとしているが、この問題については注意深い検討が求められる。


関連情報

GeneReviewsのスタッフは、この疾患患者およびその家族の便益のために、以下の疾患特異的およびまたはアンブレラサポート組織および/またはレジストリを選択した。GeneReviewは他の組織から提供された情報についてその責を負わない。選択条件関する情報についてはここをクリック。

  • My46 Trait Profile
    遺伝性パラガングリオーマ/褐色細胞腫症候群
  • Pheo Para Troopers
    データ収集、治療、および患者の治療における主要イニシアチブを支援しながら知識を通して褐色細胞腫および傍神経節細胞腫患者を力づけ、サポートするために、共同体意識および支援を行う目的。
    PO Box 2064
    Kokomo IN 46904-2064
    Eメール:info@pheoparatroopers.org
    www.pheoparatroopers.org
  • アメリカ聴覚研究財団(AHRF)
    8 South Michigan Avenue Suite 1205 Chicago IL 60603-4539
    電話:312-726-9670
    ファックス:312-726-9695
    Eメール:ahrf@american-hearing.org
    パラガングリオーマ瘍(グロームス腫瘍)
  • Medline Plus
    褐色細胞腫
  • 国立がん研究所(NCI)
    褐色細胞腫 ホームページ
  • AMEND研究レジストリ
    The Warehouse Draper Street Tunbridge Wells Kent TN4 0PG United Kingdom
    電話:+44 1892 516076
    Eメール:jo.grey@amend.org.uk
    GENレジストリ

分子遺伝学

下記の記述は最新の情報が含まれているため、GeneReviewsに記載されているほかの情報と異なる場合がある

表A.遺伝性パラガングリオーマ/褐色細胞腫症候群:遺伝子およびデータベース

遺伝子座名 遺伝子 染色体遺伝子座 タンパク質 遺伝子座特異的データベース HGMD ClinVar
PGL1 SDHD 11q23.1 コハク酸脱水素酵素 [ユビキノン] シトクロムb 小サブユニット、ミトコンドリア TCAサイクル遺伝子変異データベース(SDHD SDHD SDHD
PGL2 SDHAF2 11q12.2 コハク酸脱水素酵素集合因子2、ミトコンドリア SDHAF2 @ LOVD SDHAF2 SDHAF2
PGL3 SDHC 1q23.3 コハク酸脱水素酵素シトクロムb560サブユニット、ミトコンドリア TCAサイクル遺伝子変異データベース(SDHC SDHC SDHC
PGL4 SDHB 1p36.13 コハク酸脱水素酵素 [ユビキノン] 鉄硫黄サブユニット、ミトコンドリア TCAサイクル遺伝子変異データベース(SDHB SDHB SDHB
PGL5 SDHA 5p15.33 コハク酸脱水素酵素 [ユビキノン]フラボタンパク質サブユニット、ミトコンドリア TCAサイクル遺伝子変異データベース(SDHA SDHA SDHA
  MAX 14q23.3 タンパク質 MAX MAX @ LOVD MAX MAX
データは以下の参照標準から収集した:遺伝子:HGNCから、染色体遺伝子座:OMIMから、タンパク質:UniProtから。データベースの記述について(遺伝子座特異的、HGMD、ClinVar)のリンクはここをクリック。

表B.遺伝性パラガングリオーマ/褐色細胞腫症候群に関するOMIMエントリ(全文はOMIM参照)

115310

パラガングリオーマ4;PGL4

154950

MAX タンパク質;MAX

168000

パラガングリオーマ1;PGL1

171300

褐色細胞腫

185470

コハク酸脱水素酵素複合体、サブユニットB、鉄硫黄タンパク質;SDHB

600857

コハク酸脱水素酵素複合体、サブユニットA、フラボタンパク質;SDHA

601650

パラガングリオーマ2;PGL2

602413

コハク酸脱水素酵素複合体、サブユニットC、内在性膜タンパク質、15-KD;SDHC

602690

コハク酸脱水素酵素複合体、サブユニットD、内在性膜タンパク質;SDHD

605373

パラガングリオーマ3;PGL3

613019

コハク酸脱水素酵素複合体集合因子2;SDHAF2

614165

パラガングリオーマ5;PGL5

分子遺伝学的病因

4つの核内遺伝子は、ミトコンドリア酵素コハク酸脱水素酵素(SDH)の4つのサブユニットをコードして、遺伝性PGL/PCCの原因となる。SDHはクレブス回路でコハク酸塩をフマル酸塩に変換し、電子伝達系の複合体IIとして機能する。5つめの核内遺伝子であるDHAF2(SDH5としても知られている)は、複合体の安定化に加えて他のSDHサブユニット(SDHA)のフラビン化に必要だと思われるタンパク質をコードする。タンパク質はしたがってSDHの機能に必要である。これらは総合してSDHx遺伝子として知られている。

遺伝性PGL/PCCにおけるEGLN1KIF1B、IDH1、およびFHの役割はいまだ不明である(「その他」の項を参照)。

クヌードソンの「2ヒット」仮説によると、SDHASDHBSDHCSDHD、およびSDHAF2は、がん抑制遺伝子としての機能を果たすと考えられている。そのため、最初のヒット(遺伝子の最初のアレルにおける病的バリアントの不活化)は、生殖細胞系列バリアントとしての遺伝であり、2つ目のヒット(同一遺伝子の残りのアレルにおける病的バリアントの不活化)は体細胞組織の細胞分裂中に生じる。2つ目の病的バリアント不活化は、大規模染色体再編、組換え、一塩基バリアント、またはアレルの不活化をもたらす後成的変化の結果であると思われる。

共通の神経堤から分化誘導される点で、頭蓋底および頸部パラガングリオーマ、交感神経性副腎外パラガングリオーマ、および褐色細胞腫は、単一の関連し合った症候群とも説明できる。基質のコハク酸をめぐる競争的もしくは補足的理論により、コハク酸脱水素酵素/ミトコンドリア複合体II病的バリアントと腫瘍形成の関係が説明できる可能性がある。

4つの遺伝子のコードするタンパク質は、ミトコンドリアに存在するコハク酸脱水素酵素の4つのサブユニットであり、遺伝性PGL/PCC症候群の発症に関わっている。SDHAF2はSDHAのフラビン化に必要とされるタンパク質をコードする。コハク酸脱水素酵素はクレブス回路でコハク酸をフマル酸に変換し、電子伝達系の複合体IIとしても機能し、かつ両者をリンクさせる働きもする。核内遺伝子SDHDおよびSDHCは2つの細胞膜貫通タンパク質、触媒部位をミトコンドリア内膜に固定するサブユニットDおよびCをコードする。サブユニットBは核内遺伝子SDHBにコードされる鉄硫黄タンパク質であり、触媒活性に必要である。このタンパク質はコハク酸からフマル酸への変換中に放出された電子を、ミトコンドリア内膜の内側にサブユニットDおよびCにより結合されるコエンザイムQへ移動する[Engら2003、Gottlieb & Tomlinson 2005]。

腫瘍化の一つの仮説として、SDHASDHBSDHC、またはSDHDの不活性変異がホモ接合型になった結果、細胞内のコハク酸塩細胞濃度および/または活性酸素種の生成増加がもたらす偽性低酸素状態がある。コハク酸濃度の上昇は、プロリルヒドロキシラーゼを阻害することで転写因子HIF1αを安定させると思われる。HIF1αは細胞内で継続的に産生され、分解されると考えられている。プロリルヒドロキシラーゼの機能は、HIF1α分解につながるVHLタンパクを介在するユビキチン化に必要である。プロリルヒドロキシラーゼが阻害されることで、結果的に細胞内コハク酸濃度増加がHIF1α安定を招来し、細胞低酸素/血管新生経路が亢進する。上昇したHIF1α値によりグルコースの取り込みが促され、血管新生因子、成長因子、およびマイトジェン因子の発現が増加する。これらの因子として、VEGFおよび血小板由来成長因子、βポリペプチド(PDGFβ)、エリスロポエチン、およびトランスフォーミング増殖因子α(TGFα)などが挙げられる[Maher 2004、Gottlieb & Tomlinson 2005、Pollardら2005、Selakら2005]。

注:常染色体劣性遺伝するSDHAの変異(4番目のSDHサブユニットをコードする遺伝子)は遅発性視神経萎縮およびリー症候群(mtDNA病的バリアントに起因するリー症候群の考察については「ミトコンドリア異常の概要」の項を参照)、早期発症を主徴とする神経変性疾患、進行性エンセファロパシーに関連している。SDHAの病的バリアントと遺伝性PGL/PCC症候群の関連はごく最近報告された。

SDHA

遺伝子構造SDHAは15エクソンから成り、長さはおよそ39kbである。SDHAは2390-bpの転写産物(基準シーケンスNM_004168.3)をコードする。遺伝子およびタンパク質情報の詳細な概要については、表A「遺伝子」参照。

良性バリアントSDHAには臨床的意義が不確定なバリアントとともに既知の良性バリアントが存在する。SDサブユニット遺伝子についての良性および病的バリアントのデータベースはライデン大学メディカルセンターが保管している(表A参照)。

病的バリアント。表5参照。2つの病的ミスセンスバリアント(p.Arg585Trpおよびp.Arg589Trp)および1つの病的ナンセンスバリアント(p.Arg31Ter)が遺伝性PGL/PCC患者で報告されている。SDHサブユニット遺伝子についての正常および病的バリアントのデータベースはライデン大学メディカルセンターが保管している(表A参照)。

表5.選択したSDHA病的バリアント

DNAヌクレオチド変化 予測タンパク質変化 基準シーケンス
c.91C>T p.Arg31Ter NM_004168.3
NP_004159.2
c.1753C>T p.Arg585Trp
c.1765C>T p.Arg589Trp

注:バリアント分類について:表に記載したバリアントは著者から提供された。GeneReviewsのスタッフはバリアントの分類を独自に検証していない。
注:病名について:GeneReviewsはHuman Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の記載方法に従った。表記法についてはクイックリファレンス(Quick Reference)を参照。

正常な遺伝子産物。DHAはコハク酸塩-ユビキノン酸化還元酵素のフラボタンパク質サブユニットをコードする。

異常な遺伝子産物SDHAの病的バリアントにより、コハク酸脱水素酵素機能の低下や欠損が生じる。これは影響を受けたサブユニットの欠損や機能不全、またはSDHヘテロ四量体のアセンブル不備によるものである。

SDHB

遺伝子構造SDHBは8エクソンから成り、その長さはおよそ40 kbである。SDHBは1162-bpの転写産物(基準シーケンスNM_003000.2)をコードする。遺伝子およびタンパク質情報の詳細な概要については、表A「遺伝子」参照。

良性バリアントSDHBには臨床的意義が不確定なバリアントとともに既知の良性バリアントが存在する。SDHサブユニット遺伝子についての良性および病的バリアントのデータベースはライデン大学メディカルセンターが保管している(表A参照)。

病的バリアント。ナンセンス、ミスセンス、およびスプライス部位バリアント、遺伝子内の欠失および挿入、および全遺伝子SDHB欠失が遺伝性パラガングリオーマ症候群患者や血縁者で報告されている。SDHBについては100以上の病的シーケンスバリアントが報告されている。SDHサブユニット遺伝子についての正常および病的バリアントのデータベースライデン大学メディカルセンターが保管している(表A参照)。SDHBバリアントはエクソン1-7で顕著に認められる。

正常な遺伝子産物SDHBはコハク酸脱水素酵素(ユビキノン)鉄硫黄サブユニット、280のアミノ酸から構成されるタンパク質(レファレンスシーケンスNP_002991.2)をコードする。

異常な遺伝子産物SDHBの病的バリアントにより、コハク酸脱水素酵素機能の低下や欠損が生じる。これは影響を受けたサブユニットの欠損や機能不全、またはSDHヘテロ四量体のアセンブル不備によるものである。

SDHC

遺伝子構造SDHCは6エクソンから成り、長さは5 kbを超える。SDHCは2858-bpの転写産物(基準シーケンスNM_003001.3)をコードする。遺伝子およびタンパク質情報の詳細な概要については、表A「遺伝子」参照。

良性バリアントSDHCには臨床的意義が不確定なバリアントとともに既知の良性バリアントが存在する。SDサブユニット遺伝子についての良性および病的バリアントのデータベースはライデン大学メディカルセンターが保管している(表A参照)。

病的バリアントSDHCでは病的ナンセンス、ミスセンス、スプライス部位、および制御バリアントおよびエクソン欠失が遺伝性パラガングリオーマ症候群患者や血縁者で報告されている。SDHCについておよそ14の病的シーケンスバリアントが報告されている。病的バリアントは遺伝子コーディング領域全体で認められるが、エクソン3は例外である。

正常な遺伝子産物SDHCはコハク酸脱水素酵素シトクロムb560サブユニット、169のアミノ酸から構成されるタンパク質(基準シーケンスNP_002992.1)をコードする。

異常な遺伝子産物SDHCの病的バリアントにより、コハク酸脱水素酵素機能の低下や欠損が生じる。これは影響を受けたサブユニットの欠損や機能不全、またはSDHヘテロ四量体のアセンブル不備によるものである。

SDHD

遺伝子構造SDHDは4エクソンから成り、1313-bp転写に関わる。遺伝子およびタンパク質情報の詳細な概要については、表A「遺伝子」参照。

良性バリアントSDHDには臨床的意義が不確定なバリアントとともに既知の良性バリアントが存在する。SDHサブユニット遺伝子についての良性および病的バリアントのデータベースはライデン大学メディカルセンターが保管している(表A参照)。

病的バリアント。表6参照。SDHDでは病的ナンセンス、ミスセンス、およびスプライス部位バリアント、遺伝子内挿入および欠失、および全遺伝子欠失が遺伝性パラガングリオーマ症候群患者や血縁者で報告されている。SDHDについては70を超える病的シーケンスバリアントが報告されている(表A参照)。SDHD病的変異は遺伝子の4エクソン全体に分布している。オランダ人集団で同定された3つのSDHD創始者バリアント(p.Asp92Tyr、p.Leu139Pro、p.Leu95Pro)が、この集団における遺伝性PGL/PCC 症候群のほとんどの症例の原因となっている。他の集団では他の創始者変異が示されている。

米国でたびたび同定さている2つのSDHD病的変異(p.Pro81Leu、p.Arg38Ter)は一部の家系に単独で生じたと考えられる[Taschnerら2001、Baysalら2002]。

表6.選択したSDHD病的変異

DNAヌクレオチド変化 予測タンパク質変化 基準レファレンスシーケンス
c.3G>C p.Met1Ile 1 NP_002993.1
NP_002993.1
c.112C>T p.Arg38Ter
c.242C>T p.Pro81Leu
c.274G>T p.Asp92Tyr
c.284T>C p.Leu95Pro
c.416T>C p.Leu139Pro

注:変異分類について:表に記載した変異は著者から提供された。GeneReviewsのスタッフは変異の分類を独自に検証していない。
注:病名について:GeneReviewsはHuman Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の記載方法に従った。表記法についてはクイックリファレンス(Quick Reference)を参照。

  1. 表1参照。

 正常な遺伝子産物。SDHDはコハク酸脱水素酵素(ユビキノン)シトクロムb小サブユニット、159のアミノ酸から構成されるタンパク質をコードする。

異常な遺伝子産物SDHDの病的変異により、コハク酸脱水素酵素機能の低下や欠損が生じる。これは影響を受けたサブユニットの欠損や機能不、またはSDHヘテロ四量体のアセンブル不備によるものである。

SDHAF2

遺伝子構造SDHAF2(SDH5としても知られる)は4エクソンから成り、501-bp転写(基準シーケンスNM_017841.1)に関わる。遺伝子およびタンパク質情報の詳細な概要については、表A「遺伝子」参照。

良性変異。遺伝子のコーディングシーケンスにおいて良性変異および異議が不明確なバリアントは報告されていない。

病的変異。表7参照。van Baarsら[1982]の報告によるオランダ人家系の遺伝性PGL/PCC患者3名で、SDHAF2(SDH5としても知られる)のエクソン2の一塩基変化(c.232G>A)が同定された。これは、タンパク質のほとんどの保存領域におけるp.Gly78Arg変異となる。400名の罹患していない対照被験者では、病的変異はみられなかった[Haoら2009]。

表7.選択したSDHAF2病的変異

DNAヌクレオチド変化 予測タンパク質変化 基準シーケンス
c.232G>A p.Gly78Arg NM_017841.1
NP_060311.1

注:バリアント分類について:表に記載したバリアントは著者から提供された。GeneReviewsのスタッフはバリアントの分類を独自に検証していない。
注:病名について:GeneReviewsはHuman Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の記載方法に従った。表記法についてはクイックリファレンス(Quick Reference)を参照。

正常な遺伝子産物SDHAF2は166のアミノ酸残基から成るコハク酸脱水素酵素集合因子2をコードする。

異常な遺伝子産物SDHAF2タンパク質は、SDHAのフラビン化やSDH複合体の安定化、ひいてはSDH酵素の機能に必要であると思われる。エビデンスにより、SDHAF2のエクソン2のc.232G>A病的バリアントは、SDHAとの相互作用を損ないタンパク質を不安定にすることが示唆されている。

MAX

遺伝子構造MAXは5エクソンから成り、長さ2068-bpの転写産物(基準シーケンスNM_002382.3)をコードする。遺伝子およびタンパク質情報の詳細な概要については、表A「遺伝子」参照。

良性バリアント。良性バリアントが遺伝子のコーディングシーケンスで報告されている。

病的バリアント。病的ミスセンス、ナンセンス、およびスプライシングバリアントおよび遺伝子内欠失が遺伝性PGL/PCC患者で報告されている。

正常な遺伝子産物MAXは160のアミノ酸から構成されるタンパク質をコードする。このアミノ酸から構成されるタンパク質は、細胞増殖、分化、アポトーシスを制御するMYC-MAX-MXD1ベーシック・ヘリックス・ループ・ヘリックスロイシンジッパー(bHLHZ)転写因子のネットワークの二量化要素である。

異常な遺伝子産物MAXの病的バリアントはタンパク質産物の欠損や機能不全をもたらし、その結果、細胞増殖や細胞死に関わる多くの遺伝子が制御不能となる。

その他

PGL/PCC症候群に関わると考えられる遺伝子KIF1BおよびEGLN1(かつてはPHD2として知られていた)は遺伝性PGL/PCCとの関わりが報告されているが、それらの臨床的意義はいまだ不明である。KIF1BおよびEGLN1の役割は不明で、PGL/PCC症候群の通常の検査では考慮する必要はない。

  • KIF1B。生殖細胞系列KIF1B病的バリアントが1名のPCC患者で報告されているが、体細胞病的バリアントが認められた少数のPCC患者では生殖細胞系列DNA検体が入手不可能であった[Schlisioら2008]。そのため、遺伝性PGL/PCCにおけるKIF1B病的バリアントの役割は不明である。
    • 生殖細胞系列KIF1B機能喪失型バリアントが神経芽細胞腫患者で報告されている[Schlisioら2008]。
    • KIF1Bは、ミトコンドリアの順行性輸送の単量体モーターとして機能するタンパク質をコードする。
  • EGLN1。既知の感受性遺伝子検査結果が陰性であった遺伝性PCCの82名では、EGLN1に病的バリアントは同定されなかった[Astutiら2010]。
    • 生殖細胞系列EGLN1病的バリアントも家族性赤血球増加症患者で報告されている[Ladroueら2008]。
    • 生殖細胞系列EGLN1病的バリアントは赤血球増加症および再発PGLの1名でのみ報告されている[Ladroueら 2008]。同一の病的バリアントを有する血縁者では腫瘍は報告されていない。したがって、遺伝性PGL/PCCにおけるEGLN1病的バリアントの役割は不明である。
    • EGLN1は、ヒトのエリスロポエチン産生細胞低酸素誘導因子(HIF)レベルの制御において重要な役割を果たすタンパク質をコードする。
  • コハク酸によるプロリルヒドロキシラーゼ阻害は、神経成長因子レベルの低下に応えて正常に起こっている神経堤前駆細胞のアポトーシス低下の原因となることがある。このようなアポト―シス不全を来して残存した細胞が、その後悪性化すると考えられている[Leeら 2005]。キネシンKIF1Bβは近年、プロリルヒドロキシラーゼやEGLN3の下流で作用することが示されており、神経細胞におけるアポト―シス誘導に必要かつ十分であることが示されている。KIF1Bが染色体1p36.2に位置し、神経堤由来腫瘍では欠失していることが多いことは、この仮説をさらに裏付けている [Schlisioら 2008]。

更新履歴

  1. Gene Review著者: Roger D Klein, MD, JD, Ricardo V Lloyd, MD, PhD, William F Young, MD, MSc
    日本語訳者: 竹越一博(筑波大学大学院人間総合科学研究科病態制御医学臨床分子病態検査医学)
    Gene Review 最終更新日: 2008.5.21. 日本語訳最終更新日: 2008.9.1.

  2. Gene Review著者: : Salman Kirmani, MBBS and William F Young, MD, MSc
    日本語訳者: 竹越一博(筑波大学医学医療系臨床医学域)
    Gene Review 最終更新日: 2012.8.30. 日本語訳最終更新日: 2013.3.8. 8
  3. Gene Reviews著者: Salman Kimani, MBBS and William F Young, MD, MSc.
    日本語訳者: 竹越一博(筑波大学医学医療系臨床医学域スポーツ医学)
    AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)
    Gene Reviews 最終更新日: 2014.11.6. 日本語訳最終更新日:2018.9.9 in present)

原文: Hereditary Paraganglioma-Pheochromocytoma Syndrome

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