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ロイス・ディエツ症候群
(
Loeys-Dietz Syndrome)
[Loeys-Dietz Aortic Aneurysm Syndrome. Includes: TGFBR1-Related Loeys-Dietz Syndrome, TGFBR2-Related Loeys-Dietz Syndrome]

Gene Review著者: Bart L Loeys, MD, PhD, Harry C Dietz, MD
日本語訳者: 森崎裕子(国立循環器病センター研究所)
Gene Review 最終更新日: 2008.4.29. 日本語訳最終更新日: 2009.11.10.

原文 Loeys-Dietz Syndorme


要約

疾患の特徴 

ロイス・ディーツ症候群(LDS)は、血管系症状(脳動脈、胸部動脈、腹部動脈の動脈瘤・解離)と骨格系所見(漏斗胸または鳩胸、側彎、弛緩性関節、クモ状指趾、先天性内反足)に特徴づけられる疾患である。罹患者の約75%は、特徴的顔貌(眼間解離、二分口蓋垂・口蓋裂、頭蓋骨早期癒合症)を呈するLDS1型であり、約25%は特徴的皮膚所見(ビロード状で透過性の皮膚、アザができやすい、広範で萎縮性の瘢痕)を呈するLDS2型である。LDS1型とLDS2型とは明確に分類されているわけではなく臨床像としては一連のものである。LDSの自然歴では、若年進行性の広範な動脈瘤(平均死亡年齢:26.1才)と高率の妊娠時合併症(周産期死亡、子宮破裂)に注意する必要がある。

診断・検査 

LDSの診断は、発端者及び家族における特徴的な臨床症状と、遺伝子診断による。LDSに関与している遺伝子として現在明らかになっているのは、TGFBR1遺伝子及びTGFBR2遺伝子のみであり、これらの遺伝子検査は、臨床的にも診断的価値が認められている。TGFBR1遺伝子変異及びTGFBR2遺伝子変異の間には、患者における臨床症状の差異は認められていない。

臨床的マネジメント 

病変に対する治療:
LDSの血管病変に対するマネジメントの留意点:
マルファン症候群に比べ、血管径が小さくても解離を発症することがある。血管病変は、大動脈基部に限定されていない。β遮断薬や他の治療薬が、血行力学的ストレスを軽減する目的で使用される。動脈瘤に対しては、早期かつ積極的な外科的介入が適している。頸椎不安定性に対する外科的固定術は、脊髄損傷を防ぐために必要となることもある。先天性内反足及び重度の扁平足に対しては、標準的な治療を行う。口蓋裂、頭蓋骨早期癒合に対しても、標準的な治療を行う。頭蓋顔面異常に対してはチーム医療が望ましい。

二次的合併症の予防:歯科治療等、血液中に細菌が混入する可能性のある医療行為を行う際には、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)の予防を検討する。

定期検査:LDS患者は全て、頻回の心血管超音波(心血管エコー)検査により、上行大動脈の状態をモニターする必要がある。臨床症状に応じて、磁気共鳴血管造影検査(MRA)、あるいは、コンピュータ断層血管造影検査(CTA)も行う。頸椎不安定性や重度あるいは進行性の側彎症に対しては、整形外科医によるフォローを要する。
回避すべき薬剤や環境:身体衝突性の高いスポーツ、競技的スポーツ、あるいは等尺性運動(アイソメトリックエクササイズ)。うっ血除去薬の常用や心臓血管系を刺激する薬剤の服用。関節損傷や関節痛を引き起こすような活動。

遺伝的リスクのある血縁者の検査:発端者において、TGFBR1遺伝子あるいはTGFBR2遺伝子の変異が同定されている場合には、血縁者における遺伝的リスクを明らかにするための遺伝子診断が可能である。発端者で遺伝子変異が同定されていない場合には、血縁者にLDSの所見を認める場合、あるいは発端者において軽微な所見しか認めない場合には、血縁者においても、心血管超音波検査や広域の血管撮影検査を行ってLDSの兆候を評価する必要がある。

遺伝カウンセリング 

LDSは、常染色体優性遺伝形式で遺伝する。LDSと診断された患者の約25%は、罹患した親からの遺伝により発症する。約75%の患者は、新生突然変異により発症する。一方、罹患者からその子どもに遺伝子変異が受け継がれる確率は、それぞれの子どもごとに50%である。LDSの罹患リスクの高い血縁者における出生前診断は、家系における原因変異が同定されている場合には可能である


診断

臨床診断

ロイス・ディーツ症候群(LDS)は、以下に述べる4つの主要な臨床所見により特徴づけられる。

血管系

  • 大動脈拡張または解離。大動脈基部拡張は、発端者の95%以上に認められる。
  • その他の動脈の動脈瘤及び血管蛇行:頭部から骨盤腔にかけての磁気共鳴血管造影 (MRA)またはCTスキャンによる3次元再構築画像検査が、広範囲の動脈系における動脈瘤及び蛇行性病変を検出するのに最も有効である。

注: 調査したLDS患者の約50%で、通常の心血管エコー検査では検出できないと考えられるような大動脈基部から離れた部位に動脈瘤を認めた。

骨格系

  • 漏斗胸または鳩胸
  • 側彎
  • 弛緩性関節
  • クモ状指趾
  • 先天性内反足

頭蓋顔面系

  • 眼間解離
  • 二分口蓋垂・口蓋裂
  • 頭蓋骨早期癒合症。全ての頭蓋骨縫合の場合があり得る。最も多いのは矢状縫合(結果として長頭症となる)であるが、その他、冠状縫合(短頭症)、前頭縫合(三角頭蓋)もある。

皮膚

頭蓋顔面系の所見が乏しい患者では、以下の皮膚所見が重要である。

  • 血管が透けて見える透過性の皮膚
  • 易出血性(アザができやすい)
  • 萎縮性瘢痕

当初は2つの臨床型に分類された。現在では、これらの2つの臨床型は、明確に分類されるのではなく、一連の連続した表現型を2つのタイプに大別したものであると考えられている。
LDS1型(〜75%の症例):血管系、骨格系、および頭蓋顔面系所見を呈する。
LDS2型(〜25%の症例):血管系、骨格系、および皮膚所見を呈する。

注:(1)診断のための必要最低基準は未だ確立していない。(2)診断には、TGFBR1遺伝子及びTGFBR2遺伝子についての分子遺伝学的検査が重要である。

分子遺伝学的検査

遺伝子 

TGFBR1遺伝子とTGFBR2遺伝子 (トランスフォーミング増殖因子1型及び2型受容体遺伝子)が、現在、LDSの患者で変異の認められることが判明している遺伝子である。

注:TGFBR1遺伝子変異及びTGFBR2遺伝子変異の間には、患者における臨床症状の差異は認められていない。

臨床的検査

シークエンス(塩基配列)解析 典型的なLDSの臨床症状(動脈蛇行/大動脈瘤、眼間解離、二分口蓋垂、透過性皮膚)を呈する患者では、95%以上でTGFBR1あるいはTGFBR2の遺伝子変異を認める。
遺伝子欠失解析 TGFBR1およびTGFBR2の遺伝子領域における、単一エクソン欠失、複数エクソン欠失、全エクソン欠失等を検出する解析法は、数種類あり、臨床的検査に応用されている。欠失解析による変異の検出率は、不明である。

注:現時点では、TGFBR1遺伝子あるいはTGFBR2遺伝子の領域欠失による症例は見つかっていない。

表1は、この疾患の遺伝学的検査についてまとめたものである。

表1.LDSの分子遺伝学的検査

遺伝子
LDSにおける割合
検査方法
変異検出率
実施可能性
TGFBR1
〜25%
シークエンス解析
95%
臨床検査
欠失解析
不明
TGBFR2
〜75%
シークエンス解析
95%
臨床検査
欠失解析
不明

1. 種々の方法により、単一エクソン、複数エクソン、全エクソン領域についての欠失解析が可能である。

検査結果の解釈

参考)シークエンス解析の結果の解釈についての注意点。
検出されうる塩基置換の種類

  • すでに報告されている疾患の原因となる変異
  • 疾患の原因となると考えられるがまだ報告されていない変異
  • 臨床的意義の不明な塩基置換
  • 疾患の原因変異ではないと考えられるがまだ報告されていない塩基置換
  • 疾患の原因ではないことがすでに報告されている変異

変異が検出されなかった場合に考えられる可能性

  • 患者は検査した遺伝子には変異がない、すなわち、変異は他の遺伝子に存在する.
  • 患者はシークエンス解析では検出できない大きな欠失やスプライス変異などを有している.
  • 患者はシークエンス解析でカバーされていないイントロンや調節領域に変異を有している.

検査手順

発端者の診断確定のためには、疾患の原因となると考えられる原因遺伝子変異の同定によるところが大きい。

  • 遺伝子検査は、まず原因変異の約75%を占めるTGFBR2遺伝子のシークエンス解析から開始するのがよい。
  • TGFBR2遺伝子の変異が検出されなかった場合に、原因変異の約25%を占めるTGFBR1遺伝子の解析を行う。
  • 重複/欠失解析は、臨床症状よりLDSであることが間違いのない患者について、シークエンス解析で変異が検出されなかった場合に考慮される。

発症前診断無症状の家系内成人血縁者における発症前診断は、その家系における原因遺伝子変異が同定されている場合のみ可能である。

出生前診断及び着床前診断リスクが高い妊娠に対する出生前診断は、その家系における原因遺伝子変異が同定されている場合のみ可能である。

訳者注:日本におけるLDSの出生前診断は、現時点では実施されていない。

遺伝学的に関連のある疾患

いくつかの疾患が、TGFBR1遺伝子およびTGFBR2遺伝子の変異によって発症すると考えられている。しかし、LDSに関与する原因遺伝子と考えられているのは、現時点ではこの2つの遺伝子のみである。


臨床像

自然歴

TGFBR1遺伝子およびTGFBR2遺伝子変異の同定された患者52症例についての臨床像及び遺伝子変異の詳細が報告されている。約75%の症例が、血管系、骨格系、および頭蓋顔面系に典型的所見を呈するLDS1型であった。約25%の症例は、血管系、骨格系の典型的所見とビロード様で透過性の皮膚、易出血性、幅広の萎縮性瘢痕などの所見を呈するLDS2型であった。子宮破裂例も認めた。動脈瘤/解離は頭蓋内、胸部、腹部のあらゆる動脈血管系において認めた。同一の遺伝子変異でも、LDS1型を呈する場合とLDS2型を呈する場合があり、現時点では、これらの2つの臨床型は、明確には分類できない一連のものと考えられている。

LDS1型およびLDS2型ともに自然歴で特徴的なのは、動脈瘤/解離が若年進行性かつ広範である(平均死亡年齢 26.1才)ことと、妊娠中の死亡や子宮破裂などの妊娠関連合併症を高率で認めた(妊婦の6/11)ことである。LDS1型の患者では、LDS2型の患者に比べて、より若年で心血管系手術が行われており(13.0才対26.9才)、また死亡年齢も若かった(22.1才対31.8才)。LDSの52症例における54手術例において、術中死亡は1例のみであり、血管型エーラスダンロス症候群に比べると、手術予後ははるかに良い。今回の解析結果が、当初にLDSと確定診断された症例についてのものであり、重症例が多いというバイアスがかかった数値であることは否めないが、妊娠中の重篤な合併症は、比較的臨床症状の軽い症例でも認められていることは注意に値する。

心血管系

バルサルバ洞の部分での大動脈拡張、大動脈解離及び破裂、僧帽弁逸脱症(大動脈弁不全の有無にかかわらず)、肺動脈近位部拡大は、LDSの主要病変でもあり、若年期における主要な死因でもある。動脈病変は広範に渡り、動脈の蛇行性病変は、TGFBR1遺伝子およびTGFBR2遺伝子変異を有する患者のほとんどで認められる。多くの患者では、多発性の動脈病変を認める。
大動脈解離は、幼児期早期(≧6ヶ月)の症例や、マルファン症候群のような他の結合組織疾患では解離リスクが低いと見なされるような小さい大動脈径の症例でも認められる。

動脈の蛇行性病変は全身性に起こり得るが、特に頭頸部の血管で認めることが多い。椎骨動脈および頸動脈における動脈解離や脳出血の報告がされている。しかし、大動脈基部異常を認めず頸動脈のみに限局した解離を発症した症例は知られていない。

動脈瘤は、鎖骨下動脈、腎動脈、上腸管膜動脈、肝動脈、冠動脈、を含む(これに限らない)、大動脈のあらゆる動脈分枝で認められている。

その他、複数の症例で認められた所見としては、動脈管開存症、心房中隔欠損、二尖弁などがある。これらは、一般集団でもよく見られる所見であるが、LDSでの合併頻度は、一般集団に比べ、少なくとも5倍以上は高い。

僧帽弁閉鎖不全を伴う僧帽弁逸脱症もLDS患者で認められているが、マルファン症候群に比べると、合併頻度ははるかに低い。

大動脈病理組織所見

大動脈血管組織の病理学的検討では、弾性線維の断裂、エラスチン成分(弾性成分)の消失、中膜における無形基質成分の沈着を認める。構造解析では、血管平滑筋細胞とエラスチンとの間にあるべき空間的接合が失われ、大動脈壁コラーゲン成分が著明に増加している。これらの変化は、幼少児の症例や、炎症を認めない症例でも認められることより、弾性線維の破壊に伴う二次的な変化というより、弾性線維形成そのものが重度に障害されていると考えられる。したがって、いわゆる「嚢胞性中膜壊死」の所見だけでは、他の原因による大動脈瘤とLDSによる大動脈瘤とを鑑別することはできない。

骨格系

骨格系の所見としては、マルファン症候群に類似した特徴的体型と関節の弛緩あるいは拘縮を認める。

  • 骨格系の過形成は、マルファン症候群ほど顕著ではなく、長管骨より指趾で多く認める。
  • クモ状指趾を認める場合もあるが、真のクモ状四肢症(指間長/身長比の増大、上節/下節比の減少)を認める症例は、マルファン症候群に比べると少ない。
  • 親指兆候及び手首兆候は、LDSの3分の1の症例で認めた。

注:(1)Walker-Murdoch手首兆候は、親指と小指で対側の手の手首を握った際に、親指の末節が小指の末節に完全に重なることをいう。(2)親指兆候(Steinberg兆候)は、親指を内側に折り曲げて手を握ったときに、親指の末節部分が手のひらの尺側に完全に突出することをいう。

肋骨の過形成により、胸骨が陥凹したり(漏斗胸)、突出したり(鳩胸)する。
関節の過可動性は、よく認められる所見で、先天性股関節脱臼や、頻回の関節脱臼もこれによる。逆に、関節の伸展制限を認めることもあり、屈指症や先天性内反足を呈する。

LDSの新生児症例では、筋緊張低下等の骨格筋症状を認めることがある。

脊椎骨異常では、頸椎骨の先天奇形や頸椎不安定性をよく認め、特に頭蓋顔面所見の強い症例で多い。暫定的な解析結果ではあるが、少なくとも約3分の1の患者において頸椎骨の先天異常を認め、少なくとも50%で頸椎不安定性を認めた。

その他の骨格系症状

脊椎すべり症及び側彎症は、軽度のこともあるが、重症かつ進行性の場合もある。
股関節の寛骨臼突出は、約3分の1の症例で認められるが、通常は軽度である。しかし、関節痛や開排制限を伴うこともある。
扁平足は、内踝の内旋を伴うことが多いが、歩行困難、下肢疲労や筋痙攣の原因となることがある。
暫定的ではあるが、LDSの患者では、骨粗鬆症や、それに伴う骨折の増加や、骨折治癒の遅延があるという結果が示されている。

頭蓋顔面症状

最も典型的なLDSの頭蓋顔面所見は、眼間解離と頭蓋骨早期癒合である。頭蓋骨早期癒合は、矢状縫合の早期癒合(長頭症)が、最もよく認められる。冠状縫合(短頭症)、前頭縫合(三角頭蓋)の早期癒合も報告されている。
二分口蓋垂は、口蓋裂の最も軽微な表現型の一つと考えられる。幅広い口蓋垂(正中縫線の有無にかかわらず)として認められる場合もある。
その他の特徴的顔貌としては、頬骨の平坦化、下顎の後退などがあげられる。

皮膚症状

皮膚所見は、血管型エーラスダンロス症候群にみられるものと似ており、ビロード状で、菲薄化し透過性の皮膚で、胸部ではしばしば皮下の静脈が透けて見える。アザができやすい(易出血性、下腿以外でも認める)、傷の治りが遅い、瘢痕化しやすい、などの所見を認める。

眼症状

近視は、マルファン症候群にくらべて合併頻度は低く、程度も軽い。屈折異常が強い場合には、弱視となりうる。網膜剥離の報告は少ない。その他、よく認められる所見として、斜視、青色強膜などがある。水晶体亜脱臼は認められていない。

その他

生命予後に関わる症状としては、脾臓や腸管の自然破裂、妊娠中の子宮破裂などがある。

神経放射線学的所見で重要な所見は、硬膜拡張(LDS患者では、未検査のことが多く、合併率についてのきちんとした統計はでていない)と、Arnold-Chiari奇形I型の二つであるが、後者は、比較的稀であると思われる。

一部の患者では、発達遅延が認められる。その場合でも、多くは、頭蓋骨早期癒合症や水頭症に合併した発達遅延であり、学習障害がLDSの一次的症状としてあらわれることは非常に稀であると考えられる。

その他、時に認められる所見としては顎下部鰓嚢胞や、歯芽エナメル質欠損などがあるが、これらについては、さらに検討が必要である。

妊娠

LDS女性患者の妊娠は、危険を伴いうる。合併症には、妊娠中〜分娩時の大動脈解離/破裂や子宮破裂、産褥早期の大動脈解離/破裂などがある。

遺伝子型と臨床型の関連

LDSにおける遺伝子型と臨床型の関連は、ほとんど認められない。LDS1型とLDS2型は臨床的には一連のものであり、病態を修飾する遺伝的要因や確率的要因により、表現型に差異が出てくると考えられている。

TGFBR1遺伝子変異とTGFBR2遺伝子変異のそれぞれを有する患者間における臨床的な差異は認められず、また、LDS1型とLDS2型の違いを説明できるような遺伝子型と臨床型の関連も明らかではない。

両受容体ともに、変異は細胞内ドメイン(セリン-スレオニンキナーゼ活性領域)に集中している。細胞外ドメインの変異報告は少ない。

ほとんどの遺伝子変異は、それぞれの受容体において高度に保存されたアミノ酸のミスセンス変異である。しかし、細胞外ドメインのスプライス変異や、最終から2番目のエクソンにおけるナンセンス変異でキナーゼ活性領域の後半部を欠損しているような蛋白を生成すると予測される変異(訳者注:この症例の変異では、NMDを受けないために、安定なトランスクリプトを生じていた)を有する患者であっても、その他のミスセンス変異を有する患者と同様のLDS臨床型を呈し、臨床像に違いは認められない。

著者やその他の研究者から報告された報告例をみても、LDSとしての報告例と、典型的マルファン症候群あるいは家族性大動脈瘤/解離(FTAAD: familial thoracic aortic aneurysm and dissection)としての報告例との間で、遺伝子変異からみてあきらかな違いはない。実際、マルファン症候群あるいはFTAADとしての報告と同じ変異が、典型的なLDS1型あるいはLDS2型の症例でも見つかっている。

浸透率

同一家系内であっても臨床像には個人差が大きく、また少数ではあるが、非浸透例の報告もある。このうちの一例は、体細胞モザイクによるものであることが示されたが、他の例では、モザイクによるものであったという証拠はない。
家系内における表現型の差は、病態修飾遺伝子で説明される。TGFbシグナルの制御に関わる因子をコードする遺伝子が、こうした病態修飾遺伝子の候補にあげられている。

遺伝的促進現象

LDSでは、遺伝的促進現象は認められていない。

病名

マルファン症候群2型(MFS2) 「マルファン症候群2型」という呼称について、現在多少の混乱が生じている。これについては、次のように考えるのがよいと一般的には考えられており、著者らも同意見である。

  • MFS2という病名は、もともとは、Mizuguchiらにより、TFGBR2遺伝子変異によって発症した「古典的」マルファン症候群の患者の病名として用いられた用語である。当時は、LDSに特徴的な所見というものは、明らかにされていなかった。
  • 古典的マルファン症候群93例の解析では、86例(93%)でFBN1遺伝子の変異が検出されたが、残りの7症例の解析でも、TGFBR1あるいはTGFBR2遺伝子の変異は検出されなかった。
  • 著者らの経験では、TGFBR1あるいはTGFBR2遺伝子の変異を有する症例で、臨床的に、マルファン症候群の臨床的診断基準を満たす症例はない。
    (訳者注:訳者らの経験では、一部のLDS症例は現在の診断基準(Ghent基準)を満たしている。)
  • TGFBR1あるいはTGFBR2遺伝子変異を有する患者では、マルファン症候群に比べ、大動脈基部より離れた部位にも病変が認められるなど血管病変が広範化しやすいというコンセンサスができつつある。

頻度

LDSの有病率は不明である。民族あるいは人種間の差、性差については報告されていない。


鑑別診断

TGFBR1あるいはTGFBR2遺伝子変異を有する52家系の臨床像及びその遺伝子型について調べた結果は、以下の通りである。

  • 約75%の症例では、血管所見、骨格所見、頭蓋顔貌所見などの典型的なLDS1型の臨床像を呈した。事実上、全症例において、眼間解離、口蓋裂/二分口蓋垂、蛇行性動脈、大動脈基部以外の部位の動脈瘤、皮膚所見、頭蓋骨癒合、等、マルファン症候群や家族性大動脈瘤とは明らかに異なる臨床症状を認めた。
  • 約25%の症例では、血管型エーラス・ダンロス症候群(EDS)類似の皮膚所見を伴う、LDS2型の臨床像を呈した。すなわち、ビロード状で透過性の皮膚、易出血性、幅広の萎縮性瘢痕、子宮破裂、脳・胸部・腹部循環系の動脈瘤/解離、等を認めた。

症候群性胸部大動脈瘤

マルファン症候群は、臨床的に非常に多彩な症状を呈する全身性の結合組織障害である。眼系、骨格系、心血管系に特徴的な所見を認める。臨床像は幅広く、マルファン症候群の一部の症状のみを認める症例から、新生児期より進行性で重篤な所見を多臓器で認める症例まで存在するが、いずれにおいても、FBN1遺伝子の変異により発症する。近視は、最もよく認められる眼症状である。瞳の中央部からの水晶体のズレ(水晶体亜脱臼)は、約60%の症例で認められ、診断的価値の高い所見である。マルファン症候群の患者では、網膜剥離、緑内障、早期の白内障等のリスクが、一般人より高い。骨格系では、骨の過成長と関節弛緩による特徴的な所見を呈する。手足の長さは躯幹長に比し不釣り合いに長い(クモ状四肢症)。肋骨の過成長により、胸骨が陥凹(漏斗胸)や突出(鳩胸)を引き起こす。側彎はよく認められる症状であるが、軽症例から重症進行例まである。心血管系病変は、マルファン症候群において、早期死亡にもつながる最も重要な所見である。これには、大動脈解離や大動脈破裂にもつながりうる大動脈基部、特にバルサルバ洞における大動脈拡張症や、僧帽弁逸脱症(僧帽弁閉鎖不全の有無に関わらず)、三尖弁逸脱症、近位肺動脈の拡張、などが含まれる。適切な治療管理を行うことにより、マルファン症候群の寿命は、一般人とほぼ変わらなくなっている。

FBN1遺伝子は、現在マルファン症候群の原因遺伝子として認められている唯一の遺伝子であり、発端者の遺伝子解析では、約70−93%で変異が認められる。遺伝形式は、常染色体優性遺伝である。患者の約3分の1は、新生突然変異である。

MASS表現型 は、僧帽弁逸脱(mitral valve prolapse)、近視(myopia)、境界型かつ非進行型の大動脈拡張(aortic enlargement)、非特異的な皮膚骨格所見(skin and skeletal findings)を呈するもので、マルファン症候群の症状と重複する。この診断名は家系内において、複数世代にわたって同じ症状が認められた場合につけられる。しかし、こうした家系においても、一部の患者では、より重篤な血管症状を呈してくる可能性もあり、心血管系の画像検査は非定期的にでも継続すべきである.弧発例の場合、特に小児例では、MASS表現型とマルファン症候群の新規例と鑑別することは難しい。FBN1遺伝子のヘテロ変異により発症する。遺伝形式は、常染色体優性遺伝である。

Shprintzen-Goldberg 症候群 (SGS)は、頭蓋骨早期癒合症(冠状縫合、矢状縫合、ラムダ縫合)、特徴的顔貌、骨格病変(クモ状四肢、クモ状指趾、屈指症、扁平足、漏斗胸または鳩胸、側彎、弛緩性関節、関節拘縮)、神経系異常、軽度から重度の知的障害、脳奇形(水頭症、側脳室拡大、Chiari 1型奇形)を伴う疾患である。心血管系異常(僧帽弁逸脱、僧帽弁閉鎖不全、大動脈弁閉鎖不全)を認めることがあるが、大動脈基部の拡張は通常認めない。皮下脂肪量の減少、腹壁異常、男児における停留睾丸、近視なども特徴的所見である。

Shprintzen-Goldberg 症候群の診断は、上記の特徴的症状の他、放射線学的検査により、頸椎C1-C2の形態異常、大泉門の拡大、肋骨の菲薄化、13対の肋骨、脊椎椎体の方形化、骨量減少を認めることによる。原因遺伝子は不明である。典型的SGS症例を集めた遺伝学的解析では、TGFBR1遺伝子あるいはTGFBR2遺伝子には変異を認めなかった。
LDSに特徴的で、SGSでは認めない、あるいは稀である所見として、大動脈瘤/解離、蛇行性動脈、口蓋裂/二分口蓋垂、特徴的皮膚所見があげられる。また、LDSでは発達遅延は稀である点も鑑別になる。

注:Kosakiらにより報告されたSGS症例は、蛇行性動脈、二分口蓋垂より、LDSであると思われる。

エーラス・ダンロス症候群(EDS)は、Villefranche分類(1998)によって分類されるいくつかの異なる疾患の総称である。Villefranche分類では、従来の番号による分類から主病変に基づく分類に改訂され、従来の1/2型、3型、4型、6型は、現行の分類では、古典型、関節可動性亢進型、血管型、後側彎型に相当する。

  • 古典型エーラス・ダンロス症候群は、5型コラーゲン(COL5A1、COL5A2)遺伝子、tenascin X(TNX)遺伝子、稀に1型コラーゲン(COL1A1)遺伝子の変異により発症する。古典型EDS、あるいは関節可動性亢進型EDSの一部の症例では、大動脈基部拡張が報告されているが、進行性の拡張や大動脈解離に到ったという報告はない。これらの疾患において「大動脈拡張が進行性でない」と考えられているのは、患者において突然死が認められない、という点に基づいている。
  • 血管型エーラス・ダンロス症候群(EDSIV)は、菲薄化し透過性の皮膚、易出血性(アザができやすい)、特徴的顔貌と、血管、腸管、子宮などの組織脆弱性を特徴とする疾患である。血管破裂や解離、消化管穿孔、臓器破裂等の症状は、成人症例の70%で認める。動脈破裂は、大動脈瘤や動静脈瘻に続発する場合もあるが、先行病変を認めない場合もある。新生児では、内反尖足や先天性股関節脱臼を伴うことがある。小児期には、鼡径ヘルニア、気胸、頻回の関節脱臼や亜脱臼などを認める。平均死亡年齢は、48才である。
  • 血管型エーラス・ダンロス症候群の診断は、臨床像と、異常3型コラーゲンの産生あるいはCOL3A1遺伝子(現時点で、血管型エーラス・ダンロス症候群の原因遺伝子として同定された唯一の遺伝子)の病原性変異の確認による。遺伝形式は、常染色体優性遺伝である。
  • 臨床的に血管型エーラス・ダンロス症候群が疑われる患者で、コラーゲンの生化学的異常あるいはCOL3A1遺伝子変異が検出されない場合は、LDS2型を疑い、TGFBR1及びTGFBR2の遺伝子解析を行うべきである。
  • 最近、血管型エーラス・ダンロス症候群様の腹部大動脈や腸骨動脈の動脈瘤を呈した患者群の一部で、COL1A1遺伝子の解析において、アルギニンがシステインに置換するタイプの変異が同定され、コラーゲン電気泳動でも、特徴的な異常泳動像を示したと報告されている。
  • 心臓弁型エーラス・ダンロス症候群は、COL1A2遺伝子の変異により発症し、関節過可動性、皮膚過伸展
  • ともに、心臓弁の異常を伴う。常染色体劣性遺伝性エーラス・ダンロス症候群の一つである。
  • 後側彎型エーラス・ダンロス症候群(EDSVI)は、脊椎の後側彎症、関節弛緩、筋緊張低下、時に眼科的異常を伴う、全身性結合織異常症である。知能は正常であり、寿命も一般人と変わらないが、中サイズの動脈の破裂や、後側彎の程度がひどいときには、呼吸困難の危険がある。大動脈の拡張や破裂の可能性もありうる。
  • 後側彎型エーラス・ダンロス症候群は、プロコラーゲン・リジン・オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ(PLOD1; lysyl hydroxylase 1:リジン水酸化酵素1)の酵素活性欠損により発症する。後側彎型EDSの診断には、尿中のデオキシピリジノリンdeoxypyridinolineとピリジノリンpyridinolineの各架橋ペプチド比の上昇をHPLC法で確認する方法が、高感度で特異性が高い検査法として一般的である。皮膚線維芽細胞を用いてリジン水酸化酵素活性を測定する方法も可能である。リジン水酸化酵素1をコードするPLOD1遺伝子の変異により発症し、常染色体劣性遺伝形式をとる。

先天性拘縮性クモ状指症(CCA)は、マルファン様体型(高身長、長く細い手足、しばしば指間長>身長)や細長い指趾(クモ状指趾)を特徴とする疾患である。多くの患者では、外耳の上耳輪部に皺がよった「皺耳」を認める。また、生下時に大関節(膝、踵)の拘縮を認めることが多い。近位指節間関節やつま先にも屈曲拘縮を認める(屈指症)。股関節拘縮、内転拇指、内反足などもみられる。患児の多くは、筋緊張低下を伴う。早い例では幼児期より認め、進行性であり、CCAで病的意義が最も大きい症状である。バルサルバ洞部の上行大動脈の進行性拡大例も報告されているが、大動脈解離や破裂に到る可能性については不明である。幼児例では、典型的な骨格系症状に加え、心臓血管系や消化管系の多発奇形を伴った重症例・死亡例も報告されている。

CCAは、臨床症状に基づいて診断される。細胞外マトリックスのマイクロフィブリルであるfibrillin2をコードするFBN2遺伝子がCCAの原因遺伝子として同定されている。遺伝形式は常染色体優性遺伝である。

動脈蛇行症候群(ATS: Arterial tortuosity syndrome)は、大動脈及び中サイズの動脈の重度の蛇行、狭窄、動脈瘤を主症状とする稀な常染色体劣性遺伝性疾患である。加えて、骨格系や皮膚症状を認める場合も多い。原因となる遺伝的変異は、促進性グルコース輸送体であるGLUT10をコードするSLC2A10遺伝子のホモ欠損である。グルコース輸送体の欠損により、動脈走行に異常を生じるという事実は意外ではあるが、その裏には、LDSやマルファン症候群の病態生理でもみられるようなTGFbシグナル伝達系の亢進があることが明らかとなっている。

上行大動脈瘤に関連する他の疾患群

ターナー症候群 は、X染色体の1本が欠損する(45,X)ことにより発症し、最も頻度の高い性染色体数的異常症の一つである。表現型の特徴で重要なのは、低身長、性腺形成不全、翼状頚、腎および心血管異常の合併頻度が高いことである。心血管異常では、大動脈二尖弁、大動脈縮窄、胸部大動脈瘤があげられる。大動脈基部の拡張は、ターナー女性の最大40%で認められるとされるが、そのうちどの程度が大動脈解離に到るかについては不明である。現在では、ターナー症候群における健康管理に関しては、少なくとも5年に1度は、大動脈基部径および上行大動脈径を心エコー検査あるいはMRI検査にて評価することが勧められている。

ヌーナン症候群 は、低身長、先天性心疾患、幅広あるいは翼状頚、鎧状胸(上胸部が突出、下胸部が陥凹し、乳首が一見低位に見える)、種々の程度の発達遅滞、停留睾丸、特徴的顔貌などを主症状とする疾患である。種々の凝固系異常やリンパ管形成異常もしばしば認める。先天性心疾患の合併は患者の50−80%で認める。肺動脈弁狭窄は、時に弁異形成を伴い、先天性心疾患の中では最も合併頻度が高く、患者の20−50%で認められる。肥大型心筋症も患者の20−30%で合併するが、生下期に認められる場合もあれば、乳幼児期あるいは小児期に明らかになることもある。その他の構造異常では、心房中隔欠損、心室中隔欠損、分岐肺動脈狭窄、ファロー四徴などがしばしば認められる。稀ではあるが、大動脈瘤も報告されている。軽度の精神遅滞を認めるのは患者の3分の1ほどである。斜視、屈折異常、弱視、眼振などの眼科的異常は、95%もの患者で認められる。

ヌーナン症候群の診断は、臨床所見に基づく。PTPN1、KRAS、SOS1の3つの遺伝子がヌーナン症候群の発症に関わることが知られている。これらの遺伝子異常の患者における検出率は、それぞれ、50%、5%以下、約10%である。遺伝形式は、常染色体優性遺伝である。

皮膚弛緩症(cutis laxa)。常染色体優性遺伝性の皮膚弛緩症(ADCL; Autosomal dominant cutis laxa)は、皮膚に限局した疾患でその他の身体症状は伴わないが、常染色体劣性遺伝性の皮膚弛緩症(ARCL; Autosomal recessive cutis laxa)は、肺気腫や大動脈瘤等の合併を認め、重症で予後が悪い。

ADCL はElastin(ELN)遺伝子のヘテロ変異により発症する。ELN遺伝子変異を持つ患者において、成人早期に大動脈基部置換術を必要としたり大動脈解離にいたる例があることが知られている。大動脈瘤の病理所見は、マルファン症候群患者の大動脈瘤の病理所見と変わらず、両者の鑑別は不可能である。一般の胸部大動脈瘤/解離患者においてELN遺伝子変異が関わっているかどうかについてはまだ不明である。

Fibulin-4をコードする遺伝子の変異により、動脈蛇行と、時に動脈瘤/解離を伴うARCLを発症する。
Fibulin-5をコードする遺伝子の変異により、典型的皮膚所見と肺症状(肺気腫)、動脈蛇行を伴うARCLが発症するが、動脈瘤の合併は認められていない。

非症候群性家族性胸部大動脈瘤/解離

大動脈二尖弁に合併した胸部大動脈瘤(BAV/TAA)

上行大動脈拡張は、二尖弁に合併したものが多い。大動脈二尖弁は、一般人の2−5%でも認められる先天奇形である。大動脈解離で死亡した患者の死後解剖例の約8%で認められる。病理組織学的検査では、大動脈壁や弁の組織においてエラスチンの変性と嚢胞性中膜壊死を認める。長いこと、大動脈瘤は、上行大動脈の狭窄後拡張(post stenotic dilatation)機序によるものであると考えられてきた。しかし、機能的異常の認められない二尖弁の若年者においても、心血管エコー検査により大動脈基部拡張が高頻度(52%)で認められることが示されている。大動脈拡張は、バルサルバ洞より上部で起こることが多い点は重要である。
大動脈二尖弁には家族集積性があり、患者の第1度近親の9%で認められる。二尖弁と大動脈瘤を合併した患者の血縁者では、弁異常がなくても大動脈瘤/解離の発症を認めることがあり、この場合には、共通する遺伝的原因により、二尖弁および大動脈瘤という二つのプライマリな表現型を呈したと考えられる。家族発症の場合、遺伝的浸透率は高くないのが普通である。
これまでに、その他の先天性心奇形に合併した稀な症例において、NOTCH1遺伝子およびKCNJ2遺伝子の変異が同定されている。NOTCH1変異は、ほとんどの二尖弁/大動脈瘤の家族例では通常みられないような弁の石灰化や強い狭窄を示す症例および家族でのみ認められ、これらの所見に特徴的な変異であると考えられる。連鎖解析では、染色体上、18q、5q、13qの領域に関連を認め、遺伝的異質性があることが示唆されている。

動脈管開存を伴った胸部大動脈瘤(PDA/TAA)

最近、PDAとTAADを高率に認める大家系179名の解析により、この家系においては、このふたつの血管病変が、共通する新規の遺伝子異常によるものであるという報告がなされた。連鎖解析では、家族性大動脈瘤あるいは常染色体性劣性遺伝性PDAの既報遺伝子・遺伝子座には相関を示さず、責任領域は16q12にマップされた。この原因遺伝子は、平滑筋細胞特異的な収縮蛋白質の一つ、ミオシン重鎖蛋白11をコードするMYH11である。これによる構造異常が、大動脈コンプライアンスの減少、平滑筋細胞の減少、弾性線維の破壊消失につながるとされるが、詳細な病態生理学的機序については不明である。

線維筋性異形成(FMD; Fibromuscular dysplasia)

は、非動脈硬化性,非炎症性の血管病変で、いずれの動脈にも起こり得るが、特に腎動脈や内頚動脈が侵されやすい。一般的には、動脈血管中膜の肥厚により、古典的な「数珠状」狭窄が生じる。より大きな動脈の動脈瘤や解離の合併もみられる。その発症には遺伝的要因が関与している可能性があり、腎動脈の線維筋性異形成症患者の第1度近親で動脈瘤や解離が認められたという報告がある。

家族性胸部大動脈瘤/解離(FTAAD; Familial thoracic aortic aneurysm/dissection) FTAADの心血管系病変としては、以下のものがある。

  • 上行大動脈あるいはバルサルバ洞部の大動脈の拡張
  • 上行あるいは胸部下行大動脈を含む、大動脈瘤および大動脈解離

FTAADの診断は、胸部大動脈の拡張・解離の所見、マルファン症候群等の他の結合織異常がないこと、家族歴、に基づいてなされる。

心血管系症状が唯一の所見であるという場合が多い。典型的には、上行大動脈が徐々に拡大し、上行大動脈部の解離(A型解離)から、大動脈裂や破裂に到る。大動脈拡張の発症時期や進行度は、非常に個人差が大きい。しかし、家族性TAADの患者における大動脈症状の平均発症時期は56.8才であり、弧発性TAAD(64.3才)に比べると若いが、マルファン症候群(24.8才)に比べれば有意に遅い。

  • TAAD1は、最初にマップされた遺伝子座である。浸透率の低い常染色体優性遺伝形式でTAADを継承している15家系のうち、9家系において、染色体5q13−q14上への関連が認められた。TAAD1は、その後のフィンランド人11家系の解析でも、7家系で同座位への関連が確認され、主要遺伝子座の一つであるとされている。
  • FAA1は、2番目にマップされた遺伝子座である。単一大家系の連鎖解析により、11q23−q24への関連が認められた。TAAD1の場合と違い、FAA1と関連する動脈病変は、胸部大動脈あるいは腹部大動脈のみなず他の動脈系の動脈瘤にもおよび、より広範な血管系病変であることが特徴である。
  • TAAD2は、3番目にマップされた遺伝子座であり、現在では、TGFBR2であることが判明している。互いに血縁関係のない80家系の解析において、4家系でTGFBR2遺伝子変異が検出され、全て同じコドンに関わる変異(Arg460HisとArg460Cys)であった。これらの家系患者でみられたほとんどの血管病変は上行大動脈を含むA型解離であったが、下行大動脈の病変、他の動脈分枝(例として、大脳動脈、頚動脈、膝窩動脈)の動脈瘤、その他の結合織異常症状(胸郭異常、関節過伸展)など、LDSに特徴的な所見も認められている。さらに、FTAADとして報告されたと同じTGFBR2遺伝子変異が、典型的なLDS症状を認めたいくつかの家系例で検出されている。現時点では、TGFBR2遺伝子変異が、大動脈瘤病変に限局した表現型(すなわちFTAAD)を呈しうるか否かは不明である。従って、TGFBR2遺伝子変異を認める家系をFTAADとすることは適当でないと思われる。
  • ACTA2遺伝子は、平滑筋アクチンα2をコードしており、胸部大動脈瘤の家系例の約14%で変異が同定された。一部の患者では、皮膚網状皮斑、iris flocculi (虹彩嚢胞の一種(訳者注))、脳動脈瘤、大動脈二尖弁、動脈管開存、なども認められた。

臨床的マネジメント

最初の診断時に病変の程度を確認するために行う評価

患者がロイス・ディーツ症候群(LDS)と診断された時には、病状を把握するための以下の評価を行うことがすすめられる。

  • 心血管超音波検査(心血管エコー)。大動脈基部径サイズは、年齢と体表面積に基づいて評価する必要がある。ケースによっては、循環器科あるいは心血管外科への早急なコンサルトが必要な場合もある。
  • MRA検査あるいはCTスキャン検査からの3次元画像再構成により、頭部から骨盤腔までの全動脈系の動脈瘤や動脈蛇行の有無を確認する。

    注:LDS患者では、約半数に通常の心血管エコー検査では検出できない様な遠位の動脈分枝に動脈瘤を認める。

  • 骨格系症状の確認のためのX線撮影。場合によっては、整形外科医へのコンサルトが必要。(重度の側彎症、頸椎不安定症)
  • 口蓋裂や頭蓋早期癒合症の確認のための頭蓋顔面系の精査
  • 結合組織異常症に精通した眼科専門医による眼科的評価:最大散瞳条件下でのスリットランプ検査により、水晶体亜脱臼がないことを確認する。屈折異常・矯正視力の精査、特に年少児では放置すると弱視になる危険性があり重要。網膜剥離、青色強膜などの評価

病変に対する治療

LDSの治療・管理には、臨床遺伝医、循環器科医、眼科医、整形外科医、胸部心臓血管外科医など、多くの分野の専門医の協力のもとに行うチーム医療が最も効果的である。

心血管系

  • LDS患者は、全て、この疾患に詳しい医療施設において管理されるべきである。
  • LDS患者の心血管系管理の上で、注意すべき2つの重要な点
    −大動脈解離は、マルファン症候群に比べ、より小さい大動脈径でも起こりうる。
    −血管病変は、大動脈基部に限局していない。MRAあるいはCTAにより、頭部から骨盤部までの全動脈系の画像検査を行う必要がある。
  • β遮断薬等は、血行力学的なストレスを軽減させるために処方される。
  • 動脈瘤については、早期の積極的な外科的介入の適応となる。(この点、血管型エーラス・ダンロス症候群(EDS)と異なる。EDSでは、術中合併症や死亡が高率で起こるため、外科的治療は最終手段である。)自己弁温存大動脈基部置換術を行えば、術後の慢性的抗凝固療法を行わないですむことも可能である。

自己弁温存大動脈基部置換術が安全かつ普及したとして

  • 全身症状が強く認められる小児LDS患者では、最大径が標準値の99パーセンタイル値を超えた場合、あるいは弁輪径が1.8cmを超えた場合には、その後の成長を加味した十分なサイズのグラフト置換による大動脈基部を含む上行大動脈の外科的修復を考慮すべきである。
  • 青年あるいは成人例では、大動脈基部を含む上行大動脈の最大径が4.0cmに近づいた時点で、外科的修復を考慮すべきである。この点については、大動脈基部径が4.0cm以下でも大動脈解離に到った例が複数報告されていること、予防的手術(自己弁温存大動脈基部置換術)の予後が非常によいことより、推奨されている。ただし、十分な家族歴から判断してより大きな大動脈径でも解離を起こさないと予測される家系の場合は、個々の患者について検討する。

    注:この指針によっても大動脈解離や破裂のリスクがなくなるわけではないので、早期の外科的介入については、家族歴、あるいは個々の患者における利益/リスクの個人的評価に基づいて検討する。

骨格系

  • 頸椎不安定性に対しては、脊髄損傷を予防するために外科的固定術を行うこともある。
  • 先天性内反足に対しては、整形外科医による外科的矯正を必要とする。
  • 骨過形成や弛緩性靱帯は、重症化する可能性があり(進行性側彎症など)、整形外科医による経過観察が必要である。脊椎骨の外科的固定が必要とされる場合もある。
  • 漏斗胸は、重症化しうる。医学的(美容上ではなく)理由により、外科的治療が適応となる場合も稀にある。
  • 寛骨臼陥凹に対して外科的治療が必要とされることはまずない。治療は、疼痛コントロールが主体である。
  • 重度の扁平足に対しては装具による治療を行う。アーチサポートが有効な患者もいれば、煩わしいという患者もおり、個々人の希望に従う。外科的治療が必要とされることは稀であり、治療効果も疑わしい。

頭蓋顔面系

口蓋裂および頭蓋骨早期癒合に対しては、頭蓋顔面治療チームによる治療管理が望まれる。口蓋裂および頭蓋骨早期癒合の治療は、他の疾患に合併した場合と同様である。

眼系

LDSの眼科的病変については、結合織疾患に詳しい眼科専門医による治療・管理を必要とする。年少児では弱視になる危険性もあるため、注意深くかつ積極的に屈折異常・視力障害の矯正治療を行うことが必須である。

その他

  • 硬膜拡張は通常、無症状である。症候性の硬膜拡張については、現在、有効な治療法はない。
  • ヘルニアは、外科的治療後も再発する傾向がある。外科的治療の際には、再発リスクを最少にするために、補強用メッシュを使用するという術式もある。
  • 気胸の再発を防止するためには、化学的あるいは外科的な胸膜癒着術や肺ブレブの外科的切除が必要な場合もある。
  • 脾臓や腸管の自然破裂などの命に関わる症状、妊娠時のリスクなどについては、適切なカウンセリングが望ましい。

二次的合併症の予防

一般的に、結合織異常症や、僧帽弁・大動脈弁閉鎖不全症を基礎に持つ患者は、歯科治療等、血液中に細菌が混入する可能性のある医療行為に際しては、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)に対する抗生剤の予防的投与が考慮される。
頸椎不安定性が高率に認められるため、挿管などの頸部領域の処置が必要な際には、あらかじめX線検査等で頸椎の評価をしておく。

定期検査

LDS患者については、全例、頻回の心血管エコー検査により上行大動脈の状態をモニターしていく必要がある。MRAあるいはCTA検査の間隔は、個々人の臨床経過に基づいて決定する。
頸椎不安定症や、重度あるいは進行性の側彎症を認める患者は、整形外科による経過観察が必要である。

回避すべき薬剤や環境

以下の状況は避けるべきである。

  • コンタクトスポーツ(対戦相手との強い身体接触の予測される競技)、競争的スポーツ、あるいは等尺性運動(アイソメトリックエクササイズ)。
    注:適度の有酸素運動は、積極的に行うことが可能であり、また推奨されている。
  • 関節損傷や関節痛を引き起こすような活動。
  • 再発性気胸のおそれのある患者では、強度な呼吸法(管楽器吹奏など)や陽圧呼吸法(スキューバダイビングなど)は避ける。

リスクのある血縁者の検査

発端者において、TGFBR1あるいはTGFBR2遺伝子の変異が同定された場合には、家系内の他のメンバーの遺伝学的状態を明らかにするための分子遺伝学的検査が可能である。
原因遺伝子変異が同定されていない場合は、臨床所見の有無についての評価が必要である。心血管エコー検査や他の血管系画像診断は、LDSの疑いがある血縁者には行うべきであり、また、発端者における臨床症状が比較的軽微な場合には、一見症状がないと思われるような血縁者についても、これらの検査を行う。

リスクのある血縁者の遺伝学的検査に対する遺伝カウンセリングに関連した問題については、遺伝カウンセリングの項を参照。

研究中の治療法

LDSの特徴的臨床症状の多くは、成長因子であるTGFbシグナルの過剰な活性化に関係していることが実験により示されている。

TGFbシグナル系を抑制する薬剤、たとえばアンギオテンシンIIタイプ1型受容体遮断薬が、LDSの症状の緩和あるいは予防に効果があるか否かについては、現在動物実験が進められている。このような介入治療の安全性や効果について、LDS患者における検討はまだされていない。

種々の疾患に対する臨床試験に関する情報は、ClinicalTrials.govを参照。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

ロイス・ディーツ症候群(LDS)は、常染色体優性遺伝病である.。

血縁者のリスク

発端者の両親

  • LDSと診断された患者の約25%では、両親のいずれかが罹患者である。
  • LDSの発端者の約75%は、新生突然変異により発症する。
  • 発端者において、TGFBR1遺伝子あるいはTGFBR2遺伝子に変異が同定されている場合は、両親の遺伝学的検査も行うことが勧められる。もし、変異が同定されていない場合は、両親についても、LDSの所見が認められるか否かを総合的な臨床検査も含めて評価することが望ましい。

発端者の同胞

  • 発端者の同胞のリスクは、両親の遺伝学的状況に依存する。
    両親のいずれかが罹患している場合は、同胞におけるリスクは50%である。
  • 臨床的にみて両親に罹患が認められない場合には、発端者の同胞のリスクは低くなるが、(稀ではあるが)体細胞モザイクや性腺モザイクによる症例も報告されており、一般人に比べると高くなる。

発端者の子

  • LDS患者の子どもはすべて、50%の確率で遺伝子変異を受け継ぐ。
  • TGFBR1遺伝子あるいはTGFBR2遺伝子の病原性変異を受け継いだ場合の遺伝的浸透率は、ほぼ100%であるとされている。従って、罹患した親から変異アレルを受け継いだ子どもは、LDSを発症すると思われるが、重症度については予測できない。

発端者のその他の他の家族 

発端者の他の血縁者のリスクは,発端者の両親の遺伝学的状況に依存する。もし、いずれかの親に罹患が認められた場合は、その血縁者はリスクにさらされているといえる。

による計測によって算出される。  

遺伝カウンセリングに関連した問題

リスクのある血縁者に対する早期診断および治療については、「臨床的マネジメント」の「リスクのある血縁者の検査」の項を参照。

明らかに新生突然変異によると思われる家系において考慮すべきこと

常染色体優性遺伝病の発端者の両親のいずれにも、原因遺伝子変異や臨床所見を認めない場合、発端者の症状は、新生突然変異によるものであると予測される。しかし、父性が異なっていたり、養子である可能性など、非医学的要因も調べてみる必要がある

家族計画

遺伝的リスクの評価や遺伝カウンセリングは妊娠前に行われるのが望ましい。患者家族が遺伝子検査を受ける場合も同様である。

DNAバンキング

DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである。検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する。ことに現在用いられている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患では特に重要である。
(略)

出生前診断

分子遺伝学的検査

LDSの罹患リスクのある妊娠に対する出生前診断は技術的には可能である。通常、胎生15−18週に採取した羊水細胞や10−12週*に採取した絨毛から抽出したDNAを用いて解析を行う。出生前診断を行う以前に、罹患している家族において病因となる遺伝子変異が同定されている、あるいは連鎖が明らかとなっている必要がある。連鎖解析は、その大家系においてTGFBR1遺伝子あるいはTGFBR2遺伝子のマーカーアレルが罹患と一致していることが示されない限り、慎重に行う必要がある。

注:胎生週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される
超音波検査

妊娠初期から中期における胎児超音波検査では、LDSの臨床所見を検出することは難しいが、胎児期に大動脈拡張と認めたという報告もある。

LDSに対して出生前診断を求められることは通常ない。特に遺伝子検査が早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は、医療関係者と家族の間では出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない.多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが、この問題については注意深い検討が求められる。

着床前診断

病因となる遺伝子変異がすでに同定されている場合は、技術的には可能である。

訳者注:一般には、LDSに対して出生前診断の適応があるとは考えられておらず、日本では行われていない。


原文 Loeys-Dietz Syndorme

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