関節可動亢進型エーラスダンロス症候群
(Ehlers-Danlos Syndrome, Hypermobility Type)
[Ehlers-Danlos Syndrome, Hypermobility Type [EDS Hypermobility Type, EDS Type III, Ehlers-Danlos Syndrome Type III]
Gene Review著者:Howard P Levy, MD, PhD
日本語訳者:渡邉 淳 (日本医科大学付属病院 遺伝診療科)
Gene Review 最終更新日: 2010.4.27. 日本語訳最終更新日:2010.5.31.
原文 Ehlers-Danlos Syndrome, Hypermobility Type
要約
疾患の特徴
関節可動亢進型エーラスダンロス症候群(EDS)は,筋骨格系統を中心とした明らかな合併症が起きるにもかかわらず,最も重症度の低いEDSと一般的に考えられている.皮膚は平滑,ビロード状の感触があり,軽度に過伸展することがある.亜脱臼および脱臼はよくおきる.脱臼は自然にあるいは軽度の外傷で生じ,鋭い痛みを伴う.変形性関節症もよくみられる.急性の脱臼や変形性関節症と関連しない慢性的な疼痛は,重大な合併症であり,身体的にも心理的にも負担となる.挫傷はおきやすい.
診断・検査
関節可動亢進型EDSの診断は臨床評価および家族歴に基づく.大半の関節可動亢進型EDSは原因遺伝子も未知で座位も不明である.テネイシン(tenascin)X(TNXB遺伝子によってコードされる)のハプロ不全は一部の関節可動亢進型EDSに関連がある.
臨床的マネジメント
症状に対する治療:理学療法は個人に即して対応する.装具(関節安定性を向上する締め金; 下肢関節へのストレスを軽減させる;車椅子あるいはスクーター; 睡眠の質を改善する快適なマットレス) ;鎮痛剤は症状にあわせて処方される;胃炎/逆流/消化遅延/過敏性腸症候群への適切な治療;進行性の大動脈拡張へのβ遮断薬;心理ならびに(または)苦痛に対処す
カウンセリング.
一時症候の予防:
関節安定性を向上するために筋張力を増加させる低抵抗運動;指および手が力まない適切な筆記用具.
二次合併症の予防:
カルシウム(ビタミンD) ;骨密度を最大にする低荷重の負荷運動;
定期検査:
骨量減少を確認した場合は,DEXAを2年に一度.
回避すべき薬剤/環境:
関節過伸展;抵抗/等尺性運動は関節不安定および痛みを悪化させる可能性がある;負担のかかる運動は,急性亜脱臼,脱臼,慢性疼痛および変形性関節症のリスクを高める;松葉づえ,杖および歩行器は上肢への負荷を増加し,利用には注意が必要.
遺伝カウンセリング
関節可動亢進型EDSは常染色体優性形式で遺伝する.本症候群と診断される方の大半は片親が罹患している.新生突然変異により引き起こされる割合は不明である.関節可動亢進型EDSの方の児は,それぞれ50%の確率で疾患を受け継ぐ.出生前診断はできない.
診断
臨床診断
エーラスダンロス症候群(EDS)のすべての病型に対する臨床診断基準および新しい病型命名法はBeightonら(1998)により提案された.関節可動亢進型EDSは主に柔らかい皮膚を伴う関節弛緩および易挫傷により特徴づけられるが,他の器官系(特に胃腸・心血管)の症状も頻繁に合併する.古典型EDSとは皮膚および軟部組織のより一層顕著な症状(後述)で区別される.
関節可動亢進型EDSの診断は臨床評価および家族歴に基づく.下記に表示する基準は,Beightonら(1998)の提案に著者の経験を反映し修正した.
大基準 関節可動亢進型EDSの診断にはすべてを認める.
- 関節の過可動性. Beightonスコア(9点満点)を用いて5点以上で診断される(客観的に関節過可動を認めるが5点に満たない人もいる(過可動検査の感度と特異度の項を参照)).
以下のそれぞれを1点とする
各小指が90度以上過背屈する(左・右)
各拇指の過屈曲による前腕との接触(左・右)
各肘関節の10度以上の過伸展(左・右)
各膝関節の10度以上の過伸展(左・右)
膝伸展位で脊柱を前屈させ手掌が床につく
- 皮膚は柔軟で,皮膚過伸展は正常あるいは軽度である.皮膚過伸展は,余分でなく,またたるんでもいない皮膚で外傷の既往がない部位に,抵抗を感じるまで引っ張ることで評価する.理想的な部位は,前腕の掌側表面であり,正常値の上限は,およそ1-1.5cmである.関節の伸側面は余分な皮膚が存在するため用いるべきではない.
- 皮膚脆弱や皮膚または軟部組織に他の明らかな異常所見がないこと.これらがあれば他の病型のEDSを考慮する.その所見は以下のものである:
自然にあるいは容易に皮膚の切傷,裂傷
自然にあるいは容易に腱,靭帯,血管や他の内臓が裂傷,破裂
手術時の血管破裂や組織を突き破る縫合不全や破裂などの合併症
創傷の自然離開
再発または切開ヘルニア
明らかな皮膚過伸展性(前腕の掌側表面において1.5cm以上).
薄く,透き通る皮膚
萎縮性(「シガレットペーパー」) 瘢痕(関節可動亢進型EDSにおいても,軽度な萎縮
性瘢痕は,伸側面や腹壁のように特に理学的なストレスを受ける部位に認める).
モルスクム様偽腫瘍 (Molluscoid pseudotumors)
小基準は関節可動亢進型EDSの診断を補助するが,確定には十分でない.
- 皮膚または軟部組織に明らかな脆弱性がなく,常染色体優性遺伝形式に一致した関節過可動亢進型EDSの家族歴
- 反復性関節脱臼または亜脱臼
- 関節,肢および(または)腰背の慢性の痛み
- 容易な挫傷
- 腸機能障害(機能性胃炎,過敏性腸症候群).
- 神経調節性低血圧症または体位性起立性頻脈
- 高狭口蓋
- 歯の叢生
関節過可動性検査の感度と特異度は,個人の年齢,性別および病歴に依存する.
- 5歳(およそ)以下の幼児は,身体の柔軟性が強い傾向があるため,評価は難しい.
- 女性は,(平均して)男性より柔軟性がある.
- 加齢によって身体の柔軟性が失われる傾向がある.また,手術後または関節炎の関節では,しばしば可動範囲は狭くなる.家族歴陽性や小基準により本症候群が強く考慮される際には,上記の関節弛緩の既往や複数の関節弛緩の存在はBeightonスコア陽性の代わりになる.
検査
関節可動亢進型EDSの原因は一般に未知である.
分子遺伝学的検査
遺伝子
テネイシン(tenascin)X(TNXB遺伝子によりコードされる)の ハプロ不全を関節過可動亢進型EDSの一部に認める.テネイシンXのハプロ不全では皮膚過伸展性または血液学的所見はなく,関節の典型的症状および柔らかい皮膚がみられる.
- テネイシンX欠損に関連した常染色体劣性形式をとる関節可動亢進型EDS患者の親族において一部(全員でない)に,関節可動亢進型EDSに似た表現型が報告されている.
- 常染色体劣性テネイシンX欠損EDSの家族歴がない関節可動亢進型EDS 80例についての別に行われたコホートでは,6例(7.5%)にテネイシンX生化学的欠損を,2例(2.5%)にTNXB遺伝子変異を同定した.これら6名はみな典型的な関節弛緩を有し,多くは柔らかい皮膚を持ち,皮膚の過伸展や易出血性のみられた者はいなかった.
- 他の遺伝子座 原因および遺伝子座(あるいは遺伝子座)は,症例の大半で不明である.
- 分子遺伝学的検査:研究 血清テネイシンXタンパク質検査は研究レベルでのみ利用可能である.
表1関節可動亢進型エーラスダンロス症候群の分子遺伝学的検査
遺伝子座名 |
検査方法 |
変異検出率1 |
検査の実施可能性 |
TNXB |
直接DNA2 |
不明 |
研究レベル3 |
- 該当遺伝子に対する変異検出検査法の能力
- 直接DNAは特異変異解析,変異スクリーニング,塩基配列解析,欠失・重複解析など他の分子遺伝学的検査の組み合わせによる研究検査である
- GeneTestに掲載されている臨床的にこの遺伝子解析を行っているところはなく,臨床的に変異同定は研究室でのみ行われている
遺伝学的に関連のある疾患
常染色体劣性形式をとるエーラスダンロス症候群の方に,TNXB遺伝子の変異/欠失をコンパウンドヘテロあるいはホモに有するテネイシンX欠損が報告されている.関節弛緩,皮膚過伸展性,容易に挫傷はおきるが創傷治癒は正常で瘢痕形成はない.隣接遺伝子CYP21A2の欠失による副腎過形成 を合併している方もいる.
臨床像
自然経過
関節可動亢進型エーラスダンロス症候群(EDS)は,筋骨格系統を中心とした明らかな合併症が起きるにもかかわらず,最も重症度の低いEDSと一般的に考えられている.臨床症状には幅がある.診療を必要とした方の多くは女性である.疼痛や主たる関節の合併症は罹患男性ではより少ない.どちらの親から疾患を受け継ぐかによる重症度の差異は明らかではない.
皮膚 皮膚はしばしば柔和あるいはビロード状で,軽度の皮膚過伸展を認めることもある.圧力原性丘疹(体重負荷により踵の皮膚を通じた皮下脂肪の小ヘルニア)をよく認めるが,痛みはほとんどない.皮下球状塊およびモルスクム様偽腫瘍はこの病型の特徴でない.臨床的に有意な皮膚の病的状態はみられない.
筋骨格
- 関節弛緩:亜脱臼および脱臼は一般的であり,本疾患の主な症状である.それらは自然にあるいは最少の外傷により生じ鋭い痛みを伴う.整復は,自然に,あるいは患者本人または友人/親族によりなされることが多い.多くの患者で急性脱臼への医学的介入を通常必要としないが,痛みは発症より数時間から数日持続することもある.亜脱臼がない時にも,日常の活動における関節の動きは明らかに不安定で過剰となる.四肢,脊柱,肋椎および肋胸骨関節,鎖骨関節および下顎関節等すべての部位が含まれる.若年者および女性では,より老齢の者や男性に比べてかなりの弛緩を来す傾向がある.
- 骨関節炎:変形性関節症は,おそらく機械的ストレス増加で生ずる慢性的な関節不安定性に由来し一般に比べ若い年齢で起こる.
- 骨粗鬆症:関節可動亢進型EDSおよび古典型での骨ミネラル濃度は,成人期の初期において健常対照群に比べ最大で0.9標準偏差((訳注)-0.9SD)減少している.
痛み
- 急性の脱臼や変形性関節症と関連しない慢性的な疼痛は重大な合併症であり,身体的に 心理的にも負担となる.発症時期(早くて青年期,遅くて50-60歳代),部位,期間,質,重症度および治療への応答はさまざまである.重症度は,診察およびX線検査に基づく見込みよりも大きく,疲労および睡眠障害を頻繁に伴う.関節弛緩の出現前や正しい診断の前には,しばしば慢性疲労症候群,線維筋痛,うつ病,心気症および/または怠けと診断されている.
- 慢性的な骨・関節の疼痛に加え少なくとも以下の2種類の疼痛症候群がある:
- 関節周辺あるいは関節と関節間に局所的にみられる疼痛あるいは筋筋膜痛(myofascial pain)は,うずく・ズキズキする・こわばるといった言葉で表現される. この痛みは筋膜攣縮に起因することもある.圧迫により痛みを生じる圧痛点により引き起こされる攣縮(線維筋痛と一致している)は特に脊椎傍筋肉において明らかとなる.筋筋膜の弛緩により一時的に症状が軽減する.
- 神経因性疼痛(電気的,熱傷,撃たれたような,まひ,うずき,熱感・冷感等の不快感としてさまざまに表現されている)は,神経根や末梢神経,または関節周辺領域に局在してみられる.神経伝導試験は通常診断に有用でない.皮膚生検は小神経線維の減少または欠如を明らかにすることがある.1つの仮説として,神経因性疼痛は,関節の不安定性にあわせて,直接的な神経への衝撃(例えば脊椎捻挫,椎間板ヘルニア,脊椎関節症あるいは周辺関節の亜脱臼)でおきる.加えて,筋筋膜の攣縮部位への軽度から中程度の神経圧縮により起こるともいわれている.両者の可能性については,臨床的に評価されていない.
- 頚椎症性筋肉のコリおよび顎機能不全により引き起こる頭痛(特に片頭痛)はよくみられる.
血液
- 容易におこる挫傷は明らかな原因がないのに頻繁にみられる.長引く出血,鼻出血および機能性子宮出血がみられることがある.これは臨床的にフォン・ヴィレブランド病に似ている.しかし,フォン・ヴィレブランド因子,血小板数および機能,および凝固因子活性はほとんど正常である.しかし,フォン・ヴィレブランド病, 特発性血小板減少性紫斑病などの出血素因はEDSと無関係に存在することもある.
消化管
- 機能性腸障害は一般的であり認識されていないこともあるが,関節可動亢進型および古典型EDSの多ければ約50%に認める.プロトンポンプ阻害薬の最大量に加えてH2ブロッカーや酸を中和する薬剤の服用もかかわらず,胃食道逆流および胃炎の症状を示すことがある.早期満腹および胃排出遅延はオピオイド(や他の)薬剤により悪化することがある.過敏性腸症候群は下痢および(または)便秘の症状で現れ,腹部の筋けいれんおよび直腸粘液と関連する.
心血管
- 自律神経機能不全:関節可動亢進型(および古典型)EDSのおよそ3分から1から2分の1には,非定型的胸痛,安静・労作時の動悸かつ(あるいは)起立不耐症を伴う.通常,ホルター心電図は,正常洞調律を示すが,時に早発性心房波形または発作性上室性頻拍になる.ティルトテーブル検査は,神経調節性低血圧症(NMH)および(または)姿勢による起立性頻脈症候群(POTS)を明らかにする.
- 大動脈起始部の拡張(通常軽度である)は,古典型および関節可動亢進型EDSの患者の3分の1から4分の1に起こる.重症度はマルファン症候群よりはるかに低いとされ,明らかな拡張がない時には大動脈解離のリスクは増加しない.長期的な進行および最終的な予後は知られていない.
- 僧帽弁逸脱(MVP)は,これまですべての病型のEDSに考慮すべきとされていた.しかし,近年診断基準を用いたMVPは厳密に評価されていない.診断基準に満たない軽度なMVP(したがって,特別な経過観察や処置を必要としない)は非特異的な胸痛および動悸の説明となることもある.
口/歯
- 高狭口蓋および歯の叢生は,ほとんどの遺伝性結合組織疾患に認める非特異的な症状である.二分口蓋垂,粘膜下口蓋裂および顕性口蓋裂は関節可動亢進型EDSの症状ではなく,別な疾患の検討をすべきである(鑑別診断を参照).
歯周病(摩損度,歯肉炎,歯肉の後退)はEDSの一部の方に認めるが,現在でもEDSの固有な亜型とはされていない.関節可動亢進型における歯周疾患の頻度は不確定である.古典型あるいは関節可動亢進型EDSの12人に口腔内微小血管ネットワークの異常を認めたと報告したが,これと歯周病の潜在的な相関性は報告されていない.
顎機能不全(「顎関節症候群TMJ syndrome」)は,比較的頻繁であり,関節変性および変形性関節症の具体例としてみられる.
産科/婦人科
- 妊娠では,早期破水あるいは早い陣痛分娩(4時間未満)などの合併症がおきる.しかしこれは古典型よりまれである.関節弛緩および痛みは,罹患していない女性にも通常起こるように,妊娠(特に妊娠後期で)増強する.妊娠に伴う他の合併症は知られていない.骨盤脱出および性交痛は,少なくとも古典型および関節可動亢進型EDSでは頻度を増す.
精神医学
- 精神的な機能不全(例えば,うつ状態,不安,自尊心の低下)や慢性疲労に関してEDSの方の頻度は一般に比べ高い.
軟部組織の脆弱
- 内臓の自然な破裂や裂傷は,関節可動亢進型EDSの特徴ではない.そのような症状があるときは,他の遺伝性結合組織異常を考慮すべきである.
遺伝子型と表現型の関連
遺伝的原因は,大半の場合で明らかではない.テネイシンXのハプロ不全を伴う少数の関節可動亢進型EDSでは易打撲性および皮膚過伸展を有しなかった.
浸透率
浸透率は100%であると考えられている.症状の幅はとても大きく,特に老齢の男性では関節症状や疼痛を経験していない方もいるので,典型的な症状を明らかにするには注意深い精査が必要とされることもある.
促進現象
促進現象は観察されない.
病名
1997年 Villefranche EDSカンファレンスでエーラスダンロス症候群の分類および命名法を単純化した.III型EDSは,病型を関節可動亢進型に変更された.
「良性家族性過剰運動症候群」は,関節可動亢進型EDSと同一として扱うか,別の症候群として扱うかは意見の不一致がある.これらの違いはわずかで区別は難しく,関節の合併症の程度と皮膚症状の有無に関係する.
しかしながら,関節過可動EDSを有する発端者の第一度近親者は,しばしば比較的無症候性の関節弛緩があり,皮膚症状はないかあっても軽度である.それゆえに,本レビューにおいては,良性過剰運動症候群は関節可動亢進型EDSに含まれるものとして扱う.
頻度
関節可動亢進型EDSの有病率は未知である.推定値は1:5,000と1:20,000の範囲とされ,家族性過剰運動症候群が含むかどうかによっても数値は一部異なってくる.臨床症状に幅があり,罹患男性が少なく見積もられていることから,有病率は予測よりはるかに高くなりそうである.
関節可動亢進型EDSは最も頻度が高い遺伝性結合組織疾患である可能性もある.
鑑別診断
エーラスダンロス症候群(EDS)のすべての病型は,共通してある程度の関節弛緩と皮膚/軟部組織症状がみられる.皮膚および軟部組織脆弱性などの別の結合組織症状によりEDSの他の病型を鑑別する.
- 古典型EDSでは皮膚と軟部組織の脆弱性がみられる.軽度の古典型は,関節可動亢進型と間違われる可能性がある.後に本人あるいは家族が皮膚および軟部組織の著しい症状が明示された場合,関節可動亢進型から古典型へと診断が改訂されることもある.古典型EDSの約50%はV型コラーゲンをコードするCOL5A1またはCOL5A2遺伝子に変異を有する.これらの遺伝子の塩基配列解析は可能である
- 血管型EDSでは,関節弛緩は主に小さな関節で生じ,中空臓器の自然破裂が起こる. III型コラーゲンの機能不全および/または欠乏(COL3A1遺伝子変異によって引き起こされる)が血管型EDSのすべての症例の原因となっている.血管型EDSの診断は臨床所見に基づいて行われ,生化学(タンパクレベル)および(または)分子遺伝学的検査により確定される.
- 後側彎EDSと皮膚脆弱型EDSは常染色体劣性遺伝形式をとるまれな疾患で,より重度の皮膚症状および他の特徴によって鑑別される.
- 後側彎型EDS kyphoscoliotic typeは,コラーゲンのリジン残基をハイドロキシリジン残基に水酸化する2-oxoglutarate 5-dioxygenase 1 (PLOD1: リジルヒドロキシラーゼ1(リジン水酸化酵素))の酵素活性の欠損に起因する.後側彎型EDSは,尿中のデオキシピリジノリン
deoxypyridinolineとピリジノリンpyridinolineとの比の上昇で診断可能となり,HPLCで測定するこの検査は感度・特異度ともに非常に高い.皮膚線維芽細胞でのリジルヒドロキシラーゼ酵素活性の測定も有用である.また,リジルヒドロキシラーゼの遺伝子であるPLOD1の分子遺伝学的検査も研究ベースで利用可能である.
- 多発性関節弛緩型EDS arthrochalasia typeは常染色体優性遺伝形式をとるまれな疾患で,先天性股関節脱臼およびより重度の皮膚症状によって区別できる.COL1A1あるいはCOL1A2遺伝子エクソン6の病的遺伝子変異により,I型コラーゲンのN末が切断できない.臨床的に検査は可能である.
- 関節弛緩は,数十ある他の病気および症候群の非特異的な症状である.これらのいくつかは,伝統的に遺伝性結合組織異常または骨格形成異常と考えられるが,多くは関節や皮膚以外の症状によって,容易にEDSと鑑別できる.軽症ではときに関節可動亢進型EDSとして誤診する可能性がある.鑑別すべき疾患を頻度が高く重要である順に下記に記載する:
- マルファン症候群 EDSの症状に加えて骨,眼,心血管,肺,皮膚症状がみられる.臨床的診断基準はマルファン症候群の診断に有用である.これを臨床的に利用できるFBN1遺伝子変異で確認することができる.関節過可動はMASS表現形(僧帽弁逸脱(mitral valve prolapse),
近視(myopia),境界型かつ非進行型の大動脈拡張(aortic enlargement),非特異的な皮膚骨格所見(skin and skeletal findings))にはよくみられ,FBN1変異により発症する.関節可動亢進型EDSでは時々マルファン症候群あるいはマルファン類縁疾患にみられるマルファン様体型を有する.しかし,マルファン症候群の臨床的診断基準やFBN1遺伝子解析により,鑑別できる.
- ロイス・ディエツ症候群 ロイス・ディエツ症候群は複数の動脈瘤および血管蛇行により特徴づけられる.他の臨床症状に幅はあるが,眼間解離および二分口蓋垂が認められることもある.症状はしばしばマルファン症候群または血管型EDSと似ているが,血管異常を検出する前には,古典型または関節可動亢進型EDSと誤診されることもある.TGFBR1またはTGFBR2遺伝子変異の検出により診断は確定される.
- Stickler 症候群 伝音性および感音性の難聴,硝子体網膜の異常および口蓋裂により鑑別できる.3種類の遺伝子(COL2A1,COL11A1,COL11A2)の1つに変異があればStickler 症候群である.これら3つの遺伝子と関連しない家系もあり,他の遺伝子群による発症もある.本症の診断は臨床的になされる.多くの罹患者やその家族は臨床的に利用可能な遺伝子解析で診断を確定することもあるが,これらの結果は主に遺伝カウンセリングに必要な情報を得るために利用されているが,陰性所見では除外診断とならない.
- Williams症候群(WS)は心疾患(エラスチン動脈症,周辺の肺動脈狭窄症,大動脈弁上大動脈弁狭窄症,高血圧症),特徴的な顔貌,結合組織異常,精神遅滞(通常軽度),特定の認知プロフィール,ユニークな人格特性,発育異常および内分泌腺の異常(高カルシウム血症,高カルシウム尿症,甲状腺機能低下症および思春期早発)によって特徴づけられる隣接遺伝子症候群である.診断は,エラスチン(ELN)遺伝子をコードするWilliams-Beuren症候群に重要な部位(WBSCR)の隣接遺伝子欠失の検出である.WSと臨床診断されたうちの99%以上にこの隣接遺伝子欠失があり,蛍光in situハイブリダイゼイション法(FISH)または遺伝子変異解析により欠失が同定される.大動脈弁上部狭窄症(SVAS)はELN遺伝子変異(欠失よりむしろ変異である)によって引き起こされる.ELN遺伝子の欠失あるいは変異のある患者に関節弛緩が認められる.しかし,古典的なエラスチン動脈疾患はどのEDSでも見られない.
- Aarskog-Scott症候群(顔面生殖器異形成)は,FGD1遺伝子変異に起因するX連鎖遺伝病である.最も大きな特徴にショール陰嚢があるが,成人期にはさほど明らかでなくなる.富士額,低い上向きの鼻,他の外表奇形や遺伝形式は診断の糸口となりうる.どの病型のEDSにもみられない精神遅滞がときに存在する.
- Fragile X症候群 通常は関節可動亢進型EDSと混同することはない.FMR1遺伝子に完全変異(full mutation)がある時,脆弱X症候群は罹患男性では中等度の, 罹患女性では軽度の精神遅滞となる.男性では特徴的な顔貌(長頭,前額の突出,大きな耳,目立つ顎),関節弛緩および巨大精巣(思春期以降)を認める.保因者(premutation)では,関節弛緩および EDS 類似の皮膚所見を持つが他の主な症状はない.精神遅滞の家族歴があれば有用となる.関節過可動亢進型EDSと臨床的に診断された人における脆弱X症候群の保因者(premutation)の頻度は調査されていない.しかし,関節可動亢進型EDSの女性の児で脆弱X症候群の報告はない.
- 軟骨無形成症と軟骨低形成症は特徴的な骨格(軟骨異栄養では軽度,軟骨形成不全症では明らか)を伴った低身長によって鑑別する.罹患者は臨床像およびX線像により軟骨無形成症と診断できる. FGFR3遺伝子変異は,軟骨無形成症患者の99%および軟骨低形成を伴う約70%に判明する.しかし,他にも軟骨低形成を起こす座は明らかに存在し,未知の遺伝子の変異により,同一でないにせよ同様の表現型が起こる可能性がある.
- 骨形成不全症(OI) 骨折および時に象牙質形成不全(灰色または褐色の歯)の存在により鑑別される.生化学検査(生体外における皮膚の培養繊維芽細胞でのI型コラーゲン合成による構造と量の分析)により, OIタイプIIの98%, OIタイプIの90%, OIタイプIVの84%およびはOIタイプIIIの84%で異常を検出する.OIタイプI, II,III,IVの約90%(OIタイプV,VIおよびVIIではない)にCOL1A1またはCOL1A2に遺伝子変異を検出する.
- ダウン症候群・ターナー症候群・クラインフェルター症候群などの染色体異数性は外表奇形と精神遅滞の有無に基づいて通常容易に診断される.小さい重複または欠失は,それほど臨床的に明白にはならないが,受胎能の減少や,習慣流産により示唆される.
慢性疼痛および疲労は,線維筋痛の大きな特徴である.慢性疲労症候群を伴う線維筋痛(慢性疲労症候群または繊維筋痛どちらかのみの場合もある)の患者の一部には, EDSを基礎疾患として持つ群もあるかもしれない.
臨床的マネジメント
最初の診断後における評価
関節可動亢進型エーラスダンロス症候群(EDS)と診断された時には,病状を把握するために以下の評価を行うことがすすめられる.
- 詳細な病歴聴取・身体所見,特に筋骨格,皮膚,心血管,消化管・口腔/歯
- 痛みの現在の状況とともに,痛みおよび関節不安定に対する既往(薬剤,外科的治療) の評価
- 大動脈起始部の心エコーによる基本的な評価(年齢と体表面積による修正を加える).有意な大動脈の拡大および(または)他の心奇形は,別な疾患の検討を考慮すべきである.
- ティルトテーブル試験:起立耐性とそれに伴う頻脈がある場合はティルトテーブル試験を行い,神経調節性低血圧症(NMH)や起立性頻脈症候群(POTS)を診断し治療の指針とする
- 過敏性腸症候群が疑われる場合,消化器内科を受診し大腸内視鏡検査を行い他の治療可能な疾患を除外する.セリアック病や吸収不良を起こす他疾患はEDSとの関連はないが,共存する可能性もある.
- DEXA (二重エネルギーX線吸収測定法)(訳注 骨密度測定法)は1インチ以上の身長の短縮を認めた場合,またはX線検査が骨減少を示唆する場合に用いる.女性は遅くとも最初の検査を閉経より前に行うべである.身長短縮がなく,X線写真の異常所見もない男性がDEXAスクリーニングを行うべきかどうか,行うとしたら何歳時に行うべきかなどは明らかになっていない.
- 重症のまたは長期の出血の既往がある場合,フォン・ヴィレブランド病または他の出血性素因に関する血液学的評価を考慮する.通常,結果は陰性だが,これら疾患が関節可動性亢進型EDSと共存することもありうる.
病変に対する治療
理学療法
- 筋膜リリース(攣縮を軽減する(ときほぐす)理学療法)は短期的な疼痛緩和法で,数時間から数日間有効である.緩和時間が短く,頻繁に繰り返さなければならないが,関節の安定に向け筋肉調整を始めるための手助けとして非常に重要である.やり方は各個人に合わせて対応されるべきである.一部あげるだけでも,温熱・冷感・マッサージ・超音波・電気刺激・鍼・指圧・生体自己制御および意識の緩和など多岐に渡る.
- 低抵抗運動は関節の安定性を向上し,亜脱臼,脱臼,疼痛を軽減するかもしれない.詳細は一次病変の予防参照のこと
- 経膣による骨盤への理学療法および筋膜リリース(マッサージまたは超音波を経膣により骨盤の筋肉組織に適用する)は,性交疼痛症・腹痛・腰背痛および時に下肢苦痛の改善もありうる.
補助器具
装具は関節安定性の向上に有用である.整形外科医,リウマチ専門医および理学療法士は,膝および足首のようなよく問題が起きる関節に適切な器具の作成を支援することができる.肩および股関節への装具には課題がある.作業療法士は,指節間関節を安定させる輪状の添え木 ,手首や手首/親指の装具についても検討すべきである.やわらかいネックカラー(耐えられるのであれば)で,頚部痛および頭痛が軽減されることもある.
- 車椅子またはスクーターは下肢の関節への過重荷の減少に必要となることもある.骨盤と上肢の問題に対応するために,軽量化や電動化,座面の工夫,特注の駆動輪と駆動輪握りなどの車椅子の改良が必要となるかもしれない.松葉づえ・つえ・歩行器は,上肢への負荷が大きいため使用に当たっては注意が必要である.
- ウォーターベッド,調整可能なエアマットレスあるいは粘弾性のフォーム・マットレス(または枕)は,睡眠の質を改善し苦痛を減少させるかもしれない.
鎮痛剤
訳注:以下に記載されている薬剤量は日本においての適正量と異なることがあり,実際の使用には充分な検討が必要である.
鎮痛剤は多くは処方不足であり,客観的所見ではなく個々の自覚症状に適合させるべきである.多くの臨床医は疼痛管理の専門家と連携するが,主治医が疼痛を管理することもある.
注)下記服用事項はすべて肝臓あるいは腎臓病のない成人向けである.それ以外の人に関しては,調整が必要となることもある.
- アセトアミノフェン(4000 mg/日,分3または4)は,完全に痛みを緩和しないが,有用で良好な耐用性補助剤である.アセトアミノフェンは多くの場合他の鎮痛薬と併用する.1日あたり4000 mgを超えないよう1日当たりの総量に注意を払うべきである.
- NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)(例えば,イブプロフェン,ナプロキセン,メロキシカム,ナブメトン)は,胃腸が耐えられる最大量まで増量して良い.挫傷はNSAIDS治療の禁忌とはならないが,減量やCOX-2阻害剤への変更が必要である.
- COX-2阻害剤(セレコキシブ)は最大量でも等量のNSAIDsと比べ強くはないが,忍容性がよく得られるためより有効と考えられる.
- トラマドールは,オピオイドに頼る前にアセトアミノフェンとNSAIDまたはCox-2阻害剤に追加できる.最も一般的な副作用は吐き気である.
- 局所リドカインは,クリームまたはパッチで局部の疼痛緩和に役立つ場合もある.局所カプサイシンの有用性は疑わしいが安全である.
- 骨格筋弛緩剤は,筋膜攣縮に対処する上記すべてと一緒に用いられる,有用なものである.メタキサロン(Skelaxin)((訳注)本邦未承認)は,鎮静効果は小さいが,どれも鎮静効果に限定される.
- 三環系抗うつ薬は,軽度の鎮静を必要とする(睡眠が難しい時)神経因性疼痛に対しては効果があり,気分高揚がある.便秘(一般的な副作用)は,便軟化剤および下剤で管理できる.通常用量は毎晩のノルトリプチリン(25-150 mg) またはトラゾドン(50-300 mg)である.
- 選択的セロトニン/ノルエピネフリン受容器抑制(再取り込み阻害)剤(SNRI)はベンラファキシン((訳注)本邦未承認)とデュロキセチン((訳注)本邦未承認)に代表され,抑うつや神経因性疼痛に効果がある.
- 抗けいれん剤のいくつかは,神経因性疼痛に有効で,三環系抗うつ薬に加えて使用される.すべては治療のレベルに達するまで暫増する.ガバペンチンは,1日量1200 mg 分3まで増やすことができるが,鎮静および/または胃腸管の副作用により制限されることがある.プレガバリン((訳注)本邦未承認)は1日当たり300 mg(分2あるいは分3)まで投与でき,ガバペンチンよりも忍容性が良い傾向がある.トピラメートおよびラモトリジンは効果を上げてきた.
- オピオイドは,筋筋膜疼痛と神経因性疼痛の両方に有効であるが,使用開始は可能な限り後にする.トラマドール以外の上記のすべてとともに処方される.通常,慢性的に(少なくとも数カ月)投与されるので,抑えきれない痛みには長期作用剤(例えば,放出オキシコドンまたはモルヒネまたは局所用フェンタニルパッチ)と同じ医薬品の短時間作用剤を必要に応じて使用するべきである.短時間作用型剤を毎日2回以上投与するのであれば,長時間作用剤の増量や投薬計画の調整を考慮すべきである.
- マグネシウムおよび/またはカリウムの補足は,いくつかの筋弛緩および疼痛緩和を促すことがある.最も一般的な副作用は,下痢,吐き気および鎮静である.特定の推奨有効量は存在しない.
- グルコサミンおよびコンドロイチンは,一般的に変形性関節症の予防や治療に役立つ.特にEDSに禁忌ではないが,検討もされていない.
手術および他の処置
- 多くの方々が診断に先立っていくつかの整形外科手術を受けている.しばしば関節鏡下デブリドマン,腱再配置,関節嚢縫合術および膝関節置換術を含む.症状の安定と疼痛軽減,満足度および改善持続期間は人によって異なるが,一般的にはEDS以外に比べて結果は悪い.一般に,理学療法や装具を優先し整形外科手術は後にすべきである.手術施行時,患者および医師は慎重に改善を見込むべきであるが,予測される結果ほどには期待できない.古典型や血管型EDSと異なり,関節可動性亢進型は周術期合併症のリスクは増大しない.
- Prolotherapy(プロロセラピー:瘢痕形成を引き起こしかつ関節安定を増加させるために,腱や関節周囲に食塩水および/または他の刺激物を注入する)は,客観的な研究はなされていないがおそらく安全であり,そしておそらく整形外科手術と同様の制限を受ける.
- 局所への痛みと炎症軽減に向けた麻酔薬/コルチコステロイド注入は,ときに効果がある.しかし,無期限に繰り返すことはできない.注入がない注射針刺激法により同様の効果が得られることもある.
- 麻酔薬の神経ブロックは,神経因性疼痛の一時的な緩和を促す.時に,神経ルートの外科的破壊および/または植込み型刺激(感覚または運動)の前に実行される.
- 麻酔薬および/またはオピオイド薬の持続くも膜下送達は,経口/系統的薬物治療の必要を減少するかもしれない.しかし,最終手段とみなすべきである.
骨密度 治療は,骨密度の低い一般の人と同様である.歩行やエレプティカルトレーナーを使用する単純な荷重負荷運動は静止時筋緊張の増加だけでなく,骨密度の維持に有用であると考えるべきではない.
血液
- 易挫傷性および自発性挫傷は,治療を必要としない.
- 重度の出血(例えば,鼻出血,機能性子宮出血)または手術への予防として,酢酸デスモプレシン(デスモプレッシン, ddAVP)が有益である場合がある.
消化管
- 胃炎および逆流症状には,プロトンポンプ阻害薬を1日2回食前,ヒスタミンH2受容体拮抗薬を就寝前に高投与量(例えばファモチジン20-40 mgまたはラニチジン150-300 mg),スクラルファートを毎日1 g 分4および市販の酸中和剤といった具合に,集中的な治療が必要となる.H.ピロリ感染のような他の治療可能な原因も調べるべきである.上部内視鏡は抵抗性の症状には適応となるが,ほとんど慢性胃炎以外は正常所見である.
- 胃排出遅延が同定されたときには,機能調整薬(例えばエリスロマイシン,メトクロプラミド)で通例と同様扱われるべきである.
- 過敏性腸症候群は,必要に応じ,通常どおり鎮痙薬,下痢止および下剤を服用する.テガセ
ロド ((訳注)本邦未承認)および ルビプロストン((訳注)本邦未承認)は,便秘症のみの場合に有効である蠕動促進剤である.三環系抗うつ薬は,神経因性疼痛と下痢を伴う場合特に有用となるかもしれない.
心血管
- 進行性大動脈の拡大があれば,β遮断薬が考慮されるべきである.重度の拡張(>4.5-5.0cm)で手術の評価が必要となることは稀である.
- 神経調節性低血圧症および体位性起立性頻脈は,循環血液量を増加させる塩分,水分とともに,β-遮断薬,フルドロコルチゾンおよび(または)刺激物により通常と同様に治療される
歯
- 矯正補正および口蓋の矯正は,逆戻りする傾向があり,リテーナーの長期使用が必要となる.
- 歯周病は,同定され,治療を受けるべきである.
- 下顎関節の弛緩および機能不全は,治療が困難である.有効性が実証されている特定の介入は一切ない.口腔内装置は時に補助手段となる.口休み(咀嚼と会話を最小限にする),局所的な筋筋膜リリースおよび筋弛緩薬は,急性炎症に有益である.外科的介入はしばしば意味がなく,最終手段として考慮すべきものである.
精神
- 関節可動亢進型EDSにとり,罹患者の既往歴の確認は有用である.以前の担当医により怠けあるいは原発性精神疾患と診断されていたことも多い.
- 支援団体は利用でき,有益となることがある.
- うつ状態は,慢性疼痛や他の合併症の結果としてみられる.心理的および(または)苦痛緩和志向型カウンセリングは,こうした問題や必要な身体的制限への適応改善となる.抗うつ剤は同じく大きな効用がある.多くの方は問題が純粋に精神的なものとして片付けられてしまう不安から,はじめはうつ病薬の処方やうつ病の診断に抵抗する.
一次病変の予防
関節の安定性の向上は,筋緊張(意識的に動かす筋力に対しての潜在意識下の静止筋収縮)を増加させる低抵抗運動により達成されるかもしれない.例えば,ウォーキング,サイクリング,低いインパクトのエアロビクス,水泳あるいは水中練習や抵抗のない単純な運動練習である.繰り返し,頻度または持続時間を増すことにより進展がみられる.抵抗を増してはいけない.顕著な進歩を認識するには数か月または数年かかるかもしれない.
広いグリップを持つ筆記用具は,指および手関節上の負荷を低減できる.筆記用具の軸を母指と示指の間に水かきに置いて,先を遠位指節または示指か中指の中節骨の間(指の先ではなく)で固定するという一般的ではないグリップにより,指節間,中手指節関節および手根中手関節にかかる力が大幅に減少される.この調整により,母指の基部と人差し指の痛みが顕著に減少する.
二次病変の予防
骨密度を最大限に保つために,カルシウム(500-600 mg 分2),ビタミンD(毎日400ユニット)および最小限の体重負荷運動が推奨される.
経過観察
骨損失を確認する場合は1年おきにDEXAを行うべきである.大動脈の拡大の長期予後,心エコーの検診間隔は現在未知である.大動脈起始部が正常径である成人において,約5年ごとの心エコー実施は合理的である.大動脈起始部が正常径である小児と青年では,著者の経験では成人期までに1~3年毎の検査が望ましい.大動脈起始部径の増大が体表面積の増大と比べてより早くなる場合,より頻繁なモニタが適切である.
回避すべき薬剤や環境
関節過伸展は避けなければならない.関節可動亢進型EDSを伴う個々人は,正常関節伸展範囲について教育を受け,それを超えないよう注意が必要である.
レジスタンス運動は関節不安定および痛みを悪化させることがある.弾性の抵抗バンドを含にも注意すべきである.一般的に,抵抗を上昇するよりも,運動の回数を増やす方が良い.
等尺性筋運動は,もし大きい力(抵抗)を使う場合,問題になることがある.
負担のかかる運動は,急性亜脱臼,脱臼,慢性疼痛および変形性関節症のリスクを高める.
フットボールのようないくつかのスポーツはそれ故に禁忌となる.しかし,多くのスポーツや行動は,適切な予防措置では許容される.
カイロプラクティックは厳密には禁忌ではないが,医原性亜脱臼または脱臼を防ぐために,注意して行われるべきである.
松葉づえ,つえおよび歩行器は増加する負荷を上肢に与えるため,用心深く使用するべきである.
リスクのある血縁者の検査
第1度近親者での関節可動亢進型EDSとなるリスクは50%であり,正しい臨床評価を受けることが望まれる.明らかに臨床症状のないものは,彼らが罹患者と知ることに直接的な利益はないかもしれないが,児にリスクがあると知る意味では有意義かもしれない.幼児(5歳未満)は正常でも関節弛緩があり評価は困難である.
リスクのある血縁者の遺伝学的検査に関連する遺伝カウンセリング事項については,遺伝カウンセリングの項を参照.
研究中の治療法
種々の疾患に対する臨床試験に関する情報は,ClinicalTrials.govを参照.
その他
ビタミンCはコラーゲン細線維の架橋結合のための補助因子である.毎日500 mgの補給は,いくつかの症状を改善するかもしれない.高用量では排泄され,増量による臨床的効果はない.ロサルタンは,マルファン症候群やロイス・ディエツ症候群において大動脈瘤の治療および予防のために検討中である.もし安全で,有効である,と証明されれば,同様に関節過可動亢進型EDSで大動脈肥大を有する方にそれを使用することは合理的かもしれない.
臨床遺伝の専門家による遺伝診療は患者やその家族に対して,個々の方に合わせた有用な医療資源の情報と自然歴,治療法,遺伝形式,他の構成員への遺伝リスクの提供を提供する.
遺伝カウンセリング
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
関節可動亢進型エーラスダンロス症候群(EDS)は,常染色体優性様式で遺伝する.
患者家族のリスク
発端者の両親
-
確認するには注意深い病歴聴取や検査が必要となるが,関節可動亢進型EDSと診断されたほとんどの方に罹患者である親がいる. 重大な合併症はないにせよ,片親(時々は両親であることも)に現在または過去の関節弛緩,易挫傷性,柔らかい皮膚を認める.
-
関節可動亢進型EDSの発端者は新生遺伝子突然変異の結果として症状を持つ可能性がある.新生遺伝子突然変異による症例の割合は不明である.
-
一見したところ新生突然変異に見える発端者の親の評価には,現在または過去の関節弛緩挫傷性,柔らかい皮膚といった症状を念頭に置いた詳細な病歴聴取と検査が推奨される.
注)関節可動亢進型EDSと診断された方の大半は罹患した親をもつが,家族内で本疾患への理解が少ないと家族歴がないように見えるかもしれない.
発端者の同胞
発端者の同胞のリスクは,発端者の両親の遺伝的状況による:
- 発端者の親が症状を有する場合,同胞のリスクは50%である.
- 親に臨床的に症状が無い時,発端者の同胞のリスクは,低くなる.
発端者の子
関節可動亢進型EDSの方の子は,それぞれは50%で変異を受け継ぐ.しかし,症状に幅があるため,受け継いだ児の重症度を予測するのは難しい.
発端者の他の家族
それ以外の家族へのリスクは,発端者の両親の遺伝的状態による.親に症状がある場合,対象家族はリスクを負う.
遺伝カウンセリングに関連した問題.
罹患者においてもその子孫においても関節可動亢進型EDSは他のいかなるタイプのEDSに発展しないということと,関節可動亢進型による早期死亡リスクの増大はないということを罹患者および対象家族に強調する価値はある.
一見したところ新生突然変異によると思われる家系において考慮すべきこと
常染色体優性遺伝病の発端者の両親のいずれにも,原因遺伝子変異や臨床所見を認めない場合,発端者の症状は,新生突然変異によるものであると予測される.しかし,生物学的な父や母が異なったり,養子である可能性など,非医学的要因も考慮する必要がある
家族計画
DNAバンキング DNAバンキングは、(通常は白血球から抽出された)DNAを将 来の使用のために保存しておくものである。検査法や遺伝子、変異および疾患に対する我々の理解が将来進歩するかもしれないので、罹患者のDNAの保存は考慮すべきで ある。現在利用可能な検査の感度が100%ではないような時、DNAバンキングは特に重大なかかわりをもつ。DNA バンキングを提供している研究室一覧については参照。
出生前診断
関節可動亢進型EDSの大多数の場合,原因である遺伝子は識別されていないため,出生前診断は利用可能ではない.TNXBによって引き起こされる関節可動亢進型EDSの出生前診断のための分子遺伝学的検査を提供している研究所は,GeneTests Laboratory Directoryに掲載されない.しかし, TNXB遺伝子変異を同定した家族には出生前診断は技術的に可能である.
更新履歴:
- Gene Review著者:Howard P Levy, MD, PhD
日本語訳者:渡邉 淳 (日本医科大学付属病院 遺伝診療科)
Gene Review 最終更新日: 2010.4.27. 日本語訳最終更新日:2010.5.31.[ in present]
原文 Ehlers-Danlos Syndrome, Hypermobility Type
印刷用