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マルファン症候群
(
Marfan Syndrome)

Gene Review著者:Harry C Dietz, MD.
日本語訳者: 安藤孝志(信州大学医学部医学科),涌井敬子(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
Gene Review 最終更新日: 2005.10.26.  日本語訳最終更新日: 2006.8.3.

原文 Marfan Sydrome


要約

疾患の特徴 

マルファン症候群は幅広い表現型を持つ,全身性の結合組織障害である.マルファン症候群の特徴的症状は視覚器系,骨格系,循環器系に現れる. FBN1遺伝子の変異が,マルファン症候群の単発的な症候から,新生児期に認められる多臓器にわたる重症で急速に進行する症候にまで広範な表現型の発現に関わっている.近視はマルファン症候群の最も一般的な眼の症状であり,約60%の患者に見られる水晶体偏位は,特徴的な所見である.マルファン症候群の患者は網膜剥離,緑内障,早期白内障の発症リスクが高い.骨格系の症状は骨の過形成と関節の弛緩によって特徴づけられる.四肢は体幹に対して不均衡に長くなる(クモ状肢).肋骨の過形成は胸骨を押し込んだり(漏斗胸),押し出したりする(鳩胸).脊柱側彎症は一般的な症状であり,軽度な場合も重度で進行性の場合もある.マルファン症候群の病状と早期死亡の主要な病因は,循環器系に関係したものである.循環器系の特徴的症状にはバルサルバ洞を含む上行大動脈の拡張,大動脈の断裂や破裂,血液の逆流を伴う事もある僧帽弁逸脱,三尖弁逸脱,近位の肺動脈拡張などがある.適切な治療により,マルファン症候群の患者の平均余命は一般人の平均余命に近いものになる.

診断・検査 

マルファン症候群は家族歴と多臓器における特徴的所見に基づいて臨床的に診断される.マルファン症候群の臨床的な診断基準はすでに確立されている.診断の4大所見はバルサルバ洞レベルの大動脈拡張もしくは解離,水晶体脱臼,硬膜拡張,8つの骨所見のうち4つを有すること,である.マルファン症候群に関与している唯一の遺伝子であるFBN1の分子遺伝学的検査は臨床的に利用可能で,70-93%の患者で変異が同定される.

臨床的マネジメント 

マルファン症候群の臨床的マネジメントには遺伝医学,循環器,眼科,整形外科,胸部外科の専門科によるチームアプローチが必要である.多くの眼症状は眼鏡によって調整できる.水晶体脱臼に対しては水晶体摘出が必要となる.成長が完了していれば人工水晶体の植え込みを行う.側彎症に対しては脊柱の外科的固定が必要となる.漏斗胸も外科的治療を要する場合がある.矯正具やアーチサポート(訳注:土踏まずの部分がふくらんだ靴底)は偏平足による下肢疲労や筋痙攣を改善する.大動脈壁の血行動態によるストレス負荷を軽減する薬剤,たとえばベータ遮断薬が診断時もしくはたとえ診断が確定していない場合でも大動脈拡張の進行を抑制するために投与される.ベータ遮断薬が使用できないときはベラパミルが用いられる.成人や年長小児で大動脈径が5 cmを超える場合,拡張速度が1 cm/年に達する場合あるいは大動脈弁逆流が進行する場合は外科的修復が必要となる.うっ血性心不全をきたしている場合は後負荷を軽減する薬剤が奏功する.定期観察では上行大動脈の状態を把握するための超音波検査を毎年行う.

成人で大動脈基部の径が4.5 cmを超える場合,拡張速度が0.5 cm/年を超える場合,明白な大動脈弁逆流を生じた場合はより頻繁な観察が必要となる.マルファン症候群を疑わせる所見を持つ場合や発端者における症状が軽微な場合は親族に対する超音波検査が必要となる.

罹患者は身体接触を伴う競技や競争,アイソメトリックな運動を避け,中等度の有酸素運動にとどめるべきである.充血除去剤やカフェインを含む,心血管系を刺激する薬剤も避け,再発性気胸の危険がある場合には気道抵抗に対抗するような呼吸や陽圧呼吸管理も避けるべきである.歯科治療に際しては,亜急性細菌性心内膜炎の予防を行う.

遺伝カウンセリング 

マルファン症候群は常染色体優性の遺伝形式をとる.マルファン症候群と診断された人の約75%は両親のどちらかがマルファン症候群に罹患している.残りの約25%の人たちは新生突然変異による遺伝子変異の結果として発症している.発端者の同胞のリスクは両親の状況に依存している.もし親が罹患者であれば,その子が病気になるリスクは50%である.もしマルファン症候群の子が臨床的に非罹患の健康な両親から生まれたら,その子は家系内において新規の変異を有したのであって,同胞が持つリスクは50%よりもはるかに少ないと考えられるが,一般のリスクよりは高い.なぜならば,体細胞や生殖細胞系列のモザイクの存在が報告されているからである.マルファン症候群を罹患している親から生まれた子が,変異アレルや疾患を受け継ぐリスクは50%である.

マルファン症候群の出生前診断は,リスクのある妊娠において(両親のいずれかが罹患している事が判明している場合),病気を起こす遺伝子変異がその家系の罹患者により明らかにされている場合や,連鎖(解析の結果)が出生前診断に先立って確認されている場合には,連鎖解析と遺伝子変異の分析のいずれを用いても(技術的には)可能である.しかしマルファン症候群のような,主に成人になってから発症し,知能や寿命に影響しない疾患の出生前診断の依頼はあまり一般的ではない.


診断

臨床診断

マルファン症候群は家族歴や多臓器における特徴的症状の観察にもとづく臨床的診断名である.マルファン症候群の臨床的診断のための基準が確立されている.

  • 家族歴 マルファン症候群の家族歴がない場合,2つの器官に主症状と,他にもう1つ副症状が観察されなければならない.
  • 発端者にマルファン症候群の診断が下されたら,一度近親の診断に必要なのは1つの器官系の主症状と,他にもう1つ副症状が観察されることである.これらの診断基準は,これはすでにマルファン症候群に関連するFBN1遺伝子の変異や,マルファン症候群の家系内で同定されたFBN1遺伝子変異を持っていると判明した人にも適応できる.このように,病気に対する遺伝的素因の記録が存在する場合でさえ,マルファン症候群と診断するためには臨床的な徴候を観察しなければいけない.

主症状と副症状 4つの主症状は,バルサルバ洞の高さでの大動脈の拡大や解離,水晶体偏位,硬膜拡張症,骨格系の特異的な症状である.より正確な診断には特別な検査が必要である.

表1 マルファン症候群:診断基準

器官系

診断基準

主症状

副症状

骨格系

少なくとも以下のうち4つの症状が現れていること.

  1. 手術が必要な鳩胸もしくは漏斗胸
  2. 下節(床から恥骨上縁までの長さ)と上節(恥骨上縁から頭頂部までの長さ)の比が<0.85に低下しているか,翼幅(両手を張り,広げたときの長さ)と身長の比が>1.05に増大している
  3. 手首や母指にWalker-Murdoch徴候(手首を握った際に親指が小指の第一関節を超える)やSteinberg母指徴候(親指を中にして手を握った際に小指の側から親指の爪が全て出る)がある
  4. 20度以上の側彎か脊椎すべり症がある
  5. ひじの伸展制限(170度以下)
  6. 偏平足に伴う内踵の内側偏位
  7. 寛骨臼突出症(磨耗を伴った異常に深い寛骨臼)

2つの器官系の主症状か,1つの主症状と少なくとも次のうちの2つである

  1. 手術を要しない中程度の漏斗胸
  2. 関節の過剰運動性
  3. 歯の密生を伴った過度にアーチ状の口蓋
  4. 容貌(長頭,頬骨の発育不全,眼球陥入,顎後退,眼瞼裂)

水晶体偏位

少なくとも以下のうち2つがあること

  1. 異常に平らな角膜(角膜曲率測定器により測定)
  2. 眼球の視軸長の増加(超音波で測定)
  3. 瞳孔収縮の減少を起こす虹彩の発育不全もしくは毛様体の発育不全

循環器系

少なくとも次のうち2つがあること

  1. バルサルバ洞を含む上行大動脈の拡大
  2. 上行大動脈の解離

少なくとも次のうちの1つがあること

  1. 逆流を伴うこともある僧帽弁逸脱
  2. 40歳以前の,明確な原因のない肺動脈の拡大
  3. 40歳以前の僧帽弁輪の石灰化
  4. 50歳以前の胸部大動脈もしくは腹部大動脈の拡大,解離

 

少なくとも次のうちの1つがあること

  1. 突発性の単純気胸
  2. 肺尖嚢胞

皮膚

 

少なくとも次のうちの1つがあること

  1. 明確な原因のない線状皮膚萎縮症
  2. 再発性もしくは切開創ヘルニア

硬膜

腰仙椎部の硬膜拡張症
(CTかMRIによって確認する)

 

家族歴/遺伝歴

少なくとも次のうちの1つがあること

  1. マルファン症候群と診断された両親や子,同胞がいる
  2. マルファン症候群を発症させるFBN1遺伝子の変異があること
  3. マルファン症候群の家系内で明らかにされた罹患FBN1遺伝子ハプロタイプを持っている場合
 

検査

マルファン症候群の分子診断のための蛋白分析法が研究されている.培養された皮膚線維芽細胞で発現するフィブリリン1蛋白の免疫組織学的分析,もしくはパルス追跡実験により,ほとんどのマルファン症候群の患者で異常を確認できる.どちらの方法も実験やその解釈に精通した技術を持つ特別な研究室が必要である.これらの方法の正確な臨床的有用性が確立されるためには,さらなる研究が必要である.

分子遺伝学的検査

遺伝子 FBN1遺伝子はマルファン症候群に関連することが知られている唯一の遺伝子である.

他の遺伝子座 マルファン症候群においては遺伝子座の多様性は知られていない.Mizuguchiらはマルファン症候群患者でTRFBR2遺伝子変異を報告している(マルファン症候群II型と命名した)が,水晶体脱臼やクモ状肢は見られない.Loeysらはマルファン症候群の臨床所見をいくつか伴い(クモ状指,基部大動脈瘤,胸郭変形,側彎,硬膜拡張),かつ他の症候も見られる患者でTGFBR1もしくはTGFBR2のヘテロ変異を見つけた(鑑別診断の項参照).古典的マルファン症候群患者93名の遺伝子検査では86名(93%)でFBN1変異を認めた.TGFBR1もしくはTGFBR2の変異を有する者はいなかった.

分子遺伝学的検査:臨床的利用

  • 診断を確定するための検査
  • 予測的検査(家系の中で変異の存在が判明している場合や家族の人数が多く信頼に足りる連鎖解析が行える場合)
  • 出生前診断

分子遺伝学的検査:臨床的検査法

  • シークエンス分析と変異スキャニング.FBN1変異スキャニングとcDNAのシークエンス解析による変異の発見率は70〜93%で以下の条件に影響を受ける.1)マルファン症候群の臨床的診断の正確性(すなわち,家族歴を持っていて,マルファン症候群の診断基準を満たしている人はよりFBN1遺伝子の変異が発見されやすい),2)変異の種類(ある種の遺伝子変異には様々な検査技術によって発見されにくくなるものがある),3)変異を見つけるための検査方法の能力
    • cDNAのシークエンス分析 FBN1遺伝子のcDNAを臨床的基準に基づいて連鎖解析することができる.cDNA(RNAから逆転写したDNA)のスクリーニングはFBN1遺伝子をコードした領域を効率よくスクリーニングする事を可能にし,また,元のDNA(gDNA)の連鎖分析では発見できないある種のスプライシング異常を見つける事ができる.変異の発見率はマルファン症候群の診断基準を満たしている人において90%に達する.
    • 変異スキャニング CSGEとDHPLCあるいは(65あるFBN1遺伝子のエクソンすべての)直接シークエンスにより,cDNAの解析では検出できない,急速なRNAの変性を起こす変異を見つけることができる.変異の発見率はマルファン症候群の診断基準を満たしている人において70%〜93%である.

連鎖解析 連鎖解析は家族内の複数のマルファン症候群患者が持っているアレルが遺伝しているかどうかを決めるために行われる.マルファン症候群の連鎖解析に使われるマーカーはFBN1遺伝子内にあり,情報量が多い.マーカーはほとんど100%の家系で用いることができる.

表2 マルファン症候群に用いられる分子遺伝学的検査

検査方法

発見される変異

変異検出率

変異スキャニング

FBN1遺伝子変異

70〜93%

cDNAシークエンス分析

検査結果の解釈

遺伝子レベルでの関連疾患

FBN1遺伝子の変異と関連する他の表現型には次のようなものがある.

  • 骨格系の特徴を伴うことがある僧帽弁逸脱症
  • MASS症候群の表現型である近視,僧帽弁逸脱症,境界型で非進行性の動脈拡張,非特異的な皮膚や骨格系の特徴
  • マルファン症候群の診断の特色を持った顕著な大動脈瘤
  • 顕著な,もしくは孤立したマルファン症候群の骨格系の特徴
  • マルファン症候群の眼や骨格系の特徴と関連していて,心エコー図を含む長期の臨床的調査を用いてのみ新規発症のマルファン症候群と区別することができる家族性の水晶体偏位
  • Shprintzen-Goldberg症候群.マルファン症候群の骨格系や心臓の特徴と連想される頭蓋骨癒合や神経発達上の異常が症状である.多様で異なる病態がこの疾患群に含まれていて,遺伝的異質性がある.
  • 常染色体優性遺伝性のWeill-Marchesani症候群.

分子遺伝学的検査:研究的解析 研究目的でのDHPLCのような方法を用いた変異解析ではPKD1PKD2 の変異検出率はおおよそ65-70%である.


臨床像

自然経過

マルファン症候群は著しく多様な臨床症状を持つ結合組織の系統的疾患である.基本的な症状は眼や骨格系,心血管系に現れる.FBN1遺伝子の変異が,マルファン症候群独特の特徴から,多臓器における重症で急速に進行する新生児の疾病にまで及ぶ,広範に連続する表現型に関わっている.マルファン症候群の診断は臨床的に定義されていて,すべての症状を包括しているわけではない.特に軽微な徴候などは含まれていない.一般に,家系内では症状は類似しており,FBN1遺伝子の遺伝子型が表現型の主たる決定因子であることを示唆している.

 近視はもっとも頻度の高い眼症候で,しばしば小児期の間に急速に進行する.瞳孔の中心からのレンズの偏位はマルファン症候群の特異的な所見であるが,患者の約60%に見られるにすぎない.この所見は瞳孔を最大に散大させた状態での細隙灯検査によって,もっとも確実に診断される.眼球はしばしば引き伸ばされ,角膜は扁平になる.マルファン症候群の患者は網膜剥離,緑内障,早期白内障に対するリスクが高い.多くの場合マルファン症候群の眼の問題(近視)は眼鏡の使用によって対処できる.他の問題は人工的レンズの移植を含む外科的手技で改善させることができる.

骨格系 骨格系の症状は長管骨の長軸方向の過形成と関節の弛緩によって特徴づけられる.四肢は体幹に対して不均衡に長くなり(クモ肢),翼幅と身長の比は大きくなり,上半身と下半身の比は小さくなる.肋骨の過形成は胸骨に割り込んだり(漏斗胸),胸骨を押し出したりする(鳩胸).脊柱側彎症は一般的な症状であり,軽度な場合も重度で進行性である場合もある.骨の過形成と関節の弛緩は特徴的な親指と手首の徴候を引き起こす.足首の内側が内側に回転して偏平足を起こす事がある.逆に,特にひじや指の関節の可動性が減少したり,足のアーチが増強する(凹足)場合もある.寛骨臼が異常に深くなり,侵食が進行すること(股臼底脱出症)もある.骨格系の所見は幼児期に出現し,成長期に進行しがちである.

マルファン症候群の特徴として狭くて長い顔があり,深く陥没した眼球,下方に傾く眼瞼裂,平たい頬骨,小さくて後退した下顎などを伴う.口蓋はアーチ状で狭くなり,歯の密生と関連している.

マルファン症候群の患者は必ずしも平均身長より背が高くはないということは重要である.彼らは遺伝的な予想身長よりも背が高くなるのである.

心血管系 マルファン症候群における合併症の発現や早期の死亡の主な原因は心血管系に関連している.

心血管系の特徴的所見にはバルサルバ洞の高さでの大動脈拡張,動脈の断裂に対する素因,血液の逆流を伴うことがある僧帽弁逸脱症,三尖弁逸脱症,近位肺動脈の拡大などがある.

マルファン症候群における動脈の拡張は時間とともに進行しがちである.組織学的検査では動脈中膜における弾性線維の切断や,エラスチンの欠如,無定形の基質成分の蓄積などが認められる.この「嚢胞性中膜壊死」という所見でマルファン症候群と他の原因による動脈瘤とを区別することはできない.

成人の場合,動脈の最大径が約5.0 cmに達すると重大な動脈断裂の危険が生じてくる.進行性の動脈拡張の出現や拡張の速度は極めて多様である

.動脈解離は小児期初期ではきわめてまれである.動脈瘤が拡大するにつれて,動脈輪は引き伸ばされ,二次的な動脈血の逆流を引き起こす.

弁の機能不全は容量過大を引き起こし,二次的に左心室の拡張や機能不全を招く.実際,うっ血性心不全を伴う僧帽弁逸脱症はマルファン症候群の小児における心血管系合併症や死亡の主な原因であり,この年代の心血管手術の主要な理由である.マルファン症候群や僧帽弁逸脱症の患者の大部分では僧帽弁における血液の逆流は耐えられる程度であるが,年齢とともにゆっくり進行していく.50人のマルファン症候群患者に対する最近の調査では,74%で肺動脈基部が拡大していた.

心血管病変に対する適切な治療により,マルファン症候群の患者の寿命は一般人口のそれに近いものになる.

その他 マルファン症候群患者はしばしば腰仙椎領域の硬膜拡張を起こし,これにより骨が侵食されたり,神経が障害されたりすることがある.症状としては腰部痛,下肢近位部痛,膝関節上下の筋力低下やしびれ,生殖器や肛門の痛みがある.硬膜嚢からの脳脊髄液の漏出は起立性低血圧や頭痛の原因となる.皮膚や外表における症状にはヘルニアや,皮膚萎縮線条などがある.
また,充分な栄養を取っているにもかかわらず,筋肉が減少したり,脂肪が蓄積したりする.

肺では特に上葉においてブラが発達したり,自発性気胸に罹患し易くなったりする.総肺気量や残気量は増大し,最大酸素摂取量は低下し,有効な換気容量の減少を示唆している.学習障害や多動はマルファン症候群のまれな症状として示されているが,一般人口集団と同頻度で生じているだけかもしれない.

妊娠 マルファン症候群の女性,とくに大動脈基部が4.0 cmを越えている女性にとって妊娠は危険である.合併症には妊娠,出産,産後の期間における動脈拡張の急速な進展や断裂がある.

自己イメージ 13歳以上の大多数の罹患者は一般的にポジティブな自己イメージを有している.

遺伝子型と臨床型の関連

マルファン症候群には遺伝子型と表現型の相関がほとんど存在しない.両者の関連が存在しないので発端者で変異を同定しても予後予測の情報とはならないし,個々の治療の指針ともならない.以下にいくつかの一般論をあげる.

  • これまでに特定された変異において,マルファン症候群の中で最も重症で急速に進行する型の患者はすべて遺伝子の24〜32番目のエクソンの間に変異を有している.ただし重症の患者の何人かではこの領域に変異を同定されなかったことや,この領域に変異を持つ多くの人が典型的な症状であったり,穏やかな非定型的な症状を示していることを強調しなければならない.
  • 一般的に,欠失や挿入,スプライシング変異によって中央部のコード領域の読み取り枠がずれる変異はより重症な臨床像に関係している.
  • 終止コドンを作ったり,翻訳した蛋白が素早く変性してしまうような変異はマルファン症候群の診断基準を満たさないような穏やかな病態と関係している.
  • C末端のプロ蛋白のプロセシングを妨げる変異を有する人は主に骨格系の症状を発現する.
  • 例えば分子内結合にかかわるシステインや,カルシウムに表皮成長因子様の領域に結合するよう指令する残留物など,機能的重要性を持つアミノ酸の置換は様々な重症度のマルファン症候群を引き起こす.
  • はっきりとした機能的重要性を持たない残基の置換は表現型では目だった特徴がないか,僧帽弁逸脱症のような穏やかな病変を起こす.

浸透率 

家系内においても臨床像の個人差が大きいが,古典的マルファン症候群における非浸透は報告されていない.

促進現象

マルファン症候群では促進現象は観察されない.

病名

多くの医療者が早期発症の重症型マルファン症候群に対して「新生児マルファン症候群」という用語を用いているが,実際のところ明瞭に異なる病型を表現していることばではないので,用いられるべきではない.

頻度 

マルファン症候群の有病率は5,000〜10,000人に1人であり,性差,人種差などは認められない.


鑑別診断

マルファン症候群の多くの骨格系の症状は一般の人々の中でもありふれたものである.重症で合併症が認められる場合,その所見は結合組織の疾患を示唆している.
 
FBN1遺伝子の変異によって起こる遺伝的に関連する疾患

  • MASS表現型はFBN1のヘテロ変異によって生じる病態である.MASSという略語はマルファン症候群でも認められる所見である僧帽弁逸脱(Mitral valve prolapse),近視(myopia),境界型もしくは非進行性の大動脈拡張(Aortic enlargement),非特異的な皮膚骨格所見(Skin and Skeletal findings)の頭文字を並べたものである.この診断は家系内で複数世代に同じ症状が認められた場合にもっとも確実である.しかし,こうした家系の家族の中でより重症の弁膜症が生じてくるかどうかは明らかではないので,定期的な心血管系の画像検査は継続すべきである.散発例,特に小児例ではMASS表現型と早期のマルファン症候群を鑑別するのは難しい.
  • 僧帽弁逸脱症候群は常染色体優性遺伝性疾患でマルファン症候群に類似した僧帽弁逸脱と骨格系の特徴を伴う.FBN1の変異が原因である.
  • 家族性水晶体脱臼は常染色体優性遺伝性疾患でマルファン症候群に類似した水晶体脱臼とさまざまな骨格系所見を伴う.FBN1の変異が原因である.この疾患に罹患している人が将来的に進行性の大動脈拡張をきたすかどうかは不明である.定期的な心血管系の画像検査を継続すべきである.
  • Shprintzen-Goldberg症候群は遺伝形式が明らかでなく,マルファン症候群に見られる臨床所見(クモ状肢,クモ状指,胸郭変形,側彎症,大動脈基部拡張,高口蓋)や他の特徴的な所見(頭蓋早期癒合,発達遅滞,Chiari奇形,眼角解離,眼球突出,肋骨奇形,内反尖足)を伴う疾患である.FBN1の変異が同定された1例が報告されているがその臨床像は非典型的であった(水晶体脱臼を伴っていた).大多数の症例ではFBN1の変異と無関係である.

  • Loeys-Dietz症候群は常染色体優性遺伝性疾患でマルファン症候群と共通の多くの所見(長い顔,眼瞼裂の下方への傾斜,高口蓋,頬骨低形成,小顎症,下顎後退症,胸郭変形,側彎症,クモ状指,関節の弛緩,硬膜拡張,大動脈瘤と解離)を伴う.マルファン症候群でみられるいくつかの所見はより低頻度か軽度(クモ状肢)もしくは欠如(水晶体脱臼)している.特徴的な所見としては眼角解離,幅広もしくは二分口蓋垂,口蓋裂,学習障害,水頭症,Chiari I型奇形,青色強膜,外斜視,頭蓋早期癒合,内転尖足,柔らかくビロード状で透過性の皮膚,あざができやすいこと,全身性の動脈捻転と動脈瘤,大動脈全体の解離などがある.大動脈瘤の臨床経過はマルファン症候群のそれとは大きく異なり,小さいうちに,また小児のうちに解離や破裂をきたす.外科的修復は血管型エーラス・ダンロス症候群でみられるような組織脆弱性によって困難を生じることはない.この病態はTGFBR1 もしくはTGFBR2 遺伝子の変異によっておこる.

他の結合組織疾患 マルファン症候群と以下の疾患との臨床的類似性は低い.

  • 先天性拘縮性クモ状指症 先天性拘縮性クモ状指症はマルファン症候群様容貌と長く細い手足の指を特徴とする常染色体優性遺伝性の疾患である.フィブリリン-2をコードするFBN2遺伝子のヘテロ変異が原因となる.患者の多くでは上耳輪が折れ皺がよっており,出生時から膝関節や足関節の拘縮がみられるがこれは次第に改善する.近位指節関節も屈曲拘縮(屈指)をきたしており,足指も同様である.股関節拘縮や内転母指,内反足を伴うこともある.亀背や側彎は約半数に見られ,早い例では乳児期に出現して次第に進行する.患者の大多数は筋低形成を伴っている.古典的な先天性拘縮性クモ状指症では重症の眼症状や心血管障害は伴わない.
  • 家族性胸部大動脈瘤・大動脈解離 家族性胸部大動脈瘤・大動脈解離は常染色体優性遺伝性の心血管病変であり,他の病変は伴わない.大動脈病変はマルファン症候群で見られるものと類似しており,大動脈拡張やバルサルバ洞や上行大動脈レベルでの大動脈解離が見られる.TGFb II型受容体をコードするTGFBR2遺伝子や,FAAおよびTAAD1とよばれる遺伝子座が本症に関連している.遺伝的異質性が明らかである.
    • 古典型EDSは常染色体優性遺伝性で,皮膚の過伸展や創傷治癒の異常,滑らかでビロード様の皮膚が特徴である.古典型EDS患者の約50%でCOL5A1またはCOL5A2の変異が同定される.
    • 後側彎型EDS(EDS VI型)は常染色体劣性遺伝性疾患で,後側彎,関節過伸展,筋低緊張,そして一部の患者では眼科的症状が特徴である.患者は中等サイズの動脈の破裂のリスクがあり,後側彎が高度な場合には呼吸機能にも障害をきたす.後側彎型EDSはprocollagen-lysine,2-oxoglutarate 5-dioxygenase 1(PLOD1: lysyl hydroxylase 1)の機能欠失が原因である.後側彎型EDSの診断はHPLCで測定した尿中deoxypyridinoline/pyridinoline比の上昇の証明が特異性が高い.皮膚線維芽細胞のLysyl hydroxylase酵素活性の測定も可能である.Lysyl hydroxylase 1をコードするPLOD遺伝子の分子遺伝学的検査も研究室ベースで利用できる.
    • 血管型EDS(EDS IV型)は常染色体優性遺伝性疾患で関節過伸展(しばしば小関節に限局する),容易に静脈が透見できる皮膚,皮下出血ができやすい,広範で崩れやすい瘢痕,特徴的な顔貌(明瞭な眼ととがった印象の顔貌),脾,腸管,子宮の臓器破裂,全身の筋性中・大動脈の動脈瘤や解離が特徴である.マルファン症候群と異なり,大動脈弓が特に冒されるわけではないが,大動脈弓が冒されないということでもない.組織はきわめてもろく,外科手術の際にしばしば悲惨な状況を招く.COL3A1の変異が原因である.診断は培養皮膚線維芽細胞における異常III型コラーゲンの産生を確認することによって確定する.
  • ホモシスチン尿症は常染色体劣性遺伝性疾患でCBS遺伝子変異によるcystathionine-synthase欠損が原因である.この疾患はさまざまな程度の精神発達遅滞,水晶体脱臼と重度の近視,骨格系の異常(身長や四肢長が長いことも含む),血管内血栓と血栓塞栓症の発症を特徴とする.マルファン症候群との類似点は多く,長く細い身体,足の変形,側彎症,僧帽弁逸脱症,高口蓋,ヘルニア,水晶体脱臼などがみられる.血栓塞栓症は生命にかかわる.患者の約半数は薬理学的用量のビタミンB6応することから本症の正しい診断の必要性が強調される.
  • Stickler症候群は常染色体優性遺伝性の結合組織疾患で,近視,白内障,網膜剥離,伝音性および感音性の難聴,顔面正中低形成,口蓋裂(単独の場合もRobinシークエンスの部分症の場合もある),軽度の脊椎骨端異形成症や早期の関節炎をきたす.本症の診断は臨床的になされる.本症には3種類の遺伝子(COL2A1,COL11A1,COL11A2)が関与している.
  • 脆弱X症候群はX連鎖性疾患で罹患男性では中等度の,罹患女性では軽度の精神発達遅滞をきたす.男性ではマルファン症候群を思わせる特徴的な容貌(大頭,長い顔,前頭と顎の突出,目立つ耳)や結合組織の所見(関節弛緩)を示す.本症では精巣が大きい.時に自閉症様の行動異常は高頻度にみられる.本症の99%以上の患者ではメチル化異常を伴うFMR1遺伝子のCGGトリプレットの延長(>200)がみられる.

臨床的マネジメント

最初の診断時に病態評価のために行う検査

  • マルファン症候群に精通した眼科医により,水晶体の偏位を確認するための瞳孔開大下でのスリットランプ検査,特に弱視のリスクがある幼児に対する注意深い視力補正,緑内障や白内障に対する評価,などを行う.
  • すぐに整形外科的治療が必要な骨格系の症候(重度の側彎症など)の評価
  • 心臓超音波検査.大動脈弓径は年齢や体格に基づく正常値を考慮して評価する必要がある.正常値はここで参照できる.重度の弁機能不全,重度の大動脈拡張,うっ血性心不全,不整脈の既往や症候がある場合は直ちに循環器内科医や循環器外科医に相談する必要がある.

病変に対する治療

マルファン症候群の治療は遺伝専門医,循環器専門医,眼科医,整形外科医,心臓胸部外科医などの専門家を含む多くの専門分野にわたるチームからの情報が必要である.

  • マルファン症候群の眼病変はこの病気に詳しい眼科医によって治療されるべきである.
  • 多くの場合,眼の症状は眼鏡の使用だけで対処できる.
  • 水晶体偏位は,もし水晶体が自由に動いてしまい,水晶体の縁が視野を狭くするなら外科的治療を必要とする.成長が止まれば人工レンズを埋め込むこともできる.この処置は専門的施設で行われる場合極めて安全であると考えられているが,網膜はく離などの合併症が起こる可能性もある.
  • 弱視の危険がある幼児に対しては,注意深く積極的な視力矯正が必要である.

骨格系

  • 骨の過成長や,靭帯の弛緩は進行性の脊柱側彎症を含む,深刻な問題を引き起こすことがあり,整形外科医によって治療されるべきである.外科的な脊椎の安定化手術が必要であるかもしれない.
  • 漏斗胸は重症であることがあるが,外科的治療が行われる状況はまれである.
  • 寛骨臼突出症は痛みや,機能的な制限を伴うことがある.外科的治療が必要となることはほとんどない.

心血管系

  • すべての本症患者は本症に精通した循環器専門医の診療を受けるべきである.
  • 通常は,ベータ遮断薬のような大動脈壁へのストレスを減弱させる薬剤が投与される.この治療は熟練した専門家によって行われるべきである.治療は通常,年齢にかかわらずマルファン症候群の診断が確定した時点もしくは診断が確定していない場合でも,大動脈基部の拡張が進行した時に開始される.投与量は運動時の脈拍が幼児では110/分以下,年長小児や成人では100/分以下となるように調節する.
    • ベータ遮断薬が使用できない場合(喘息がある場合など)や疲労やうつが強い場合には,ベラパミルがよく用いられる.
    • Yetmanらはベータ遮断薬よりもACE阻害薬のほうが有用性が高いことを示している.ただし,研究では治療はランダム化されておらず,投与量も効果にあわせた調整がなされていない.ACE阻害薬は弁膜症による容量負荷をコントロールするために以前から本症患者に対して用いられてきたが,大動脈拡張を抑制する明らかな効果は報告されていない.
    • 理論的には陰性変力作用を伴わずに後負荷を減少させることは,上行大動脈に対する血行動態上のストレスを増す可能性がある.現在は弁膜症に伴う容量負荷に対する治療として,後負荷を軽減する薬剤はベータ遮断薬と併用でのみ投与される.追加の研究がない状況では単独投与は勧められない.
  • 大動脈の外科的修復は以下の状況下で考慮される.(1)成人や年長小児で大動脈最大径が5 cmを超える,(2)大動脈径拡張の速度が年1 cmを超える,(3)進行性の大動脈弁逆流がある.若年での大動脈解離の家族歴がある場合にはより積極的な治療が適応になりうる.多くの患者は弁膜を保存する術式が選ばれ,長期の抗凝固療法を避けることができる.
  • うっ血性心不全が存在する場合は,ベータ遮断薬と一緒に後負荷を軽減する薬剤を投与することによって心血管機能を改善することができるが,難治例では外科治療が必要となる.僧帽弁はしばしば置換ではなく修復が行われる.
  • 歯科治療やその他血液中に細菌が混入する可能性がある医療行為を行う際は亜急性細菌性心内膜炎の予防を行う.

その他

  • 硬膜拡張は通常無症状なので,すでに存在している硬膜拡張に対して特に治療は必要ない.
  • ヘルニアは外科的治療後も再発する傾向がある.このリスクを減らすために手術修復時に保護メッシュが用いられる.
  • 気胸も再発しやすく問題となる.治療としては化学的もしくは外科的胸膜癒着術や嚢胞切除術が必要となる.

経過観察

マルファン症候群では水晶体脱臼の有無にかかわらず毎年眼科医の診察を受けるべきである.検査には緑内障や白内障の評価も含まれる.

重度のあるいは進行性の側彎症がある場合は整形外科のフォローを要する.

上行大動脈の状態を評価するため,頻繁に心血管エコー検査が必要である.大動脈径が小さく拡張速度が遅い場合は年1回の頻度で十分であるが,大動脈基部の径が成人で4.5 cmを超えたり拡張速度が年0.5 cmを超えたりする場合,大動脈閉鎖不全が現れた場合はより頻繁に検査を行う必要がある.重度のあるいは進行性の弁膜障害や心室機能障害が出現した場合は,不整脈の有無にかかわらずさらに頻繁に循環器専門医の診察が必要となる.

マルファン症候群では若年成人に達したらCTかMRAによる大動脈全体の定期検査を開始すべきである.こうした画像検査は大動脈根置換や大動脈解離の既往がある場合は少なくとも毎年行う必要がある.

回避すべき薬物や環境

  • 身体接触を伴うスポーツ,競争的なスポーツ,あるいは等尺性運動.注:適度な有酸素運動は可能だし続けるべきである.
  • 関節の外傷や疼痛を引き起こすような活動
  • 通常に使われる充血除去剤を含めた心血管系を刺激する薬剤.カフェインは不整脈を発生させやすくする.
  • レーザーによる近視手術は禁忌である.
  • 気胸を反復する場合は管楽器吹奏やスキューバダイビングのような特殊な息づかいや陽圧呼吸は避ける.

リスクのある親族の検査

マルファン症候群患者の親族は本症の所見がないか検査をうけるべきである.

親族にマルファン症候群を疑わせる所見がある場合には心エコーを用いた評価が行われる.発端者における所見がごく軽度の場合には,無症状の親族に対しても検査を行うべきである.乳幼児の場合には鎮静剤を使わずに検査が行えるようになるまでは施行を延期するのが妥当である.ただし弁膜症やうっ血性心不全の徴候が見られている場合は例外である.

研究中の治療法

基礎実験データではマルファン症候群の多くの症状が成長因子TGF-bの過剰な活性化が原因であることを示している.TGF-b阻害剤がマルファン症候群の症状を遅らせたり予防したりできるか動物実験が進行中である.こうした治療のマルファン症候群患者に対する安全性と有用性はまだ評価にいたっていない.

その他

妊娠は本症に精通した遺伝専門医や循環器専門医,遺伝カウンセラー,あるいは高リスク妊娠に詳しい産科医による適切なカウンセリングののちに考慮される.妊娠中や分娩直後により急速な大動脈拡張や大動脈解離がおこることがある.妊娠成立時に大動脈最大径が4 cmを超えている場合にはより注意が必要である.

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質、遺伝、健康上の影響などの情報を提供し、彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである。以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価、遺伝子検査について論じる。この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし、遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない。」

遺伝形式

マルファン症候群は常染色体優性遺伝形式である.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • 約75%の患者にはマルファン症候群を発症した親がいる.
  • 約25%の患者は新生突然変異の結果としてマルファン症候群を発症している.
  • 臨床的な検査や心エコー検査により,両親がマルファン症候群の特徴的症状を持っているか調べることは適切である.

注:約75%の患者はマルファン症候群を発症した親を持つが,病気が診断されなかったり,早期の死亡により,明らかな家族歴が認められない場合がある.

発端者の同胞

  • 同胞がマルファン症候群を発症するリスクは両親の遺伝的状況に依存している.
  • もし同胞の両親がマルファン病気を発症していたら,リスクは50%である.
  • 両親が罹患していない場合にはリスクは低いように思えるが,体細胞や性腺のモザイク現象がまれではあるが報告されているので,一般人口におけるリスクよりは高い.

発端者の子 

  • マルファン症候群患者の子は50%の確率で変異と疾患を受け継ぐ.
  • FBN1遺伝子変異を有する場合の浸透率は100%である.したがって親から変異アレルを受けついだ子は,重症度は予期できないがマルファン症候群を発症する.

発端者の他の家族 発端者の他の家族がマルファン症候群を発症するリスクは,発端者の両親の遺伝子の状況に依存している.もし,親が病気を発症しているなら,その家族はリスクにさらされているといえる.

関連する遺伝カウンセリング上の問題

明らかに新生突然変異による家族 発端者の両親が罹患していない場合は,発端者は新生突然変異の結果発症したと考えられるが,父親が異なる場合や明らかにされていない養子縁組など,医学的要因以外の原因も考えられる.

家族計画 遺伝的リスクの評価や遺伝カウンセリングは妊娠前に行われるのが望ましい.患者家族が遺伝子検査を受ける場合も同様である.

DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.ことに現在用いられている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患では特に重要である.

出生前診断

出生前診断は分子遺伝学的検査の項で述べた方法を用いて,技術的には可能である.DNAは胎生16−18週に採取した羊水中細胞や10−12週*に採取した絨毛から調製する.出生前診断を行う以前に,罹患している家族において病因となる遺伝子変異が同定されている必要がある.連鎖解析はFBN1マーカーが大家族内で罹患と連鎖しているのを確認できていない限り,その使用には慎重でなければならない.

注:胎生週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される.

マルファン症候群に関する出生前診断の希望はあまりない.特に遺伝子検査が早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は,医療関係者と家族の間では出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない.多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが,この問題については注意深い検討が求められる.

着床前診断は家系内の変異が明らかになっている場合にいくつかの研究室で可能である.

訳注:マルファン症候群に対する出生前診断,着床前診断は,日本では行われていない.


関連情報

日本マルファン協会 http://www.marfan.jp


原文 Marfan Sydrome

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