多発性黒子を伴うNoonan症候群
(Noonan Syndrome with Multiple Lentigines)

[Synonyms:LEOPARD Syndrome, Multiple Lentigines Syndrome]

Gene Reviews著者: Bruce D Gelb, MD and Marco Tartaglia, PhD.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、水上都(札幌医科大学医学部遺伝医学)

GeneReviews最終更新日: 2022.6.30. 日本語訳最終更新日: 2022.12.3.

原文: Noonan Syndrome with Multiple Lentigines


要約

疾患の特徴 

多発性黒子を伴うNoonan症候群:(NSML)は、黒子、肥大型心筋症、低身長、胸の変形、ならびに、眼間開離・眼瞼下垂をはじめとする顔貌の異常を主徴とする疾患である。
多発性黒子は、主として顔面・頸部・体幹上半分の粘膜を除く部分に、散在性の平坦な黒褐色の斑として現れる。
黒子は、ふつう4-5歳になって初めて現れ、その後、数が増えて、思春期には幾千とも知れない数になる。
ただ、NSMLであっても、中には黒子がみられない例も存在する。
罹患者の約85%に、肥大型心筋症(通常、乳児期に現れ、時に進行性)や肺動脈弁狭窄などの心疾患がみられる。
低身長をきたすような出生後の成長障害を有する例は50%未満ではあるが、身長は、大多数の罹患者で、年齢相当でみたときの25パーセンタイルを下回る。
感音性難聴が罹患者の約20%にみられるものの、病態にこれといった特徴はみられない。
ふつうは軽度なものにとどまるものの、知的障害がNSML罹患者の約30%にみられる。

 

診断・検査 

発端者における多発性黒子を伴うNoonan症候群の臨床診断は、多発性黒子に加えて主要症候(心臓の異常,線的成長不良/低身長,胸の変形,眼間開離や眼瞼下垂などの顔貌の異常)を2つ有するか、もしくは、黒子はみられないものの、他の主要症候が3つ存在することに加えて、第1度近親に罹患者がいることをもって確定させることができる。
発端者における分子診断は、これを示唆する症候がみられることに加えて、4つの遺伝子(BRAFMAP2K1PTPN11RAF1)のうちの1つにヘテロ接合性の病的バリアントが確認されることで確定が可能である。

臨床的マネジメント 

症候に対する治療:
肥大型心筋症、心臓の構造的異常、眼奇形/眼球運動の異常、癲癇発作、停留精巣、発達上の問題に対しては、標準治療を行う。
難聴がみられる場合は、補聴器が有用なこともある。
低身長を呈する例に対しては、成長ホルモン治療が検討対象にはなりうるものの、NSMLでこれを行ったデータが不足していることに加え、肥大型心筋症を有する例については、場合によっては成長ホルモン治療が禁忌となることもある。

定期的追跡評価:
成長パラメーターの計測、新たな心雑音を評価するための心臓聴診、癲癇発作をはじめとする新たな神経症候に対する臨床的評価、発達の進行状況や教育支援の必要性のモニタリングといったものについては、来院ごとに施行する。
心エコーについては、3歳までは年に1度、その後は5歳時と10歳時、もしくは臨床的必要性に応じて実施する。
聴覚評価については、乳幼児期から小児期にかけて少なくとも年に1度、もしくは臨床的必要性に応じて実施する。
眼奇形や眼球運動の問題がみられた場合は、眼科的評価を行う。

避けるべき薬剤/環境:
肥大型心筋症を有する罹患者に対する成長ホルモン治療については、行うということであれば、心臓の状態の悪化を招かないよう細心の注意を払って進める必要がある。
また、心臓突然死のリスクを減らすため、ある種の身体活動については制限が必要なこともあろう。

リスクを有する血縁者の評価:
家系内に存在するBRAFMAP2K1PTPN11RAF1の病的バリアントが判明している場合は、分子遺伝学的検査を行うことで、リスクを有する血族の遺伝的状態を明確にすることが可能である。
家系内に存在する病的バリアントが判明していない場合は、NSMLの症候に特別な注意を払いつつ徹底的に身体の診査を行うことで、リスクを有する血縁者が罹患者であるか否かを明らかにできる可能性がある。
NSMLが疑われる場合には、心エコーを用いて心臓の評価を行うことが推奨される。

妊娠に関する管理:
罹患女性については、妊娠中に心臓の状態のモニタリングを行う必要がある。
肥大型心筋症や弁機能不全を有する例は、妊娠中、特に第2・第3三半期に、心不全の発症ないし悪化を招くリスクを有している。

遺伝カウンセリング 

NSMLは、常染色体顕性の遺伝形式をとる。
NSMLの発端者の中には、新生の病的バリアントに起因する例がみられるものの、そうした新生の病的バリアントの占める割合についてはよくわかっていない。
NSML罹患者の子がその病的バリアントを継承する可能性は50%である。
家系内に存在する病的バリアントが判明している場合には、リスクを有する妊娠として、出生前診断を行うことが可能である。


診断

多発性黒子を伴うNoonan症候群については、推奨臨床診断基準がすでに公表されている[Voronら1976,Sarkozyら2008]。

本疾患を示唆する所見

以下に示す主要症候を1つ以上有する例については、NSMLを疑う必要がある。

NSMLにしばしばみられるその他の症候としては、以下のようなものがある。

注:家族歴がみられないからといって、NSMLの可能性が除外されるわけではない。

診断の確定

発端者におけるNSMLの診断は、臨床的診断基準[Voronら1976,Sarkozyら2008]を基にした臨床診断をもって行うこともできるし、これを示唆する所見に加えて、表1に示した4つの遺伝子(BRAFMAP2K1PTPN11RAF1)の1つに病的バリアント(ないし病的と思われるバリアント)のヘテロ接合を有することを基にした分子診断をもって行うことも可能である。

臨床診断

もしくは、

分子診断

発端者におけるNSMLの分子診断は、これを示唆する所見がみられることに加え、分子遺伝学的検査で、表1に挙げた複数の遺伝子の1つに病的バリアント(ないし、病的と思われるバリアント)のヘテロ接合が検出されることにより確定する。

注: (1)ACMG(アメリカ臨床遺伝・ゲノム学会)のバリアントの解釈に関するガイドラインによると、「病的バリアント(pathogenic variant)」と「病的と思われるバリアント(likely pathogenic)」は、臨床の場では同義であり、どちらも診断上確定的なもの、臨床における決断材料とみなしうるものとされている。 このGeneReview内で「病的バリアント」という表現をした場合、それは、「病的と思われるバリアント」まで広く含むものと理解されたい。

(2)表1に挙げた遺伝子の1つに、意義不明のバリアントのヘテロ接合が検出された場合、それは、本疾患の診断確定を意味するものでも、本疾患の可能性を否定するものでもない。

分子遺伝学的検査のアプローチとしては、遺伝子標的型検査(マルチ遺伝子パネル)と網羅的ゲノム検査(エクソームシーケンス、ゲノムシーケンス)を表現型に応じて組み合わせて用いる手法が考えられる。

遺伝子標的型検査の場合は、関与している可能性のある遺伝子の目星を臨床医の側でつけておく必要があるが、ゲノム検査の場合、その必要はない。

「本疾患を示唆する所見」で述べた症候を明確な形で有している例については、遺伝子標的型の検査(「方法1」参照)で診断がつく可能性が高い。

一方、NSMLの診断を検討するところまでには至らない例については、ゲノム検査(「方法2」参照)で診断がつく可能性が高い。

方法1

表現型や家族歴からNSMLの診断が示唆される場合、使用する分子遺伝学的検査としては、マルチ遺伝子パネルが考えられる。
単一遺伝子検査を直列型で行うやり方は一般的ではない。

Noonan症候群,RAS病,肥大型心筋症マルチ遺伝子パネル

これは、BRAFMAP2K1PTPN11RAF1その他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含むもので、意義不明のバリアントや、今の表現型とは無関係な病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝的原因を最も効果的に特定しうる可能性をもつものである。

注:
(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、今このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。

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遺伝子検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。

方法2

表現型が典型的なものでないため、それだけではNSMLの診断を検討するところまではいかないといった場合であれば、網羅的ゲノム検査が検討対象になろう。
網羅的ゲノム検査の場合、どの遺伝子の関与が考えられるかという点を、臨床医の側で検討しておく必要はない。
エクソームシーケンシングが最も広く用いられるが、ゲノムシーケンシングを選択することも可能である。

網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。
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表1:多発性黒子を伴うNoonan症候群で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1,2 その遺伝子の病的バリアントが原因とされるNSMLの割合 その手法で病的バリアント3が検出される発端者の割合
配列解析4 遺伝子標的型欠失/重複解析5
BRAF 2人 脚注6参照 不明,報告例なし7
MAP2K1 1人 脚注8参照 不明,報告例なし7
PTPN11 95%超 ほぼ100%9 不明,報告例なし7
RAF1 3%未満 ほぼ100%10 不明,報告例なし7
未知11 3%未満 適用対象外

 

  1. 遺伝子の記載はアルファベット順。
  2. 染色体上の座位ならびにタンパク質に関しては、表A「遺伝子とデータベース」を参照。
  3. この遺伝子で検出されているバリアントの情報については、「分子遺伝学」の項を参照のこと。
  4. 配列解析を行うことで、benign、likely benign、意義不明、likely pathogenic、pathogenicといったバリアントが検出される。
  5. バリアントの種類としては、遺伝子内の小さな欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントなどがあるが、通常、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複については検出されない。
    配列解析の結果の解釈に際して留意すべき事項についてはこちらをクリック。

  6. 遺伝子標的型欠失/重複解析では、遺伝子内の欠失や重複が検出される。
  7. 具体的手法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、あるいは単一エクソンの欠失/重複の検出を目的に設計された遺伝子標的型マイクロアレイなど、さまざまなものがある。

  8. すべてのコーディングエクソンを対象とした配列解析により、NSMLの臨床症候を呈する2例で病的ミスセンスバリアントが検出されている[Koudovaら2009,Sarkozyら2009]。
  9. BRAFMAP2K1PTPN11RAF1のエクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複に起因するNSMLは、これまでのところ報告されていない。
  10. 疾患の発症機序に関する分子メカニズムに照らすと、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複解析によってNSMLが生じるということは考えにくいところである。

  11. NSMLの臨床症候を呈する1例に対して行った全コーディングエクソンの配列解析により、複数の病的ミスセンスバリアントが検出されている[Nishiら2015]。
  12. NSMLを引き起こす病的バリアントの大多数はエクソン7,12,13に生じたものである[Digilioら2002,Legiusら2002,Sarkozyら2009]。
  13. 報告されている病的ミスセンスバリアントはすべて、コーディングエクソン6,13,16の配列解析により検出されたものである[Panditら2007]。
  14. BRAFMAP2K1PTPN11RAF1に病的バリアントが検出されなかったNSML罹患者のごく一部については、これまで関与が知られていない別の遺伝子、おそらくはRASシグナル伝達関連遺伝子が関与して生じているものと思われる。

 

臨床的特徴

臨床症状

現在までに150人を超える多発性黒子を伴うNoonan症候群(NSML)罹患者が報告されている。

表2:多発性黒子を伴うNoonan症候群:代表的症候の出現頻度

症候 出現頻度 コメント
ほぼ全例 多く出現 ごく一部に出現
黒子     4-5歳以降に多く発症
顔面形態の異常      
肥大型心筋症     最大70%;進行性の場合あり
カフェオレ斑      
低身長     50%超;ただし多くは年齢性別基準で25パーセンタイルを下回る程度。
停留精巣     罹患男性の33%近く
知的障害     33%近く;ただしふつうは軽度
肺動脈弁狭窄                      25%近く
心電図の異常     25%近く
感音性難聴     20%近く
頭蓋縫合早期癒合症      
神経線維腫      
悪性腫瘍     発生が稀であるため、今のところ合意済のNSML腫瘍スクリーニングプロトコルは存在しない[Villaniら2017]。

皮膚

多発性黒子は、顔面、頸部、体幹の上半分の粘膜を除く部分を中心に、散在性で平坦な黒褐色の斑として現れる。
通常、初発は4-5歳で、その後、思春期までに幾千とも知れない数へと増加する[Coppin & Temple 1997]。
ただ、NSML罹患者であっても黒子が出現しない例もみられる。

心血管系
Noonan症候群(NS)でみられるものと同様の心疾患が罹患者の85%にみられるものの、各異常の出現頻度は両者で異なっている[Limongelliら2007]。

乳児期に発症することが多く、進行性の場合がある。

大動脈や僧帽弁の異常も、NSML罹患者の中の少数にみられる。

顔面症候

顔面の形態異常は、Noonan症候群でみられるものと類似しているものの、程度はより軽度であることが多い[Digilioら2006]。
具体的には、逆三角形の顔、眼瞼裂斜下、厚い耳輪を伴う低位で後方に傾いた耳、眼間開離などがある。
頸部の皮膚のだぶつきや後部毛髪線低位を伴う短い頸を示すこともある。
Noonan症候群の場合と同じく、成人になると顔面症候はより目立たず、より軽微になる。

聴力

NSML罹患者の約20%に感音性難聴がみられる。
軽度の聴覚障害を示す例で難聴が進行するかどうかという点に関しては、ほとんど情報がない状況である。

成長

出生時体重は、通常、正常であるが、97パーセンタイルを上回るような例もみられる。
低身長をきたすような出生後の成長障害を示すような例は、罹患者の50%に満たないものの、それでも大多数の罹患者の身長は、年齢相当でみたとき、25パーセンタイルを下回る。
NSML罹患者の成人期の身長、ならびに成長ホルモン治療への反応性に関する研究は、今のところ行われていない。

筋骨格系

胸の変形(漏斗胸ないし鳩胸)が罹患者の50%超にみられるものの、たいていは美容上の懸念のみで、特段の医学的介入を要するようなことはほとんどない。

精神運動発達

知的障害は、軽度にとどまる例が多いながら、NSML罹患者の約30%にみられる。
ただ、NSMLに特異的な知的障害に関する具体的情報は得られていない。

腎尿路生殖器系

片側性ないし両側性の停留精巣が、罹患男性の約3分の1にみられる。
これより低頻度ながら、尿道下裂、尿路奇形、卵巣異常などの報告もみられる。
稀ながら、腎奇形も報告されている[Digilioら2006]。

NSMLでは、眼の異常が現れることは稀である。
報告されているものとしては、コロボーマ、立体視、異常眼球運動などがある[Alfieriら2008,Watanabeら2011,Van den Heurckら2021]。

神経系

新生児に筋緊張低下が多くみられる。
これは、精神運動発達遅滞に起因するものである。
癲癇発作や自閉症スペクトラム障害は、NSMLに伴う症候としてはあまりみられない。

稀にみられる症候

遺伝型-表現型相関

NSML罹患者においては、今のところ、BRAFMAP2K1RAF1に関する遺伝型-表現型相関は同定されていない。

PTPN11

Noonan症候群でみられるものとは対照的に、NSML関連の病的バリアント(「分子遺伝学」の項を参照)は、肥大型心筋症の素因と強い相関を示す[Tartaglia & Gelb 2010,Gelbら2015]。
NSを引き起こすPTPN11の病的バリアントと、NSMLを引き起こすPTPN11の病的バリアントとでは細胞内シグナル伝達に及ぼす影響が異なり、これがそうした相関の違いとなって現れている。
とりわけ、MAPK経路とPI3K-AKT-mTOR経路の両方で大きな違いがみられることが報告されている[Edouardら2010,Marinら2011]。

命名法について

NSMLは、古い医学文献中では心筋症性黒子症という呼び方がなされている。
また、以前には、頭字語でLEOPARD症候群と呼ばれた時期もあったが、現在ではこうした呼称は不適切と考えられている。

発生頻度

集団内におけるNSMLの発生頻度はよくわかっていない。


遺伝子の上で関連のある疾患(同一アレル疾患)

多発性黒子を伴うNoonan症候群(NSML)、Noonan症候群(NS)、心臓-顔-皮膚症候群(CFCS)(表3参照)は、これらの原因遺伝子の病的バリアントを生殖細胞系列で有する罹患者の間で表現型に重なりがみられる。
このことから、これら3つの疾患(以前は、臨床上独立した別個の疾患と考えられていた)は、実際は表現型の上で1つの連続体を構成するものであって、管理にあたっては、症候中心の体制をとることが有益であるということが明白である。

表3:多発性黒子を伴うNoonan症候群との鑑別が必要な同一アレル疾患

NSMLの原因遺伝子 同一アレル疾患 コメント
BRAF
MAP2K1
心臓-顔-皮膚症候群(CFCS)
  • CFCSとNSMLは心所見が似る。
     ただ、CFCSのほうが、知的障害がより重度であることが多く、中枢神経系の器質的異常や癲癇発作の頻度も高い。
    また、皮膚症候もより多数みられ、消化器症候もより重度で、より長期にわたる。
  • CFCSのほうが顔貌の粗野さが際立ち、長頭、眉毛の欠損がより多くみられる。
    NSに比べると、青色の眼を示す割合が少ない。
  • CFCSでは、BRAFの病的バリアントに起因するものが50%-75%でMAP2K1が10%内外-15%である。
     CFCSに関連するその他の遺伝子については、「鑑別診断」の項を参照されたい。
BRAF
MAP2K1
PTPN11
RAF1
Noonan症候群(NS)
  • NSでは、通常、低身長、先天性心疾患、幅広の頸ないし翼状頸、胸の変形、さまざまな発達遅滞、停留精巣、特徴的顔貌が現れる。
    NSとNSMLは症候が重なるものの、NSでは、難聴や、夥しい色素病変・黒子・カフェオレ斑が現れることはあまりない。
  • NSに占める比率は、BRAFの病的バリアントに起因するものが2%未満、MAP2K1が2%未満、PTPN11が50%、RAF1が5%である。
    NFに関連するその他の遺伝子については、「鑑別診断」の項を参照。
PTPN11 PTPN11関連NSの表現型のスペクトラムの中には、Noonan様/多発性巨細胞病変症候群(NL/MGCLS)と呼ばれる状況が包含される。
NL/MGCLSは、ケルビム症類似の巨細胞肉芽腫や骨・関節奇形、神経線維腫症(「神経線維腫症1型」のGeneReviewを参照)でみられる病変、若年性関節リウマチを伴うRamon症候群でみられる病変(多関節色素性絨毛結節性滑膜炎)といった特徴を有する。

その他

PTPN11の生殖細胞系列の機能喪失型バリアントのヘテロ接合により、常染色体顕性遺伝のメタコンドロマトーシスが生じる[McFarlaneら2016]。

散発性腫瘍(白血病、固形腫瘍を含む)

NSMLやNSでみられる症候を一切有しない例で、単一病変として生じる散発性腫瘍の細胞中に、BRF1MAP2K1PTPN11RAF1の体細胞性病的バリアントがしばしば見出される。
このバリアントは、生殖細胞系列に存在するわけではない。
したがって、こうした腫瘍への罹患素因が遺伝により継承されるわけではない。
詳細については、「分子遺伝学」の項を参照されたい。


鑑別診断

多発性黒子を伴うNoonan症候群(NSML)は、Turner症候群、Williams症候群、ならびに、発達遅滞・低身長・先天性心疾患・特徴的顔貌を呈する各種単一遺伝子疾患との鑑別が必要である(表4参照)。

Turner症候群

Turner症候群は女性にのみ現れる。
NSMLとの鑑別は、細胞遺伝学的検査でX染色体の異常を同定することで行うことが可能である。
特徴的顔貌の違いも明瞭で、さらに、Turner症候群のほうが腎奇形が多く、発達遅滞がずっと少なく、左心系の異常を通例とする。

Williams症候群

Williams症候群とNSMLの違いは比較的明瞭で、顔貌の特徴・心血管系の異常・皮膚症候・神経発達プロフィールの面で相違がみられる。
ただ、生後ほどない段階では、顔面症候の違いはそれほど明瞭ではなく、NSMLの黒子はまだ現れておらず、成長障害・神経発達遅滞が両疾患で共通する。
Williams症候群の診断には、エラスチン遺伝子(ELN)を跨ぐWilliams-Beuren症候群クリティカル領域(WBSCR)の、反復性の7q11.23隣接遺伝子欠失を検出することが必要である。

表4:多発性黒子を伴うNoonan症候群との鑑別を要する単一遺伝子疾患

遺伝子 疾患名 遺伝形式 臨床的特徴/コメント
BRAF
KRAS
MAP2K1
MAP2K2
心臓-顔-皮膚症候群
(CFCS)
AD 「遺伝子の上で関連のある疾患」の項を参照。
BRAF
KRAS
LZTR1
MAP2K1
MRAS
PTPN11
RAF1
RASA2
RIT1
RRAS2
SOS1
SOS2
SPRED2 1
Noonan症候群 AD
(AR)2
「遺伝子の上で関連のある疾患」の項を参照。
CBL3 若年性骨髄単球性白血病を伴うことのあるNoonan症候群様疾患
(OMIM 613563)
AD 神経症候が比較的高頻度に出現、若年性骨髄単球性白血病の素因、心疾患の頻度が低い、成長障害、停留精巣といった特徴を伴うさまざまな表現型4
FGD1 X連鎖性Aarskog症候群 (OMIM 305400) XL 発達遅滞、低身長、先天性心疾患、特徴的顔貌といった特徴を有する。
HRAS Costello症候群(CS) AD CSは、NSML、NS、CFCSと共通の症候を有する。
CSの典型的症候としては、乳児期の瀰漫性筋緊張低下と重度の摂食障害、低身長、発達遅滞/知的障害、特徴的顔貌、縮れ毛ないし疎で細い毛髪、深い屈曲線を伴う手掌・足底のたるんで軟らかい皮膚、顔面と肛門周囲の乳頭腫、手首や指の尺側偏位を伴う関節弛緩、固いアキレス腱、心疾患などがある。
MAPK1 MAPK1関連神経発達障害5 AD RAS病の表現型スペクトラム内にある臨床的にばらつきの幅がある神経発達障害で、症例によってはNSに似る。
共通する症候としては、出生後の成長障害、頭蓋顔面奇形、短頸/翼状頸、低い後頭部毛髪線、皮膚症候などがある5
NF1 Watson症候群(神経線維腫症1型バリアント) AD Watson症候群とNSMLに共通する症候として、低身長、肺動脈弁狭窄、種々の程度の知的障害、カフェオレ斑などの皮膚の色素性変化などがさまざまな幅でみられる。
Watson症候群では、黒子は報告されていない。
PPP1CB
SHOC2 3
成長期毛の易脱毛性を伴うNoonan症候群様疾患 AD NSの特徴に加えて、成長期毛の易脱毛性を示す。
皮膚は日焼けしたような外観を呈する。
NSより僧帽弁の異常が多くみられる。
成長ホルモン分泌低下も多くみられる。
SPRED1 Legius症候群 AD 罹患者の大多数にカフェオレ班、30%-50%に雀斑、30%に発達障害、15%にNoonan症候群様顔面症候がみられる。

AD=常染色体顕性;AR=常染色体潜性;XL=X連鎖性

  1. Mottaら[2021]
  2. NSは、そのほとんどが常染色体顕性遺伝である。
  3. ただ、LZTR1の病的バリアントに起因するNSについては、常染色体顕性ないし常染色体潜性の遺伝形式を示す。
    また、SPRED2の病的バリアントに起因するNSは、常染色体潜性遺伝である。

  4. 典型的NSと表現型が大きく重なり合うため、大多数のRAS病診断用遺伝子パネルには、SHOC2の多くみられるバリアントや、CBL遺伝子のシーケンシングが含まれている。
  5. Martinelliら[2010],Niemeyerら[2010],Martinelliら[2015]
  6. Mottaら[2020]

臨床的マネジメント

現在のところ、多発性黒子を伴うNoonan症候群(NSML)の治療のガイドラインとして公表されたものは存在しない。

最初の診断に続いて行う評価

NSMLと診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程の評価項目の1つとしてすでに実施済ということでなければ、表5にまとめたような評価を行うことが推奨される。

表5:多発性黒子を伴うNoonan症候群において最初の診断後に行うことが推奨される評価

系/懸念事項 評価項目 コメント
体格 成長パラメーターの計測 一般集団の成長チャート、ならびにNoonan症候群の成長チャートに、成長パラメーターの値をプロットすることを検討する1
心血管系 心エコー 先天性心疾患や肥大型心筋症の有無のチェックを目的として行う。
心電図 心肥大があることを示す伝導欠損や電気信号の評価を目的として行う。
聴覚 聴覚評価2 難聴の有無、種類、程度の評価を目的として行う。
眼科的評価 コロボーマ、立体視、異常眼球運動の有無の評価を目的として行う3。
神経系 神経学的評価 発作性障害ならびに(おそらく存在する)神経発達遅延を有する例について、脳のMRIを含めた形で行う。
腎尿路生殖器系 男性については停留精巣の診査 泌尿器科医への紹介を検討する。
腎超音波検査 尿路奇形が発見された場合は、尿検査を検討する。
発達 発達評価
  • 運動,適応,認知,言語の評価を含めた形で行う。
  • 早期介入/特別支援教育に向けた評価を行う。
筋骨格系 脊椎や胸郭の臨床的評価 明らかな脊柱側彎や胸郭異常がみられるときは、X線写真撮影ならびに整形外科医への紹介を検討する。
遺伝カウンセリング 遺伝学の専門家4の手で行う。 医学的、個人的意思決定を行いやすくすることを目的として、患者ならびにその家族に対して、NSMLの本質、遺伝形式、そのもつ意味に関する情報提供を行う。
家族への支援ならびに情報資源 以下のニーズを評価する。
  • 地域の情報資源、あるいはParent to Parentのようなオンラインの情報資源
  • 親の支援のためのソーシャルワーカーの関与
  • 在宅看護への紹介
 
  1. Wittら[1986];NSML特異的な成長チャートは存在しない。
  2. 年齢相応の検査手法(例えば、聴性脳幹反応検査,聴性定常反応[ASSR]検査,純音聴力検査など)を用いて、聴力の評価を完全な形で行う。
  3. Alfieriら[2008],Van den Heurckら[2021]
  4. 臨床遺伝医、認定遺伝カウンセラー、認定上級遺伝看護師をいう。

症候に対する治療

表6:多発性黒子を伴うNoonan症候群罹患者の症候に対する治療

症候/懸念事項 治療 考慮すべきこと/その他
低身長 成長ホルモン治療が検討対象になりうる。
ただし、NSMLに対して施行したデータは存在しない。
  • 肥大型心筋症をもつ例では、成長ホルモン治療は禁忌となることがある。
  • 成長ホルモン治療開始に先立って、肥大型心筋症を対象とした心評価が推奨される。
    成長ホルモン治療継続中は、肥大型心筋症の発生に関する継続的監視を行うべきである。
肥大型心筋症 心臓病専門医や心臓血管外科医による標準治療  
構造的心疾患
聴覚 時に、耳鼻科医の指示のもと、補聴器が有用なことがある。 早期介入プログラムないし公立学区を通じて、地域の聴覚支援サービスを受ける。
極度の難聴を有する罹患者については、人工内耳手術を検討する。 「遺伝性難聴・聴力喪失概説」のGene-
Reviewを参照。
コロボーマ,立体視,異常眼球運動 眼科医による標準治療  
癲癇発作 神経内科医による標準治療  
停留精巣/尿路生殖器系奇形 泌尿器科医による標準治療  
発達遅滞/知的障害 「発達障害/知的障害の管理に関する諸事項」の項を参照。  
家族/地域社会
  • 家族を地域の情報資源・息抜きプログラム・支援機関に結びつけられるよう、ソーシャルワーカーが適切な形で確実に関与。
  • 多数の医療専門分野の予約,機器の使用,服薬,物品供給等のやり繰りをつけるためのケア。
  • 緩和ケアや在宅看護の必要性の評価を継続的に行う。
  • 障害者スポーツやスペシャルオリンピックスへの参加を検討する。

発達遅滞/知的障害の管理に係わる諸事項

発達障害/知的障害者の管理に関して、アメリカにおいては以下のような推奨がなされている。
ただ、そうした推奨は、国ごとに異なったものになることもあろう。
NSMLの全例に発達遅滞がみられるわけではない。
以下に述べる推奨事項は、あくまで神経発達遅滞がみられる例に限って適用されるべきものである。

0-3歳
作業療法、理学療法、言語治療、摂食治療、乳児精神保健サービス、特別支援教育、感覚障害教育が受けられるよう、早期介入プログラムへの紹介が望ましい。
早期介入プログラムは、アメリカでは連邦政府が費用を負担して行われる制度で、すべての州で利用可能である。
このプログラムは、個人個人の治療上のニーズに合わせた在宅サービスを提供するものである。

3-5歳
アメリカでは、地域の公立学区(訳注:ここで言う「学区」というのは、地理的な範囲を指す言葉ではなく、教育行政単位を指す言葉である)を通じて発達保育園への入園が推奨されている。
入園前には、必要なサービスや治療の内容を決定するために必要な評価が行われ、その上で、運動、言語、社会性、認知の遅れがみられる人に対しては、個別教育計画(IEP)が策定される。
こちらへの移行は、通常、早期介入プログラムが支援して進められる。
発達保育園は独立運営である。
医学的理由から通園が困難な子どもに対しては、在宅サービスの提供が行われる。

全年齢
各地域、州、アメリカの連邦教育行政機関が適切な形で関与できるよう、そして、良好な生活の質を最大限確保する支援を親に対してできるよう、受診可能なようであれば発達小児科医への紹介が推奨される。
頭に入れておくべき点は以下の通りである。

運動機能障害

粗大運動機能障害
可動性を最大限に確保するため、理学療法が推奨される。

微細運動機能障害
摂食、身だしなみ、着替え、筆記等の適応機能に影響を及ぼす微細運動技能の障害に対しては、作業療法が推奨される。

コミュニケーション技能の問題
言語発達に遅れがみられる子どもに対しては、言語治療が有益な場合がある。

定期的追跡評価

表7:多発性黒子を伴うNoonan症候群罹患者で推奨される定期的追跡評価

系/懸念事項 評価項目 実施頻度
成長 成長パラメーターの計測 来院ごと
心血管系 新たな心雑音を評価するための心臓聴診
心エコー 3歳までは年に1度、その後は5歳時と10歳時、ないし臨床的必要性に応じて行う。
聴覚 聴覚評価 乳児期から小児期にかけては少なくとも年に1度、あるいは臨床的必要性に応じて行う。
眼科的評価 眼振が認められた場合、ないし臨床的必要性に応じて行う。
神経系 癲癇発作等の新たな症候に関する評価 来院ごと
発達 発達の進行状況、ならびに教育上のニーズに関するモニタリング
家族/地域社会 ソーシャルワーカーによる支援(例えば、緩和ケアや息抜きのためのケア、在宅看護、その他地域資源)やケアコーディネーションを家族が必要としているどうかに関する評価

避けるべき薬剤/環境

肥大型心筋症を有する罹患者については、

リスクを有する血縁者の評価
治療や予防措置を開始することで利益が得られる肥大型心筋症を有する人を可能な限り早期に特定するため、リスクを有する血族については、評価を行うことが望ましい。

リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。

妊娠に関する管理

罹患女性については、妊娠期間を通じて心臓の状況のモニタリングを継続する必要がある。
肥大型心筋症ないし弁機能不全を有する例は、妊娠中、特に第2・第3三半期に、心不全が発生ないし悪化するリスクを有している。

罹患妊婦の中には、心血管系の問題を抱えているため投薬を受けている人もあろう。
妊娠中の薬物服用に関する詳しい情報については、「MotherToBaby」を参照されたい。

研究段階の治療

さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「Clinical Trials.gov」、ならびにヨーロッパの「EU Clinical Trials Register」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

多発性黒子を伴うNoonan症候群(NSML)は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。

家族構成員のリスク

発端者の両親

(注:NSMLは表現度に幅があり、中には表現型がごく軽微にとどまる例もみられるため、罹患がより明白にわかる子が誕生して、初めて自身も罹患者であることが判明する成人が数多くいる。)

注:親の白血球DNAを用いた検査では、体細胞モザイクの一部は検出されない可能性がある。
また、生殖細胞のみに病的バリアントが存在する場合は、一切検出できないことになる。

発端者の同胞 

発端者の同胞の有するリスクは、発端者の両親の臨床的/遺伝的状態によって変わってくる。

発端者の子

NSML罹患者の子がNSML関連病的バリアントを継承する可能性は50%である。

他の家族構成員

他の血族の有するリスクは、発端者の両親の状況によって変わってくる。
仮に片親が罹患者であるとか、家系内の病的バリアントを同じく有しているといった場合であれば、その片親の血族にあたる人はすべてリスクを有することになる。

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

リスクを有する血族に対して、早期診断、早期治療を目的として行う検査関連の情報については、「管理」の中の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照されたい。

家族計画

DNAバンキング

検査の手法であるとか、遺伝子・病原のメカニズム・疾患等に対するわれわれの理解が、将来はより進歩していくことが予想される。
そのため、分子診断の確定していない(すなわち、背景にある病原のメカニズムが未解明の)発端者については、DNAの保存を検討すべきである。

出生前検査ならびに着床前の遺伝子検査

家系内に存在するNSMLを引き起こす病的バリアントが同定されている場合は、妊娠に際してのリスクの高まりに備えた出生前検査や、着床前遺伝子検査を行うことが可能である。

出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A:多発性黒子を伴うNoonan症候群:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体上の座位 タンパク質 Locus-Specificデータベース HGMG ClinVar
BRAF 7q34 セリン/スレオニン-プロテインキナーゼB-raf BRAF database BRAF BRAF
MAP2K1 15q22.31 二重特異性マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ1 MAP2K1@LOVD MAP2K1 MAP2K1
PTPN11 12q24.13 チロシン-プロテインホスファターゼ非受容体11型 PTPN11 database
PTPN11base:Database for pathogenic mutations in the SHP-2 domain
PTPN11 PTPN11
RAF1 3p25.2 RAFがん原遺伝子セリン/スレオニンキナーゼ   RAF1 RAF1

データは、以下の標準資料から作成したものである。
遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。
リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。

表B:多発性黒子を伴うNoonan症候群関連のOMIMエントリー(閲覧はすべてOMIMへ)

151100 LEOPARD SYNDROME 1;LPRD1
164757 B-RAF PROTOONCOGENE, SERINE/THREONINE KINASE;BRAF
164760 RAF1 PROTOONCOGENE, SERINE/THREONINE KINASE;RAF1
176872 MITOGEN-ACTIVATED PROTEIN KINASE KINASE 1;MAP2K1
176876 PROTEIN-TYROSINE PHOSPHATASE, NONRECEPTOR-TYPE, 11;PTPN11
611554 LEOPARD SYNDROME 2;LPRD2

分子レベルの病原

多発性黒子を伴うNoonan症候群(NSML)はRAS病の1つである。
RAS病というのは、遺伝的変動によりRAS/マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)シグナル伝達経路に属するタンパク質に変化が生じる1群の疾患をいう。
NSMLを引き起こすPTPN11の病的バリアントは、すべて病的ミスセンスバリアントである。
これらの病的バリアントは、Noonan症候群を引き起こすPTPN11の病的ミスセンスバリアントとは明確に別物である。

NS関連の病的バリアントは機能獲得型であり、PTPN11によりコードされるSHP-2というプロテインチロシンホスファターゼの活性を上昇させる。
しかし、NSML関連のPTPN11の病的バリアントについて言うと、その影響の現れ方はこれとは異なり、SHP-2タンパク質ホスファターゼ活性が減弱(消失ではない)に至っている。
生化学的研究によって、ここにドミナントネガティブ効果と機能獲得型効果の両方が関与していることが示唆されている。
なお、機能獲得型効果のほうは、液-液相分離を通じて発揮される。
PTPN11の病的バリアントがNSMLを引き起こす正確なメカニズムを解明するための研究が、現在、進行中である。

NSを引き起こす病的バリアントとNSMLを引き起こす病的バリアントとは、MAPK、PI3k-AKT-mTORの両シグナル伝達経路に対して、それぞれ異なった形で影響を及ぼしている。
これ以外のNSML関連遺伝子であるBRAFMAP2K1RAF1は、RAS-MAPK経路においてタンパク質をリン酸化するキナーゼをコードしており、正の制御機能を有している。
これらのタンパク質にどういった変化が生じてNSMLに至るのかというメカニズムの詳細については、まだ十分に研究が進んでいない。

表8:多発性黒子を伴うNoonan症候群:疾病を引き起こすメカニズム

遺伝子1 メカニズム コメント/参照文献
BRAF 機能獲得型 Sarkozyら[2009]
MAP2K1 機能獲得型 Nishiら[2015]
PTPN11 機能喪失とドミナントネガティブの混合効果 Kontaridisら[2006],Zhuら[2020]
RAF1 機能獲得型 Panditら[2007],Razzaqueら[2007]
  1. 表1にある遺伝子をアルファベット順で挙げたもの。

表9:多発性黒子を伴うNoonan症候群:各遺伝子でみられる注目すべき病的バリアント

遺伝子1 参照配列 DNAヌクレオチドの変化 予想されるタンパク質の変化 コメント[参照文献]
BRAF NM_004333.6
NP_004324.2
c.721A>C p.Thr241Pro  
c.735A>T p.Leu245Phe FDA認定バリアント
MAP2K1 NM_002755.4
NP_002746.1
c.199G>A p.Asp67Asn FDA認定バリアント
c.305A>G p.Glu102Gly  
PTPN11 NM_002834.5
NP_002825.3
c.836A>G p.Tyr279Cys  
c.1381G>A pAla461Thr  
c.1391G>C p.Gly464Met  
c.1402C>T p.Thr468Met 少数例で悪性腫瘍との関連[Smpokouら2015]
c.1507G>C p.Gly503Arg  
c.1510A>G p.Met504Val FDA認定バリアント
c.1517A>C p.Gln510Pro  
c.1529A>C p.Gln510Pro FDA認定バリアント
RAF1       FDA認定バリアント
    FDA認定バリアント
  1. 表1にある遺伝子をアルファベット順で挙げたもの。

癌と良性腫瘍

NSMLの症候が一切みられない例において、単発性の腫瘍として生じる孤発性の腫瘍(白血病や固形腫瘍など)中に、BRAFMAP2K1PTPN11RAF1の体細胞性のヌクレオチドバリアントがみられるようなことがある。
ただ、そうしたものが生殖細胞系列に存在するわけではないので、そうした腫瘍に関する素因は、継承されるような性質のものではない。
癌にみられる体細胞変異要覧」を参照されたい。


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者: Bruce D Gelb, MD and Marco Tartaglia, PhD.
    日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、水上都(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    GeneReviews最終更新日: 2022.6.30. 日本語訳最終更新日: 2022.12.3.[in present]

原文: Noonan Syndrome with Multiple Lentigines

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