GeneReview著者: Abigail T Fahim, MD, PhD, Stephen P Daiger, PhD, Richard G Weleber, MD, FABMG, FACMG
日本語訳者: 大塚洋子(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReview最終更新日: 2013.3.21 日本語訳最終更新日: 2015.2.24
原文 Retinitis Pigmentosa Overview
疾患の特徴
網膜色素変性症(RP: retinitis pigmentosa)は、網膜の視細胞(桿体細胞と錐体細胞)および網膜色素上皮(RPE: retinal pigment epithelium)の変性により進行性の視覚障害をきたす遺伝性疾患群である。患者は、病初期に暗順応障害つまり「夜盲症」を経験したのち、周辺視野の狭窄を自覚し、疾患の末期には中心視力を失う。
診断・検査
RPの診断は、網膜電図検査(ERG)と視野検査により認められる視細胞機能の進行性低下を指標として行われる。少なくとも50種類の遺伝子に生じた変異が非症候性RPの原因として知られている。
臨床的マネジメント
病変の治療:
ビタミンAパルミテートの摂取により網膜変性の進行が遅延する可能性がある。ただし、18歳未満の患者には推奨できない。また、暴露した胎児に催奇形作用が及ぶ危険性があるため、妊娠可能年齢の女性に対しては定期的な監視が必要である。高用量のビタミンA(RP治療のための推奨用量程度)を長期間摂取することにより骨粗鬆症の危険性を数倍高めるとの報告がある。従って、このような治療には定期的な骨密度検査が必要となる。アセタゾラミド(商品名: ダイアモックス)の経口投与またはドルゾラミドの点眼投与により嚢胞様黄斑浮腫を軽減することがある。残存視野が10°未満で白内障を合併した場合は、視機能の改善を目的とした水晶体摘出術を検討すべきである。短波長光への暴露により網膜変性の進行が加速する懸念があるため、紫外線A波とB波を遮るサングラスの装用が勧められる。CPF 550レンズを用いた眼鏡の装用により羞明感が緩和され暗順応時間が短縮するため、視覚の快適さが増すこともある。この他、拡大鏡、拡大読書器(CCTV: closed-circuit television閉回路テレビ)、高輝度広角配光型の懐中電灯といったさまざまな光学的補助具が役立つ。米国では、州レベルの公設支援施設が失明者や進行性眼疾患を持つ人々に対し、職業訓練、移動訓練、自立生活技能訓練などのサービスを提供している。
経過観察:
ゴールドマン視野計を用いた検査および散瞳下精密眼底検査を半年または1年毎に実施する。活動性の高い合併症がある場合はより頻回に経過観察を行う。
回避すべき薬物や環境:
ビタミンEの高用量摂取(RPの経過に悪影響を及ぼす可能性があるため)および妊娠中のビタミンAパルミテートの高用量摂取(催奇形作用を惹起する可能性があるため)を避ける。
遺伝カウンセリング
RPの遺伝形式は主として家系図に基づき推定するが、場合により分子遺伝学的検査の結果に依拠する。RPの遺伝は、常染色体優性、常染色体劣性、またはX連鎖性の遺伝形式による。X連鎖性RPの原因変異を持つ女性は、発症しない可能性も臨床徴候を示す可能性もある。X連鎖性RPを発症した女性の多くは(全症例ではない)、同年齢の男性患者に比べて症状が軽い。二遺伝子性RPおよびミトコンドリア性RPの記述も少数例ある。遺伝カウンセリングは、正確な診断、各家系で特定された遺伝形式、および分子遺伝学的検査の結果に基づき実施する。
網膜色素変性症(RP)とは、網膜の視細胞(桿体細胞と錐体細胞)の変性により進行性の視覚障害をきたす遺伝性疾患群である。
臨床像
夜盲症 臨床経過の初期には桿体機能が優位に障害される。RPの初発症状は通例、暗順応障害つまり「夜盲症」である。RP患者が暗順応障害の病歴を自発的に訴えない場合は、薄暗い中での活動について念入りに問診すると、幼年期から青年期に始まる病歴が往々にして明らかになる。一般に、暗順応障害の発症が若年であればあるほどRPの予後は不良である。中間周辺視野の欠損は病初期に生じるが、患者自身の自覚はまれであり、通常主訴とならない。視野狭窄(つまり、トンネル状視野)が見つかる前に、動作のぎこちなさが認められることがある。
視力 病初期に生じた錐体細胞の病変が錐体機能の高感度検査により検出される例は存在するものの、概して、中心視力は末期まで維持される。初期に黄斑部病変が存在すると、長い経過の末に中心視力を失う確率が相関して高くなる。RP患者は、いかなる年齢においても、嚢胞様黄斑浮腫(CME: cystoid macular edema)が原因となって中心視力を失う可能性がある。CMEは、RP患者の10~50%前後に合併するものと推定される(合併率の差は遺伝子型、診断装置の違いなどにより生じ、研究間で異なる)。CMEの合併頻度は、蛍光眼底血管造影検査(FA: fluorescein angiography)よりも光干渉断層計検査(OCT: optical coherence tomography)で高く推定されている。FAでは漏出物があっても画像化されない場合があるためである。
加齢に依存する視力低下と遺伝形式との間におおまかな相関が認められるとする研究もある。Fishmanらの研究(1978年)によれば、常染色体優性RPは最も予後が良く、30歳未満の患者の大多数は視力20/30以上である。X連鎖性RPの男性患者は、最も予後が不良であり、50歳を超す患者すべての視力が20/200未満である。常染色体劣性RPおよび孤発性RP(つまり、家族歴陰性のRP)の重症度は中等度である。
眼底像 RPの眼底像は通例、網膜変性の進行度を反映する。未だ症状が自覚されないような最初期のRPでは、網膜電図の桿体応答に異常が検出されながらも、眼底像は通例、正常である。また、無色素性網膜色素変性症(retinitis pigmentosa sine pigmento)という用語は、視細胞の機能異常が実証されているにもかかわらず正常な網膜が観察される病態を示すものとされている。
最初期のRPの眼底では、細動脈の狭細化、網膜内の微細な色素沈着、および網膜色素上皮の色素脱失といった変化が観察される。視細胞の機能低下が進むにつれて、網膜色素上皮の色素脱失が増えるとともに網膜内のメラニンが凝集し、多くの場合、骨小体様の形状を持つ粗い色素沈着として観察される。
進行したRPの患者では、中等度から重度の網膜血管の狭細化および視神経乳頭部の蝋様萎縮化・蒼白化が明らかになる網膜血管の狭細化の原因は不明であるが、狭細化は二次的変性であってRPの一次的病因とは考えられない。
後嚢下白内障は、水晶体皮質後極部の視軸上に生じる黄白色のクリスタリン蛋白質の変性凝集体を特徴とする。後嚢下白内障はすべての病型のRPに広く見られる。白内障の重症度は、患者の年齢と相関関係にある。RPの白内障形成の原因は明らかでない。RP患者の約半数が最終的に白内障の手術が必要となる(しかも通例手術は奏功する)。
硝子体内の粉塵様粒子はRP患者の大多数に見られる。これは、遊離したメラニン色素顆粒、色素上皮、ブドウ膜由来メラノサイト、およびマクロファージ様細胞で構成される微細な無色の粒子であり、硝子体全体に均一に分布する。粉塵様粒子の観察は、眼底の変化が明らかになる前にRPの早期診断を実現する助けとなることがある。
網膜深部の網膜色素上皮層に生じる白色斑点は、色素上皮変性の非特異的な症状と考えられ、網膜の一病態である「白点状網膜炎」(RPA: retinitis punctata albescens)の所見とされることがある。RPAはRPの発現形態の一つと考えられる。
視神経乳頭部のヒアリン体(視神経乳頭ドルーゼン)はRP患者に頻繁に見られ、弓状視野欠損を伴う場合がある。特定の亜型RPの診断とはならない。
滲出性網膜血管病変(コーツ病様病変と称することが多い)は、重度のRPまたは進行したRPでまれにみられ、末梢血管拡張、網膜内の脂肪沈着、および漿液性網膜剥離を特徴とする。RPの滲出性網膜血管病変の原因は不明である。ただし、レーベル先天性黒内障と常染色体劣性RPの原因となるCRB1遺伝子の変異は、コーツ病様滲出性網膜血管病変の合併に関与している。小児や若年成人にコーツ病様血管病変が認められた場合は、進行状態を観察する必要があり、場合によっては治療が必要となる。
区画性RPとは、各眼底の四分円から半円に生じた網膜色素変性を意味する。通例、下鼻側の四分円が左右対称性に障害される。区画性RPの視野障害は定型的なRPに比べて重症度が低い。また、視野障害は眼底検査で観察される網膜の病変に対応する。区画性RPの患者は、通例、ERG検査により広範囲に及ぶ桿体細胞と錐体細胞の機能異常が検出されるが、それにもかかわらず暗順応障害の症状を欠くことがある。真の区画性RPの発生率は低い。多くの病型のRPでは、初期には病変が区画性に分布するが、何十年もの経過でびまん性に進展し広範な病巣を形成する。
区画性の変性は、常染色体優性RPの患者(例えば、RHO遺伝子で高頻度に見られるp.Pro23His変異を持つ患者)およびX連鎖性RPのヘテロ接合体の女性患者で観察されている。
まれな疾患であることに加え、症状が軽く滅多に診断に至らないために、区画性RPの頻度は低い。
妊娠中のRP 5~10%の女性患者で妊娠中に視力が低下し、その多くは出産後に回復をみなかったとの報告がある。ただし、客観的データが得られていない。
妊娠中の生理的変化が原因となって屈折状態の変化(角膜の厚みと曲率半径の増大、水晶体の遠近調節力の変化)が生じることがある。 妊娠中の女性は、中心性漿液性網膜症の発症リスクが増大するほか、既発症の糖尿病性網膜症の進行加速および視力に影響を及ぼし得る各疾病の進行の可能性が増す。栄養摂取が不十分な女性は、妊娠中にビタミンA欠乏症や夜盲症の発症リスクが高まる可能性がある(詳しくはGargおよびAggarwalによる2012年の報告を参照)。
確定診断
コンセンサス会議(Marmorらの1983年の報告による)は、以下の診断条件を満たすときにRPの確定診断とすることを提言している。
網膜機能は以下の方法により評価する。
眼底検査 進行したRP患者の網膜の眼底像は、網膜内の黒色の色素塊、網膜血管の著しい狭細化、網膜色素上皮(RPE)の消失、および視神経蒼白を特徴とする。これらの病変は、長期にわたる網膜変性の結果であり、RPの診断の条件ではない。ただし、RPに類似した臨床所見を示しながらも特有の網膜変性を示す他の網膜ジストロフィとの鑑別に際して、眼底所見は手段の一つとなる。
近年進歩を遂げた補償光学技術の導入により、2μmの分解能をもつ高精度な眼底画像診断装置が実現した。研究者および臨床医はRP患者の視細胞の変性過程を細胞レベルで観察することが技術的に可能となった。ただし、この技術は臨床現場においては普及していない。
視機能の評価
網膜電図検査(ERG)より視細胞の機能的状態が客観的に測定される。ERG検査では、光刺激の照射後に網膜で上昇する電位を測定ののち、何百万もの網膜細胞の複合応答が描画される。電極を埋め込んだコンタクトレンズを角膜上に付着して測定し、測定値を電子的に増幅したのち記録する。暗順応条件下において薄明光または青色光刺激により生じる応答はほぼ桿体細胞の機能を反映し、明順応条件下において30Hzの光刺激により生じる応答はほぼ錐体細胞の機能を反映する。桿体細胞の応答成分と錐体細胞の応答成分とを分離することにより、桿体細胞および/または錐体細胞の障害の型と程度が明らかになる。病初期に観察される分離桿体応答の著しい減弱はRPに特徴的であり、若年者のRPの診断にはこの応答値の記録が不可欠である。より重度のRPまたは進行したRPの患者では錐体細胞の応答が消失し、最終的にノイズを超えるERG応答は検出されなくなる。
全視野ERGの検査では、全視野に視覚刺激を与え、網膜全野から得た応答が記録される。全視野ERGは、RP患者の疾患進行の観察のために従来から使用されている。
多局所ERGの使用により、黄斑部全体にわたる複数の局所応答の記録が可能となり、進行したRP患者の黄斑部の残存機能を検出することができる。従って、多局所ERGは、進行したRPを対象とする臨床試験において視機能の検査手段となるほか、長期の経過観察に役立つ。
光干渉断層計(OCT) は網膜の画像をミクロン単位の解像度で取得する。また、OCTは、網膜外層の変性の検出や網膜厚の測定、および嚢胞様黄斑浮腫の診断と経過観察に使用することができる。
光視症(眼内閃光の知覚)、中心視の異常、色覚異常、著しく非対称性の眼病変を初発症状とする症例については、RP以外の網膜変性または網膜疾患の可能性があることに注意すべきである。
定型的なRPを鑑別診断する際に留意すべき疾患の一部を以下に示す。このうちの多くは、RPと同じ遺伝子の変異を原因としている。
錐体桿体ジストロフィは、アルストレム症候群、バルデー-ビードル症候群、神経セロイドリポフスチン症、ならびにジュベール症候群および関連疾患(JSRD: Joubert syndrome and related disorders)などの症候群の一症状として発現することが多い。眼性および腎性症状を呈する表現型は、シニア・ローケン症候群(網膜症と若年発症のネフロン癆)やデカバン-有馬症候群(網膜症と異形成嚢胞腎)などの疾患群から成るJSRD疾患スペクトラムに属する点に注意が必要である。
頻度
RPの頻度は3,000~7,000人あたり1人、つまり100,000人あたり14~33人である。米国と欧州での頻度は3,500~4,000人に1人である。Haimの報告(2002年)によれば、デンマークにおけるRPの生涯発症リスクは1/2500であった。その他の母集団でも類似の頻度が予想されるが、文献上の記載はない。
RPの頻度に民族特異性はみられないが、特定遺伝子の変異スペクトルは集団により異なることがある。とりわけ孤立した集団または血縁率の高い集団でこの傾向が強い。更に、特定の優性または劣性変異アレルの頻度は、創始者効果により特定集団内で高値を示したり、遺伝的浮動により変動したりする可能性がある。例えば、RHO遺伝子の変異NM_000539.3:c.68C>A (NP_000530.1:p.Pro23His)は、欧州系米国人集団においてはadRP全症例の12~14%を占めるが、他集団においてはまれである。
網膜色素変性症(RP)は、非症候性もしくは単純性(目以外の器官や組織が障害されない)、症候性(聴覚など目以外の神経感覚系の障害を伴う)、および全身性(多種類の組織の障害を伴う)に分類できる。この概説では非症候性RPを中心に説明する。非症候性RPは、常染色体優性、常染色体劣性、またはX連鎖性の遺伝形式で遺伝することがある。二遺伝子性遺伝もまれながら存在する。二遺伝子性RPの患者は、ROM1遺伝子とPRPH2遺伝子のどちらにもヘテロ接合性変異をもつ。
RP発端者総数に占める各遺伝形式の発端者数の相対的割合を表1に示す。
表1 非症候性RPの原因 -- 遺伝形式別割合
遺伝形式 | RP発端者総数に対する割合 |
---|---|
常染色体優性RP(adRP) | 15~25% |
常染色体劣性RP(arRP) | 5~20% |
X連鎖性RP(xlRP) | 5~15% |
不明: 孤発性1 | 40~50% |
二遺伝子性RP | 非常にまれ |
遺伝子地図の作成と新たな遺伝子の発見により、RPの分子遺伝学的原因が著しく複雑であることが明らかになっている。RPに関連する遺伝子の多くは、以下に関連する蛋白質をコードする。
しかしながら、RPの病原性変異を生じた遺伝子の多くは機能が未解明のまま残されている。
以下に見るように、RPの複雑性には疑いがない。
常染色体優性RP
表2 常染色体優性RP(adRP)に関連する遺伝子
遺伝子記号 | adRP全症例に占める 当該遺伝子変異の割合 |
蛋白質名 1 |
---|---|---|
RHO | 20~30% 2 | ロドプシン |
PRPF31 | 5~10% 2 | U4/U6核内低分子リボヌクレオ蛋白質Prp31 |
PRPH2 | 5~10% 2 | ペリフェリン2 |
RP1 | 3~4% 2 | 酸素調節蛋白質1 |
IMPDH1 | 2~3% 2 | イノシン5′一リン酸デヒドロゲナーゼ1 |
PRPF8 | 2~3% 2 | mRNA前駆体プロセシング-スプライシング因子8 |
KLHL7 | 1~2% | ケルヒ様蛋白質7 |
NR2E3 | 1~2% 2 | 視細胞特異的核内受容体 |
CRX | 1% 2 | 錐体桿体ホメオボックス蛋白質 |
PRPF3 | 1% 2 | U4/U6核内低分子リボヌクレオ蛋白質Prp3 |
TOPORS | 1% 2 | E3ユビキチン-蛋白質リガーゼTopors |
CA4 | まれ 2 | 炭酸脱水酵素4 |
NRL | まれ 2 | 神経網膜特異的ロイシンジッパー蛋白質 |
ROM1 | まれ 2 | 網膜外節膜蛋白質1 |
RP9 | まれ 2 | RP9蛋白質 |
RDH12 | 不明 | レチノール脱水素酵素12 |
SNRNP200 | 不明 | U5核内低分子リボヌクレオ蛋白質200kDaヘリカーゼ |
AIPL1 | まれ 4 | アリル炭化水素受容体相互作用蛋白質様1 |
BEST1 | まれ 5 | ベストロフィン1 |
PRPF6 | まれ 6 | mRNA前駆体プロセシング因子6 |
RPE65 | まれ7 | レチノイドイソメロヒドロラーゼ |
6q23に連鎖 遺伝子は未同定 |
一家族において連鎖 | 未同定 |
GUCA1B | 日本において4~5% 英国においてまれ |
グアニル酸シクラーゼ活性化蛋白質2 |
FSCN2 | 日本人adRP患者の3% その他の集団でまれ |
ファシン2抗体 |
SEMA4A | パキスタンにおいて3~4% | セマフォリン4Af |
原文の表にOMIM、RetNet 1、およびGeneTestsへのリンクが用意されている。-- 訳者注 表中のデータは、次に示す標準的なデータベースを出典としている。遺伝子記号はHGNC、OMIM番号(原文のみ)はOMIM、蛋白質名はUniProtからデータを得ている。 OMIMに掲載されたRPの各表現型に関連する遺伝子についてはPhenotypic Series: Retinitis Pigmentosaを参照して頂きたい。
常染色体劣性RP
アッシャー症候群II型の原因ともなりうるUSH2A遺伝子の変異だけで、arRPの10~15%の原因を占める可能性がある。
常染色体劣性RPの症状の一部が他の常染色体劣性遺伝性の網膜症と共通する場合がある。とりわけ、若年発症の常染色体劣性RPとレーベル先天性黒内障(LCA)は症状が酷似する。
表3 常染色体劣性RP(arRP)に関連する遺伝子
遺伝子記号 | arRP全症例に占める 当該遺伝子変異の割合 |
蛋白質名 1 |
---|---|---|
USH2A | 10~15% | アッシャリン |
ABCA4 | 2~5%2 | 網膜特異的ATP結合カセット輸送体 |
PDE6A | 2~5% | 桿体cGMP特異的3', 5'-環状ホスホジエステラーゼαサブユニット |
PDE6B | 2~5% | 桿体cGMP特異的3', 5'-環状ホスホジエステラーゼβサブユニット |
RPE65 | 2~5% | レチノイドイソメロヒドロラーゼ |
CNGA1 | 1~2% | cGMP依存性陽イオンチャネルα-1 |
BEST1 | ≤1% | ベストロフィン-1 |
C2ORF71 | ≤1% | 機能未同定蛋白質C2orf71 |
C8ORF37 | ≤1% | 機能未同定蛋白質C8orf37 |
CLRN1 | ≤1% | クラリン-1 |
CNGB1 | ≤1% | 環状ヌクレオチド依存性陽イオンチャネルβ-1 |
DHDDS | ≤1% | デヒドロドリチル二リン酸合成酵素 |
FAM161A | ≤1% | 蛋白質FAM161A |
IDH3B | ≤1% | イソクエン酸デヒドロゲナーゼ[NAD]βサブユニット, ミトコンドリア蛋白質 |
IMPG2 | ≤1% | 光受容体間マトリックスプロテオグリカン2 |
LRAT | ≤1% | レシチン-レチノールアシル基転移酵素 |
MAK | ≤1% | セリン/スレオニン蛋白質キナーゼMAK |
MERTK | ≤1% | チロシン蛋白質キナーゼMer |
NRL | ≤1% | 神経網膜特異的ロイシンジッパー蛋白質 |
PDE6G | ≤1% | 網膜桿体ロドプシン感受性cGMP特異的3',5'-環状ホスホジエステラーゼγサブユニット |
PRCD | ≤1% | 進行性桿体錐体変性蛋白質 |
PROM1 | ≤1% | プロミニン-1 |
RBP3 | ≤1% | レチノール結合蛋白質3 |
RGR | ≤1% | RPE-網膜G蛋白質共役受容体 |
RHO | ≤1% | ロドプシン |
RLBP1 | ≤1% | レチンアルデヒド結合蛋白質1 |
RP1 | ≤1% | 酸素調節蛋白質1 |
SPATA7 | ≤1% | 精子形成関連蛋白質7 |
TTC8 | ≤1% | テトラトリコペプチド反復配列領域8 |
TULP1 | ≤1% | 肥満関連蛋白質1 |
ZNF513 | ≤1% | ジンクフィンガー蛋白質513 |
ARL6 | ≤1% | ADPリボシル化因子様蛋白質6 |
NR2E3 | まれ ポルトガル定住のセファルディム系ユダヤ人に見られる |
核内受容体サブファミリ2グループE3 |
EYS | スペインにおいて10~30% 中国において高頻度 3 |
eyes shut蛋白質ホモログ |
CRB1 | スペインにおいて6~7% 4 | ショウジョウバエcrumbs蛋白質ホモログ1 |
CERKL | スペインにおいて3~4% 5 | セラミドキナーゼ様蛋白質 |
SAG | 日本において2~3% | Sアレスチン |
原文の表にOMIM、RetNet1、およびGeneTestsへのリンクが用意されている。-- 訳者注
表中のデータは、次に示す標準的なデータベースを出典としている。遺伝子記号はHGNC、OMIM番号はOMIM、蛋白質名はUniProtからデータを得ている。座位がマップされていながら同定に至っていない遺伝子についてはRetNetを参照して頂きたい。
OMIMに収載されたRPの各表現型に関連する遺伝子についてはPhenotypic Series: Retinitis Pigmentosaを参照して頂きたい。
X連鎖性RP
一般に、X染色体上で複数のRP関連遺伝子が近接していると、遺伝子マッピングや変異の検出が難しくなる。遺伝子記号 | xlRP全症例に占める 当該遺伝子変異の割合 |
蛋白質名1 |
---|---|---|
RPGR | 70~90%2 | X連鎖性網膜色素変性症GTPアーゼ調節因子 |
RP2 | 10~20%2,3 | XRP2蛋白質 |
注: RPGR研究の初期には、大多数の罹患家族において、RP3にマップされた変異を検出することができなかった。ところが、新たにRPGRのエクソンORF15が同定されてからは、大幅に変異の検出率が上がった。当遺伝子座内においてORF15は優性に働く変異の集積部位となっている。
1人の人がPRPH2遺伝子変異とROM1遺伝子変異をともに持つ場合に二遺伝子性RPの原因となる。報告された二遺伝子性RPの全症例で、PRPH2遺伝子には同じ変異(NM_000322.4:c.554T>C; NP_000313.2:p.Leu185Pro)が見つかったが、ROM1遺伝子については、これらの家系で3種類の変異が同定された。一見してadRPの家系とみられる215例を対象としたコホート研究の結果、1例の家系(0.5%)で二遺伝子性RPの罹患を確認した。
非症候性RPの患者の遺伝的原因を評価するためには、遺伝形式の特定が不可欠である。臨床医は、患者とのカウンセリングに際して、遺伝形式の情報を基に血縁者がRPに罹患するリスクについて説明する。診断を確定するために分子遺伝学的検査が必要となることが多い。また、遺伝形式の特定に役立つ情報を得るために必要となることもある。
遺伝形式の判定
家族歴 遺伝形式を決定するために、3世代の家族歴を聴取する必要がある。その際、第一度近親者とその子については、全員の情報が収集されるよう配慮すべきである。家系内の該当者個々人に対して直接診察するか、ERG検査、視野検査、眼科診察などの医療記録の調査から関連所見を得て記録する。
孤発例 孤発例(一家系内唯一の発症例)は、RP患者総数の10~40%を占める。孤発例の遺伝的機序は、例えば次のように説明することができる。
ただし、一見孤発性のように見える症例には、血縁者が発症していても発端者に知られていない場合や症状が軽微であるために患者として認識されない場合がありうる。また、家族歴の聴取に応じる人が必ずしも血縁者の発症を把握しているわけではないので、第一度近親者の臨床検査が有用となることが多い。
孤発性と見られた男性患者の母親と娘に対する眼科的評価によりxlRPの女性保因者が発見された結果、遺伝形式が明らかになる家系がある。家系内の複数世代で発症がみられ、しかも女性が発症していることを根拠に、xlRPをadRPと見誤ることもありうる。このような家系でxlRPを発症した女性は男性患者よりも症状が軽い。しかも、男性から男性への伝達が確認されなければX連鎖性遺伝であることの裏付けとなる。
大多数の孤発性症例については、分子遺伝学的検査により遺伝形式を決定する必要がある。さらに、強調すべきは孤発性RPが必ずしも常染色体劣性であるとは限らない点である。従って、分子遺伝学的検査の結果に情報的価値がない場合、再発率の予測には注意を要する。
分子遺伝学的検査
RPの分子機序を同定する目的で、RP用の単一遺伝子検査や多重遺伝子パネルを使用することがある。
単一遺伝子検査(single gene testing) 多くのRP関連遺伝子の変異を対象とした分子遺伝学的検査が臨床検査機関にて行われている。事前に遺伝形式を特定し、その上で該当するRPの原因変異のうち最も頻度の高い変異が生じた遺伝子から順次検査を行えば、最も効率的に単一遺伝子検査を行える。
注: PRPH2 かROM1のいずれか一方の変異を継承しており、しかも遺伝形式がメンデル型ではないように見える家系に対してはいずれも、二遺伝子性遺伝に関する検討を経たうえで他方の遺伝子のシークエンス解析を行う必要がある。
多重遺伝子パネル(multi-gene panel)は、RPへの関与が知られている複数遺伝子のパネルで構成される。このパネルを用いた多重遺伝子検査を利用することができる。
注: (1)多重遺伝子パネルの検査対象となる遺伝子の種類は検査機関により異なる。また、同一検査機関においても長い間には変更がある。(2)患者の検査に用いる多重遺伝子パネルの選択に際しては、第三者支払機関(つまり保険者)に関連する医療費償還問題の影響を受ける可能性がある。
研究レベルの分子遺伝学的検査 近い将来新しい技術によって遺伝子の同定が容易になる可能性があるため、特定の変異が同定されていない患者にとっては調査研究への参加が有用となるかもしれない。
分子遺伝学的検査の結果の解釈 遺伝子検査により任意の患者の病原性変異が検出される平均的な確率は50%前後である。RPの複雑さを勘案すれば、分子遺伝学的検査の結果を正確に解釈し、結果の意味するところについて患者を対象とした効果的なカウンセリングを行うためには多大な困難が伴うものと考えられる。
RP患者の血縁者のリスクを推定する目的で、彼らを対象とした臨床上の遺伝学的検査を追加実施することがある。また、新たに同定された遺伝子の変異に関する検査が利用できるようになった場合には、分子遺伝学的原理が未解明の家系を対象として更なる検査が是認されるだろう。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
網膜色素変性症(RP)の遺伝形式は、常染色体優性、常染色体劣性、またはX連鎖性をとることが多い
まれに二遺伝子性やミトコンドリア性の遺伝形式もみられる。遺伝形式の決定については前述の「評価手順」を参照して頂きたい。
患者家族のリスク
血縁者のリスク ― 常染色体優性RP
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
血縁者のリスク ― 常染色体劣性RP
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子 発端者の子はいずれも絶対的保因者である。
発端者のその他の血縁者 絶対的ヘテロ接合体と考えられる血縁者の各同胞がヘテロ接合体である確率は50%である。
保因者診断 ― 常染色体劣性RP
RPの原因変異が家系内で同定されている場合は、リスクのある家系構成員を対象として、いくつかの遺伝子の変異に関する保因者検査を臨床ベースで実施することができる。
血縁者のリスク ― X連鎖性RP
男性発端者の両親
男性発端者の同胞
男性発端者の子
男性患者の娘全員が変異を受け継ぎ保因者となる。男性患者の息子は変異を受け継がない。
男性発端者のその他の血縁者 男性発端者の母方の叔母とその子孫は、保因者となるリスクまたは罹患するリスクを持つ(再発率は性別、血縁関係、および発端者の母親の保因者状態により異なる)。更に、男性発端者の母方の叔父と母方の祖父も、発端者の母親の保因者状態次第で、罹患する可能性がある。
保因者診断 ― X連鎖性RP
リスクのある女性血縁者に対して保因者検査を実施するには、家系内で病原性変異が事前に同定されている必要がある。
二遺伝子性遺伝とミトコンドリア遺伝
PRPH2(旧称RDS)遺伝子変異とROM1遺伝子変異が一人の患者に継承された場合に二遺伝子性RPの原因となる。
遺伝カウンセリングに関連した問題
家族歴の解析には数多くの複雑な問題が関与しうるため、家族によっては、遺伝形式推定の根拠となる信頼性の高いデータを得るためには、分子レベルで根本的因子を同定する他に手段がない場合がある。前述の「評価手順」を参照して頂きたい。
同一変異を持つ患者の間でも、疾患表現型の相違や臨床上の重症度の相違(軽度から重度に及ぶ)がしばしば見られる。従って、遺伝形式や病因となる変異のみを根拠として発症年齢および/または病状の進行を予測することはできない。
家族計画
DNAバンク DNAバンキングとは、将来の使用に備えてDNA(一般には白血球から抽出)を保存することである。今後、検査方法の改良や遺伝子とその変異や疾患の研究の進展が見込まれるため、患者のDNAの保存は検討に値する。
出生前診断
家系内で病原性変異が同定されていれば、リスクの高い妊娠に対して出生前診断を実施することができる。絨毛膜絨毛サンプリング(CVS)により絨毛細胞を採取するか(妊娠第10~12週頃に実施)、羊水穿刺により胎児細胞を採取したうえで(通例、妊娠第15~18週頃に実施)、これらの細胞から抽出した胎児DNAの解析により病原性変異の有無を決定する。このような検査は、対象となる遺伝子の出生前検査か検査項目を選択できる出生前検査(custom prenatal testing)を実施している検査施設であれば、実施できる可能性がある。
注: 胎生週数は、最終正常月経の開始日から数えた月経週で表すか、超音波検査の測定結果を基に割り出す。
RPのような疾患の出生前検査・診断の要望は多くはない。とりわけ出生前検査が早期診断を目的とせず妊娠中絶につながるものと考えられる場合には、医療専門家や家族の間で出生前診断に対する見解の違いがあり得る。大方の医療機関は、出生前診断を受けるか否かの決定は両親に委ねられるものと考えるであろうが、こうした問題は俎上に載せてしかるべきである。
着床前遺伝子診断(PGD: preimplantation genetic diagnosis)は、家系内患者において既に病原性変異が同定されている場合に、その家系構成員を対象として実施されることがある。
初回診断後の評価
網膜色素変性症(RP)と診断された患者に対して、疾患の広がりと重症度を診断し治療ニーズを把握する目的で次のように対応することを推奨する。
病変の治療
網膜色素変性 ほとんどの病型のRPに対してビタミンAパルミテートの摂取(1日当たり15,000IU)が推奨されている(Bersonらによる1993年の研究)。しかしながら、この研究の内容と推奨摂取用量については諸説ある(後述の「研究中の治療法」を参照)。高用量のビタミンA摂取は毒性副生成物であるA2Eの蓄積を亢進するため、ABCA4遺伝子に変異のあるシュタルガルト病またはABCA4遺伝子に変異のある常染色体劣性RPの患者は、高用量ビタミンAの摂取は禁忌である。
2件の研究結果に基づき、高用量のドコサヘキサエン酸(DHA)およびルテイン(ゼアキサンチン)の摂取が推奨されている(後述の「研究中の治療法」を参照)。
嚢胞様黄斑浮腫
炭酸脱水酵素阻害薬の全身適用(つまり、アセタゾラミド[ダイアモックス]の経口投与)および局所適用(ドルゾラミドの点眼投与)により、一定の治療効果が認められたとの報告がある。ただし、継続投与を原因とする反跳性の黄斑浮腫が起きる場合がある。
白内障
残存視野が10°を超えるRP患者の大多数は、後嚢下白内障が原因で失明することはない。残存視野が10°未満の症例では、通常、水晶体摘出術により大幅に視機能が改善されるとの報告がある。
光学的補助具
短波長光への暴露により網膜変性の進行を速める懸念があるため、紫外線A波とB波を遮るサングラスの装用が推奨される。Corning Glass Works(*)製コーニング調光フィルター(Corning Photochromatic Filter)を用いたCPF 550レンズは、波長が550nm未満の紫外線分光エネルギーを97~99%カットする。眩輝や眼球内散乱光を和らげることで見え方の快適さを改善し、コントラスト感度を向上させ、暗順応・明順応時間を短縮することを目的として、RP患者への装用の普及が進められている。 * 現社名はCorning Incorporated - 訳者注
周辺視野狭窄をきたしながらも中心視力が維持されている患者のために、さまざまな光学的補助具が提案されている。ただし、いずれも難点がある。
視野狭窄があるうえに中心視力が低下した患者は、拡大鏡や拡大読書器といった視覚補助具により実用レベルの読書視力が得られる。
高輝度広角配光型の懐中電灯は、強い光線で広い配光範囲を照らすため、夜間移動時の困難を軽減する。このような懐中電灯は、安価であり両眼視機能が得られる一方、大きさ、重さ、人目に付く外観に欠点がある。
視力障害者のための支援施設
米国では、州レベルの公設支援施設が失明者や進行性眼疾患の患者に対し、職業訓練、歩行訓練、自立生活技能訓練などのサービスを提供している。
経過観察
一般的にはゴールドマン視野計(GVF)を用いた検査および散瞳下精密眼底検査を半年または1年毎に実施する。嚢胞様黄斑浮腫など活動性の高い合併症がある場合は、より頻回に経過観察を行う。
回避すべき薬物や環境
ビタミンEはRPの経過に悪影響を及ぼす可能性があるため、RP患者はビタミンEの大量摂取(例えば、1日当たり400IU)を避けることをお勧めする。
ビタミンAパルミテートは発育中の胎児に催奇形作用を及ぼす危険性があるため、妊娠中の摂取を避けるべきである。
リスクのある血縁者の評価
リスクのある血縁者を対象として遺伝カウンセリングを目的とした検査を検討する際には、検査に関わる諸問題について述べた、前述の「関連する遺伝カウンセリング上の問題」を参照して頂きたい。
妊娠中の管理
高用量のビタミンAパルミテートの摂取は発育中の胎児に催奇形作用を及ぼす危険性があるため、妊娠可能年齢の女性に対し注意を促す必要がある(次項「研究中の治療法」を参照)。妊娠中に増悪の危険性がある疾患については前述の「臨床像」を参照して頂きたい。
研究中の治療法
栄養素の摂取 RPの治療を目的とした栄養素の摂取に関してさまざまな試験が行われたが、効果にばらつきがあり、結果の解釈にはしばしば議論が生じている。
その他
ClinicalTrials.govの検索により、さまざまな疾患や病態についての臨床試験情報を入手することができる。