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PTEN過誤腫症候群
(PTEN Hamartoma Tumor Syndrome)

[Synonyms: PTHS]

Gene Reviews著者: Charis Eng, MD, PhD.
日本語訳者: 櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)       

Gene Reviews 最終更新日: 2016.6.2.日本語訳最終更新日:2017.2.16.

原文 PTEN Hamartoma Tumor Syndrome


要約

疾患の特徴 

PTEN過誤腫症候群(PHTS)には、Cowden症候群(CS)、Bannayan-Riley-Ruvalcab症候群 (BRRS)、PTEN関連Proteus症候群 (PS)および Proteus様症候群が含まれる。

  • CSは多発性過誤腫症候群であり、甲状腺、乳房、子宮内膜に良性ないし悪性の腫瘍を生じるリスクが高い。患者は通常、巨頭症、外毛根鞘腫、乳頭腫性丘疹を有し、これらは20代後半までに発症する。乳がんを発症する生涯リスクは85%で、診断年齢の平均は38〜46歳である。甲状腺がん(通常は濾胞がんだが、稀に乳頭がんがある。しかし髄様がんはない)の生涯リスクは約35%である。子宮内膜がんのリスクは約28%である。
  • BRRSは巨頭症、 過誤腫性大腸ポリポーシス、 脂肪腫および陰茎亀頭の色素斑を特徴とする先天性疾患である。
  • PS は結合組織母斑、表皮母斑、骨化過剰症のみならず、先天性奇形や複数組織の過誤腫性異常増殖など複雑で臨床像が多彩な疾患である。
  • Proteus様症候群は定義づけられていないが、PSの診断基準は満たさないものの、PSの臨床的特徴を顕著に示す患者に対して用いられる。

診断・検査 

PHTSの診断は、発端者において分子遺伝学検査によるヘテロ接合型の生殖細胞PTEN 病原性変異型の同定によって確立される。

臨床的マネジメント 

病変の治療PHTSの良性病変および悪性病変の治療は、散発性の場合と同様である。CSの皮膚粘膜症状は局所薬(例えば5-フルオロウラシル)、掻爬術、凍結外科手術またはレーザー切断によって緩和されるかもしれないが、実施されることはまれである。皮膚病変は悪性が疑われるか、症状(例えば痛み、変形、瘢痕化の増加)が顕著である場合に限って切除されるべきである。

検診腫瘍を最も治療しやすい段階で最も早期に発見するために下記が推奨される。

  • 小児(18歳未満):診断時から年一回の甲状腺超音波検査と身体検査時の皮膚のチェック
  • 成人:年一回の甲状腺超音波検査と皮膚科検査
  • 女性30歳以降:毎月の乳房の自己検診、年一回の乳房スクリーニング(少なくともマンモグラム、MRIも組み合わせると良い)、経膣超音波検査または子宮内膜の生検
  • 男性と女性:同定されたポリポーシスの程度に応じた頻度で35歳から結腸内視鏡検査を始める。40歳で2年に一度の腎臓の画像解析(CTかMRIが望ましい)を始める。
  • 若年齢で特定のタイプのがんの家族歴を有する被験者:家系内で診断を受けた最も若い年齢から5-10歳若い年齢でスクリーニングの受診を始める。

リスクのある親族の検査: 発端者にPTEN病原性変異型 が同定された場合、症状はないがリスクのある親族の分子遺伝学的検査を実施することにより、その家系特異的病原性変異型をもつ親族を同定し、検診を実施する正当な理由を得ることができる。

遺伝カウンセリング 

PHTSは常染色体優性遺伝形式で遺伝する。CSは診断率が低い傾向があるため、孤発性(明らかな家族歴がない患者と定義される)および家族性(家系に2名以上の患者がいると定義される)の実際の割合はわからない。CS症例は大多数が孤発性である。CS患者のおそらく10〜50%に罹患した親がいる。患者の子にはそれぞれ50%の確率で 病原性変異型が遺伝し、PHTSを発症する。家系内でPTEN 病原性変異型が同定されている場合、リスクが高妊娠に対する出生前診断が可能である。


GeneReviewのスコープ

PTEN 過誤腫症候群: 含まれる表現型
  • Cowden症候群(CS)
  • Bannayan-Riley-Ruvalcab症候群 (BRRS)
  • PTEN関連Proteus症候群
  • Proteus様症候群
異名と旧式の名称は 命名規則を参照のこと。


診断

PHTSが疑われる所見

PTEN 過誤腫症候群(PHTS) にはCowden症候群(CS)、Bannayan-Riley-Ruvalcab症候群 (BRRS)、PTEN関連Proteus症候群 (PS)およびProteus様症候群が含まれる。

以下の臨床的特徴を呈する患者では、PTEN 過誤腫症候群(PHTS) を疑うべきである。

Cowden症候群(CS). 3000例を超えるCSまたはCowden様症候群(CSL)の患者の前向き研究で集められたデータに基づき、表現型と診断時の年齢を考慮に入れた採点システム(オンラインで閲覧可能)が開発された。この採点システムにはCS/CSLが疑われる患者の臨床情報の入力が可能で、その結果、PTEN 病原性変異型を事前に発見する確率が算出される。

  • 成人では、臨床閾値スコア≥10でPHTSを考慮して遺伝学の専門家に紹介することが推奨される。
  • 小児では、巨頭症および下記項目のスコア≥1でPHTSが考慮される。
    • 自閉症又は発達遅延
    • 脂肪腫、外毛根鞘腫、口腔乳頭腫または陰茎の色素斑を含む皮膚の特徴
    • 動静脈奇形または血管腫といった血管の特徴
    • 消化管のポリープ

更に、CSに共通の診断基準がNational Comprehensive Cancer Network[NCCN 2015](全文の閲覧には登録が必要)により作成され[Eng 2000]、毎年更新されている。しかし、このセクションで解説されているCS採点システムは、NCCN診断基準より正確であることが示されている[Tanら 2011]。
NCCNのコンセンサス臨床診断基準は、臨床診断基準、大基準、小基準の3群に分類される。

臨床診断基準

  • 成人型Lhermitte-Duclos病(LDD)、小脳異形成神経節細胞腫の存在で定義される[Zhouら 2003a]
  • 粘膜皮膚病変
    • 外毛根鞘腫(顔面)(図1参照)
    • 肢端角化症
    • 良性乳頭腫病変(図2参照)
    • 粘膜病変

fig1

図 1. 外毛根鞘腫

fig2

図 2. 眼の周辺(A)と手の甲(B)の良性乳頭腫の丘疹

大基準

  • 乳がん
  • 甲状腺上皮がん(髄様がん以外)、特に甲状腺濾胞がん
  • 巨頭症 (前後頭囲≥97パーセンタイル)
  • 子宮内膜癌

小基準

  • その他の甲状腺病変(例、腺腫、多結節性甲状腺腫)
  • 精神発達遅滞(IQ ≦ 75)
  • 過誤腫性消化管ポリープ
  • 乳房の線維嚢胞性疾患
  • 脂肪腫
  • 線維腫
  • 泌尿生殖器系腫瘍(特に腎細胞癌)
  • 泌尿生殖器奇形
  • 子宮筋腫

CSの操作的診断は、下記基準の内いずれか一つを満たす場合に行われる:

  • 特徴的な皮膚粘膜病変と、下記の内の一つの組み合わせ:
    • 6つ以上の顔面丘疹で、その内の3つ以上は外毛根鞘腫
    • 顔面の皮膚の丘疹および口腔粘膜の乳頭腫症
    • 口腔粘膜の乳頭腫症および肢端角化症
    • 6つ以上の掌蹠角化症
  • 2つ以上の大基準
  • 大基準1つと3つ以上の小基準
  • 4つ以上の小基準

上記のCSの診断基準に適合する者が家族にいる場合は、下記基準の内いずれか一つを満たす場合に近親者でのCSの診断とみなす。

  • 臨床診断基準
  • 小基準の有無にかかわらず1つ以上の大基準
  • 2つの小基準
  • Bannayan-Riley-Ruvalcab症候群の病歴

Bannayan-Riley-Ruvalcab症候群 (BRRS).  BRRSの診断基準は決まっていないが、大きくは、巨頭症、過誤腫性消化管ポリポーシス、脂肪腫、陰茎亀頭の色素斑の主要な特徴に基づいて診断される[Gorlinら 1992]。

Proteus症候群(PS)は非常に多様であり、モザイク分布(一部の器官/組織のみで現れる)の形で発症すると考えられる。そのため、共通の診断基準が作成されているにもかかわらず、しばしば誤って診断されることがある[Bieseckerら 1999] (P Proteus症候群を参照のこと)。

Proteus様症候群の定義は決まっていないが、PSの臨床的特徴を顕著に示すものの、診断基準を満たさない患者と説明される。

診断の確定

PHTSの診断は、発端者において分子遺伝学検査によるヘテロ接合型の生殖細胞PTEN 病原性変異型の同定によって確立される(表1を参照)。
分子遺伝学検査の手法には単一遺伝子検査多重遺伝子パネル検査の使用やより包括的なゲノム検査が含まれる。

  • 単一遺伝子検査:最初にPTENの配列解析が行われ、病原性変異型が発見されなければ遺伝子を標的とした欠失・重複解析が行われる。欠失・重複解析によっても病原性変異型が発見されなければ、遺伝子発現が低下した変異型のPTENプロモーター領域の配列解析が行われる。

    注:Cowden症候群(CS)とCowden様症候群の患者においては、KLLNプロモータのメチル化解析(鑑別診断、生殖細胞 KLLN エピ変異を参照)、PIK3CA AKT1 [Orloffら 2013]およびSEC23B [Yehiaら 2015]を含むSDHB-D データ解析(鑑別診断、PHTSでないCS患者とCS様患者の新しい感受性遺伝子を参照)も考慮される。

  • PTEN と他の遺伝子を含む多重遺伝子パネル検査も考慮される(鑑別診断を参照)。

    注記:(1)パネルに含まれる遺伝子と各遺伝子に用いられる試験の診断感度は検査施設と時期によって異なる。(2)複数遺伝子パネルには、このGeneReviewでは言及されていない症状に関連する遺伝子が含まれることが有る。従って、医師は、症状の遺伝的原因を同定するために最適な機会を最も適正な価格で提供し得る複数遺伝子パネルを決定する必要がある。(3)パネルで用いられる方法には、配列解析、欠失・重複解析、他の配列に拠らない手法のすべてまたはいずれかが含まれる。

  • PHTSの特徴を示す患者で一連の単一遺伝子検査(およびPTENを含む多重遺伝子パネル検査またはPTENを含む多重遺伝子パネル検査のみ)による診断の確認に失敗した場合は、全エキソン配列解析(WES)または全ゲノム配列解析(WGS)を含む(利用可能な場合は)より包括的なゲノム検査が考慮される。このような検査によって、それまで考慮されていなかった診断が下されるか、または示唆されることが有る(たとえば異なる遺伝子あるいは同様の臨床所見を呈する遺伝子の突然変異)。ゲノム検査結果の解釈に関して考慮すべき問題についてはこちらを参照のこと。

表1. PTEN過誤腫症候群に用いられる分子遺伝学検査

遺伝子1 検査法 各方法で検出される病原性変異型の表現型を有する発端者の割合
CS BRRS PLS PS
PTEN コーディング領域の配列解析2 25%-80% 60% 50%3 20%
欠失/重複解析4 脚注5を参照 11%6 不明 不明
プロモーター領域の配列解析2 10%7 脚注5を参照 不明 不明

CS = Cowden症候群
BRRS = Bannayan-Riley-Ruvalcab症候群
PLS = Proteus様症候群
PS = PTEN関連Proteus症候群

  1. 染色体遺伝子座とタンパク質については 表A. 遺伝子とデータベース を参照のこと。対立遺伝子変異型の情報については 分子遺伝学を参照のこと。
  2. 配列解析では良性、おそらく良性、臨床的意義は不明、おそらく病原生、あるいは病原性の変異型が検出される。病原性変異型には小さな遺伝子内欠失/挿入、ミスセンス、ナンセンス、スプサイス部位変異型が含まれる。通常はエキソンまたは遺伝子全体の欠失・重複は検出されない。配列解析結果の解釈に関して考慮すべき問題についてはこちらを参照のこと。
  3. Proteus様症候群の患者の50%以下、Proteus症候群の臨床診断基準に適合する患者の20%以下はPTEN病原性変異型を有することがデータによって示された[Zhouら 2001Smithら 2002Eng 2003Loffeldら 2006OrloffとEng 2008]。
  4. ゲノムDNAのコーディング領域と隣接するイントロン領域の配列解析では容易に検出できない欠失・重複を同定する検査。定量的PCR、広域PCR、多重ライゲーション依存プローブ増幅(MLPA)、この遺伝子または染色体断片を含む染色体マイクロアレイ(CMA)などの多様な手法が用いられる。
  5. 限定はされているが不明。大きな欠失を有するCS患者が報告されている [ZbukとEng 2007OrloffとEng 2008Tanら 2011]。
  6. PTENをコード化する配列に病原性変異型が見つからないBRRS患者の約10%に、PTEN内またはPTENを全て含む大きな欠失を認める[Zhouら 2003b]。
  7. CS表現型を呈する患者の約10%は、コーディング領域あるいは隣接するイントロン領域に同定可能なPTEN配列の変異型を持たない[Zhouら 2003b].。

臨床的特徴

臨床像

PTEN過誤腫症候群(PHTS)は過誤腫と生殖細胞PTEN病原性変異型を特徴とする。臨床的に、PHTSにはCowden症候群(CS)、Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群(BRRS)、Proteus症候群(PS)およびProteus様症候群が含まれる。

  • CSは甲状腺、乳房、子宮内膜の良性腫瘍および悪性腫瘍のリスクが高い多発性過誤腫症候群である。最近は、腎細胞がんと大腸がんもPHTSに含まれる。
  • BRRSは巨頭症、消化管ポリポーシス、脂肪腫、陰茎亀頭の色素斑を特徴とする先天性疾患である。
  • PSは先天性奇形と複数組織の過剰増殖を含む、複雑で非常に多様な疾患である。
  • Proteus様症候群は定義されていないが、PSの診断基準は満たさないものの、PSの臨床的特徴を顕著に示す患者に対して用いられる。

Cowden症候群(CS).  90%を超えるCS患者では、20代後半までに何らかの臨床所見が認められる[Nelenら 1996Eng 2000]。30歳までに患者の99%は、肢端角化症と足底角化症、粘膜皮膚徴候(主に外毛根鞘腫と乳頭腫様丘疹)を発症する。さらにCowden症候群の患者は通常、巨頭症と長頭症を呈する。

過誤腫性および混在型消化管ポリープはPHTS患者の大半でしばしば認められるが、これは大腸がんのリスクを高めることに寄与する[Healdら 2010]。

事例観察によれば、CSの特徴が存在する場合にグリコーゲンを含む扁平上皮の過形成(glycogenic acanthosis)が認められると、高い確率でPTEN 病原性変異型が発見されるようである[Eng 2003McGarrityら 2003]。

腫瘍のリスク. CS患者は乳がん、甲状腺がん、子宮内膜癌のリスクが高い。他の遺伝性がん症候群と同様に、多発性および両側性(乳房などの対になった臓器)がんのリスクが上昇する。

  • 乳房の疾患
    • Cowden症候群の女性は、良性の乳房疾患が67%と高いリスクを有する。
    • PTEN病原性変異型の発端者とその家族の前向き研究で集められ追跡されたデータの解析によると、女性における乳がんの生涯リスクは85%で、50歳までの浸透度は50%であった[Tanら 2012]。
    • PTEN 病原性変異型を有する男性における乳がんも報告されているが[Fackenthalら 2001]、3000例を超える発端者を含む研究では観察されていない[Tanら 2011]。
  • 甲状腺の疾患
    • 腺腫性甲状腺腫と濾胞性腺腫のみならず、良性の多結節性甲状腺腫が多く認められ、CS患者の最大で75%に発症する[Harachら 1999]。
    • 甲状腺の扁平上皮がんの障害リスクは約35%である[Tanら 2012]。発症の中央年齢値は37歳であり、診断時の最少年齢は7歳であった[Ngeowら 2011]。注記:(1)一般の集団では乳頭種の組織学所見が多く認められるが、成人では濾胞性腫の組織学所見が多く観察される。(2)分子学的にCSが確認されたコホートでは甲状腺髄様がんは観察されていない。
  • 子宮内膜の疾患
    • 良性の子宮筋腫が多く認められる。
    • 子宮内膜がんの生涯リスクは28%と推定され、リスク開始年齢は30代後半から40代初期である[Tanら 2012]。
  • 胃腸の新生物
    • 上部または下部消化管の内視鏡検査を少なくとも一度受けた90%を超えるPTEN 病原性変異型の保有者に、ポリープが発見された[Healdら 2010]。組織学所見は神経節神経腫性ポリープから過誤腫性ポリープ、若年性ポリープまたは腺腫性ポリープと様々であった。
    • 大腸がんの生涯リスクは9%と推定され、リスク開始年齢は30代後半である[Tanら 2012]。
  • 腎細胞がん
    • 腎細胞がんの生涯リスクは35%と推定され、リスク開始年齢は40代である[Tanら 2012]。主な組織学所見は乳頭状腎細胞がんである[Mesterら 2012]。
  • 他の疾患
    • 皮膚黒色腫の生涯リスクは5%を超えると推定される。
    • 脳腫瘍および何らかの臓器を冒す血管奇形はCS患者に時折認められる。注記:黒色腫は一般集団においても多くみられるため、黒色腫が実際にCSの異常であるかは不明である。
    • 稀な中枢神経系の腫瘍である小脳異形成神経節細胞腫(Lhermitte-Duclos病)もCSに認められ、これはおそらく特徴的な症状であると考えられる。

Bannayan-Riley-Ruvalcab症候群 (BRRS). BRRSの一般的な特徴には上記に加えて、高出生体重、発達遅延、精神発達遅滞(患者の50%)、近位筋における筋障害 (60%)、関節の過伸展、漏斗胸、脊柱側弯症(50%)が含まれる[ZbukとEng 2007]。

BRRSとPTEN病原性変異型を有する患者はCS患者と同じがんリスクを有すると考えられている。注記:このリスクがPTEN病原性変異型をもたないBRRS患者にも当てはまる否かは明らかでない。

BRRSにおける過誤腫性消化管ポリープ(患者の45%に見られる)は時に腸重積症を伴うが、直腸の出血および「血清」の滲出がより一般的に認められる。このポリープは大腸がんのリスクを上昇させるとは考えられていない。PHTS過誤腫性ポリープはPeutz-Jeghers症候群で認められるポリープとは組織形態学的に異なる。

PTEN関連Proteus症候群 (PS) は全ての胚葉に由来する多様な組織における進行性の分節的あるいはパッチ状の過剰増殖を特徴とし、骨格、皮膚、脂肪および中枢神経系を冒すことが最も多い。Proteus症候群の患者のほとんどは出生時には奇形は無いかあるいは最小限であり、幼児期に発症して急激に進行し、小児期を通して絶え間なく進行して、重篤な過度の発育と外観の変形を引き起こす。これには広範な腫瘍と肺の合併症を伴い、深部静脈血栓症と肺塞栓症の素因ともなる。詳細はProteus症候群を参照のこと。

Proteus様症候群は定義づけられていないが、PSの診断基準は満たさないがPSの臨床的特徴を顕著に示す患者に対して用いられる。

遺伝型と臨床型の関連

PTEN の遺伝子型と表現型の解析を目的として、血縁関係のないCSの発端者37例がInternational Cowden Consortiumで提唱された操作的診断基準の1995年版を用いて確認された[Nelenら 1996, Eng 2000]。連関解析により、生殖細胞のPTEN病原性変異型をもつCS家系では、PTEN 病原性変異型をもたない家系に比べて乳房の悪性疾患を発症する傾向が高いことがわかった[Marshら 1998]。さらに、病原性ミスセンス変異や、5'末端からフォスファターゼのコア配列までの変異やフォスファターゼのコア配列内の変異は、5つ以上の臓器の合併症と関連することがわかっており、これは疾患の重篤度を示す代替表現型(surrogate phenotype)であった[Marshら 1998]。

CSとBRRSを重複して有する家系のうち90%を超える家系で、生殖細胞 PTEN 病原性変異型が認められた。BRRSとCSの突然変異のスペクトルが重なっていることが示されており、これはCSとBRRSが対立遺伝子の異常であることを正式に証明するものである[Marshら 1999]。BRRSについて、家系内で一人に発症する場合と、複数に発症する場合とで、遺伝子変異の頻度に差はなかった。

片側肥大症、巨頭症、脂肪腫、結合組織母斑、多発性動静脈奇形を示すProteus様症候群の孤発例(明らかな家族歴がないもの)の患者1例において、生殖細胞にp.Arg335TerのPTEN病原性変異型と、3つの異なる組織に同じ体細胞病原性変異型(p.Arg130Ter)が見つかり、これはおそらく生殖細胞モザイク現象と思われる[Zhouら 2000]。これらの病原性変異型はいずれも古典的CSとBRRSにおいてすでに記述されている。

Proteus症候群患者9例中2例とProteus様症候群患者の6例中3例で、生殖細胞 PTEN 病原性変異型が見つかった[Zhouら 2001]。それ以来、Proteus症候群とProteus様症候群の臨床診断基準に適合する患者において、生殖細胞 PTEN 病原性変異型の孤発例が複数報告されている[Smithら 2002Loffeldら 2006]。

浸透率 

CS患者の90%を超える患者では、20代後半までに疾患の何らかの臨床所見が認められる[Nelenら 1996Eng 2000ZbukとEng 2007]。30歳までに患者の99%で、外毛根鞘腫と乳頭腫様丘疹を主とし、肢端角化症と足底角化症を含む粘膜皮膚徴候が現れる。(特定の徴候が顕現化する年齢については臨床記述を参照のこと)

病名

Cowden症候群、Cowden病および多発性過誤腫症候群は同義的に使用されてきている。

Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群、Bannayan-Ruvalcaba-Riley症候群、Bannayan-Zonana症候群およびMyhre-Riley-Smith症候群は、著者らがBRRSと呼ぶ類似した一連の徴候を示すものを称する。PTEN病原性変異型が検出された場合には、遺伝子に関連した名称であるPHTSが使用されるべきである。

Zhouら[2000] によって最初に発表された臨床症状および生殖細胞 PTEN 病原性変異型を示すProteus様症候群の一つの形態は、SOLAMEN (segmental overgrowth, adipomatosis, arteriovenous malformation and epidermal nevus)症候群と命名された[Cauxら 2007]。臨床的マネジメントに対して意味するところを鑑みて、PTEN 病原性変異型に関連するいかなる表現型もPHTSと称されるべきであるので、特に分子の時代においては、SOLAMEN症候群は有用な名称ではない[ZbukとEng 2007OrloffとEng 2008]。

頻度 

CSの診断を確立するのは難しいため、実際の有病率は不明である。頻度は20万分の1と推定されているが[Nelenら 1999]、おそらくは過小評価されているだろう。CSおよびBRRSは多様であり、しばしば外的所見はわずかであるため、患者の多くは診断に至っていない[ZbukとEng 2007; Eng, 未発表]。


遺伝学的に関連する疾患

Cowden症候群、Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群、PTEN関連Proteus症候群、Proteus様症候群以外の疾患で、PTEN遺伝子の病原性変異型が常に原因となることが知られている疾患はない。
PTEN 生殖細胞病原性変異型に関連している可能性のある表現型:

  • Lhermitte-Duclos病(LDD). たとえCSおよびBRRSの臨床徴候が認められない場合でも、全てでないとすればほとんどの成人発症性のLhermitte-Duclos病(小脳異形成神経節細胞腫、CSの特徴であることが知られている過誤腫性過剰増殖)は、PTENの病原性変異型に起因する可能性がある。しかし、生殖細胞 PTEN病原性変異型が小児発症のLDD患者で認められることは稀である[Zhouら 2003a]。
  • 自閉症または広汎性発達障害および巨頭症. 生殖細胞PTEN 病原性変異型が、これらの所見を認める患者、特にCSまたはBRRSと合致するその他の病歴や家族歴を示す患者において同定された[Dasoukiら 2001Goffinら 2001]。Butlerら [2005] は自閉症スペクトラム障害と巨頭症患者の約20%に生殖細胞系列の生殖細胞 PTEN 病原性変異型を認めた。巨頭症を伴う自閉症スペクトラム障害における生殖細胞 PTEN 病原性変異型の頻度は、複数の独立したグループにより、10〜20%であることが確認された[Hermanら 2007aHermanら 2007bOrricoら 2009Vargaら 2009]。
  • 乳幼児の若年性ポリポーシス(JPI). 生殖細胞のBMPR1AとPTENの欠失に起因するこの稀な状態では、若年性ポリポーシスは6歳までに診断される[Delnatteら 2006]。しばしば重篤な出血、下痢、蛋白漏出性腸症の消化器症状が認められる。外的な徴候はBRRSと似ていることがある。

鑑別診断

表 2. PTEN 過誤腫症候群の鑑別診断において検討すべき疾患

疾患 遺伝子(群) MOI 臨床的特徴
重複 全般
検討すべき主要な鑑別診断: JPSとPJSを含む他の過誤腫症候群
JPS BMPR1A
SMAD4
AD 胃腸の過誤腫性ポリープ1 JPSは消化管の過誤腫性ポリープの性質を特徴とする。ほとんどのJPS患者は20歳までに複数のポリープを経験する。生涯に渡って4〜5個しかポリープができない患者もいれば、同じ家系で100を超える患者もいる。ポリープを未治療で放置した場合、出血や貧血が起こることがある。若年性ポリープの大半は良性であるが、がん化する可能性もある。
PJS STK11 AD 胃腸の過誤腫性ポリープ2 PJSは消化管ポリポーシス、粘膜皮膚の色素沈着とがんの性質を特徴とする。口周囲部の色素沈着は、特にこれが唇紅部を横切る場合には、臨床診断基準となる。指の過剰な色素斑も一般的に認められる。
数は少ないが検討すべき鑑別診断
BHD FLCN AD 軟性線維腫、線維腫とtrichiepitheliomaを含む皮膚兆候 (外毛根鞘腫と間違われることもある) BHDは皮膚所見3、 肺嚢胞・気胸の既往と様々なタイプの腎腫瘍4を特徴とする。肺嚢胞はほとんどが両側性で多発性である。患者の大多数は無症状であるが、自然気胸のリスクが高い。
NF1 NF1 AD カフェオレ斑と皮膚の線維腫5 消化管に神経節細胞腫が存在するため、CSおよびBRRS患者がNF1と誤って診断されることがある。
母斑性基底細胞癌(Gorlin)症候群 PTCH1
SUFU
AD 胃の過誤腫性ポリープ Gorlin症候群は、複数の顎の角化嚢胞や基底細胞がんを特徴とする。患者は他の腫瘍や線維腫、胃の過誤腫性ポリープや髄芽腫を含むがんを発症することもある。CSとGorlin症候群における皮膚所見や発達の特徴は大きく異なる。
AKT1関連Proteus症候群 AKT1 脚注6を参照 Proteus症候群は「PTEN経路に関する症状」(PTEN-pathway-opathy)7
、巨頭症、過成長
Proteus症候群 (PS) は全ての胚葉に由来する多様な組織の進行性分節的あるいはパッチ状の過剰増殖を特徴とする。Proteus症候群の患者のほとんどは出生時には奇形は無いかあるいは最低限であり、幼児期に発症して急激に進行し、小児期を通して絶え間なく進行して重篤な過度の発育と外観の変形を引き起こす。これには広範な腫瘍と肺の合併症を伴い、深部静脈血栓症と肺塞栓症の素因ともなる。

MOI = 遺伝様式
AD = 常染色体優性
AR = 常染色体劣性
XL = X染色体に連鎖
JPS = 若年性ポリポーシス症候群:「若年」の語はポリープの発症年齢ではなくポリープのタイプを意味する。
GI = 胃腸
PJS = Peutz-Jeghers症候群
BHD = Birt-Hogg-Dubé症候群
NF1 = 神経線維腫症1型

  1. 若年性ポリープは過誤腫であり、上皮は正常で、固有層に豊富な間質、炎症性浸潤、粘液で満たされた拡張した嚢胞状腺管を認める(若年性ポリポーシス症候群を参照のこと)。
  2. Peutz-Jeghersのポリープは外見が特徴的であり、CSやJPSで見られる過誤腫性ポリープと大きく異なる。臨床的にPeutz-Jeghersのポリープはしばしば症状(腸重積症、直腸出血)を呈すが、CSのポリープで症状を呈すことは稀である。(Peutz-Jeghers症候群症候群を参照のこと)。
  3. BHDに特徴的な皮膚所見: 線維毛包腫、毛盤腫・血管線維腫、毛包周囲の線維種と軟性線維腫。皮膚病変は通常20代や30代に現れ、年を経るごとに大きくなり、数も増えていく(Birt-Hogg-Dubé症候群を参照のこと)。
  4. BHDS患者は、両側性かつ多発性でゆっくりと進行する腎腫瘍を発症するリスクが高い。
  5. NF1とCS・BRRSの両方で認められる特徴は、カフェオレ斑と皮膚の線維腫の二つのみである(神経線維腫症1を参照のこと)。
  6. (GeneReviewProteus症候群の著者らにとって既知の)臨床的に診断が確定されたProteus症候群の患者は全て、特異的なde novo AKT1 病原性変異型 c.49G>A (p.Glu17Lys)の体細胞モザイク現象に起因する孤発性の症例である。
  7. PTENはリン酸化を低減させてAKT1を下方制御するので、Proteus症候群で活性化されたAKT1 病原性変異型が発見されたことは、Proteus症候群が「PTEN経路に関する症状」(PTEN-pathway-opathy)であることを確認するものである。

生殖細胞KLLNエピ変異

Bennettら [2010] は、PTENの生殖細胞病原性変異型を持たないCowden症候群(CS) (OMIM)とCowden様症候群の患者の約30%は、生殖細胞KLLNのメチル化にエピ変異を有することを示し、これはPTENではなくKLLMの発現の下方制御を招く。注目されるのは、KLLNPTENと双方向性プロモーターを共有していることである。パイロットデータでは、生殖細胞KLLNエピ変異を有するCSまたCowden様症候群患者は、生殖細胞 PTEN 病原性変異型を有する患者に比べて、乳がんと腎細胞がんの有病率が高いことが示唆された。従って、生殖細胞 PTEN 病原性変異型は5−10%を占めるに過ぎないことに対して、KLLNエピ変異は30%を占めることから、Cowden様症候群患者(特に乳がんや腎細胞がんを発症している、あるいはこれらの家族歴のある患者)にはまずKLLNメチル化解析が勧められるべきである。

PHTSでないCS患者とCS様患者の新しい感受性遺伝子

あるパイロット研究で、生殖細胞 PTEN 病原性変異型をもたないが、マンガンスーパーオキシドジスムターゼの数値が高いCowden症候群(CS)患者とCowden様症候群(CSL)患者は、SDHB(OMIM)とSDHD(OMIM)に生殖細胞系列変異型を持つことがわかった[Niら 2008]。PTEN 病原性変異型を持たないCS またはCSLの患者の約10%にSDHB、SDHCとSDHD の生殖細胞系列変異型が生じることは、608例の被験者を対象とした独立した研究において妥当性が確認された[Niら 2012]。これらの変異型は、HIF1aの安定化、NQ01相互作用の低下に続くp53の不安定化、および活性酸素種の増加とこれに続くアポトーシス耐性に関与している。PTENまたはSDHx に生殖細胞病原性変異型 を持たないCSおよびCSL患者の約10%は、PIK3CA (PIK3CA関連分節的過成長を参照)またはAKT1に生殖細胞病原性変異型を有する[Orloffら 2013]。上記の既知遺伝子に病原性変異型を持たない別のCSおよびCSL患者の3%-6%は、甲状腺の癌腫に部分的に関連した生殖細胞のヘテロ接合型 SEC23B 病原性変異型を有する[Yehiaら 2015]。

臨床的マネジメント

最初の診断後の評価項目

PTEN過誤腫症候群(PHTS)と診断された患者のニーズと疾患の範囲とを確定するためには、以下の評価が推奨される。

  • 完全な病歴と家族歴
  • 皮膚、粘膜、甲状腺、乳房に特に注意を払った健康診断
  • 小児:神経発達評価の検討
  • 集細胞遠心装置Cytospinを用いた尿検査
  • 甲状腺の超音波によるベースライン検査* (PTEN 病原性変異型が同定された場合)
  • 診断時年齢が30歳以上の女性*:
    • 乳房スクリーニング(少なくともマンモグラム、MRIも組み合わせると良い)
    • 経膣超音波検査または子宮内膜の生検
  • 診断時年齢が35歳以上の男性と女性*:結腸内視鏡検査
  • 診断時年齢が40歳以上の男性と女性*:腎臓の画像解析(CTかMRIが望ましい)
  • 臨床遺伝学者や遺伝子カウンセラーとの相談

*若年時に特定のタイプのがんの家族歴がある患者は、家系で診断された最も若い年齢より5−10歳若い年齢でのスクリーニングが考慮される。

症状に対する治療

Cowden症候群の粘膜病変が生命にかかわることは稀である。

  • 非症候性の場合は経過観察のみが賢明である。
  • 皮膚病変は、悪性が疑われるか、症状(例えば痛み、変形、瘢痕化の増加)が顕著である場合に限って切除されるべきである。

症状が存在する場合は、局所薬(例えば5-フルオロウラシル)、掻爬術、凍結外科手術またはレーザー切断によって、一時的に緩和できる可能性がある[Hildenbrandら 2001]。外科的切除は、ケロイドの形成や病変の再発(しばしば急速に起こる)により複雑化することがある[Eng, 未発表データ]。

PHTSの良性病変および悪性病変の治療は孤発性の場合と同様である。

一次病変に対する予防

乳がんのリスクの高い女性は、特に乳房組織が高密度であったり、乳房の生検を複数回必要とする場合には、予防的乳房切除を検討する。高リスクの女性では、予防的乳房切除によって乳がんのリスクが90%軽減される[Hartmannら 1999]。注記:予防的乳房切除の推奨は、PHTSのみならず様々な原因により乳がんのリスクが上昇した女性に対して一般的に適用される。

PHTS患者の乳がんの発症リスクを低減させる目的でタモキシフェンやラロキシフェンなどの薬剤の日常使用を支持する直接的な証拠は存在しない。医師は証拠の限界と化学療法のリスクとベネフィットについて、それぞれの患者と話す必要がある。さらに、既に子宮内膜がんのリスクが高い患者がタモキシフェンを使用した場合に子宮内膜がんのリスクが上昇することについても話さなければならない。

サーベイランス

PHTSの最も深刻な影響は、乳がん、甲状腺がん、子宮内膜がん、そして程度は少ないが腎臓がんなどのリスクが高まることである。この点に関して、PTEN病原性変異型を有する全ての患者において最も重要な臨床的マネジメントは、最も早期に、最も治療しやすいステージで腫瘍を検出するために、がん検診を強化することである。現時点で年齢ごとに推奨されるスクリーニングを以下に示す。

Cowden症候群

小児 (18歳未満)

  • 年1回の甲状腺の超音波検査** (PTEN 病原性変異型が同定された場合)
  • 身体検査を伴う年1回の皮膚科検査

成人

  • 年1回の甲状腺の超音波検査**と皮膚の評価
  • 女性は30歳以降
    • 月1回の乳房自己検診**
    • 年1回の乳房スクリーニング(少なくともマンモグラム):MRI と組み合わせても良い**
    • 年1回の経膣超音波検査または子宮内膜の生検**
  • 男性と女性
    • 35歳以降に始める結腸内視鏡検査**: 頻度は同定されたポリポーシスの程度による
    • 40歳以降に始める2年に一度の腎臓の画像解析(CTかMRIが望ましい)

**若年齢で特定のタイプのがんの家族歴を有する被験者では、家系内で診断を受けた最も若い年齢から5-10歳若い年齢でスクリーニングの受診を始める。例えば、母親が30歳で乳がんを発症した女性は、乳房検査を25-30歳で始めることが勧められる。

注記:NCCNガイドラインでは2007年以降(PHTS専門家からの意見を考慮せず) 子宮内膜検査が除かれているが、子宮内膜がんの家族歴がある場合には、詳細な子宮内膜がんに対する最小限の検査の確保は賢明な措置であろう。

Bannayan-Riley-Ruvalcab症候群

BRRSについて推奨される検診は確立されていない。しかし最近の分子疫学的研究によると、生殖細胞PTEN病原性変異型を有するBRRS患者はCS患者と同じ検診を受けるべきである。
BRRS患者は過誤腫性消化管ポリポーシスに関連する合併症についても観察されるべきである。これはCS患者の場合よりも重篤となる可能性がある。

Proteus症候群・Proteus様症候群

Proteus症候群とProteus様症候群の臨床診断基準に適合する患者のごく一部で、生殖細胞 PTEN 病原性変異型が観察されるのは比較的最近の出来事であるが、医師は生殖細胞 PTEN 病原性変異型を有するこれらの疾患の患者に、CSで推奨される検診を行うことを検討すべきである。

避けるべき化学物質および環境

急速な組織の再増殖やケロイド組織の形成が起こる傾向があるため、粘膜皮膚病変の切除は悪性が疑われる場合や症状(例、痛み、変形)が顕著な場合にのみ実施することが推奨される。

リスクのある親族の評価

PTEN病原性変異型が発端者に同定された場合、リスクのある無症状の親族を検査することにより家系特異的な病原性変異型、すなわちPHTSを有する患者を同定できる。これらの患者は初期評価と検診を受ける必要がある。

BRRSとProteus症候群は若年で発症する可能性があるため、18歳未満のリスクのある親族に対して分子遺伝学的検査が適している。PHTS患者で報告されている乳がんの最少年齢は17歳、甲状腺がんは9歳未満である。
患者に同定されたPTEN 病原性変異型を受け継いでいない親族に、PHTSやそれに関連するがんリスクは認められない。
遺伝カウンセリングを目的としたリスクのある親族の検査に関わる問題は、遺伝カウンセリングの項を参照のこと。

現在研究中の治療

mTOR阻害薬が生殖細胞 PTEN 病原性変異型をもつ患者における悪性腫瘍の治療の見込みを示してはいるものの、その使用は臨床試験に限定すべきである。最近、特にPHTSに対して行われた臨床試験が1件終了した。このGeneReview更新時点ではその結果は公表されていない。

生殖細胞 PTEN 病原性変異型および自閉症スペクトラム障害を有する小児、青少年、および若年成人を対象としたmTOR阻害薬の治験が間もなく開始される。

多岐にわたる疾患や症状の治験に関する情報へのアクセスは、ClinicalTrials.govを参照のこと。

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

PTEN過誤腫症候群(PHTS)は常染色体優性遺伝形式で遺伝する。

患者家族のリスク

発端者の両親

  • Cowden症候群(CS). CSは過小診断されやすいため、孤発例(明らかな家族歴がない患者と定義)と家族例(血のつながりのある二人以上の患者がいると定義)の実際の割合は決定できない。大きく見積もって、おそらく55%-90%のCS患者の一方の親が罹患している[Marshら 1999Mesterら 2012]。しかし、実際的経験に基づく家族歴はおよそ50%近くと推定される。
  • Bannayan-Riley-Ruvalcab症候群 (BRRS). ほとんどの証拠で、BRRSの孤発例と家族例の両方でPTEN病原性変異型が起こっていることが示唆される[Eng 2003ZbukとEng 2007]。
  • PTEN関連Proteus症候群とProteus様症候群. ほぼすべての患者が孤発例である。
  • PTEN病原性変異型が発端者に同定された場合、両親に分子遺伝学的検査を提供し、いずれかの親がこれまでに同定されていなかったPHTSを有する可能性を確認する。
  • PHTSと診断された患者の親が罹患している場合でも、家族が病気を認識していなかったり、発症前に親が死亡していたり、親の発症が遅かったりするために家族歴がないと思われることがある。

発端者の同胞 

発端者の同胞のリスクは両親の遺伝学的状況に依存している。

  • 発端者の親がPTEN病原性変異型を有する場合、兄弟姉妹に変異型が遺伝するリスクは50%である。
  • 発端者で検出されるPTEN 病原性変異型がいずれの親にも認められない場合、生殖細胞モザイク現象はPHTSではごく稀にしか報告されていないため、兄弟姉妹のリスクはおそらく無視できるほど小さい[Pritchardら 2013]。
  • 両親の遺伝的状態が不明でありながら30歳代でCSまたはBRRSの徴候を示さない場合、両親のいずれかがヘテロ接合型PTEN 病原性変異型を有する確率は低く、従って兄弟姉妹のリスクも最小限である(PTEN 病原性変異型を有する個人における30歳までのPHTSの浸透率は99%近い)。

発端者の子

  • PHTS患者の子はそれぞれ50%の確率で病原性変異型を受け継ぎ、PHTSを発症する。

発端者の他の家族

  • 他の親族のリスクは発端者の両親の遺伝学的状況に依存する。一方の親がPTEN 病原性変異型を有する場合、その家系の親族にはリスクがある。

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断と治療を目的とした、リスクのある親族の検査に関する情報は、臨床的マネジメント、発症の可能性がある親族に対する評価の項を参照のこと。

リスクのある親族の検査. 発端者に病原性変異型が同定されている場合、リスクはあるが症状のない親族を検査することで、病原性変異型がありPHTSである親族を同定することができる。これらの親族は、初期評価と継続的な検診を受ける必要がある。BRRSとProteus症候群は若年で発症する可能性があるため、18歳未満のリスクのある親族には分子遺伝学的検査が適している。

明らかに新生病原性変異型と思われる変異を認める家系. 常染色体優性疾患の発端者の両親のいずれにも発端者で同定された病原性変異型や疾患の臨床的証拠を認めない場合、発端者の病原性変異型は新生突然変異である可能性が高い。しかし親が異なる場合(例、生殖補助医療を利用した出産)や開示されていない養子縁組など、非医学的な理由も考慮すべきである。

がん発症リスク評価とカウンセリング. 分子遺伝学的検査を用いる場合や用いない場合の、がん発症リスク評価によるリスクのある個人の同定に関する医学的、心理学的、倫理的な様々な問題の包括的な説明は、「がんの遺伝的リスク評価とカウンセリング―医療従事者用」 (Cancer Genetics Risk Assessment and Counseling – for health professionals) (国立がん研究所のPDQ®の一部)を参照のこと。

家族計画.

  • 遺伝的リスクを決定し、出生前診断の利用を検討するための最適な時期は妊娠前である。
  • 罹患した、または罹患のリスクがある若年成人に対して遺伝カウンセリング(子供の潜在的リスクと妊娠の選択肢の検討を含む)を提供することは適切である。

DNAバンキング は将来の利用に備えてDNA(通常、白血球から抽出)を保管する。検査法や遺伝子、変異、疾患に関する理解は将来進歩すると思われるため、特に現在利用可能な検査の感度が100%でない場合に、患者のDNAの保管について考慮すべきである。

出生前診断と着床前診断

患者にPTEN 病原性変異型が同定されたなら、PHTSのリスクの上昇に関して出生前診断と着床前診断を受けることも可能な選択肢である。

訳注:日本ではPTEN過誤腫症候群における着床前診断および出生前診断は行われていない)


リソース

GeneReviewsのスタッフは、患者とその家族の便宜を図るため、以下の疾患特異的、包括的な支援機関、レジストリーを選択した。GeneReviewsは他の組織が提供する情報に関して責任を負わない。選択の基準についてはこちらを参照のこと。

  • My46 Trait Profile 
  • National Library of Medicine Genetics Home Reference 
  • PTEN Hamartoma Tumor Syndrome Foundation PTEN Hamartoma Tumor Syndrome FoundationはPTEN症候群について教育し、患者に経済的援助を提供し、研究を支援し認識を促進することを使命として設立された。
  • American Cancer Society (ACS) 
  • CancerCare 
  • National Breast Cancer Coalition (NBCC) 乳がん患者及び生存者に便宜を図るべく公共政策の変革を求める権利擁護団体 
  • National Coalition for Cancer Survivorship (NCCS) 全てのがん患者の利益を擁護する消費者団体
  • Susan G. Komen Breast Cancer Foundation 情報と治療センターへの照会。最近診断された女性からの質問への回答。適切な医療サービスや支援の無い女性のための研究プログラムへの資金援助。
  • Prospective Registry of MultiPlex Testing (PROMPT) PROMPTは、多重遺伝子検査(multiplex genetic testing)を受診してがんのリスクを向上させる遺伝的変異が発見された患者と家族のためのオンラインの研究レジストリーである。

分子遺伝学

Table A.

PTEN過誤腫症候群: 遺伝子およびデータベース

遺伝子 染色体遺伝子座 タンパク質 遺伝子座特異的データベース HGMD
PTEN 10q23?.31 ホスホイノシチド-3,4,5- 三リン酸3ホスファターゼおよび二重特異性タンパク質ホスファターゼ PTEN PTEN データベース PTEN

データは以下の標準的参照資料をもとに作成した。遺伝子はHGNC、染色体遺伝子座、遺伝子座の名称、遺伝子変異に密接に関連した領域、相補群はOMIM、タンパク質はUniProtを参照した。リンクが提供されたデータベース(遺伝子座特異的データベース、 HGMD)の記述についてはこちらを参照のこと。

Table B.

PTEN 過誤腫症候群 (全ての情報はOMIMを参照のこと)

153480 BANNAYAN-RILEY-RUVALCAB症候群; BRRS
158350 COWDEN症候群1; CWS1
601728 ホスファターゼとテンシンTENSIN同族体; PTEN

分子遺伝学的病因

多くの機能研究がなされてきているものの、PTENの完全な機能は未だ十分には理解されていない。PTENは、チロシン、セリンおよびスレオニンからリン酸基を除去する二重特異性ホスファターゼと呼ばれるホスファターゼのサブクラスに属する。また、PTENはホスホイノシチド-3,4,5- 三リン酸の主要なホスファターゼであり、PI3K/AKT経路を下方制御する。

in vitroおよびヒトの免疫組織学的データによって、PTENが核の内外を行き来することが示唆されている[Ginn-PeaseとEng 2003Chungら 2005Minaguchiら 2006]。核の内部に存在するときは、PTENは専らタンパク質ホスファターゼとMAPK経路に信号を送って細胞周期停止を引き起こす[ChungとEng 2005]。核におけるPTENの機能の一つはゲノムを安定化させることである[Shenら 2007]。細胞質内に存在するときは、その脂質ホスファターゼがAKT経路に信号を送ってアポトーシスを引き起こす。

子宮類内膜腺がんと内膜前がん病変の両方で、体細胞のPTEN変異型と遺伝子発現の喪失が頻繁に認められ、内膜組織内でPTENが重要な役割を果たすことが確認された[Mutterら 2000]。

遺伝子の構造. PTENは9個のエキソンから成り、ゲノム上に120kbを越えて広がっているようである。1209-bpのコーディング配列は403のアミノ酸から成るタンパク質をコード化すると予想されている。遺伝子とタンパク質の情報の詳細な概説については表Aの遺伝子を参照のこと。

病原性変異. (エキソン9を除く)PTENの全長にわたって生殖細胞の病原性変異が発見されており、これらにはミスセンス、ナンセンス、スプライシング部位の変異、小欠失、挿入および大欠失が含まれる。ヒトゲノム突然変異データベース(Human Gene Mutation Database)には現在150を超える独特な病原性変異が登録されている(表Aを参照のこと)。病原性変異の40%近くは、リン酸コアモチーフをコード化するエキソン5で見出される[Eng 2003]。ほとんどの病原性変異はユニークであるが、特に表3に記載されるように頻発する病原性変異も多く報告されている。

表3 選択されたPTENの頻発する病原性変異

DNAヌクレオチドの変化 予測されるタンパク質の変化 参照配列
c.388C>T1 p.Arg130Ter NM_000314?.4
NP_000305?.3
c.697C>T1 p.Arg233Ter
c.1003C>T1 p.Arg335Ter

変異の分類に関する注記:表に記載された変異は著者らによって提供された。GeneReviews のスタッフは変異の分類を独立して検証していない。

命名に関する注記:GeneReviews はHuman Genome Variation Society (www.hgvs.org)の標準的な命名規則に従う。命名の説明に関してはクイック・リファレンスを参照のこと。

  1. 頻発する病原性変異[BonneauとLongy 2000ZbukとEng 2007OrloffとEng 2008]

PTENのコーディング配列に病原性変異型が検出されないCS患者の約10%は、PTENのプロモーター内にヘテロ接合型生殖細胞病原性変異型を有する[Zhouら 2003b]。対照的に、配列解析で同定可能なPTENの病原性変異型が検出されないBRRS患者の約10%は、PTEN内部またはその全長にわたる欠失を有する[Zhouら 2003b]。

正常な遺伝子産物. PTENはほぼ遍在的に発現される二重特異性ホスファターゼをコード化する。PTENタンパク質は核と細胞質の特異的な構成要素に局在する。野生型のタンパク質は、PI3K/Akt経路を下方制御してG1期の細胞周期停止やアポトーシスを引き起こす主要な脂質ホスファターゼである。更に、タンパク質ホスファターゼは、複数の細胞サイクリンの下方制御に加えて、細胞の遊走や拡散の阻害においても重要な役割を果たしているようである[Eng 2003]。核のPTENは細胞周期停止を媒介し、細胞質のPTENはアポトーシスに必要とされると考えられる[ChungとEng 2005]。

異常な遺伝子産物.  PTENの生殖細胞病原性変異型の大半(76%)はタンパク質をコード化しない(ハプロ不全)か、短縮タンパク質または機能不全のタンパク質であると予測される。多くのミスセンス変異型は機能を持たず、優性阻害(ドミナント・ネガティブ)として機能するものもいくつか存在する[Wengら 2001aWengら 2001b]。PTENが不在、低下又は機能不全の場合には、AKT1のリン酸化が阻害されず、細胞周期停止を活性化したり、アポトーシスを起こす能力が失なわれる。更に、タンパク質ホスファターゼ活性を欠くので、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)経路の調節に障害が生じ、異常な細胞の生存に繋がる[Eng 2003]。


更新履歴

  1. Gene Review著者:Charis Eng, MD PhD
    日本語訳者:中川奈保子,小杉眞司(京都大学大学院医療倫理学)
    Gene Review 最終更新日: 2009.5.5. 日本語訳最終更新日:2011.5.22.

  2. Gene Review著者:Charis Eng, MD PhD
    日本語訳者:櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)
    Gene Reviews 最終更新日: 2016.6.2. 日本語訳最終更新日:2017.2.16.in present)

原文 PTEN Hamartoma Tumor Syndrome

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