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BRCA1およびBRCA2関連遺伝性乳癌卵巣癌
(BRCA1- and BRCA2-Associated Hereditary Breast and Ovarian Cancer)

[Synonyms: HBOC]

Gene Reviews著者: Nancie Petrucelli, MS, Mary B Daly, MD, PhD, and Tuya Pal, MD.
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)               

Gene Reviews 最終更新日: 2016.12.15.日本語訳最終更新日: 2016.12.25.(minor revision ;2017.2.20)

原文 BRCA1- and BRCA2-Assohciated Hereditary Breast and Ovarian Cance20


要約

疾患の特徴 

BRCA1遺伝子およびBRCA2遺伝子に関連した遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer syndrome, HBOC)の特徴は女性乳癌や男性乳癌,卵巣癌(卵管癌や原発性腹膜癌も含む)のリスクが高いことである.また,これよりもリスクは低いが,前立腺癌,膵癌,主にBRCA2遺伝子に病原性変異を有する患者での黒色腫のリスクも上昇する.正確な癌リスクは,遺伝性乳癌卵巣癌の原因が BRCA1遺伝子,もしくはBRCA2遺伝子のどちらの病原性変異であるかによって若干異なる.

診断・検査 

BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子に関連した遺伝性乳癌 卵巣癌の診断は,分子遺伝学的検査で発端者の BRCA1遺伝子,もしくはBRCA2遺伝子にヘテロ接合型の生殖細胞系 列病原性変異が同定されることによって確定する.

臨床的マネジメント 

症状の治療 NCCN (National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインによれば,BRCA1/2遺伝子の病原性変異をもつ女性での同側・対側乳癌の発症率が高いため,乳癌の主要な外科的治療として両側乳房切除を検討するとよいとしている.卵巣癌や他の癌への治療は,BRCA1/2遺伝子に病原性変異をもつ場合でも孤発症例の癌治療と同じである.
一次病変の予防:乳癌予防を目的として予防的両側乳房切除,予防的卵巣摘出術,化学予防(タモキシフェンなど)が行われるが,高リスク女性を対象にしたランダム化試験は行われていない.卵巣癌予防のための予防的卵巣摘出術.

経過観察:女性乳癌のスクリーニングでは,月1回の乳房自己検査,年1回,もしくは半年に1回の臨床的乳房検査,年1回の乳房撮影,乳房MRIを組み合わせて行われる.卵巣癌のスクリーニングでは,年1回の経腟超音波検査やCA-125濃度測定を35歳から検討してもよい.しかし,こうしたスクリーニングは高リスク女性においても平均的なリスクをもつ女性においても,早期段階の卵巣癌を検出する効果はない.男性乳癌のスクリーニングは,乳房自己検査の教育と訓練と,35歳からの臨床的乳房検査である.45歳からは年に1回の前立腺癌のスクリーニングを開始すべきである.黒色腫のスクリーニングは,家族歴を認める場合にのみ行うこと.無症状者への膵癌のスクリーニングは,一般的には推奨されていない.

リスクのある近親者の検査家系内で癌の素因となる BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子の生殖細胞系 列病原性変異が同定された場合,リスクの高い血縁者に検査を行うことにより,このほかの家系内変異保有者を確定できる.変異が見つかった場合には経過観察の頻度を増やし,癌が発見された場合には早期介入を行わなければならない.

遺伝カウンセリング 

BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異の遺伝形式は常染色体優性である. BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子の病原性変異をもつ患者の大多数が片親から変異を受け継いでいる.しかし,不完全浸透,癌の発症年齢のばらつき,予防的手術による癌リスクの低下,早期死亡により, BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子に病原性変異をもつ者に癌患者の親がいるとは限らない.
BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子の生殖細胞系 列病原性変異をもつ者の子がこの変異を受け継ぐ確率は50 %である.家系内で癌の素因となる変異がわかっている場合,リスクの高い妊娠の出生前診断は可能であるが,成人発症疾患に対する出生前診断の要望は少なく,慎重な遺伝カウンセリングを要する.


診断

遺伝性乳癌が疑われる所見

既往歴,もしくは家族歴(父系と母系の双方の1度,2度,3度近親)に以下を認める場合, BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子に関連した遺伝性乳癌 卵巣癌(HBOC)を疑うべきである(「米国総合癌センターネットワーク[NCCN]「腫瘍学臨床診療ガイドライン: 乳癌・卵巣癌[要登録]」を参照).

  • 50歳以下の乳癌の診断
  • 卵巣癌
  • 片側乳房もしくは 両側乳房の 複数の原発性乳癌
  • 男性乳癌
  • トリプルネガティブ(エストロゲン受容体陰性,プロゲステロン受容体陰性,HER2/neu[ヒト上皮増殖因子受容体2]陰性)乳癌(とくに,診断が60歳未満の場合)
  • 乳癌や卵巣癌に加え,膵癌や前立腺癌(グリーソンスコア:7以上)も認める
  • アシュケナージ系ユダヤ人での乳癌との診断(診断年齢は問わない)
  • 血縁者に2人以上の乳癌患者がいて,このうちの1人の診断が50歳未満
  • 年齢を問わず,血縁者に乳癌患者が3人以上いる
  • 家系内で BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子の病原性変異が同定されている

注:(1)「乳癌」とは浸潤癌と腺管上皮内癌(DCIS)の双方を指す.(2)「卵巣癌」とは卵巣上皮癌,卵管癌,原発性腹膜癌のことである.

BRCA1/2遺伝子の病原性変異の確率モデル

個人や家系が BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異をもつ確率を推定する多くのモデルが開発されている[Parmigiani et al 1998Frank et al 2002Antoniou et al 2004Evans et al 2004,Tyrer et al 2004].米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology, ASCO)が癌の易罹患性に対する遺伝学的 検査に関して発表した声明[米国臨床腫瘍学会2003]によれば,こうしたモデルから導き出された数値化された閾値によって,遺伝学的検査の妥当性を判断することはできない.しかし,これまでに数多くの症例を扱ってきた検査機関でも, BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子に病原性変異が存在する確率が高いかどうかを見極める際に確率モデルが有益であることがわかっている[Euhus et al 2002de la Hoya et al 2003].BRCA1/2の確率モデルに関するこのほかの情報については,こちらを参照されたい.

確定診断

RCA1遺伝子やBRCA2遺伝子に関連した遺伝性乳癌 卵巣癌の診断は,分子遺伝学的検査で発端者の BRCA1遺伝子,もしくはBRCA2遺伝子にヘテロ接合型の生殖細胞系列 病原性変異が同定されることによって確定する(1を参照).

注:(1)BRCA1/2遺伝子関連癌(50歳未満の乳癌,卵巣癌など)では,分子遺伝学的検査によって得られる情報が多く,こうした患者は「 最適な検査候補 (best test candicate)」と言われることが多い.このため,こうした遺伝子に関連のない癌が生じている血縁者や癌の既往歴のない血縁者に分子遺伝学的検査を行うのではなく,まず,「最適な検査候補」に行うことが理想的である.(2)「最適な 検査候補」がいない場合には,病原性変異が検出できないことが家系内に BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子の病原性変異が存在する可能性が否定されたのではないということを理解した上で,癌の既往のない別の血縁者に対して分子遺伝学的検査を行うことがある.

分子遺伝学的検査法には, BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子パネルや複数遺伝子パネルなどがある.

  • BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子パネル BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子の配列解析と同時に欠失・重複解析も行う.

アシュケナージ系ユダヤ人では3つの BRCA1遺伝子と BRCA2遺伝子の病原性の創始者変異に対して,標的解析を行うことができる.アシュケナージ系ユダヤ人で同定される病原性変異の99 %超が, BRCA1遺伝子のc.68_69delAG(BIC: 185delAG)変異, BRCA1遺伝子のc.5266dupC(BIC: 5382insC)変異,BRCA2遺伝子c.5946delT(BIC: 6174delT)である.標的解析で病原性変異が同定されない場合には,配列解析,欠失・重複解析,複数遺伝子パネルを行うとよい.

注: BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に生殖細胞系の病原性変異が存在することがわかっている家系の場合,リスクのある成人に対して,家系特異的な生殖細胞系 列病原性変異を調べることができる.以下の場合を除き,リスクのある血縁者は家系特異的生殖細胞系 列病原性変異を調べるだけでよいことがほとんどである.

    • アシュケナージ系ユダヤ人では,3つの 生殖細胞系列 の創始者変異すべてについて,検査を検討すべきである.その理由は,この3つの創始者変異の頻度が高いのはもちろんのこと,複数の創始者変異が共存している家系が複数あるためである.
    • 父系,あるいは母系のどちらかに BRCA1遺伝子,もしくはBR CA2遺伝子の家系内病原性変異があり,もう片方の家系に遺伝性乳癌の特徴が現れている場合には, BRCA1遺伝子とBR CA2遺伝子の配列解析と欠失・重複解析を検討するとよい.こうすることにより,(1)家系内の 生殖細胞系列病原性変異が存在している場合にはその変異が検出でき,(2)もう片方の家系での 生殖細胞系列病原性変異の有無を調べることができるためである.
  • 複数遺伝子パネルには BRCA1遺伝子, BRCA2遺伝子,他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)が含まれている.注:(1)複数遺伝子パネルに含まれる遺伝子や検査の精度は,検査機関によって異なっているだけでなく,時代とともに変化する.(2)複数遺伝子パネルに本稿で扱っている病態に関連のない遺伝子が含まれている場合もあるため,臨床医は最善のコストで遺伝的原因を確定できるよう,重要性の低い所見を排除しつつ,どの検査を行うのが最適であるかを決定しなければならない.(3)こうした検査で用いられる手法には,配列解析,欠失・重複解析,配列解析以外の検査がある.

表1.

RCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に関連した遺伝性乳癌 卵巣癌(HBOC)の分子遺伝学的検査

遺伝子1

病原性変異ごとの発症割合(%)

検査法ごとの病原性変異2の検出割合
配列解析3 標的遺伝子の欠失・重複解析4
BRCA1遺伝子 >66 % >80 %5 >10 %5
BRCA2遺伝子 >34 % >80 %5 〜10 %5
  1. 染色体座位と蛋白については,表A「遺伝子・データベース」を参照.
  2. 検出される病原性変異に関する情報については,「分子遺伝学」の項を参照されたい.
  3. 配列解析では,良性 多型,良性 と考えられる 多型,臨床的意義が不明の 多型,病原性 と考えられる 多型,病原性多型(変異)が検出される.病原性変異には,小さな遺伝 子内欠失・挿入,ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス部位変異が含まれるが,エクソンや遺伝子全体の欠失・重複は検出できない.配列解析の結果の解釈についてはこちらを参照(検出されうる変異:既に報告されている病原性変異,病原性と推測されるが過去の報告がない変異,臨床的意義が不明なシークエンス変化,病的意義がないと考えられるが過去に報告がないシークエンス変化,既に報告されている病原性のないシークエンス変化.変異が検出されない場合に考えられる可能性:患者は解析した遺伝子に変異を有していない,患者は変異を有しているがシークエンス解析で検出できない).
  4. 標的遺伝子の欠失・重複解析では,遺伝子内の欠失や重複が検出できる.検査方法は,定量的PCR,ロングレンジPCR,MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法,単一エクソンの欠失や重複の検出を目的とする標的遺伝子マイクロアレイなどである.
  5. BRCA1遺伝子と BRCA2遺伝子の病原性変異の大多数(80 %以上)が遺伝子全体の配列解析により検出される.このほか,欠失・重複解析で検出されるのは10 %であるが,集団間にばらつきがある[Palma et al 2008Ewald et al 2009Kang et al 2010Euhus et al 2012].

疾患の特徴「

臨床像

BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に関連した遺伝性乳癌 卵巣癌(HBOC)の特徴は,男性乳癌や女性乳癌,卵巣癌(卵管癌や原発性腹膜癌も含む)のリスクが高いことである.また,これよりもリスクは低いが,前立腺癌,膵癌,主に BRCA2遺伝子に病原性変異を有する患者での黒色腫のリスクも上昇する.悪性腫瘍のリスク推定値は,由来する背景によって大きく異なる. BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異を有する場合の悪性腫瘍のリスクを以下にまとめた.

表2.

BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異の悪性腫瘍のリスク

癌の種類

一般集団のリスク 悪性腫瘍のリスク1
BRCA1遺伝子 BRCA2遺伝子
乳癌 >12 % 46〜87 % 38〜84 %
2つめの原発性乳癌 5年以内に2 % 10年以内に21.1 %
70歳までに83 %
10年以内に10.8%
70歳までに62%
卵巣癌 1〜2 % 39〜63 % 16.5〜27 %
男性乳癌 0.1 % 1.2 % 最大8.9 %
前立腺癌 69歳までに6 % 65歳までに8.6 % 65歳までに15 %
生涯で20 %
膵癌 0.50 % 1〜3 % 2〜7 %
黒色腫(皮膚・眼) 1.6 % リスク評価
  1. Ford et al [1994]Easton et al [1995]Ford et al [1998]Robson et al [1998]Breast Cancer Linkage Consortium [1999]Verhoog et al [2000]Satagopan et al [2002]Thompson & Easton [2002]Hearle et al [2003]Kirova et al [2005]Robson et al [2005]van Asperen et al [2005]Chen et al [2006]Risch et al [2006]Tai et al [2007]Graeser et al [2009]Evans et al [2010]van der Kolk et al [2010]Kote-Jarai et al [2011]Iqbal et al [2012]Leongamornlert et al [2012]Moran et al [2012]Mavaddat et al [2013]van den Broek et al [2015]

乳癌. BRCA1遺伝子と BRCA2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異をもつ場合,発症頻度の最も高い悪性腫瘍が乳癌であり,その生涯リスクは46〜87 %に及ぶ.

初めて測定された BRCA1遺伝子の病原性変異に関連した乳癌リスクは, BRCA1遺伝子との連鎖が存在することがわかっている33家系に基づいて算出され,70歳までの累積リスクは87 %とされた[Ford et al 1994]. BRCA2遺伝子では,70歳までの乳癌の累積リスクは84 %である[Ford et al 1998].その後に行われた研究では,これよりも低いリスクが提示された.676のアシュケナージ家系と他の民族の1272家系に対して行われた米国の研究でChen et al [2006]は, BRCA1遺伝子に生殖体系の病原性変異をもつ女性の70歳までの乳癌の累積リスクを46 %とした.Satagopan et al [2001]はアシュケナージ系ユダヤ人での乳癌の偶発症例を調べ,80歳での乳癌の浸透度について, BRCA1遺伝子のヘテロ接合型では59 %(95 % CI=40〜93 %), BRCA2遺伝子のヘテロ接合型では38 %(95 % CI=20〜68 %)とした.最近になって, BRCA1遺伝子に病原性変異をもつ978人と BRCA2遺伝子に病原性変異をもつ909人からなるコホートに関する英国の研究でMavaddat et al [2013]は,70歳までの乳癌の平均累積リスクについて, BRCA1遺伝子のヘテロ接合型では60 %, BRCA2遺伝子のヘテロ接合型では55 %とした(2を参照).

最近になって,BRCA1/2遺伝子の病原性変異保有者における全生存率を判断するため,16の研究の解析(患者総数:10,180人)が行われた[Templeton et al 2016].この統合解析では,BRCA1/2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異の存在と全生存率との間に相関は認められなかった(HR=1.06,95 % CI=0.84〜1.34,p=0.61). BRCA1遺伝子と BRCA2遺伝子の病原性変異での全生存率への影響を独立して調べてたところ,結果は類似していた( BRCA1遺伝子:HR=1.20,95 % CI=0.89〜1.61,p=0.24, BRCA2遺伝子:HR=1.01,95 % CI=0.80〜1.27,p=0.95).しかし, BRCA1遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異の保有者においては,エストロゲン受容体(ER)の発現と全生存率との間に統計的有意な強い相関を認めた.しかし,年齢やプロゲステロン受容体(PR)の発現との相関は示されなかった.

BRCA1遺伝子関連腫瘍では 髄様癌が多く, 組織学的悪性度が高く,孤発例の腫瘍に比べてエストロゲン受容体陰性やプロゲステロン受容体陰性の割合が高く,HER2/neuの過剰発現が生じることが少ないため, BRCA1遺伝子関連腫瘍は「トリプルネガティブ」乳癌の範疇に入り[Rakha et al 2008Lee et al 2011],基底細胞様(basal-like)乳癌と重複している.幾つかの報告では, BRCA2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異とトリプルネガティブ乳癌との相関も示されている.トリプルネガティブ乳癌患者を調べると, BRCA2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異の 陽性率は3〜17 %である[Evans et al 2011Meyer et al 2012Couch et al 2015].BRCA1/2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異が乳癌の予後不良に関連しているとするエビデンスには賛否両論がある[Verhoog et al 2000Bordeleau et al 2010van den Broek et al 2015Zhong et al 2015].

対側乳癌(CBC)幾つかの研究では,保存療法を受けた患者で対側乳癌の発症率が高くなると報告されている[Graeser et al 2009Malone et al 2010Pierce et al 2010van der Kolk et al 2010Metcalfe et al 2011aVichapat et al 2012van den Broek et al 2015].対側乳癌の予測因子は,1番目の乳癌の発症年齢,早期発症乳癌の家族歴,BRCA遺伝子に変異があることである.予防的卵巣摘出術を受けた女性では,対側乳癌のリスクが低下した[Metcalfe et al 2011a].任意抽出した乳癌患者からなるコホートでの10年間の対側乳癌の累積リスクは, BRCA1遺伝子に病原性変異をもつ患者では21.1 %, BRCA2遺伝子に病原性遺伝子をもつ患者では10.8 %であった.
BRCA1遺伝子のヘテロ接合型変異をもつ978人と BRCA2遺伝子のヘテロ接合型変異をもつ909人からなる英国のコホート研究においてMavaddat らは,70歳までの対側乳癌の累積リスクを, BRCA1遺伝子のヘテロ接合型変異では83 %,BRCA2のへテロ接合型変異では62 %と算出した[Mavaddat et al 2013].

同側乳癌.2つの症例対照研究では,BRCA1/2遺伝子に生殖細胞系列 病原性変異をもつ患者での同側乳癌の発症率が,孤発症例の対照群と比較して顕著に高くなると報告されている[Haffty et al 2002Seynaeve et al 2004]が,他の研究ではBRCA1/2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異をもつ女性での同側乳癌リスクが孤発症例の乳癌女性と比較して高くなることは示されていない[Robson et al 2004Graeser et al 2009].また,放射線療法により,放射線療法を受けなかった患者と比べて,同側乳癌のリスクが大幅に軽減されたことも示されている[Metcalfe et al 2011b].

卵巣癌(卵管癌や原発性腹膜癌も含む)BRCA遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異により,卵巣癌のリスクは16.5 %から63 %へと急増する.初めて測定された BRCA1遺伝子の病原性変異に関連した卵巣癌のリスクは,70歳までに63 %という高値であり[Easton et al 1995], BRCA2遺伝子の病原性変異は,70歳までに27 %という高値であった[Ford et al 1998].その後に行われた研究では,これよりも低いリスクが提示された.676のアシュケナージ家系と他の民族の1272家系に対して行われた米国の研究のなかでChen et al [2006]は, BRCA1遺伝子に生殖体系の病原性変異をもつ女性の70歳までの卵巣癌の累積リスクを39 %(95 %CI=0.30〜0.50 %)とした.Satagopan et al [2002]は70歳での卵巣癌の浸透度について, BRCA1遺伝子のヘテロ接合型で37 %(95 % CI=25〜71 %), BRCA2遺伝子のヘテロ接合体で21 %(95 % CI=13〜41 %)と算出した.最近になって, BRCA1遺伝子に病原性変異をもつ978人と BRCA2遺伝子に病原性変異をもつ909人からなるコホートに関する英国の研究でMavaddat et al [2013]は,70歳までの卵巣癌の平均累積リスクを, BRCA1遺伝子のヘテロ接合型では59%, BRCA2遺伝子のヘテロ接合型では16.5%とした(2を参照).

BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異をもつ女性では,漿液性腺癌が非常に多いことが報告されている[McLaughlin et al 2013].一般に,漿液性腺癌は悪性度が高く,上皮内にリンパ球の浸潤を認め,核異 型性が顕著であり,核分裂像数が非常に多くなる[Fujiwara et al 2012].近年,卵巣癌の分子学的経路の理解が進んだことから,高グレードの漿液性癌のほとんどが卵巣ではなく卵管由来であるとの結論が得られた[Daly et al 2015].

BRCA1/2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異をもつ女性における卵巣癌の生存率を調べた研究では,相反する結果が出ている.26の観察研究の統合解析では, BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に病原性変異が検出された患者の生存率が,BRCA1/2に病原性変異をもたない患者と比べて良好であった( BRCA1遺伝子:HR= 0.78,95 % CI=0.68〜0.89, BRCA2遺伝子:HR=0.61,95 % CI=0.50〜0.76).病期,グレード,組織型,診断年齢を調整した後も結果は同じであった[Bolton et al 2012].大規模集団の症例対照研究では,BRCA1/2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異をもつ患者において,白金製剤を主体とする治療への奏効が向上し,無増悪生存期間が延長し,全生存率が改善していることがわかった[Alsop et al 2012].同様に,白金製剤への感受性をもつ卵巣上皮癌患者では,白金製剤抵抗性腫瘍をもつ患者と比べて,BRCA1/2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異がある確率が高かった[Dann et al 2012].最近では,任意抽出した卵巣癌患者の大規模研究で,BRCA1/2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異をもつ卵巣癌患者の短期生存率が,BRCA1/2遺伝子に病原性変異が同定されていない患者と比べて良好であったが,この生存率への効果は短期的なもであり,長期的な生存率は改善されていない[McLaughlin et al 2013].

男性乳癌.97人の乳癌男性を含む1939家系のデータに基づき, BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に病原性変異をもつ男性における乳癌発症リスクが評価された.乳癌の累積リスクは,どの年齢においても, BRCA1遺伝子と BRCA2遺伝子のいずれにおいても,ヘテロ接合型変異をもつ男性のリスクが,BRCA1/2遺伝子に病原性変異をもたない男性と比べて高くなっていた.乳癌発症の相対リスクでは,30歳代と40歳代でリスクが上昇しており,それ以降の年齢になると低下していた. BRCA1遺伝子と比較して BRCA2遺伝子に病原性変異をもつ男性では,相対リスクと累積リスクがともに高くなっていた.70歳までの乳癌発症の累積リスクは, BRCA1遺伝子の病原性変異をもつ男性では1.2 %(95 % CI=0.22〜2.8 %), BRCA2遺伝子では6.8 %(95 % CI=3.2〜12 %)と算出された[Tai et al 2007].

現時点で最大規模の321の BRCA2遺伝子に病原性変異をもつ家系に対して 後ろ向き研究と前向き解析を行った研究によれば,乳癌を発症した第1度近親男性は3件であり,80歳までの男性乳癌のリスクは8.9 %と考えられた[Evans et al 2010](2を参照).

前立腺癌913人の前立腺癌の男性患者(36〜86歳)の研究では, BRCA1遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異についてスクリーニングが行われ,このなかで4つの病原性変異が同定された.このうちの3つは診断時,もしくは65歳以前に診断された患者で確認されたものである.これまでに推算された集団ごとの BRCA1遺伝子の病原性変異の頻度に基づき, BRCA1遺伝子の病原性変異は前立腺癌の相対リスクを約3.7倍(95 % Ci=1.02〜9.6)にすると推定された.これは65歳までの累積リスクに換算すると8.6 %となる[Leongamornlert et al 2012].

BRCA2遺伝子に病原性変異をもつ男性の前立腺癌の生涯リスクは20 %と算出された[Breast Cancer Linkage Consortium 1999].2011年にKote-Jarai らは1864人の前立腺の男性患者に対してスクリーニングを行った.19種類の蛋白を短縮 させる(早期終止)変異が同定されており,すべてが65歳以下で前立腺癌と診断された患者に生じていた.これまでに推算された集団ごとの BRCA2遺伝子の病原性変異の頻度に基づき, BRCA2遺伝子の病原性変異が65歳までの前立腺癌の相対リスクを約8.6倍(95 % CI=5.1〜12.6)増加させると推定された.これを65歳までの絶対リスクに換算すると15 %となる[Kote-Jarai et al 2011].また, BRCA2遺伝子関連の前立腺癌では,組織学的悪性度が高くなっており[Gallagher et al 2010],その結果,全生存率が悪化した[Thorne et al 2011](2を参照).

膵癌膵癌(腺癌)のリスクの増加と BRCA1遺伝子と BRCA2遺伝子の病原性変異には関連を認める.The Breast Cancer Linkage Consortium [1999]の横断的研究でThompson et al [2002]は, BRCA1遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異をもつ膵癌患者(RR=2.26,95 % CI=1.26〜4.06,p=0.004)と, BRCA2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異をもつ患者(RR=3.51,95 % CI=1.87〜6.58,p=0.0012)において,膵癌のリスクが顕著に増加すること を報告 している.Risch et al [2006]は,オンタリオ州で任意抽出した1171人の卵巣癌女性について,浸潤性卵巣癌女性の血縁者における膵癌リスクを推算した.膵癌の相対リスクは,病原性変異をもたない患者と比較して, BRCA1遺伝子に病原性変異をもつ患者の血縁者では3.1(95 % CI=0.45〜21), BRCA2遺伝子に病原性変異をもつ患者の血縁者では6.6 (95 % CI=1.9〜23)であった.最近になって, BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に病原性変異をもつ5149人の女性を対象とした前向き試験で,膵癌の発症率が2.4倍と統計学的有意に増加していることがわかった.また,これまでの試験とは異なり,膵癌の発症率は BRCA1遺伝子群(SIR=2.55)と BRCA2遺伝子群(SIR=2.13)で同程度であった[Iqbal et al 2012](2を参照).

黒色腫 BRCA2遺伝子に病原性変異をもつ家系での黒色腫のリスクはあまり研究されていないが,全家系ではないが幾つかの家系において,皮膚黒色腫と眼球黒色腫のいずれのリスクも上昇することが文献報告で示されている[Breast Cancer Linkage Consortium 1999Hearle et al 2003van Asperen et al 2005].BRCA1/2遺伝子に病原性変異をもつ490家系の解析から, BRCA2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異をもつ患者で眼球黒色腫のリスクが上昇していることがわかった(RR=99.4,95 % CI=11.1〜359.8) [Moran et al 2012] (2).

その他の癌家系解析や症例対照研究によれば, BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に病原性変異をもつ患者では,上述の癌のほかにも,絶対リスクは小さいとはいえ,悪性腫瘍のリスクが高くなることがある[The Breast Cancer Linkage Consortium 1999Thompson et al 2001van Asperen et al 2005].The Breast Cancer Linkage Consortiumの報告によれば,65歳未満の BRCA1遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異をもつ女性で,子宮 内膜 癌や子宮頚癌の相対リスクが上昇している(相対リスクは,子宮 内膜 癌は2.6,子宮頚 癌は3.7)[Thompson & Easton 2002].The Netherlands Collaborative Group on Hereditary Breast Cancerの報告によれば,統計学的に,胆嚢癌の相対リスクが3.5に,胆管癌の相対リスクが5.0に増加していた[van Asperen et al 2005].しかし,こうした研究のなかには病理診断が確定していないものもあるため,胆嚢癌と胆管癌については膵癌を,子宮頚 癌と子宮内膜癌については卵巣癌を誤って分類しているために起きたリスク増加であるのかもしれないとされた.さらに,これまでの研究から 子宮体部漿液性腺癌はHBOCの明らかな関連癌ではないことがわかっており[Goshen et al 2000],子宮内膜癌とBRCA1/2遺伝子の病原性変異との因果関係データでは,病原性変異の存在よりも,tamoxifenの曝露との関連性が示されている[Beiner et al 2007].また,結腸直腸癌のリスクの増加を示した報告は,その後,再現されていない[Gruber & Petersen 2002Niell et al 2004].

現時点では, BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子の病原性変異と関連している良性腫瘍や身体的異常の報告はない.

遺伝子と表現型の相関

BRCA1遺伝子の生殖細胞 系列病原性変異をもつ女性では, BRCA2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異をもつ女性と比べて,卵巣癌と原発性腹膜漿液性乳頭状腺癌の頻度がかなり高く,発症年齢が低くなる傾向があるCasey et al 2005Yates et al 2011].しかし, BRCA2遺伝子に病原性変異をもつ場合,男性乳癌,前立腺癌,膵癌,黒色腫のリスクが高くなる傾向にある.

遺伝型と臨床型の関連

BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に病原性変異をもつ家系では,遺伝型と表現型の関連が確認されている.現在,このような相関が個別のリスク評価や管理に利用されることはないが,今後,適切な実証化を経て,活用されるようになるかもしれない.

Breast Cancer Linkage Consortiumによれば,蛋白を短縮させる病原性変異をもつ家系では,遺伝子の中心領域(ヌクレオチド2,401〜4,190)に病原性変異があると,周辺領域にある場合よりも乳癌リスクが低くなると報告されている.さらに,卵巣癌のリスクは,病原性変異が3'末端からヌクレオチド4,191にある場合に低くなる[Thompson et al 2001].

アシュケナージ系ユダヤ人の研究でも, BRCA1遺伝子の5'末端にある病原性変異のc.68_69delAG(BIC:185delAG)があると,同遺伝子の3'末端にある病原性 変異のc.5266dupC(BIC:5382insC)をもつ場合よりも,卵巣癌の発症率が高くなっていた[Lubinski et al 2004].しかし,病原性変異であるc.5266dupC変異があると, BRCA1遺伝子のc.68_69delAG(BIC:185delAG)変異と BRCA2遺伝子のc.5946delT(BIC:6174delT)変異の双方をもつ場合と比べて,乳癌(両側乳癌など)のリスクが高まり,同一患者に乳癌と卵巣癌が生じる.

BRCA1遺伝子と BRCA2遺伝子のどちらにも,エクソン11内,もしくはエクソン11隣接部に卵巣癌多発領域(OCCR)が確認されている[Rebbeck et al 2015].卵巣癌多発領域(OCCR)内に病原性変異があると,両遺伝子のこのほかの部位に生じた病原性変異をもつ家系とは異なり,乳癌に対する卵巣癌の比率が高くなる.

BRCA1遺伝子と BRCA2遺伝子では多数の乳癌多発領域(BCCR)が観察されており,乳癌リスクの相対的上昇と卵巣癌リスクの相対的低下に関連している[Rebbeck et al 2015].

浸透 率(癌リスク)

BRCA1/2遺伝子の病原性変異との関連が最も高い癌は女性乳癌と卵巣癌である.BRCA1/2遺伝子に病原性変異をもつ女性がこうした関連癌を発症するリスクは最大で87 %であるが,男性のリスクは最大で20 %である.

頻度

BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に関連した遺伝性乳癌 卵巣癌(HBOC)は遺伝性の乳癌や 卵巣癌の中で 最も頻度が高く,すべての民族・人種で発症する.(アシュケナージ系を除く)一般集団でのBRCA1/2遺伝子の病原性変異の頻度は,400〜500人中に1人と推定されている[Anglian Breast Cancer Study Group 2000Whittemore et al 2004b].
アシュケナージ系ユダヤ人.アシュケナージ系ユダヤ人における以下の3つの病原性変異の頻度を合計すると40人中1人となる[King et al 2003]:

  • BRCA1 c.68_69delAG(BIC: 185delAG)の頻度は1 %
  • BRCA1 c.5266dupC(BIC: 5382insC)の推定頻度は0.1〜0.15 %
  • BRCA2 c.5946delT(BIC: 6174delT)の頻度は約1.52 %

[Ferla et al 2007]


遺伝的に関連がある疾患

BRCA2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異との関連を認める疾患は以下である.


鑑別診断

症候性乳癌以下の癌感受性症候群や遺伝子変異をもつ場合,乳癌のリスクが高まる. BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子による遺伝性乳癌 卵巣癌(HBOC)では家系内に多種類の腫瘍を認めることから,こうした疾患と鑑別可能な場合が多いが,なかには分子遺伝学的検査を要する症例もある.

表3.

RCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に関連した遺伝性乳癌 卵巣癌との鑑別を考慮すべき疾患

癌感受性症候群/遺伝子 遺伝子 遺伝形式 乳癌の生涯リスク
と他の関連癌
他の鑑別点
リ・フラウメニ症候群 TP53 常染色体優性 乳癌:79 %以下1
(閉経前が多い)
軟部組織肉腫
副腎皮質癌
脳腫瘍
副腎皮質癌
白血病
小児・若年青年期の発症が多い癌
サバイバーでは他の原発癌のリスクが増加している.
カウデン症候群
PTEN過誤腫症候群を参照)
PTEN 常染色体優性 乳癌:25〜50 %(85 %以下とも)2
甲状腺癌
腎細胞癌
子宮内膜癌
結腸直腸癌
多発性過誤腫,巨頭症,毛根鞘腫,乳頭腫様丘疹
発症する患者は通常,20歳後半までに発症
遺伝性びまん性胃癌 CDH1 AD 乳癌:39〜52 %3
(乳腺小葉癌)
びまん性胃癌
大多数の癌の発症は40歳以前
CHEK2遺伝子
(OMIM)
CHEK2 常染色体優性 乳癌:25〜39 %4
前立腺癌5
胃癌5
肉腫5
腎癌5
ATM遺伝子のヘテロ接合
(毛細血管拡張運動失調)
ATM 常染色体優性 乳癌:17〜52 %6
他の癌
PALB2遺伝子
(OMIM)
PALB2 AD 乳癌:58 %以下7
男性乳癌8
膵癌9
ポイツ・イェガース症候群 STK11 AD 乳癌:32〜54 %
消化器癌
卵巣癌(ほとんどが輪状細管を伴う性索腫瘍[SCTAT])
子宮頚部癌(悪性腺腫)
子宮癌
膵癌
精巣セルトリ細胞腫
肺癌
胃腸ポリポーシス,粘膜色素沈着,指の色素過剰斑
ブルーム症候群 BLM 常染色体劣性 乳癌リスクの上昇10
上皮癌
リンパ腫
白血病
他の癌
出生前・出生後の重度の成長障害,低密度の皮下脂肪組織,低身長,日光過敏,顔面の紅斑性皮膚病変
ウェルナー症候群 WRN 常染色体劣性 乳癌リスクの上昇11
肉腫
黒色腫
甲状腺癌
血液系腫瘍
特徴的な外観,通常,20歳代で加齢関連の症状が現れる
RAD51C遺伝子
OMIM
RAD51C 卵巣癌 乳癌リスクは不明
リンチ症候群 MLH1
MSH2
MSH6
PMS2
EPCAM
常染色体優性 卵巣癌12
非ポリープ性結腸直腸癌
子宮内膜癌
他の癌
現時点では,リンチ症候群が乳癌リスクの上昇に関連するかどうかは不明.13

RR = 相対リスク
MOI = 遺伝形式
AD = 常染色体優性
AR = 常染色体劣性
SCTAT =輪状細管を伴う性索腫瘍
XL=X連鎖性

  1. Ruijs et al [2010]
  2. カウデン症候群女性での乳癌の生涯リスクは25〜50 %と推定されている[Hobert & Eng 2009].他の研究では85 %という高いリスクが報告されているが[Tan et al 2012Bubien et al 2013Ngeow et al 2014Nieuwenhuis et al 2014],こうした研究では選択バイアスが疑われている.
  3. Brooks-Wilson et al [2004], Kaurah et al [2007]
  4. CHEK2遺伝子のc.1100delC変異(NM_007194?.3)により女性乳癌リスクが2〜3倍に,男性乳癌のリスクが10倍になると推測されている[CHEK2 Breast Cancer Case-Control Consortium 2004, Bernstein et al 2006Weischer et al 2007].
  5. CHEK2遺伝子の創始者変異であるc.1100delC変異,c.319+1G>A(IVS2+1G>A)変異,p.Ile157Thr変異(NM_007194?.3)に関連[Näslund-Koch et al 2016].
  6. ATM遺伝子の病原性変異をもつ患者の癌リスクは一般集団の約4倍であるが,その主な原因は乳癌リスクの増加である[Renwick et al 2006Tavtigian et al 2009Goldgar et al 2011Roberts et al 2012].幾つかのATM遺伝子の病原性変異により,さらに女性乳癌リスクが高くなることがある(52〜69 %以上).
  7. Antoniou et al [2014]
  8. 分子遺伝学的にPALB2遺伝子関連乳癌が確認された家系では,男性乳癌もみられる[Casadei et al 2011Ding et al 2011].
  9. 膵癌症例を多数認める家系では,PALB2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異が同定されているが,PALB2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異による膵癌の正確なリスクはまだ出ていない[Jones et al 2009Slater et al 2010].
  10. ブルーム症候群登録では,207人のブルーム症候群患者のうち16人に乳癌が報告されている.
  11. ウェルナー症候群の患者で報告された248の新生物のうち7[Lauper et al 2013].
  12. リンチ症候群における卵巣癌の生涯リスクは4〜12 %である.BRCA1/2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異に関連した卵巣癌とは異なり,リンチ症候群に関連した卵巣癌は類内膜癌,もしくは明細胞癌であることが多い[Ketabi et al 2011].
  13. リンチ症候群家系で乳癌が報告されているが,一貫した関連は認められていない[Gruber & Petersen 2002Müller et al 2002Walsh et al 2010].

臨床的マネジメント

初回診断後の評価

BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異がある場合,分子遺伝学的検査の結果を開示する際に,今後の経過観察や一次病変の予防の選択肢についてカウンセリングを行う.

症状の治療:

米国総合癌センターネットワーク(NCCN)のガイドラインによれば,BRCA1/2遺伝子に病原性変異をもつ女性では同側・対側乳癌の発症率が高いため,乳癌の主要な外科的治療として両側乳房切除を検討することが勧められている.乳癌の治療や BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に関連した悪性腫瘍への治療については,NCCNのガイドラインを参照されたい(要登録).

一次性病変」の予防:

乳癌.

  • 予防的な両側乳房切除
  • 予防的卵巣摘出術により乳癌リスクがどれほど低減するかについてはデータが相反しているため,このアプローチのリスクとベネフィットについて遺伝専門医と十分に話し合うことを考慮すること.
  • 化学予防. 後ろ向き研究では, BRCA2遺伝子に生殖細胞系変異をもつ健常女性において,タモキシフェンが乳癌リスクを62 %低下させた[King et al 2001].しかし,症例数がきわめて少ない.コホート内症例対照試験では,タモキシフェンの使用は対側乳癌の発症リスクの41〜50 %の低減と関連していた[Narod et al 2000Metcalfe et al 2005].BRCA1/2遺伝子に病原性変異をもつ女性において,化学予防として投与されるタモキシフェンに関する前向きランダム化試験は行われていない.
  • 累積1年以上の母乳栄養が乳癌リスクの低減に関連している[Jernstrom et al 2004].

卵巣癌・卵管癌

  • 予防的卵巣摘出を考慮する際には,出産の終了を認識することがこの決断に関わってくると思われる.幾つかの研究によれば,リスク軽減目的の卵巣摘出術後,卵巣癌のリスクが大幅に(80〜96 %)低減したことが示されてる[Kauff et al 2002Rebbeck et al 2002Rutter et al 2003].
  • 卵管摘除.近年,卵巣癌に先行する分子学的過程への理解が進んだことにより,高グレードの漿液性卵巣癌の大多数の発生部位が卵管であることがわかったため,一次予防の第一段階として,自然閉経年齢までに卵巣を残しておくため,卵管摘除が考慮されるようになった.このアプローチにより早発閉経という健康被害が低減されると考えられるが,受け入れられるようになるためには,安全性と有効性を実証する前向き試験のデータが必要となってくる[Daly et al 2015].
  • 卵管結紮.13の研究のメタ解析によれば,一般集団において,卵管結紮後に卵巣癌のリスクが34 %低下した[Cibula et al 2011].BRCA1/2遺伝子に病原性変異をもつ場合の癌リスクの修飾因子についてメタ解析を行ったところ, BRCA1遺伝子に病原性変異をもつ女性において,卵巣癌リスクの低減が示された.しかし,試験デザインの問題からこの知見の影響力は限定的である[Friebel et al 2014].
  • 経口避妊薬の使用は,使用したことのある女性において14 %,長期間使用している患者で38 %,卵巣癌リスクを低減させた[Whittemore et al 2004a].

    注:現在(1975年以降)使用されている経口避妊薬が, BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異をもつ女性での早期発症型の乳癌リスクを増加させるとするエビデンスはない.

二次病変の予防:

タモキシフェンの投与後に生じる重大な有害反応には,投与群と非投与群を比べて,子宮内膜癌や血栓塞栓症(肺塞栓症など)の発症率が高まることがある.血栓塞栓症や凝固障害の既往がある女性は,タモキシフェンの使用を避けること.タモキシフェンを投与されている女性は,異常な腟出血が生じた場合にはすぐ,かかりつけの婦人科医の診察を受け,報告すること.

経過観察

女性

  • 月1回の乳房自己検査
  • 25歳から6〜12ヶ月に1回,臨床的乳房検査を受けること
  • 25歳から(家族歴に30歳未満で乳癌と診断された血縁者がいる家系ではその年齢に応じて実施),年1回,乳房MRIを受けること
  • 30歳から年1回の乳房撮影
  • 予防的卵巣摘出を選択しなかった女性には,35歳から年1回の経腟超音波検査と血清CA-125濃度の測定(家系内で最も早い発症年齢に応じて実施)を考慮してもよい.

注:年1回の骨盤超音波検査とCA-125濃度測定は,高リスク女性においても平均的なリスクをもつ女性においても,早期段階の卵巣癌を検出する効果はない.

男性

  • 乳房自己検査の教育と訓練を行い,35歳から月1回の乳房自己検査を開始すること.
  • 35歳からは年1回の臨床的乳房検査
  • 45歳から年に1回の前立腺癌のスクリーニングを開始すること.

女性と男性

  • 黒色腫のスクリーニングは,家族歴を認める場合にのみ行うこと.
  • 無症状者への膵癌のスクリーニングは,一般的には推奨されていないが,研究としては可能である.

避けるべき薬剤や環境

BRCA1/2遺伝子の病原性変異をもつ患者に特異的なデータはない.

リスクのある近親者に対する検査

家系内で癌の素因となる BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異が同定された場合,リスクの高い血縁者に検査を行うことにより,このほかの家系内変異保有者を確定できる.変異が見つかった場合には経過観察の頻度を増やし,癌が発見された場合には早期介入を行わなければならない.

遺伝カウンセリングを目的としたリスクのある近親者の検査に関連する問題については,「遺伝カウンセリング」を参照.

研究段階の治療法

現在,進行中の幾つかの研究では,BRCA遺伝子関連の乳癌と卵巣癌への新しい治療アプローチが模索されている.こうした研究のほとんどがポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬を扱っており,こうした薬剤の1つが再発卵巣癌の治療薬として米国食品医薬品局(FDA)に承認された.これよりも新しい研究では,他のBRCA遺伝子関連癌(膵癌など)へのPARP阻害薬の使用について試験が行われている.BRCA細胞系列の白金製剤への感受性が増すことが実験データで示されていることから,白金製剤を主体とする乳癌治療へのネオアジュバント療法,アジュバント療法,もしくは転移に対する治療での効果に関心が持たれている.

種々の疾患の臨床試験に関する情報については,こちらを参照されたい.

その他

ホルモン補充療法(HRT).一般集団での研究によれば,閉経後女性での長期的なエストロゲン補充療法は乳癌リスクを増加させるが,閉経症状に対する短期的使用ではリスクは増加しない.しかし,ホルモン補充療法(HRT)に関するランダム化プラセボ対照試験では,比較的短期的なエストロゲンとプロゲスチンの併用によっても乳癌の発症率が増加することが示されている[Chlebowski et al 2003].

ホルモン補充療法(HRT)がBRCA1/2遺伝子のヘテロ接合体における乳癌リスクにもたらす影響について調べた3つの観察研究が公表されている.Rebbeck et al [2005]は, BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異をもつ462人の女性からなるコホートでの予防的両側卵巣摘出術後のホルモン補充療法に関連した乳癌リスクを調べ,予防的両側卵巣摘除術後に行われるどのようなホルモン補充療法であっても,手術によって低減した乳癌リスクを大きく変化させることはないとした.術後の追跡期間は3.6年であった. BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異をもつ女性において,短期的なホルモン補充療法が乳癌リスクを大幅に増加させることはないとの結論が得られた.このコホートに対して続いて行われた延長試験のデータには1299人の女性が含まれており,追跡期間の平均は5.4年であった.乳癌リスクは上昇しておらず, BRCA1遺伝子のヘテロ接合体では,乳癌リスクが大幅に軽減していた[Domchek et al 2011].もう1つの BRCA1遺伝子に病原性変異をもつ472人の閉経後女性に関する対症例対照研究では,ホルモン補充療法が乳癌リスクの低減に関連していた[Eisen et al 2008].3つめの平均追跡期間が4.3年の432人の対応対からなる症例対照研究でも, BRCA1遺伝子のヘテロ接合体での乳癌リスクの低減が示された[Kotsopoulos et al 2016].こうした知見を総合すると,外科的閉経を受けたBRCA1/2遺伝子のヘテロ接合体への短期的なホルモン補充療法 は支持される.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子による遺伝性乳癌 卵巣癌(HBOC)の遺伝形式は常染色体優性である.

血縁者のリスク

BRCA1/2遺伝子に病原性変異をもつ発端者の親

  • BRCA1遺伝子と BRCA1遺伝子の病原性変異をもつ患者の大多数が片親から変異を受け継いでいる.
  • 変異をもつ親が癌と診断されていない場合には以下の要因が考えられる:
    • 変異の浸透 率
    • 親の性別
    • 親の年齢
    • スクリーニングや予防的手術による親の癌リスクの低減
    • 親の早期死亡
  • BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に 生殖細胞系列病原性変異をもつ場合,父系もしくは母系のどちらにリスクがあるかを確認するため,両親に対して分子遺伝学的検査の実施を申し出るとよい.一般に,家系内の癌の種類をみると,どちらの親を最初に検査すべきかわかることが多い.
  • 稀に,どちらの親にも BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異が確認できないことがある. BRCA1遺伝子と BRCA2遺伝子の発見から数年後,新しい変異が報告されたが,現在までに行われた数件の研究によれば,この2つの遺伝子の割合はきわめて低かった(5 %以下)[Hansen et al 2008Marshall et al 2009Diez et al 2010Garcia-Casado et al 2011Kwong et al 2011Zhang et al 2011De Leeneer et al 2012].

BRCA1/2 遺伝子に病原性変異をもつ発端者の同胞

  • 発端者のすべての同胞のリスクは,発端者の両親の遺伝的状態によって異なる.発端症例の同胞が BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異を受け継ぐ確率は,片親に BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に生殖細胞系変異がある場合には50 %である.
  • しかし,癌発症リスクは,病原性変異の浸透 率,発症者の性別や年齢といった多数の要因によって異なる.

BRCA1/2遺伝子に病原性変異をもつ発端者の子 BRCA1遺伝子と BRCA2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異をもつ者の子がこの変異を受け継ぐ確率は50 %である.しかし,癌発症リスクは,病原性変異の浸透度,発症者の性別や年齢といった多数の要因によって異なる.

BRCA1/2遺伝子に病原性変異をもつ発端者の他の血縁者他の血縁者のリスクは発端者の両親の状態により異なる.片親が BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に生殖細胞系変異をもつ場合,その家系の血縁者にはリスクがある.正確なリスクは,家系内での位置により異なる.

遺伝カウンセリングに関連した問題

リスクのある血縁者への早期診断・治療目的の評価に関する情報については,「臨床的マネジメント」,「リスクのある近親者の検査」の項を参照されたい.

新生突然変異によって発症したかのようにみえる血縁者への配慮常染色体優性疾患で,どちらの親にも発端者で同定された病原性変異を認めない場合,もしくは疾患の臨床所見がない場合には,新生突然変異の可能性がある(稀ではあるが, BRCA1遺伝子と BRCA2遺伝子の双方で新生突然変異が報告されている).しかし,生物学的な父親や母親が異なる場合(生殖補助医療など)や未公表の養子縁組など,非医学的な理由の可能性も考えられる.

家族計画

  • 遺伝リスクの判定や出生前診断を利用するかどうかに関する議論を行う最適な時期は妊娠前である.
  • 罹患している成人もしくはリスクのある成人が若いうちに(子へのリスクや生殖における選択肢などの議論も含めた)遺伝カウンセリングを提供することが適切である.

遺伝性癌のリスク評価とカウンセリング分子遺伝学的検査の実施の有無にかかわらず,癌リスク評価を通じてリスクのある患者を同定することによる医学的,心理学的,民族的な派生効果に関する包括的説明については,「がんの遺伝学的リスク評価とカウンセリング−医療従事者向け」(一部はPDQ®,国立がん研究所)を参照されたい.

リスクのある無症状の血縁者

一般的見解としては, BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異をもつ患者の血縁者は,同一変異を受け継ぐリスク,分子遺伝学的検査の選択肢,癌リスク,推奨される癌スクリーニング(「経過観察」を参照),予防的手術についてカウンセリングを受けること(「一次病変の予防」を参照).
発端者で同定された癌の素因となる 生殖細胞系列病原性変異は受け継いでいないが,リスクのある成人血縁者については,個人的な危険因子に基づき,一般集団の癌発症リスクは,同程度,もしくはそれ以上と推定される.例えば,家系特異的な BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子の病原性変異をもたないが,リスクのある女性血縁者に,乳癌生検で異型乳管過形成が見つかった場合,依然として乳癌リスクは高いといえる.

血縁者のリスクが一般集団の癌発症リスクと同程度と判断された場合,アメリカがん協会や米国総合癌センターネットワーク(NCCN)などで推奨されている平均リスク群への癌スクリーニングの実施が勧められる.注:家系内の罹患者が BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子の分子遺伝学的検査を受けない場合や,同定されている BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子の病原性変異をもたない場合, BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子に同定されるはずの 生殖細胞系列病原性変異をもたない者にこうした推測を当てはめることはできない.

18歳未満のリスクのある無症状の血縁者への検査.遺伝性乳 癌卵巣 癌(HBOC)では一般に,18歳未満のリスクのある無症状の血縁者への遺伝子検査は推奨されない.米国臨床遺伝学会と米国人類遺伝学会が共同で作成したガイドラインでは,18歳未満の場合,医学的管理に影響がある場合に限ってのみ,発症前診断目的の遺伝子検査を行うべきであるとされている.遺伝性乳乳癌卵巣癌 関連 癌の管理については,25歳頃からの開始が勧められている.その理由は,成人期に達して独立した決断ができるようになるまで,検査を受けるかどうかを決めない方がよいとされているためである.しかし,非常に若い年齢で診断された遺伝性乳乳癌卵巣癌 症例も稀に報告されているため,家系で最も早い診断年齢に基づいて個別にスクリーニングを行うとよい.

未成年者への成人発症疾患に対する遺伝子検査に関する米国遺伝カウンセラー学会の意見書,米国小児科学会,米国遺伝医学・ゲノミックス会議の意見書「小児への遺伝 学的検査とスクリーニングに関する民族的・政治的問題」も参照のこと.

DNAバンキング は,将来の使用のために,通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,罹患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.

出生前診断

罹患者家系で BRCA1遺伝子や BRCA2遺伝子の 生殖細胞系列病原性変異が同定されている場合には,遺伝性乳癌のリスクの高い妊娠に対して出生前診断や着床前遺伝子診断を行うことができる.

遺伝子検査が早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は,医療関係者の間やと家族の間で出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない.多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが,この問題については注意深い検討が求められる.


分子遺伝学

分子遺伝学およびOMIMの表の情報はGeneReviewの他の情報と異なることがある。表にはより最近の情報が含まれていることがある。−ED.

Table A.

BRCA1BRCA2が関連する遺伝性乳がん・卵巣がん: 遺伝子およびデータベース

遺伝子 染色体遺伝子座 タンパク質 遺伝子座特異的データベース HGMD
BRCA1 17q21?.31 1型乳がん感受性タンパク質 BRCA1ホームページ - LOVD
BRCA1 @ ZAC-GGM
定量的統合評価によって臨床的に再分類されたBRCA1とBRCA2配列変異型のデータベース
乳がん情報コア (BRCA1)
BRCA1
BRCA2 13q13?.1 2型乳がん感受性タンパク質 BRCA2 ホームページ - LOVD
BRCA2 @ ZAC-GGM
定量的統合評価によって臨床的に再分類されたBRCA1とBRCA2配列変異型のデータベース
乳がん情報コア (BRCA2)
ファンコニ貧血突然変異データベース (FANCD1 - BRCA2)
BRCA2

データは以下の標準的参照資料をもとに作成した。遺伝子はHGNC、染色体遺伝子座、遺伝子座の名称、遺伝子変異に密接に関連した領域、相補群はOMIM、タンパク質はUniProtを参照した。リンクが提供されたデータベース(遺伝子座特異的データベース, HGMD)の詳細についてはこちらを参照のこと。

Table B.

BRCA1BRCA2が関連する遺伝性乳がん・卵巣がんのOMIMでの記載 (全ての情報はOMIMを参照のこと)

113705 1型乳がん遺伝子; BRCA1
114480 乳がん
600185 BRCA2遺伝子; BRCA2
604370 乳がん・卵巣がん, 家族性, 感受性, 1; BROVCA1
612555 乳がん・卵巣がん, 家族性, 感受性, 2; BROVCA2

BRCA1

遺伝子の構造

BRCA1 はゲノムDNAに80kbにわたって広がり、24個のコーディング・エキソンを含む7.8-kbの転写産物をコード化する[Mikiら1994Deng 2006]。遺伝子とタンパク質の情報の詳細な概説は表Aの遺伝子を参照のこと。

病原性変異

BRCA1では1800を超える病原性変異が同定されている。これらの変異型の中には関係のない家系で繰り返し同定されたものも少数あるが、その大部分は2,3の家系を超えては報告されていない。全体のうち、BRCA1とBRCA2の分子遺伝学的検査を受けた被験者の約2.9%で、臨床的意義が不明な変異型が検出される[Eggingtonら2012]。この割合は過去10年間で大幅に低下した。(詳細は表Aを参照のこと)

低浸透度変異型

p.Arg1699GlnはBRCA1の低浸透度変異型として確立されている[Spurdleら2012]。機能解析によるデータは、複数の検査での欠損症に関して不明瞭である。従って、この対立遺伝子は乳がんと卵巣がんの中程度(intermediate)のリスクに関連付けられており、この遺伝子と他の潜在的なやや高い(moderate)リスクを伴う変異型を有する患者に対するリスクのモデル化と臨床管理の難しさを強調するものである。

表4 選択されたBRCA1 病原性変異

DNAヌクレオチドの変化 
(
別名 1)
予測されるタンパク質の変化 参照配列
c.68_69delAG
(185delAG or 187delAG)
p.Glu23ValfsTer17 NM_007294?.3
NP_009225?.1
c.5096G>A p.Arg1699Gln
c.5266dupC
(5385insC or 5382insC)
p.Gln1756ProfsTer74

変異型の分類に関する注記:表に記載された変異型は著者らによって提供された。GeneReviews のスタッフは変異型の分類を自主的に検証していない。
命名に関する注記:GeneReviews はHuman Genome Variation Society (www?.hgvs.org)の標準的な命名規則に従う。命名の説明に関してはクイック・リファレンスを参照のこと。

  1. 現在の命名規則に従わない変異型の名称

正常な遺伝子産物

BRCA1 は1863のアミノ酸から成る220-kdのタンパク質をコード化する。1型乳がん感受性タンパク質(BRCA1)は、正常な状態では核に存在するリンタンパク質である[Chenら1996]。その機能的なドメインとしては以下が含まれる。

  • N末端近傍のRINGフィンガードメイン:タンパク質間(BRCA1 / BARD1)およびタンパク質とDNAとの間の相互作用を促進すると考えられる[Boddyら1994]。
  • エキソン11内に位置する2個の核局在シグナル
  • p.1280とp.1524との間の"SQ"クラスター
  • C末端のBRCTドメイン

BRCA1は、細胞周期の進行、遺伝子の転写調節、DNA損傷応答とユビキチン化を含む細胞経路に関与する複数のタンパク質と相互に作用する[Deng 2006Rosenら2006]。

BRCA1/BARD1タンパク質複合体はユビキチンリガーゼ活性を促進し、これは中心体の機能を調節し、DNA修復と細胞周期調節に関与する [Sankaranら2006Borkら1997Callebaut & Mornon 1997]。BRCA1は解析されたほとんどの組織と細胞のタイプで発現しており、これは乳房と卵巣に限定される組織特異的な表現型が、遺伝子の発現パターンによるものではないことを示唆する。BRCA1の転写は細胞周期のG1期の後期に誘導されS期中は高いままであるため、DNA合成への関与が示唆される[Gudasら1996Rajanら1996]。1型乳がん感受性タンパク質が直接DNA修復プロセスに関与することを示す様々な証拠が存在する。

BRCA1はBRCA2およびRAD51と共にDNA損傷部位に局在化し、RAD51が媒介するDNA二本鎖切断による相同組換え修復を活性化する[Cousineauら2005]。BRCA1 の転写活性化の標的の一つは、それ自体がG1/Sチェックポイントでの増殖の強力なサプレッサーであるp21サイクリン依存性キナーゼ阻害因子のようである[Somasundaramら1997Ouchiら1998]。

マウスにおけるBrca1 の完全な欠失は、細胞増殖の欠如を特徴とする胚致死をもたらす[Hakemら1996Ludwigら1997]。Brca1 を欠くマウスの胚に由来する細胞は、DNA損傷の修復に不具合を生じる[Gowenら1998]。興味深いことに、Brca1 ノックアウトマウスはTp53ノックアウトマウスとの交配によって部分的にレスキューが可能であり、これらの遺伝子がTp53介在DNA損傷チェックポイントと相互作用することが示唆される[Brugarolas & Jacks 1997]。従って、入手可能な証拠はBRCA1 がTP53のように「世話人」としてゲノムの整合性の維持を助けることを示している[Zhangら1998]。

異常な遺伝子産物

ほとんどのBRCA1の病原性変異はフレームシフトを起こしてタンパク質を産生しないか、あるいは非機能的なタンパク質を産生する。BRCA1生殖細胞病原性変異を有する患者のがんでは、正常な対立遺伝子が欠失または不活化されているため、BRCA1体細胞不活化が起こる。これによって、BRCA1はその欠失がゲノムの不安定化を招き、悪性転換への感受性を高める腫瘍抑制遺伝子である事が強く示唆される[Smithら1992Deng 2006]。腫瘍抑制機能を示唆するその他の証拠としては、古典的な腫瘍抑制因子であるTP53 や網膜芽細胞腫遺伝子(RB1)でみられるものと類似した増殖抑制が、BRCA1タンパク質の過剰発現によっても引き起こされることが挙げられる[Holtら1996]。

BRCA1 の機能喪失は、DNA修復の障害、転写の障害、異常な中心体の重複、不完全なG2/M細胞周期チェックポイント調節、正常に機能しない紡錘体チェックポイントおよび染色体の損傷を引き起こす[Brodie & Deng 2001Deng 2002Venkitaraman 2002]。

BRCA2

遺伝子の構造

BRCA2 は27のエキソンを含む10.4-kbの転写産物をコード化する。遺伝子とタンパク質の情報の詳細な概説は表Aの遺伝子を参照のこと。

病原性変異

BRCA1と同様にBRCA2では1800を超える病原性変異が同定されている。(詳細はTable Aを参照のこと) 全体のうち、BRCA1とBRCA2の分子遺伝学的検査を受けた被験者の約2.9%で、臨床的意義が不明な変異型が検出される[Eggingtonら2012]。この割合は過去10年間で大幅に低下した。(NHGRI-BICデータベースを参照のこと)将来的には、臨床的意義のない良性の変異型であることが証明される被験者もいれば、がんに罹患するリスクが高くなる被験者もいると考えられる。

低浸透度変異型

BRCA2の他の病原性変異とは独立して、浸透度は低いもののp.Lys3326Terが乳がん・卵巣がんを発症させるリスクに関連していることを示す証拠がある。これは、がん患者の国際コンソーシアムに基づいた大規模症例対照研究によって示された。このような関連をもたらす作用の生物学的機序を決定するためには更なる研究が必要とされる[Meeksら2015]。

表5 選択されたBRCA2 病原性変異

DNヌクレオチドの変化
(別名 1)
予想されるタンパク質の変化 参照配列
c.771_775delTCAAA
(999del5)
p.Asn257LysfsTer17 NM_000059?.3
NP_000050?.2
c.5946delT
(6174delT)
p.Ser1982ArgfsTer22
c.9976A>T p.Lys3326Ter

  変異型の分類に関する注記:表に記載された変異型は著者らによって提供された。GeneReviews のスタッフは変異型の分類を独立して検証していない。
命名に関する注記:GeneReviews はHuman Genome Variation Society (www?.hgvs.org)の標準的な命名規則に従う。命名の説明に関してはクイック・リファレンスを参照のこと

  1. 現在の命名規則に従わない変異型の名称

正常な遺伝子産物

BRCA2は3,418のアミノ酸から成る380-kdのタンパク質をコード化する。エキソン11に見られる8個の30-40残基から成るモチーフは、2型乳がん感受性タンパク質(BRCA2)とRAD51との結合を媒介する。BRCA2は正常な状態では核に存在するリンタンパク質である[Bertwistleら1997]。BRCA2には認識可能なタンパク質モチーフは存在せず、1型乳がん感受性タンパク質との間に明らかな関係も存在しない。

BRCA1と同様に、 BRCA2 は解析されたほとんどの組織と細胞のタイプで発現しており、これは乳房と卵巣に限定される組織特異的な表現型が、遺伝子の発現パターンによるものではないことを示唆する。BRCA2の転写は細胞周期のG1期の後期に誘導されS期中は高いままであるため、DNA合成への関与が示唆される[Rajanら1996Vaughnら1996].

BRCA2 はDNA修復プロセスに関与するようである。2型乳がん感受性タンパク質は、DNA二本鎖切断による相同組換えの主要な構成要素であるRAD51タンパク質と相互に作用する[Sharanら1997Wongら1997]。この相互作用を介してBRCA2はRAD51の可用性と活性を調節する。RAD51は一本鎖DNAを被膜して核タンパク質フィラメントを形成し、これは浸潤して相同なDNA二本鎖と対合し、鎖の交換を開始する[Venkitaraman 2002]。

マウスにおけるBrca2の完全な欠失は、細胞増殖の欠如を特徴とする胚致死をもたらす[Ludwigら1997Sharanら1997Suzukiら1997]。Brca2を欠くマウスの胚に由来する細胞は、DNA損傷の修復に不具合を生じるもので[Connorら1997Chenら1998b]、放射線と放射線類似作用に対して過敏である[Abbottら1998Biggs & Bradley 1998Chenら1998aMorimatsuら1998]。これはマンモグラフィーによるスクリーニングと治療法に密接な関係があると考えられる。

最後に、Brca2 ノックアウトマウスはTp53ノックアウトマウスとの交配によって部分的にレスキューが可能であり、これらの遺伝子がTp53介在DNA損傷チェックポイントと相互作用することが示唆される[Brugarolas & Jacks 1997]。従って、入手可能な証拠はBRCA2TP53のように「世話人」としてゲノムの整合性の維持を助けることを示している[Zhangら1998]。将来的にはおそらくBRCA2 は様々な細胞プロセスへの関与が示唆され、その一部が乳がん・卵巣がんの病因に関与するものであろう。

異常な遺伝子産物

現在までに報告されたほとんどのBRCA2の病原性変異は、タンパク質転写の未熟な短縮化が予測されるフレームシフト欠失、挿入またはナンセンス変異型であり、これは腫瘍抑制遺伝子の臨床的な意義を持つ変異型で期待される機能喪失と一致している。BRCA2を欠く細胞は、電離放射線に対する過敏性に反映されるように、二本鎖DNA切断の修復ができない[Venkitaraman 2001]。


更新履歴

  1. Gene Review著者: Julie O Bars Culver, MS, Judith L Hull, MS, Ephrat Levy-Lahad, MD, Mary B Daly, MD, PhD, Wylie Burke, MD, PhD.
    日本語訳者 :櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
    Gene Review 最終更新日: 2000.3.4. 日本語訳最終更新日: 2003.7.21
  2. Gene Review著者: Nancie Petrucelli, MS, Mary B Daly, MD, PhD, Julie O Bars Culver, MS, Ephrat Levy-Lahad, MD, Gerald L Feldman, MD, PhD, FACMG.
    日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
    Gene Review 最終更新日: 2005.12.5.  日本語訳最終更新日: 2005.12.2
  3. Gene Review著者: Nancie Petrucelli, MS, Mary B Daly, MD, PhD, Julie O Bars Culver, MS, Gerald L Feldman, MD, PhD, FACMG.
    日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学医学部遺伝医学・予防医学講座)
    Gene Review 最終更新日: 2007.7.19.          日本語訳最終更新日: 2008.3.24.
  4. Gene Review著者: Nancie Petrucelli, MS, Mary B Daly, MD, PhD, Gerald L Feldman, MD, PhD, FACMG.
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)  
    Gene Review 最終更新日: 2011.1.20. 日本語訳最終更新日: 2011.3.20.
  5. Gene Review著者: Nancie Petrucelli, MS, Mary B Daly, MD, PhD, and Gerald L Feldman, MD, PhD, FACMG.
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)  
    Gene Review 最終更新日: 2013.9.26. 日本語訳最終更新日: 2013.12.25.
  6. Gene Review著者: Nancie Petrucelli, MS, Mary B Daly, MD, PhD, and Tuya Pal, MD.
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)
    Gene Review 最終更新日: 2016.12.15.日本語訳最終更新日: 2016.12.25.
  7. [minor revision]
    Gene Review著者: Nancie Petrucelli, MS, Mary B Daly, MD, PhD, and Tuya Pal, MD.
    日本語訳者: 櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)
    Gene Reviews 最終更新日: 2016.12.15.日本語訳最終更新日: 2017.2.20.【項目】分子遺伝学の項目 翻訳を追加 (in present)

原文 BRCA1- and BRCA2-Assohciated Hereditary Breast and Ovarian Cancer

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