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遺伝性平滑筋腫症および腎細胞癌症候群
(Hereditary Leiomyomatosis and Renal Cell Cancer)

[Synonyms: HLRCC]

Gene Reviews著者: Manop Pithukpakorn, MD and Jorge R Toro, MD
日本語訳者: 松元加奈、古屋充子 (横浜市立大学医学研究科分子病理)                

Gene Reviews 最終更新日: 2015.8.6.日本語訳最終更新日: 2017.1.18

原文 Hereditary Leiomyomatosis and Renal Cell Cancer


要約

疾患の特徴 

遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群(HLRCC)は、皮膚平滑筋腫(保因者の76%に、単一若しくは複数病変として見られる)、子宮平滑筋腫(筋腫)や単発性腎癌に特徴づけられる。皮膚平滑筋腫は皮膚色〜薄茶色の丘疹または結節として、四肢や体幹、しばしば顔にも分布する。平均25歳で発症し、加齢とともにその大きさや数は増加する。子宮筋腫はHLRCCの女性の患者のほとんどに見られ、多発性でサイズも大きくなりやすい。診断年齢は18歳から52歳で、ほとんどが月経不順、過多月経、骨盤痛を経験する。腎癌は血尿、腰背部痛を来し、触診できる大きさの腫瘤は通常片側性かつ単発性で進行が速い。この腎癌は組織学的に乳頭状腎細胞癌 type 2や、管状乳頭状腎細胞癌(訳注:tubulo-papillary carcinoma と書かれてるがWHO分類に該当する病名はない)、集合管癌の像を呈する。HLRCCの患者のうち約10-16%に腎癌が発症する。またHLRCC関連腎癌と診断される年齢の中央値は44歳である。

診断・検査 

HLRCCの診断は、発病の原因となっているフマル酸ヒドラターゼ遺伝子(fumarate hydratase; FH)のヘテロ接合性変異を同定するとともに、以下の症状があれば確定される;多発性皮膚平滑筋腫;少なくとも一つ以上組織学的に確認できた平滑筋腫;単発性の平滑筋腫であってもHLRCCの家族歴がある;またはHLRCCの家族歴に関わらず腎臓に一つ以上管状乳頭状腎細胞癌、集合管癌もしくは乳頭状腎細胞癌 type 2がある。

非典型的な症状を呈しFHの胚細胞変異を検出できない患者に対してはFH酵素活性の測定値が代用される。

臨床的マネジメント 

病変の治療:
皮膚平滑筋腫に対しては外科的切除、凍結融解壊死療法、有痛性病変を取り除くレーザー治療が挙げられる。痛みに対する薬は、Caチャネル遮断薬、α遮断薬、ニトログリセリン、抗うつ薬、抗てんかん薬などを考慮する。子宮平滑筋腫に対する治療はゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト、抗ホルモン剤、鎮痛剤、筋腫核出術、子宮摘出術を考慮する。腎全摘術に関しては、腎癌患者ひとりひとりに合わせて熟慮すべきである。

定期検査 :
FHヘテロ接合性変異を有する人や、分子遺伝学的検査を行ってないが罹患リスクのある家族に対して以下のように施行する;1〜2年毎に皮膚の全身検査を行い、平滑筋肉腫を疑うような皮膚所見の有無を調べる;毎年婦人科の診察を行い、子宮筋腫の重症度や平滑筋肉腫を疑うような子宮所見の有無を調べる;正常ベースラインの保因者やフォローアップ中の患者に対して、毎年腹部MRIを行う;腎臓病変が同定された場合、CT検査(造影剤は症例により判断)、超音波検査、PET-CTによる代謝活性亢進部を同定し、HLRCCに精通した泌尿器腫瘍外科医による評価が必要となる。

リスクのある親族の検査 :
家系にFH胚細胞変異が同定されている場合、無症状だが罹患の可能性がある親族に対して分子遺伝学的検査を行うことは診断の確実性を高め、早期からの定期検査と治療提供を可能にする。家系におけるFH胚細胞変異が不明の場合は、FH酵素活性測定によって、リスクがある親族の疾患状態を明らかにすることができる。

遺伝カウンセリング 

HLRCCは常染色体優性遺伝する。HLRCC発端者の片親が臨床症状を有する、若しくはFHの変異を有しているなら、発端者のきょうだいは50%の確率で変異を受け継いでいる。HLRCC患者の子供も50%の確率で変異を受け継いでいる。症状の重症度は予測することができない。家系にFH変異がある場合、発症する危険がある妊娠に関しては出生前診断が可能である。(訳注:日本では本疾患に対する出生前診断は行われていない。)


診断

臨床診断

疑われる症状

以下に示す主要な特徴が1つ以上当てはまる患者は、遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群(HLRCC)を疑うべきである。

  • 皮膚平滑筋腫

HLRCC患者の大多数(76%)は単発性または多発性の皮膚平滑筋腫を呈する。

臨床的に皮膚平滑筋腫は皮膚色〜薄茶色の丘疹または結節として、体幹や四肢を中心に、時々顔にも分布する。症状は単発性、群発性、分節性、播種性など様々である。またHLRCC患者の40%では皮膚症状が軽く、病変は5個以下である[Wei et al 2006]。

組織学的には、細胞中央に棍棒状の核を有する平滑筋線維束が交錯しながら増殖している像が観察される。

  • 子宮平滑筋腫(子宮筋腫)

子宮筋腫はHLRCCの女性患者のほとんどに見られる[Toro et al 2003, Alam et al 2005, Wei et al 2006]。子宮筋腫は多発性でサイズも大きくなりやすい。女性では、皮膚平滑筋腫の罹患は子宮筋腫の罹患と関わりがある[Toro et al 2003, Alam et al 2005, Wei et al 2006]。

  • 腎癌

HLRCC患者の10〜16%は腎癌に罹患する[Toro et al 2003, Alam et al 2005]。多くの癌は乳頭状腎細胞癌 type 2で、明瞭な乳頭状構造と特徴的な組織病理像を示す[Launonen et al 2001, Toro et al 2003]。それ以外の組織型には、管状乳頭状腎細胞癌から集合管癌のスペクトラムが含まれる [Toro et al 2003, Wei et al 2006]。

確定診断

 HLRCCの表現型と思われる患者または家族に対して、HLRCCの臨床診断を以下に従い検討していかねばならない。

  • 大基準

組織病理学的に確認された、多発性皮膚平滑筋腫
               

  • 小基準
    • 外科的切除が必要とされるような、40歳未満に発症する症候的かつ/または多発性の子宮筋腫
    • 40歳未満に発症する乳頭状腎細胞癌 type 2
    • 以上の基準のうち1つを満たす発端者の第一度近親者

患者が大基準を満たした場合、HLRCCという臨床診断となり得る。少なくとも2つの小基準を満たした場合、HLRCCの可能性が疑われるかもしれない[Smit et al 2011]。

発端者のHLRCC診断は、以下の臨床症状を組み合わせながら、分子遺伝学的検査(表1)でFHのヘテロ接合性変異を同定することによって確定される

  • HLRCCの家族歴が無い多発性皮膚平滑筋腫(一つ以上組織学的に確認された平滑筋腫)
  • HLRCCの家族歴がある単発性の皮膚平滑筋腫
  • HLRCCの家族歴の有無に関わらず、管状乳頭状腎細胞癌、集合管癌、乳頭状腎細胞癌 type 2のいずれかが一つ以上見られる場合

注:

(1)一般人口における子宮筋腫の罹患率は高いため、単発性の子宮筋腫はFHのヘテロ接合性変異がある場合でさえ、HLRCCの診断には十分でない。

2) FH酵素活性を測定することは、非典型的な症状を呈する患者や、検出できないFH変異をもつ患者に対するHLRCCの診断に有用となることがある [Alam et al 2005, Pithukpakorn et al 2006] 。HLRCCと診断された患者全員にFH酵素活性の低下(60%以下)が見られた。

分子学的検査は、単一遺伝子検査複数遺伝子パネル検査の利用を含む。

  • 単一遺伝子検査

まず初めにFHのシークエンス解析が行われる。もし病的FH変異が見当たらない場合は、遺伝子領域の欠失/重複について解析する。

  • 複数遺伝パネル検査

FHや他の重要な鑑別疾患遺伝子を含む複数遺伝子パネル検査を考慮する(後述の鑑別診断 を参照)。

注:これらの遺伝子や複数遺伝子パネル検査の感度は、研究室環境や経年によって変わる。

表1. 

HLRCC診断で使われる分子遺伝学的検査

遺伝子 検査法 変異検出率2
FH シークエンス解析3 70%-90%4
欠失/重複解析5 1/206-1/77
  1. 染色体遺伝子座とタンパク質については文末Table A. Genes and Databasesを参照。
  2. この遺伝子のアレル変異については文末Table A. Genes and Databasesを参照。
  3. シークエンス解析は以下のごとく分類される;良性〜良性と考えられる;良悪不明;病的〜病的と考えられる。
    病的変異は、遺伝子内の数塩基レベルの欠失/挿入、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス変異を含みうる。一般に本疾患でエキソン規模や全領域の欠失/重複は見つかっていない。
  4. Toro et al 2003, Alam et al 2005, Wei et al2006, Gardie et al 2011, Smit et al 2011
  5. 標的遺伝子の欠失/重複解析によって遺伝子内の欠失や重複を見つけられる。使用可能な方法は以下の通りである;定量PCR;long-range PCR;MLPA;シングルエキソン欠失や重複を発見するために設計された標的遺伝子マイクロアレイ
  6. Smit et al 2011
  7. Ahvenainen et al 2008

臨床的特徴

臨床像

遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群(HLRCC)の臨床的な特徴は、皮膚平滑筋腫、子宮平滑筋腫(子宮筋腫)、かつ/または腎癌を含む。患者は多発性または単発性の皮膚平滑筋腫を呈すこともあれば、全く皮膚病変を持たないこともある。腎癌も単発癌のこともあれば、全くないこともありうる。子宮筋腫も同様である。疾患の重症度は家族内や家族間で著しく異なる[Wei et al2006]。

  • 皮膚平滑筋腫

臨床的に、皮膚平滑筋腫は皮膚色〜薄茶色の丘疹または結節として現れる。このような皮膚病変は平均25歳(10-47歳)で生じ、加齢とともに数や大きさは増加しやすい。罹患者は皮膚病変部が軽い接触や冷温に敏感であり、たまに有痛性であることに言及している。

組織学的には、細胞中央に棍棒状の核を有する平滑筋線維束が交錯しながら増殖している像が観察される。

  • 子宮筋腫

HLRCCの女性患者は一般の女性に比べ、より多くの子宮筋腫を若い年齢で発症する。診断時の年齢は18歳から52歳である (平均30歳)。子宮筋腫は通常多発性でサイズも大きくなりやすい。ほとんどの女性が過多月経、月経不順、骨盤痛を経験している。HLRCCで子宮筋腫を罹患している女性は、30歳以下という若い年齢(一般集団では45歳)で、症候性の子宮筋腫に対する子宮摘出、筋腫核出を施行している[Farquhar & Steiner 2002, Toro et al 2003, Alam et al 2005]。

  • 腎癌

腎癌の症状には血尿、腰背部痛、触診できる腫瘤が含まれる。しかし腎癌を罹患している患の者多数は無症状である。さらに、HLRCC患者の全てが腎癌治療のために病院を訪れたり腎癌を発症するわけではない。

ほとんどの腎癌は片側性かつ単発性であるが、少数の患者では多病巣的な腎癌が見られる。多発性の皮膚平滑筋腫を呈するHLRCCの患者のうち約10-16%では、腎臓の画像を撮った時点で腎癌になっていた[Toro et al 2003, Alam et al 2005]。腎癌が見つかる平均年齢は44歳である。他の遺伝性腎癌とは対照的に、HLRCC関連腎癌は進行性であり、患者13人のうち9人が診断から5年以内に腎癌転移で亡くなっている[Toro et al 2003]。

HLRCCと関連している腎癌は他に存在しない組織学的特徴を有しており、豊富な両染性の細胞質と、核内封入体様の大きな好酸性核小体を特徴とする腫大核からなる。これらの細胞学的な特徴は、最初の記載では乳頭状腎細胞癌 type 2に由来するとされていた。しかし近年の研究によって、HLRCCは乳頭状腎細胞癌 type 2から、管状乳頭状腎細胞癌、集合管癌にわたる腎癌のスペクトラムと関連があることが分かった[Wei et al 2006]。HLRCC関連腎癌は、将来的には腎腫瘍病理学で新たな組織型エンティティを作るかもしれない(訳注; 2016年発刊のWHO分類で、HLRCC関連腎癌は独立した組織型となった)。

  • 子宮平滑筋肉腫

HLRCCの女性患者全員が子宮平滑筋肉腫になる可能性が一般より高いか否かは定かではない。元々の記載によると、子宮平滑筋腫を有する11人の女性のうち2人が子宮平滑筋肉腫も有していたため、もし早期発見、早期治療されなければ、急速に進行していたかもしれないと報告されている [Launonen et al 2001]。FH胚細胞変異と子宮平滑筋肉腫を持つ女性は、これまで6人報告されてきた [Lehtonen et al 2006, Ylisaukko-oja et al 2006]。しかし他のコホート研究では、FH胚細胞変異を持つ女性における平滑筋肉腫罹患の報告はなく、また子宮平滑筋肉腫の罹患歴や家族歴を持つ3女性のうちFH胚細胞変異を持つ女性は皆無だった [Gardie et al 2011, Smit et al 2011]。FH胚細胞変異を持つ個人または家系は、一般的には子宮悪性腫瘍に罹患しやすいわけではないと考えられている。しかし、少数の個人または家系では、その危険性が高くなるようだ。北アメリカでは子宮平滑筋肉腫を有するHLRCC患者や家系は報告されていない。したがって、HLRCCの女性が子宮平滑筋肉腫になる危険性は不明である。

  • 他の疾患

4人が乳癌に、その他膀胱癌や両側性大結節性副腎皮質疾患、非典型的Cushing症候群、副腎偶発腫瘍、精巣ライディヒ細胞腫、卵巣嚢胞腺腫、消化管間質腫瘍(GIST)など様々な疾患が報告されている。これらの症状が本当にHLRCCと関連するのかどうかはまだ不明である[Alam et al 2005, Lamba et al 2005, Matyakhina et al 2005, Carvajal-Carmona et al 2006, Lehtonen et al 2006, Smit et al 2011]。

遺伝子型と表現型の関連

遺伝子型と表現型の関連について言及されたことはない。

特定のFH変異とHLRCCにおける皮膚性病変や子宮筋腫、腎癌との間に関連性はみられていない [Wei et al 2006]。

HLRCCに関連しているFH変異は、FHのN末端で多くなるよりむしろ、FH遺伝子座全体に分散している。HLRCCとフマラーゼ欠損症(後述)による疾患発症の比較は、以前から示唆されていたように、FHの変異の位置よりもその遺伝子量の違いが原因である可能性が高い [Tomlinson et al 2002]。

浸透率

三大臨床徴候に基づくと、HLRCCの浸透率は非常に高いと考えられる。しかし、一家族において確実にヘテロ接合性FH胚細胞変異を持っていながら無症状の個人が報告されている [Gardie et al 2011]。

病名

歴史的に見て、皮膚平滑筋腫が発症しやすい素因を、多発性皮膚平滑筋腫(multiple cutaneous leiomyomatosis;MCL)と呼んでいた。

[Reed et al 1973]は、3世代にわたって常染色体優性遺伝性に皮膚平滑筋腫と子宮平滑筋腫かつ/または平滑筋肉腫の症状を家系内に複数名持つ2家系を取り上げ、記載した。この論文では、彼らは子宮筋肉腫と転移性腎癌になった20歳の女性についても述べている。それ以降、皮膚平滑筋腫と子宮平滑筋腫の関係性は、Reed症候群と呼ばれた。

皮膚平滑筋腫と腎癌の明確な関連性について言及したのはLaunonenらが最初で[Launonen et al 2001]、彼らは皮膚平滑筋腫と乳頭状腎細胞癌 type 2を発症したフィンランドの2家系について報告した。遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群(HLRCC)と命名され、その疾患名はOMIM  605839で指定された(訳注: 現在はOMIM 150800)。'遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群'という用語は、皮膚平滑筋腫だけでは腎癌発症の可能性が鑑別できないことから、好意的に受け取られている。

頻度 

 様々な人口集団でHLRCC家系がこれまで300以上記載されている。


遺伝学的に関連する疾患

  • フマラーゼ欠損症(フマル酸尿症)

フマラーゼ欠損症は、FH両アレルの変異が原因で、筋緊張低下・てんかん・大脳萎縮のような急速進行性神経障害に特徴づけられる先天性代謝異常である。生殖細胞系列での、ホモ接合性もしくは複合ヘテロ接合性FH胚細胞変異が原因である [Coughlin et al 1998]。フマル酸尿症において平滑筋腫と腎癌は報告がない。しかしフマル酸尿症の患者のほとんどは数か月しか生存することができない。ごくわずかの患者は成人早期まで生きる。フマラーゼ欠損症患者の親(ヘテロ接合性変異保因者)は、HLRCCで見られるような皮膚平滑筋腫を発症していた[Tomlinson et al 2002]。フマル酸尿症患児の母親が腎癌で亡くなっていることから、フマル酸尿症患児と血縁関係にあるヘテロ接合性遺伝子保有者では、HLRCCのリスクが高くなると示唆される[Shih, 未発表]。遺伝様式は常染色体劣性である。

  • 体細胞性突然変異

FH遺伝子座でのヘテロ接合性消失(LOH)は、遺伝性疾患の特徴が無い早期発症型の孤発性子宮筋腫2例と下肢の軟部肉腫1例の病変部において同定されている[Kiuru et al 2002, Lehtonen et al 2004]。これら3例の腫瘍部ではFHの両アレル性不活化が示された。


鑑別診断

  • 皮膚病変

皮膚平滑筋腫は稀であり、HLRCCに特異的である。平滑筋腫は臨床的に様々な皮膚病変と似ているため、組織学的診断が求められる。

  • 子宮筋腫

子宮平滑筋腫は、一般女性の骨盤部良性腫瘍として最もありふれた疾患である。子宮筋腫の多くが孤発性で無症状である。

  • 腎癌

家族性腎癌症候群(表2)は、かなり特異的な腎病理像と関連する。それらを以下に示す。

  • フォンヒッペル・リンドウ(VHL)症候群

淡明細胞型腎細胞癌。VHL症候群の患者は、中枢神経系血管芽腫、網膜血管腫、褐色細胞腫、内リンパ嚢腫瘍のリスクが高い。常染色体優性遺伝である。

  • バート・ホッグ・デュベ症候群(BHDS)

腎オンコサイト―マ(良性)、嫌色素性腎細胞癌(悪性)、または両細胞を有する (いわゆるオンコサイトーマ様ハイブリッド腫瘍)腎腫瘍スペクトラムである。BHDSの患者は皮膚線維性毛包腫、多発性肺嚢胞、自然気胸を呈しやすい。常染色体優性遺伝である。

  • 遺伝性乳頭状腎細胞癌(HPRC)

乳頭状腎細胞癌type1になりやすい。常染色体優性遺伝である。

表2 家族性腎癌症候群の比較

病名 腎癌 皮膚病変 子宮筋腫 その他共通所見
HLRCC 乳頭状腎細胞癌type2 皮膚平滑筋腫 早期発症
多発性病変
なし
VHL症候群 淡明細胞型腎細胞癌 なし なし 中枢神経系血管芽腫
網膜血管腫
腎嚢胞
膵嚢胞・膵腫瘍
褐色細胞腫
BHDS 腎オンコサイト―マ
嫌色素性腎細胞癌
ハイブリッド腫瘍
線維性毛包腫
毛盤腫
軟性線維腫
なし 多発性肺嚢胞
HPRC 乳頭状腎細胞癌type1 なし なし なし

臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群(HLRCC)と診断された人の病変の範囲を確定するため、以下の評価が推奨されている。

  • 皮膚平滑筋腫の疑いがある病変の範囲を評価するために詳細な皮膚科精査を行い、その精査には組織学確定目的の生検も含む。
  • ベースライン評価における骨盤部の内診、骨盤部のMRI、経腟超音波検査で子宮筋腫の有無を検査する。
  • ベースライン評価において超音波検査やMRIで腎癌の有無を検査する。MRIが禁忌となる場合に備えて腹部コントラストCTスキャンを用意すべきである。[Ritzmann et al 2006].
  • 臨床遺伝学者や遺伝カウンセラーと相談する。

病変に対する治療

  • 皮膚病変

皮膚平滑筋腫は皮膚科医によって検査される必要がある。皮膚平滑筋腫の治療は困難である。

    • 外科的切除は孤発性有痛性病変に対して施行される可能性がある。
    • 凍結融解壊死療法やレーザー治療の適応がある。
    • Caチャネル遮断薬、α遮断薬、ニトログリセリン、抗うつ薬、抗てんかん薬などいくつかの薬剤は、痛みを軽減すると報告されている。
  • 子宮筋腫

子宮筋腫は婦人科医によって評価されるべきものである。HLRCCの子宮筋腫は、孤発性子宮筋腫と同じように治療される。しかしHLRCC女性患者のほとんどは、一般集団に比べて早い段階で内科的または外科的介入行為を必要とするかもしれない。薬物療法(ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト、抗ホルモン剤、鎮痛剤などを含む)は、外科的切除の前に筋腫を小さくするため、または症状を一時的に和らげるために、子宮筋腫の治療としてまず行われるだろう。可能であれば、子宮を温存しながら筋腫を核出する方法も治療選択肢となる。子宮摘出術は、本当に必要な場合にのみ行うべきである。

  • 腎癌

HLRCC関連腎癌を早く見つけることは重要である。他の遺伝性腎癌と比べれば、HLRCC悪性腫瘍の外科的切除は、早い段階で、かつ、より広範囲に行うことが必要である。より進んだ研究では、小さい腫瘍でさえ病理検査で高悪性度を示すことが示されている。HLRCC関連腎癌は、病気の進行が急速である。ゆえに、自然経過についてより多くの知見が得られるまでは、これらの腫瘍を注意深く管理しなければならない。HLRCC関連腎癌が急速に進行する性質を持っていることから、腎腫瘤が見つかった患者に対しては腎全摘を重視しなければならない。

定期検査

臨床経過観察に関して一致した見解はない。コンセンサス会議が行われるまでは、以下の推奨事項は暫定的である。

HLRCCの臨床診断を受けた患者、臨床症状はないがFHのヘテロ接合性変異を持つ患者、分子遺伝学的検査を受けていないが発症する可能性がある親族は、HLRCCの臨床症状に精通した医師によって以下に記した定期検査を受けるべきである。

  • 皮膚

皮膚病変の範囲と、平滑筋肉腫が疑われる病変の有無を評価するために、1〜2年に一度全皮膚を検査することが推奨されている。

  • 子宮

子宮筋腫の重症度と、平滑筋肉腫が疑われる病変の有無を評価するために、毎年婦人科を受診することが推奨されている。

  • 腎臓
    • 初期ベースラインの患者やフォローアップ腹部MRIを受けている患者に対して、年一度の腹部MRI検査が推奨される。CTは一生にわたって放射線被爆の可能性があるので、それがないMRIが好まれる。腹部CTスキャンはMRIが禁忌の場合に備えておく必要がある。
  • 前検査で疑わしい腎臓病変があった場合、造影剤の有無に関わらず、CT検査で病変を追跡する必要がある。腎臓超音波検査は嚢胞の特徴を捉えるのに役立つ。PET-CTも代謝活性が亢進している病変を同定するために追加されるかもしれない。注:超音波検査だけでは決して十分ではない。
  • HLRCC関連腎癌に精通している泌尿器腫瘍外科医による評価が必要となる。

リスクのある親族の検査

  • できるだけ早期に治療開始または予防することで恩恵を受ける可能性がある人を同定するために、リスクのある親族を調べることは適切である。
     
  • 家系にHLRCC変異があることが分かったら、症状はないが罹患している可能性がある親族に分子遺伝学的検査を行うことで診断の確実性を高め、保因者らに対する早期の定期検査や治療を可能にし、非保因者に対しては高額なスクリーニング検査の費用を抑えることができる。
  • 家系で胚細胞性変異が分かっていない場合、リスクのある親族の病態を評価するためにはFH酵素活性を用いることができる。早期に臨床症状を把握することで、タイミングよく医療介入し、患者の予後を改善するかもしれない。ゆえに、早期発見のために無症状だがリスクのある親族に対して定期検査を行うことは適切である。

 リスクのある親族を調べることに関する問題は、遺伝カウンセリング (後述)を参照せよ。

研究中の治療法

  • HLRCCと乳頭状腎細胞癌(乳頭状腎細胞癌 type 2を含む)の治療において抗VEGF阻害薬と新規のチロシンキナーゼ阻害薬に関するいくつかの研究が行なわれている[Linehan & Rouault 2013]。スニチニブを使った乳頭状腎細胞癌 type 2患者の無増悪生存が改善されることが以前の論文で報告されている[Choueiri et al 2008, ClinicalTrials.gov]。

    幅広い疾患や病状に関する臨床研究情報を得るには、ClinicalTrials.govを参照とのこと。

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群(HLRCC)は常染色体優性遺伝である。

患者家族のリスク

発端者の両親

  • HLRCCと診断された人の中には親が保因者のこともあれば、de novo変異の結果HLRCCになる人もいる。
  • de novo変異によって発症する症例の割合は分かっていない。なぜなら軽微な症状に関して評価されていない親が相当数いるうえ、その親の分子遺伝学的検査に関する十分なデータもないからだ。
  • 発端者で同定された胚細胞変異がいずれの親由来白血球DNAにおいても見つけられない場合、2通りの仮説が考えられる;片親に胚細胞のモザイク現象がある場合;あるいは発端者のde novo変異。胚細胞のモザイク現象例は報告されたことがないが、可能性として考えられる。
  • 発端者のFH胚細胞変異が同定されている場合、de novo変異のようにみえる発端者の両親には分子遺伝学的検査を含む評価が推奨される。
  • HLRCCと診断された患者の家族歴が一見無さそうに思われることもあるかもしれない。なぜなら、家族の症状を把握できなかったり、発症前に親が亡くなったり、親の発症が遅かったりするからだ。ゆえに、発端者の親に対して適切な検査(分子遺伝学的検査など)が行われてなければ、家族歴無しとは確定できない。

発端者の同胞 

発端者きょうだいのリスクは、親の遺伝子状態による。

  • 発端者の親が臨床症状を発症していたりFH胚細胞変異を持つ場合、きょうだいは50%の確率で変異を受け継いでいる。
  • 両親の白血球DNAに発端者と同じFH胚細胞変異が見つからなければ、きょうだいのリスクは低いが、胚細胞モザイク現象の可能性があるので、一般人よりリスクは高くなる。

発端者の子

  • HLRCC患者の子供は50%の確率でFH胚細胞変異を受け継ぐ。臨床的重症度は予測不可能である。

発端者の他の家族

  • 上記以外の家族のリスクは発端者の親の状態による。どちらかの親が発症、もしくは胚細胞変異を有している場合、その家族は発症する可能性がある。

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断、早期治療するため、リスクのある親族の健康管理や検査に関する情報は、上述のリスクのある親族の検査」を参照のこと。

胚細胞変異を受け継いだ人の表現型の予測

発症するか否かは予測することはできず、発症する場合も発症年齢、症状の重症度やタイプ、進行度は予測できない。

de novo変異と思われる場合の発端者家族に対する考察


HLRCC発端者のどちらの親にも胚細胞変異がなく臨床症状もなければ、そのFH変異はde novo変異であると考えられる。しかし、代理母や代理父(例えば補助生殖)といった医療以外のことに関する説明や、未公開の養子縁組が発覚するかもしれない。

リスクのある無症状の家族に対する検査

リスクのある家族への分子遺伝学的検査は、生涯にわたって定期検診を実施する必要があるかを見極めるには適切である。家系内における胚細胞変異が同定されている場合は最も正確な結果の解釈ができる。胚細胞変異を持つ人たちは、終生定期検診が必要となる。一方、変異を受け継いでいない家族やその子どものリスクは一般の人と同等である。

リスクのある患者を早期に同定することは健康管理に影響を与える。しかし、米国臨床腫瘍学会では、小児悪性腫瘍の発症リスクが増大しない場合は遺伝子検査を小児期には行わず、18歳になって遺伝子検査に対する意思決定ができるまで遅らせることを推奨している。

家族計画

  • 遺遺伝学的リスク評価や出生前検査の可否などについての議論は妊娠前に行うのが望ましい。同様に、リスクのある無症状の家族に対する遺伝学的検索も妊娠前に行うべきである。

DNAバンク

DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子、変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、DNA保存が考慮される。DNAバンクは特に分子遺伝学的検査の感度が100%でないような状況においてはことに重要である。  

出生前診断と着床前診断

ひとたびFH変異が家系内に見つかったら、リスクが高い妊娠かどうか知るために出生前診断、着床前診断を行うことができる (注:日本でこの疾患で出生前診断や着床前診断を行うことはできない).

Table A. Genes and Databases

遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群(HLRCC):遺伝子とデータベース

Gene Chromosome Locus Protein Locus Specific HGMD
FH 1q43 Fumarate hydratase, mitochondrial TCA Cycle Gene Mutation Database (FH) FH

更新履歴

  1. Gene Reviews著者:Manop Pithukpakorn, MD and Jorge R Toro, MD
    日本語訳者:松元加奈、古屋充子 (横浜市立大学医学研究科分子病理)
    Gene Reviews 最終更新日: 2015.8.6.日本語訳最終更新日: 2017.1.18(in present)

原文 Hereditary Leiomyomatosis and Renal Cell Cancer

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