[Synonyms: Hornstein-Knickenberg Syndrome]
Gene Reviews著者: Elke C Sattler, MD and Ortrud K Steinlein, MD.
日本語訳者:入部康弘(横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器科学)、古屋充子(市立札幌病院病理診断科)
GeneReviews最終更新日: 2024.12.5 日本語訳最終更新日: 2025.9.7.
疾患の特徴
Birt-Hogg-Dubé症候群(BHDS)の臨床的な特徴には皮膚症状(線維毛包腫、アクロコルドン、血管線維腫、口腔内丘疹、皮膚膠原腫、表皮嚢腫)、肺嚢胞/気胸歴、そして様々なタイプの腎腫瘍が含まれる。疾患の重症度は同一家系内でも患者により著しく異なりうる。皮膚病変は典型的には10代~30代に現れ、年齢とともにサイズも数も増加していくのが一般的である。肺嚢胞は主に肺底部に存在する。大抵は無症候性だが、自然気胸を発症するリスクが高い。腎腫瘍は両側性、多巣性であることもある。最も頻度の高い腎腫瘍はオンコサイトーマと嫌色素性のハイブリッド(oncocytic hybrid tumor)である。淡明細胞型やオンコサイトーマもよくある(訳注:WHO分類にはhybrid oncocytic tumorと記載がある。また淡明細胞型は低頻度である。)。診断・検査
発端者におけるBHDSの臨床診断は大基準1つ(線維毛包腫/毛盤腫が5個以上存在し、うち少なくとも1個は組織学的に確定)あるいは小基準2つ(両側性で肺底部に位置する肺嚢胞で他に成因のないもの、若年発症(50歳未満)の腎細胞癌、多巣性/両側腎細胞癌、嫌色素性とオンコサイトーマの混合組織像を示す腎細胞癌、第1度近親者がBHDSと診断されている)でなされる。分子的診断は、BHDSを示唆する何かしらの症状を呈する発端者に分子遺伝学的検査でFLCNの生殖細胞系列のヘテロ接合性病的バリアントを認めた場合に確定する。臨床的マネジメント
症状に対する治療:
線維毛包腫に対する外科的切除やレーザー治療は一時的な改善をもたらすが、病変はしばしば再発する。気胸に対しては一般的な治療を行う。反復性気胸には外科的介入を考慮する。3.0cm未満の腎腫瘍は経過観察可能である。それ以上のサイズの腎腫瘍については可能ならば腎部分切除術を選択可能だが、腫瘍のサイズと部位にもよる。
サーベランス :
肺嚢胞/気胸の呼吸器症候を評価する。気胸のリスクを上昇させる活動については相談する(職業パイロット、与圧装置のない航空機での飛行、ダイビング)。1年ごとの腹部/骨盤MRIによる腎病変の評価を20歳から開始するが、30歳未満の腎腫瘍罹患者家族歴がある場合はそれよりも早く開始する。MRI撮像ができない場合は腹部/骨盤造影CTとするが、被曝の累積による長期的な影響はわかっていない。
リスクを有する血縁者の評価:
分子遺伝学的検査を行い、家系特異的なFLCNの病的バリアントを有する者を早期に同定することは診断を確実なものとし、家系特異的な病的バリアントを受け継いでいないat risk血縁者にコストのかかるスクリーニングを行うことも少なくなる。肺嚢胞、線維毛包腫・毛盤腫のスクリーニングは、当該家系における病的バリアントが不明の場合に行うこともある。
遺伝カウンセリング
BHDSは常染色体顕性遺伝形式をとる。BHDSと診断された人の多くは親も罹患している。De novoでFLCN病的バリアントを有する人もいる。BHDSの人の子どもは50%の確率でFLCN病的バリアントを受け継ぐ。罹患している家系員のFLCN病的バリアントが同定されていれば、出生前/着床前遺伝学的検査が可能である。(訳注:日本では出生前/着床前遺伝学的検査にあたっては1症例ごとに日本産婦人科学会による承認が必要となる。本症候群に対する承認例は2025年9月現在、存在しない。)本疾患を示唆する所見
BHDSは以下の症状あるいは家族歴のうちいずれかでもあれば疑われるべきである。臨床症候
臨床診断
BHDSの臨床診断は発端者に大症状1つもしくは小症状2つが認められることによって確定する。 大基準 5個以上の線維毛包腫/毛盤腫が認められ、少なくとも1個は組織学的診断が確定している。小基準
分子診断
発端者におけるBHDSの分子診断は、これを示唆する所見に加え、分子遺伝学的検査でFLCNのヘテロ接合性病的(あるいは病的疑い)バリアントの同定により確定される(表1)。オプション1
表現型の所見がBHDSを示唆する場合、分子遺伝学的検査のアプローチは単一遺伝子検査あるいは多遺伝子パネル検査となる。オプション2
他の遺伝性疾患にも多くみられる顔面小丘疹と腎腫瘍に特徴づけられる鑑別困難な表現型の場合は、包括的ゲノム検査なら、関連していそうな遺伝子を臨床医が判断しなくてよい。エクソームシーケンス解析がもっとも多く利用されている。ゲノムシーケンス解析でもよい。遺伝子1 | BHDSのうち当該遺伝子の病的バリアントによる割合 | 検査手法 | 当該手法による発端者の病原バリアントの同定率2 |
---|---|---|---|
FLCN | 96% | シーケンス解析3 | ~88%-96%4,5 |
欠失/重複解析4 | <8%4 | ||
不明 | ~4% | 該当なし |
臨床像
Birt-Hogg-Dubé症候群(BHDS)の臨床的特徴には線維毛包腫(特異的皮膚病変)、肺嚢胞/気胸歴、様々な組織型の腎腫瘍が含まれる。疾患の重症度は同一家系内でも家系間でも著しく異なりうる。現在までに1,000人以上がFLCN病的バリアントを同定されている。以下では本疾患に関連する表現型を報告に基づき解説する。 表2.特徴 | 頻度 (生涯リスク) |
コメント |
---|---|---|
皮膚病変(例:線維毛包腫、アクロコルドン) | 87-97%1 | 皮膚症状が20歳未満で発症することは通常ない。 |
肺嚢胞 | 70-85%2 | 嚢胞が出現し始める時期は不明。小児期に発症している可能性がある。 |
再発性自然気胸 | 24-48%3 | |
腎細胞癌 | 15-30%4, 5 |
皮膚病変
BHDS患者には通常、皮膚色、くすんだ色、白色や黄色っぽい、線維毛包腫というドーム状小丘疹が多発する。これらの非癌性皮膚病変は10代から30代の間に発現し始める。70代までにBHDS患者にみられる最も頻度の高い皮膚症状である。最初の段階では典型的には顔面中心部(鼻やその周辺)や耳介後部にみられる。しばしば年齢とともにサイズ、数、分布を増していき、顔面、頸部、体幹上部に拡がる。皮膚病変の発症が遅いほど皮膚症状が軽い傾向がある。女性のほうが男性に比べて病変が小さく少ない傾向がある。発症年齢と症状の出方が多彩なため、特に若い患者ではBHDSの臨床診断につながりにくい。しかし、もしこの病変があればBHDSの有力な手掛かりとなる。病理組織所見で境界明瞭な線維化がみられ、箇所により傍毛包線維腫(しばしば真皮の毛包全体を置換する)、線維毛包腫(毛包上皮が指状伸長する)、毛盤腫(表皮下に位置し、多くは皮膚表面と並行である)と記載される。肺嚢胞と自然気胸
肺嚢胞は主に肺底部(胸膜下と肺内領域)に分布し、BHDSの成人で頻度が高い。1人あたりの肺嚢胞総数は0から166(平均16)である。不整形でサイズは様々である(1.0-30mm)。嚢胞は通常、正常な肺実質に埋没しており、(結節性硬化症でみられるような)増殖、(嚢胞性線維症でみられるような)炎症、(アミロイドーシスで起こるような)基質沈着の兆候はみられない。 発症年齢の平均は女性30.2歳、男性38.4歳で、自然気胸はしばしばBHDS患者の初発症候である(発症年齢:13-69歳)。多くの患者において気胸リスクは成人後期に低下する。これは肺嚢胞形成が主に若年者に限られた過程であることを示唆する。BHDS家系の健康な子どもに肺嚢胞スクリーニング目的で胸部CT検査をすることは現実的でない。したがって肺嚢胞が形成時期の年齢は不明である。腎嚢胞・腎腫瘍
BHDS関連腎腫瘍は両側性、多巣性の傾向があるが、単発のことも珍しくない。生殖細胞系列におけるFLCN病的バリアント保持者の腎腫瘍の頻度は19%から35%といわれている。この差は良性腎腫瘍を含めるか除外するかといった点のみならず確認バイアスを反映しているかもしれない。診断時年齢の中央値に性差はない(女性:54.5歳, 範囲37-79歳;男性:57歳, 範囲30-80歳)。発症時年齢の中央値は孤発性腎細胞癌(61.8歳)と比較してかなり若い[Furuya et al 2016, Sattler et al 2018b]。腎細胞癌の思春期発症例報告もある[Schneider et al 2018]。その他の所見
耳下腺腫瘍 BHDS患者の耳下腺オンコサイトーマはいくつか報告がある[Toro et al 2008, Yoshida et al 2018]。加えて多形腺腫[Palmirotta et al 2008]、Warthin腫瘍[Maffé et al 2011]が報告されている。両側耳下腺腫瘍も2例報告がある[Maffé et al 2011, Lindor et al 2012]。耳下腺腫瘍に対し特別なスクリーニングを行っていないにも関わらずBHDS患者でこの頻度で認めること、両側性・多発性に認めることから、耳下腺腫瘍はBHDSの症候と示唆される。 甲状腺の病理 BHDS患者の甲状腺癌はいくつか報告がある[Toro et al 2008, Kunogi et al 2010, Benusiglio et al 2014, Dong et al 2016, Pérez García et al 2017, Panagiotidis et al 2018]。多結節性甲状腺腫[Drummond et al 2002, Welsch et al 2005]、甲状腺結節や嚢胞例も報告されている。フランスからの報告ではBHDS患者20人中13人(65%)にエコーで甲状腺結節や嚢胞が認められたとある。髄様癌やその他の甲状腺癌は認められなかった。甲状腺結節や嚢胞が認められた人に甲状腺癌家族歴はなかった。全体として、FLCNの生殖細胞系列バリアントを有するBHDS家系10家系中9家系(90%)に甲状腺結節の罹患がみられた[Kluger et al 2010]。 大腸癌 HornsteinとKnickenberg[1975]は線維毛包腫と大腸ポリープを有する一家系を報告した(訳注:論文では線維毛包腫fibrofolliculomaではなく毛包周囲線維腫perifollicular fibromaと記載している)。Hornstein-Knickenberg症候群は今ではBHDSと同一と考えられる。BHDS患者やその家系員の大腸癌あるいは大腸ポリープ報告がいくつかあるが[Kayhan et al 2017, Motegi et al 2018]、大腸腫瘍とBHDSを関連付ける証拠については議論がある。特定の病的バリアントのみ大腸癌リスク上昇と関連すると示唆されているが、他の研究では確認されていない[Khoo et al 2002, Zbar et al 2002, Kahorski et al 2010](遺伝子型と表現型の関連および分子遺伝学の項を参照)。大腸癌の早期発症(50歳未満)は一般人口に比較してBHDSのほうがより多いかもしれない[Sattler et al 2021]。遺伝子型と表現型の関連
FLCNに関して遺伝子型と表現型の関連は認められていない。以下の関連は暫定的である。浸透率
三主徴に基づくと、BHDSの浸透率はかなり高いと考えられる。FLCNヘテロ接合性病的バリアント保持者の97%が生涯にBHDSの少なくとも一つの症候を発症する[Bruinsma et al 2023]。疾患名称
Hornstein-Knickenberg症候群は家族性の多発性毛包周囲線維腫およびスキンタグを記載しているが[Hornstein & Knickenberg 1975]、今ではBHDSと同一と考えられており、本疾患の名称としてより適切と考える者もいる[Happle 2020]。頻度
様々な人種から1,000以上の罹患家系が報告されている。表現型 | 遺伝子 | 疾患 | 遺伝形式 | 鍵所見 |
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BHDSとのオーバーラップ | BHDSと区別される点 | ||||
皮膚所見1 | CYLD2 | 多発性家族性毛包上皮腫(CYLD Cutaneous Syndrome参照) | 常染色体顕性 | 皮膚所見は診察時にBHDSと似ているようにみえるかもしれない。 | 毛包上皮腫(病理学的に区別されなければならない) |
MEN1 | 多発性内分泌腫瘍症1型 | 常染色体顕性 | 顔面血管線維腫、コラゲノーマ | 上衣腫、髄膜腫 | |
PTEN | Cowden症候群(PTEN過誤腫症候群参照) | 常染色体顕性 | 子宮内膜癌、腎癌 | 外毛根鞘腫、肢端角化症(病理学的に区別されなければならない)、粘膜病変 | |
肺嚢胞/気胸 | CFTR | 嚢胞性線維症 | 常染色体潜性 | 肺嚢胞のみ | 気管支拡張と炎症を伴う進行性閉塞性肺疾患 |
COL3A1 | 血管エーラス-ダンロス症候群 | 常染色体顕性 (潜性) |
肺嚢胞のみ(訳注:および自然気胸) | 自然気胸が初発の重要症候となりうる;血胸、血気胸、肺ブレブ、嚢胞性病変、出血性あるいは線維性結節 | |
FBN1 | FBN1関連Marfan症候群 | 常染色体顕性 | 肺嚢胞および自然気胸 | 肺ブラは典型的には上葉に分布する | |
SERPINA1 | α-1アンチトリプシン欠損症 | 注3参照 | 肺嚢胞のみ | 慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、ときに気管支拡張症 | |
TSC1 TSC2 |
結節性硬化症 | 常染色体顕性 | 肺嚢胞および皮膚丘疹(顔面血管線維腫) | 他の皮膚病変;低色素斑、散在性小白斑、顔面血管線維腫、シャグリンパッチ、頭部線維性局面、爪周囲線維腫; 肺リンパ脈管筋腫症 | |
腎癌4 | BAP1 | BAP1腫瘍易罹患性症候群 | 常染色体顕性 | 様々なタイプの腎細胞癌、皮膚悪性黒色腫 | 中皮腫、ぶどう膜悪性黒色腫 |
FH | FH腫瘍易罹患性症候群 (訳注:HLRCCと同義) |
常染色体顕性 | 様々なタイプの腎癌、皮膚平滑筋腫、子宮筋腫 | 腎腫瘍は通常単発で、オンコサイトーマや嫌色素性癌である可能性は低い。 (訳注:オンコサイトーマ様好酸性腫瘍もある) |
|
MAX SDHA SDHAF2 SDHB SDHC SDHD TMTM127 |
遺伝性パラガングリオーマ・褐色細胞腫症候群 | 常染色体顕性 | パラガングリオーマ、腎細胞癌(腎オンコサイトーマ様腫瘍を含む) | 消化管間質腫瘍(GIST) | |
MET | 遺伝性乳頭状腎癌(OMIM 605074) | 常染色体顕性 | 両側性・多発性1型乳頭状腎細胞癌 | ||
PTEN | Cowden症候群(PTEN過誤腫症候群参照) | 常染色体顕性 | 子宮内膜癌、腎癌、皮膚丘疹 | 良性過誤腫、乳癌・甲状腺癌その他癌リスク上昇; その他の皮膚症候(例:脂肪腫、毛根鞘腫、口腔内乳頭腫、陰茎の色素斑) | |
VHL | フォンヒッペル・リンドウ病 | 常染色体顕性 | 両側性・多発性淡明細胞型腎細胞癌; 褐色細胞腫のリスク上昇 | 中枢神経血管芽腫・網膜血管腫・内リンパ嚢腫瘍のリスク上昇 |
その他のBHDSとの鑑別で考慮すべき病態
診断がついたら行う評価
BHDSと診断された保持者について病気の程度とニーズを確認するために、表4に要約した項目の評価が(診断のための評価で実施されていなければ)推奨される。 表4.臓器/問題点 | 評価法 | コメント |
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皮膚 | 詳細な皮膚診察 | 20歳で開始する。 |
呼吸器 | 気胸リスクを高めるおそれのある活動を避けるよう話し合う(職業的パイロット、与圧装置のない飛行機でのフライト、ダイビング) | |
肺嚢胞や気胸視覚化のための胸部HRCTあるいはCT |
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腎 | 腹部/骨盤MRIを腎腫瘍のスクリーニングとして撮像する。 | 20歳で開始する。 |
遺伝カウンセリング | 遺伝の専門職1が行う。 | 家系図を作り、罹患者と家族にBHDSの遺伝様式、概要を伝え、医療介入を進めるとともに、個人の意思決定を支援する。 |
症状に対する治療
生活の質を向上させ、臓器機能を最大限にし、合併症を低減するためのサポーティブケアが推奨される。関連諸領域の専門家チームでの集学的ケアが望ましい(表5)。 表5.症状/問題点 | 治療 | 考慮されるべき事項/その他 |
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線維毛包腫 |
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BHDS患者の線維毛包腫に対するmTOR阻害薬ラパマイシンによる治療は、二重盲検ランダム化試験で効果が認められなかった。 |
肺嚢胞 |
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気胸 | 呼吸器専門医による標準的な治療 | 反復性気胸には外科的介入が考慮されるべきである。 |
腎腫瘍 |
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器官/問題点 | 評価法 | 頻度 |
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肺嚢胞/気胸 |
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肺CT |
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腎腫瘍 |
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回避すべき薬物や環境
以下のものは回避すべきである。リスクのある血縁者への検査
BHDSの人のきょうだい、両親、血縁者で、一見無症候だがリスクがあり、迅速な治療や予防措置から利益を得られる可能性がある人を、可能な限り早期に同定する目的で評価するのは適切である。評価法としては以下が含まれる。研究中の治療法
幅広い疾患と症状に関する臨床研究の情報へアクセスするには米国のClinicalTrials.govや欧州のwww.ClinicalTrialsRegister.euを検索するとよい。注:この疾患に関する治験はないかもしれない。(訳注:2025年現在、本邦ではBHDSに関する治験はない)「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
Birt-Hogg-Dubé症候群(BHDS)は常染色体顕性遺伝形式をとる。家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の同胞におけるリスクは発端者の親の臨床的/遺伝学的状態による。他の家族構成員
家系員のリスクは発端者の両親の状態に依存する。親がFLCN病的バリアントを有していれば、その家系員にリスクはある。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
リスクのある家系員への、早期診断・治療を目的とした検査に関する情報については、前出の「マネージメント」中の『リスクのある血縁者への検査』を参照。予測的検査(リスクを有する無症状の人に対する検査)
家族計画
DNAバンク
DNAバンクはDNA(典型的には白血球から抽出される)を将来利用する必要に備えて保存しておくものである。将来的に検査の方法論も、遺伝子・発病メカニズム・疾患に関する我々の理解も向上する可能性が高いため、分子診断が確認されていない(原因となる発病メカニズムが不明である)発端者のDNAを保存することを考慮するべきである。より詳細な情報はHuang et al [2022]を参照。出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
FLCN病的バリアントが罹患家系員に認められた場合、BHDSの出生前/着床前遺伝子診断を行うことも可能である。(訳注:本邦では日本産婦人科学会の承認が必要となる。また2025年9月現在、本邦でBHDSの出生前/着床前診断の報告例はない。)
出生前/着床前診断の利用に関して、医療専門家間でも、また家族ごとでも見解の相違が生じることがある。多くの医療専門家は出生前/着床前診断の適用は個人の判断に委ねられるものと考えるだろうが、これらの問題について議論することは有益であるかもしれない。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。表A:Birt-Hogg-Dubé症候群:遺伝子とデータベース
Gene | Chromosome Locus | Protein | Locus-specific Databases | HGMD | Clin Var |
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FLCN | 17p11.2 | Folliculin | Folliculin (FLCN) @ LOVD | FLCN | FLCN |
データは次のレファレンスより集めた。
遺伝子 HGNC
遺伝子座 OMIM
蛋白 UniProt
リンクを貼ったデータベースの説明はこちら。
表B:Birt-Hogg-Dubé症候群のOMIMエントリー (View All in OMIM)
135150 | BIRT-HOGG-DUBE SYNDROME 1; BHD1 |
607273 | FOLLICULIN; FLCN |
分子病態
Birt-Hogg-Dubé症候群(BHDS)の責任遺伝子である癌抑制遺伝子、FLCNはフォリクリンfolliculin(FLCN)蛋白質をコードしている。FLCNは普遍的に発現しており、進化を通じて高度に保存されていて、細胞生理におけるいくつかの重要な経路をコントロールしていると考えられている。細胞質におけるグアニンヌクレオチド交換因子として働き、腫瘍形成と正常の細胞内代謝の両方に重要な様々なシグナル伝達経路、具体的にはmTOR、AMPK、EGFRシグナリング、そしてHIF1αなどとリンクしている[Yan et al 2014, Laviolette et al 2017, Haley et al 2018, Zhao et al 2018, Collodet et al 2019, Martínez-Carreres et al 2019]。FLCNは様々な役割を担っているようであり、(とりわけ)線毛形成、オートファジー、リソソーム生合成に関与している。相互作用蛋白質はいくつか同定されており、FLCN interacting protein 1/2(FNIP1/FNIP2)、TOR signaling pathway regulator(TIPRL)、SIN1、RAG GTPaseがこれに含まれる。アミノ酸飢餓状態の細胞ではFLCN-FNIP複合体がリソソームへリクルートされることがわかっている。これはGATOR1とRagA/B GAPにより調節されている栄養依存的機構である[Meng&Ferguson 2018]。これによりFLCNがアミノ酸依存的にmTORを活性化できるようになるというのは、細胞生理的にも腫瘍形成的にも鍵となるプロセスである。FLCNは細胞の多能性喪失過程において状況依存的な役割も担っているようで、これも腫瘍発育にとって重要なメカニズムである[Mathieu et al 2019]。
疾患発症メカニズム 機能喪失
表7.
このGeneReviewで参照されているFLCN病的バリアント
参照配列 | DNAヌクレオチドの変化 | 予測される蛋白質変化 | コメント[参照文献] |
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NM_144997.7 NP_659434.2 |
c.1285delC | p.His429ThrfsTer39 | 最も頻度の高い病的バリアント、20-24%の家系でみられる[Sattler et al 2018b]。 |
c.1285dupC | p.His429 ProfsTer27 | ||
c.1347_1353dupCCACCCT | p.Val452ProfsTer6 | 日本人罹患家系の16-32%でみられる[Furuya et al 2016, Iwabuchi et al 2018]。 | |
NM_144997.7 | c.1062+2T>G | -- | オランダの創始者バリアント(罹患者/罹患家系の7.7%)[Rossing et al 2017]。 |
ここで挙げたバリアントは著者によりリストアップされたものである。GeneReviewsのスタッフにより独自に検証されたものではない。
GeneReviewsではHuman Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準的な命名規則に従っている。命名法の説明についてはクイックリファレンスを参照。
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