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ムコ多糖症ⅣA型
(Mucopolysaccharidosis TypeⅣA)

[同義語:MPSⅣA, Morquio A Disease, Morquio Syndrome Type A]

Gene Reviews著者: Debra S Regier, MD, PhD, Matthew Oetgen, MD, and Pranoot Tanpaiboon, MD.
日本語訳者: 和田宏来(県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)         

Gene Reviews 最終更新日: 2016.3.24.日本語訳最終更新日:2017.6.29.

原文 Mucopolysaccharidosis TypeⅣA


要約

疾患の特徴 

ムコ多糖症ⅣA型(MPSⅣA)の臨床型スペクトラムは、重症で急速に進行する早期発症型から緩徐に進行する後期発症型まで幅広く連続している。ムコ多糖症ⅣA型患児は、出生時にははっきりとした臨床所見を認めない。重症型は通常1-3歳の間に明らかになってくるが、脊柱後側弯症、X脚(外反膝)、鳩胸がしばしば初発症状となる。緩徐進行型は小児期後期/思春期まで明らかにならないことがあり、初発症状はしばしば臀部の問題(疼痛、こわばり、レッグ・ペルテス病)である。進行性の骨・関節病変のため低身長となり、やがて動けないほどの痛みや関節炎をきたす。他の臓器系統の病変により、呼吸器合併症、睡眠時無呼吸、心臓弁疾患、聴覚障害、角膜混濁による視覚障害、歯の異常、肝腫大など、重大な障害が引き起こされる。脊髄の圧迫はよく認められる合併症で、神経障害をきたす。発症初期における患児の知能は正常である。

診断・検査 

ムコ多糖症ⅣA型の診断は、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ(N-acetylgalactosamine 6-sulfatase, GALNS)酵素活性の測定、もしくは分子遺伝学的検査でGALNS遺伝子の両アレル病原性変異を同定することによりなされる。

臨床的マネジメント 

症候の治療:
酵素補充療法(エロスルファーゼアルファもしくはビミジム®)が利用可能であるが、ムコ多糖症ⅣA型の骨格異常やそれ以外の異常に対する長期的な効果については不明である。ムコ多糖症ⅣA型患者の評価・治療は、複雑な医学的問題を抱える患者の診療を得意とする医師と協力しながら、複数の専門家が協同して行うのが最もよい。物理医学専門医(physiatrists)、理学療法士、作業療法士は可動性や自律性の最適化を補助する。心理的サポートにより、対処能力やQOLを最適化することができる。教職者は医学的に虚弱な患者の学習環境を最適化することができる。下肢のアライメント異常、股関節亜脱臼や股関節痛、上位頸椎不安定症、進行性の脊柱後弯症に対してしばしば外科手術が必要となる。上肢の治療に、外側の手関節固定装具もしくは部分/全手関節固定術などを行うことがある。心臓弁疾患に対して生体弁/人工弁置換術を必要することがある。上気道閉塞や閉塞性睡眠時無呼吸では、肥大した扁桃/アデノイドを切除する。びまん性の気道狭窄に対して、陽圧換気や気管切開を必要とすることがある。角膜混濁に対する角膜形成術の転帰はさまざまである。難聴に対して、はじめは換気チューブ、後に補聴器によって治療することが多い。

二次合併症の予防:
脊椎奇形に続発する麻酔の術前/術後合併症や気道管理の難しさを予測しておく必要がある。すべての患者は、定期接種と同様にインフルエンザや肺炎球菌の予防接種を受けるべきである。人工弁置換術を受けた患者、心臓弁修復術で人工物を使用した患者、感染性心内膜炎の既往がある患者では感染性心内膜炎の予防が推奨される。

定期検査:
酵素補充療法を受ける患者:少なくとも6ヶ月ごとに身体診察を行う。QOLの指標や肺機能を年1回評価する。

すべての患者:心臓血管系、肺、筋骨格系、神経系の機能を評価するために年1回負荷試験をおこなう。上下肢の機能やアライメント異常、股関節の形成不全や亜脱臼、胸腰椎の後弯症を認めないか年1回評価する。脊髄圧迫を評価するため6ヶ月ごとに神経学的診察と頸椎X線を行う。1~3年ごとに全脊椎MRIを行い屈曲・伸展像を撮影する。心拍数の評価と心電図を年1回、疾患の経過により心エコーを1~3年ごとに施行する。閉塞性睡眠時無呼吸に対する評価や肺機能検査を年1回行う。ムコ多糖症ⅣA型患者用の成長曲線を用いて栄養状態を評価する。外来受診時に毎回視力検査や眼科検査、歯科診察を6~12ヶ月ごと、聴力検査(オージオグラム)を年1回施行する。

避けるべき薬物/環境:
過剰な体重増加、β遮断薬は避けるべきである。

遺伝カウンセリング 

ムコ多糖症ⅣA型は常染色体劣性遺伝性疾患である。受胎時に罹患者の同胞が罹患している確率は25%、無症候性キャリアである確率は50%、罹患もしておらずキャリアでもない確率は25%である。リスクのある家族に対する保因者診断やリスク妊娠における出生前診断は、家系での病原性変異が同定されている場合可能である。


診断

示唆される所見

病歴、身体診察、骨格系X線、眼科診察で以下のような所見を認めた場合にムコ多糖症ⅣA型を疑うべきである

病歴

身体診察

重症のムコ多糖症ⅣA型では、通常以下の所見を1~3歳の間に認める。緩徐進行型では、以下の所見は10代になるまで明らかにならないことがある。

fig1

図1 15歳男性、手関節が腫大しており尺側に偏位している

fig2
図2 15歳男性、短い前腕と手関節の尺側偏位を認める

fig3
図3 15歳男性、胸部の異常および短い頸部を認める

fig4
図4 15歳男性、側面像で重度の鳩胸を認める

fig5
図5 15歳男性、重度のX脚(外反膝)を認める

骨格系X線

眼科診察

角膜混濁、乱視、網膜症による視力障害を認める。

示唆される検査所見

注:尿中グリコサミノグリカン量の異常を伴って、もしくは伴わずに、一部の患者に(定性分析で)ケラタン硫酸が認められている。

診断の確定

発端者におけるムコ多糖症ⅣA型の診断は、(1)培養線維芽細胞もしくは白血球でN-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ(GALNS)酵素活性が低い、もしくは(2)分子遺伝学的検査でGALNS遺伝子に両アレル変異を認めることで確定する(表1を参照)。

分子検査には単一遺伝子検査しくは多遺伝子パネルがある。

注:(1)パネルに含まれる遺伝子やそれぞれの遺伝子に用いられる検査の感度は検査機関や時期によって異なる。(2)一部の多遺伝子パネルには、このGeneReviewで触れていない病態と関連する遺伝子も含まれている可能性がある。そのため、臨床医は多遺伝子パネルがもっとも合理的なコストでその病態の遺伝的な原因を追究できるかどうかを見極める必要がある。

分子遺伝学的検査

IDS遺伝子変異の同定により、男性発端者におけるムコ多糖症Ⅱ型の診断が確定する。また、IDS遺伝子変異の同定は、臨床型が非典型的な場合もしくはグリコサミノグリカン分析結果と臨床型が合わない場合に有用なことがある。
ムコ多糖症Ⅱ型患者のIDS遺伝子変異には大きく3つのタイプがある。

表1ムコ多糖症ⅣA型で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 検査方法 検査方法によって同定された変異2
を有する発端者の頻度
GALNS シークエンス解析3 94%4
標的遺伝子の欠失/重複解析5 2%-3%6,7
  1. 染色体座位と蛋白については、表A「遺伝子・データベース」を参照。
  2. この遺伝子で同定されたアレル変異に関する情報については、「分子遺伝学」の項を参照。
  3. シークエンス解析では、良性の変異、良性と考えられる変異、臨床的意義が不明の変異、病原性と考えられる変異、病原性変異が検出される。病原性変異には、小さな遺伝子内欠失・挿入、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス部位変異が含まれるが、典型的にはエクソンや遺伝子全体の欠失/重複は検出できない。シークエンス解析の結果の解釈について考慮すべき問題はこちらをクリック。
  4. Caciottiら(2015)。遺伝子変化の多くはヌクレオチド1-2個の増減であるが、イントロン変化はその9%を占める。
  5. 標的遺伝子の欠失/重複解析では遺伝子内欠失/重複を同定する。用いられる方法には、定量PCR、ロングレンジPCR、MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法、単一エクソンの欠失/重複を検出する標的染色体マイクロアレイ解析などがある。
  6. 病原性変異の約2.7%は大きな欠失による。
  7. 1例は16番染色体のテロメア末端の母性ダイソミーを有して発症、2例はGALNS遺伝子のエクソン10-14およびエクソン9-14を含む大きな欠失を有していた。これは染色体マイクロアレイ法(chromosomal microarray, CMA)によって同定されることがある。

以下の場合にGALNS酵素活性を用いることができる。

くわえて、酵素解析によるムコ多糖症ⅣA型の確定診断は、意義不明のシークエンス変異の解釈に役立つ可能性がある。GALNS酵素活性は培養線維芽細胞/白血球で測定できる。各検査機関で酵素活性の正常範囲は異なるため、検査機関が異なる場合は結果を直接比較することはできない。残存酵素活性の値は疾患の重症度と相関する可能性がある。

注:

  1. 酵素活性の低下は以下のような他疾患でも認めうる。
  1. ムコ多糖症ⅣA型とⅣB型の臨床症状は区別できないため、慣習的に同時にB-ガラクトシダーゼ酵素活性を測定する。

臨床的特徴

臨床像

ムコ多糖症ⅣA型の臨床像は、重症で急速に進行する早期発症型から緩徐に進行する後期発症型まで幅広く連続している。過去には、この両者は身長、骨の変形による主観的な重症度評価、生存率から区別していた。しかし、臨床所見および生化学所見のいずれによっても2つの病型を明確に区別することはできない。そのため、ムコ多糖症ⅣA型の臨床型は重症から緩徐進行型まで連続的であると考えるべきである。

患児は出生時には明らかな臨床所見を認めない。重症型は通常1-3歳の間に顕在化してくる。緩徐進行型は小児期後期もしくは思春期まで明らかとならない可能性がある。

両病型とも、初発症状はさまざまで1つのことも複数のこともある。脊柱後側弯症、X脚(外反膝)(図5)、鳩胸(図3および図4)が重症型でもっとも多い初発症状である。対して、(大腿骨近位部の圧壊や平坦化による)疼痛や硬直を含む股関節の問題は緩徐進行型で多い初発症状である。

過去に報告されたムコ多糖症ⅣA型の自然歴はⅣA型(モルキオ症候群A型、患者の95%以上を占める)とⅣB型(モルキオ症候群B型、患者の5%未満)を区別していないため、以下の情報はⅣA型・ⅣB型両方に関連する。

骨格系の異常はⅣA型の代表的な特徴であるが、他の臓器系統の病変により、呼吸器合併症・閉塞性睡眠時無呼吸・心臓弁疾患・聴力障害・角膜混濁・歯の異常・肝腫大といった重大な症状をきたしうる。とくに後年になって疾患に気付かれた場合は脊髄の圧迫により神経障害を呈している。

粗な顔貌も認められるが他のムコ多糖症よりも軽度である。

ムコ多糖症ⅣA型患児の知能は典型的には正常である。

靭帯弛緩や過可動関節はムコ多糖症ⅣA型に特有の徴候であり、他の蓄積病ではまれである。

筋骨格系

骨格系の異常は経過とともに悪化する。骨・関節病変は疼痛や関節炎を起こし、ひいては身体障害に至る。
上肢病変も進行性であり、手-手関節の筋力が低下し、フォークを使うなど日常生活の活動が一部制限されうる。手関節の過可動と尺側偏位はムコ多糖症ⅣA型に特有の徴候である。

下肢病変は広く認められ、未治療の場合進行性であり、一般的には進行性の股関節亜脱臼によるアライメント不整および外反変形を呈する。それにより歩行に著しい変化を認めうる。活動により臀部・膝・足関節が痛む。持久力が低下する。
膝および足関節の外反はもっともよく認められる下肢の変形である。X脚(外反膝)は大腿骨遠位部と脛骨近位部の病変や関節の弛緩による。

PEDI(Pediatric Evaluation of Disability Inventory)やFIM(Functional Independence Measure)を用いた縦断研究では、ムコ多糖症Ⅳ型患者の関節可動域は大きく制限され、一般的に晩期には歩行不能となることが示された。可動域の最適化のためには、理学療法士およびリハビリの専門家から構成されるチームによる積極的かつ長期的な介入がしばしば必要となる(「臨床的マネジメント」を参照)。

股関節形成異常 疾患早期では、大腿骨頭は小さく寛骨臼は浅い。大腿骨頭および寛骨臼の破壊が進行して股関節脱臼・関節炎・重度の関節可動域制限をきたし、歩行不能となる。

脊髄圧迫はどの脊髄分節でも起こることがある。頸髄圧迫がもっともよく認められる。頸椎不安定症、異常な歯突起に合併した非石灰化線維軟骨、靭帯弛緩、環軸椎関節における軟骨・靭帯の肥大、硬膜外腔へのグリコサミノグリカン蓄積、椎間板突出、胸腰椎後弯症、後天性の脊柱管中心部狭窄によっても脊髄圧迫は起こりうる。

環軸椎不安定症をきたす歯突起形成不全は患者の90%に認められ、のちに上位頸髄の圧迫を起こすことがある(図6)。
大したことのない転落や頸部進展で四肢不全麻痺/突然死をきたしうるため、環軸椎不安定症を有する場合、未治療ではしばしば10-20代を超えて生存できない。

脊柱管狭窄はびまん性もしくは限局性である。脊柱管狭窄症の原因は脊髄圧迫の原因と類似しており、脊柱後弯症、椎間板突出、後縦靭帯の全体的な肥厚、グリコサミノグリカン蓄積による椎間靭帯の肥厚などがある。

年長患者では腰椎アライメント不整(すなわち胸腰椎後弯症)により限局性の脊柱管狭窄症、圧迫性脊髄症、対麻痺に至ることがある。

靭帯弛緩による関節過可動はよく認められる。しかし、関節可動域の減少も膝・股・肘といった大関節で見られうる。

神経系

診断時、典型的にはムコ多糖症Ⅳ型(すなわちⅣA型およびⅣB型)患者の発達は正常で、知能も正常である。ムコ多糖症Ⅳ型の神経学的所見は、ほとんどの場合頸髄や腰髄の異常に続発する。神経学的合併症のリスク上昇により、ムコ多糖症ⅣA型患児は非罹患者よりも発達遅滞や学習障害が多く認められる。

血管周囲腔が目立つ、側脳室の拡大、前頭部の脳脊髄液が目立つといった些細な脳MRI異常がムコ多糖症ⅣA型患者14人のうち8人で認められたと報告されている。同じ研究では認知機能を評価しており、不安・抑うつ・注意持続時間の減少・身体的愁訴を含む行動上の問題が明らかとなった。これらの所見が、疾患に特異的な生化学的異常によるのか、もしくは慢性疾患によるのか、それともその2つの組み合わせによって起こるのかは不明である。

循環器

循環器合併症には、心室肥大、早期発症で重症の弁疾患などがある。冠動脈内膜硬化も報告されている。
ムコ多糖症ⅣA型患者325人を対象とした多施設・多国籍の横断研究(MorCAP)では、弁逆流症は弁狭窄症よりも多く認められた。弁逆流症のなかで、三尖弁逆流症が最も多かった(35%)。僧帽弁逆流症、大動脈弁逆流症、肺動脈弁逆流症がそれぞれ25%、19%、14%に認められた。ムコ多糖症ⅣA型患者は通常、小さな左室径と少ない心拍出量を代償するため心拍数の増加や心拍出係数の上昇がみられる。

呼吸器

呼吸器合併症は重大な症状/死因の主たる原因である。気道閉塞、睡眠時呼吸障害、拘束性肺疾患が報告されている。アデノイド(咽頭扁桃)、口蓋扁桃、咽頭、喉頭、気管、気管支樹(bronchial tree)へのグリコサミノグリカン蓄積により、扁桃肥大、気管の歪み(tracheal distortion)、気管/気管支軟化症、閉塞性睡眠時無呼吸を呈する。気管や気管支へのグリコサミノグリカン沈着により気道が歪み、弯曲や頸部屈曲時に気道閉塞をきたすこともありうる。(とくに頸椎融合/安定化手術を施行中に)気付かれていない場合や屈曲位で頭頸部が癒合している場合、急な閉塞で抜管に至ることがある。

拘束性肺疾患は、小さな胸郭、胸壁異常、脊椎変形、頸髄障害、肝腫大による横隔膜挙上などにより起こる。
環軸椎不安定症や上気道閉塞のため、頸部の伸展を保ち気道の歪みを最小限にするように、ムコ多糖症ⅣA型患者は平坦な場所では枕をつかわず腹臥位を好む。

呼吸器合併症に気付かれていないか未治療の場合、肺性心や呼吸不全をきたし、早期に死亡する。

成長

ムコ多糖症ⅣA型患児の出生時体重は正常で、身長はより高い。

1~3歳の間に非罹患者に比べて成長速度は低下する。

18歳における平均身長は、非罹患者では男性177cm、女性163cmであるのに対し、男性123cm、女性117cmである。

ムコ多糖症ⅣA型患者の50%以上に眼科的所見が認められる。自然経過の研究は行われていない。そのため、眼科的所見の発症年齢を予測することはできない。

もっとも多く認められるのは、患者(1-65歳)の50%に認められる緩徐に進行する角膜混濁である。

より少ない他の眼科的所見には、乱視、白内障、点状水晶体混濁、開放隅角緑内障、視神経乳頭腫脹、視神経萎縮、網膜症がある。眼窩が浅いため眼が突出する偽眼球突出は兎眼性角膜炎を起こし、外見上の問題にもなりうる。

乳歯の萌出は正常で、間隔は広く、薄い不整な(小さな斑点で覆われた)エナメル質で変色しており、小さな突起のある歯尖は正常な摩耗で次第に平らとなる。

永久歯もエナメル質の形成不全が認められる。

聴覚

ムコ多糖症ⅣA型では軽度~中等度の難聴はよく認められる。聴力障害はしばしば10歳になる頃に認められる。

混合性難聴(すなわち伝音性および感音性の両方)は、伝音性、感音性単独よりも多くみられる。

伝音性難聴は反復する中耳の感染症、滲出性中耳炎、耳小骨の変形などによる。

内耳もしくは中枢神経系へのグリコサミノグリカン蓄積による感音性難聴が報告されている。

遺伝子型と臨床型の関連

欠失やノンセンス変異のような、蛋白機能を重度に障害すると予測されるGALNS遺伝子の変化は、成長障害が急速に進行する患者でよく認められる。

対照的に、p.Thr312Serのような保存的な変化を有する患者の臨床型はより軽症の傾向にあり、酵素活性が部分的に保たれているためである可能性が高い。

c.898+1G>Cのホモ接合を有する患者は緩徐に進行する経過をとる。

命名

ムコ多糖症ⅣA型(N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ欠損もしくはGALNS遺伝子の両アレル病原性変異)やムコ多糖症ⅣB型(B-ガラクトシダーゼ欠損もしくはGLB1遺伝子の両アレル病原性変異)の基礎が理解されるより以前から、古くからたくさんの研究が行われ、より詳細に自然歴が記述されてきた。そのため、ムコ多糖症Ⅳ型という病名は、酵素や分子学的診断によらず臨床診断に基づく。その一方で、より特異的なムコ多糖症ⅣA型やⅣB型という病名は酵素/分子学的診断による。

モルキオ症候群としても知られるムコ多糖症ⅣA型は、Morquio(1929)とBrailsford(1929)によって初めて特徴がまとめられた。

ムコ多糖症ⅣA型およびⅣB型は、それぞれモルキオ症候群A型およびB型として知られている。

発生率

ムコ多糖症ⅣA型はまれである。オーストラリアでの発生率は926,000人に1人と推定されている。一方、英国では599,000人に1人と推定されている。複数の国における出生有病率は71,000~599,000人に1人である。ドイツからの報告によると、ムコ多糖症ⅣA型の発生率は270,000人に1人、ⅣB型は1,000,000人に1人未満である。同様に、イタリアにおけるムコ多糖症ⅣA型の発生率は、出生300,000人に1人と推定されている。


遺伝学的関連(アレル)疾患

このGeneReviewで述べている他にGALNS遺伝子変異と相関する臨床型はない。


鑑別診断

ムコ多糖症ⅣB型 もっともムコ多糖症ⅣA型に類似しているのはムコ多糖症ⅣB型であり、B-ガラクトシダーゼ酵素をコードするGLB1遺伝子の両アレル変異によりケラタン硫酸の蓄積が起こる。ムコ多糖症Ⅳ型の臨床所見を呈するほとんどの者において、ⅣA型とⅣB型の鑑別は生化学検査や分子遺伝学的検査によってのみ行える。

GLB1遺伝子の両アレル変異は、神経学的予後が悪く骨系統疾患を伴うライソゾーム病であるGM1ガングリオシドーシスも起こす。GM1ガングリオシドーシスの臨床像は、乳児型、乳児後期型、若年型、成人型と連続している。乳児型ではしばしば2歳までに死亡するが、成人型では生命予後は悪くないことがある。

ムコ多糖症ⅣB型で同定される新規GLB1変異はしばしばその蛋白の基質結合領域に位置するが、一部の変異はGM1ガングリオシドーシスとムコ多糖症ⅣB型の双方に関連する。

その他のムコ多糖症 ムコ多糖症ⅣA型の徴候や症状は、広範囲の臨床所見を呈する他のムコ多糖症と重複している。ムコ多糖症Ⅰ型ムコ多糖症Ⅱ型を参照。

他のムコ多糖症と比べて、ムコ多糖症ⅣA型では知能は正常で粗な顔貌が目立たないことが特徴である。一般的に、ムコ多糖症ⅣA患者の視力は他のムコ多糖症患者よりも良好である。くわえて、過可動関節はムコ多糖症Ⅳ型に特有である。環軸椎不安定症は他のムコ多糖症よりⅣ型で多く認められる。

OMIMでこの臨床型に関連する遺伝子を閲覧するにはムコ多糖症:OMIM臨床型シリーズを参照のこと。

脊椎骨端異形成症は同様のX線所見を呈する。臨床徴候、とくに骨外性の特徴により脊椎骨端異形成症とムコ多糖症ⅣA型を鑑別できる可能性がある。

シムケ免疫性骨形成不全およびX連鎖性遅発性脊椎骨端異形成症を参照。

レッグ・カルベ・ペルテス病OMIM) ときに軽症のムコ多糖症ⅣA型は発症時に股関節痛のみしか呈せず、初期にはレッグ・カルベ・ペルテス病と間違われることがある。


臨床的マネジメント

初期診断後の評価

ムコ多糖症ⅣA型と診断された患者の疾患の広がりやニーズを把握するために、以下の評価が推奨される。

病変に対する治療

ムコ多糖症ⅣA型患者の治療は、複雑な医学的問題を抱える患者の診療を得意とする医師と協力しながら、以下のような複数の専門家が協同して行うのが最もよい。

酵素補充療法

組み換えヒトGALNS酵素補充療法(エロスルファーゼアルファもしくはビミジム®)が2014年2月に食品医薬品局(FDA)によって承認された。

筋骨格系

発行されている整形外科的マネジメントのガイドラインについては、Whiteら(2014)の文献を参考にされたい。身体活動性のレベルは、関節の損傷やアライメント不整、脊髄損傷を予防しながら可動性を最適化するため、整形外科学、神経学、物理医学、理学療法の各専門家によってモニターされるべきである。

上肢 外側の手関節固定装具のような非侵襲的な治療を考慮することがある。手関節を安定化させるため、部分/全手関節固定術のような外科手術が必要になることがある。

膝や足関節の外反 下肢のアライメント不整で、力学的に望ましくないアライメントや運動耐容能の低下が進行する場合は治療が必要となる。しかし絶対的な適応は存在しない。

股関節形成異常 外科手術により疼痛やアライメント不整を治療し、適切な可動性を得ることができる。

歯突起低形 上位頸椎不安定症が認められる、もしくは頸髄障害の臨床所見が認められる場合、上位頸髄の安定化や頸髄圧迫の緩和のために、後頭頸部もしくは上頸部の圧迫解除および癒合手術が必要である。

注:臨床医は、上位頸椎不安定症による頸髄障害のため、耐容能の低下や歩行の障害をきたす可能性があると気付くことが重要である。脊髄症が疑われた場合、頸椎の単純X線やMRIを撮影する(「定期検査」の項を参照)。患者を三次医療施設の小児整形外科医/神経外科医に紹介するべきである。

腰椎アライメント不整 (椎体低形成による)胸腰椎後弯症は進行性かつ症候性である可能性がある。

循環器

心拍数の増加は、小さな左室容積、少ない1回心拍出量を代償する機序である。そのため、β遮断薬による頻脈の治療は避けるべきである。進行性の弁疾患に対し弁置換術を考慮することがある。弁置換術では、人工弁(抗凝固薬を生涯にわたり使用する)、生体弁(弁形成異常・劣化・石灰化のリスクがある)のいずれにするか、リスクを慎重に検討する必要がある。

呼吸器

上気道閉塞や閉塞性睡眠時無呼吸に対しては、肥大した扁桃やアデノイドの切除(平均7歳)を施行する。注:この治療を行っても、なおムコ多糖症の小児患者における閉塞性睡眠時無呼吸の発生率は一般集団よりも高い。それゆえ、迅速に臨床的に評価し、ポリソムノグラフィーを施行することがのぞましい。アデノイド・扁桃切除による上気道閉塞の軽快が一時的でびまん性の気道狭窄を認める患者では、CPAP(持続陽圧呼吸療法)、BiPAP(二相性陽圧呼吸)、気管切開のような他の治療法を考慮する。

下気道閉塞では喘鳴や反復性感染がみられ、気管支拡張薬の吸入や内服、一部はステロイドにより治療を行う。

拘束性肺疾患に対しては支持療法を行う。

成長

ムコ多糖症ⅣA型患児の身長は専用の成長曲線に記入するのが最もよい。

栄養面については、バランスのとれた食事と骨の成長のために十分なビタミンDやカルシウムの摂取を心がけるべきである。

学習環境

身体的な制限があるにもかかわらず、ムコ多糖症ⅣA型患者の知能は正常で、学習および社会的な刺激のある環境では十分な発育が望める。身体的外傷を防ぐための補助があれば、通常は普通学級/学校に通う。

角膜混濁によりしばしば小児期早期に弱視が認められ、全層角膜移植が必要となるが、その成績はさまざまである。移植後1年以内の混濁の再発が報告されており、この場合QOLは一時的にしか改善しない。くわえて、緑内障や網膜症のような他の眼科的な問題により、角膜移植の成功率は低下する可能性がある。白内障を認める患者では、それに対する手術は有用である可能性がある。

毎日の口腔ケア、歯科シーラント、十分なフッ素塗布が齲歯の予防に有用である。不整咬合を治療する歯科矯正が必要となることがある。

聴覚

換気チューブの留置により、慢性的な滲出性中耳炎や反復する急性中耳炎に合併する長期的な瘢痕化のリスクを最小限にし、長期的に聴力を改善することができるため、ほとんどの小児は就学前に換気チューブを留置している。ムコ多糖症ⅣA患者では、滲出性中耳炎の反復や鎮静に伴うリスクがあるため、はじめは長期にわたる鼓膜切開が推奨される。

ムコ多糖腫緒ⅣA型患者のほとんどに進行性の聴力障害が認められ、補聴器が有用である。

一次症状の予防

酵素補充療法に関する情報は「病変に対する治療」を参照。

造血幹細胞移植の経験は極めて限られており、あまり研究されていない。

二次合併症の予防

麻酔 麻酔下に手技を行う場合、念入りな計画が必要である。また、解剖学的異常やグリコサミノグリカンの蓄積、不安定な頸椎、進行性の肺疾患(拘束性および閉塞性)など、ムコ多糖症ⅣA型の気道管理上の問題を経験している麻酔科医が勤務する施設で行うのがもっともよい。モルキオ症候群患児の麻酔に関する最も大規模なコホート研究を行ったTherouxら(2012)は、推奨される麻酔中のケアについて報告している。

術前に、麻酔に対する反応や気道閉塞の兆候などの既往、心電図や心エコーを含む心臓の評価、呼吸機能(スパイロメトリーやポリソムノグラフィー)の評価、気道のX線透視などを行うべきである。

気管内挿管では、ビデオ喉頭鏡、ラリンゲアルマスクエアウェイを用いた/用いないファイバー気管支鏡、年齢や体格に比して小さな挿管チューブが用いられる傾向にある。経鼻挿管も選択肢となるが、グリコサミノグリカンの蓄積により鼻道が狭窄しており、出血が認められる傾向にある。

術後の麻酔は慎重に行うべきである。

睡眠時無呼吸のような、元から存在する呼吸器の問題を悪化させないためには、さまざまな鎮痛剤や麻薬以外の薬剤の使用がのぞましい。

肺水腫のような術後合併症が報告されている。

外科手術 亜急性や活動性の脊柱管狭窄症では脊髄損傷をきたしうるため、頸椎を操作する場合、(脊椎手術を含む)腹臥位で行う場合、(45分を超えるなど)長時間の麻酔を要する場合では、術中神経生理学的モニタリング(intraoperative neurophysiologic monitoring, IONM)を考慮するべきである。術中神経生理学的モニタリングでは、脊髄機能のモニターに体性感覚誘発電位や運動誘発電位を用いる。注:少数の骨系統疾患患者で手術中の脊髄梗塞が報告されているが、このモニタリング技術による改善効果を示すデータは限られている。

予防接種 呼吸器感染症のリスクがあるため、すべての患者は定期接種と同様にインフルエンザや肺炎球菌の予防接種を受けるべきである。

感染性心内膜炎の予防は、人工弁置換術を受けた患者、心臓弁修復術で人工物を使用した患者、感染性心内膜炎の既往があるなどリスクの高い患者において推奨される。

定期検査

酵素補充療法の効果を確かめるため、開始の前後に以下を評価すべきである。

注:(1)尿中ケラタン硫酸値の変化は治療の効果と相関しない。よって、エロスルファーゼアルファ治療中の尿中ケラタン硫酸測定によるフォローの有用性は限られている。(2)抗エロスルファーゼアルファ抗体のモニタリングの有用性は不明である。

すべての患者

QOL、疾病負荷、運動耐容能評価

筋骨格系 Whiteら(2014)は、ムコ多糖症ⅣA患者の筋骨格系病変のモニタリングについて以下のようなガイドラインを策定した(全文)。

循環器系 心拍数は毎年評価する。疾患の経過に応じて1~3年ごとに心電図や心エコーを施行する。

呼吸器系

成長 ムコ多糖症ⅣA型患者用の成長曲線を用いて栄養状態を評価する。受診ごとに身長や体重を測定すべきである。

6-12ヶ月ごとに評価する。

聴力

年1回聴力検査(オージオグラム)を施行する。

避けるべき薬物/環境

過剰な体重増加は軸骨格に過度のストレスを及ぼし独立歩行の期間を減らす可能性があるため、生活習慣の改善とともに、成長に適した栄養摂取を行うことが重要である。

心室容積が小さく心拍出量が少ないため、頻脈の治療にβ遮断薬は用いるべきではない。

リスクのある親族の検査

できるだけ早期に発見することで酵素補充療法(「病変に対する治療」を参照)の恩恵を受けることができるため、一見無症状であっても年下の同胞を評価することがのぞましい。以下で評価することができる。

遺伝カウンセリング目的のリスクのある親族に対する検査に関する問題については「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。

研究中の治療法

軽症患者に対する酵素補充療法(エロスルファーゼアルファもしくはビミジム®)についてはまだ研究中である。参加者は全員機能が高度に保たれている(平均のベースライン歩行距離が非罹患者の70-80%と定義される)MOR-008第Ⅱ相試験で報告されているように、酵素補充療法で運動耐容能や呼吸機能検査にほとんど変化はみられなかったが、運動能力や筋力、疼痛に関していくらか良好な結果が得られている。参加者の18.7%に過敏反応がみられた。全体的に、エロスルファーゼアルファは安全に使用でき重篤な副反応はまれであるが、安全に関するさらに長期的なデータが集められている。

さまざまな疾患に関する臨床試験に関する情報はClinicalTrials.govを参照のこと。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

ムコ多糖症ⅣA型は常染色体劣性遺伝性疾患である.

患者家族のリスク

発端者の両親

発端者の同胞

発端者の子ども

ムコ多糖症ⅣA型患者の子どもは必然的にGALNS病原性変異のヘテロ接合体保有者(キャリア)である。

他の家族

発端者の両親の同胞は、50%の確率でGALNS病原性変異のキャリアである。

保因者診断

リスクのある親族に対する保因者診断を行うには、先に家系内のGALNS病原性変異の同定を行う必要がある。

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断・治療を目的としたリスクのある親族の検査についての情報は、「臨床的マネジメント」「リスクのある親族の検査」を参照のこと。

家族計画

DNAバンクは(主に白血球から調整した)DNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子、アレル変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、患者のDNA保存を考慮すべきである。

出生前診断および着床前診断

家系内での病原性変異が同定されている場合、ムコ多糖症Ⅳ型のリスク妊娠における出生前診断や着床前診断は実施可能な選択肢である。

とくに検査が早期診断ではなく妊娠中絶を目的とした場合に、医療従事者や家族の間で出生前検査に関して視点の違いが存在する可能性がある。出生前診断に関する決定は両親の選択によるが、これらの問題について話し合うことがのぞましい。


更新履歴

  1. Gene Reviews著者: Debra S Regier, MD, PhD, Matthew Oetgen, MD, and Pranoot Tanpaiboon, MD.
    日本語訳者: 和田宏来(県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)
    Gene Reviews 最終更新日: 2016.3.24.日本語訳最終更新日:2017.6.29.in present)

原文 Mucopolysaccharidosis TypeⅣA

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