遺伝性びまん性胃癌
(Hereditary Diffuse Gastric Cancer)

[Synonyms: SHDGC]

Gene Reviews著者: Pardeep Kaurah, MSc, PhD and David G Huntsman, MD.
日本語訳者: 幅野愛理(がん研有明病院 臨床遺伝医療部),櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院 遺伝子診療科)

GeneReviews最終更新日:2018.3.22  日本語訳最終更新日:  2022.6.23

原文 Hereditary Diffuse Gastric Cancer


要約

疾患の特徴 

遺伝性びまん性胃癌(Hereditary Diffuse Gastric Cancer, HDGC)は、常染色体顕性(優性)の遺伝形式をとり、明確な腫瘤形成を伴わず、腫瘍細胞が胃壁に浸潤することで壁肥厚を引きおこす低分化腺癌の形態をとるのが特徴である (linitis plastica型胃癌)。びまん性胃癌は、印環細胞癌あるいはisolated cell-type carcinomaとも呼ばれる。HDGCの平均発症年齢は38歳(range; 14-69歳)であり、CDH1病的バリアントを伴う症例では、大部分が40歳以前に発症する。80歳までの胃癌の推定累積リスクは男性で70%、女性で56%である。女性では、42%の乳癌(乳腺小葉癌(LBC))発症リスクを伴う。

診断・検査 

以下のうち、いずれかの項目に該当する発端者はHDGCと診断される。

  • びまん性胃癌(DGC)と診断されており、第一度または第二度近親者に1人以上の胃癌の家族歴がある
  • 40歳以前に診断されたDGCの既往歴および/または家族歴がある
  • DGCとLBCの両疾患の既往歴およびまたは家族歴があり、いずれかの疾患が50歳以前に診断されている
臨床所見や家族歴で結論が出ない場合、分子遺伝学的検査でヘテロ接合性CDH1生殖細胞系列病的バリアントを同定することで確定診断となり、血縁者診断が実施可能となる。

臨床的マネジメント 

症状の治療:
CDH1病的バリアントを有する者は胃癌の早期発見・早期治療のために厳重なサーベイランスを、あるいは予防的胃摘出術を行うのが理想である。
遺伝科、胃外科、消化器科、病理科および栄養科などの多方面の専門からなるチームによる管理が推奨される。
女性の場合は、ハイリスク乳癌クリニックへの紹介が推奨され、予防的乳房切除術が検討されることがある。

サーベイランス
現時点では、科学的根拠に基づいたリスク管理や予防的胃摘出術による罹患率死亡率の変化が報告されていないため、CDH1病的バリアントを有する者に対する最適なリスク管理が一定化されていない。

妊娠管理
予防的胃全摘術(PTG)を受けた妊娠中の女性に対し、状況を認識している医師と栄養士がフォローしていく必要がある。

遺伝カウンセリング 

遺伝性びまん性胃癌は常染色体顕性(優性)の遺伝形式をとる。HGDCの大多数は、片方の親から病的バリアントを受け継ぐ。De novoバリアントも報告されている。発端者の子どもが、この癌の発症に関連するバリアントを受け継ぐリスクは50%である。
家系内の病的バリアントが同定されている場合であれば、リスクのある妊娠に対する出生前検査は可能であるが、HDGCのように、知能に影響せず、治療法の存在する疾患に対する出生前診断は一般的ではない。
訳注:日本では,本症に対する出生前診断や着床前診断は行われない。いずれにしても次世代への遺伝に関しては細心の遺伝カウンセリングが必要である。


診断

HDGCが疑われる所見

最新の国際胃癌リンケージコンソーシアム(International Gastric Cancer Linkage Consortium ;IGCLC)コンセンサスガイドライン[van der Post et al 2015] (全文参照)
によると、以下のいくつかを有する発端者では遺伝性びまん性胃癌(HDGC)を疑うべきとされている。

  • 胃癌と診断され、1人以上の胃癌の家族歴があり、そのうち1人がびまん性胃癌(DGC)である場合
  • 家系内に2人胃癌患者を有し、そのうち1人は50歳以前にDGCと診断された場合。
  • 40歳以前に診断されたDGC患者。家族歴は問わない。
  • 年齢を問わず、DGCの患者が第一度近親者または第二度近親者に少なくとも3人いる場合。
  • DGCとLBCの両疾患の既往歴および家族歴を持ち、いずれかの疾患が50歳以前に診断されている場合。

さらに、以下のいずれかに該当する発端者の場合、分子遺伝学的検査を検討する必要がある。

  • DGC と診断され、in situ signet ring cell(非浸潤性印環細胞)および/または DGC に隣接するpagetoid spread of signet ring cells(パジェット状に拡がる印環細胞)が病理学的に確認された場合
  • DGC と診断され、一度または二度近親者に2人以上のDGC または LBCの家族歴がある場合
  • DGCと診断され、口唇口蓋裂の既往歴または家族歴がある場合

確定診断

内視鏡生検で確認されたびまん性胃癌を有する発端者において、以下のいずれかが確認された場合にHDGCの臨床診断が確定する。

  • 第一度または第二度の血縁者に1人以上の胃癌の家族歴がある
  • 40歳以前に診断されたDGCの既往歴および/または家族歴がある
  • DGCおよびLBC両疾患の既往歴および/または家族歴があり、1つは50歳以前に診断されている

臨床所見と家族歴で結論が出ない場合、分子遺伝学的検査(表1)によりヘテロ接合性CDH1病的バリアントを同定することで診断が確定し、血縁者診断を行うことができるようになる。
したがって、HDGCが疑われる所見に該当するすべての患者とHDGCと臨床診断された患者には、分子遺伝学的検査が推奨される。

分子遺伝学的検査によるアプローチには、単一遺伝学的検査と多遺伝子パネル検査の使用が含まれる。

  • 単一遺伝学的検査:まず、CDH1のシーケンス解析が行われ、病的バリアントが同定されない場合は、CDH1の欠失/重複解析が行われる。
  • 多遺伝子パネル検査:CDH1 とその他の関連のある遺伝子(鑑別診断の項を参照)を含む多遺伝子パネル検査も考慮される。
    注:(1)パネル検査に含まれる遺伝子や検査の精度は、検査機関によって異なっているだけでなく,時代とともに変化する。
    (2)多遺伝子パネル検査には本稿で扱っている病態に関連のない遺伝子が含まれている場合もあるため、臨床医はどの多遺伝子パネル検査が症状の遺伝的要因を特定する可能性が最も高いかを決定する必要があり、同時に、意義不明なバリアント(VUS)や,根本的な表現型を説明しえない遺伝子における病的バリアントの同定を避ける必要がある。
    (3)検査機関によっては、臨床医が指定した遺伝子を含むカスタム設計された検査機関独自のパネルや、表現型に焦点を当てたエクソーム解析パネルといった選択肢が存在することもある。
    (4)パネルに使用される手法は、配列解析や、欠失/重複解析、および配列解析以外の検査が含まれる。

多遺伝子パネル検査の紹介はこちらを参照。
遺伝学的検査を依頼する医師向けの詳細情報はこちらを参照。

表1.遺伝性びまん性胃癌で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子 検査法 バリアント検出率1
CDH1 シーケンス解析3 30%-50%4
欠失/重複解析5 4%6
不明7 データなし
  1. 染色体座位およびタンパク名はTable A.遺伝子とデータベースの項を参照のこと.
  2. この遺伝子で検出されるバリアントの情報は分子遺伝学の項を参照のこと.
  3.  シーケンス解析では、benign、likely benign、 uncertain significancelikely pathogenic、 pathogenicのバリアントが検出される。バリアントには、遺伝子内の小さな欠失/挿入、ミスセンス、ナンセンス、スプライスサイトバリアントが含まれることがある。シーケンス解析の結果を解釈する際に考慮すべき事項については、こちらを参照。
  4.  Oliveira et al [2006]Kaurah et al [2007]
  5.  標的遺伝子の欠失・重複解析では,遺伝子内の欠失や重複が検出できる.検査方法は,定量的PCR,ロングレンジPCR,MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法,単一エクソンの欠失や重複の検出を目的とする標的遺伝子マイクロアレイなどである。
  6. シーケンス解析で病的バリアントが同定されなかったHDGC患者の6.5%が欠失変異を有していた。[Oliveira et al 2009]
  7. 現在までに報告されているHDGCの血縁者の50%~70%はCDH1生殖細胞系列病的バリアントを同定できていないことから、これらの血縁者の一部は、他の未同定のHDGC関連遺伝子に病的バリアントを有している可能性があると考えられる。候補遺伝子の解析も行われているが、病的バリアントは同定されていない。

臨床的特徴

臨床説明

発症年齢:遺伝性びまん性胃癌(HDGC)の平均発症年齢は38歳(range:14歳-69歳)である。大多数は40歳以前に胃癌を発症するが、家系間および家系内で変化に富んでいる [Gayther et al 1998Guilford et al 1998]。年齢による癌発症のリスクについては、Penetranceを参照。

症状:本疾患の早期における症状は非特異的である。従って、罹患者の立場からも医師の立場からも非特異的症状は気づかれないことがある。症状出現時には、罹患者は進行期の病状である [Wanebo et al 1993]。晩期症状として、腹痛、悪心嘔吐、嚥下困難、食後の膨満感、食思不振および体重減少が出現することがある。胃癌の晩期症状として、腫瘍が触知されるようになる。

腫瘍の進展や転移により、肝腫大、黄疸、腹水貯留、皮膚結節、骨折を伴うことがある。
びまん性胃癌以外に伴いうる他の癌として、血縁者で報告された癌は以下の通りである。

  • 乳腺小葉癌 (LBC)CDH1生殖細胞系列病的バリアントを有する女性はLBCの生涯リスクが増加する(42%[95%信頼区間:23%-68%])  [Hansford et al 2015]。乳癌の平均発症年齢は53歳である [Pharoah et al 2001]。
    LBCの既往歴、または家族歴を持つが、DGCの家族歴のない318人の女性を対象とした研究において、1.3%がCDH1生殖細胞系列病的バリアントを保持していたと報告された [Schrader et al [2011]
  • 大腸癌 [Richards et al 1999Oliveira et al 2002Brooks-Wilson et al 2004]:大腸癌がCDH1生殖細胞系列病的バリアントに関連する癌のスペクトラムの一部であるという直接的な証拠はない。したがって、血縁者には個々の状況に合わせて適切な遺伝カウンセリングを実施する必要がある。家系内でCDH1病的バリアントが同定されており、大腸癌罹患者がいる場合、その大腸癌患者における多くの臨床的、病理学的情報を得ることが不可欠である。

生存率:散発性のびまん性胃癌が早期に(例えば胃壁への浸潤前に)発見された場合、5年生存率は90%以上である。晩期に診断された場合、5年生存率は30%以下に低下する[Stiekema et al 2013]。
胃癌を早期に発見し切除した場合、5年生存率は90%である。DGCの早期発見は困難であるため、CDH1病的バリアント保持者の生存率は散発性DGC症例の生存率と同等と考えられている。そのため、CDH1病的バリアント保持者の臨床的管理の選択肢として、予防的胃切除または濃厚な内視鏡サーベイランスがある [Stiekema et al 2013]。

CDH1生殖細胞系列病的バリアント保持者において、H. pylori感染率が上昇したという証拠はない(予防的胃切除術を受け、血清検査でH. pylori感染の既往があった17名中2名を除く) [Blair et al 2006]。

病理:DGCでは、Eカドヘリン蛋白の欠損は腫瘍細胞の発育および浸潤を促進させる。したがって、本疾患での癌細胞は組織学的に正常組織の間を浸潤進展し、その結果広範囲に渡って胃壁肥厚および硬化を伴うようになる(この現象をlinitis plasticaと呼ぶ) [McColl 2006]。腸型胃癌に認められるような腫瘍塊は形成しない。腫瘍細胞質内にムチンが充満し、核が辺縁におされるため、印環様の形態を呈する。DGCでのpremalignant lesionは知られていない。
CDH1生殖細胞系列病的バリアント保持者の予防的胃全摘術(PTG)標本の研究から開発されたDGC進行モデルでは、腺窩底部の孤立した腫瘍性印環細胞と印環細胞の腺/小葉の保存上皮下間質へのPaget状進展が記載されている [Carneiro et al 2004]。

遺伝型と表現型の相関

今のところ、本疾患での関連は報告されていない。

浸透率

HDGCは不完全浸透である。CDH1生殖細胞系列病的バリアントを有する75家系を含む最近の研究データによると、80歳までの胃癌発症の累積罹患リスクは男性で70%(95%信頼区間は59%-80%)女性で56%(95%信頼区間は44%-69%)、女性の乳癌リスクは42%(95%信頼区間は23%-68%)であることがわかった[Hansford et al 2015]。

表現促進

HIGM1において、表現促進現象はみられない。

有病率

男性100万人あたり2人と推定されている。

HIGM1は、欧州系、アフリカ系、アジア系の家系で報告されている。したがって、ある人種や民族に多いという根拠はない。

遺伝学的に関連する疾患

HIGM1はCD40LGの変異に関連付けられる唯一の疾患である。

頻度 

世界の胃癌の発生率は1970年代から着実に減少しており、その現象は先進国で最も顕著である [GLOBOCAN]。胃癌の発生率が地域によって異なることを考慮すると、CDH1生殖細胞系列病的バリアントが同定された胃癌患者の割合は1%から3%の範囲である [Corso et al 2012]。

遺伝学的に関連する疾患

本稿で議論されている以外の表現型は、CDH1生殖細胞系列病的バリアントと関連することは知られていない。
散発性のびまん性胃癌あるいは乳腺小葉癌におけるEカドヘリン蛋白の欠損はCDH1の体細胞点突然変異、LOH、あるいは腫瘍細胞におけるプロモーター領域のhypermethylationと関連がある[Becker et al 1994Oda et al 1994Day et al 1999Anastasiadis & Reynolds 2000Tamura et al 2000Kallakury et al 2001Machado et al 2001]。


鑑別診断

腸型胃癌(IGC)とびまん性胃癌(DGC) 

全胃癌症例のおよそ5-10%は家族性 [Zanghieri et al 1990La Vecchia et al 1992]であると考えられている。家族性胃癌は臨床的にも遺伝学的にもheterogeneousである。

腸型胃癌(IGC)は、前癌病変である腸上皮化生からIGCへと進行し、肉眼的には隆起型、潰瘍型あるいは浸潤型の形態をとる。組織学的にIGCは、腸型胃癌は腸管の腺癌の形態に類似した、さまざまな分化度の管状形成あるいは腺管形成から成る。びまん性胃癌(DGC)とは対照的に、E-カドヘリンを認める。IGCはDGCよりも一般的であるが、IGCの発生率は低下しているようである[Ajani et al 2010]。IGCの危険因子には、H. Pyloriの胃粘膜への慢性感染であり [Uemura et al 2001Suerbaum & Michetti 2002]、他にも喫煙、亜硝酸塩、塩、燻製または漬物の多い食事、果物および野菜の少ない食事、年齢、および性別(男性)が含まれる。TNFIFNGR1の変異は、特にH pyloriの悪性株に感染した人において、胃癌のリスクを著しく増加させる可能性がある[Canedo et al 2008]。

他の癌易罹患症候群

胃癌はリンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス症候群, HNPCC), リ・フラウメニ症候群, 家族性大腸腺腫症 (FAP), ポイツ・イェガース症候群, および カウデン症候群 (PTEN過誤腫症候群の一病型)など他の常染色体顕性(優性)遺伝形式をとるいくつかの癌易罹患症候群で認められる。
リンチ症候群.リンチ症候群はミスマッチ修復遺伝子やEPCAMの生殖細胞系列バリアントと関連があり、ヘテロ接合体で大腸やその他の癌が発症しやすいとされている。胃癌は本症候群の中で3番目に頻度の高い癌であり、IGCを呈することが多い。[Lynch et al 2005Capelle et al 2010]

胃癌発症の高リスク地域であるイタリアのFlorenceでは、マイクロサテライト不安定性(MSI)が胃癌症例の15%で認められる [D'Errico et al 2009]。MSI-Highの胃癌はとくに胃前庭部に発生し、腸型胃癌の組織型であり、生存率が比較的良好である傾向がある [Falchetti et al 2008]。

家族性大腸腺腫症 (FAP). FAP はAPC生殖細胞系列病的バリアントが原因の疾患である。胃癌は欧米人のFAP患者の0.6%で認められる [Jagelman et al 1988]。東アジアのFAP保有者では、胃癌の発生率が有意に高い[Yamaguchi et al 2016]。

リ・フラウメニ症候群(LFS). LFSで認められる癌はTP53の病的バリアントが原因である。TP53経路の遺伝子であるCHEK2CDKN2AはLFSの候補遺伝子である可能性があるが、これについてはさらなる確認が必要である[Olivier et al 2003Malkin 2011]。DGCもIGCも本症候群で認められる[Keller et al 2004Oliveira et al 2004]。

BRCA1およびBRCA2遺伝性乳癌・卵巣癌.
胃癌のリスクはBRCA1 [Brose et al 2002Friedenson 2005]およびBACA2 [Breast Cancer Linkage Consortium 1999Risch et al 2001]病的バリアントと関連がある。
BRCA2 病的バリアント6174delT を保有する家系の5.7%で胃癌が発症する [Figer et al 2001]。
Jakubowsakaらの報告[Jakubowska et al [2002] ].では、胃癌症例のうち7%でBRCA2病的バリアントが基盤にある可能性を見出した。しかしながら、それらの組織型については言及されていない。多遺伝子パネル検査では、びまん性胃癌と乳癌の家族歴を持つ多くの個人でBRCA1およびBRCA2病的バリアントが同定されている [Hansford et al 2015Sahasrabudhe et al 2017Slavin et al 2017]。

カーニー複合.
本疾患において消化管間質腫瘍(以前は胃平滑筋肉腫として知られていた)といったまれな病変を認めることが報告されている [Carney et al 1977]。PRKAR1A の病的バリアントが原因である。

Carney-Stratakis syndrome (CSS).

胃間質肉腫は傍神経節腫が認められることがある [Carney & Stratakis 2002]。SDHB, SDHC, およびSDHDの生殖細胞系列病的バリアントが原因である [Pasini et al 2008]。常染色体顕性(優性)遺伝形式を伴う。

Gastric adenocarcinoma and proximal polyposis of the stomachGAPPS
常染色体顕性(優性)の遺伝形式をとる胃近位部に限局した異形成または腸型胃腺腫を持つ胃底腺ポリポーシス症候群である。患者は胃癌のリスクが高いが、大腸や十二指腸のポリポーシスの証拠はない  [Worthley et al 2012]。APCのプロモーター1Bのヘテロ接合体病的バリアントが原因となる [Li et al 2016Repak et al 2016Beer et al 2017]。


臨床的マネジメント

IGCLCはCDH1病的バリアントを有する個人の臨床マネジメントのガイドラインを更新している。
[van der Post et al 2015] (全文 と Figure 1).
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2991043/?tool=pubmed

初回診断後の評価項目

HDGCと診断された症例に対して下記の評価が推奨される。

  • 内視鏡検査による腫瘍の存在診断 [van der Post et al 2015]
  • CDH1プロモーター領域のメチル化を誘導し、胃癌発癌への役割を果たすH. pylori感染胃粘膜に対するCDH1ヘテロ接合性の評価
  • 女性における、マンモグラフィーでの乳房検診
  • 臨床遺伝の専門家および/または遺伝カウンセラーとの相談

症状に対する治療

遺伝科、胃外科、消化器科、病理科、栄養科など、多方面の専門からなるチームによる管理が推奨される。 See Fitzgerald et al [2010] (全文) and van der Post et al [2015] (全文)

びまん性胃癌(DGC)

  • 胃全摘術が推奨される [Fitzgerald et al 2010van der Post et al 2015]。臨床的検討によると、手術単独のみでは早期胃癌の管理においては不十分であり、治癒率は40%でしかない。
  • 術後治療。3つのグループのランダム化比較試験より、術後治療が手術単独よりも延命効果があると結論付けられてから術後治療の重要性が認識された[Macdonald et al 2000Cunningham et al 2006Sakuramoto et al 2007]。大規模ランダム化比較試験では、胃癌の治療として、術後放射線療法および術後化学療法のみではconsistent survival benefitsが示されなかった。
  • H. pylori感染症に対する除菌を行う。
乳腺小葉癌(LBC)
CDH1関連乳癌患者の乳癌の治療は、散発性の乳腺小葉癌の治療と同様である(National Comprehensive Cancer Network Guidelines)。

一次予防

ヘテロ接合性CDH1生殖細胞系列病的バリアントを有する場合

びまん性胃癌. CDH1生殖細胞系列病的バリアント保持者の予防的胃全摘手術標本で早期胃癌が観察されたため、内視鏡的サーベイランスよりも予防的胃全摘術(PTG)が推奨されている [Norton et al 2007]。
PTGでは、D2リンパ節郭清、Roux-en-Y 吻合、および胃粘膜の完全除去を確実にするために摘出胃のproximal marginの確保が含まれる [Norton et al 2007]。

PTGを受ける患者に対しては、外科、消化器科、栄養科などを含む多分野混合専門チームが術前および術後のケアを行うべきである。多分野混合専門チームはこの手術のリスクと利益について、手術候補者の相談に応じることができる。PTGを受けることを決定する際には、患者と主治医は以下を考慮する必要がある。

  • 若年健常人でPTGによる死亡率は通常1%以下である[Lynch et al 2005]。
  • PTGによる手術合併症は100%である [Worster et al 2014Muir et al 2016]。予防胃摘出術後の合併症の発生率は高い。長期合併症としてはrapid intestinal transit、ダンピング症候群、下痢、摂食異常、体重減少が挙げられる [Caldas et al 1999Lewis et al 2001]。吸収不良のリスクは術後に高くなり、ひいては骨粗しょう症、骨軟化症、あるいは胃癌患者でも見られる栄養失調を引き起こす。
  • 年齢特異的な胃癌リスクが存在する。栄養学的な意味から、PTGを成長期終了以前に行うことは推奨されていない。早期発症胃癌罹患者の家族においては、PTGを行うか否か個々の状況による [Blair et al 2006]。このような例では、PTGを考慮する前に内視鏡での通常観察によるスクリーニングが行われる。
  • CDH1病的バリアントを有する者に対しては、胃癌以外の癌(例えば乳腺小葉癌や大腸癌)に進展するリスクを考慮してこれら3つの癌に対するスクリーニングが推奨される。

乳癌.
乳腺科への紹介が推奨される。
CDH1生殖細胞系列病的バリアント保持者に対する予防的乳房摘出術が考慮されうる。非常に限定的な数であるが、予防的乳房切除術を受けた女性の報告がある [Brandberg et al 2008]。

二次予防

PTGを受けた患者の術後ケアは、外科医、消化器病専門医、栄養士を含む多分野混合専門チームで行うべきである(「一次予防」の項参照)。

サーベイランス

Fitzgerald et al [2010] (全文)  and van der Post et al [2015] (全文)参照

胃癌
CDH1生殖細胞系列病的バリアント保持者に対する最適なサーベイランスについては、スクリーニングの有益性が証明されていないため、議論がある。
内視鏡検査により、直接病変部が観察でき、疑われる部位は生検で確認可能であるが、早期かつ治療可能な時期にびまん性胃癌を検出することは困難である。理由としては、病変が腫瘤を形成するというよりも粘膜下に進展する傾向がある点が挙げられる。問題点をまとめると、(1)粘膜下病変の検出が困難。(2)肉眼で一見正常と思われる部分が生検されにくいという、sampling biasが挙げられる。そのため、びまん性胃癌は、多くの場合、進行かつ根治不能な状況になって検出される。

CDH1生殖細胞系列病的バリアントによるHDGCは高浸透性であるため、PTGを受ける準備ができていない者は [Barber et al 2008]:

  • 6-12ヶ月ごとに上部消化管内視鏡検査を行い、ランダム生検を多箇所で行うことが推奨される。
  • スクリーニングは家系内で最も若い年齢で癌と診断された年齢よりも5-10年若い年齢で開始するべきである。

Mi et al [2018] は、PTGを実施していないCDH1生殖細胞系列病的バリアント保持者と、臨床的にHDGCと診断されたがCDH1病的バリアントが同定されていないグループにおける内視鏡サーベイランスの有用性を評価した。著者らは、自家蛍光イメージングとナローバンドイメージングを用い、ランダム生検を行った。CDH1病的バリアント保持者は、後者のグループ(9.7%)に比べて、初回の内視鏡検査で高い確率で印環細胞癌の病巣を有することが判明し、CDH1病的バリアント保持者における胃切除前の浸潤性疾患の病期決定に、ベースライン内視鏡検査の重要性が明らかにされることとなった。

びまん性胃癌に対するいくつかのスクリーニング方法が試験中である。

色素内視鏡検査.インジゴカルミンを使用した検査は早期胃癌の検出率を向上させることが示さ
れている [Stepp et al 1998Fennerty 1999]. Charlton et al [2004] 。Charltonらは、6症例
における、通常内視鏡観察で異常なしと判断され、その後に予防的に摘出された胃の標本を用いて検討したところ、コンゴレッド染色とpentagastric stimulationを観察すると、他の検出法に比較して印環細胞領域が遠位胃の移行帯付近に5倍有意に検出されることを示した[Carneiro et al 2004]。移行帯は胃全域の10%以下を占め、G細胞が欠如している。筆者らは、コンゴレッドとpentagastric stimulationによる観察が病変検出の向上に役立つのではないかと提案している。今後更なる検討が必要であると思われる。

同じグループがこの報告の一年後に、5年以上内視鏡検査で経過観察された、合計99回の内視鏡検査結果について、以下のように報告している[Shaw et al 2005]。

  • 70%(99例中69例)で異常なし。
  • 印環細胞癌病変計23箇所が、10症例で認められた。
  • コンゴレッドあるいはメチレンブルー染色で、4-10mmの病変が検出された。4mm以下のものは検出されなかった。
    ※注:コンゴレッドは、色素の毒性に対する懸念から、この用途には使用できなくなった。
  • Hüneburgら [2016]  は、高解像度白色光内視鏡とインジゴカルミンによる汎胃色調内視鏡を併用し、標的生検とランダム生検により、CDH1病的バリアントを保持する7人の内視鏡的検出を実施した。すべての患者はこの術前処置を受ける予定であった。Cambridgeのプロトコルを用いて、ランダム生検で検出された印環細胞癌は1箇所(14%)のみであった。症例数が少ないこと、矛盾する結果を考慮すると、CDH1病的バリアントを有する症例についてさらに大きな母集団で検討される必要がある。

超音波内視鏡検査.本検査は胃癌検出およびstagingのために重要である [Pfau & Chak 2002]。しかしながら、前癌病変の検出には有用ではない [Fitzgerald & Caldas 2004]。

その他.多に有用な検査としてPETスキャン [van Kouwen et al 2004]、グアヤック法便鮮血検査、腹部CT、多箇所ランダム胃粘膜生検が挙げられる [Barber et al 2008]。残念ながら、これらの検査で確実にDGCは検出できない[Norton et al 2007]。

乳腺小葉癌 (LBC)
CDH1病的バリアントを有する女性とLBCに関するデータは、最適な乳癌スクリーニング戦略を決定するには不十分である。CDH1病的バリアントを有する女性/リスクを有する女性に対するLBCのリスク管理は、BRCA1およびBRCA2病的バリアントを有する女性に対する下記のリスク管理の方法に準ずる。

  • 20歳からの毎月の乳房自己触診
  • 30歳から6ヶ月に1回の医療機関での乳房検査
  • LBCはしばしば診察やマンモグラフィーでの診断が困難であるため、CDH1病的バリアントを有する女性は高リスク乳癌スクリーニングプログラムを行い、マンモグラフィーよりも腫瘍の検出に高感度であるMRIの使用を考慮すべきである。CDH1病的バリアントを有する女性では、30歳からの年1回の乳房MRI検査が推奨される。

大腸癌
大腸癌をHDGCの表現型の一つと結論つけるには不十分だが、家系内でDGCと大腸癌の両方を発症した者で、40歳から3~5年ごと、あるいは大腸癌診断の最年少年齢よりも10年早い時期から下部消化管内視鏡を開始することが推奨される [Fitzgerald et al 2010van der Post et al 2015]。

リスクのある家系員の評価

家系内で癌の罹患性と関係するCDH1病的バリアントが同定された場合、早期診断および早期治療による罹患率と死亡率減少のために、分子遺伝学的検査を受けることが適当である。
(項目「遺伝カウンセリング」、および「18歳未満のリスクのある無症状血縁者への検査」参照)

遺伝カウンセリングを目的としたリスクのある血縁者の検査に関連する問題については、「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。

妊娠管理

PTG後の妊娠は問題ないことが実証されている。Kaurah et al [2010] らは、4人の胃全摘出術後の計6回の妊娠について特に問題なかったと報告している。しかし、PTGを受けた妊婦は、担当医およびその状況を把握している栄養士が綿密にフォローすることが重要である。

現在研究中の治療

米国ではClinicalTrials.gov、欧州では EU Clinical Trials Registerにて、さまざまな疾患や症状に関する臨床試験情報を入手することが可能である。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

HDGCは常染色体顕性(優性)の遺伝形式をとる。

家族構成員のリスク

発端者の両親

  • DGC易罹患性のCDH1病的バリアントを有する者の多くは片親から受けつがれる。不完全浸透により、CDH1病的バリアントが親から受け継がれても癌に進展しない場合がある。
  • さらに、HDGC発端者はde novoの病的バリアントにより罹患している場合もある。Shahら[Shah et al [2012] ]は、HDGCの家族において、de novo CDH1生殖細胞系列病的バリアントの症例を初めて報告した。
  • 一見de novoバリアントと思われる発端者の両親に対しても、分子遺伝学的検査を含む一連の検査が推奨される。
  • 発端者で検出された病的バリアントが両親の白血球DNAで検出されない場合、考えられることは、発端者のde novo生殖細胞系列病的バリアント、または両親の生殖細胞系列モザイクである。理論的には考えられるが、生殖細胞系列モザイクの例は報告されていない。

注)HDGCと診断された者の多くは、罹患した親を持つが、家系内で本疾患が認識されなかった場合、症状の出現前に死亡した、もしくは不完全浸透のために、家族歴は否定的に見えることがある。

発端者の同胞 

  • 発端者の同胞のリスクは発端者の両親の遺伝学的状態によって異なる。
  • 発端者の親がCDH1病的バリアントを有する場合、同胞がその病的バリアントを受け継ぐリスクは50%である。
  • 発端者の両親が臨床的に罹患していない場合でも、両親の浸透率が低下している可能性があるため、同胞のHDGCのリスクは依然として高い。
  • もし、両親のどちらかのDNAで病的バリアントが認められず、かつ両親からのCDH1遺伝子領域がハプロタイプ遺伝であることが証明された場合、発端者の同胞のリスクは一般集団のリスクより若干高くなると推定される(それでも1%未満)。それは、親の生殖細胞モザイクの可能性が理論上考慮されるためである。

発端者の子

発端者の子は50%の確率で原因となる病的バリアントを受け継ぐ。

他の家族構成員

他の家族のリスクは発端者の両親の遺伝学的状態次第である。もし、親が罹患している、あるいはCDH1病的バリアントを有する場合、発端者の他の家族はリスクを有する。

遺伝カウンセリングに関連した問題 

早期診断と治療を目的としたリスクのある親族の評価に関する情報は、「管理、リスクのある家系員の評価」を参照。

遺伝性腫瘍のリスク評価とカウンセリング

分子遺伝学的な、あるいは非分子遺伝学的な癌のリスク評価に対する医学的、心理学的、倫理学的な事項に関しての包括的な記載はCancer Genetics Risk Assessment and Counseling - for health professionals (NCIのPDQの一節)を参照のこと。

リスクのある無症状の成人血縁者

  • HDGCに対する無症状の成人に対する検査は、CDH1病的バリアントが家系内で同定された後に可能である。
  • 血縁者診断の潜在的な影響(社会経済的な変化、検査結果が陽性であった場合、長期的なフォローアップなど)、ならびに 血縁者診断の精度と限界は、検査前の遺伝カウンセリングで議論する必要がある。
  • HDGC家系の50%から70%では、発癌感受性は未だ不明な遺伝学的要素に起因する。したがって、予測的診断は現時点では不可能である。

18歳未満のリスクのある無症状血縁者への検査

18歳未満の未成年者に対する遺伝学的検査は議論の余地があるところである。HDGCと診断された18歳未満の症例が報告されているため [Guilford et al 1998]、彼らに対する検査は利益があると示唆されている[Caldas et al 1999Fitzgerald et al 2010]。Kodishら [Kodish [1999]]は、このような例に対する検査に関して、以下のような決まりを提案している;遺伝学的検査は最初に癌が発症した年齢以降に行われるべきである。彼は小児に対する検査による利益を最大限ひきだし、リスクを最小限にしようとしている。総じて、18歳未満の無症候リスク例に対する、親からの検査の要請に関しては気を遣いかつ子供と親の両方が理解できるようにカウンセリングする必要がある。IGCLCは、家系内の癌発症年齢が低い場合は16歳からでも遺伝学的検査をすることに同意している [Fitzgerald et al 2010]。

明らかなde novo病的バリアントを持つ家系における考慮事項

発端者の両親共に常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる疾患原因バリアントが認められない場合、発端者はde novo病的バリアントである可能性が高い。しかし、代替父親(母親)、あるいは本人に知られていない養子縁組などの場合、除外される。

家族計画

  • 遺伝学的リスク評価や出生前検査の可否などについての議論は妊娠前に行うのが望ましい。
    訳注:日本では本症における出生前診断および着床前診断は行われていない
  • リスクのある若年成人の家族や罹患している若年成人は遺伝カウンセリング(子孫への罹患リスクの可能性や出産の選択に関する議論も含む)を申し出るのが適当である。

DNAバンキング

DNAバンキングは、将来使用するときのためのDNA(典型的には白血球から抽出されたもの)の保管庫である。遺伝子やバリアントに対する検査法や知識、あるいは疾患についての理解が将来向上する可能性があるため、その時のために分子診断が確定していない(原因となる遺伝子のバリアントが不明な)発端者のDNAを保管することを検討すべきである。

出生前診断と着床前診断

罹患家族においてCDH1病的バリアントが同定されると、リスクのある妊娠に対し、出生前検査および着床前遺伝子検査が可能となる。
出生前検査の利用については、特に早期診断ではなく、妊娠の終了を目的として検査を検討している場合、医療専門家や家族の間で見解の相違が存在する可能性がある。ほとんどの施設では出生前検査の利用は個人的な決定であると考えるが、これらの問題について議論することは有用である。

訳注:日本では本症における出生前診断および着床前診断は行われていない。


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。

  • National Cancer Institute (NCI)

6116 Executive Boulevard
Suite 300
Bethesda MD 20892-8322
Phone: 800-422-6237 (toll-free)
Email: cancergovstaff@mail.nih.gov
Stomach (Gastric) Cancer

  • No Stomach For Cancer, Inc.

9202 Waterside Street
#203
Middleton WI 53562
Phone: 608-335-0241
Email: info@nostomachforcancer.org
www.nostomachforcancer.org

  • PMP Pals

PO Box 6484
Salinas CA 93912
Phone: 831-424-4545
Email: pmppals@yahoo.com
www.pmppals.org

  • American Cancer Society

Phone: 800-227-2345
www.cancer.org

  • CancerCare

275 Seventh Avenue
22nd Floor
New York NY 10001
Phone: 800-813-4673
Fax: 212-712-8495
Email: info@cancercare.org
www.cancercare.org

  • International Society for Gastrointestinal Hereditary Tumours (InSiGHT)

www.insight-group.org


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A. 遺伝性びまん性胃癌: 遺伝子およびデータベース

遺伝子 染色体遺伝子座 タンパク質 遺伝子座特異的データベース HGMD ClinVar
CDH1

16q22​.1

カドヘリン-1

CDH1 @ LOVD

CDH1

CDH1

データは以下の標準的参照資料をもとに作成した。遺伝子はHGNC、染色体遺伝子座、遺伝子座の名称、遺伝子バリアントに密接に関連した領域、相補群はOMIM、タンパク質はUniProtを参照した。リンクが提供されたデータベース(遺伝子座特異的データベース、HGMD)の記述についてはこちらを参照のこと。

表B. 遺伝性びまん性胃癌のOMIMでの記載 (全ての情報はOMIMを参照のこと)

137215 胃癌、遺伝性びまん性; HDGC
192090 カドヘリン 1; CDH1

分子遺伝学的病因

E-カドヘリンは膜貫通タンパク質であり、その大半は細胞同士の接着及び侵入抑制機能を発揮する上皮細胞の側底膜で発現する[Nagarら、1996]。

E-カドヘリンはカドヘリン分子ファミリーの一員で、その構成メンバーの全てがカルシウム依存性の細胞間接着を媒介する膜貫通糖タンパク質である [Takeichi 1991Berxら、1995]。E-カドヘリンは成長時に局在化し、分化した上皮組織の確立と維持に必須とされる[Keller 2002]。また、信号伝達、分化、遺伝子発現、細胞運動性および炎症においても重要な役割を果たす。細胞接着におけるE-カドヘリンの活性は、カテニン (α-、β-とγ-)と呼ばれる裏打ちタンパク質を介したアクチン細胞骨格との結合に依存している[Jouら、1995Kallakuryら、2001]。

対応する正常な組織に比べてヒトの癌腫の多く(例えば皮膚、肺、乳房、泌尿器、胃、結腸、膵臓、卵巣)でE-カドヘリン発現レベルが低下しているため[Giroldiら、2000Karayiannakisら、2001Tsanouら、2008Ch’ng & Tan 2009Kunerら、2009]、腫瘍の発症におけるE-カドヘリンの役割は良く確立されている[Wijnhovenら、2000]。ほとんどのびまん性胃癌と小葉乳腺癌でE-カドヘリン発現の欠失が見られるが、腸型胃癌と乳管癌では、通常発現は維持されている[Hirohashi 2000]。

E-カドヘリンが不十分な細胞は互いに接着する能力を失い、その結果、浸潤性また転移性になる[Birchmeier 1995Perlら、1998]。腫瘍形成におけるE-カドヘリンの欠損と異常調節の因果関係は、癌細胞株や形質転換モデルを用いて示されてきた[Hsuら、2000]。予防的胃全摘術の検体からのin situ DGC病変検査を通して、このE-カドヘリン発現の欠損が早期の事象であることが示された。このE-カドヘリン発現の欠損によって、これが浸潤に繋がる早期の起因事象(initialing event)であることが明らかとなった[Humarら、2007]。

ヘテロ接合体の消失は、腫瘍抑制遺伝子発現の欠失に伴って観察される一般的な現象である[Knudson 1971]。他のCDH1対立遺伝子の発現の欠失を示す証拠を通じて、E-カドヘリンによる腫瘍抑制機能は保持されている[Gradyら、2000Barberら、2008Oliveiraら、2009]。

遺伝子の構造. 

CDH1 は100kbにわたる16のエキソンから成る。遺伝子とタンパク質の情報の詳細な概説はA遺伝子を参照のこと。

病的バリアント.

HDGCを保有する家系では、現在までに100を超える生殖細胞系列病的バリアントが報告されている[Gaytherら、1998Guilfordら、1998Richardsら、1999Yoonら、1999Dussaulx-Garinら、2001Humarら、2002Jonssonら、2002Oliveiraら、2002Brooks-Wilsonら、2004Kellerら、2004Surianoら、2005Frebourgら、2006Rodriguez-Sanjuanら、2006Kaurahら、2007Masciariら、2007Moreら、2007Rovielloら、2007Van Domselaarら、2007Oliveiraら、2009Ghaffariら、2010Mayrbaeurlら、2010]。

このような病的バリアントは主にフレームシフトバリアント、エキソン/イントロンのスプライシング部位におけるバリアントまたは一塩基バリアントを介した短縮型である [Gaytherら、1998Guilfordら、1998Richardsら、1999Humarら、2002Oliveiraら、2002Brooks-Wilsonら、2004]。
病原性ミスセンスバリアントが同定された家系も存在する[Shinmuraら、1999Yoonら、1999Oliveiraら、2002Brooks-Wilsonら、2004]。ミスセンスバリアントの病原性はin vitro解析により調査が可能であるが、これは研究を目的としてのみ実施されている[Surianoら、2003]。

エキソンの大欠失はこれらバリアントの約4%を占める [Oliveira et al 2009Yamada et al 2014]。「ホットスポット」は同定されていない。病的バリアントは遺伝子全体に分布している。しかし、関係のないいくつかの家系において同一の病的バリアントが発見されたとの報告がある。 [Hansford et al 2015].

創始者変異はカナダのNewfoundlandの4家系で発見された [Kaurahら、2007]。病的バリアント 2398delCは3家系のハプロタイプ分析により確認された[Kaurahら、2007]。
生殖細胞系列病的バリアントは複数の民族集団において同定されており、散発性GCの割合が高い国々では生殖細胞系列病的バリアントは稀なようである。その理由は不明であるが、生殖細胞CDH1対立遺伝子の一つに突然変異を有する胚の生存力に対して、種々の民族の遺伝的背景の違いが異なる影響を及ぼすと仮定することができる。

正常な遺伝子産物

4.5-kbの転写産物が135kdのE- カドヘリン前駆ペプチドに翻訳される。そしてこれが120-kdの成熟した形態に素早く処理される。成熟したE-カドヘリン タンパク質には3個のドメインが含まれる。すなわち、エキソン4-13によってコード化される細胞外ドメイン、エキソン13と14によってコード化される貫膜ドメイン、エキソン14の残りからエキソン16によってコード化される高度に保護された細胞質ドメインである。

  • 大きな細胞外ドメイン(N末端)は、5個縦につながったカドヘリンから成り、それぞれ110のアミノ酸残基を含む[Oliveiraら、2003Bryant & Stow 2004]。細胞外ドメインは、近傍の上皮細胞表面で発現されるE-カドヘリンとCa2+に依存的に同種二量体を形成することによって、同型の近傍細胞同士の接着帯での細胞接着を可能とする。
  • α-、β-、γ-カテニンと細胞内信号伝達経路を調節するp120ctn カテニンを介して、細胞質ドメイン(C末端)は細胞骨格アクチンフィラメントと相互に作用する。β-カテニンはE-カドヘリンのC末端領域に接着し、次いでα-カテニンに接着し、そして細胞骨格のFアクチン・マイクロフィラメントに結合する。p120ctnはE-カドヘリンの細胞質テールの膜近傍部位に結合する[Bryant & Stow 2004]。またp120は複合体に安定性を与える[Weis & Nelson 2006]。

E-カドヘリンの発現は複雑な転写調節システムを介して制御される。

  • Snail、Slug、Twist、Sip-1/ZEB-2、dEF1/ZEB-1やE12/E47のような複数の転写レプレッサーが CDH1 プロモーターのE-boxモチーフに結合する[Conacci-Sorrellら、2003Nelson & Nusse 2004Gloushankova 2008]。
  • CDH1 のイントロン2は遺伝子の正常な発現に関与することが示唆されている。CDH1のノンコーディングイントロン配列の大半を占めるイントロン2には、保護されたcis調節要素が含まれる。Stemmlerら、[2005] はマウスのゲノムのイントロン2を欠失させて初期胚発生中に遺伝子を不活化させる実験を行った。

異常な遺伝子産物

分子遺伝的病因を参照のこと。


更新履歴:

  1. Gene Review著者: Pardeep Kaurah ,MSc , CCGC, David G Huntsman, MD
    日本語訳者 :櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
    Gene Review 最終更新日: 2002.11.6. 日本語訳最終更新日: 2004.4.5.
  2. Gene Review著者: Pardeep Kaurah ,MSc , CCGC, David G Huntsman, MD
    日本語訳者 :岩泉守哉(ミシガン大学内科学講座 消化器内科部門 研究員)
    Gene Review 最終更新日: 2011.6.21. 日本語訳最終更新日: : 2012.1.19. 
  3. [minor revision]Gene Review著者: Pardeep Kaurah ,MSc , CCGC, David G Huntsman, MD
    日本語訳者 :岩泉守哉(ミシガン大学内科学講座 消化器内科部門 研究員)
    Gene Review 最終更新日: 2011.6.21. 日本語訳最終更新日: : 2017.2.16.
  4. [minor revision]Gene Review著者: Pardeep Kaurah ,MSc , CCGC, David G Huntsman, MD
    日本語訳者 :櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)
    日本語訳最終更新日: : 2017.2.16.【項目】分子遺伝学 を追加 
  5. Gene Reviews著者: Pardeep Kaurah, MSc, PhD and David G Huntsman, MD.
    日本語訳者: 幅野愛理(がん研有明病院 臨床遺伝医療部),櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院 遺伝子診療科)
    GeneReviews最終更新日:2018.3.22  日本語訳最終更新日:  2022.6.23[in present]

]原文 Hereditary Diffuse Gastric Cancer

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