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アラジール症候群
(Alagille Syndrome )

[Synonyms: Arteriohepatic Dysplasia, Syndromic Bile Duct Paucity]

Gene Review著者: D Gareth Evans, MD, FRCP,Peter A Farndon, MD, FRCP
日本語訳者: 岸本 洋子(島田療育センターはちおうじ) 

Gene Review 最終更新日: 2013.2.28. 日本語訳最終更新日: 2016.4.21

原文 Alagille Syndrome


要約

疾患の特徴 

アラジール症候群(ALGS)は主に肝臓, 心臓, 眼球, 顔貌, 骨格に関わる複合多系統疾患である.臨床特徴は家系内においても非常に多様である.ALGSの主な臨床症状は, 肝生検において胆管減少を特徴とする胆汁鬱滞,主に肺動脈に関連する先天性心疾患,眼球の後部胎生環,典型的な顔貌特徴,蝶形椎体.腎臓や中枢神経系異常もおこる.致死率は約10%であり,血管障害,心疾患,肝疾患が死因の大部分を占める.

診断・検査 

ALGSの診断は主に臨床症状に基づく.ALGSの原因としてJAG1NOTCH2の二つの遺伝子が知られる.JAG1遺伝子塩基配列解析によって, 臨床診断基準に合致した者の89%以上に遺伝子変異が検出され,欠失や重複解析によって, 20p12微細欠失やエキソンを含む遺伝子の完全欠損は約7%に検出される.NOTCH2遺伝子変異はALGS患者の約1-2%にみられる

臨床的マネジメント 

症状の治療:多専門分野チーム(臨床遺伝,消化器,栄養,循環器,眼科,腎臓内科,肝臓移植)による治療,利胆因子(ウルソデオキシコール酸),その他の治療(コレスチラミン,リファンピン,ナルトレキソン),必要に応じて,掻痒や黄色腫に対して部分的外胆汁瘻または回腸空置術,肝疾患末期では肝移植を行い,心,腎,神経疾患については標準的治療を行う.

二次合併症の予防:成長,発達を最大限にするために栄養を最適化する. 脂溶性ビタミンの補給,脾腫や慢性肝疾患がある場合には活動時に脾臓プロテクターを用いる.

サーベイランス:成長,栄養,心臓の定期的な検診

回避すべき薬剤と環境:接触性の高い運動. 肝疾患がある場合はアルコール摂取

リスクのある近親者の検査:家系内に特異的変異が同定される場合は, 第一度近親者に分子遺伝学的検査を実施する. または疾患の症状について第一度近親者で評価を行う.

遺伝カウンセリング 

ALGSは常染色体優性遺伝形式である.約30-50%の患者では遺伝した変異を持ち,約50-70%は新生突然変異による病的変異を持つ.新生突然変異を持つ子の親は,ALGSの同胞再発率は低いが,性腺モザイクの可能性があるため, 同胞再発率は一般集団よりは高い.アラジール症候群罹患者の子は50%の確率で同症候群を罹患する.病因遺伝子変異が家系内罹患者で同定されていれば,高リスク妊娠での出生前診断は可能である.出生前診断では臨床症状の発生の有無や重症度を予測するものではない.


診断

臨床診断

アラジール症候群(ALGS)の臨床診断基準は以下が含められる

  • 肝生検において胆管減少の組織学的所見(門脈管と胆管割合の増加).ALGSの中でもっとも重要で持続する症状であると考えられるが,胆管減少は, 大部分の患者では乳児期には存在しない.新生児期には胆管/門脈管の割合は正常,胆管の増殖または新生児肝炎が示唆される所見が見られる.概して,患者の約90%に胆管減少は存在する.
  • (胆管減少に加えて)次の5つの主要臨床症状のうち3つ
    • 胆汁鬱滞
    • 心疾患(通常は末梢性肺動脈またはその動脈分枝の狭窄)
    • 骨格異常(通常は胸部正面レントゲン写真での蝶形椎体)
    • 眼科異常(通常は後部胎生環)
    • 特徴的顔貌所見

付け加えて,腎異常,神経血管系,および膵臓はアラジール症候群の重要な所見である[Kamath et al 2012b, Turnpenny & Ellard 2012].

患者の家族ALGS罹患者が家系にいる場合は, 診断基準を全て満たさない者でもALGSの診断を考慮すべきである.1度近親者が罹患している場合,1つまたはそれ以上の特徴を認めれば臨床上は診断に十分であると考えられる.

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子

  • JAG1遺伝子変異はALGSの94-96%の原因として知られる.
  • NOTCH2遺伝子変異はALGS患者の1-2%の原因として知られる[McDaniell et al 2006, Kamath et al 2012a].

臨床検査

Table 1.アラジール症候群における分子遺伝学的検査まとめ

遺伝子

割合

検査方法

変異検出

JAG1

89%

塩基配列解析3/
変異スキャニング4

塩基配列変化

脚注5参照

選択されたエキソン解析3

選択されたエキソンでの塩基配列変化

〜5%-7%6

欠失/重複解析 (FISH解析を含む)7

エキソンの欠失や重複,遺伝子の欠失8

連鎖解析

NA

脚注9参照

NOTCH2

1%-2%10

Sequence analysis3

塩基配列変化

不明

欠失/重複解析7

不明,報告なし

  1. 表A参照.遺伝子と染色体座位のデータベースおよびタンパク名
  2. 対立遺伝子多型の情報は分子遺伝学を参照
  3. 塩基配列解析では, 良性(病的意義の無い),病的意義が無い可能性が高い,特異変化が確定されない,病的意義の可能性がある,または病的意義がある変異を検出する.病的意義がある変異は遺伝子内の微細な欠失や挿入,ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス部位変異が含まれ,通常はエキソンまたは遺伝子の欠失/重複は検出されない.塩基配列解析結果の解釈について考慮する点についてはここを参照.
  4. 遺伝子すべての塩基配列解析と変異スキャニングは同様の変異検出頻度を持つかもしれない.しかし,変異スキャニングの変異検出率は特殊プロトコール使用に依って研究室間で大幅に変動するかもしれない.
  5. 解析されるエキソンと使用される手法に依る.検出される変異の2/3はエキソン1-6, 9, 12, 17, 20, 23, 24に同定される.
  6. Warthen et al[2006],私信.欠失の検出範囲は検出方法や研究室によって変動する.
  7. 欠失や重複を同定する検索は, ゲノムDNAのコード領域やイントロン近傍領域の塩基解析による解析では容易ではないが, quantitative PCR, long-range PCR, multiplex ligation-dependent probe amplification (MLPA),または本遺伝子, 染色体の断片を含む染色体マイクロアレイ(CMA)などの多種の方法ある.
  8. 欠失の検出範囲は検出方法や,研究室によって幅が広い[Kamath et al 2009]
  9. 連鎖解析は,家系が十分な大きさがあって家系構成員が検査に同意し,罹患者の病因遺伝子変異の同時分離を行うため,塩基配列解析前の導入データを得るための補助的検査として連鎖解析が実施される. アラジール症候群の診断を確認するために連鎖解析は利用されない.
  10. McDaniell et al [2006], Kamath et al [2012a]

検査手順

検査の特徴特異度と感度を含めた検査の特徴の情報はClinical Utility Gene Card [Leonard et al 2014]を参照.

発端者にALGSの診断を確認または確定するために

  • 診断が疑われるが臨床診断基準を満たしていない際には,JAG1遺伝子解析を最初に実施すべきである.この検査によってJAG1遺伝子変異を持つ89%以上で変異が同定される.
  • もしもJAG1遺伝子塩基配列解析で変異が見つからなかった場合,JAG1遺伝子やエキソンの欠失や重複を検出するために欠失/重複解析を行う.標的染色体マイクロアレイ検査は,もし領域内にプローブが高密度にあれば,JAG1を含む染色体の欠失/重複の存在および領域範囲の両方を同定に使用できる.他の欠失/重複の手法(例えばMLPA)でもエキソンまたは遺伝子全領域の欠失を同定できる.
  • もしJAG遺伝子の完全欠失が同定されたら,稀な染色体転座や逆位があるかについて細胞遺伝学的検査を考慮すべきである.
  • ALGSによく見られる所見に加えて発達遅滞,難聴を合併する場合は染色体欠失の疑いが増す.
  • 臨床的に強く疑われるが,JAG1遺伝子の変異,重複,欠失が同定されないときにはNOTCH2遺伝子の分子遺伝学的検査が考慮されるべきである.
出生前検査及び着床前検査(PGD)ALGSのリスクがある妊娠における出生前検査や着床前検査では家系内の病的変異を先に同定する必要がある.

遺伝的に関連のある疾患

JAG1 このGeneReviewで検討された以外にJAG1遺伝子変異に関連した表現型は知られていない.しかし,JAG1遺伝子の病的変異を有する一部の患者では,ALGSのいくつかの特徴を持つが,ALGSと認識されていない場合があることに注意が必要である.最も臨床的に特徴的な集団としては, JAG1遺伝子変異を持ちながら,一見, 孤発性の心疾患の患者がいる[Krantz et al 1998, Eldadah et al 2001, Bauer et al 2010,Rauch et al 2010].

NOTCH2 NOTCH2の病的変異を持つ一部の患者ではALGSの一部の特徴しか持たないために,ALGSと認識されないことがあるため注意すべきである[Kamath et al 2012a]

生殖変異

Hajdu-Cheney 症候群.最近NOTCH2での特徴的病的変異が,serpentine fibula(へび状腓骨)-多嚢胞腎症候群としても知られるHajdu-Cheney症候群に同定された.Hajdu-Cheney症候群は常染色体優性疾患であり,巣状の骨破壊,骨粗鬆症,頭蓋顔面異常,嚢胞腎,口蓋裂,心疾患を起こす.Hajdu-Cheney症候群で同定されたNOTCH2の病的変異はNOTCH2の最後のエキソン(エキソン34)に全て存在しており,これらの変異が細胞内PEST(proline-glutamate-serine-threonine-rich)ドメインを破壊し,notch細胞内ドメインのクリアランスを減少させ,そのためNotchシグナルが増加する[Majewski et al 2011, Penton et al 2012, Zanotti & Canalis 2012].

体細胞変異

  • 脾性辺縁帯リンパ腫(SMZL).反復する体細胞でのNOTCH2機能獲得変異がSMZL患者で同定された[Kiel et al 2012].

臨床特徴

臨床記載

アラジール症候群(ALGS)は多系統疾患である.JAG1病的変異が確定した家系を含む多数の罹患者のいる家系研究では生命を脅かす肝臓または心疾患を持つ者から,無症状(蝶形椎体,後部胎生環,特徴的な顔貌所見)のみまで呈する者まで臨床的に幅広い範囲でスペクトラムを呈することがわかった.この幅広さ同一家系の個人間にさえ見られる[Kamath et al 2003].実際, 罹患者の近親者で変異陽性53人のうち,25人(47%)はALGSの臨床診断基準に合致しなかった.

重度の肝臓および心臓病変を持つALGS罹患者は, 多くの場合乳児期に診断されている. しかし, 無症状または軽度の肝病変を持つ罹患者では, 人生の後半まで診断されないこともある.

ALGSの死亡率は10%程度で,早期の死亡原因は重度の心疾患または肝臓疾患,後期の死亡の多くは血管系障害を原因とする[Emerick et al 1999, Kamath et al 2004].

Emerickら[1999]とSubramaniamら[2011]の二つの研究ではALGS罹患者の臨床特徴の頻度について言及している(Table2).

Table 2.ALGSの臨床特徴

臨床特徴

頻度 (罹患者の割合%)

Emerick et al [1999]

Subramaniam et al [2011]

胆管減少

69/81 (85%)

77/103 (75%)

慢性胆汁鬱滞

88/92 (96%)

104/117 (89%)

心雑音

90/92 (97%)

107/117 (91%)

眼科所見

65/83 (78%)

72/117 (61%)1

脊椎異常

37/71 (51%)

44/117 (39%)2

特徴的顔貌

86/92 (96%)

91/117 (77%)

腎病変

28/69 (40%)

27/117 (23%)

膵機能不全

7/17 (41%)

NR

成長障害

27/31 (87%)

NR

知的障害

2/92 (2%)

NR

発達遅滞

15/92 (16%)

NR

92人のALGS罹患者[Emerick et al 1999]及び117人のALGS罹患児[Subramaniam et al 2011]に基づき作成
NR=Not reviewed

  1. 本研究では後部胎生環のみ検討されている
  2. 本研究では蝶形椎体のみ検討されている.

肝症状

JAG1病的変異を持つ患者が肝症状を持たないことがあるが[Gurkan et al 1999Krantz et al 1999Kamath et al 2003], 大多数の罹患者では肝症状は生後3か月以内に症状が出現し, 黄疸や軽度の胆汁うっ滞, 掻痒の症状から進行性の肝不全まで, 幅広い症状を呈する.

黄疸は新生児期に抱合型高ビリルビン血症としてみられる.血清中の胆汁酸,アルカリホスファターゼ,γ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT),トリグリセリド,アミノトランスフェラーゼの上昇も見られる.

胆汁うっ滞によって, 掻痒, 血清中胆汁酸の上昇, 成長障害, 黄色腫として症状が見られる.
約15%の患者の肝病変は肝硬変や肝不全へと進行し, 肝移植を要する [Emerick et al 1999].現時点では,乳幼児患者が末期肝疾患へ進行するかどうかを予測することは不可能である.

典型的な肝生検での所見では進行性の肝内胆管減少を呈する.ALGSの新生児では,胆管減少所見は通常認めず,肝生検では胆管の増生が見られることもあるため,胆管閉鎖として誤診される可能性がある.

胆汁うっ滞を認める小児の肝病変が改善するか進行するかを予測するのは難しいが,一方でアラジール症候群患者33人の後方視的研究では,5歳以下の小児で総ビリルビンが6.5mg/dl以上,抱合型ビリルビン4.5mg/dl以上,コレステロール520mg/dl以上を認める場合は,後々重度肝疾患を起こすことと関連していた.これらのバイオマーカーおよび示唆されるカットオフ値は,医療管理として有用であり,罹患者がより積極的治療の恩恵を受ける一助となるかもしれない[Kamath et al 2010b]

心症状

心症状はALGS患者の約90-97%で起こり,良性の心雑音から明らかな構造欠損まで幅広い[Emerick et al 1999McElhinney et al 2002].肺血管系(肺動脈弁,肺動脈とその分枝)が最も多い.肺動脈狭窄(末梢性とその分枝)は最も頻度の多い循環器症状(67%)である[Emerick et al 1999].最も頻度の高い合併心疾患はファロー四徴症が7-16%で見られる[Emerick et al 1999].他の心奇形は(頻度が高い順から)心室中隔欠損症,心房中隔欠損症,動脈狭窄,大動脈縮窄が含まれる.

眼症状

ALGSの患者で最も頻度の高い眼症状は後部胎生環である.後部胎生環は隆起したSchwalbe環で,眼の前房の欠失であり,ALGS患者の78-89%で報告される[[Emerick et al 1999,Hingorani et al 1999]. 後部胎生環は視力に影響がないが,細隙灯にて検査され,診断の一助として役立つ.後部胎生環は一般人口の約8-15%に存在する. 後部胎生環を認めるが、それ以外のALGS所見を認めない家系構成員は,遺伝子変異を持つ親族の同定を困難にする.

ALGSで見られる前房の他の欠損はAxenfeld奇形とRieger奇形がある.20人のALGSの患児では,眼の超音波検査で約90%に視神経乳頭ドーゼンを認めた.網膜色素変化も頻度が多かった(1研究中に32%)[Hingorani et al 1999El-Koofy et al 2011].これらの所見は当初,食事での摂取不足の結果と考えられていたが,血清中ビタミンA,Eの濃度が正常な患者にも見られた[Hingorani et al 1999].さらに,眼の異常も報告された[Makino et al 2012]].

軽度の視力低下は起こることはあるが,眼の予後は良好である.特に,視力障碍は頭蓋内圧上昇と関連することが報告されている[Narula et al 2006].

骨格症状

最も一般的なレントゲン所見は蝶形椎体,椎体の分裂様異常で,胸椎に最も多く起こる. 蝶形椎体の頻度はALGS患者の33-93%と幅広い[Emerick et al 1999Sanderson et al 2002Lin et al 2012].蝶形椎体は通常無症状である.一般集団での頻度は不明だが,低いと推定される.他の骨格所見の方置くはより低頻度である[Zanotti & Canalis 2012].

顔貌症状

ALGSの子供に見られる顔貌特徴は,突出した前額,落ちくぼんだ眼,中度の眼間乖離,とがった顎,サドル様またはまっすぐな鼻,球状の鼻尖を認める.これらの特徴は逆三角形の外見の顔貌の印象を与える.典型的な顔貌所見はほぼ例外なくアラジール症候群で存在する(Figure1参照)

Figure 1. アラジール症候群の典型的顔貌所見.幅広い前額,落ちくぼんだ眼,とがった顎.

fig1

ALGSの顔貌所見は疾患特有であり,強力な診断ツールであるが,Linらは,北米のdysmorphologistはアラジール症候群のベトナム人児童においては顔貌特徴による評価は難しいことを示し,この診断ツールの価値は人種集団によって変化しうることを示唆している[Lin et al 2012]

その他の症状

遺伝子型―表現型の相関

JAG1変異によるALGSの表現型はNOTCH2変異による表現型と互いの区別ができない.はじめにNOTCH2病的変異を持つ近親者3人中3人が特異的な腎病変を持ち,しばしば末期腎病変となった[McDaniell et al 2006].最近の研究では腎異常を検索された9人の罹患者のうち4人に腎病変が見つかった.この所見はJAG1変異を持つ罹患者で観察された腎病変と一致する所見であった.しかし,遺伝型表現型についていずれかの結論を導き出すには,NOTCH2遺伝子変異を同定したALGS罹患者の数がとても少数である [Kamath et al 2012a]

ALGSの臨床所見とJAG1遺伝子型または遺伝子位置との間に相関は存在しない[Krantz et al 1998Crosnier et al 1999Spinner et al 2001McElhinney et al 2002].

しかしJAG1ミスセンス変異および心病変をもつ2家系において,肝病変が見られなかったと報告された[Eldadah et al 2001Le Caignec et al 2002].そのうち1家系の分子遺伝学的解析では,「漏れやすい」変異が検出された. Jagged1タンパクの総量が,ハプロ不全の患者とJAG1を2コピー有する人の間に位置する場合は,肝臓よりも心臓の方がJAG1量への感受性が高いことが示唆された[Eldadah et al 2001Lu et al 2003].

より重度の機能障害もつALGS罹患者ではJAG1遺伝子をすべて包括し,他の遺伝子も含まれる20p12領域の広範な欠失があるかもしれない.

浸透率

ALGSでは無症状から重度まで臨床症状は非常に幅広い表現型をとる.
JAG1病因変異:JAG1病因変異を持つ患者の臨床所見の幅広さと頻度,浸透率を決定するためにKamathら[2003]は53変異をそれぞれ持つALGS発端者の近親者についての研究を行った.これらの所見からは,

  • 21%の人が家族歴とは関係なく,診断基準に合致していた.
  • 32%は無症状であった.しかし追加検査(肝酵素検査,心臓検査,眼科検査,骨レントゲン検査)を実施すると臨床症状に合致した.
  • 43%がALGSの1つまたは2つの症状を持っていた.
  • 4%がALGSの所見を持たなかった.

これらのデータに基づくと,浸透率は96%であるが,しかし53%の人しかALGSの診断基準に合致しない.
NOTCH2病因変異:浸透率はNOTCH2病因変異を持つ10人の患者では完全浸透が見られた.しかし,表現型はさまざまであった[Kamath et al 2012a]

表現促進

ALGSでは表現促進派認めない.JAG1病因変異をもち,生殖機能を持つ患者では,新生児胆汁うっ滞などの重度表現型を呈する乳児よりも軽症の病態を持つため,診断の際にバイアスが起きているかもしれない[筆者個人の見解].

頻度

ALGSの頻度は70000出生に1人と推定される.しかしこれは新生児の肝所見の存在をもとに診断された症例によって算出されているため,実際より低く見積もられているだろう[Danks et al 1977].Kamathら[2003]の報告を基準にすると,筆者らが推定する頻度は30000〜50000出生に1人と推定される.しかし様々な表現型を認めるので,未診断例も残るだろうと考えられる[[Kamath et al 2003].一般集団における頻度は一定のままである.


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

新生児胆汁うっ滞:100以上の原因が存在する

  • 敗血症やガラクトース血症のような治療可能な原因を最初に考慮する
  • ジイソプロピルイミノ2酢酸(DISIDA)スキャンによって,胆管閉鎖のような肝外の原因が同定されることがある

胆管減少: 胆管減少はアラジール症候群に特異的にみられるわけではない.その他の原因として,特発性,代謝性疾患(α1アンチトリプシン欠乏症,下垂体機能低下症,肺繊維症,trihydroxycoprostanic酸血症),染色体異常(ダウン症候群),感染症(先天性CMV感染,先天性風疹,先天性梅毒,B型肝炎),免疫疾患(移植片対宿主病,慢性肝同種移植拒絶,原発性硬化性胆管炎),その他(Zellweger症候群,Ivemark症候群)が見られる.これらは臨床の経過,その他の所見や遺伝学的検査によりALGSとの鑑別が可能である.

肝内胆汁うっ滞 と関連する他の疾患として,常染色体劣性遺伝性疾患である家族性肝内胆汁うっ滞1および2(Byler症候群),ノルウェー胆汁うっ滞(Aagenaes症候群),良性反復性肝内胆汁うっ滞(BRIC),北アメリカインディアン胆汁うっ滞(NAIC)が含まれる.これらの症状は主に肝臓に限定されるが,ALGSだけは多臓器での症状を認める.

後部胎生環 はRieger症候群,Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群(PTEN過誤腫症候群の表現型の一つ),多くの他の症候群でも見られる.一般集団の8-15%にもまたみられる.ALGSは他の所見の存在や遺伝学的検査によって区別することができる.

肺血管系異常 はヌーナン症候群,ワトソン症候群(肺動脈弁狭窄と神経線維腫症1型),LEOPARD症候群,ダウン症候群,ウィリアムズ症候群のような症候群と同様に単独で見られる.これらの他の症候群では他の関連する臨床所見や遺伝学的検査により区別することができる.

いくつかの心異常はALGSでも記載され,特に心室中隔欠損症,ファロー四徴症は22q11.2欠失を伴う患者にも通常みられる.この症状を持つ患者で,ALGSの二つの主要特徴である,蝶型椎体と成長障害を持つことも報告される. 肝疾患は22q11.2欠失症候群の症状ではないため,特異的なFISHプローブを用いて22q11.2欠失を検査することで二つの疾患を区別できる[Greenway et al 2009]


臨床的マネジメント

初期診断時の評価

疾患の評価やアラジール症候群(ALGS)と診断された患者のニーズを明確にするため,以下の評価が推奨される.

  • 胃腸専門医による評価を行い,肝機能検査一式,凝固能検査を行い,必要に応じてさらに,血清中の胆汁酸,脂溶性ビタミン,肝臓超音波検査,テクネシウム99mDISIDAシンチと肝生検を実施する.
  • 心臓超音波検査を含めた心機能評価一式
  • 胸部レントゲン写真正面,側面像にて蝶形椎体の評価
  • 眼前房所見を評価するために眼科的検査
  • 腎機能検査と腎臓超音波検査(特に新生児期)
  • 発達評価スクリーニング.もし有意な遅滞が認められれば,より詳細な発達評価を行う
  • 成長数値の測定と成長曲線へのプロット
  • 臨床遺伝学的相談

症状の治療

ALGS患者の管理に対する集学的治療は,多臓器に渡る症状のため有用である.年齢や患者個々の特異的症状に応じて,臨床遺伝,胃腸科,腎臓,栄養,循環器,眼科,肝臓移植と小児発達の専門家による評価を行う.

  • 掻痒はどの小児肝疾患でも最も重症と考えられている.掻痒と黄色腫は利胆因子(ウルソデオキシコール酸)や他の薬物(コレスチラミン,リファンピン,ナルトレキソン)での治療が可能である.アラジール症候群患者において,部分的内胆汁瘻(PIBD)と回腸空置術の報告があるが,これらの処置は肝疾患の難治性の症状(掻痒のような)を緩和し,ALGS患者のQOLの改善するが,肝疾患の進行を予防はできないと考えられている[Emerick & Whitington 2002Mattei et al 2006Dingemann et al 2012Sheflin-Findling et al 2012]
  • 肝疾患末期での肝移植の5年生存率は80.4%で,肝機能の改善と90%の罹患者で成長のキャッチアップをもたらす.しかし,肝移植後のアラジール症候群患者で見られる成長のキャッチアップは他の胆汁性肝疾患の患者で診られるものよりも少ない[Quiros-Tejeira et al 2000Kasahara et al 2003Pawlowska et al 2010].肝移植を受けた生存者の追跡研究では,KamathらはALGS患者の1年生存率が87%であるのに対してコントロール群(胆管閉鎖症)での1年生存率は96%であったと報告した.ALGSにおける肝移植の成功率の低さの原因として,おそらく心疾患,腎臓疾患や血管系異常の合併の重症度に影響を受けると考えられる[Kamath et al 2012c].さらに,血管,骨格系,腎臓を含む他の臓器に対しての長期間の免疫抑制剤使用の影響は,大部分が不明なままである[].

    注:ALGSは新生児黄疸の頻度が高く,胆汁閉鎖症と間違われることもあり,ALGSの乳幼児では手術中の胆管造影とkasai術式を受けるかもしれない.しかし,Kayeら[2010]の研究ではKasai術式 はALGSの患児には有用ではなく,予後が悪化するかもしれない[Englert et al 2006Kamath et al 2010bShneider 2012]

  • 循環器症状は標準治療を行う
  • 腎異常は標準治療を行う
  • 血管系障害は標準治療を行うべきである
  • 頭部外傷と神経学的な症状は積極的に評価を行うべきである
  • 眼科異常はめったに治療介入を要しない
  • 脊椎異常はめったに顕在化しない

    注:Elisofonら[2010]はアラジール症候群の子供の健康関連QOL(HRQOL)の阻害因子として,心臓カテーテルや手術,精神保健的診断,睡眠不足との関連を示唆した[Elisofon et al 2010].一方で,手術や精神保健的診断は医師や介護者がなす術がないが,ALGS患児での睡眠不足は重度の掻痒の結果によるため,これらについては上記に述べたような利胆因子投与での改善が見込まれる.

二次合併症の予防

以下を評価する.

  • 成長や発達を最大限にするための栄養の最適化
  • 成長の可能性を最大限にし,発達遅滞の予防のために,脂溶性ビタミンの血漿中濃度の注意深い観察,栄養の最適化,ビタミン補充療法を行う
  • 脾臓腫大または既知の慢性肝疾患を伴う患者には,活動の際に脾臓プロテクターを用いる

サーベイランス

成長は成長曲線を用いてもにたー管理し,栄養摂取は必要に応じて調整する.
心臓,消化管,栄養の定期検診は妥当である.

現時点では,ALGS患者の血管系異常の発症前スクリーニングの有効性については,公式に評価されていない.血管系障害の可能性はどのような症状の患者でも考慮されるべきであり,血管瘤や血管乖離,または出血を同定するためにMRI,MRA,血管造影は当然の結果として積極的に行うべきである.

回避すべき因子や習慣

接触の強いスポーツはすべての罹患者が避けるべきである. 特に慢性的な肝疾患,脾臓腫大と血管系症状を持つ患者では.
肝疾患をもつ患者ではアルコール摂取は控えるべきである.

リスクのある血縁者の検査

本疾患の医学的問題やその症状の幅広さからは本疾患の症状について、第一度近親者を評価することは有用である.

  • もしJAG1またはNOTCH2の病因変異が発端者に同定されたら,血縁者は遺伝学的検査を用いた評価が可能である.
  • もしJAG1NOTCH2病的変異が同定されなかったら,リスクのある血縁者は肝酵素の測定や循環器検査,眼科検査,骨格のレントゲン写真,顔貌特徴の評価が可能である.

遺伝カウンセリングを目的としたリスクのある親族の検査に関連する事項については遺伝カウンセリングの項目を参照

研究中の治療

広い範囲の疾患と健康状態に対する臨床研究情報にアクセスするためにはClinicalTrial.govを検索のこと。 メモ:この疾患における臨床試験はないかもしれない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

アラジール症候群(ALGS)は常染色体優性遺伝形式である.

近親者のリスク

発端者の両親

  • ALGSと診断された患者の約30-50%は親からの遺伝である
  • ALGSの罹患者の約50-70%は新生突然変異である[Krantz et al 1998Crosnier et al 1999Spinner et al 2001]
  • 単一例(例えばALGSの家族歴のない患者)の両親について,肝機能検査,心臓評価,脊椎のレントゲン写真,眼科検査,臨床遺伝科医による顔貌特徴の評価は推奨される.
    • もし発端者がJAG1またはNOTCH2病的変異が同定されたならば両親の分子遺伝学的解析が推奨される.
    • もし発端者にFISH検査にて20p12の微笑欠失が同定されたならば,両親のFISH検査が適当である.

発端者の同胞 

  • 発端者同胞のリスクは発端者の両親の遺伝学的状況に依る.
  • もしも両親が罹患していれば,同胞のリスクは50%である.
  • 両親が臨床的に非罹患の時は,同胞のリスクは低いと考えられる.しかし,20p微小欠失モザイクを持つ,明らかに非罹患で表現型正常の両親よりALGSの子供の複数例の報告されている[Laufer-Cahana et al 2002]
  • もしもJAG1またはNOTCH2の病的変異または欠失が発端者に同定されており,両親のいずれにも同定されていない場合,同胞のリスクは低いが,性腺モザイクの可能性があるため一般集団よりは高い[Giannakudis et al 2001]

発端者の子

  • ALGS罹患者の子供はJAG1またはNOTCH2病的変異を引き継ぐ可能性は50%である.臨床症状は軽度や無症状から重度の心臓,肝臓疾患まで幅広く予測はできない.

発端者の他の家族

  • 他の家族のリスクは発端者両親の状況に依る.もしも両親が罹患していたら,その近親者はリスクがある.

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断と治療のためにリスクのある血縁者の評価に関しては,「臨床的マネジメント」および「リスクのある血縁者の評価」の項を参照.

明らかな新生突然変異の家系に対する考察:発端者の両親が非罹患者である時は発端者が新生突然変異を持っているだろう.しかし,別の父性,母性(例えば生殖補助医療),または公開されていなかった養子などの非医学的な原因の調査の可能性がある.

家族計画 

遺伝学的なリスクの決定と出生前検査の可能性について検討するのは妊娠前が最適である.

  • 遺伝カウンセリング(子孫の再発率や生殖のオプションを含む)は罹患するまたはリスクのある若年成人に対して適当である.

DNA バンキング DNAバンキングは,将来の使用のために,(通常は白血球から調整した)DNAを貯蔵しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,罹患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.

出生前診断

分子遺伝学的検査もしJAG1またはNOTCH2病的変異が家系内に同定されているならば,遺伝子検査またはカスタマイズされた出生前検査を提供する研究所において,リスクのある妊娠での出生前診断は可能かもしれない.出生前検査では臨床症状の発生や重症度を予測することはできない.

胎児超音波検査ALGSの発症リスクが50%である胎児において,胎児超音波検査によって明らかな心臓構造異常が検出できるかもしれない.しかし,胎児超音波が正常であっても,胎児がALGSである可能性または心臓構造異常の可能性は除外できない.

着床前診断 (PGD) 着床前診断は家系内罹患者に原因となる変異が同定されている場合に実施可能である.


 

原文 Alagille Syndrome

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